いつもと同じ夢
ここより先も、ここから後も何度も見てきた

日曜日
家事を終わらせ、ごろんとしながらテレビを見る私
「後で買い物行こっか」
「ん?」
ちょっと上の空のシンジ
いつもと同じ日曜日

いったん自分の部屋に戻ったシンジが私の横に座る
左手を握ってきた
甘えたいんだ…
もう…夕べもあんなにしたじゃない…
テレビを見たままの私

薬指になにか感じる

指輪だ

「アスカ」

思わず指輪を見つめちゃう

飛び起きちゃった

「安月給なのにもう!」
プレゼントなんていいのに
バカなんだから

「アスカ」
「何よ」

「ずっと一緒にいよう」

息が止まる
胸がドキドキする

結婚?

何とか声を出す
「もうちょっと気使いなさいよ!」
「ごめん」
「ぜんぜんロマンチックじゃない!」
「ごめん」

目から涙がこぼれる
「何年待ったと思ってるの」
「ごめん」

私、泣いているのに顔は微笑んでる
シンジが私の手を握り締める
「もう離してやらないんだから」
「うん」

シンジの胸に飛び込む
手は握り締めたまま
「子供だってバンバン生んでやるんだから」
「うん」

唇を重ねる
「一人ぼっちにしたらゆるさないんだから」
「うん」

すずめが鳴いてる
祝福してくれてるのね



「「ずっと一緒にいよう」」


そこでめがさめた
傍らには未来の旦那様
今日はいたずらは無し
シンジを起こさない様、静かにベッドを出る
「あ」
シンジと手を握ったままだ
そぉっと手を離す

静かに部屋を出た

まだリツコも起きてない

「よし」
小さくつぶやくと台所に向かう
今日から学校
本当はもうちょっと前から行くはずだったんだけど
シンジの体調が戻るまで待ってもらった
シンジも学校に行くのを楽しみにしている

お弁当

さあ!やるかぁ〜


起きてきたリツコ
「まぁ、作るとは言ってたけれどすごいじゃない」
ちょっと自慢しやろう
「別に、サンドイッチだから簡単よ」

「リツコの分も作ったから」
「あら、まさかパンの耳の詰め合わせじゃないでしょうね」
「正解」
もちろん冗談
ちゃんと作ったわ

「じゃあついでに朝ごはんも作ってもらおうかしら」
「残念、今からシンジを起こさなきゃいけないからパァ〜ス」
はぁってリツコの大げさなため息がきこえた

今日はとびっきりやさしく起す
ベッドに忍び込むとシンジの体をまさぐる
しばらくするとシンジが目をさました
「おはよ、あなた」
へぇ?
そんな顔のシンジにキスをする
「さぁ起きろシンジ!遅刻しちゃうぞ!」
「うん…おはようアスカちゃん」

毎日これだったらいいのに
そんなシンジのつぶやきを聞こえないふりする


朝ごはんを食べ終わると仕度を始める
リツコも今日は保護者としてついてくる
そんなわけでリツコは自分の部屋でおめかし

まず私が着替え、次にシンジ
「似合うよアスカちゃん」
初めて学生服ってのに袖を通した
シンジも似合うじゃない
「まあね、美少女はなに着ても似合うの」
それを聞いたシンジがこえ出して笑っている
どういう意味かしら?

「持ち物チェック」
元気に言うとシンジとチェックを始めた
教育端末は今日学校で支給されるから、もって行くものといえば
「お弁当もった?」
「うん、ねえアスカちゃん」
「なに」
「たまごサンド入れてくれた?」
「大丈夫、ほんと食いしん坊ねシンジは」
「好きなんだからいいじゃないか」
「なまいき!」
つねってやった

「お菓子は」
シンジがうれしそうに聞いてくる
つねられたお尻をさすりながら
「ポッキー入ってるでしょ…」
言い終わる前にリツコが
「だめよ二人とも!日本の学校はおやつの時間とか無いんだから」
「「えぇ〜!」」
食ってかかちゃう私
「なにそれ!収容所か刑務所じゃあるまいし!なんでお菓子もって行っちゃいけないのよ!」
「それが日本の決まりなの、とにかく諦めてちょうだい」
「じゃあ休憩時間なにするのよ!」
「友達と遊んだり」
「転校早々そんなもんいないわよ!」
「とにかくおいていきなさい!」

怒鳴りあいを止めたのはシンジの一言
「遅刻しちゃうよ」


迎えの車で学校まで送ってもらう
こんな車で乗り付けるとちょっとまわりの目が気になるかな〜
校長室に通され簡単な説明を受ける
学生の本分は学業でどうたらこうたら
一通り説明を受けると担任の先生に連れられて教室に向かう
リツコとはここでお別れ
私たちの襟元を直しながら
「シンジ君もアスカちゃんもがんばんなさい」
ちょっと緊張してるリツコが面白かった

教室の前に着くと、私もちょっと緊張してきた
シンジの手を握る
「さあ入って」
先に入った先生が声をかけてきた

覚悟を決める
シンジの手を引いて教室に入る
うわぁたくさんいる
ちょっと笑顔が引きつってるかな

「それでは自己紹介を」

なんかざわざわしてるわねぇ
静かに深呼吸をしてから
「アスカ・ラングレーです。よろしく」
ほら、シンジも
つないだ手で「ポン」ってたたく
「あ、碇シンジです、よろしくお願いします」

ざわざわ

何だろう?みんな?

先生に言われ席にむかう
隣りあわせだ
手を離すと私たちは席に着いた

ホームルームが終わると短い休憩
席の周りの子に挨拶する
「ほら、シンジも」
「あ、よろしく」
まったく…世話が焼けるんだから

ざわざわ

何なんだろう

「あの…ラングレーさん」
「なに?」

「きりーっつ!」

先生が入ってきた
みんないっせいに席に戻り立ち上がる
とりあえず私たちも立ってみた

「れい!」
みんなでいっせいにおじぎ
思わず眺めちゃった

「ちゃくせーき」
みんなが座る
私たちもすわった

授業が始まる
何か面白いのね、日本て

しばらくすると
シンジが端末を見つめて困った様子
壊れちゃったのかな?
のぞいてみる
あん?
画面にはクラスメートから

「ふたりってつきあってるの? Y/N」

はぁ…
なによこれ?
ばっかじゃないの?

どうしよう
そんな顔で私を見つめるシンジ

はぁ…

シンジの端末に手を伸ばすと

ぽちっと

Y

その後はもうたいへん
みんな授業そっちのけで、よってたかって質問攻め
シンジなんか完全にうろたえちゃってる
こうなると私もお手上げ

何とか収集をつけてくれたのが「イインチョウ」さん
たすかったぁ

授業が終わるとまた質問攻め
「ドイツから来たんでしょう?」
「え?ええ」
「すごーい日本語上手ね」
「あ、あはは…」
「ふたりって本当につきあってるの」
「ええ」
「すごーい!さすがドイツ!すすんでるぅ!」
「碇君てかわいいね!」
「まあ…ね」
「ふたりは何時からつきあってるの?」
「付き合ってるって言うか…う〜ん…フィアンセ?みたいなもんかな?」
「「「「「「「「「「きゃぁ〜あ!すごぉ〜い!」」」」」」」」」」」

こんなのが休憩の度にえんえん続いちゃって…
シンジなんてしゃべることもできずに、質問にうなずいてるだけだし…


そんなこんなでようやく昼休み
さらうように「イインチョウ」さんが私たちを連れ出してくれた
もちろんお弁当は忘れない

校舎裏の木陰でお弁当を開く
何時の間にとってきたのか、「イインチョウ」さんが牛乳を渡してくれた
「はい、びっくりしたでしょ?ほんとにみんな騒ぐのが好きなんだから」
わざとらしくため息をつく「イインチョウ」さん
「ありがとう、イインチョウさん」
「私、洞木ヒカリ、よろしくね」
笑顔で手を差し出してきた
「イインチョウって名前なのかと思った、よろしくえぇ〜と」
「ヒカリでいいわ」
良い人みたい
「よろしくヒカリ、私のことはアスカでいいわ」
「よろしくねアスカ、碇君もよろしく」
「うん、よろしく」
日本に来て最初の友達かな

3人でおしゃべりしながらお弁当を食べた
やっぱりシンジと私のことは気になるそうだ
ちょっとからかってみた
「私たち将来結婚するのよ、親同士がそう決めたの」
なんかもうどうでも良いやって顔で笑うシンジ
目をキラキラさせながら「すてき…」って悦に入ってるヒカリ

「「「いかりくぅ〜ん」」」
目ざとく見つけた女子が声をかけてきた
手を振って答えるシンジ

もう、
こつんってシンジを小突いてやった

それを見てまたヒカリは「きゃぁ」とか「マンガみたい」とかいって喜んでる
ちょっと変な子なのね

予鈴がなったので教室に戻るとまた質問攻め

でもちょっとおどろいた
だって
「ラングレーさんてこの間のロボットのパイロットなんでしょう?」
って聞いてきたの

みんな家族が本部関係者なんだから、そんな話も聞いてるんだろう
リツコも
「別にエヴァの搭乗者だって事も隠さなくて良いわよ」
っていってたし…

「ええ」

答えるとまた教室がお祭り騒ぎ

「ロボットにのって彼氏もいるなんてすごぉ〜い!」
だの
「ねぇあのロボットなんて名前?」
とか
もう本当に疲れちゃう

でも、一人だけ私のことにらんでる男の子がいた




放課後、
シンジと帰りにお買い物に行こう
ついでにおやつも
回りの喧騒を適当に受け流しながらそんなこと考え、帰り仕度をしていると
男の子が一人、人垣を掻き分けてきた
私をにらむ
「転校生、ちょっとええか」
脅すようにそう言い放った
「お前らも散れや」
まわりの子達にも恫喝するみたいにさけぶ
「こっちや」
そいつは先に歩いていった

告白…って雰囲気じゃないわね

とにかくそいつについていくことにした
「アスカちゃん…」
心配そうに付いてくるシンジ
「大丈夫よ」


一瞬の出来事だった
難癖をつけられた私は殴られそうになった
でも、こんなパンチ、護身術や格闘術の先生と比べればスローモーション以下
コマ送りみたいなもん
上体を動かすだけでよけられる

はずだった

うん、私はよけられたんだけど
私のこと、とっさにかばおうとしたシンジが

おもいっきり顔面殴られて吹っ飛んでいった

「なんやおまえわ!じゃまじゃ!」
やつはそう叫ぶともう一度私に向かい振りかぶった

あの日、お風呂でシンジと約束した
「もう人前でシンジのこと叩かない」って
だから、もうシンジに手を上げない
私のシンジなのに
うずくまる私のシンジ

10倍返しだ
わたしに叩き込まれた武術の中でいちばん危険な殺傷術
鎬流空手
座り込むように腰を落とし、突き進んでくるあいつの顔面に向けて伸び上がるように立ち上がりながら、手の平を突き上げるようにたたきつける
女性の小さくて華奢なこぶしじゃあ相手に致命傷を与えられない
でも、子供から老人まですべからく頑丈で大きな手の平なら
なおかつカウンターなら

ふっっとんでいった

初めて人間相手にこんなことをした

でもそれ以上に体が反応する
しりもちをついたやつの顔面を、おもいっきり踵で蹴りぬく

「ふざけんじゃないわよ!いきなりシンジに何すんのよ!」
やつは顎がいかれてまともにしゃべれない
代わりにやつについてきたメガネが
「こいつの妹さ、この間のあれで大怪我しちまったんだ」
大丈夫か?そんなこといいながら…

すこし胸が苦しくなった


きゃぁ〜
歓声が上がる
いつの間にか遠くから見ていたクラスの子達がいっせいに駆けてくる
「すごぉ〜い」だの「かっこいい」だの言われながら取り囲まれてしまった
「ごめんなさい、シンジ!シンジ!」
人を掻き分けてシンジのところに向かう

よかった

ヒカリが抱き起こしてくれていた

「ほら!見せて」
口の中をのぞく
血…出てるじゃない

すぐに携帯を取り出すと緊急通信ボタンを押す
「どうせすぐそこら辺にいるんでしょ!迎えに来て!ダッシュ!」
電話を切ると
ちょっとビックリした目で周りの子達が見てる
さっきシンジの口の中のぞいたときはきゃーきゃー言ってたのに

もう一回ビックリ
教職員駐車場に止まっていた車が一台突然こっちに向かって走ってきた
どこにでもあるようなファミリーカー
乗っているのは知らないおばさん
「乗ってください」
促されるままシンジと乗り込む
「じゃあみんな、また明日ね」
挨拶をすると車は動き出した
シンジも手を振っている
「きゃぁ!すごぉ〜い」
ってこえがみんなの方から聞こえてくる
はぁ、散々な一日ね
とにかく
「病院に…お願い」
返事は無かった



車は本部病院施設に向かった
当たり前だ
私が「病院」って言ったらここに連れてこられるに決まってる
まあなんでもいいや
とにかくシンジを診てもらうことにした

へぇ?
なんでぇ?
「どうかしましたか?患者さん」
ちょっと!
「ちょっとなにやってんのよリツコ!」
診察室には白衣を着たリツコ
「りっちゃんここのお医者さんだったんだ」
なんか納得したようなシンジ
「そうよ、さあ碇君!口をあけて」
わざとらしい、まるでおままごと
「裂傷ね、浅いから薬で治るわ」
うん、だって
リツコに診てもらえてうれしいのかしら?
「じゃあ塗ってあげるか口を大きくあけて、はい、あ〜ん」
「あ〜ん」
お医者さんごっこじゃない、もう!
「はい、もう閉じて良いわよ。じゃあ後は窓口でお薬と湿布もらって、痛む間はちゃんと塗るのよ」
「うん」
「じゃあシンジ君はここまで、次はアスカちゃん診るからシンジ君は外でまってて」
「うん、先生ありがとうございました」
ほんとまるでおままごとね。でもシンジうれしそう
手なんか振っちゃって

シンジが退室した

私を残した用件は分かってる
「じゃあ先生、私も見てもらおうかしら」
ふふふ
そんな笑い声のリツコ
「初日から大活躍じゃない」
報告は受けてるわけね、当然
「別に、あいつが一方的にシンジ殴ってきたわけだし、私は自分の身を守っただけ」
何かちょっとリツコ不思議な表情
「こんな報告受けるような立場になりたくなかった」
「それがリツコの仕事でしょう?しょうがないじゃない…」
「仕事…そうね…私、本当にあなた達と家族になりたいの…今は家族ごっこでも」
「…」
「だから、次からこんなことでも、まず私に話してちょうだい」
ちょっと寂しそう
「…わかった」
「それが言いたかっただけ、後の処理はこっちでやるから。明日からもちゃんと学校行くのよ」
「うん…ありがとう」

リツコがふふふってもう一度笑う
「ねえアスカ」
「なに?」
「シンジ君これで私が医者だって信じたかしら」




病院からは電車で帰った
棒みたいに簡単な路線図だから乗り間違えようがない
繁華街が見えたから途中下車
おなかもすいたし
まずは腹ごしらえ
かわいいお店を見つけて入る
シンジはマックとかの方が良いみたいだけど
「傷にしみるからだめ」
残念そうだったけどしょうがないじゃない
パスタとピザ、それにリゾットを頼んで、はんぶんこ
私が取り分けてあげる
うん、きっと私いい奥さんになる

時々しみるらしい
いってっていいながらでも食べてる
まあお腹には勝てないのよねぇ〜

そんな時だった
「アスカちゃん」
「ん?」
「このあいだ…役に立て無くてごめんね」

胃が「きゅっ」ってなる

あの日以来はじめてシンジが口にする
その話題は避けてきた
入院中も
もしかしたら薬のせいで覚えてないのかも
そんな淡い期待を持ってたのに

なのに

「なによ…突然」
「無理やり部屋から連れ出されてから、なんかちょっと良く覚えてないんだけど。アスカちゃん助けようとしたのにアスカちゃんに助けられちゃったんだよね」
「いいの…別に…シンジは悪くない」

そう、シンジは悪くない

「今日もアスカちゃんのこと助けようとして…アスカちゃんにたすけられた…」
なんだかちょっとシンジ、うつむき加減
「ばかねぇ…シンジのことは私が守ってあげる、だからシンジは私のそばに居て」
「うん」

ちょっと黙っちゃう

そうだ
「シンジ、かばん貸して」
「え?はい」
シンジのかばんを受け取ると髪をほどき髪留めを外す
ほんとは髪留めなんかじゃない、エヴァとのシンクロに必要なの
でも小さいころから取ったり着けたりがめんどくさくって、いつの間にか髪留め代わりに使うようになっていた
その髪留めをシンジのかばんに付ける
「おまもりよ」
「いいの?大切なんでしょ?」
にぱっと笑ってみせる
「大切よ!だから大事にして」
かばんをシンジに渡す
髪留めがカラカラと乾いた音を鳴らす
「ありがとう」
シンジも「にぱっ」ってわらう

それを見て、今度は本当に笑うわたし


家に着いた
結構遅くなちゃった
リツコはおかんむり

「ご飯食べてから帰る」

メールで送っといたんだけどなぁ
「今何時だとおもってるの!」
しれっと
「9時半」
「まったく夜遊びなんてよくないわ!」
「エヴァのテストの日なんか10時近くなるじゃない!」
「それとこれとはちがいます!」

シンジが私たちをなだめようとする

「僕がお腹すいちゃって、それでアスカちゃんが食べていこうって…」
リツコが方眉吊り上げながら
「ご飯だけでこんなに遅くならないでしょう!」
「あ…あのう…えっと、ぼくが靴買ってってお願いしてそれで…」
「靴一足でこんなに遅くなるのかしら?」
「色々迷っちゃって」
本当は私がピアスやネックレスをさんざん迷って遅くなったんだけど…
「とにかくこんなに遅く帰ってくるのはもうだめよ!」
「「はぁい」」


私たちは逃げ込むようにお風呂に入った
いろんなことがあった一日だ
あぁ〜極楽極楽

あぅ…んん…

シンジの指が乳首に触れる
もう…どうしたの?
まぁシンジは時々お風呂で、何も言わず私の乳房をそっと触ることがある
きっと私はママの代わりなんだとおもう
だから触られても何もいわない
怒ったことも無い
気にしたことも無い
乳房に触れるシンジの手をそのまま私の掌で包んであげる

いつもそうしてる

今日もそうしようとした

「ごめんね」

「ん?」

どうしたのシンジ?

表情だけで語りかけた
シンジはやさしく乳房をなでる
「おっぱいのアザ、やっと消えた…」

ふふ…

そぉっとシンジを抱き寄せる

やさしく抱きしめる

「ばか」

耳元でつぶやいた



お風呂から上がるとリツコは出来上がっていた
「ごめん…いいすぎたわ…」
酔っ払うと素直になるタイプかしら?
「いいわ、ちょっとおそすぎかなって思う」

「ありがとう」
そういうとリツコはグラスを開けた



髪を乾してる途中思い出した
あっ
そうだ
リツコに頼んでみよう

「ねえリツコ」

どこからもって来たのか、ジョッキになみなみとワインを注ぎ、猫のニャンタ君とたわむれご満悦のリツコ
「なぁに」
だいじょうぶかな?
まあとにかく
「あしたでいいからさ、ピアスの穴あけてよ。お医者さんなんでしょ?」
ぐいっとワインをあおるリツコ
「いいわよ、別にぃ。ま、外科の資格は持ってないけど大丈夫よ」
「さんきゅー、じゃあ耳とおへそにおねがい」
「いいけど、おへそは痛いわよ〜」
「一瞬でしょ?」
うーんって顔のリツコ
「私があけたとき、3日くらいズキズキしたけど…」
えぇ!
「まあまかせて」
一気にワインを飲み干す

なんだか…

いや…とっても…

超心配!



先にシンジはベッドに中に入っていた
私ももぐりこむ

シンジの枕元には

ピンク色で猫のシールがはがれかかったウォークマンと

赤い髪留め

「おやすみ」
私が声をかける

「うん、おやすみ」
お返事をして私の胸元にうずくまるシンジ

シンジの宝物は

シンジの枕元にある

私の宝物は

いま、私の胸の中で寝息をたてている

おやすみ…シンジ…




目が覚める
お弁当作らなきゃ

そーっとつないだ手を離しベッドを出る
シンジはまだ夢の中

キッチンでサンドイッチを作りながら思う
そういえば昨日、ヒカリが持ってきてたお弁当
あんなの作ってあげようかなぁ
でもシンジ、ライスとかたべるかなぁ?
日本のお弁当ってみんなあんなのかな?

リツコが起きてきた
なんとも…まぁ…セクシーな格好?
未婚三十路ここにありって感じ

「おはよう」

冷蔵庫から牛乳取り出すとなんだか眠そうにイスに腰掛けた
コップを渡してあげる
そうだ
「ねえ、リツコ」
「んん〜なぁに」
「日本のお弁当って作り方わかる?」
牛乳飲みながら、んあ?って顔しちゃって
まだ酔っ払ってるのね…まったく
「ほら、半分ぐらいライスで、何かピンクいのがのっかてて、あと玉子とかミートボールとかが入ってたかな」
あぁってかおのリツコ
「たぶん、作れるけど…アスカの口にあうかしら」
「今度作り方教えてよ」
「いいわよ、でも何年ぶりかしら、お弁当作るなんて」
大丈夫かしら…

「ねえアスカ」
「なに?」
「朝ごはん作って」
はぁ…

ドン!

リツコの目の前に山盛りのパンの耳
じーっとみつめると、一本口に放り込む

「はとになった気分ね」

だって

「もぅ!今日だけよ!」

朝食を作っているとリツコが話しかけてきた
「昨日の子、転院させたわ」
え?入院しちゃったの?
そこまでやってないわよ
ビックリした私の顔を見つめるリツコ
「あぁ…昨日の子の妹ね」
あぁ…なるほど
調理に戻り背を向ける
「ありがと…」
「気にしなくて良いわ、あなたの後始末をしたのは保安部。私は横から口を出しただけ」
つまり、あの後あいつは、こわーいお兄さんたちに連れて行かれた
それをリツコが開放させた
そんなところなんだろう

私の学園生活を安穏とするため

もう一度
「ありがとう」

「いいのよ」
リツコはそれにって言うと
「あと十年位したら本当に『お姉さん』て呼ばれるかもしれないんだから」
なんだか楽しそう

「さて」
そういうとリツコはシンジの眠る私たちの部屋に入っていった
「ちょっと」
なんて言う間もなく

すぐにシンジの声が聞こえる
「んん〜やめてよアスカちゃん…」
ちょ!ちょっとぉ!何してんのよ!
すぐに後を追う
ベットの上で楽しそうにシンジをくすぐるリツコ
「なにしてるの!」
いやらしぃ〜目で私を見ると
「なにって?弟をおこしてるのよ?」
絶対まだ酔っ払ってる!
私の大声でシンジが目をさます
「うぅ〜うるさいなぁ」
しばらくして
「うわぁ!!」
ベッドに腰かかけるリツコを見て大声出しちゃって
「傷の具合はどぉ?」
まるで何にも無かったみたいに聞いてるリツコ
「あ?え?…う…うん、大丈夫」
「そお、おはよう、シンジ君」
少し状況が飲み込めたけど混乱しきりのシンジ
「あ、おはよう…りっちゃん」
リツコのキャミとショーツ姿をチラチラみてるシンジ



もう、そんなに怒らないでよ

朝食の席でリツコが何回も言ってくる

ちょっとしたいたずらじゃない

悪びれないリツコと
ばつの悪そうなシンジ

まったくもぉ!あんたたちは!

機嫌直してよ…
シンジのこえ

ふん!

ぴんぽぉ〜ん

あら?誰かしら?
チャイムのおかげで、この場から抜け出せてほっとするリツコ

インターフォンに出るリツコ
「はい、そうですが…あ、そうなの?。わかったわ、ちょっと待っててちょうだい」
何だろう?
リツコが何かこっち見てる…
絶対なんかたくらんでる…
律子が玄関に向かいドアーを開ける音が聞こえる
ん?
この声って…
「おはようございます!私、アスカさんのクラスメートで洞木といいます」
ななななんでぇ〜!
「おはよう、ちょっと待っててね」
リツコが戻ってきた
うれしそうな顔で
「アスカ、お友達が迎えに来てくれたわよ」
びっくり
確か昨日、ここに住んでるってのはいったような…
いつの間にか玄関に戻っているリツコ
「ごめんなさい、アスカもうちょっと時間掛かるから上がって待ってて」
「あ、いえ、ここで結構です」
遠慮しないで
なんて声がする
たぶん引っ張りあげてるんだろう

リツコに連れられてヒカリが顔を出した
ちょっとてれたような顔をして
「おはようアスカ、迷惑だったかな?」
こんなの初めてだ…
「ううん大丈夫、ありがとう」
うれしいなぁ

私たちの用意が終わるまでちょっと待ってもらった

今日はお迎えの車じゃなく、三人で歩いて行くことになった

「「いってきまぁ〜す」」

一歩家を出ると、ヒカリは早速目をきらきらさせながら
「すごぉ〜い!本当に二人は一緒に住んでいるのね!」
だって
あははは…
「碇君の襟元なんか直しちゃって、もう夫婦みたい!」
いやんいやん首を振って喜ぶヒカリ
きっとヒカリは…クラスのみんなは私のことをマンガに出てくるヒロインみたいに思っているんだろう

いつまで友達でいれるかな…

いままで本当に友達だった子、一人もいなかった

エヴァのテストばかりで週に2・3日しか学校に行かない
ほしいものは何でも指差せば手に入る、大人たちが持ってきてくれる
みんなよりも少しだけ勉強もできた

そんな私とは、みんな
少し距離を置いて付き合う

本当にそばにいてくれたのは
シンジだけ

大人たちにちやほやされる度
学校のテストで一番になる度
話題のおもちゃを手に入れる度
素敵な服を着る度

みんな私から距離を置く

隣にいてくれるのは
シンジだけ


ヒカリもそのうち上辺だけの笑顔しか向けてくれなくなる

それまでは
友達ごっこを続けたい


「ねぇアスカ!」
え?
聞いてなかった…
「もう、碇君ばっかり見ちゃって」
「ごめんごめん、で、なに?」
「…やっぱり、キスとかしちゃうの?ふたりって…きゃ!」
ヒカリってば、自分で言っててれてる
う〜ん、なんか面白い答えないかなぁ…
あ!そうだ!
「答えてあげなさいよ、シンジ」
握った手を「ぎゅっ」ってする
えぇ?
そんな顔するシンジ
目をきらきらさせて期待しているヒカリ
「あんまりしないよ、おやすみと、あと、おはようの時くらい。それだって毎日じゃないし、今朝だって…」
いしししし
そこまで言って、うわぁって顔するシンジ
もう、感極まって目に涙ためちゃってるヒカリ
「すてき…」
だって

シンジと手をつないで歩く
私にとってはいつものこと、でも大切なこと
さっきヒカリも言っていた

「アスカって母性タイプなのね…すてき」

すてきかどうかは置いといて
私に「母性」があるのなら
それが目覚めたのは
あの日

先に起きて泣いているシンジ
何でだかわからないけどなぐさめた私
「だんけしぇーん」
へたくそなドイツ語をしゃべったシンジ

あの時だ

はたから見れば私が少しシンジに執着しすぎに見えることも知っている
この年になっても一緒にお風呂にはいっていることだって普通じゃないのもわかってる
一緒に寝てるんだってそう

私にはシンジしかいない

だからシンジは全部私のもの…
もし、そうじゃないなら…

何もいらない

「ねぇ!アスカってば!」
え?今度はなに?
「ほんとにもう!さっきのお姉さん、あれが碇君のお姉さんなんでしょ?」
あ、リツコのことね
「そう、三十路未婚、予定もなし」
「へー綺麗な人なのに、きっと綺麗過ぎるからね」
うぅ〜んそれはどうでしょう洞木さん
なかなか厄介なんですよ、あのおばさん

「目元なんか碇君にそっくりだったし」
うわぁ、血なんて一滴も繋がってないんですけど…
「きっと美男美女の家系なのね」
いやいや洞木さん、ひげとアルコールの家系よ、多分…

うぅ〜ん、今は勝手にシンジが相手してくれるから助かるけど
私、人付き合い苦手だからなぁ
そお言うの大体シンジがなんとかしてくれてたから

くいくい
シンジがつないだ手を引っ張る
「なに?」
笑顔のシンジ
「アスカちゃんうれしそうだね」
シンジが耳元でささやいた
「さっきからずっと笑ってる」

そっか、友達といると笑えるんだ
じゃあ、ずっと笑っていたいな


「なになに?こそこそ話しちゃって!」
ヒカリがまた目をきらきらさせている
ふふ
「ヒカリ、教えてあげよっか」
「なに!」
「シンジがね、『大好きだよ』だって」
引きつり笑うシンジ
きゃーきゃー喜ぶヒカリ

あぁたのしい!



教室に着くと黒板にでっかく私とシンジの名前が書いてある
何かな?
シンジと顔を見あわせる
ハートマークの下に三角があってその下にたてに棒線
その線の左に「アスカ」
右に「いかり」

う〜ん、謎ね

突然ヒカリが、それをすごい勢いで消してしまう
「誰!こんなことしたのは!」
こっちに向き直ると
「気にしないでね、ほんとにもう」

う〜ん、とりあえず笑っとくか


あいつと目が合う
顔が腫れてる
ミイラみたいに顔に包帯まいて
ちょっとやり過ぎたみたい

あ!
シンジがあいつのほうにいちゃった

「鈴原君…だよね…ごめん」
何でシンジがあやまんのよ…
「うるさいわ…」
そっぽ向かれちゃった
しょうがないか
多分あいつとはもう、友達になれないな…

席に着くとまた皆に囲まれる
「碇くんてやさしいのね」
だの
「ふたりのアドレス教えて」
とか
あ、ヒカリが立ち上がった
また皆を黙らせてくれるのかな?

「ねぇ皆聞いて!今日私迎えにいったら見ちゃったの!碇君とアスカの生活」
あちゃ〜
火に油ですか
また皆「きゃ〜あ」ってなちゃってる
「フィアンセと一緒の生活!もう憧れちゃう!」
昨日のほうがまだ静かだったかなぁ〜



やっぱり突然だった
授業が終わり皆帰り始める
そんな時

携帯がなった

緊急着信
非常事態

使徒だ

支持通り校舎の屋上で待つ
皆騒いでる
先生たちが校舎に残っている生徒をシェルターに誘導している

迎えが来た
シンジとはいったんここでお別れ
だからおまじないしてもらう

きゅっ
抱きしめられる
「がんばってね、アスカちゃん」

うん
がんばる
シンジのために

胸いっぱいにシンジの匂いをすいこむ

さあ!何だってやってやる!
怖くなんか無い!

迎えの垂直離着陸機に勢いよく乗り込んだ
元気いっぱいシンジに手を振る
一生懸命大きな声で何か言っているシンジ
大きくうなずく私
こえは聞こえないけど私にはわかる
だって私には聞こえるもの

アスカちゃんがんばれ!

シンジが応援してくれてる


小さくなってゆくシンジ
SPにつれられて行く
シェルターではない
安全なところにいくはず

声に出す
「がんばるぞ!」




海自の戦艦ロボ2号は空を飛んできた使徒には役立たずでした
チャンチャン

まあ、大砲ぶっ放すだけなら他の船と変わらないしね

そんなこんなで使徒は易々と進入に成功
こちらは一般市民の避難もほぼ完了
「ほぼ」ってことはまだどっかにいるって事か…
いやだなぁ

陸自の機甲部隊を蹴散らしながらやってきましたよぉ〜

んん〜

何か
あの形
生理的にいや


こちらに気が付いた使徒
使徒の光の鞭が要塞都市を切り刻む

エヴァに向かって鋭く突いてきた
ガシャン!って音と激しい振動

少し離れた丘にたたきつけられる使徒の光る触手

あんなもん平手で弾き飛ばしてやった

あ、勝てる
こいつも
弱い

じゃあせっかくの武器だからちょっと使ってみっか!

豪快に火を吐く対使徒用火器
使徒の悲鳴が聞こえる

あんまりいじめるのもなんだから止めさしてやるか

はいずり逃げ惑う使徒を早足で追い詰める
私がすぐそばに近づくと
手当たりしだいものを投げつけてきた

戦車とかビルとか

いったいなぁ

めぼしい物が無くなると、今度は車を投げつけてきた

車?

尽き果てようとしているのか
使徒の投げてくる車は緩い弧を描いてくる

目を疑った
人が乗っている

「ほぼ」完了

ほぼ…

とっさに車を受け止める
ゼリーでも受け取る用に

何とかして
全部受けとめた
静かにエヴァの足元に並べる
中の人は?
良かった、生きてる…
「何してるの?!アスカ!」
作戦部長様の声が響く
いやだ
目の前で人が死ぬところなんて…
絶対にいやだ


あ!

やつも死にたくは無いらしい

私を遠くにやってしまえば逃げ切れるとでもおもったのだろう

もう一台車を捕まえると、おもいっきり遠くに投げ飛ばした

このぉ!
飛んでいく車を追いかける
ジャンプ一閃、見事にキャッチ
できる限りソフトに受け止める
そのまま滑り込むように着地

いたたたた
野球選手はヘッドスライディングなんてよくやるわ、
もう…

そっと車を掌から下ろす
中から人が出てくる

胃が絞り上げられた

呼吸が止まる

血の気が引いていく

「シンジ…」

先に下りたSPに支えられて
足を引きずっている
あとから二人
男の子が…

鈴原と…めがねだ


「なにやってるの!」
何回目だろう
作戦部長の叫び声

「シンジが…」
「え?」
「ここに…」
「まって、保護したはずよ…」

なに言ってるの
目の前にはシンジが
SPの人と鈴原に支えられ必死に逃げている

「今連絡が取れたわ…ごめんなさい、シンジ君の保護に少し手間取って…見えてるわね…ご覧の通りよ」
つぶやく
「怪我してるじゃない…」
「アスカ?」

冗談じゃない
「私が守る!」

「落ち着いて!」
「心理グラフ乱れています!アスカちゃん落ち着いて」

絶対に!
「私が守る!」

「アスカ!」

頭に血が上ってしまった

そこを使徒につけこまれた

振り向けば使徒

触手を打ち付けてくる
はいつくばったエヴァ

いい的だ

火花が散る

危ない
シンジが
まだ、あんな近くに

私ははいずり、エヴァをシンジ達の上に覆いかぶせる

神様、私はどうなってもかまいません
どうかシンジを助けてください


胸に激痛が走る
使徒の触手がエヴァを貫いた

貫いた触手はシンジのすぐそばに


神様なんていない


祈ったのに
シンジは触手が地面に突き刺さった勢いで吹き飛ばされてしまった

シンジが地面にうずくまったまま動かない

「アスカ!落ち着いて!」
「心理グラフが!アスカちゃん!」

エヴァの顔面部拘束具が弾け飛ぶ
醜いエヴァの下顎があらわれる
獣のような叫び声

ママ…お願い…力を貸して!

貫かれたままなのもかまわず振り返り触手をわしづかみにする
思いっきり使徒の触手を引き寄せる
勢いそのままにエヴァに叩き付けられる使徒
そのまま噛み付き食いちぎる
ナイフを手に切り刻む
ただでは殺さない
こいつに自分のした事の大きさを教えてから殺してやる

喰いちぎり
切り刻み
引きちぎり
踏みにじり
引き裂いた

そこでやつは事切れた

使徒のコアはどす黒く、光を失っていた


すぐさまプラグを排出させると外に飛び出す
肺の中のLCLを吐き出すのももどかしい
倒れたシンジに駆け寄る

抱きかかえる
うまく声が出ない

シンジのうめき声

良かった
生きてる

鼻と口からLCLがこぼれシンジの顔をぬらす
涙も…

遠巻きに鈴原とめがね

関係ない

そのままシンジを抱きしめ
キスをする



救護班が来るまで私はその場でシンジを抱きかかえていた
意識はある
時々うめき声
命がある証拠
シンジがうめく
シンジの握り締めた掌の中からキリキリと何かが擦れる音がする
「大丈夫よ」
そう問いかけながら掌をそぉっと開いてみた
チラッと見ると、また握らせた
うれしかった

「お守り…」

つぶやいた
聞こえたのかな
鈴原たちがチラッとこっちを見た

気にするもんか
もう一度キスをした


救急車にシンジが乗せられていく
救護班と一緒にやってきたミサト
「使徒殲滅、見事だったわ」
「ありがと」
睨み付けられる
「エヴァの拘束無断解除、機体の放置、常時通信義務の放棄」
私も睨み付け、言ってやった
「民間人の退避誘導の失敗」

パン!

頬を叩かれる

だから何よ!

「これでゆるしてあげるわ…」
それだけ言うとミサトは行ってしまった

鈴原たちも連れて行かれた




結局シンジは打ち身と捻挫ですんだ
一週間もすれば走り回れる

人騒がせなんだから
もう

大事を取って今日は病院で一泊
ちょっと触るだけで痛がって、大袈裟なんだから
しょうがないから今日は隣にベッド持ってきてもらっって寝ることにした
リツコに手伝ってもらってベッドをシンジのベッドにぴったりくっつける
手だけつないで眠る

中々寝付けない二人

「アスカちゃん?」
「おきてるわよ」
「…ありがとう」
「何よ」
「助けてくれて」

いいの、そんなこと

「まあね」
「…アスカちゃん」
「ん?」
「ごめん」
「なに?」
「お守り、無くしちゃった」

そっと手を離しベッドを出る

小さく「あっ」ってシンジの声

シンジの枕元に腰掛ける
私を見上げるシンジ

そっとキスをする

立ち上がると私はかばんの中から小さな袋を取り出しシンジに渡す
「あれ?」
シンジが中身を見て声を上げる

救護班が到着したとき、そっとシンジの掌から抜き取った
どうせシンジが持っていたら取り上げられるのがおちだ

「なくしちゃだめよ」

うん!そお言うシンジはうれしそう

「ねえシンジ…」
シンジの顔は私の膝の上
「うん?」
ゆっくり頭をなでてあげる
「なんであの二人と一緒にいたの?」
本当は知ってる
警護班から報告を受けた
「うん…車に乗り込むとき見つけたんだ、植え込みに隠れてるのを」
「ふぅん」
「アスカちゃんが戦うとこ、見たかったんだって」
「ばかね」
「うん、だから運転手さんにちょっと待ってもらって無理やり乗せたんだ、危ないから」
やさしいシンジ
まるでその場にいたように、手に取るようにその場景が浮かぶ

危ないよ!鈴原君!
ええわ!ほっとけ!
とにかく逃げなきゃ!早く!
なにすんのや!
運転手さん!手伝ってください!友達なんです!

「それで自分までこんな目にあっちゃって、ばかねぇ」
てれるように笑うシンジ
「でも、目の前でアスカちゃんが戦ってるところ見れたよ」

結局本部施設への避難は使途と自衛隊の戦闘のおかげで失敗
シェルターに向かうも避難民の事故に巻き込まれ立ち往生
そのあとは…

「アスカちゃんがかばってくれたのもちゃんと覚えてる」
寝返りを打つと私のお腹に顔をうずめる
「そのあとすぐ気うしなちゃったけど…ありがとう…アスカちゃん」
丸まるようにシンジを抱きかかえる

シンジがここにいれば私は何も要らない
シンジがいないならこんな世界いらない




結局シンジは4日も学校を休んでしまった
「早く行きたいなぁ」
だって
土日をはさんで月曜日からまた学校に通う

あ、そうそう、ヒカリは毎日お見舞いに来てくれた
鈴原から聞いたらしい

まさかシンジのこと狙ってるのかしら?

月曜日は迎えの車で登校した
まだ、ちょっと歩くのが辛いらしい
もう一日休もうか?
そう聞いたら
「大丈夫」
だって
よっぽどあの学校が気に入ったのね

教室に入るとまたまた大騒ぎ
「アスカちゃんすごぉーい」
とか
「碇くん守ったんでしょ」
とか
「寝ずに碇くんの看病してたんでしょう」
とか
「二人ってやっぱり結ばれてるのね」
とか
まあ、最後のはヒカリなんだけど…


放課後またあいつに呼び出された
今回は
「碇、ちょっとええか」
私じゃないんだけど
心配だから付いていく

「すまんかったな、碇」
そお言うと鈴原は頭を下げた
相田の頭も下げさせる
「お前たちも命懸けなんやな…悪かった」
先日妹さんは退院した
そおリツコから聞いている
「たいした怪我でもないのに、八つ当たりやな…すまん」

シンジが手を差し出す
「うん、良いよ鈴原君、仲直り」
「すまんな」
差し出された手を握る鈴原

良かった

え?
「アスカちゃんも」
えぇ〜!
わたしも?!?!?!
握手しろってぇの?
こいつと?!

笑顔のシンジ

しょうがないなぁ

「はい」
手を差し出す
「悪かったな、凶暴女」
ぬぬぬぅ!
手を握ると、おもいっきりつぼを押してやる
「あいだだだだだだ!なにすんのや!この馬鹿力!」
ふん!

面白そうに笑うシンジと相田

シンジが耳元でささやく
「良かったねアスカちゃん」

ふん!

「ははは、アスカちゃん笑った」




今日からまたヒカリが迎えに来る
ぴんぽーん
玄関に向かうリツコ
「おはよう洞木さん、さ、上がって待っててちょうだい」
リツコったら、わざとらしくエプロンなんかしちゃって
よっぽどシンジから聞かされたヒカリの妄想がお気に召したのね

そお言えばシンジ、朝からずっと携帯いじって
ヒカリが来たらぴったりいじるのやめた…
あやしい…

「シンジ!貸しなさい!」
シンジの携帯をひったくる
「うわぁ!」
浮気しようなんて考えてんならゆるさないんだから!

ぴんぽーん

あら?今度は誰かしら?
そうつぶやきながらインターフォンに出るリツコ
「はい、ええ、ああ!ちょっと待っててね」
リツコが玄関に向かう

「碇くんのクラスメートの鈴原です」
「同じく相田です」

えぇ!

シンジの携帯をチェック

送信メール

「7階だよ」

もしかして鈴原としてたの?


「どうぞ、上がってちょうだい」
「「おじゃましまーす」」
ひょっこり顔を出す二人
「おう!迎えにきたで!って委員長!なんでおるんや!」
「鈴原こそなんで来てんのよ!」
「わしゃシンジ迎えに来たんじゃ」

とても普段私たちに見せないような笑顔でリツコが
「わざわざありがとうね、これでも飲んで待っててちょうだい」
「「いただきます!」」
ふん!ってかおのヒカリ

皆で学校へ向かう
早速鈴原が
「なあシンジさっきの綺麗なお姉さんがうわさのお前の姉ちゃんか?ええな〜」
あははって適当に受け流すシンジ
「そうよ、女手ひとつでシンジ君を育てた名医なのよ!」
はい?ヒカリ…その設定はいつでてきたの?
「ほんと、あこがれるわぁ〜」
おーい洞気さぁ〜ん
あーあ、ヒカリ完全に向こう側にいっちゃってるわね

みんなでわあわあ騒ぎながら登校する
たのしいなぁ
毎日こんなだったらいいなあ

「なんやおまえら、手なんかつなぎおって」
悔しそうに吐き捨てる鈴原

ふ〜ん
そうだ!

えい!
見せ付けるようにシンジに飛びつくと
「大好きよ」
わざとみんなに聞こえるような声でいって
頬にキスした

大喜びするヒカリ
なぁぁぁぁぁ!って顔してる鈴原

風が吹く
シンジの鼻を私の髪がくすぐる

「アスカちゃんのにおい」

ふふふ
もう毎日学校に行きたい!
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