いつもと同じ夢
ここより後は何度も見てきた
これが始まりの夢
私が見る未来の始まり


シンジと会いたくない
今は絶対にいやだ…
逢ってしまうとシンジを傷つけてしまう

一日だけ
明日になれば
なんてこと無いような顔してまたいつも通りになる
そうだ
きっとそう…

ドアが開く

思いっきり手元にあったカップを投げつける
中身入りのカップが人影に当たる
「誰も入ってこないでって言ってるでしょ!」

顔も上げない
誰とも会いたくない

「アスカちゃん…」

息を呑む

「バカ!出てけ!」

手当たり次第に周りのものを投げつける

お願い…出て行って…
私に近づかないで…
もうシンジを傷つけたくない

泣くのは私一人でいい

「アスカちゃん」

「いや…出て行って」

すぐそばにシンジの気配を感じる

「僕はなんとも思ってない…」
うそだ…
そんなはず無い
「アスカちゃんが一生懸命がんばってるの、いちばん近くで見てきたんだ」
シンジが隣に座る
私は小さく肩をちじこめる
まっすぐ下を向く
「耳のことだって、アスカちゃんだけが悪いんじゃない」

私が悪い…

シンジが私を抱きしめる

私は体を硬くして抵抗する

「この間の事も、僕もいけないんだ。もっとアスカちゃんのこと考えなかった僕もいけないんだ」

涙があふれてくる
どんなに我慢しても嗚咽がもれてしまう
だめ…
これでまたシンジを傷つけてしまう

まっすぐ前を見る
壁をにらみつける
絶対にシンジを見ちゃだめ
どんなに涙があふれても
どんなに泣き声を我慢するのが苦しくても
絶対にだめ…

強く抱き寄せられる
それでも前しか見ない
壁しか見ない
泣き顔になっても
絶対に声を出さない

シンジが私のLCLに濡れたの髪の中に顔をうずめる
「僕だって自分の弱さを優しさだって履き違えてた。だから、どんなに孤独がアスカちゃんを縛り付けても、どんなにアスカちゃんの心が傷だらけになっても…僕はずっとアスカちゃんに一緒にいてほしい」

ずっと…ずっと…

何度も繰り返すシンジ

声を上げて泣いた
天井を見上げ泣いた
大きな声で泣いた
シンジの胸で泣いた

何度も何度も泣いた
その度にシンジがつぶやく

「ずっと一緒にいよう」

悲しみは涙と一緒に流れて行った

強がる私は泣き声と一緒に飛んで行った

後には私だけが残った

私の心は傷だらけだ
私が孤独だってこともわかってる

でもシンジはずっと一緒だった
これからもずっと一緒だ
生まれ変わっても一緒だ
私たちは解り合える
心も何もかも
お互いに足りない部分を補おう
それでも埋まらないところは
それでいい

瞳からしあわせがあふれてきた


瞳いっぱいのしあわせで世界がゆれる
シンジの手を引き立ち上がる
思いっきりシンジの胸に飛び込む
シンジがやさしく受け入れてくれる
瞳からしあわせが止まらない



真っ赤に目を腫らした私は
真っ赤なプラグスーツを脱ぎ捨てる
元気に着替えるとシンジの手を引き部屋を出る

心配そうな顔で何か言葉をかけようとするミサト

まるで自分が悪いみたいにうつむき目をそらすリツコ

思いっきり息を吸い込む
「どいたどいた!アスカ様のお通りよ!」
泣きはらした声で
周りを蹴散らし
シンジの手を引き家路に着く
唖然とするミサトとリツコを後ろに残して

その夜
私たちは結ばれ
私は
「アスカちゃん」から
「アスカ」に生まれ変わる




目が覚めた
幸せな気分だ
とても悲しい夢なのに
大好きな夢
「アスカちゃん」がみる
「アスカ」の夢

もう、そう遠くは無い
シンジも私も夢の中の私たちと変わらない
きっと私たちはもうすぐ結ばれる
すごく悲しいことの後に

今日は早起きしなくてもいい
珍しくリツコがお弁当を作ってくれるらしい
夕べから下ごしらえに取り掛かっている
もう起きているみたい
台所から音が聞こえる
「純日本風お弁当」
だそうだ
おすしとてんぷらでも入れるのかしら?

シンジの目がうっすらと開く
「まだ早いわ…もう少し寝てなさい」
うん…
寝ぼけてるんだろう
小さくつぶやくとまぶたを閉じ私の胸に顔をうずめる

くすぐったい

あれ?
何で胸、はだけてるんだろう?
寝巻き代わりのキャミはどこに行っちゃたんだろう?

どうでもいいか…

…くわえるかな?

眠るシンジの口元に乳首を当ててみる

んなわけないか…

やさしく抱きしめた



「そろそろおきなさい」
リツコの声で目が覚める
二度寝しちゃった

んん?
あは
かわいい
くわえてる

そっと乳房をシンジの口元から離す

静かにベッドから立ち上がると脱ぎ捨ててあったキャミに袖を通す

大きく息を吸って
シンジの耳元で
「起きろォーーーーーー!」

ほら
飛び起きた

ビックリしてきょろきょろ周り見回してる

「ママのオッパイの夢はどうだった?」
ビックリ顔のシンジ
「えぇ!なんで!………もない」

さあ顔洗ってこよー
後ろからシンジの不満そうなつぶやきが聞こえる

「もう、アスカちゃんってホンとに…また耳が聞こえなくなったらどうすんのさ…」

また?
耳が?
何のことだろう
そんなの知らないけど
何だろう?
私のところに来る前のことね、きっと



「もう10年ぶりくらいに頑張っちゃったわ」
リツコが自慢げに胸を張る
「10年前?…弥生時代?」
あ…にらまれちゃった
ふぅん、わざわざお弁当箱まで用意してくれたんだ
「誰に作ってあげたの?父さん?」
シンジが楽しそうに聞いてくる
「残念、付き合ってた人」
とっても楽しそうなリツコ

付き合ってる人がいたけど今は三十路未婚
ふむふむ

一人納得していると
ジロってにらまれちゃった

リツコってエスパー?ニュータイプ?

シンジとお弁当を覗き込む
「「わぁ」」
とってもかわいい
シンジが携帯でシャメってる
「二人ともお箸苦手でしょ、フォークでも食べやすくしてあるから」
シンジがうれしそう
「ねえりっちゃん、この小さい丸い赤いのとか黒いのとか何?」
「俵結び、赤いのや黄色いのはふりかけ、黒いのは海苔」
うれしそうにシンジに説明してる
とりあえず、おすしとてんぷらは入っていないみたい

あ、シンジがいつも携帯いじってシャメってるのには訳がある
シンジはドイツのママに毎日メールしている
シンジも私もあのひとと血の繫がりがあるわけじゃないんだけど
特にシンジはママに可愛がられてた
「ねえシンジ君、アスカの事お嫁さんにしなさい。そうしたらこのお家もおじさんもおばさんも全部シンジ君のものよ」
いつも口にしていたママの冗談
やっぱり男の子のほうが可愛いんだな、女って
この間も、たった二日、入院とかで連絡が無かっただけで心配して電話かけてきた


リツコはお弁当頑張りすぎちゃって朝ごはんはお弁当の残り
お弁当の試食会
私やシンジが一々「これ何?」って聞くたびに嬉しそうに答えてくれた
仕舞にはシンジが「今度僕が作ろうかな」だって
リツコは喜んでるけど
悪いけど絶対阻止する
だって…
シンジの料理って
消し炭みたいなハンバーグとか
シンジの好物だけ挟んだ奇抜なサンドイッチとか
ろくな思い出が無いわ


いつもの時間に
いつもの三人がやってきた

いつもと同じ朝
あれ?
リツコがこっちみてる
「なに?何か付いてる?」
「ん?アスカ楽しそうね、よかった」
そおかなあ?
朝から騒がしくて迷惑なくらいだけど
「さぁ早く用意なさい、遅刻するわよ」


全員の荷物を持ちフラフラの鈴原
ことの始まりは
靴の中に小石が入ったシンジが、靴を脱ぐのに、私がかばんを持ってあげた
それをみた鈴原が「かぁ〜情けない、女に荷物もたすんか、先生は」
だから私が「はい」って鈴原に私たちのかばんを差し出した
「ほら、ヒカリも渡しちゃいなさい。鈴原が持ってくれるって!」
「えぇ、でも…」
ヒカリったら何かもじもじしちゃって
「よこさんかい!」
鈴原がヒカリのかばんをひったくる
「さっすがー」
いししし!

学校に着くとぐったりの鈴原
「セバスチャンご苦労」
シンジと私のかばんをひったくる
「この鬼女!」
「なにー!」

また直にクラスの子達に囲まれて
「ねえ、許婚だとやっぱり将来はシンジ・ラングレーになるの?」
とか
小声で「男の子と一緒に寝るのってどんな感じ?」
とか
さわがしい
でも悪くない
ところで、私のプライベートが筒抜けなのは
優秀な洞木記者の活躍のようだわ
まったく…


お昼休み
楽しいひと時
ちょっと気になってたことがあって、ヒカリに聞いてみた
「ホームパーティー!?」
「ええ、しないの?日本て?」
「お誕生会ならするけど…」
「ふーん」
そういえば、突然14歳になちゃったシンジのお誕生パーティーもやらなきゃ
よし!決めた!
「じゃあ今度うちでパーティーしましょう!シンジのお誕生会も一緒に!」
パーって顔つきになるヒカリ!
「ねえアスカ!妹も連れてっていい?」
「いいわよ?」
「ありがとう!きっと喜ぶわ!なんたって本物のアスカに会えるんだから!」
…ろくでも無い事吹き込んでんのね…きっと
「あんたたちも来るんでしょう?」
シンジたちは三人でマンガを読んでる
「なんや?」
「シンジのお誕生会!」
へぇ?って顔のシンジ
そりゃそうね
ぜんぜん今月じゃないもんね
「シンジがつい最近14歳になったの、そうよね!シンジ」
「え?あ…うん」
「ほーそうか、ほんじゃあパーとやったるわい!」
いそいそとやって来るシンジ
「アスカちゃんいいよ、この間ドイツでやったばっかりじゃないか…」
ちなみにドイツにいるときに毎年やっていたシンジの誕生パーティーも、全然シンジの誕生日とは関係ない
シンジのことをよく聞きもせず預かってしまったパパ、しかもパパは日本語なんてさっぱり
だからシンジに一生懸命誕生日を聞いてもシンジは「?」って顔で私に聞いてくる
「おじさんはなんていってるの?」
しかもそのころは、まだ、私も御婆ちゃんに教えてもらった片言の日本語しかできないから
「シンジ、シンジ、いつうまれた?」
インディアンみたいに聞くだけ
シンジも
「わかんない…」
私が何言っているのか分からなかったんだと思う
それをパパに伝えると
「わかった!じゃあ今日にしよう!」

なつかしいなぁ
「いいじゃない、いきなり14歳って言われても私が納得できないわよ」
「うぅ〜ん」

とにかく妹以外は連れて来ないようにヒカリに釘をさす

鈴原にも妹がいる
妹は連れてこないそうだ
「ええわ、シンジとは家に見舞いに来てもろた時にあっとるし」

おどろいた、シンジいつの間に
多分私がエヴァのテストを受けてるときだろうけど…

相田も来るそうだ
多分リツコ目当てね



放課後、私とシンジは駅に向かう
本部に向かうために
本当はシンジだけ先に返してもいいんだけど、今度は私の知らないうちにヒカリの家でも遊びに行くかもしれないし…
それに、なんでだか知らないけどクラスの女子に「可愛い」だの「いかりくぅ〜ん」だの言われちゃって…
もう!
何かいらいらする!
今日なんかお昼休みの帰り、下級生から「読んで下さい!」っていわれながら可愛い封筒なんかもらっちゃてたし…
シンジものんきに「ラブレターかな」なんて照れてるし

そんなこと考えているうちに駅に着き、電車に乗り込んだ
席に座ると
シンジが「ちょっといいかな?」って言いながら今日もらったラブレターを取り出した
隣からのぞき込む
ふむふむ…碇先輩に憧れています、婚約者がいるのはもちろんわかっています…お願いします、今度私とデートしてください

はぁ〜ん
物好きもいるもんね

ははは…どうしよっかな
わざとらしく聞いてくるシンジ
前にも一回こんなことがあった
だからシンジがどうするかはわかってる

「返事…してあげなさいよ」

「うん…」
わかってる
そんなこと言いたげな顔でつぶやいた

シンジは絶対に私を裏切るようなことはしない
私は少し、シンジを縛り付けすぎかもしれない
いつか私が呪縛から解き放たれるまでは
シンジも私の呪縛に縛られ…
さみしいのかな…わたし…



シンジは“偶然”通りかかったリツコが預かってくれた
テストが終わる
結果は上々

帰りは三人で送迎車に乗りこむ
「ねえリツコ」
「パーティーのこと?」
シンジから聞いてたんだ
「いいでしょう?」
「いいわよ別に、楽しそうだし」
なんか素っ気ない
まいっか
「で?いつやりたいの?」
う〜ん
「今度の休みっていつだっけ?」
もちろんエヴァのテストのこと
「今週は土曜日ね」
よし!
「きまり!土曜日」
私はすぐにヒカリにメールを送る
シンジも鈴原たちに

リツコが突然
「ねえアスカ」
「んん?」
「私も一人、友人呼んでいい?」
いいけど?なにかしら?
あ!
男だ!
そうに決まってる!


明日からパーティーの準備だ
って言っても準備するのは、ほとんどリツコとシンジ
私は土曜日まで毎日エヴァのテスト
本当は丸一日かけてやるようなエヴァのテストなんだけど
私をちゃんと学校に行かせるためにテストの方を小分けにしてくれた
ありがと、リツコ
「その方がシンジ君も喜ぶわ」
ありがとう


いざ決まるとシンジもリツコも、もう張り切りっぱなし
でっかいケーキとバウムクーヘンも注文するらしい
うん、たのしみ!



翌日学校の休み時間
ついていってあげようか?
そういったんだけど
シンジは一人で例の下級生のところに向かった


なぜか、お弁当をその子と一緒に食べることになってしまった
シンジはちょっとはなれたところで鈴原たちとはしゃいでる

「すみませんでした…」
ちょっと視線を落として、シンジにふられた挙句に同情までされる…たまんないんだろうな…
「いいわよ、別に。ねえ、霧島さんだっけ?」
「はい」
「私が聞くのもなんだけど…シンジのどこが…」
「憧れちゃったんです」
「そう…」
「いつもラングレー先輩のこと、そっと守ってるところとか、とても男らしくて」
「ふぅん」
守ってる…か
違うと思う
シンジはきっと
我慢してる…んだとおもう

「ねえ霧島さん」
「はい」
「土曜日暇?」
「え?はい、多分」
「シンジの誕生パーティーなの、いらっしゃいよ」
何でこんなこと言うんだろう…私
「いいんですか?」
何してんだろう…私
「別に何も持ってこなくていいから、ね、いらっしゃい」
思いっきり作り笑いしてみせる
「私とシンジがラブラブなとこみせたげる!それで諦めなさい!」
ちょっとほぐれたみたい
「はい!お邪魔します!」

学校に通うようになってからの私は
まるで…


下校途中シンジが嬉しそうに
「アスカちゃんかわったね」
なにが?
「明るくなった」
そう?
「それに優しくなった、うれしいなぁ」

握った手をぎゅってする

ん?
じゃあ今まで優しく無かったってこと?
もう!
「いたい!ちょ!やめてよ!」
思いっきりシンジの手首の間接決めてやった!
何かスッキリ!


あっという間に土曜日が来た
学校にエヴァのテストに追われているから、あっという間に一日が過ぎてしまう

本当は学校が楽しいだけ…

結局料理はほとんどリツコがこしらえた
「シンジ君卵割って」って言われて、包丁で玉子叩き割ろうとするシンジを見れば
まあ気づくわよね…
結局シンジが作ったって言うか…ほとんどリツコが作ったんだけど…チキンフライじゃなくて
えーっと「竜田揚げ」だけ
しかもちょっと焦げてる
ま、食べれそうだからよし!

三人ともちょっとおめかし

鈴原と相田がやってきた
しばらくして霧島さんも
ヒカリは時間ぴったりに妹を連れてやってきた

「あれ?リツコの「お友達」は」
もう始まるのに
「ん?あぁ、少し遅れてくるから。はじめちゃいましょう」


まず私がゲストの皆様に挨拶
「皆さん、私たちのホームパーティーへようこそ。ついでにシンジのバースデーパーティーにもね☆」
「はよくわせろや」
「うるさいわねーまったく…じゃあ乾杯!」

パーティーは何回も経験したけど
楽しい、こんなの初めて

ヒカリの妹が私に挨拶してきた
「洞木コダマです!」
「アスカ・ラングレーよ、よろしくコダマちゃん」
嬉しそうに笑ってる
「ねえ!おねえちゃん正義のみかたなんでしょ!?地球を守る正義のお姫様なんでしょ!」
たはは…ヒカリ以上にめをキラキラさせて…
しょうがないなあ
「そうよ、でも、そのことは皆には内緒よ?」
「うん!」

今度はシンジのほうに走っていった
「お兄さんはお姫様のこいびとなんでしょう!?」
素敵に笑ってみせるシンジ
「そうだよ」
嬉しそうなコダマちゃん
「じゃあロボットみせて!」
「え?!」
「お姫様とちゅーするとこのあいだのロボット出てくるんでしょ!?」
完全に困った笑顔のシンジ
「ヒカリお姉ちゃんがいってた『二人の愛が太古の眠りから正義の戦士を呼び覚ましたのよ』って!」
はやくはやく!ってもう待ちきれない様子のコダマちゃん
しょうがない…
「コダマちゃん、あのロボットはねぇ本当に地球のピンチの時しか現れないのよ」
えぇ〜な顔になっちゃった
「ざんねん…でもお姫様にあえたからいいや!髪の毛とかマンガに出てくるお姫様みたい!」

ようやくヒカリがコダマちゃんをたしなめてくれる
「ほら、コダマ、お兄ちゃんにプレゼント有るんでしょ!?」
あ!そうだ!
可愛い声をあげ、プレゼントをシンジに渡す
嬉しそうなシンジ
「ありがとう、なんだろう結構重たいな…あけていい?」
元気に「うん!」
シンジは丁寧にラッピングをあけ、笑顔が引きつる
出てきたのは
「かなづち?」
満面の笑顔のコダマちゃん
「それでね!悪いやつやっつけるの☆」
「あ…ありがとう、大切にするよ」
もう、なんて表現したらいいのかわからない笑顔でシンジはコダマちゃんの頭を撫でてあげた
思わず笑っちゃった
リツコも、肩を震わして笑ってる
皆にも笑いが伝染していく
なんだか知らないけど一緒に笑うコダマちゃん

ああ楽しい!

皆がシンジにプレゼントを渡す
最後に霧島さんが
先輩…あの…これ…

私はそっぽを向いてあげる
適当に料理に手を伸ばしながら

何か、いまいちな味ねぇ…
あれ?
私…この味知ってる…
いまいち…
………
これなんだ
シンジが覚える料理って…
私や…この先…いつか生まれてくる私たちの子供たちに作ってくれる料理って
そっか…


「ありがとう、大切にする」
「ありがとうございます!」
あぁ〜あ霧島さん、目うるうるさせちゃって
シンジってまったく…
はぁ…


みんな渡し終ったわね
よし

「シンジ!」
とても楽しそうなシンジ
「なに?アスカちゃん」
私はぞんざいにポケットに左手を突っ込むと中に入っていたものをつまみ出す
「プレゼント」
できるだけぶっきらぼうに聞こえるように
霧島さんのシンジへの気持ちが変わらないように

なにかっこつけてるんだろう?…わたし

「あんたなんかシンジに近寄らないで!」
って言えばいいだけなのに…

テーブルにひじをつき、なるべく憮然とした表情で
左手の上に乗せた腕時計

「ありがとう」
微笑むシンジ
受け取ろうとしたとき、チョッとだけ手首を動かす
気づきなさいよ
私の左手の時計に

一瞬、受け取ろうとしたシンジの手が止まる

私の左手の時計をなでる
みんなに気づかれないように

「ありがとう、アスカちゃん。大切にする」
私の手のひらを撫でるように時計を受け取る

ペアウォッチなんてガラじゃないかな


みんなで食事を楽しんでいると
ピンポーン
インターフォンが鳴る

ついにリツコの「お友達」の登場!
どんな男なんだろう?!
たのしみ!

玄関に迎えに行くリツコ
「さあがって」
「遅れてごめんね〜」

え?

この声

なんで?

「紹介するわ、葛城ミサト。私の友人」

鈴原の「おぉ〜」って声

シンジの顔から笑みが消える

多分、わたしも…

何考えてんのリツコ

シンジにツカツカ歩み寄るミサト
シンジの両手を握り締めると
「お誕生日おめでとう、シンジ君」
どうしていいかわからないシンジ

立ち上がって蹴り飛ばしてやろう
そうしようとした時だった

「一度、ちゃんと会ってこの間のこと誤りたかったの…ごめんなさい」

握り締めたシンジの手に、額をすり付ける様に深々と頭をたれた
「え?あ、はい」
混乱したままのシンジ
ミサトは頭を下げたまま
「謝ったから許してもらえるとは思わない、でもこれしか思いつかなくて…ごめんなさい」

困ったかおのままシンジは
「大丈夫です…あなたのこと怖いけど…大丈夫です。もう顔を上げてください」

「ありがとう…シンジ君」

今度は私に向き直る
「アスカ、仲良くやろうとは言わないわ、でもシンジ君のことは謝る。シンジ君をあなたと同じように見てしまったことは恥じているの…自分が無能だって言っているのと一緒だもの」

許す気なんか無い

「用が済んだら出てって」
皆、雰囲気に飲まれて黙り込んでしまっている
「えぇ、そうするわ…そうだ!」
ミサトは脇に抱えていた包みをにこやかにシンジに渡す
「おめでとう!これプレゼント!たのしんでね」

「あ、ありがとうございます」
つい、その場で包装紙をほどくシンジ

って!
ええ!
なによ!
「何なのよ!バカじゃないの!あんたバカ!?」

へぇ?って顔のミサト
思わず赤面する霧島さん
とっさにコダマちゃんの目をふさぐヒカリ
身を乗り出す鈴原と相田
目が釘付けのシンジ
あちゃ〜って顔のリツコ

「何なのよ!このエッチなDVDの束は!あんた頭わいてんの!」
「ちょっと言わせておけば何よ!男の子が喜ぶものって言ったら決まってるでしょう!」
「前から思ってたけどあんた頭おかしいんじゃないの!?常識が無いの!」

シンジからDVDを毟り取るとベランダからばら撒いてやった

「チョッとなにすんのよ!あ〜わかった!アスカ!あんた自分の胸が貧租だからジェラシーなのね!そうでしょう!そうよね!三代さかのぼっても貧租だもんね!」
「バカにすんじゃないわよ!あんたみたいにバカでっかい乳しか能の無い女なんか!どーせオッパイ目当ての男しか寄ってこないんでしょう!」
「なによ!」
にらみつけるミサト
「なによ!」
にらみ帰す私

硬直したままのシンジ
握りこぶしで固唾をのむ霧島さん
わくわく顔で修羅場をたのしむ洞木姉妹
ベランダから下を名残惜しそうに見つめる鈴原と相田

「はいはい、そこまでよ…ほんとに」
リツコが割ってはいる
「せっかくのパーティーなんだから、楽しみましょう?ミサトもアスカも座って」

もう!何か納得いかないし騙された様な気分だけど…シンジも見てるし…ここはすわっとくか


ミサトが席に着くと一同は大盛り上がり
早速ヒカリが
「えぇと…お姉さんはアスカや碇くんといったいどんな関係なんですか?」
もう目がキラキラ
ミサトは自分で持ってきたビールを一気にあおると
「じつわねぇ…アスカがいないのを見計らってシンジ君誘惑してたの」
ああ…バカ…ヒカリにそんなこと口走ったら…
「それで!?」
「ほら、私グラマラスでしょん、『やめてください!僕にはアスカが!』って嫌がるシンジ君をものにしようとしたところをアスカに見つかって…それ以来もう修羅場なのよ」

はぁ…
来週から新キャラ登場で学校は大騒ぎだ…


パーティーは盛り上がる

私は夜風に当たりたくなって、ベランダに出た
下を見るとぶちまけたDVD
あれ…絶対鈴原と相田が拾ってくわね…
そんなこと考えてると霧島さんが両手にグラスを持ってやってきた
「どうぞ、先輩」
なんかむずがゆいなぁ
「アスカでいいわよ」
「え?あ、はい。アスカさん」

グラスを受け取ると話しかけてみた
「ねえ?シンジのやさしいとこって、どんなとこ?」
霧島さんは少し、はにかんだような表情で
「鈴原先輩からアスカさんのこと守ったところとか…あと…一生懸命、他の女子にアスカさんのこと誤解しないように説明してたり」

しらなかった…

「自分はどんなにからかわれてもじっと我慢してるけど、アスカさんのことからかわれると、上級生でも食って掛かるんです」

シンジが?けんか?うそだ…だってシンジめちゃくちゃ弱いのよ?

「だから女子は皆、碇先輩のことかっこいいと思ってます…私も」
そこまでしゃべると霧島さんは、ペコって頭を下げて部屋に戻っていった



部屋に戻ると皆でわいわいゲームを始めてた
相田がシンジにプレゼントしたゲーム
あーあ、バッカみたい
あんな裸みたいな女が戦いあうわけ無いじゃない!

「やった!」
シンジが鈴原に勝ったみたい
よぉーし!
「私と勝負よ!シンジ!」
「えぇ!?アスカちゃんゲームなんてしないじゃないか、やり方わかるの?」
説明書をわたそうとするシンジ
「シンジがやってるの見てたから大丈夫よ!大体そんなもん、天才の私には必要ないの!」
「おぅ!やれやれ!夫婦喧嘩や!」
よーし、このマッチョでモヒカンのパンツいっちょのおじさんでいいわ
「えぇーアスカちゃんやめたほうがいいよぉ…」
「うるさい!始めるわよ!」



結局全員倒しちゃった
特にミサトはこてんぱんに!
あははは!
たのしい
昔はこんな事しなかったのに
こんな事したらまた皆に疎まれちゃう…
天才…そんな風に生まれたくなんて無かった
でも今は違う
クラスの皆も「少し性格が悪い」くらいにしか思ってない
みんな「本当にアスカっていじわるね」って言ってくれる
いいなぁ、こういうの
陰口じゃないのって
ずっと日本にいたいなぁ



とても楽しい一日だった
またパーティーやろう

結局ミサトは酔いつぶれてリツコの部屋で大いびき
リツコも泥酔状態
しょうがないから私が後片付け
シンジには霧島さんを送らせた

「月曜日からって…声かけるのよ」

何、世話やいてんのかしら?私
シンジに憧れてる女の子の夢を壊さないようにして、なんになるのかしら?
まったく、自分で自分のこと分からなく成っちゃう

「アスカ変わったわね」
さっきまでテーブルに突っ伏してたリツコが
「ドイツで会ったときは、何か余裕の無い怖い子だなって思ったけど」
「ずいぶんねぇ」
「ほんとうよ?思ったもの、シンジ君かわいそうだなぁって」
「そんなこと無いわよ」
「そうね、今のアスカならきっと、どんなところでも幸せになるわ」
「あたりまえでしょ」

シンジが帰ってきた
「ただいま」
リツコが動き出す
フラフラとシンジに近づくと手を握る
「シンジ君しあわせ?」
「え?うん」
「そう」
何だろう?て顔のシンジ
「じゃあシンジ君、一緒にお風呂は要りましょうか」
シンジの手を引き浴室に向かおうとするリツコ

チョッと待った!
この酔っ払いめ!
「こら!」
抱きかかえるようにシンジをひったくる
「だめ?」
おねだりするような声を出すリツコ
「絶対にだめ!」
「けち」

もう!本当に!
リツコが浴室に消える
「くるしいよ…」
あ、シンジ抱いたままだった
「ばか、はなしてあげない」
そのままシンジの頬にキスをした

私は後片付けの続き
シンジはイスに座ってこっちを眺めてる
「アスカちゃん」
「ん?」
「ぼく、アスカちゃんのこと大好きだよ」
「うん」
「だから日本にきてからアスカちゃんが、優しくなってとっても嬉しいんだ」
「そう」
「ねえ、アスカちゃん」
「なに」
「僕と………えぇ!」

何よ!いいところだったのに!どうしたの?!
って!
えぇ!

お風呂からあがったリツコ
ショーツ一枚で首からバスタオル

まっすぐシンジに向かう
シンジにのしかかる様にしながら
「シンジ君、私のこと好き?」
シンジの目がリツコのオッパイと顔を行ったり来たり
「え!?あ・は、はい」
「うれしぃ」
そのままシンジにキスをしながら押し倒しちゃう

「なぁーーーーーーー!」

フライパンを手にリツコに襲い掛かる!

バン!
勢い良くふすまが開く
「うるさい!ってあれ?」
ミサトの目に飛び込んできた光景は

ほぼ裸のリツコに押し倒されているシンジ
フライパンを持っている私
シンジの上で伸びているリツコ

「………」
パタン

ミサトは何も言わずに笑顔でふすまを閉めてしまった

とにかくシンジをリツコの下から引きずり出す
「あはははは…」
力なく笑うシンジ
押し倒されたときにリツコの乳房を鷲掴みにした右手を何回も動かしてる
余韻でも楽しんでんの!
まったく!
「ほら!シンジも手伝いなさい!」
とにかくリツコをソファーの上まで持っていく
「ホンとにもう!バカばっかりじゃないの!」


湯船でシンジをいじめる
「もうゆるしてよ…」
「だめ!…私の可愛いところ100箇所いえるまでお風呂から出してあげない!」
「えっと…おへそのピアスとか」
「あと33箇所!」
「小指のつめが小さいところ」
「それさっきも言った!」
「白い肌」
「あと32!」


お風呂から上がると、とりあえずキャミを羽織ったリツコが頭をさすってた
「いったいどうしたのかしら?」
私たちに聞いてくる
この酔っ払いは!
「ぐでんぐでんでお風呂に入って、上がったと思ったらぶっ倒れたのよ!わかった?!」
「そう…どうりで頭痛いはずだわ…」

シンジが笑いをこらえる

ホンとにもう

「寝るわよ!おやすみ!」
シンジをつれて部屋に戻る
頭を押さえながら手をヒラヒラふっるリツコ

もう!


ドン!
シンジをベッドの上に押し倒す
「リツコとおんなじことしてあげようか?」
「え?」
シンジに覆いかぶさる
胸を押し付ける

でも、そこまで…
「うそ!」
シンジの横にごろんとなった
「うん、お休みアスカちゃん」
シンジの声が聞こえる
「おやすみ、シンジ…」

楽しかった…


もっと楽しいことが起こりますように

シンジの頬にキスをした
そこで寝てしまった

シンジの声だけが聞こえる
「さっきはいえなかったけど…今度ちゃんと言うからね」

うん…まってる…
まってる…
まって…



日曜早朝
使徒来襲
家に迎えが来る
なんせ作戦部長と技術部長
それにエヴァ搭乗者がそろってるんだから

私は大慌てで出立の用意をする
シンジにも非常用のかばんを持たせ着いてこさせる
つい数時間前まで泥酔していたはずの部長二人は準備万全
さっきまで下着で大いびきだったとは思えない

本部に到着すると状況の概要が説明される
話は大体わかった
あの綺麗なクリスタルみたいな使徒は驚異的な破壊力を持っている
まるで歯が立たない
そういうわけだ

作戦は簡単
なるべく近くにリフトオフ
近距離から攻撃
以上

大丈夫?これで?


出撃直前、シンジと物陰で時間を過ごした
さっきミサトが顎でここを教えてくれた
「出撃準備が調うまでチョッと待っててくれない」
そういいながら
多分ここはカメラの死角なんだろう
別に見られてもいいんだけど

夕べの余韻がまだ体にのこってる
シンジを壁にやさしく押し付ける
「キス…しよぅ」
シンジは少し抵抗する振りしてから
「うん」

大人のまねをしながら
大人のキスのまねをした

舌の先が変な感じ

チョッと照れちゃう
「ねえシンジ」
「んん?」
「帰ってきたら…続き…しようか」
「…うん」

「アスカ!時間よ!」

呼び出される
シンジの腕に視線を落とす
私とおそろいの時計

わるくない
こういうのも
よし!行こう!


シンジが心配そうな顔している
だから手をふってみせる

あ!
おまじない忘れた!

シンジはSPにつれられてケージの外に行ってしまった

まあ大丈夫かな
よし!やるぞ!
帰ったらさっきのつづきだ!


射出前
司令室から通信が入る
映像通信だ
何だろう?
作戦部長様からのお言葉
「作戦の確認はいいわね?アスカ」
わざわざそんなことのために?映像通信?
あれ?
ミサトの後ろからひょっこり顔を出しているのは…
「シンジ?…シンジ!何してるのそんなとこで!」
わざとらしく後ろを見渡すミサト
もちろんシンジはミサトのあごの下くらいまでしかないから
「シンジ君?どこにもいないわよ?」
わざとらしい…
シンジも手なんかふって…
はぁ…
レズのオペレーターが説明してくれる
「葛城三佐が『ここがいちばん安全だ』って、つれてきたのよ、がんばってねアスカちゃん、シンジ君が見てるから」
はぁ…
シンジとミサトが視線を合わせて笑ってる…
「大成功」って思ってるのよね…あの二人…きっと
もう!
カウントダウン
5・4・3・2・1…
「アスカ!突貫します!」



後コンマ数秒で地上
その時、ものすごい…なにか…感じるものがあった…

「だめ!アスカ!よけて!」
地上に射出されると同時に強烈な痛みが襲う

やられた!

ちきしょう!

こんなところで!

シンジがみてんのに!

全力でフィールドを展開する

だめ!
フィールドごと胸に突き刺さる
くそ!
口の中が鉄くさい
血だ

負けてらんないのよ!それでも!

私が死んだらシンジはどうなるの!?
そんなの…

そんなの!

絶対にイヤ!

せめてこいつを道ずれに!

私はかろうじて攻撃を防いでいたフィールドを消し

「だめよ!アスカ!すぐにエヴァーを回収!急いで!」
ミサトの声
「アスカちゃん!」
シンジの絶叫も聞こえる

大丈夫…シンジの世界は
私が
私が!
「守る!」


全身全霊、すべての力を込めフィールドを使徒にたたきつける

引き裂かれ血飛沫を上げる使徒




「はい、とりまぁーす、3・2・1」
フラッシュが焚かれる
私とシンジの胸にだかれ、私にそっくりな二人の男の子の赤ちゃんが笑ってる

写真を撮りに行こう

シンジが言い出した

写真館を探し
おめかしをし
家族四人でフレームに収まる

きっといい記念になる

撮影が終わり
二人の子供にお守りを持たせるシンジ
「ほら…いいこだ…」
おかしい
何が「いい子だ」よ、二人とも寝てるだけじゃない…

ふふ…
ちょっといじわるしちゃおうかな
「ねえシンジ?」
「ん?」
シンジは子供から視線を離さない
「三人目ができたら、お守りどうすんの?」
やっとこっち見た
「え?…うぅーん」
「二個しか無いんでしょ?お・ま・も・り」
こまってるこまってる
んふふふ…
あれ?
シンジ、笑ってる
「そうだよアスカ、『あれ』があるじゃないか」
あれ?ああ!
あはは!
そっか!

シンジ
私とあなたの想い出は星の数ね
子供たちが大きくなったら聞かせてあげましょう
私たちのお話を

シンジが笑う
つられて私も笑う
あら?
この子達も笑ってる
うふふ…
「じゃあ、今日はこれからみんなで…」


そこで目が覚めた

いつもの夢だ

あう…
体が動かない

そこらじゅうイタイ

シンジ?
シンジだ…

なに?何で泣いてるの?
どこか痛いの?

「よかった…アスカちゃん…」

ゆっくりとだけど、手が動いた

シンジの頬をを撫でてあげる
それだけで全身に痛みが走る
冷や汗が出る
でも笑顔でシンジの頬を撫でる

シンジが少し泣きやんで
「うぅ…もう大丈夫だよ…」
何が大丈夫なのよ…ばか…こんなに泣いて
言ってごらん?
どこが痛いの?

「ぼく…これから学校行くから…アスカちゃんは寝てて…」
はい、いってらっしゃい
忘れ物しちゃだめよ?

「じゃあ…いってくる…アスカちゃん…おやすみ…」
シンジが私にキスして立ち上がった

だめよ、そんな泣きべそのままで行ったら
笑われちゃうわよ?

ドアのところでシンジが立ち止まる

声、かけてあげなきゃ
必死に声を振り絞る
「いっ…らっしゃ…」
シンジが振り向いて
ぼろぼろ泣きながら
「いってきます」
顔いっぱい、涙でぬらしながら
精一杯の笑顔でこたえてくれたシンジ
シンジが手をふりながら出て行く

ドアの向こうにチラッとリツコが見えた

どこだろう?ここ?

なんだ…外、もう暗いじゃない…
ばかねぇ…シンジ…
こんな夜遅く学校なんて…

あぁ…眠い…






アスカ…

起きなさい…

アスカ…

寝ていてはだめ…

シンジ君が…

アスカ…

起きて

アスカ


ママ?

薄らと目が覚めた

ん?誰かいる
誰だろう?

あれ?
この人知ってる…

あぁ
シンジが入院したとき
「お帰りなさい」って言いに来た子だ

あはは…
私、寝ぼけてる
だって
この子、私の体に手を突っ込んで何かしてる
はは…人の体を水面に手を突っ込む見たいのに…

私の体のなか、かき回すみたいにした後
両手で何か掬い上げてる…

パシャン

その子は私の中から掬い上げた何かの液体を床に捨てる

「大丈夫…もう動ける」

だんだん意識がはっきりしてきた

点滴は誰かが引っこ抜いたみたい
起き上がろうとすると体中が悲鳴を上げる

「…碇くんが呼んでる」

え?
シンジが?
「ありがとう、シンジはどこ?」
何とかベッドから立ち上がる

「…こっち」
女の子が先に歩きだした
ちょっと待ってよ…
こっちは全身悲鳴上げてんだから


冷や汗をダラダラ流しながら女の子のあとをついていった
ここ…本部だったんだ…
それにしてもこの子、随分詳しいなぁ…こんな迷路みたいな作りなのに

誘われるままエレベーターに乗り、地下へ
エレベーターから降りるとあの子が見当たらなくなった

どこいったんだろう?
あぁ…シンジはどこにいるんだろう?

あ?
あの子がいた
ちょっと待って

ふらついて壁に手を着く
ドアーだったみたい
プシューって開いて
部屋の中に倒れこんじゃった

あれ?
ここ…司令室?
随分高いところにミサトたちが見える
みんな私を見つけてザワザワしてる
…あたたた…非常口から入っちゃたのか…いててて

ミサトが駆け下りてきた
ん?
リツコも

「アスカ…そんな馬鹿な」
ですって
失礼しちゃう
なにが馬鹿なのよ?

リツコに抱きかかえられる
「どうやってあそこから…」
あそこって?
病室?

「ライオンだって眠るはずじゃなかったの?」
ミサトだ
誰がライオンよ

「230分前です!」
レズの声だ
何の230分前?

「アスカ…とにかく部屋に戻って…」
リツコってば…なに青い顔してんの、もう大丈夫よ
それに
「ねぇシンジは?」

まるで司令室全体が凍りついたようになる

「第三薬投薬」
「シンクロ率安定」
「いけます、心理グラフ問題ありません」

オペレーターたちの声だけが響く

ん?
さっきの子だ
だめじゃないこんな所に入ってきちゃ
関係者以外立ち入り禁止なんだから…

ん?
指差してる

「仮設パイロット、精神安定しています」

さされたほうを見る

巨大モニター
写っているのは
見慣れない格好をしたシンジ

「え?ねえリツコ…シンジ何してるの?」

黙り込むリツコ




急に意識がハッキリしだす

エヴァから引きずり出される私
スーツを脱がされると血が流れるように滴る
あの時シンジが入っていた水槽に入れられる
水槽の向こうにはシンジ…
あぁ…シンジの声が聞こえる
シンジの声だけが聞こえる
やります、僕がやります

アスカちゃんの敵を討たせてください!

りっちゃん!僕のれるんでしょう!注射されれば!
あのロボットに!
…!
覚えてるよ!そんなの!

ねえ!ミサトさん!
僕なんてどうなってもい!!

そんなこと知らないよ!
やらせてください!
僕があいつと戦います!



「思い出した…」
リツコをにらむ
「エヴァのところに連れてって」
うろたえるリツコ
「だめよ…まだ完全じゃないわ。あなたもエヴァも」

そんなの関係ない
シンジを一人にしないんだ
シンジが私のために何かするんなら
私もシンジのために…
何もできないならせめて傍に

「つれてって!」
渾身の力を込めてリツコの胸座を掴む

厳しい表情のミサト
「誰かストレチャーを」

イヤよ
絶対にエヴァのところに行くんだから
シンジのところに

「アスカをケージまで連れて行って」



よくこんな体調でここまでこれたわね、私
ストレチャーがゆれるだけで…
大人たちに抱えられながらプラグスーツに着替える
チラッと鏡が見えた
胸にひどい傷跡…

私の視線にリツコが気づいた
「すぐに消えるわ、心配ない」
そうね…そう思う

「いい、アスカ」
着替え終わってまたストレチャーで移動
その間にリツコが説明してくれた
「シンジ君は今、極端な精神状態にあるわ…薬でね…」
あぁ…この間みたいてことか…
「喜怒哀楽、そのすべての感情が最高潮の状態になっているわ」
怒りながら泣いて大笑いしながら悲しむのね…
「だから作戦中どんなことがあってもシンジ君に返事しちゃだめ、語りかけてもだめ。いいわね」
ちょっと言い返してやる

「手はふっていい?」

わかってくれたみたい
苦笑いしてる
「心の中ならね」

リツコが声を落としてしゃべる
「いい…ここだけの話よ」
「うん」
「シンジ君…動かすだけならできるの…」
「え?」
「シンクロ…信じられないけど…まるで初号機が受け入れるように」
「どういうこと?私だって訓練して…やっと」
リツコは理解しかねるような表情で
「それが…まるで初号機から歩み寄るように…」

ママだ…ママが初号機にお願いしたんだ
シンジの投薬量がちょっとでも少なくてすむように

「とにかく、シンジ君の治療が終わるまでは接触禁止よ…寂しいでしょうけど…我慢して」
「…わかった、それに」
「それに?」
お腹いっぱい空気を吸い込み力いっぱい叫ぶ

「寂しくなんか無い!」


続いてミサトが作戦の説明と、とりあえずの私の仕事を指示する
私の捨て身の一撃で使徒は随分長い間、回復に専念していたらしい
その間にでっち上げた作戦
エヴァによる大威力火器による長距離からの狙撃
日本中からエネルギーを集め奴に叩き付ける
それを可能としたのはシンジが見せた高いシンクロ率だった
それが無ければ
発狂するまで投薬し
エヴァで突撃
だったらしい

私の仕事は

シンジを守ること

不完全だったけど、一度は奴の攻撃を受けて見せた
もう一度それをやれ
そういうことらしい

もしもう一度直撃を受けたら
前回の傷がいえていない
私もエヴァも御仕舞

大丈夫
私が守る
私の後ろにシンジがいるんでしょう?
絶対に守る

私が塵になっても
どんなことをしても守る



私を気遣ってエヴァはゆっくりシンジの元に移動する

ミサトから通信が入った
「アスカ…ごめん」
「何よ、突然」
「本当はあなたを無理やりたたき起こして狙撃をやらせる予定だったの」

そのほうが気がらくだ…

「でも、シンジ君が『自分が』って言い出して。期待はしてなかったの、シンジ君には」
「なんで?」
「偶然シンクロしたことがあるくらいで…いきなり使い物になるわけ無いじゃない」
「そうね…でも…ちがった?」
「ええ?驚いたわ…前回みたいな精神強化無しに起動値を軽く超えたんだから。まるで仕組まれていたみたいに…」
仕組まれた人間は私一人で十分
「急いでプランを練り直したわ、今回は若干の投薬で任務遂行可能なレベルを超えたわ」
あぁ…シンジ…
シンジは仕組まれた子供なんかじゃない
だから何しなくていい…私の
私の傍に居てさえしてくれれば

「最後にアスカ…」
「何?」
「約束する、作戦部長としてではなく私個人の命に代えて」
「おおげさねぇ」
「今回の作戦が終わったら、シンジ君の記録は一切残さない、どんなことをしても、これっぽちも残さない」

「ありがとう、外に出たわ」
「ええ…」
「このままエヴァをシンジの前まで移動して…あっちこっち痛くて」
「そのつもりよ、それから」
「それから?」
「リツコだけど、さっきからシンジ君にかかりっぱなし、アスカの相手している暇は無いみたい」
「あははは…いてて…リツコらしい」
「そうね…アスカ」
「オーケーわかってる」


「がんばってね」


シンジの初号機プラグ内をモニターする
こちらからは絶対に送信しないって条件で
「おーい!アスカちゃんでしょう!おーい!…あれぇ?聞こえないのかなぁ?」
シンジが映し出される
一生懸命私のエヴァに呼びかけている
一言だけ返事をしてあげたい
手をふるだけでもいい

シンジ…がんばれ

シンジが
少し周りを見渡したように見える
少し不思議そうな顔で

「うん」

シンジが返事をした

ありがとう…ママ

後一分で作戦開始
作戦開始から3分で攻撃開始
攻撃開始ってのは「いつ打ってもいい」って意味


作戦が開始された
急速にエネルギーが集約されていく
しばらくすると
使途が気づいた

こちらを見つけたようだ
「目標に高エネルギー反応!」
オペレーターの声が響く
私の出番だ
シンジの前に乗り出し、命を削るようにフィールドを展開する
こちらの攻撃開始まであと38秒
使途の閃光が迫る
今の私のフィールドは強い
自分以外に守るものがある
それがこんなに強くなれるのなら
光の激流をまるで、ホースからの水流のように防いでみせる

「攻撃開始!」
ミサトの声が響く

シンジは打たない
私がモニターしているシンジの照準
わずかにぶれてはいるが、十分な精度が出ている
何で打たないの?
今打てば絶対当たるのよ
コアを粉砕できるわ
なんで?

シンジの声が流れてくる
「…わかってる」

「シンジ君!打ちなさい!」
ミサトが叫ぶ

「使途に再び高エネルギー反応!」

なるほど…考えたわね
強力な一撃ではなく
糸のように細い光線を何万本もめくら打ちの様に
これじゃあとても防ぐ切れない

とにかくシンジに…初号機に向かいそうなものだけを防ぐ
チクショウ!
だめだ!防ぎきれない!
いくつもの細い光線でじわじわやかれていく初号機
シンジのうめき声が聞こえる
「ぅぅ!わかってる!まだ我慢できる!」

だめ!シンジ早く打って!少しずつ軸がずれてきている!

防いでも防いでも初号機を襲うくもの糸のような光線
いつの間にか初号機は焼け爛れてしまっている

「シンジ君!早く!あなたも死んでしまうわ!」
ミサトが狂ったように叫んでいる

シンジの照準がずれてしまった
こうなったら何とかシンジをつれてここから…
そう思い初号機に飛びつこうとしたとき

「わかった!」
シンジの力強い声が響き
使徒のものの数倍強烈な光が銃口から飛び出す

次の瞬間

使徒は燃え盛り
崩れ落ちていった

なんで?
照準ははっきりとずれていた
どうして?


われに返り
初号機に向き直る
焼け爛れ力なく突っ伏している

初号機の表面温度は1200度を超えている

かまうもんか!

初号機を抱え芦ノ湖に飛び込む

まるで温泉のように湯気が上がる

初号機のプラグ周辺の特殊装甲を丁寧に剥ぎ取る
プラグが見えてきた
プラグを潰してしまわないように慎重に引き抜く
だめ、癒着してる

ママ手伝って
エヴァ顔面の拘束具が外れ口がむき出しになる
初号機の背中に噛り付き、生体部品ごとプラグ周辺を食いちぎってゆく

やった!プラグが外れた
後は私が
ありがとう…ママ

引き抜いたプラグの端っこを丁寧にナイフで切り取る
LCLが流れ出てゆく
ナイフを投げ捨て
両手で大切にプラグを運び
芦ノ湖畔にそっと下ろした

私はエヴァを飛び出し「本当にこれが最後の力って奴なんだろうな」なんて思いながら
ふらふらした足取りでシンジの待つプラグにたどり着き
切り裂いた部分から中に入り込んだ

シンジの後姿が見えた
疲れたのかな?
ぐったりしてる

もっと近くへ

良かった
寝てるだけか

本当に最後の力を振り絞ってシンジの傍らに寄り添う
シンジが目をさました

「やっぱりいたんだ…アスカちゃん」
シンジの言葉を聞いてほっとしちゃった
ちょっと涙が出てきた

「うまくいったね、ありがとうアスカちゃん」
うんうんってうなづきながらよしよしって頭を撫でてあげた

「アスカちゃん着替えたの?」
「ん?」
あぁ、薬のせいでちょっと混乱してるんだ…シンジ
「ええ、着替えたの」
ちょっと残念そうな顔をするシンジ
「なんだ…おそろいだったのに」
「ごめんね…シンジ」

シンジの腕にもたれ掛かる
ネームが見える
「I・YUI」
あぁ、シンジが着てるプラグスーツはテストパイロットか誰かの使いまわしか

「ずっとアスカちゃんが奴を指差して『まだよ、私が合図したら打つのよ』ってすぐ後ろから言ってくれたから、アスカちゃんに言われたとおりにやったから当たったんだよ」
「そうね…よくできたわ…さすが私のシンジ」

シンジは元気だ…良かった
「ねえアスカちゃん、またおそろいのプラグスーツ着ようよ」
「ええ、そうね」
なんだか眠くなってきた

シンジの胸に顔をうずめ少し休む
「ねえアスカちゃん?」
「なに?」
「今度でいいからさ」
「うん」
「また、さっきみたいな優しい声で『シンジ』って呼んでよ」
「いいわよ」
何回でも言ってあげる

ああ疲れた
もう、まぶたも開かない

「さっきの声、打つ時教えてくれた声、お母さんみたいだった」
「そう…シンジ…」
「なに?」
「少し休むわ」
「うん…おやすみ、アスカちゃん」
シンジがやさしく抱きしめてくれる

「おやすみ…シンジ」

まどろんでいく意識の中
はっきりと聞こえる声
女の人の
やさしい母親のような声

「ありがとう」

まるでママの声みたいだ…
全然ちがうのに
きっと母親ってみんな
こんな優しい声になるんだろうなぁ…

あぁ…眠い…


沈んでゆく意識の中
シンジのつぶやきが聞こえる
「アスカちゃんのにおいだ」


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