いつもと同じ夢

ここから先も、ここより前も
何度も見てきた

大きなおなかをした私…
そのおなかにそっと耳を当てるシンジ…
「二人とも早く出ておいで」
うれしそうにシンジがつぶやく
「安月給なんだから、大変になるわよ」
意地悪な私
「がんばるよ、二人のためにも」
「いいわよ、がんばらなくても。落ち着いたらまた私が仕事に戻るから」
ほんとに意地悪ね…わたしって

ばつの悪そうなシンジ
また私のおなかに耳を当てる
「…動いてる…こっちにおいで…ここはとっても素晴らしい世界だよ」
私はシンジの頭をなでながらつぶやく

「ほんとに、素敵な世界だわ…」



そこで目が覚めた

病室のベットの上
隣にはシンジ…
かわいそうに…薬が切れたのね
脂汗うかべてる
時々うめき声も

「シンジ…シンジ…」
目を覚ますまで何回もやさしく声をかける

目をさました

ひどく痛むのか、右手をかばっている
「ほら、お薬飲みましょう」
抱き起こし、口の中にお薬を入れてあげお水を飲ませる

しばらくすると薬が効いてきたシンジはまた、眠りの中に落ちていった
「ありがとう…アスカちゃん」
寝言かしら?


今日は日本に到着する日だ

昼過ぎにシンジは目をさました
接岸2時間前

私はここ三日、シンジに掛かりっきりだった
エヴァは調整中
トレーニングは拒否
それに今はちょっとエヴァに乗りたくない


私たちが支度を済ませ、しばらくして下船の許可が出た

私たちの荷物一切は、本部に一旦送られるそうだ
だから身の回りのものだけもって下りた

シンジはお薬のせいでちょっとふらふらしてる
左手には荷物
持ってあげるっていったのに
無理しちゃって
しょうがないから、そっと腰に手を回し支えてあげた

ドイツと一緒
黒塗りの車が待っていた

私たちの姿を確認したらしい
中から人が降りてきた

「あれ?」
シンジがつぶやく

車から降りた女性が小さく手を振っている

「リツコさんだ」

シンジの義理のお姉さん
わざわざ迎えに来てくれたみたい
確か仕事は医者だか研究員だかだったっけ

「さあ乗って、荷物は…ちょっと!コレ積んで頂戴」
なんだかえらそう
まわりのSP達をあごで使ってる

促されるまま車に乗り込む、静かに車は走り出した

「アスカちゃんようこそ日本へ」
にっこり笑ってそう話しかけてくれた

「お帰りなさいシンジ君」
シンジにも

シンジの義理のお姉さんは楽しそうに微笑みながら
「びっくりした?」

したわよ
シンジも私もうなずいちゃう

「ごめんなさいね、秘匿事項でね、私本当は医者じゃないのよ」
いたずらっぽくウインクして

理解した。組織でそんな必要があるのは上級職員…
「本部に到着したら改めて挨拶するわ…それからシンジ君」

シンジに近寄ってきた
自分でも気づかないうちにシンジを引き寄せる

…渡すもんか
全部私のもの…

「手、診せて」

あれ?
ああ、けがのことか…
ちょっと安心

「聞いていたよりひどいわね…お薬見せてくれる?」

いわれるままに薬を差し出した

お姉さんは小さな声でつぶやきながら薬を吟味し始めた
「化膿止めに鎮痛剤は良いとして…ふん、やっぱり…ミサトの考えそうなことだわ」
そういうと二種類だけ残してほかは車の窓からばら撒いてしまった

残った2種類の薬を返してくれると笑顔でシンジに話しかける
「この二つだけで大丈夫よ」

笑顔のまま視線だけ私に移す
何かを訴える目で
きっとこの車は私盗聴機だらけなんだろう
毎度のことだけど気がめいっちゃう

とすると、さっきのリツコさんの呟きは誰かに対しての警告…

本部に到着するまではリツコさんが他愛のない話をしてくれた
私にしゃべるなってことだと思う

何も知らないシンジは楽しそうに話に聞き入っていた


本部に到着するとシンジとは別行動
しょうがない
コレもいつものこと
シンジは原則ビジタースペースか見学用ブースまでしか入れない

まぁここも何度か出入りしてるうちに、私の周りくらいなら大目に見てくれる様になるわ


私とシンジの義理のお姉さんは本部施設の深部へ
シンジは職員の人たちに連れられて来客室へ行くことになった
「じゃあ、お願いね」
シンジの義理のお姉さんが職員たちに言う
何か指示を出しているみたいだった
ばいばい
小さくシンジが手を振っている

長い長いエスカレータ、シンジが見えなくなるまで手を振るシンジを見つめていた


リツコさんが深部へ向かう途中、不意に呟いた
「もう大丈夫よ」
盗聴の心配はないってことね

「あの薬なんだったの?」
リツコさんの表情が曇る…
「シンジ君には私のこと『やっぱり医者だったって』いってくれないかしら…」
「いいわよ…」
「ありがと…あの薬飲んだ後シンジ君良く寝てたでしょ」
たしかに
「ええ…」
「シンジ君がエヴァとシンクロを一時的にでも起こしたことは聞いているわ」
つまりそれなりの地位にいるって事ね…
「そんなことを知ってしまった作戦部長様としては『何とかこの子も戦力に』って考えたんでしょうね…」
つまり…
「あの薬を…そうね、手の怪我が治るころまで飲み続けたとして、そのころに『エヴァのパイロット候補になってみないか』って聞かれたら確実にシンジ君は『はい』って答えるわ。そのころには自分で物事の判断なんてできなくなっているはずだもの…」


人類の敵「使徒」
じゃあ私にとっての「使徒」は…あの女

「アスカちゃん、まだ信用出来ないかもしれないけど、私はあなたたちの味方よ…」



それからは会話も無いまま、本部司令視執務室につれられてきた

びっくり

シンジのパパが座ってる

「よくきた」

相変わらず要点しかしゃべらないのね

シンジのパパの脇にはあの女…

横に立っていたリツコさんが突然
「技術部長です、よろしく」
コレもびっくり
それで握手
大人のマナーってやつね

次にあいつ
にっこり微笑みながら
「始めましてじゃないわね。ようこそアスカちゃん」
作戦部長…
私の敵…
こちらも満面の笑みでお返事
「これからよろしくねミサト」
先制パンチってやつよ
絶対にあんたなんかに「さん」なんてつけないんだからね

短い沈黙…

あいつはくるりと踵を返す
「それでは指令、私はこれで」
そういうと、ツカツカと靴音を鳴らしながら部屋を出て行った

まるで鳴り響く靴音が「その喧嘩買った」っていているようだった



部屋に静寂がこもる…

「これから頼む」

やっぱり話の前後すっ飛ばしでしゃべるシンジのパパ
いい終わるのと同時に突然立ち上がる
「いくぞ」
どこにですか?て聞く暇も無く部屋を出て行った
急いで追いかける私とリツコさん


着いた先はE層
本当の重要機密が有るフロアー
まるで要塞のような扉が開かれる

息を呑んだ

言葉も出なかった

胸が苦しくなる

ようやく口をついた言葉
「なにやってんの…なにやってんのよ!今すぐ出して!」

目の前にはシンジ…
おおきなおおきな水槽のなか
シンジが漂っている
死んだように眠っているシンジ
「シンジ!シンジ!」
分厚い水槽の壁を力いっぱいたたいてたたいてたたきまくった
「落ち着いてアスカちゃん!」
リツコさんに羽交い絞めにされ水槽から引き離される
それでも足で必死に水槽を蹴り続ける
「落ち着いて!治療中なのよ!良く見て!怪我のところ!」
ついにはリツコさんに床に押さえつけられてしまった

涙で視界がゆらぐ
「シンジを出して…」
必死に声を絞り出す

「このままではシンジの手はまともに動かなくなる」

シンジのパパが押さえつけられた私に近づきながら話しかけてきた
「放してやれ」
そういわれると、ゆっくりと私からリツコさんは離れていった

ふらふらと私は水槽に駆け寄る
「シンジ…」

後ろから声が聞こえる
「私が指令に連絡したの、このままじゃシンジ君の手は握手もできなくなりますって」

「だから私が許可した」
私は二人の声だけ聞きながらシンジの顔とシンジの右手を交互に見つめた
ゆっくりとだけど見ていれば解るスピードで右手の傷が少しずつ消えてゆく

「本当はあなたのための施設なのよ。エヴァの搭乗者を速やかに回復させるための」
声をふりしぼる
「そんなにひどかったの?すぐに治るの?」
「エヴァの輸送船にも十分な治療施設はあったわ、でもそれはアスカちゃんのために用意されたものなの。それに…」
「それに?…シンジは私がエヴァに連れ込んだし私と一緒に戦ってくれたのよ!何ですぐに治してくれなかったのよ!」
リツコさんの冷たく硬い声が響く
「偉い誰かが認めなかったのよ…シンジ君がハンディキャップを背負ったほうが色々やり易い人がね…」

「だから私が許可した」

きっとあの女だ…

でも今は
「…おじさん…ありがとう…」

「あぁ」



精一杯の感謝の言葉



それから2時間ほどでシンジは水槽から引き上げられた
それまでの間、私はずとシンジを見つめていた
ママなんかだいっきらい…
でも、あいつはもっと嫌い

その間、私のことを心配しているのか、リツコさんがいろいろ話しかけてくれた
「かわいいおちんちんね」とか「今回の治療に掛かる費用で外車が買える」とか
ありがとう…やさしいのね…リツコさん…


しばらくしてシンジは目をさました

元気一杯

不思議そうに右手を何度も眺めていた
「日本てすごいねアスカちゃん、さっきまでぜんぜん動かなかったのに。ほら!」
グーパーしてみせるシンジ

昨日まで時々手をヒラヒラさせていたのは、何とか動かそうとしていたのね
ごめんね、気づいてあげられなくて

「日本にはいろんな凄いものがたくさんあるわよ!」
茶化すリツコさん

「おきたか」
ノックもなしにシンジのパパが入ってきた

「父さん!」
うれしそうなシンジ
一生懸命、色々今までのことを話してる
「あぁ」とか「そうか」しか返事をしないシンジのパパ
でもとってもシンジはうれしそう

よかったねシンジ

「それで今日から父さんと暮らせるの?うれしいなぁ!」
ほんとにうれしそうなシンジ

でも
「すまないな、シンジ」
「え?」
リツコさんが割ってはいてきた
「所長はね今日から長期の出張なの、だかシンジ君は所長が帰ってくるまで私の家で待ってもらうことになったの」
「そんなぁ」
本当にがっかりした様子のシンジ
かわいそうに、今日は一晩中なぐさめてあげよう
そうそう、部外者のシンジの前では「指令」ではなく「所長」って言わなけりゃいけない
めんどくさい

それに本当は指令は長期出張なんてしない…
保安のために毎日違うセキュリティーハウスを転々としている
まぁ、明日からは本当に出張に出るらしい
本当は昨日にも出発しなけりゃいけなかったそうだ…
シンジのパパも楽しみだったのね…


もうちょっとだけシンジと話をしてシンジのパパは仕事に戻っていった
「またね」
残念そうなシンジ
「あぁ」



ゲストルームに移動した。私たちの今後についてリツコさんから説明を受けるために

「さっきも言ったけどシンジ君は家に来てもらうわ、家族水入らずね」
「アスカちゃんもでしょ?」
さも当然のようにシンジが口にした

「パイロットには本部施設内で生活してもらいます」
突然事務的な口調になるリツコさん
私もシンジもそんなことひとつも聞かされていなかった
「バカいわないでよ!なんで私がそんなところで暮らさなきゃいけないのよ!」
「規則です」
氷のように詰めたい声
「大体シンジの面倒は!」
「私が見ます」
なにが私の味方よ!
「じゃあシンジを私の部屋で」
おろおろするシンジ
何とかして私の元に
全部私のものなんだから

突然リツコさんがぷるぷるふるえだした
「ぷっぷぷ!あはははは!」
へ?
「あぁ〜面白かった!冗談よ、じょ・う・だ・ん」
へぇ?
「アスカちゃんも家で暮らすのよ、愛し合う二人を離れ離れになんかしないわよ」

クスクス笑うリツコさん

「ばか!私じゃなきゃシンジの面倒見るのがたいへんなだけよ!変な勘違いしないで!」



そんなこんなで私たちは本部を後にした
迎えの車に乗り込む直前、リツコさんがシンジに何かを呟いてからすこし離れたところに止まっている車を指差した
シンジのパパだ
こっちに気づいた
手を振るシンジ
うなずくおじさん

シンジのパパが乗った車はすぐに出発した
「おみやげ…わたせなかった…」
残念そうだけどどこかうれしそうにシンジは呟いた



リツコさんの家
町の外れにあるちょっと古いマンション
3LDK
私たちの部屋もちゃんとある
って言うか部屋は使っていないらしい
「母さんがいたころからここで暮らしているの」
へー
「さあ上がって」
何かたくらんでいるような顔でドアーを開ける
「おじゃましま…」
そこまで口にしたところでリツコさんに言葉をさえぎられた

「今日からここが二人のお家なのよ『お邪魔します』はないんじゃない?」

リツコさんはいたずらっぽく怒っている

「ただいま」
先にシンジが口にした
私も…なんだかてれくさいけど
「ただい…ま」

「おかえりなさい」


荷物は明日届けられるらしい
きっと中身をひっくり返してチェクするんだろう
私の部屋は昔リツコさんのお母さんが使っていた部屋だそうだ
シンジの部屋はシンジのパパの部屋をそのまま使う
シンジの部屋はとても殺風景

「あの人、ここで暮らしたことなんか無いのよ」
そういうリツコさんは少し寂しそうだった

「さぁ!今日はパーティーよ!」
次々とテーブルに料理を並べだすリツコさん
「これリツコさんが作ったの?」
あまりの豪華さに思わず声に出しちゃった
「残念、ほとんど出来あいよ」
そういいながらリツコさんはシンジをいすに座らせた
覗き込むようにシンジを見つめる…
「今日から家族水入らずね」
うれしそうなリツコさん
かがみこんだリツコさんの胸をチラッとみるシンジ

…エッチ

ちょっとけってやった

嫉妬でもしたかと思われたみたい…
リツコさんはクスクス笑ってる

「さあ食べましょう!」




楽しい食事だった
リツコさんはワインでほろ酔い
シンジはリツコさんのペットの猫と遊んでる

「ねえシンジ君」
グラス片手にりつこさんが
「シンジ君アスカちゃんのこと『アスカちゃん』て呼ぶじゃない?」
「うん」
猫に夢中なシンジ
「じゃぁ私も『リツコちゃん』て呼んでもらおうかしら」

あーぁ、完全によっぱらてる…

「これからずっと一緒に暮らすんだし今まで離れ離れだったけど私たち姉妹なんだから、ね?ほら、言ってみて『りっちゃん』」
ちょっと困った顔のシンジがあたしに目で助けを求める

相手は酔っ払い
あきらめなさい

シンジは観念したらしい
何回も「ほら、はやく」ってつめよられ

「りっ…ちゃん」

「よく言えましたぁ〜!」
言うのと同時にシンジに抱きついてきた

思わずリツコさんの頭ひっぱたいちゃった

笑い出すリツコさん
つられて笑うシンジ
あたしはため息

「アスカちゃんも『リツコさん』じゃなくていいわよ」

さすがにリッちゃんは…

「じゃあリツコって呼ぶ」

うれしそうに笑ってくれた

「あ、そうそう…」
そういいながら千鳥足で部屋に向かうと何か持って帰ってきた
「はい、アスカちゃん」
携帯を渡される
「本部からの連絡とあなたの保安用。残念だけど電源は任意に切ることはできないわ」
つまり発信機つきで常時盗聴もされるってわけね
「でも通信費は組織もちだから好きなだけかけまくれるのよ、ドイツでも南極でも火星でもかけ放題!じゃんじゃん使っちゃいなさい」

シンジがうらやましそうに
「いいなぁ〜アスカちゃん」
明るく振舞う私
「どーしてもって言うんなら貸してあげるわよ」
割ってはいるリツコ
「シンジ君には私が用意しておいたわ、はい」
シンジにも携帯を渡す
「ありがとう!リツコ…じゃなくてりっちゃん」
早速シンジは携帯をパカパカやっていじくりだした

私はリツコに目で訴える
…シンジまで見張る気?

通じたみたい
「大丈夫、本当に私が買ってきたのよ」
早速携帯のカメラで猫を追い掛け回すシンジ
「シンジ君、その携帯のお金、私が払うんだからほどほどにして頂戴ね」
「はぁーい」
「いっぱいかけるときはアスカちゃんの携帯使ってね」
「はぁーい」


リツコはとっても楽しそうだった
シンジもたのしそう
私もたのしい



3日ぶりのお風呂
シンジの体をごしごし洗う
そのあとで
一回シンジのことこずいてやった
「リツコのおっぱいのぞいたでしょ、このばか!」
言い訳するシンジ
「だってたまたま見えちゃっただけだし、それにちらっとだよ」
あーなさけない
シンジの前にのりだし、目の前に私のむねを突き出してやった
「女にはみんな付いてるんだから!めずらしいわけじゃないでしょう!」
もう一回こずいてやった



お風呂から上がると早速リツコがからかってきた
「いつも一緒にお風呂入るの?」
酔っ払いの言うことは聞き流すのが一番
「そうよ」
「じゃあ…シンジ君!明日は私とはいろっか」
シンジににじり寄るとこれ見よがしに胸を押し付けてきた

パン!

思いっきりリツコの頭を引っぱたく
「飲みすぎ!」
「もぉアスカちゃん、冗談じゃない」
「シンジもさっさと服を着る!」
「はーい」

これじゃあたしが二人のママじゃない



日本の夜は少し寝苦しい
シンジは寝付くまで携帯をいじくりまわしていた
明日は朝寝坊しても大丈夫
学校は来週から通うらしい
私のメニュー再会は明々後日から
明日と明後日は三人で買い物なんかしながら町を見て回る予定

だんだん眠くなってきた…
今日は夢も見ないで眠りそう
シンジ…よかったね…
まどろみの中そう呟いている私
「うん」
シンジの声が聞こえた
私は幸せだ…




朝ごはんを作る音が聞こえる
たっぷり寝たから朝が気持ちいい

さぁ、きょうは王子様にどんな目覚めをプレゼントしよう
とりあえず鼻をつまんでみた
しばらくして口で息を始める
そうだ…
鼻をつまんでいた手をそぉっと放す
静かにシンジの上に覆いかぶさる…
頭に手を回して…せーの!
ぎゅぅぅぅぅぅぅぅ!
すぐにシンジはじたばたし始めた
「おはようシンジ」
「おはよ…アスカちゃん」
「乙女のおっぱいでおきた気分はいかが?」
ベットから元気よく飛び降りる私
ベットの上でうなだれるシンジ

今日も小声でシンジが呟く
「アスカちゃんお嫁さんにしたらぼく死んじゃうよ…」

今日も聞えないふり

部屋を出るとリツコが食卓に朝食を並べ始めたところだった
「おはよう二人とも、よく寝れた?」
「快適!」
「シンジ君の悲鳴聞えたわよ」
「いつものことだから気にしないで」
「まぁ、怖いお嫁さん」
「うっさい」

顔を洗って戻ってくるとシンジは先に座っていた
だめじゃない
「顔洗ってから!」
「はーい」
シンジを見送るリツコはちょっと苦笑い



ベーコンエッグにサラダとトースト
「普段料理なんかしないから味のほうは大目に見てね」
まぁ、誰が作ってもそんなにあれなことは無いんじゃないかしら?このメニューなら
「紅茶かコーヒーにする?それともジュース?」
シンジは即答でジュース、私も一緒でいいや
「本当に仲良しね」
時々掛かってくる電話に対応しながら楽しそうに私たちを眺めるリツコ
シンジの世話を焼きたいらしい
「シンジ君は目玉焼きはお醤油?それともソース?」
シンジの答えは
「しお」

あれ?…しょうゆ…ショウユ…何だっけ
あ!
「ねえシンジ覚えてる?あんた家に来たころ、なんか食べるときに『ショウユがいい』って駄々こねたの」
「しらない」
「ほんとこまったちゃんだったんだから。ねえリツコ、私、醤油っての使ってみる」
黒いさらさらしたソースね、匂いは…なにこれ?
「なれないうちはそんなものかしらね」
リツコは十分予想していたみたい
結局リツコが笑いながら自分のと交換してくれた
「アスカちゃんはこまったちゃんだなぁ」
なにうまい事言ってんのよ!このおばかシンジ!

「はいはい、朝からパンパンシンジ君をひぱたいちゃだめよ」
また携帯がなる
でも今回のはなんだか朗らかに対応してるわ
何かしら?

リツコは電話を切ると
「よかったわね二人とも」
何が?ってシンジの間の抜けた声
「二人とも学校は同じクラスですって」
やった!でも…ってことは
「小さい学校なの?」
「あら?何で?」
「だって私とシンジが同じクラスなんでしょう?今までは15人しかいなかったからみんな一緒だったけど…」
「一学年6クラスある大きな学校よ、二人は2年A組だって」
へ?
「シンジも?」
「そうよ?どうして?」
だって…
「シンジ13歳よ?1年生よ?」
うん?ってかおのリツコ。まだ酔ってるのかしら?
「シンジ君、ちょっと」
食べ終わって早速携帯をいじっていたシンジは話を聞き流していたみたい
「なに?」
「シンジ君14歳よね」
「来年ね、今はまだ13」
ちょっと考え込むリツコ

「シンジ君…あなた14歳よ…」
「ちがうよ、僕13歳だよ」
そうよ私のほうがひとつお姉さんなんだから
「リツコ、なんかの勘違いよシンジは13よ」
真顔のリツコ
「ちょっと待ってちょうだい」
そういうとどこかに電話をかける

2時間後
とんでもない答えが待っていた
シンジは本当に14歳だった
なんなの?それ
関係各位に片っ端から確認させてドイツまで追跡調査までさせたらしい
原因はよりにもよって私のパパ
ろくすっぽ確認もせずシンジを預かってしまったらしい
「たしか碇がそういっていた」
だそうだ
シンジ今まで人生得してたのね

シンジもびっくり
私もびっくり

「まっ、そういうことのようね…いいじゃない一緒にいられるんだから」
何でりつこは楽しそうなのかしら?

「勉強大丈夫かなぁ…」
一年学校にいくの短くなるじゃないなんていわれて妙な納得をしてしまったシンジ

「まぁとにかく今までどおり私がシンジのお姉さんでいいわね!シンジ!」
もう開き直るしかないわよ
まったく
人生なにがあるか分かったもんじゃないわ



お迎えの黒い車で町に出た
生活に必要なものを揃えるため
大体は持ってきたんだけど
いわれてみれば持ってきていないものもあるから
気分転換にもなるし
「はい」
リツコにカードを渡された
「今後買い物はこのカードでして頂戴」
「クレジットカード?」
初めて持った
ちょっと表情のくもるリツコ
「組織の職員用カード…ってことにしといて」
視線でシンジをを指すリツコ
「わかった」
きっとすごく贅沢なカードなんだと思う
シンジの手前気を使ってくれたんだ

組織にとって私はどんなレアメタルより貴重…
髪の毛一本だって自由に人に渡せない
そこからエヴァの情報が漏れる可能性があるから

でも、シンジには私
「いざという時地球の危機を救う正義のヒロイン」
ってことにしてある

本当は決戦兵器の交換の利かないパーツでモルモット

人類保管計画ってパズルのピースのひとつ

パズルが出来上がってしまえば私は…

ちょっと気分が暗くなってしまった
「あと、これね」
リツコがもう一枚カードを渡してきた
「これで現金を引き出して常に一定以上の現金を持ち歩いて頂戴…規則なの…ごめんね」
「いい…そういうの慣れてるから」
「ごめんなさい…」
気分を変えよう
「シンジ!」
シンジには仕事の話はなるべくかかわらないようにいってある
ずっと携帯のカメラで遊んでいたみたいだ
「おはなし終わった?」
多分本当に携帯に夢中だったんだろう
救われる…
「あとでお小遣いあげる」
「やった!」
「無駄づかいしちゃだめよ」
「大丈夫!」
「あんたいっつもくだらない物買っちゃうじゃない」
「大丈夫だって」


まず昼食をとることになった
静かなレストラン
シンジ苦手なのよね…こういうところ
ほら、窮屈そうにして落ち着かない…
「シンジ、はい」
さっき下ろしたお金を一枚渡す
「やった!ねえアスカちゃん、これ何ユーロ?」
「いいから早くしまいなさい!」
「はーい」
楽しそうなリツコ
「シンジ君しりにしかれるタイプね」
なにそれ?
私たちの表情でわかったみたい
「アスカちゃんが主導権握ってるって意味よ」
そういうとリツコはクスクスわらった


食事は早めに切り上げた
支払いを済ませると町に繰り出した
「もっとゆっくりしてもいいんじゃない?」
すこし不満げなリツコ
「苦手なのよ…ああいうとこ」
「シンジ君が?」
え?
「やさしいのね…アスカちゃんは全部シンジ君のためなのね…いいわ。ぱーっと買い物しましょう!どうせ払うのは全部組織なんだから」

あたしが?全部シンジ?
逆、
シンジが全部私のもの

「ねえりっちゃん!このお金あれで使える?」
窮屈なところから開放され元気になったシンジ
「さっき言ったばっかりでしょう!無駄遣いしちゃだめ!」
「いいじゃないジュースくらい」
私を見てあきれるリツコ
「シンジ君、一万円札は自販機に入らないわ、私が買ってあげる」
リツコはシンジと一緒に機械に歩み寄りながらバッグから財布を出すと、硬貨を自動販売機に入れてあげた
珍しそうに眺めるシンジ
あ!今シンジまたチラッとリツコのおっぱい盗み見た
あいつ!

シンジが両手にジュースをもってこっちにやってきた
渡される前に一本ひったくって一気に飲んでやった
ついでにつま先で蹴っ飛ばしてやる
「何するんだよ」
ちょっと怒ったシンジ
「そんなにおきいおっぱいが見たいの!このえっち!」
耳を引っ張って小声でいってやった
うろたええてやんの…
ばか!
そんのまま思いっきり足をふんずけてやった
「いたいいたい!アスカちゃんごめん!もうしません!」

びっくりして止めに入るリツコ
「やめなさい!ジュースくらいいいじゃない」


シンジがトイレに行っている間にちょっとリツコにお説教された
「あんまり嫉妬深いとほかの女に取られちゃうわよ」
「ちがうわよ…しつけ!」
「はぁ…とにかく蹴ったりするのだけはよしてちょうだい。お願いね」

シンジがトイレから戻ってきた
「手、ちゃんと洗ってきた?まったく!冷たいもの急いで飲んじゃだめっていつもいってるでしょ!」
「それぐらいになさい、まったく。さあいきましょう」
それでもリツコはどこかたのしそうだった
大人ってちょっと不思議



買い物を済ませた
車のトランクも車の中も荷物でいっぱい
私たち二人のための日用品と、思っていたより湿度が高い日本で過ごすための服
リツコのワイン
「アスカちゃんのおかげで大助かりだわ」だって
いいわよ、こんなカードなんて好きなだけ使えば
シンジのゲーム
まったく…おもちゃねだられる母親の気分がわたったわ、ほんとにもう
ソフトの説明書一生懸命読んでる…はぁ、その半分でも勉強に傾けてちょうだいね
「ねえアスカちゃん、この漢字なんて読むの?」
「どれ?ん…あぁ『しちてんばっとう』よ」
「意味は?」
「のたうちまわる」
「ふーん」
あーぁほんとに、学校で習ったじゃない…七転八倒
大体何なのよ技の名前が七転八倒って
それに何なのあのイラスト
あんなほとんど裸みたいな格好の女が戦うわけ無いじゃない…ばかみたい
シンジの頭をこつんとこずいてやった
「んん!」
わざとらしく咳払いするリツコ
「はいはい」
それだけいうと私は外を眺めた

七転八倒…のたうちまわる…プラグの中で私の変わりにのたうちまわって苦しんでたシンジ…
「ア・アスカ…ちゃん…うわぁぁぁぁ!」
何度もわたしの名前を呼んでたシンジ
プラグスーツを脱がされると血が滴り落ちる
痛みで意識が朦朧とするなかあたしを探すシンジ


私は外を眺めたままそっとシンジの膝に手をおいた
そっと手が添えられた
ガラスの中のシンジは片手で起用に説明書を読んでいた



家つくと私たちの荷物も到着していた
全部「開封検査済」のラベルが貼られてる
まったくご苦労さんなこと

とりあえずシンジと二人で片付けを始める
リツコは持ち込まれた私たちの荷物の検査リストを眺めていた
「あら、シンジ君ちょっといらっしゃい」
呼ばれたシンジはリストを見せられ顔が引きつった
なんだろう?
私も手を休めてのぞきにいく
とっさにリツコからリストを引ったくり私から遠ざかるシンジ
また、なんかろくでもないもの持ち込もうとしたのね
「こら!見せなさいシンジ!」
逃げ回るシンジをすぐにとっ捕まえてリストをひったくる
なになに…「日本国におけるわいせつ物規制に抵触のため以下の書籍廃棄」
1・2・3・4・…8冊
………
「このばか!」
バチン!
「何なのよこの『白衣の妖精』だの『裸の天使たち』ってぇのわ!」
バチン!
もうシンジを滅多打ち
アスカ必殺の「七転八倒」よ!
ほんとにもう
なにが餞別にもらったよこのえっち!
えっち!へんたい!
もう!しんじらんない!

気が済むまでひっぱたいてやった
さすがにリツコも「あちゃー」みたいな顔してみてるだけだけだった
どうりで部屋に荷物運ぶの手伝ってあげるっていってるのに、断るはずだわ
これだから男の子ってバカなのよ



リツコに「大丈夫?」て言われながら片付けを続けるシンジ
それを横目に私はぷりぷり怒りながら片づけを続けていた
汚れ物が出てきた
人の荷物あさるんならついでに洗濯くらいして返せばいいのに
食べこぼしで汚れたハンカチと私のブラウス…
あの薬を飲んだシンジは時々ろれつがが回らなくなったり口からぽろぽろ物をこぼすようになってしまっていた
それを私はシンジは怪我をしているから甘えているんだと思って何度もしかりつけた…
「もう!私のブラウスまで汚れちゃったじゃないの!」
「ごめんね」そう言いながら左手で私の服に付いた汚れを落とそうとするシンジ
なかなか思うように腕が動かないシンジ…
「もう!はい!あーん」
勝手に私はシンジは私に甘えたいんだと思って世話をやいてやった…



立ち上がりシンジの所に向かう
目で私を追うリツコ
もういいじゃない
そんなふうに目で訴えている

おびえた目で私を見上げるシンジ
握りこぶしを作る
こつん…
シンジをこづく…
「もう無いでしょうね…」
そういいながらシンジの荷物の片づけを手伝い始める
ちょっと間をおいてシンジが答える
「うん」

「ほら、それかして」
シンジの荷物を半分持ってあげる
あとはいつもどおり

リツコも安心したのか自分の身の回りのことを始めた

神様は意地悪だ…シンジを怒ったあとはいつも胸がちくちくする…
なんで私たちを…ううん私を素直にしてくれなかったんだろう…


食事が終わるとシンジはソファーでゲームを始めた
「必殺!七転八倒!」
ゲーム機の中からかわいい女の子の声がする
私は隣でいろいろな書類に目を通していた
エヴァの適格者にはたくさんのことが求められる

その見返りが私の口座の金額で
大人たちにわがままを許されることで
それに…シンジ

わかってる…
もうそこまで子供じゃないもの…
シンジは私に対するご褒美…

よく言うことを聞き
素直にエヴァに乗り
言われるがままに戦う

そのことに対するご褒美
それがシンジ
大人たちの考えることだって少しくらいは分かる

いつか本当にシンジを私だけのシンジにする
それが私の願い

大人たちに与えられた籠の中で愛し合う小鳥なんかじゃなく

私の心がシンジの心と本当に引かれ合って結ばれたい


ごろん

シンジが私の膝で膝枕をはじめた

今はこれでいいや




ささいな事だったと思う

いつものように二人でバスタブに浸かりおしゃべりをしていた
今日もちょくちょくリツコの胸を盗み見てるのでしかってやった
口答えするからちょっとひっぱたいてやった
えっち!
そんなこといいながら

「シンジは私の言うこと聞いていればいいの!まったく」

そういいながらシンジの頭を湯船に沈めようとした、

その時

ぎゅうっつ!
両方の乳房に痛みが走る
シンジが私の胸を力いっぱい握っていた
「あぁ…あぅん…」
シンジが力を入れるたびに痛みが走る
小さく声が出る
体から力が抜ける…
胸が握りつぶされそうになる
「アスカちゃんがいけないんだ…」
妙な火照りを体に感じながらシンジの顔を見る…うつむいて…見たことも無い、怒ったような笑っているような…
でも目には涙…
「そうやっていっつも僕のことぽかぽか殴るから…みんな僕のことバカにして…」
涙が湯船にこぼれ落ちる
シンジの両手からゆっくり力が抜けていく
シンジの手が離れた乳房にはクッキリ手形が残っている
「あの本だってみんなが『ちょっとは男らしくなれ』って無理やり僕にもたせたんだ」
シンジの手が私の太ももに力なく落ちる
「アスカちゃんがいっつもひっぱたくから僕が…僕がみんなからバカにされるんじゃないか…」

シンジをきゅっと抱き寄せる
唇で涙をぬぐう
ほほを寄せつぶやいた
「そんなの気にしないの…男の子でしょ、私のことお嫁さんにするんでしょ?」
シンジがはなをすする
「だって…みんな…」
「そんなこと気にしないくていいのよ、みんなひがんでるだけ。」
シンジが小さくしゃくりあげる
「わたし、シンジのこと大好きだからひっぱたくの。シンジに私のこと見てもらいたいからひっぱたくの」
キスをした
「これもそう、わたし人前だってシンジとなら恥ずかしくない」
シンジの手を私の股間にそっと当てる
シンジがビクッて動いた
「シンジにならどこ触られてもいい…何されてもいい…わたしがシンジのこと大好きでシンジがわたしのこと大好きだからみんなひがむの」

シンジの手のひらが優しく乳房を包んだ
「ごめんね…痛くしてごめん…」
やさしくわたしの胸をさすってくれる

そのままもう一度シンジを抱きしめた
シンジを悲しませるのはいやだ…
シンジが望むならどんなことでも受け入れる

シンジは全部私のもので…


わたしはいつか全部シンジのものになりたい


それがわたしがエヴァに乗る理由だから

わたしに抱きしめられたシンジがつぶやく

「アスカちゃんのにおいだ…」
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