学校の夏休みは中盤・・・あと2週間ほど残っている。
宿題に関して言えばアスカもシンジもほとんど終わっていた。シンクロテストの合間の時間などにほぼ強制的にさせられていたからだ。




[碇アスカ育成計画2]

written by オサーン





「さてと・・・リツコ、あとはお願いね」
そう言ってミサトはリツコの研究室を出て行った。後に残ったのはアスカとリツコの二人だけだった。

「アスカ、さっそくだけどあなたにはこれをつけてもらうわ。」

彼女に差し出されたのは青いブレスレットのようなリングだった。それは二つに割れ、簡単に付けられる。
デザインだって怪しいものではない。ごくごく普通のアクセサリーのようである。
アスカは何も疑問を持たずにそれを手首につけ「ロック」する。


「これは何なのよ?」
「ああ、これね。しばらくはこれがあなたのIDのパスの代わりよ。ICが入っているから心配はないわ。」

「それと・・・しばらくはそれはあなたが取ることはできないわ。私が管理します。」
「えぇぇ!何なのよ!それぇ?!」

「さて・・・今までのIDを預けて頂戴。」
渋々アスカはIDカードをリツコに手渡した。
「変えたって事はセキュリティレベルでも変わったの?」
「まあ、そんなとこね。あなたの研修会場に入るにはそのICのデータがいるのよ。」

「研修ぅ?ちょっと、アタシそんなの知らないわよ!」
「あら、ミサトが言ってなかった?賭けに負けたらあるプログラムを実行してもらうって」

「あ・・・」
アスカは思い出した。ミサトが人の食べられるものを作ったら何かさせるって言ってた。
そうだ。賭けには負けたんだ。でも、なんでリツコに任せるの?

「あなた、家では何も家事をしていないらしいわね?」
唐突にリツコの攻撃だった。
「ちょ!そんなの関係ないでしょぉ!人ん家のことに口出さないでよ!!」
「シンジ君に全部させているのね?」
「アイツそれしか特技がないからやらせてあげてんのよ!!ア・タ・シはっ!!」

「でも、あなたそれで一人になった時やっていけるの?」
リツコは間髪いれずにさらに続ける。
「もし、結婚して・・・シンジ君とでも・・・まあ、誰でもいいわ。ご飯も作れない洗濯もできない、掃除もしない・・・」

「そんな母親って情けなくない?もし子供ができて、それを見ていたら何て思うでしょうね?」


アスカの心理を巧妙に突いた言葉だった。
結婚と言う言葉に基本的に多くの女性は反応する。また、シンジには好意を抱いているだろう事は容易にリツコは想像できた。
そうでなければ下着まで洗わせるなんて事は考えられない。
その「シンジ」というキーワードがまずきちんと入れてある。
子供・・・家庭を匂わせる言葉も入れた。異性を意識しているのであればその言葉には反応するはずだ。

アスカは即座に反応した。そして言わんとすることを理解しこう返した。
「つまり、アタシに家事をしろってこと?!」
「ストレートに言ってしまえばそういうこと」
「何でハウスキーパーのシンジがいるのにアタシがそんな事しなきゃなんないのよっ!!余計なお世話ねっ!!」

「あなた、何にもできないからそう言ってるんじゃなくて?」
鼻で笑うような仕草をして彼女に言う。事実を突かれたらしく慌てて、そして相当な怒気を含んでアスカは言い返した。

「余計なお世話だって言ってんジャン!!しっつこいわねぇ!!大体そんな事アンタの知ったことじゃないでしょっ!!」
さらにヒートアップするアスカ。
「このおせっかいの三十路女にも困ったものよね。何で金髪黒眉毛のマッドサイエンティストにそんな事言われなきゃなんないのよっ!」


ため息を吐きながらリツコは呟く。しかし、その言葉にはかなりの怒りがこもっているようだった。

「しょうがないわね・・・そこまで根性が歪んでるなんて・・・それに言葉遣いもなってないわね。」


彼女はポケットの中に手を入れて何かの操作をしたようだった。
その瞬間、アスカの手首のリングからスタンガンのように電流が走る。
「イタっ!!イタタタタっ!!」


「アスカ、あなたには家事がしっかりできるように、そして家でもしっかりやるように教育します。」
「ちょっと、何でよぉ!!」
「これがミサトの言ってたプログラムよ。異議は認めません。しばらくはエヴァに乗るよりそっちが重要だと思って。」

「痛いって・・・」
「ちゃんと謝りなさい。アスカ」
リツコには勝者の余裕が漂っている。

「それより・・・これ外してよぉ!」
「ああ、それはね・・・あなたが反抗的な態度を取ったり、言うことを聞かないときに備えてつけてもらったの。」
「そんなぁ・・・」

「まるで孫悟空の頭の輪っかじゃないのよぉ!」
「そう。その通りよ。ちなみにそれを外すキーは私が持っているわ。ちゃんとプログラムが終わったら取ってあげる。」
「まあ、身体を洗うときもちゃんとそこも洗えるでしょ?ああ、それと、簡単には壊れないから安心して。」

壊してでも取ってやると思っていたアスカの先を行っていた。
「無理やり取るとしたら、あなたの手首から先がなくならない限り取れないと思ったほうがいいわ。ま、無駄な抵抗はやめなさい。」
涙目になり、下を向くアスカだがここまで来たらもう逃げられない。

しかし、そんな事には構わずリツコが指示を出す。
「さてと・・・まずその学生服を着替えて。作業着があるわ。」
そう言って紙袋から作業着を出して彼女に手渡す。
「それに着替えたら戻ってきて。私も着替えるわ。」
「さ、さっそくなの?」

落ち着いてリツコが答える。
「そう、ちゃんと明日からできるように準備しなきゃいけないから。今日はそこを掃除しないとね。」


ロッカールームで作業着に着替えてから研究室前に戻る。ドアが開くとリツコも作業着でいろいろな掃除道具を袋に詰めていた。
「あら、もう来たの?じゃあ、行きましょうか」


着いた先のドアが開くと、そこは2DK位のアパートみたいな部屋だった。
家具、家電なども置いてあり誰かが生活していたと言う事がわかる。

「やっぱりちょっとほこりっぽいわね・・・」

何でこんな部屋があるのかアスカには不思議だった。
「ここは何?」
「1年位前まで中国から来た新婚さんの研究者がここに滞在してたのよ。それでここで新婚生活を送っていたの。」
「へぇ・・・」
しかし、新婚という言葉に反応し少し顔を赤らめてアスカが聞き返す。
「し、新婚さん?」

「そう、半年位いたのかしら?まあ、宿泊の経費も浮くって事で簡単に許可が出たわ。スペースも余っていたしね。」
「それでここを改造して小さいながらも普通の部屋にしたってわけ。でも、彼らこういうのを全部置いたまま帰国しちゃったのよ。」
「じゃあ、研修場所って・・・?」

「そう、ここよ。ここで家事などをしっかりと覚えてもらうわ。ちなみにこれらは使っていいって許可は取ったから大丈夫よ。」
「さてと・・・始めましょうか」


かなり綺麗好きな人だったのだろうか?ひどい汚れなどはなく簡単な拭き掃除だけで案外簡単に片付いた。
お風呂などの水廻りもそれほど汚れてはいなかったし、お湯などもきちんと出た。台所の調理器具も電熱式だったが問題はない。

ただ、きれいにしてあると言っても何となくそこには生活感があった。
それはアスカにとって別に不快なものではなく、何となく安心感があっていつもの部屋という感じを思い起こさせる。

掃除が終わると、細かい物をチェックしてしていたリツコが声を掛ける。
「あなた、包丁とかはこれでいいの?」
特に不満はない、と言うかあまり持ったことがないのでいいのかどうかすらわからないのだった。
「ええ、いいわ。」
その安心感になんとなく心満たされていたアスカは簡単に答えた。

(きっと仲のいい若夫婦だったのかな・・・・・?)
アスカも女の子らしく幸せそうな若夫婦を想像してみる。
そして自分をその新婦にあてはめて想像を続けていると、新郎は普段から近くにいる異性が成り代わり浮かんでくる。
ダイニングに向かい合って座り、私を見つめてニコニコしている彼・・・・・
彼女は一瞬うっとりしてしまう。

「ちょ!何でアンタなのよ?」
そうは言ったもののアスカは真っ赤になっている

ブルンブルンと頭を振って妄想モードを切り替えたアスカだった。

「さあ、終わったわね。明日は学生服ではなくジーンズか何かで、少し汚れてもいい格好で来てちょうだい。」
「じゃ、今日はもういいわよ。もし来なかったりしたら・・・わかってるわね?」

怖い笑顔だ・・・ともあれ、スペシャルメニューの教育プログラムが明日から始まる。
明日の朝9時スタートだ。







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