籍は入れたし
別にもういいかなとか
諦めたりしたわけじゃなかったけど

シンジが就職したら切り出そうかなって
そう思ってはいたけど


「アスカ、式を上げよう」


夕食の後、突然切り出されて
情けないくらいしどろもどろの返事しかできなくて

嬉し涙ならいくらでも流していいかな
なんて本気で思っちゃった


籍を入れてから丸4年
シンジと結ばれてから8年…
いつかは区切りでって
そう思ってはいたけど

涙がこんなに気持ちいいなんて
この歳になるまで知らなかった





それからはもうてんてこ舞いで
式場の予約とか
披露宴の準備とか
こんな苦労なら100万回でもしたいくらい




でも
まだ今なら間に合うってうちに
どうしてもシンジに言っておかなければいけないことがあった
“私のシンジ”が“シンジの私”になるにはどうしても避けられない

夢の中で私は“私”に言われたの
私の記憶の扉の向こうに居る“私”に

「ねぇ…私もしあわせになれる?」

って

だから
もし、シンジが“私”を受け入れてくれなかったら
私は“私”を一生扉の向こうに…
そして私は“おねえちゃん”で過ごす
それでも十分幸せ
でも、本当に“シンジの私”になれるのなら

怖いけど

シンジが本当に私と“私”を受け入れてくれるなら

そうなら
そうであったなら

私は本当の幸せを手に入れる資格がある






やっぱり夕食の後だった
ママは後かたずけをしていて
シンジはソファーの上で私の膝枕でテレビを眺めていた

私はテレビを消すと
“なにすんだよ”
ってかおのシンジを見つめた

シンジは私の表情を見て
「どうしたの?」
って
少し心配そうに…

だから私は
シンジの頭をなでながら
シンジの綺麗な瞳を見つめて
ゆっくり話し始めた


「私が14歳のとき…」







“本当にあるんだ、そういうことって”

シンジが口にしたのはそれだけ
私が思ったような混乱や心配した様な事もなく

へぇ〜って表情で私を見上げるシンジ

「おどろいた?」

ってきいたら

「おどろいた」

ってバカみたいに笑いながら…

「それにさぁ」





シンジは自分にとって私は“おねえちゃん”で“アスカ”で
だからそんなこと言われても「別に?」ってかんじで
そんなふうに言われて

「ばか」

うれしくなちゃって
シンジが私を受け入れてくれなかったら…なんて悩んでたのがバカみたいに思えて

思わず全力でシンジの事を抱きしめて

「くるしいよ、おねえちゃん」

もっと力いっぱい抱きしめた




ママはまるで何事もないような顔で洗い物を済ませ
チラッとこっちを一瞥して
中指を立てながらキッチンをあとにした

もうここがどこだなんて
そんなことどうでもよくて

「ああああ…アスカ?ねえ?ちょっと?」

シンジは私に次々と服を剥ぎ取られ
瞬く間に肌と肌をあわせ
私は幸せをかみしめた






「風邪引くよ?」
「じゃあもっとあっためて」
「ベッドに行こう?」
「ここでいい」
「…おばさん…絶対困ってるって」
「困らせておく」
「…」
「…」
「ちょっと…わかってた」
「ん?」
「アスカが…普通とは違うって…ちょっとわかってた」
「そう…」




シンジが昔のことを話す

私のバイト先でシンジが廃棄品のおこぼれに預かっていて
私はレジでぼーっと時間が来るのを待っていて
オーナーはたまたま席を外していて

そんな時
フルフェイスのヘルメットをかぶった男が一人

「騒ぐな!金を出せ!」

へぇ?

まるで実感がなくて
コンビニ強盗なんてドラマの中くらいでしか見たことなくて
突きつけられた包丁もなんだか実感がなくて

「はやくしろ!」

脅してくるヘルメットの男をポケーッとみつめちゃって

そんな時

「は・は・は・は・はなれろ!」
裏返った声がして
横を見ると
シンジがカクカク震えながら防犯用の木刀を持って事務所から飛び出してきて

それでようやく私にも実感が出てきて

分かったの
ヘルメットの男がシンジの方に動こうとするのが
ほんの少し動いたから

一発だけ
それだけ
私は強盗の包丁を持ってる腕の二頭筋を殴ったの

やってみればわかるわ
そこを殴られるとどうなるか

肘が曲がって
強盗は自分が握っていた包丁で自分の肩を突き刺してしまった

後は警察の仕事

私の抵抗が偶然の結果を生んで犯人が御用

おまわりさんはそういっていた


でも、シンジは見てたんだって
私が表情一つ変えずに強盗に一撃を入れる瞬間を





それだけじゃない

私が教師になってから
何度かシンジに心配されて…

学校の裏サイトってのがあって
そこに
“惣流先生をレイプしようぜ”
ってのが定期的に書き込まれてて

それを知ってるシンジは何度も私にきおつけろって言って来てた

まぁ…書き込んでたやつらの一人がシンジの友達の変体盗撮魔で
それで散々心配されてたんだけど

ある日を境にその手の書き込みが消えたわ
何人かの生徒が突然怪我をした日に

ついにそいつらが行動を起こすって日
シンジは、わたしたちの関係を何も知らない相田から誘われて
変態メガネについて行けば私が襲われる現場に出くわすわけで

ついて行って止めさせようとしたんですって
かっこつけちゃって



「ついにやるって言うから、記念に映しとこうと思ってさ!」
なんて嬉しそうにしてる相田に連れられて

私が人気のない放課後の廊下を歩いていて
後ろからスタンガン押し付けられたの
バカな生徒たちに


全部シンジに見られてた


スタンガン押し付けられてるのに、まるで何事もないみたいに私が振り返って
「そう…あんたたちなわけね」
って言いながら…

後はひどいもんよ?
奴らが用意したガムテープやナイフやらを取り上げて…あぁ…スタンガンもね…
「いいわよ?遊んであげる」って言いながら…


その日何人かの生徒が悪質な校内暴力で怪我をしたわ


ちなみに怪我をした生徒の一人は
スタンガンを咥えたまま手足をガムテープで縛られた状態で3階から“同級生”に突き落とされたらしい

残りのやつらもにたような目にあったけど…

もちろん私はしらばっくれていたわ

影から覗いていた相田も、あまりの出来事にカメラを回すのを忘れて
私が命乞いをするバカどもを引きずりながら消えていくと
「多分…アレだな…スタンガンの出力が低かったんだな」
なんてつぶやいてたらしい




つまりシンジは私が包丁やスタンガン位じゃ焦りもしなきゃ気絶もしない…

ええ…そうよ
あの戦いの日々に比べれば…

とにかく…普通じゃないって知っていて

でも
シンジはそんなことどうでもよかったらしい


「だってアスカは僕のおねえちゃんだし、昔から強かったし」


ですって





だから披露宴は皆に来てもらう
記憶の扉を開いたの


まず、私がよく“通院”している病院の“先生”

「久しぶり、リツコ」

って

驚いてたわよ?
「どうして?」
ってつぶやいて

何の説明もしないで招待状を手渡したわ
「今はね…私を守ってくれる人がいるの」
って言いながら

「元、世界の救世主がねぇ」

って小ばかにするように笑ってたわ



リツコからみんなの居場所を教えてもらったわ
ミサトも加持さんもマヤも日向さんもあとロンゲの人も

キール議長と冬月先生は天国にいらっしゃるそうだ

ひとりひとり、皆のところに行って招待状を渡したわ
皆似たようなこと言って驚いて
そんなに私が幸せになるのが意外なのかしら?








「…だから私は人間じゃないの」

そういわれても…
“だからなに?”
ってくらいで

それよりも
夢じゃなかったんだなぁ
やっぱり

そんな感じ

アスカがさ、怪傑ズバットみたいな格好で僕のこと見て
「守ってあげる」
って言う夢

別にどうでもいい
僕がアスカとすごした日々や
アスカを愛してる事に何の変わりもないし

「だから私は暑さも寒さも感じないの」

納得
だから真冬でもバイク乗り回してたんだ

「でもね、シンジに触れると…あったかいの…わかるの…」

アスカは…おねえちゃんはよく僕の事をぬいぐるみみたいに抱きしめてきた
僕に触れることで「自分が生きているって」実感できるから

「それに…シンジ」
「ん?」
「海」
「海?」
「何色?」
「海?青…じゃないの?」

アスカは僕の胸の中で小さく首をふる

「昔は…昔は私も青く見えた…でも」

アスカはその日以来海が紅く見えるらしい

アスカは…おねえちゃんは海水浴が大きらいだった
僕ら家族で出かけてもおねえちゃんは絶対に海に入らなかった

「シンジ」
「ん?」
「海の匂いってどんな匂い?」
「磯の匂いって言うか…」

アスカは僕の胸に顔を押し付け

つぶやいた

「血の匂い」





自分はもう人間じゃない

アスカはもう一度そういった

それを聞いて僕は、我慢しきれずに吹き出したんだ
アスカがポカーンとした顔で僕を見上げる

「じゃあ僕はその“使徒”ってヤツより強いんだ?」

アスカは“は?”って顔して

僕はキスするようにアスカの前歯を舐めた



アスカが包帯グルグルで帰ってきたあの頃
僕はアスカと公園に遊びに行って
木登りをして降りれなくなった

「ぼら!シンジ!おねえちゃんが受け止めるから」

アスカが降りれなくて泣き出した僕を見て笑いながら

僕は何度かためらった後
おねえちゃんめがけて飛び降りたんだ

気がつくと
僕はおねえちゃんに馬乗りになってて
おねえちゃんは口元を押さえて

飛びついた僕の膝がおねえちゃんの顔面を直撃して
おねえちゃんの前歯をへし折ったんだ

おねえちゃんは笑いながら“なんとも無い”って笑ってて

僕はそれを見てまた泣き出した



何が言いたいかって言うと
その“使徒”ってやつらでも倒せなかったおねえちゃんを
僕は倒した上に前歯までへし折った

そう思うと面白くって

僕はずっと笑っていた
その間中アスカは嬉しそうに僕の胸に小さなアザを唇でいくつもつけていた











綾波さんに式の招待状を渡したときの顔!
傑作ね!

「負けたとは思ってない…」

ですって!
いいわよ!
いくらでも受けて立つわ!
もう誰にも負ける気なんかしないもの☆


それと

渚カヲル…

今まで通り、一応シンジの“親戚”ってことにしといてやるけど

「もう一度、あんたが悪さしようってんなら…また私が相手になってやるわ」
「あんな目にあうのは二度とごめんだよ」
「言っとくけどわたし、あのときの10倍強いわよ」
「シンジ君のおかげ?」
「ええ!」
「そりゃあ敵わないな」

お互い一度は砕け散った

でもそんな昔の事
どうでもいいわ!

こんなヤツでも私たちを祝ってくれるってんなら
大歓迎よ☆









かあさんに呼び出され
一枚の便箋をわたされた

“守ってやる”

それだけが書いてあった

意外なんだけど、とうさんとかあさんてかあさんが熱烈にアタックをかけて…
何百通もラブレター書いて
とうさんを撃墜したんだ



その、何百通だかのラブレターの唯一の返事がこれだそうで

「とうさん、ウソだけはつかなかったわ…私のことも、シンジのこともずっと守ってくれた…だからねシンジ」


「守ってやれ」


かっこいいよね
釣竿を眺めながら
今の今まで会話に加わらず
ここぞ!ってとこで
とうさん
ちょっと憧れる

「うん」

「それだけだ」

僕は便箋をかあさんに返すと

「ありがとう、とうさん、かあさん」

あんまり考えずに出る言葉って
本当の気持ちだと思う



式のクライマックスで両親とアスカに感謝の気持ちを伝える段取りになってる
だから僕は気持ちをいっぱい詰め込む事にした

両親には
生んでくれた事
育ててくれた事
叱ってくれた事
愛してくれた事
守ってくれた事

アスカには
愛してくれた事
守ってくれた事
本当は泣き虫で寂しがりやな君をこれからは僕が守る事


僕は特別幸せなんだと思う
父に守られ
母に育まれ
もう一人の母に恵まれ
小さなときは姉で
僕をいつも愛してくれて
それからは恋人で
少し待たせちゃったけど
これからは妻になる
そんな素敵な女性の下に生まれた

多分、僕が幸せな分、アスカは14歳のとき散々な目にあったんだと思う
だからこれからは僕がアスカを幸せにする
僕がアスカを守る

僕のおねえちゃんは
僕のアスカは



そっか
もう守ってるのか
さっきから僕は
“僕のアスカ”
って

ははは!
そうだ!
僕のアスカ!
僕のアスカ!









海が見えるチャペル
どお!?
おしゃれな式場でしょう!?
あの赤い海だっていとおしいわ!

「赤い?」

私の肩に手が添えられる

「ええ!でもとても綺麗!」

その手に私は暖かさを感じる

「綺麗?」

「ええ!ルビーみたい!」

「そっか」

「綺麗よ、シンジがいてくれれば、海だって綺麗!」

「うん、じゃあ行こうか」




ママは納得いかないってごねたのよね
「何で“牧師様”じゃ無くて“神父”にしたのよ!」
って
まぁ、ママがプロテスタントだってだけなんだけど

いいじゃない?
雰囲気が出るでしょう?“神父”て響きの方が
わざわざ片言の神父さんにしてもらったんだから!

誓いのキス

ここだけの話
感じちゃった


式が終わって披露宴
大変なのよ?
お色直しとか
挨拶とか

そしてクライマックス



シンジがみんなの前で感謝の言葉を読み上げる
お父さんに感謝を
お母さんとママに愛を
“おねえちゃん”にはさよなら


「僕は今までずっと守ってもらってました、おねえちゃんに守ってもらっていました」


無理しちゃって
夕べも緊張して眠れなくって子守唄ねだったくせに

いいよ

さよならしてあげる
でもずっとおねえちゃんはシンジのこと見てるからね
おねえちゃんはシンジの事を最初に守ってあける
誰よりも先に守ってあげる
おねえちゃんはシンジのこと守ってあげる
最後の一人になっても守ってあげる

だからね
シンジ
シンジは私のこと…


「これからは僕がアスカを守ってゆきます」


ありがとう


ふふふ
そろそろかな?







あれ?
今のでスピーチ終わりのはずなんだけど…
もう一枚…

これって…

まさかぁ!?









シンジはスピーチの紙と私を交互に
あぁ!面白い!
ほんとに面白い!

ばかでまぬけでおっちょこちょいで
やさしくて
素敵で
だいすきで

あなたが側にいてくれるだけで私は幸せだわ!

さぁ!
聞かせてちょうだい!







アスカは満面の笑み
わかった
わかったよ
みんなに見せつけよう!
僕がどんなにアスカを!
おねえちゃんを愛しているか!

僕は大きな声で
元気いっぱいに読み上げた!



「けっこんせいやくしょ!ぼくはおねえちゃんがおとなになったら、おねえちゃんとけっこんします!だっておねえちゃんはぼくがおねしょしたのをだまってて くれたから!それにぼくはおねえちゃんがだいすきです!だからおねえちゃんとけっこんします!いかりしんじ!」






なぁ〜にやってんだか
あの二人は

大勢の前でいちゃついて見せて
予定外のキスまでして

ほんとに
アスカったら嬉しそうにこっちちら見して

こんな時、惣流家ではどうするか決まってるのよ









会場はやんやの大喝采
私が式場の人にお願いして仕込んでもらった“結婚誓約書”
シンジは幸せいっぱいに読み上げてくれたわ!
だから私もお返事したのよ?!
みんなの前でシンジの首根っこ捕まえて熱いキス☆

おじ様は必死に不調面作って
おばさまは大笑いして
ミサトはテーブル叩いて喜んで
ミサトの横に座る赤いメガネの子はピーピー口笛鳴らして
リツコは手のひらで目なんか覆って
マヤと山岸さんなんかおめめにお星様
ヒカリと鈴原は夫婦そろって大口開けて指差して
マナも乙女みたいに喜んで
綾波さんが嬉しそうに拍手してるのがちょっと意外
渚のやつは“君に幸あれ”みたいなポーズ…あんたにもね

そしてママは

そうよ!
そうでなくっちゃ!

私たちの門出はいつもそれでなくっちゃ!


ママの立てる中指☆


私はシンジの手をとって二人で中指を立て返したの!

あぁ!しあわせ!
しあわせの嵐!
しあわせの大波波浪警報!
しあわせで地球が滅ぼせるなら銀河系だって全滅させちゃう!


シンジが素敵にささやく
「愛してるよ」
って

だから私はシンジの首に手を回してこう答えたの
「じゃあキスして」




空を突き抜ける大喝采が私達を包む

“おねえちゃん”と“おもらしくん”のお話はこれで終わり

そうでしょう?

だって

これからはもっと素敵なお話が始まるわ!









あ!そうだ!
絶対ないしょよ?
最後だから特別よ?

あなたにだけ良いこと教えてあげる☆

あのね

わたし、一月くらい前からおなかの中が暖かいの

おなかの中にシンジと同じぬくもりを感じるの

とても楽しみ!

はやくいらっしゃい
わたしの赤ちゃん!
あなたのパパはとっても素敵な人なのよ☆


フォークリフトさんの「ユーセイアイラビュー アイセイキスミー」公開、アスカ姐さんシリーズ完結です!

やはりアスカさんは凄いアスカさんだったのですね。でもシンジとラヴいのであれば何であっても一緒ですね!

素敵なお話を書いてくださったフォークリフトさんへの感想をぜひアドレスforklift2355@gmail.comまで〜おねがいし ます。

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