「弐」(Behind The Mask)

written by オサーン





翌朝は早く目覚めた。同居人は・・・・・まだ寝ているようだ。
顔を洗う。そして改めて感じる。
「これ、夢じゃない?!」

朝御飯を作る。別に料理は下手じゃない。むしろ前の所でもやっていたと思う。
しかも下手くそではなく結構上手に・・・
冷蔵庫の中身と今の料理の中からお弁当を作る・・・・・「何のために??」

同居人に置手紙をして家を出る。自然に足が向く。
学校に行くのだ。何故か道まで知っている。
学校に着くとまだ包帯が残る手を見て、みんなが話しかけてきたり心配してきたりする。
関西弁の聞きなれた声・・・・・そうトウジだ。あの声はケンスケ。
たしか綾波はあの席・・・・・今日は欠席のようだ。


授業中
授業には全く興味がなく上の空のような状態だった。そして面識のある彼らを眺めたり・・・
思案に耽っていたり・・・・・

とにかく、正確には授業には集中していなかったということだった。
机の上の端末からこの世界の現状を知る事、そして自分の知識とすり合わせる作業。
それに没頭していた。
どうやら鎌倉幕府は1192年で良かった。1600年の関ヶ原の戦いも合っている。
西暦2000年・・・・・
ここからの記述はどうやら少し記憶と違っていた。

「この世界は・・・・・」
思わず声に出してしまうと「なんや?おまえ?頭だいじょうぶか?」との声。
やっぱり僕だけずれているようだ。


「メール着信」
差出人は赤木リツコ。内容は4時からシンクロテストだとの事。
疑問をぶつけるチャンスだ。
スーツに着替え、プラグに入る。プラグが挿入され、起動する。



「実験を開始します」リツコの声プラグ内に聞こえる。

早速、意識を集中させる。何かのコンタクトがある。
エヴァとの接続が開始された証拠だろう。やがて感覚が大きくなる。僕は頭の中でその名を語る。

「ユイさんですか?」

しばらく経って
「あぁ、私を感じるのね」

優しい声だ。この声・・・安心感。何故・・・?

「あなたは・・・・・そう・・・・・あなたを教えてくれる?」

その声も優しい。安堵感に包まれる。
僕の意識が無防備になる。彼女にはそうしても良かった。全てを晒しても良かった。

そして頭の中に何かが侵入してくる・・・・・頭の中をかき混ぜているような気分・・・・・
ただ耐えられないものではなかった。そこにも優しさを感じられたからだ。
するがままに任せる。

強いて言えば、自分は経験があまりなくて、年上の彼女に任せている感じがする。
そう、少年にも羞恥心はあるし、男としての脅迫観念もある、が、全てを任せている。
そんな感覚に近いのかもしれない・・・・・


その頃、ボックスでは実験を監視していたリツコ、マヤ、各オペレーターの指示と報告が凄まじい勢いで交錯していた。
「パルス、完全に同調!止められません!」
「どういうこと!?」
「わかりません!シンクロ値が急上昇していきます!」
「すぐに回路遮断、プラグ排出、急いで!」
「だめです!プラグ排出受け付けません!」
「当方との接続回路、遮断されていきます!パイロット、モニターできません!」
「シンクロ値、なおも上昇!91、92、93・・・・・」
「だめです!計測値もロスト・・・・・」
「どうなってるの?!マヤ、外部電源は切れているわね?!」
「はい!切れています」

リツコはすぐに頭を巡らす。
「外部電源がないとすれば起動しても長い時間は動かない・・・・・」
「ただ、パイロットは・・・・・」

この状況のまずさは彼女が一番知っていた。ただ最終的にどうなるのかは彼女ですらわからないのであるが・・・・・
最悪の結果さえ十分にあり得る状況だった。

さらに指示を飛ばす。
「エヴァの状況は?」
「異常なエネルギーの上昇はありません!」

それを聞き少し安心したリツコはさらに頭を巡らせる。
「シンクロ率100を超えるという事は彼女の中にパイロットの思考が全て取り込まれている可能性すらあるのよ」
(だとしたらパイロットは・・・・・)

そう、失敗の苦い足跡・・・・・精神汚染は免れ得ない・・・・・
彼女はそう思い絶望を感じる。そして自分を責め始める。

しばらく重苦しい沈黙が流れる。やがて・・・・・
「モニター再接続。各種回路の接続も回復します。」

マヤの声「シンクロ値確認、90、89、88.低下していきます。」

「パルス、ハーモニクス安定。正常値に近づきます。」

危機は脱したのだ。安堵の空気がボックスを満たす。

「実験終了。パイロットは回収後、検査室に回します。医務部へ連絡して。」



プラグ内・・・・・意識の海

「シンジ・・・・・?そう・・・・・わかったわ・・・・・」

「でも、あなたはシンジ、そう私のかわいい息子なのよ」

「少なくともこの世界では・・・・・」

「あなたはわたし達の遺伝子を継ぐ者・・・・・」

「母さんはその成長をうれしく思うわ」

「たとえ、あなたの意識が変わっていたとしても、あなたの肉体は私の産んだシンジ・・・・・」

「その母親はいつまで経っても、何があってもあなたの母親なのよ・・・・・」

「だから、シンジ、私はあなたを守るわよ・・・・・」

「シンジ、私のかわいいシンジ・・・・・」

「わたしはあなたとまたこうして会うことを楽しみにしてるわよ・・・・・」

「母さん?・・・ユイさん?・・・母さん?」

「母さん!」

このときエヴァの中の彼女は僕の母親なんだという感覚を納得していた自分がいる。

それは幼いころ母の膝枕でしているような感覚での会話だった。暖かく、温もりに満ちていた。
顔は確認していないが明らかにわかった。その表情は笑顔だった。

安心感に包まれたまま、まどろみを続けていた。



気がつくとまたあのベッドだった。
気が付いてコールを押すと医者と看護婦とリツコさんまで病室に入って来た。
目の前で医師と何か話している。

そのとき初めてまじまじと彼女を見ながら回想した・・・・・

彼女の最期も幸福なものではなかったと思う・・・・・女の性と科学者の仮面・・・・・
でも、それは彼女が作った自らの運命であるかのようだった。
そして彼女自身の破滅・・・・・最後の笑顔・・・・・

やがて、ベッドの近くに来て「大丈夫?」と一声掛けた後、椅子に腰かけ、質問を始めた。

「何か覚えてる?」

この質問には自分は正直に答えるべきではないのだ。

「覚えて・・・いません」
「そう・・・気分はどう?」
「それほど悪くもありません」
「お医者様も軽い意識障害くらいで済みそうだと言っているわ。でも、今日は本当に
ごめんなさい。次からは気をつけるから。今日はゆっくり休んで行ってもいいのよ。」

「ありがとうございます。じゃあ、そうします。」
「おやすみなさい」

彼女たちが出て行った後で思い返す。僕はエヴァに対して自分を解放したことに後悔はない。
むしろあれで良かったはずだ。母さんも喜んでた。

そして一人で考える。
ここでの僕の肉体は碇ゲンドウとユイの子供であるシンジの肉体で、遺伝子はその二人のものだ。
精神がある程度別物だとしても遺伝子は引きつけ合う。
これは・・・ユイの遺伝子を持つ綾波レイが無意識のうちに僕に抱く好意と似ていることだ。
彼女の心はリリスのものだったはずだけどその遺伝子の記憶に引かれたということもあり、僕には特別な感情を持っていた・・・・・

「僕の持つ遺伝子はやはりエヴァに乗るための遺伝子なのか・・・・・」

僕はまた眠りに落ちた・・・・・




「実験のデータの検証、原因究明・・・・・また徹夜だわ。でも本当にわからないから、そこに引きずり込まれる。ね、母さん。」
MAGIの前で徹夜なのに、非常に生き生きとした目を輝かせるリツコ。報告書と渋い顔で睨めっこしているミサトの姿があった。
お肌には明らかに悪いだろう・・・・・
この数日はミサトさんもパンダのようになり不規則な時間にマンションに帰ってくる。
まあ、食事は作ってあるし・・・・・

さすがにビールの量は少し減ったようだ。徹夜明けのまま仕事をし、帰ったあとのビールは結構強烈なものがある。
さすがにいつもの酒量というわけにはいかないだろう。


数日後の朝、学校は休みだった。僕は自主的に訓練を始めることにした。
「格闘訓練」こう見えても前の僕は空手をしていた。技術的なことについては大丈夫・・・・・
しかし、ここでの僕の身体は・・・・・モヤシ?・・・・
これは何とか解決しなければならない必要性を感じざるを得ない。
他の隊員に混じって汗を流す。非常に気持ちいい。

体力がもう少し付けばある程度の動きはできるようになるだろう。この身体にもポテンシャルは感じる事はできる。
この訓練は今後の戦いにおいても必要な事なのだ。
何しろイメージをしっかり作りエヴァを動かす、これには自らもある程度動くことができなくてはならないのだ。


夕方近くまで汗を流し、ネルフ浴場へ。みなさん大人だ・・・・・
僕のは・・・・・ウゥ   しょうがないけど。

風呂上がりはやはり「クゥ、この一杯のために生きていた!」牛乳だけど。

部屋に帰って家事をして、そのあとリビングで寝てしまう。朝起きるとタオルが掛けてあった。意外に優しい保護者だった。

その優しさに包まれて僕は少しずつ強くなり、大人になっていく・・・・・
そんな自分を想像し夢を見る。






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