いつもと同じ夢

いろんな夢を何度も見てきた

でも今は夢なんて見てる場合じゃない

だって…

だってシンジが…

いじけちゃった…


目をさますと私の腕の中でシンジが寝息をたてる
鼻をつまもうとしてやめる

もしそれで、またシンジがいじけてしまったら
「アスカちゃんに起してもらわないと僕はおきれない…」
なんて言い出したら…

しずかに抱きしめ目覚ましが成るのを待つ

鈴原やヒカリの前では明るく振舞うシンジだけど
みんなシンジの異変に気が付いている
シンジの居ないところで私に

「暴力女、碇と喧嘩でもしたんか?」

聞いてくる

「アスカ、碇くんとなんかあったの?」

シンジに

「アスカさん、碇先輩どうしたんですか?」

なにがあったのか


なにがあったかは口が裂けてもいえないけど

正直私もどうしていいか…

ご飯のときも
私が取り分けてあげるのに、わざわざ自分でやろうとする

お風呂はまだまし
背中の流しっこしてるときはいつもどおりなのに
湯船で私の乳房をさわってきたから、そっと抱きしめてあげようとしたら、途端にやめてしまう…

よっぱらったリツコとゲームで遊んでるのなんか今まで通りなんだけど…

学校の明日の準備もしてあげると…小声で「ありがとう…」っていうんだけど…
なんだか…
何だろう?

夜なんか、「おやすみなさい」っていって先に部屋にいって寝てしまおうとする
急いで追いかけて私も寝床につくけど…

こんな生活がシンジの退院から半月も続くと…さすがに



時計は12時を回っている
シンジは寝息をたてている
どうしても寝付けない

そっとベッドを出ると相変わらず晩酌中のリツコ
ワインに豆腐ってあうの?

「あら?めずらしいじゃない、どうしたの?」
イスに座るとリツコがグラスをひとつ差し出した
「べつに…」
強がる私
グラスにワインがなみなみと注がれる
「そろそろだと思った、さ、飲みなさい」
何だろう?にやけてるリツコ
「今夜は女同士腹割っていきましょう」
見透かしたようなリツコの視線がなんとも歯がゆく
一気にワインをあおる
「い〜飲みっぷりじゃない!」
またなみなみとつがれる
「で?シンジ君のこと?」
ちょっとムッとする
「別に…」
ますます勝ち誇ったような表情になるリツコ
「別に?別になに?いっちゃいなさい」
なによ!見透かしたみたいに!
「別に、私はシンジのこといろいろしてあげるのなんてなんとも思ってない」

一気に思うところをリツコに吐き出した
私はシンジのために何かすることなんてなんとも思ってない
シンジが私のものにならないなら何にもいらない
自分も要らない
この世界もいらない
だからシンジが私が何かしてあげる事に遠慮や負い目なんて感じなくていいのに

「シンジ君に芽生えた小さな小さなプライド」
「え?」
「案外そばにいる人はきずかないのよね」
「シンジのプライド?」
「そ、」

シンジの?プライド?

リツコは空になったワインのボトルを片手にキッチンに向かう
戻ってきたリツコの手にはホームサイズのワインパック
女の夜は長くなりそう…

リツコがワインをジョッキに注ぎながらしゃべりだす
「日本に来てシンジ君は自分がアスカのためにいろんなことができるのが嬉しかったのね、たとえばクラスの皆とアスカの橋渡しとか」
そうだ…私のところにいつも誰かを連れてくるのはシンジだ…

「初号機じゃ足を引っ張るだけだけど」
いつも私は“私が守ってあげる、シンジは何もしなくていいんだからね”
「それでもシンジ君は何かアスカのためにしてあげたかったのよ、だってそうでしょう?沸騰するLCLの中で、じっとこらえて引き金を引くなんて、そうじゃ なきゃできないわ」

そうだ…シンジは私のために初号機に乗ったんだ

「その小さなシンジ君のプライドを、アスカは母親みたいなやさしさで踏み潰してるのよ。踏みにじられるたびシンジ君は鬱屈してプライドは大きくなるの、わ かる?」

うなずく…なんとなく、わかる

「じゃあ答えは簡単!シンジ君の好きなさせてあげなさい、アスカが縛り付けてなくてもシンジ君はどこにも行かないわ、だってそうでしょう?シンジ君はアス カのためにがんばってるんだから」

そうだ、シンジの好きなようにさせればいいんだ。それでシンジがうまくできなければ…
それでいいじゃない!
うまくいかなくたっていいじゃない!
失敗したって
私だっていっぱい失敗してじゃない!

そうよ!

私が見守っていれば失敗したっていいじゃない!


「ふっきれたでしょ?」
「ありがと」
照れ隠しにワインをなめる
「アスカ、あなたって自分で思ってるよりずっと不器用なのよ」
「そんな事ない!」
リツコが笑い出す
「ほらね」
なんて言いながら


結局、空が明るくなるまで付き合わされた…

ありがとう

お姉さん




「アスカちゃん!起きてよ!もう!ねってば!」

うぅ〜ん、うるさいなぁ

「もう朝だって!」

わかったから…

「もうりっちゃんもいっちゃたよ!」

え?

飛び起き、時計を見る
まずい!
あら?
あららららら?
何だろう?
フラフラする…
気持ち悪い…

まさか…
これが…

二日酔い


「シンジ…私…体調よくないみたい…学校休むわ…」

シンジがとっても心配して…
迎えに来たヒカリ達にも
「アスカちゃん寝込んじゃって…今日は休むから」

シンジまで休む事ないのに


午後にはかなり体調が戻ってきた

シンジが何回も
「病院行こう」
って

言ったら大目玉よ
診断結果が二日酔いじゃ


シンジがチンしたレトルトのおかゆを持ってきてくれた
食べさせてもらう
「あーん」
だって
ふふ…
おかしい

夕方、リツコが戻ってきた
私が学校休んだ事は気にしてないみたい

「ねえ…シンジ」
「なに?」
「明日も休む」
「…アスカちゃん」
「何?」
「やっぱりお医者さんいこ」
心配そう
あは
おかしい

「リツコに薬もらうから大丈夫よ」
「うん…」
「それより…ねえ、シンジ」
「なに?」
「綾波さんに電話して」
「え?あ、うん…いいけど」

シンジがリリスに電話をかけ、二言三言しゃべると私に携帯を渡す
「はい、アスカちゃん」
「ありがと」
携帯を受け取ると
しばらく無言

「ねえ、綾波さん」
まだ無言

しばらくして
「…誰?」

ああもうイライラする!
絶対わざとよ!
「アスカ!アスカ・ラングレー!」

「…そう」

ほんとむかつく女ね!
…まあ、ここはこらえて
「明日暇でしょ!暇よね!」
「……服…ほしいの?」
「ちがうわよ!」
「…胸…きつくないのにして…」
「ちがうっていってんでしょう!あんたバカ!?」
「…しらない」
もう決めた!
使徒全員倒したらついでにリリスもぶっ殺す!
「プールいく約束、したわよねえ?」
「…えぇ…した…でもシンジはかなずち…」
「そんな事いいの!明日行くから、大丈夫よね!」
「…ええ…大丈夫」
あ、そうだ…
「ちゃんと水着持ってきなさいよ、そのまんま水着で来るんじゃないわよ」
「…わかった」
わかった!?
じゃあ今までやっぱりわかってなかったの!?
まあいいや
「場所と時間はあとで連絡するから、じゃあ…」
「…さよなら」
あのやろう…
先に電話切りやがった


シンジに携帯を返す
「そんなわけで明日、プールに行くから」
「え!だめだよ!学校はどうすんのさ?」
「一日くらい平気よ」
「アスカちゃん…」
「なに?」
「ぐれちゃったの?」

心配そうなシンジ
おかしい!

「い・き・ぬ・き!」

あれ?
シンジがリツコのところへ…

「りっちゃん!アスカちゃんが!」

リツコも苦笑い


明日のプールの準備はシンジに任せた
これくらいから始めればいいかな?

プールの手配はすぐに終わった
本部施設内
訓練施設
まあ、もともと私専用みたいなものだからね
「明日、使います」
それだけ
の、はずだったんだけど…
リツコが電話を引ったくり
「監視は私がするわ」

えぇ!
リツコが!?
水着!?

あ、にらまれた…
ファンネルはどこ?
どこから打ってくるの!?


シンジにリリスと連絡を取らせ明日の集合場所を伝える

これでいいや!
明日は楽しもう!

昼食の準備以外は全部シンジまかせ
がんばんなさいよ…シンジ


晩御飯
私は体調不良だからなぁ〜んにもしない
シンジにかってにさせる

シンジ結構がんばるじゃない
やっぱり男の子ね

全部私がしてあげればすぐ終わっちゃう小さな事だけど
まあいいや

リツコが“風邪薬”をくれた
これでシンジも一安心かな?


お風呂でもシンジが
「背中流してあげる」
だって

随分ご機嫌じゃない?

ん?
どうしたの?
抱きついてきちゃって…
「アスカちゃん…」
「なに?」
「アスカちゃん調子悪いの僕のせいでしょ?」

ちがう…身から出たさび…

「そうよ」
「ごめんね」

シンジが謝る事ないの…

「ゆるさないからね」
「うん」

背中にシンジのほほが当たる
やわらかいなぁ



シンジが用意した明日のプールセット
足りないものは私がこっそり入れといた

私もまだまだかな?


シンジが私の胸の中で寝息をたてる
私も眠い…
今日は久しぶりに夢が見れそう…




私はさっきまでの余韻を楽しんでいた
シンジにいっぱい愛してもらった
シンジが私の頭をなでてくれている
思わず目を細めちゃう

ベッドの周りきたないなぁ…
明日、シンジが学校行ってる間に掃除しよう
ん?
何だろう?
シンジが読み散らかした雑誌の中に…

あぁ、中古車情報誌か

来年の就活で使うっていって
免許取りたてだもんね
車ほしいのかぁ…

「ねえシンジ」
「ん?」
「車買うの?」
「え?あぁ、あれね…なかなか僕の払える額で探してる車がなくて」

ふぅん
そっか
私、シンジの本当の口座にいくら入ってるか秘密にしてるんだよね
だって教えたらすぐ使っちゃうもん
いつも無駄遣いばっかりなんだから

私もエヴァに乗って一生懸命ためた貯金、ほとんど凍結されちゃったし…
やっぱ失敗だったかなぁ〜
亡命みたいなもんだしなぁ〜
ユーロからは目の敵にされちゃってるし
まあ日本に来てから本当に“なんとなく”日本にも口座作って…将来日本にも家でも買おうかなぁ〜みたいに思ってためた分は無事だったけど

あぁもったいないことしたなぁ〜
あの日の前にもうちょっと日本の口座に移しときゃよかった

ネルフからふんだくった分はシンジに内緒でシンジ名義の口座を作ってためてある
シンジには「しみったれてるわねぇ〜シンジあんなにがんばったのに200万しかくれないんだって」って言って騙しておいた

しょうがない…久しぶりにあまやかそうかなぁ

「買ってあげる」
「へぇ?」
まぬけな声
笑っちゃう
「い、いいよ!高いから!」
「高いの?ポルシェ?フェラーリ?ランボルギーニ?コルベット?」
「えぇ!そんなんじゃなくて…トヨタの…」

なんだ、高いって言うからそんなんかと思った

「びゅーんって速いやつ?」
「そんなんじゃなくて…」


次の日曜日にトヨタのディーラーに行き

「これください、赤い色で」

私がシンジのほしい車を指差した
お店の人は“変なのが来た”って思ったみたいだけど

「で、いくら?もって帰れるの?」
っていいながら私がショルダーバッグから札束出したら目の色変えて

もうめんどくさい!
まぁシンジに「旦那様は随分とお若いですね」とか
「こちらのナビはいかかでしょう?」とか「こちらのスポイラーが」とか「やはりサンルーフが」とか「足回りのドレスアップが」とか
シンジはなんだかんだで5時間も車の細かい部品選びに時間かけて
やっと決まって支払いが済んだら
「納車日は大体半月後で…」

はぁ!?
今日持って帰れないの!?
ここトヨタでしょう?!
車も値札張ってそこにおいてあるじゃない!?

ん〜ま、いいか
シンジ嬉しそうだし

いろんなとこつれてってもらおう

「ねえシンジ、いろんなとこつれてってね」
嬉しそうなシンジ
「いいよ!いろんなとこいこう!」

なんだか私も嬉しくなってきた
「じゃあ、そうだ!」



目が覚めた
ふふふ…
いつまでたっても私はシンジのこと甘やかすのか…

シンジは私の胸の中で寝息をたてている
かわいいなぁ…

シンジのためなら何でも出来るきがするよ

うふふ
だいすき



駅で待ち合わせ
なんか変よね
リリス、なんでいつも待ち合わせは駅なんだろう?
本部前とかの方が近いのに


「あ!綾波!こっち!」
シンジがリリスを見つけ手を振る

へぇ!?

でっかいシャチの浮き輪もって…
いったいリリスって…

「綾波さん、悪いけどそれ、いったんしぼませてくれない」
って言ったらにらまれた…
何なのよ!


競泳用だけど、まあなかなかいいプールじゃない
リツコは早速テラスで読書
わざわざ水着で
来た意味あるの?

あ…またリリスが面倒な事しでかしてくれた
ちょっと目を放した隙に男子更衣室に入ろうとしたのよ…
シンジと一緒に

リツコは冗談かなんかだと思ったらしく笑ってたけど
絶対リリスに社会適合なんて無理ね

「ねえ!気持ちいいよ!一緒に泳ごうよ!」
一足先にプールに飛び込んだシンジが楽しそうに手を振る
よーし!じゃあ私も!

ん?

リリスがビックリしてる

「ねえ、綾波さん?どうしたの?」
リリスはポカーンとシンジを見つめながら
「かあさんびっくり、シンジおよげるようになった」

あぁ…小さいころはかなづちだったのねきっと…

「よく私とプールで遊んでたから、けっこうシンジ泳ぐのすきなのよ」
ビックリ顔のまま私を見つめるリリス
「碇くん、およげるの?」
「ええ、私が教えたもん」

え?

リリスに頭なでられちゃった
「しんじのおともだちいいこ、かあさんうれしい」

「なにやってんの?」
不思議そうにこっちをみてるシンジ

もう!
「ちょっとやめてよ!はずかしい!」
リリスは笑顔で
「しんじのおともだちてれやさん」

ほんとにもう!


持ってきたお弁当を食べ終わるとリツコはまた読書
ほんとに何しに来たの?

シンジは一休みのはずだったんだけど…
はしゃぎ疲れて寝ちゃった
そっとしておこう

リリスはプールに腰掛けて足をパチャパチャやってる
そうだ
シンジの赤ちゃんのときのこと聞いてみよう

「ねえ、綾波さん」
横に腰掛けて私も足で水面を蹴る
「…なに」
「昔の話してよ」
シンジの…ってつもりで聞いたんだけど…
なんか、自分が創造主から生まれたあたりから始まって…
うわー興味深いけど…ながそうだなぁ〜

「そしてこの星にたどり着いた…でも」
「でも?」
結構聞きいちゃってるわたし
「もうこの星には先にアダムがいたの」
アダム?…最初の使徒ってやつよね…
たしか南極で眠りについているところを発見されて、解体して研究材料にされちゃったのよね
「あのひとはこの星で最初の生命をつくった…それが使徒」

え!

「その使徒に私は生命の実を与えた…この星が生命で満ちるように」

なにそれ!
そんなのしらない…
あんたが使徒の親玉じゃなかったの!?

「ねえ綾波さん」
「…なに?」
「その話…今まで誰かにした?」

リリスは首を横に振る

「はじめて」

うわぁ〜
人類の起源を最初に聞いたのは女子中学生…
誰も信じないわね…

「ねえ、あなたが使徒を作ったんじゃないの?」

また首を振る

「作ったのはかれ…私は生命の実を与えた」

へ〜

ん?
ちょっと待って?
じゃあ、使徒とリリスが接触しても大丈夫なんじゃないの?

リリスは続きを語りはじめる
「でも生命を手に入れたあの子達は自分以外を拒絶した…星は生命で満ちなかった」

アダムの計画は失敗したのね

「悲しんだ彼は眠りについたの…あの子達と一緒に」

はぁ…で、私たちが見つけたアダムをさばいちゃって…使徒が眠りから覚めたってわけね
で、使途の活動が本格的になる前に焦って用意したのが私とエヴァ…

なによ…実から出たさびじゃない

「だから私は自分で生命を作ってみた…自分ににせて」

私たちだ

「最後に残った実に知恵を授けてあなた達に与えたの」

限りある命…その代償として手に入れたのが知恵か…

「あなたたちはお互いを傷つけたり受け入れたりしながらこの星に満ちた」

人類の繁栄って奴ね

「だから私は…」



うわぁ!

バシャーン!

私とリリスはプールに突き落とされた

「あははははははははは!びくりした?」
いつの間にか起きたシンジが私たちにいたずら!
まったく!

「こら!シンジ!」

シンジもプールに引っ張り込む

「あばばばばばば!ごめんなさい!アスカちゃん!やめて!おぼれちゃう!」

もう!

リリスがすーっと近づいてきて
シンジの頭を“ぺん”ってはたく
「いたずらっこ、かあさんおこった」

ははは!
何回も頭ぺんぺんされてる
おもしろい!


シンジはシャチの浮き輪に乗っかって楽しんでる
リツコはシエスタ

私はこっそりリリスに話しかけた
「ねえ、何で使徒はあなたを狙うの?」
相変わらず足で水面をパチャパチャやってるリリス
「…拒絶されたの…私も…あなたたちも」
「だから殺しに来るの?」
「ちがう…全てを拒むため…自分自身も…」
「ふぅん」
じゃあやっぱり倒さなきゃ
「無に帰るため…」
目覚めた世界は別の生き物で溢れていた、だから使徒は世界を滅ぼす…か

反抗期みたいなもんか…迷惑な話

反抗期?

そっか!
シンジ反抗期なのか!

あはは!

世のお母様方と同じ苦労してるんだ!わたし!

なんだか楽しい!




「あなたたちが次に出会う使徒は…昔のあなた…」

へ?

なに?突然?

「全てを拒絶して周りを傷つける…」

なんのこと?
私、使徒だったっけ?

リリスがとても悲しそうな目でシンジを見ている



リリスとは、やっぱり駅で別れた
シンジが小さな声で
「またね…かあさん」

リリスはとても嬉しそうだった

私は聞こえないふりをした…

シンジにはわかるんだろう…
難しい事なんかわからなくても
リリスが使徒だってことなんかわからなくても

よかったね
シンジ…




シンジの短い反抗期は終わった

シンジが自分の思いを伝えようとすればするほど私を傷つける

「アスカちゃんが病気になってわかった…僕、きっとずっとアスカちゃんに守られていくんだ」

ばか…私はシンジがほしいの…大切なシンジ…

「僕がどんな意地悪してもアスカちゃんは一生懸命僕の事いろいろしてくれた…」

自分の小さなプライド…自我を守ることが人を傷つける事だってわかってくれた
でもそれは私も一緒…

「いいよ…きにしない…だからシンジ」
「なに?」

「ずっとわたしをささえて…いまは難しいけど…大人になったら…」

「…うん」

「おやすみ」
「おやすみなさい」

シンジは私の胸の中で眠りに落ちた


私も穏やかな気持ちで眠りに落ちる
おやすみシンジ
ずっと一緒にいましょう
ずっと…




赤いワンボックスカー
シンジ曰く「赤じゃなくてレッドマイカ!」

初めてのドライブ

なんでシンジが赤い色にしたか…
シンジは「いいじゃないか…別に」しかいわないけど

昔のエヴァの色
シンジのヒロイン“アスカちゃん”の色

高台の上から町の夜景を二人で眺める

何でワンボックスカーにしたのか

めったにそろわないけど
家族みんなでお出かけしたいんだ…きっと
だってシンジはやさしいんだもん

きっとそう


「きれいだから写真とろっかなぁ〜」
私が携帯を取り出して夜景を写す
「う〜んうまくいかないわねぇ」
何回撮ってもぶれちゃう

ぎゅ

シンジがわたしを抱きしめる
「これでぶれないよ」
「うん」
そのままシンジに寄りかかる

写真の事は忘れちゃった
だってシンジとの思い出のほうが大切だもん



目が覚める
先に起きていたシンジが私のことを見つめていた
「おはよう」
「うん…おはよう」


少しだけ大人になったシンジとわたし

3日もしたら全部今まで通り
ちょっとシンジが変わっただけ

シンジの変化には誰も気づかない


私だけが知っているシンジの成長





「自衛隊の式典!?なんで私が?!」

「はい」
ミサトが朝日新聞のマークみたいなのが書いてある封筒を渡してきた
表には大きな字で
“赤いエヴァンゲリオンのパイロット様”

「ご指名よ…いいじゃない組織同士の今後のためにも」
はぁ…めんどくさい
それに
「一応、私中学生なんだけど」
「一日くらい大丈夫よ」
まったく…


家に帰るとネルフの礼服が届けられていた
はぁ…
用意のいいこって…

シンジは羨ましそうに
「いいなぁ、ねえアスカちゃん、戦車の写真とか撮ってきてよ!」

変わってほしいくらい
ほんとめんどくさい

考えてみると私がこの町を出るのって初めてなんだ…
私は要塞都市の外に出る事は禁止されてる

ふう…

息抜きだとおもえばいいか


「シンジ、お土産買ってきてあげるよ」
「うん!ねえ!アスカちゃん!」
え?
「なに?」
ものすごく嬉しそうなシンジが
「自衛隊にさ“とりゅう”ってエヴァくらいのロボットがあるからさ、絶対写真にとって来て!」

はぁ…
男の子って…

「JAって奴でしょ?かっこ悪かったわよ?」
「アスカちゃんみた事あるの!?」
「うん…」
「いいなぁ〜」

ほんとに男の子って…




リツコとミサトと私
その他大勢で自衛隊駐屯地へ

しかしセンスないわねこの礼服

自衛隊の基地に入ると私とミサトだけ別室に通される
中には女の人が一人
ミサトの表情が硬い

女の人が私に笑顔で手を差し出しながら
「こんにちはラングレーさん」

「…こんにちは」
なんか戸惑っちゃう

「ミサトも…久しぶり」

へ?
知り合い?
ミサトは硬い表情のまま

自衛隊のお姉さんとミサトをかわるがわる見ちゃった

「ごめんなさい、ラングレーさん、私たち同期入隊だったの」

ん?なんか聞いたことあるような…

お姉さんに手を握られる
「この間はありがとう…おかげで生きて子供のところに帰れたわ」

……んん?
「あ!」
おもわず声に出しちゃった

おねえさんは敬礼をすると
「自分は14式機動兵器搭乗員、加持三佐です!」




ミサトはほとんど何もしゃべらなかった
理由は加持さんがしゃべってくれた

「私がミサトの彼を奪っちゃって、それ以来口も聞いてくれないの」

だって
結構乙女なのねミサトって

それと
「ミサトってね、元は私たちがネルフに送り込んだ潜入工作員だったのよ」

…そんな話私にされても
正直どう反応していいやら



式典自体はとても壮大だった
ただ…参ったのが
私が席に着こうとすると…
軍楽隊が演奏をはじめ
参列している隊員たちが
「我らが戦友!エヴァンゲリオンパイロットに捧筒!」
ってはじめちゃって

写真どころじゃなくなっちゃった

演奏が終わると記念に演奏していた楽譜を渡された
タイトルは

「赤い天使」



式典はJA6機のお披露目で幕を閉じた
リツコ曰く
「あれ全部よりエヴァのほうがはるかにお金かかってるのよ」
だって


シンジに頼まれたJAの写真を撮ろうと思って
私には全部一緒に見えちゃうから
自衛隊の人に「とりゅうってどれですか?」
って聞いたら
なんか勘違いされたらしく
JAをバックに記念撮影する羽目になちゃった



帰宅途中
使徒が襲来した
いくら飛行機でもここから本部までは結構かかる

滑り込むようにたどり着いた本部周辺は瓦礫の山になっていた
なんて奴

信じられない光景が
私達が本部に到着するのと同時に
初号機がせり出してきた

ミサトがすごい勢いで通信機に向かい怒鳴りつける
「誰が指示したの!私の到着まで待つように言ったはずよ!大体ダミーで…え…」

ミサトが私とリツコをみる

「本当なの?…わかったわ…アスカ、緊急ルートじゃなく非常ルートからエヴァへ向かって!リツコは私と一緒に大至急指揮所へ」

非常ルート!?
確か最短でエヴァに…
まさか!

「指令の指示でシンジ君が出撃したわ…みたでしょう瓦礫の山…シンジ君じゃお話になんないわ…いそいで!」

上着をその場に脱ぎ捨て走り出した

非常コードを入力しつつ動きづらいタイトスカートを下ろす
くぐもったような爆発音が連続して聞こえる
非常ルートが開く音

エヴァのハンガーに着くと緊急用のプラグスーツに袖を通す
一応、試着室みたいな小部屋になってはいるけど扉を閉めるのももどかしく
緊急起動に取り掛かるスタッフからは私の着替えが丸見えだ

ハンガー内のスピーカーからミサトの声が響く
「アスカ!いそいで!シンジ君が!」

走るのももどかしい!

轟音が響く

エヴァが拘束をぶち壊し、私の前に手を差し伸べていた
「ありがとう!ママ!」

エヴァの腕を駆け上りプラグに最短でたどり着く

出撃手順を全てすっ飛ばし射出される

そして目に飛び込んできたものは




片手を失い…

片足を引きちぎられ…

わき腹をえぐられ内蔵をぶちまけ…

頭を4分の1くらい吹き飛ばされ…

両胸を鋭い使徒の手で貫かれ逃げる事も出来ず…

何度も使徒の閃光を浴び次々と前面装甲ごと生体部品をふきとばされ…

それでも使徒に抗おうとするシンジの姿だった


使徒はわたしを見つけると初号機を放り捨てるように投げてよこした
まるで猫がネズミをいたぶり勝ち誇るように

初号機が私の目の前にたたきつけられる
それでも、何とか起き上がり使徒に向かおうとする初号機
残った腕で使徒に掴みかかろうとする

初号機の腕が手のひらからひじの辺りまで真っ二つに引き裂かれた
シンジの絶叫が聞こえる

ミサトやリツコも、さっきからわあわあ騒いでいる

私はとても冷静だ
どうやら人間は怒りを通り越すと冷静になるみたい

まず、こいつを殺そう…思いっきり時間をかけて…出来るだけ苦しませて…
その次はあのひげ親父だ…

私は初号機の前に出るとかがみこむように覗き込んだ
「大丈夫?シンジ…もう痛くないからね…私が来たからもう大丈夫よ…」
やさしく何度も語りかける

うるさいなぁ

使徒がエヴァの背中を何度もふんどしみたいな両手で突いてくる
火花が散る

使徒の閃光を背中に受けエヴァがつんのめる
「あっ…」

初号機が…シンジが、引き裂かれた腕でわたしを…エヴァを倒れないように支えてくれた

ばか…ささえてって…そういう意味じゃないの…
ほんとにバカなんだから…

私のエヴァはいつの間にか拘束具を吹き飛ばし、口をいやらしく開き、雄たけびを上げていた

エヴァの雄たけびを聞いた使徒は一瞬おびえたように見えた

そうよ…私があなたたち使途の天敵…リリスの化身…エヴァンゲリオンよ!

使徒に向かい歩み寄る

使徒のふんどしみたいな腕はむなしく私のフィールドに阻まれる
いい気味だ
そのままフィールドごと使徒にたたきつける
ははは!
なんて無様!

使徒の閃光がわたしを襲う
襲う?
冗談!
扇風機のほうがまだ感じるわ

エヴァの4つの目が光る
使徒が体に4つのあなを穿ち、何か内臓みたいな物をぶちまけながらが吹き飛びのたうつ

おまえもだ!
本部もにらみつけ、趣味の悪いピラミッドみたいな構造物も吹き飛ばしてやった
碇ゲンドウ!
こんなもんじゃ済まさないわよ!

使徒に向き直ると両腕にナイフを握る

おびえた使徒が
無駄なのに…ふんどしみたいな腕で突いてきた
私のフィールドに触れるとあさっての方向に弾き飛ばされる

あ…

はじいた先に初号機が…
シンジに刺さる…

しまった…


え?
初号機の前にフィールドが展開され、使徒の腕をはじく

初号機の前には

リリス…

ついにリリスはその姿を使徒の前にさらした
かわいいわが子を守るために


でも、残念だったわね…せっかくリリスが現れても…

私になぶり殺されるんだから!!!

使徒に飛びつくと十文字にナイフで奴の腹を切り裂く
蹴り倒し馬乗りになる

さあ…このクソガキ…お楽しみの始まりだ…
あんたが私の大切なシンジにしたことのお返しだ!

使徒を押さえつけるとナイフで少しずつ切り刻む
慎重に
コアをきづつけない用に…
引き裂き
そぎ落とし
くりぬき
引きちぎる

奴も何度か抵抗してきたけど
はは
あんたとは年季がちがうのよ!


昨日今日目覚めたガキとあんた等をぶち殺す事だけを何年も叩き込まれてきた私とじゃ!


いつの間にか使徒は絶命していた
コアも光を失っていた

でも、まだ足りない

私に生きたまま解剖され随分小さくなっちゃった使徒を、本部の残骸にたたきつける

さあ次はひげオヤジの番だ…

碇ゲンドウの居る本部へ向かう

ミサト?
「どうしたのアスカ!?もういいわ!終わったのよ!」
なんか言ってる…

しらないわよ
私はまだシンジの敵を討ってないのよ?
もう一人!



え?

エヴァの…私の目の前にリリス…

視界が真っ暗になる…






「おめでとうございます」
お医者さんが笑顔で
「おめでたです」

私は走り出したいような気持ちを抑えて帰宅した
だってそうでしょう?
お腹の子に何かあったら
ふふ
なぁ〜んてね!

「ただいまぁ」
シンジはいつもの時間に帰ってきた
安月給だけど残業はほとんどない
まあ、そこが魅力の仕事

何も言わずにシンジの前に立つ
どうしても笑顔がこぼれる

「どうしたの?アスカ」

不思議そうなシンジ

シンジの手をとりそっと私のおなかに当てる

「赤ちゃん…できたって」

さらっと言ってやった

ビックリしたような顔のシンジ
でもだんだん笑顔に変わる

「男の子?女の子?どっちだった!?」

もう…ばかねぇ

「まだわからないわよ、」

シンジは私のお腹に両手を当てる
「動くかな?」

ほんとにばかねぇ
笑っちゃう
「まだに決まってるでしょう」

「そっか」

シンジが私のお腹にそーっと抱きつく
まるで宝物みたいに

「ねえシンジ」

シンジは私のお腹を抱きしめたまま
「なに?」

「私…仕事しばらく休む」

「うん」

「私、ママになる」

「うん」

しばらくシンジは私に抱きついたままだった

「ねえアスカ」
「なに?パパ」
ふふ…ちょっと気が早いのは私も一緒か
「ぱぱか…僕がんばるよ!子供のためにも!」

うん…がんばって
「シンジは安月給なんだから…しっかり稼いでよね?」

ははは…
シンジの照れたような笑い声

うん!私はいま人生の中で一番幸せ!





病室で目をさます

夢の事はすぐに忘れる
私はまだやらなきゃいけない事がある

意識がはっきりするとすぐに司令に呼び出された

更衣室でロッカーの中に置いてあった服に着替える
いくつか小物も…

着替え終わるとまっすぐ指令の元に向かった


指令執務室
いつもより少し遠くに立たされる
「なぜ破壊した」
本部施設の事かしら
「エヴァにあんな力があるなんて知らなかったわ、不可抗力よ」
まあ、本当に知らなかったんだけどね

「そうか…ではなぜリリスを呼び寄せた」
よんだ?私が?
「私じゃありません…シンジの元に行っただけです」

「そうか…まあいい…下がりたまえ」

ふーん
「シンジはどこですか?」
「病室だ…案内させよう」

指令が内線で誰かを呼び出そうとした瞬間
私はスカートを捲り上げ、下着の中に隠していた拳銃を抜き取ると躊躇なく指令を撃った

指令の眼前で銃弾が弾かれ火花が散る
防弾ガラス…
なるほど…それで今日は…遠くに立たせたのか

「気が済んだか?」
余裕綽綽じゃない

「申し訳ないが君の手にかかってやる訳にはいかない」
指令は内線で人を呼ぶと、何事もなかったみたいにわたしをシンジの元に向かわせた

私の背中に
「シンジを頼む」
声をかけた



シンジはベッドの上で眠っていた
全身に包帯が巻かれている
ほとんどは神経を痛めつけただけだったけど
いくらか体にも影響があったらしい

やっぱりシンジは初号機と強力にシンクロしているんだ…

シンジの胸にそっと手をおく


使徒を足止めするために出撃して…
足止め?
多分ちがう…

シンジは望まれたからエヴァにまた乗っただけ

リリスは子供の悲鳴を聞きつけやってきた


そうか…
予行演習か…
私が最後の使徒を打ち倒した後の

シンジの願いをリリスにかなえさせる
そのための…

仮に、もしあそこで私が現れなければ…
シンジの惨状を目にしたリリスは初号機と融合して、使徒を無へと帰してしまうだろう

そのあとに聞くはず
シンジに
「なにを望むの」


ここまでは私でも想像できる

リリスが初号機を取り込むような状況は…
どうやて作り出すのかしら?

第一シンジの願いなんて
「ずっと皆と」
みたいなことを、シンジのお母さんが望んだようなことを言うに決まってる

わからない…

指令はなにを望んでいるのか…



シンジが目をさました
わたしを見つけると手を伸ばしてきた

シンジの腕を抱きしめる

「写真…とってきたわよ」

シンジが微笑む

「お土産もいっぱいもらってきた」

シンジの口が動く
まだ声は出ないけど
ありがとう…って


さっきリツコに聞いた
今回の怪我は打撲や小さな裂傷がほとんど
一週間もすれば神経も回復して歩けるようになる

大丈夫
すぐに治るわ

ベッドで横になるシンジに自衛隊の式典のお話をしてあげる
楽しそうに聞いているシンジ
かすれる声でわたしを呼んだ
「アスカちゃん…」
「なあに?」

「おしっこ」


シンジを抱き起こして車椅子に乗せてあげる
シンジが私の首筋に顔をうずめ小さな声でつぶやく

アスカちゃんだ…


そうよ…
私よ…

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