その日は午前中だけの予定で、チルドレンはネルフに呼ばれていた。11時には戦闘訓練が終わり、リツコは彼らに相対すると3人とも揃って口臭がひどい事に気が付いた。
アスカは「ありがとう・・・リツコ・・・」と最後に礼を言った。
(お疲れ様・・・・・3人とも)
心の中で彼らをねぎらって送り出した。

罪と罰 - 3 -

written by オサーン

3人は着替えると更衣室から出て、それぞれ顔を見合わせ無言のまま頷いた。そして復讐の準備に入った。バスケットを持ち、行動を開始する。
作戦部に連絡し昨日のカレーの場所を聞く。これはミサトの執務室に置いてあるという事でミサトは笑顔でそれを3人に託した。それを受け取る彼ら3人も笑顔だったがミサトの姿が見えなくなると真剣な表情に戻った。
「次、行くよ」

食堂に向ってご飯だけを注文する。無理を言いカレー皿を借りて移し替える。ラップを掛けてバスケットに入れた。彼らは更に念を入れ、準備した小さいタッパーにラッキョウと福神漬を入れる。そしてペットボトルのお茶まで準備する。わがままを言われる可能性はできるだけ排除したい。

今日の司令の予定は、意外にもレイは少しながらわかっていた。今日は夕方までここにいるようだとの事でターゲットは捕まるはずだった。


司令室の前まで行き、シンジが声を掛ける。意外な事にゲンドウは彼らをすぐに部屋に通したのだった。そして自分から声をかけた。
「報告は受けている。よくやったな、シンジ」
3人ともきょとんとしていたが、その言葉にほだされるような彼ではなかった。
「アスカ・・・・・」
後ろに立っていたアスカは頷いてバスケットを下ろし、レイも手際よく準備を始めた。
シンジが笑顔で言う。
「父さん、昨日はありがとう。僕ら3人とも元気が出たみたいだよ」
どこか棒読みにも聞こえた話し方だった。



「父さんも忙しくて疲れてるみたいだから持って来たんだ。ほら、カレーは1日置いた方がおいしいって言うし・・・・・」
「そうか、すまなかったな。シンジ」

その間にもご飯のラップを取り、添えものを置き、食器を取り出して準備が進んでいく。
3人からはゲンドウは冷汗を流しているようにも見えた。
溜飲が下がる思い・・・・・だった。

(ここまで来て逃げるんだったら部屋にぶちまけてやる・・・・・)
こんなことを考えていたのは何とレイだった。
そして、大きめのタッパーが開かれる・・・・・

その瞬間、あの忌々しい匂いが昨日のように充満する。いや、その香りは熟成の時間を過ごしてより官能的なものになっていた。それを息を止めたレイがご飯に載せて行く・・・・・
アスカからペットボトルのお茶を受け取り机にシンジが置いて準備完了だ。

(コノウラミハラサデオクベキカ・・・・・)
シンジの想いだ。
ゲンドウは目をつぶっている。観念したのかも知れなかった。そして口を開いた。
「フッ、食べられないものは入っていないようだな」
(強がってないで早く食べなさいよっ)
アスカが心の中で喚く。

ゲンドウはゆっくりペットボトルを開け、お茶を一口飲むと・・・・・スプーンを入れた!!
そして、口の中に入れてこう言う。
「ふむ、味付けは少し塩辛いが・・・・・問題ない」
そして平然と食を進める・・・・・

(父さん?やせがまん?すごいよ!父さん。尊敬しちゃうよ・・・父さん)
(アタシ・・・・・こんなのが司令なの・・・・・)
(・・・・・・・・・・・)
そしてレイを除く二人ははっと思い当る。
(まさかミサトと同類?)
それをレイに耳打ちすると
「あり得ないわ。だって、司令と何回も食事をしているけれどもそんな様子なかったもの」
(本当にすごいんだ・・・・・父さん)



(さすが・・・・・ネルフの司令ね・・・・・胆が据わってるわ・・・・・)

そのうちにちびちびお茶を飲みながらカレーを食べ終えてしまったゲンドウは残りのお茶を飲みながらラッキョウを齧っていた。この辺、やはり血は争えないとアスカは思った。
「うむ、たしかに力が湧いてくるようだ。葛城君にもよろしく言っておいてくれ」
そう言ってゲンドウは立ちあがると
「歯を磨いて来なくてはな・・・・・」
と言ってニヤリと笑い、退室した。
食器を片づけ、3人も退室した。


「シンジ、どういう事?あれを平然と口に入れるなんておかしいわよ!!」
「しかも、司令、午後からも仕事するつもり・・・・・」
「やっぱり、父さんはすごいんだよ・・・・・」
「まさか、昨日よりおいしくなってた?」
「ありえない。あなたも、あの香り嗅いだでしょ?」
「昨日よりも強烈な感じがしたわねぇ・・・・・シンジっ!タッパーのそこの奴すくって舐めてみなさいよ」
「いやだ!やめてよ!やめてよっ!!アスカぁっ!!」
「レイ・・・」
「ごめんなさい・・・碇君・・・」

レイが彼を羽交い絞めにして、アスカがタッパーの底をすくいシンジの口元にそれを持って行く。当然、シンジの口は真一文字に結ばれている。あくまで拒否するつもりだ。
アスカの最後通告が冷たく言い渡される・・・・・
「アンタ、これ目の下に塗るわよ・・・・・それとも鼻の穴がいいかしら?

シンジは観念してアスカの指先を口に入れた。
「がぁぁぁぁっ!!・・・・・ゲホッ・・・・・ゲホッ・・・・・」

「この様子じゃ変わりないようね・・・・・」
「碇君、ごめんなさい・・・・・」
「アスカ、恨むからね・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「まあ、罰も終わった事だしさぁ・・・何か食べて帰ろう?ねっ♪」
「アスカ、恨むよ・・・・・」
「あーん?何言ってるのぉ?そんな事言ってるとぉ・・・・・」



シンジの耳元に口を寄せ、一段と低い声でシンジを脅迫した。
「昨日の鬼畜っぷり・・・・・ミサトに言うわよ・・・・・」

勝負ありだった。
「フフーン♪今日はいちごパフェがいいなぁ♪」
そう言うとアスカはシンジに腕を絡ませて上機嫌で歩きだした。
「ファースト、アンタもいいわよ♪昨日のお礼だし♪」
「碇君、ご馳走様」
こうして彼らの償いは終わった。



ここでゲンドウがなぜあのカレーを平然と食する事ができたのか、推測しておこう。
彼の右手にいるアダムが原因ではない。
ゲンドウは赤木リツコと不倫の関係にある。彼女の年齢は30歳・・・・・成熟した大人の女性である。片やゲンドウの年齢は50に近い・・・・・体力面では下り坂である。
とは言え、ゲンドウはバイ○グラやその他の怪しい薬を使うのを嫌がった。しかしながら
このままでは彼女を満足させられるか非常に不安がある。
そこで彼は情事に向かう前には一度家に帰り、自分でスタミナジュースを作り、それを薬だと思って顔をしかめながら飲んでいるのである。

ニンニクを6片、それにゼ○を2本、さらに手に入る昔ながらの精力剤・・・・・例えば
スッポンエキスとかマムシの粉末とか朝鮮人参とかをタイムリーに入れて服用している。
さらに養命酒までブレンドする・・・・・
あのカレーも所詮その延長線上に過ぎなかったのだ。
薬だと思えば耐えられないものではない。
ミサトからの報告書でレシピと製法を確認すると問題なく食せると思って覚悟はしていた。
ただ、量が多くて思ったより胸やけはするが大したことはない。
彼はブレスケアを一回に一箱全て口に入れ、それをブチブチと噛み潰しながら赤木博士のもとに電話を入れていた。
(シンジ・・・・・今に私の気持ちもわかるようになるかも知れんな・・・・・)
そう思ってフッと笑っていた。



「今日は私がカレーを作るわよっ!!」



「ミサトの作ったカレーと一味違うところを見せてやるわっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アスカっ!!焦げてるよ!!ちょ・・・香り付けってコショウ2本も入れたら食べられないよ・・・・・アスカってば!!」
「アスカっ!!何でセロリ・・・・・そのアサリ砂抜きしてないじゃないか!」
「豆腐入れるの?大根?山芋?隠し味ってそれミサトさんのビール・・・・・」
「うっさいわね!!最高のスパイスの愛情込めてるから大丈夫よ!!シンジ(ハァト)♪」
「トローり♪トローり♪愛情カレー♪・・・・・」
そこには・・・もはや恍惚に浸った目でカレーを作っているアスカがいた。


烏賊すペエジに新しい人がやってまいりました。
オサーンさんの「罪と罰」公開いたします。

私もミサトカレーを題材にしたものはありますが、ここまでミサトカレーの不味さの程度と原因をリアルに考察し描写したエヴァ話は他には無いと思います。凄いですね。

そして勿論LASなのがいいですね。実に素敵です。

オサーンさんからはあと一つ前後編でお話をいただいています。公開までじりじりとお待ちください。

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