「一欠片の勇気と眩しい笑顔」

作:野上まこと

雨が降り続き、外に出るのも、見るのも嫌になるような日。 日曜だというのに気分は憂鬱になる。 どこへ出かけるわけでもなく、何をするわけでもない2人のチルドレン。 アスカはテレビをただ何となく眺めているだけ、別に「見ている」わけではない。 する事がないし、どこかへ行こうと言う気持ちも起こらない。 まあ、そんな日があっても良いかとしか思わない別に何でもない日。 一方シンジの方は先日学校の帰りから様子がおかしかった。 しかしアスカにしてみれば気にするほどではないし、ミサトにしても深入りするつもりもなかった。 だから誰もシンジの様子に関しては触れなかった。 ミサトは朝から仕事に出かけ今はふたりだけ。 シンジはどういう訳かアスカの方をチラチラと見る。 だけどアスカは全く反応しない。もちろん気付いていないわけではない。 しかしあえて知らない振りをしていた。 シンジの方は気が付いて欲しかった、言いたいことがあった、聞いて欲しいことがあった。 しかしアスカの方は寝転がってテレビを見ているだけ。 そんな状況が数時間・・・・・ようやくシンジはぼそりと口を開いた。 「ねぇ・・・・どうして僕なの?」 「はぁ?あんたいきなり何言ってるの??」 眠そうにソファーに寝転がりながらテレビを見ていたアスカはいきなり話しかけてきたシンジの方を面倒くさそうに見る。 「だってさ・・・・どんくさいし、暗いし・・・その・・・馬鹿・・だし・・・その・・・・・」 何を今更って言うような内容、いったい何が言いたいのだろうか? アスカはわざと大きく溜息をついてみる。 「あんたさ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ。」 シンジの奥歯に物がはさまったモノの言い方はどうもムッとする。 アスカは起きあがってテーブルのイスに座っているシンジの正面に座る。 「え・・・あの・・・・」 シンジはいきなり目の前に来たアスカに驚いたのと、じっとシンジを見るアスカの視線をまっすぐに受け止めることができなかった。 キョロキョロと視線を泳がせながら落ち着かない。 アスカは両肘をつき、頬に手を当てジッとシンジを見た。 「ねぇ?シンジ。」 少し神妙な面もちでアスカはシンジに話しかける。 「あ、はい」 ピクッとその言葉に反応するシンジ。 「私をちゃんと見て話しない?」 いつものような刺々しさが言葉には感じられない。 それでもシンジは心の中にしまっていた言葉をどうしても言えない。 それを言ってしまったら今の状態を壊してしまうかも知れないと怖れているから・・・・・。 でも、シンジ自身はハッキリさせたいと思っている。 だから心の中で大きく揺れていた・・・「言えない言葉」が。 「シンジはさ、自分に自信が持てないの?」 「え?」 ズキっと心に刺さる言葉。自分に自信が持てればこんな苦労はしない。 そう思うがシンジはあえて言葉にはしなかった。 「あ・・・・・」 「ん?何?」 「アスカは・・・・どうなの?」 「私?・・・んーー、そうね・・・・自分が絶対的に正しいとは思わないけど自分のことぐらい自分が信じてやらないと、って思う・・・かな?」 「自分を信じる・・・・」 シンジはアスカの言葉を反芻する。 「私はね、基本的には後悔なんてしたくないと思ってる。だから自分の信じた道をこれからも進んでいくつもり。それで後悔したとしても  それは自分の責任だから仕方がないって思えない?」 「・・・・・・・・・・・・僕は、そんなに強くない・・・よ」 シンジはやっぱりアスカと自分は違うと感じてしまう。 「そんなのあったりまえでしょ!私みたいなのばっかりだったら困るじゃない」 ジッと見つめる蒼い瞳。その瞳の中には強さと弱さがせめぎ合っている。でもそれは今のシンジにはわからない事。 「だから・・・・僕は・・・・・」 「それで良いの?」 「え?」 「あんたはそれで良いの?」 「・・・・・」 「シンジがそれで良いなら・・・・私にはどうすることもできない」 「で・・・・も・・・・・それは・・・・・・仕方がない・・・」 長い沈黙・・・・・お互いがお互いの瞳を見つめ合う。 シンジは自分の弱い心が言葉を継げなくなり、アスカはシンジの「言葉」を待っていた。 しかしシンジはなかなか口を開かない。 仕方が無くアスカは「大切な言葉」をひとつシンジに告げた。 「傷付くのが恐いのは仕方がない、でもそのまま立ち止まっていても何も解決はしない」 「・・・・・」 「これさ、ママの言葉なの」 「お母さん・・・の?」 「そう・・・・何もせずに欲しいモノだけを待ってるって、ずるいと思わない?」 「・・・・・・・」 「シンジが私に聞きたいことはわかってる。でも私の気持ちじゃない、シンジの気持ちが問題なの」 「・・・・・」 「本当に仕方がない?」 「・・・・・」 「本当にそれでいいの?」 「・・・・・」 「だから・・・・ね?」 視線をアスカから外しテーブルをジッと見つめるシンジ。 心の中でたくさんの想いがせめぎ合い、心が苦しく、逃げ出したくなる。 でもシンジは知っていた、逃げ出してもそれは望んだ結果には結びつかない。 だから・・・・・・・。 だから・・・・・・。 「あ・・・・・・・」 「うん」 「アスカ・・・・・」 「何?」 アスカの優しい声が耳に届く。 「アスカに・・・・僕が・・・・その・・・・釣り合うとは・・・でも・・・・・」 「・・・・でも?」 「僕は・・・・・」 「うん」 「アスカのこと・・・・・・」 顔を上げてアスカの瞳を強く捉える。 「ほら、がんばりなさいよ」 「アスカの事・・・・・・・・・・・・・・・」 顔を真っ赤に染めてシンジは高鳴る鼓動を押さえきれないままその一歩を踏み出した。 「アスカの事、・・・その・・・・・・す・・・・・好き」 「・・・・・・・」 シンジはアスカの言葉が欲しかった。 しかしアスカは視線を投げかけるだけで何も言わない。 それがシンジの中で絶望に変わっていく。 「馬鹿、やっと言ったわね」 「え?」 「あんた、きっかけが無かったらどうするつもりだったの?」 やや険しい表情でシンジに言う。 「え?な・・・・なにが」 「しらばっくれても駄目、どうせクラスの男子生徒にそそのかされたんでしょ?」 そう、シンジはクラスメイトにアスカとの関係についてあれこれと言われていた。 別にそれはいつものことだったのだが、今回はいつもと違った。 『おまえが本当に惣流に相手にされるのと思ってるのか?釣り合ねーんだよ』 『希望の欠片もねーんだよ、ばっかじゃねーの?ギャハハハ』 その生徒は実はアスカにアタックして玉砕した奴だったのだ。 そんな事とは知らないシンジはどんどんと不安になりアスカに煮え切らない質問をすることになる。 アスカはただ推測したに過ぎないが的を射ていたわけだ。 「ねぇシンジ?」 蒼い綺麗な瞳がまっすぐにシンジに向けられる。 「な、なに?」 「私の返事、欲しい?」 少し意地悪そうにアスカは微笑む。 「・・・・知りたい・・アスカの気持ち・・知りたいよ」 真剣に言うシンジは少しいつもと違って見えた。 凛々しいと言うか・・・・アスカはそんなシンジにドキッとさせられる。 「私の返事はね・・・・・こうよ」 翌日の下校時、シンジは校門で一人立っていた。 空を見上げながら何かを考えているようにも見える。 「碇君?」 声をかけてきたのは綾波レイ。 不思議そうにシンジの顔を見ている。 「綾波、帰り?」 「ええ・・・碇君は?」 「あ、うん・・・・ 少し恥ずかしそうに何かを言おうとした時 「よー、碇。今日はこんなところで未練がましく待ち伏せか?」 「きゃはははは」 先日のクラスメイトだった。 「ちょっとね・・・・」 少しこわばった顔で返答する。 「まさか、惣流に振られたから綾波に乗り換えたのか?」 「お!なるほど」 にやにやといやらしい笑みを浮かべて2人を物色するように見る。 一瞬レイは冷たい目で彼らを睨んでそして何事もなかったかのように去っていった。 少しレイの態度に驚きはしたが彼らは再びシンジに絡み始める。 「おやおや、ヒーロー様も形無しだな」 「ふられちゃヒーローもへったくれもないよなぁ」 「シンジぃ!待った?」 そこへ息を切らせながらアスカが走ってきた。 「そんなこと無いよ、ついさっき来たところだから」 にこやかにシンジはアスカに返事をする。 「じゃ、行こうか」 「そうね」 そう言うとアスカはシンジの腕に手を絡ませて歩き出した。 「な・・・」 あまりの事に驚いたクラスメイト達は呆然と2人を見送った。 ふたりはくすくすと可笑しくて笑い出す。 「あははは、見た見た?あいつらの間抜けな顔」 「アスカ、それはちょっと悪いよ」 「とかなんとか良いながらあんたも人が悪いんだから」 シンジは隣に感じるアスカの温もりに昨日のことを想い出す。 「私の返事はね・・・・・こうよ」 そう言うと頬杖付いていた手を伸ばしシンジの両頬を優しく包んだ。 「え?ええええ?」 蒼い瞳は閉じられて、ゆっくりとアスカの顔が近づいてきた。 真っ赤になりながらも突然のことに硬直して動けない。 アスカとシンジの唇がこの時に甘く優しく触れ合った。 そんな出来事をシンジ思い出し笑いながら、無意識に唇に手を触れる。 「馬鹿シンジ!今度はあんたの勇気ちゃんとみせてよ!」 怒っている風にわざと言うがアスカの顔は少し紅みが差す見とれるほど 魅力的な笑顔でシンジには眩しかった。
<野上まことの後書きと言う名の言い訳> エヴァFF書きを細々とやっております、野上まこと と申します。 初めての方よろしく御願いします。 しかしクラスメイトにこんなガラの悪い奴いたか?と言う疑問は捨ててください。 アスカに振られたらやっぱり八つ当たりしたくなるものです(笑 シンちゃんにとってはラッキーでしたね。 もし、楽しんでいただけたのでしたら・・・・・ よろしければ感想なんかを頂ければ嬉しく思います。 って催促してみたりして(爆 nogami@asuka.club.ne.jp
野上まことさんから初投稿をいただきました。 う〜ん、‥‥素敵ですね。 ‥‥。 ここは、余計な感想をかかないほうがいいかも‥‥。 雰囲気を壊さないように‥‥。 でも一言だけ‥‥。 やはり、らぶってのものはいいですよねぇ。 男の嫉妬は見苦しいけど。 読み終わった後は、野上まことさんに感想メールをお願いしますね。
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