「参」(Tong poo)

written by オサーン





エヴァの操縦訓練、シンクロテスト、体力的な訓練・・・・・
僕はこれらを積極的にこなしていた。多分、原作以上ではないかと思う。

一応、どんな訓練をしているのかと言うと、操縦訓練では射撃、攻撃、防御などをエヴァの操縦システムを使って模擬戦をする。
対象にそれぞれの武器などを使ってのもので射撃などもある。

強いて言えば格闘ゲームをしているようなものだ。
ただし、これは非常に高度なゲームでもある。
格闘訓練とリンクしており、その教官からの報告、習熟度などによって常にバージョンアップされている。
言わば僕専用にカスタマイズされているゲームだ。
この場合には一定の条件のもとプラグ内での神経接続は完全にコントロールされており痛みなどを感じることはない。
ただ、難易度が高すぎて敗北することもあるが身体上の問題はない。
その心遣いはリツコさんに感謝だ。


シンクロテスト、これには結構神経を使っている。疑似プラグを使う場合、本物を使う場合でかなり違う感覚を持ってしまう。
疑似プラグではエヴァに入っている基本情報、これはMAGIが作り出しているものだ。
僕は以前のテストで本物のプラグ内で母さんに会ってしまっている。
その母さんの感覚はかなり染みついて、心と身体が覚えていると言って良いだろう。
疑似プラグの場合、確かに入ってくる感覚は母さんに似てはいるのだが違う感覚を覚える。
完璧に移植されているわけではないとすれば、そこにはMAGIの思考、赤木ナオコ、リツコ母娘の考える母性が投影されざるを得ない。


僕はプラグの中にいる赤ん坊のようなものだ。母親以外の女性が僕を抱いている。
声は似ているが、それは他人だと赤ん坊にはわかってしまうのである。
つまり、他人との付き合いをせざるを得ない状態になっている。
そのため疑似プラグでのテストの結果は芳しくないようだ。

本物のプラグでのテストは先の事故、僕から言わせれば邂逅なのだが、原因究明の為に今は凍結されている。
いずれにしても原因の究明、これは僕の口から言うわけにはいかないのでリツコさんの努力に期待するしかない。
多分わかることはないだろうが・・・・・


ひさしぶりに本物のプラグを使っての実験。プラグ内のシートに緊張なく入る。
前回の事故のトラウマがないことにリツコさんが軽く驚く。

プラグ内にて、やはり僕はまた母さんと会った。
前回ほどドラマチックなものではなかったが、母さんはまた僕の心を抱きしめてくれた。
僕は心地よく過ごしていたが、母さんとの距離について相談してみた。
あまりこの中に馴染んでしまっては僕が取り込まれかねない。
それはコアに対する安心感はあるのだが、逆にエヴァというオーバーテクノロジーが制御しきれない以上、考えておかなければいけない事だ。
現に前回のテストについては危険域だったと教えてもらった。

母さんは渋々ではあったが納得してくれた。


その頃。ボックス内ではまた騒動が始まっていた。
「パルス同調していきます。シンクロ率も上昇止まりません!」
「どうして?対策はしてあったはずよ」
「シンクロ率85、86・・・・・ロストしました!」
「プラグ排出!できる?!」
「だめです!受け付けません!」
「パイロットの様子はどう?」
「モニターはできませんが脈拍、その他正常な範囲内です。生命維持に問題はありません」
「そう・・・そのまま様子を見てみましょうか・・・・・」

「シンクロ率、パルス正常値に近づきます。シンクロ率は82で安定!」
「おぉぉー・・・・・」
周囲から感嘆の声が漏れる。これにはリツコも驚かざるを得なかった。
「やはり、才能なのね,・・・・・」


「シンジ君、聞こえる?」
「はい、聞こえます。」
「今の状況をもう少し維持してもらえるかしら?」
「ちょっと無理です。気分が何か・・・・・」
「そう・・・今日はもう終わりにしましょう。今日のテストの結果は・・・こちらのミスはあったけど・・・よくやったわ」
「ありがとうございます」
この事については黙秘をせざるを得ない・・・


実験が終わり、着替えて休憩室で休んでいるとリツコさんがコーヒーを持ってきてくれた。
一人で来ていた。仕事中と言う感じでもなくリラックスしている様子だった。
「今日はお疲れ様、コーヒー、飲む?」
「ありがとうございます」
「お砂糖とミルクは?」
「ブラックでいいです」
「へえ、意外なのね」
そういう会話の後、リツコさんは僕の近くに腰を下ろした。
「早速なんだけど・・・・・あなたのテストの結果、すごく優秀だわ。でも疑似プラグを使ったテストとはずいぶん開きがあるのよ。」
そう言って僕の目を見る。

「パイロットとして何か感じるものとか、あるのかしら?」

僕は内容をぼかしながら伝える言葉を探す。

「何と言うか・・・・・感じが違うんです・・・・・うまく言葉にできないんですけど・・・」

「ごめんなさい・・・・・」

「いいのよ。テスト用のプラグとは言え、もっと私たちも研究しなくてはいけないって事。
ホント、人の感覚とか、心って難しいものよね。」

僕はここでは黙るしかなかった。「もう行くわ・・・ありがと」
と言って歩きながら呟いた一言はちょっとした衝撃だった。

「私たちはまだまだシンジ君のお母さんには及ばないってことね・・・・・」



それからは少しずつではあるが疑似プラグでの実験も結果が良くなってきた。
また、本物のプラグを使った実験では高めのシンクロ率を安定して維持するようになった。



葛城家での生活・・・・・と言っても、家族は不在がちなミサトさんと、温泉ペンギンのペンペンと僕の3人だ。
ペンペンはまあいいとして・・・・・問題は25歳と約50カ月のミサトさんだ。
忙しいこともあるが洗濯はすべて僕がやっている。もちろん下着も、だ。
色も形もそれほど派手なものはない。おそらくそういうのは引出の奥の方に眠っているのだろう。

掃除も僕がしている。それほど汚れるという事はないのだが、一個所については監視の目を怠ってはならない。それはミサトさんの部屋だ。
放っておくと書類、ディスク、ビール缶、おつまみのカラ、等々ですぐにとんでもないことになってしまっている。ここは定期的に・・・・・
いや、ほぼ毎日見ておかなくてはならない。

料理は1日交代で作ることにしている。
ミサトさんが遅くなるときは出前などに頼らざるを得ないが、できるだけ彼女も早く帰って来て作るようにしているようだ。
ただ、スーパーのお惣菜やレトルトの日も多い。でも、その方がまだ幸せな可能性が高い。
理由は・・・・・言うまでもない・・・・・

まず、彼女の味覚自体がかなり異常なこと。カップラーメンにレトルトのカレーを入れて・・・・・
「おいしいわよー」とか言っている。その他の食べ合わせもかなり微妙だ・・・・・

また、レトルトのカレーに何でも突っ込んでしまうのも悪い癖だ。
鯖の味噌煮その他諸々を・・・・・。
レトルトカレーに鯖の味噌煮、カレーの唐揚(甘酢かけ)、さきいか、酢ダコを入れて、ガラムマサラたっぷりで煮込んだものを

「本場の特製シーフードカレーよん♪」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

正直、生命の危機を感じた。
また、あるときは「刺激的なスパイス、香りが必要よねぇ・・・」と言って整髪料などを入れたものも出てきた。
「少しだから大丈夫よん♪」・・・・・そういう問題ではない。

だから彼女の当番の日でも余裕があれば僕が作るようにしている。また、カップラーメンの買い置きも欠かすことができない。

でも、彼女はよい保護者だ。
忙しい合間を縫って色々世話を焼いてくれるし、一緒にいて楽しく過ごせる。
彼女と家にいるときというのは、この戦闘状態、つまり非日常の中の大切な日常を感じさせてくれる。


学校、本部などで綾波さんにも話しかけるようにしている。
彼女は極端に無口、無反応なため、一人でいることが多いのだが、実際かなりの美形で、本当は仲良くなりたい男子は多いはずだ。
彼女はよく本を読んでいる。知的レベルが高いらしくかなり難しい本を読んでいるようだ。
「何の本読んでるの?」
彼女は黙って背表紙を見せる。話題を探してまた聞いてみる。
「えーと・・・どんなことが書いてあるの?」
「あなたも借りてみたらいいわ・・・・・」
この程度の会話にしかならないが、これでもまだましな方ではないかと思う。
積極的に話しかける材料がないし、彼女の雰囲気もあるのでうまくいってないのかもしれないけど少しずつではあるが距離は縮まっているように思える。
このままいけば彼女も少しずつ心を開いてくれるようになるのかも知れない。

こんな日常が続いている、ジェットアローンの暴走事件などはあったが使徒の来襲などの非常時がなければこんなものだろう。
平穏といえば平穏。でもこの平穏が愛しくてたまらない。まだ、平穏の中に足りないものはあるけれど、今のこの世界を僕は満喫している。
今日はミサトさんの当番・・・・・料理は・・・・・?逃げよう・・・・・





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