いつもと同じ夢
これより先も…これより前も…
この場面も…
何度も見てきた
今日はどこら辺で目を覚ますんだろう…
三人の子供…
生意気ばかり言う、私に良く似た双子の男の子…
ちいさいちいさい…シンジにそっくりな、かわいいかわいい女の子の赤ちゃん…
いつも文句ばかり言っている私…
ほら…もうすぐ言うわよ…とてもうれしそうに…
「相変わらずいまいちな味付けねぇ」
シルエットになってよく見えないけどシンジ…
「そうかなぁ?」
きゃあきゃあ言いながら食べる子供たち…
私は赤ちゃんにお乳をあげる…
「しあわせだね」
そういわれて微笑み返す私…


目が覚めた


船の中…
日本へ向かう船の中
ちょっと窮屈なベット
でもしょうがない、
あの日からずっと二人で寝てきたんだから
窮屈なんてもう気にもならない

ママが消えた日…
あの日からは泣いてばかりだった…
どれ位かな…しばらくしてシンジがおじさんに連れられてやってきた
シンジも泣いてばっかりだった…
シンジのママも消えてしまった…
経緯は知らない…うちで預かることになった…
二人で泣いてばかりいた…
ある日、目を覚ますと先に起きていたシンジがぐずっていた…
横に座って慰めてあげた…
しばらくするとシンジは泣き止み片言のドイツ語で
「アリガトゴザイマス」って言ってくれた
あの日以来私は泣くのをやめた…
私のほうが一つだけお姉さんで
大人ぶりたかった

それからはどこに行くにもシンジをつれて回った
シンジも「アスカチャンアスカチャン」って言いながら追いかけてきた

いつの間にか「シンジは全部私のもの」そう思うのが自然になっていた



一人で日本人学校に通わせるのはかわいそう!
シンジは一人じゃ何もできない!
言葉だってちゃんと喋れない!
そう私が言い張って、私も日本人学校に転入した…
今思うとむちゃくちゃ
ちゃんと勉強するならって条件付でパパは転入させてくれた
ホンとは毎日シンジに勝手について日本人学校に行っちゃう私に根負けしたの
毎日が楽しかった…
私を入れて15人しかいない学校
全学年が一緒に授業を受ける
わからないことがあると「アスカちゃんアスカちゃん」ってシンジが聞いてくる

シンジが全部私のものなら…何もいらない…
今思うとそんな感じだったんだと思う

パパの研究所から呼び出しを受けた日の事…
私がエヴァンゲリオンのパイロットに選出された…
なんだかわからないけどシンジが喜んでいたのだけは覚えている
「アスカちゃんすごいや!アスカちゃんいちばんだ!」

しばらくして、この人造人間の建造中にママが消えてしまった事を聞かされた…
それからはここにくれば、エヴァに乗ればママのにおいがする、ママに会える
そんな事を考えるようになった

何度目かの起動実験で私は確信した
「ママはここにいる」

でもそれは誰にも話していない
シンジにも…
きっと大人は何か隠している…
じゃ無ければ大人たちが私を宝石のように扱ってくれるわけが無い

いつか、そのときが来るまでこの事はママと私だけのヒミツ
ごめんね…シンジ…

ちょうどそのころ、シンジのパパが女の人を二人連れてやってきた
確か私を見に来たんだと思う…

「あたらしい母さんとお姉さんだよ」
シンジは私の後ろに隠れて二人の女の人を見ようともしない
シンジはシンジのパパとは喋るんだけど、おばさんかお姉さんに話しかけられると私の後ろに隠れてしまう
困り果てる二人を見ているとなんだか「ザマアミロ」って気分になっていた

「日本で一緒に暮らせばすぐに慣れるさ」

その一言を聞くまでは

冗談じゃない
それを聞くなり私はシンジを連れてエントリープラグの中に逃げ込んだ
初めてエントリープラグの中に入ったシンジは大はしゃぎだった

何度も呼びかけてくる「アスカちゃん!おばさんとお話しましょう」の声

根負けしたんだと思う
おろおろしだしたシンジがいたからかもしれない

プラグから出た後はこっぴどくしかられたのを覚えてる
わけもわからず一生懸命私をかばってくれるシンジ…
やさしい子…

何日かして、私の知らないところで大人たちが何かを決めた

シンジはとりあえずこのまま家で預かる事になった
このまま一緒に暮らせる
パパからそう聞かされた時、私は勝ち誇ったように笑ったそうだ


あのころを思い出すと正直ゾッとする
私はキッチンからナイフを一本持ち出していた
シンジが大怪我をすればシンジは日本に連れて行かれずにすむ
本気でそう思っていたんだから

シンジのパパが日本に帰る日、二人の女の人のおばさんの方がほっとした顔をしているのを覚えている
お姉さんの方は少し残念そうだった…
「これ、あげるわ」
そういうとシンジが毎日めずらしがって眺めていた自分のウォークマンをプレゼントしていった

ずうずうしくキスまでして

それ以来シンジは独りになるとピンク色で猫のシールが張ってあるウォークマンを聞いたり眺めたりしていた

取り上げた事もあった
ほかの女のものを持ち歩かれるのがしゃくにさわったからだったんだと思う

「アスカちゃん返して!アスカちゃん返して!父さんに言われたんだ!大切にするんだぞって!だから返して!」

私の嫉妬だったんだろうか

シンジにとっては、めったに会えない父親との大切な思い出だった

困惑した
恥ずかしいくらい
確かに渡されたときシンジのパパはそんなこといっていた…と思う
言ってなかったとしてもシンジにとってはパパとの思い出が詰まっているんだと思う…

お姉さんのウォークマンを珍しそうに覗き込むシンジ

「珍しいのか?」

面白そうにそうつぶやくシンジのパパ

何度かそんな光景を見た気がする…

黙って返してあげた…
壊しちゃだめよ
そんなこと言いながらだったかもしれない…
その日はなかなか眠れなかったのを覚えている…



それから何年かしてシンジの新しいママが事故で死んだって連絡があった
私はともかくシンジもほとんど何も感じていないようだった

「ふぅ〜ん」

シンジがそうつぶやいたのを覚えている
それからもうひとつ
このころ、少し警備の目を盗むことを覚えた
隙を見てシンジをエントリープラグに連れ込んであげた
楽しそうにガチャガチャいろんなスイッチやレバーを動かしてたっけ…

もちろんばれてまたまたこっぴどくしかられた

あの時もシンジは私をかばってくれた…
結局シンジがもう乗りたがらないって約束して終わった
今でもシンジは私にあのときの話をする

「あの中はアスカちゃんのにおいがしたんだよ」って

シンジは時々私のにおいをかいでは呟くの
「アスカちゃんのにおいだ」って…

変な子



三年前にいちどシンジのパパとその前に来た女の人がやってきた

私の何かに対する進捗状況を確認しに…

このころになるとシンジは電話が掛かってくるたびにあの女の人と少しずつ話すようになっていた
そういえば毎年何通かシンジ宛にシンジのパパと義理のお姉さんから手紙やちょっとしたプレゼントが届いていたっけ…
お父さんからの手紙は毎回同じ
「元気か」って馬鹿みたいに太い字でそれだけ書いて送ってきていた
義理のお姉さんからは「寂しくないですか?」「どんなことが好きですか?」「何かほしいものはありますか?」ってことが便箋いっぱいに細かい字でびっちり書いてあった
その手紙をいつも私が読み上げてシンジに聞かせてあげていた

やっぱりほかの女からの手紙の内容は気になる…

それがシンジの家族からならなおさら…

「一緒に暮らしましょう」…

そんな文字がないか…
本当はそればかり気にしていた…

あの二人が尋ねてきた日
シンジは髪の毛を金色に染めた義理のお姉さんを珍しそうに眺めていた
いつも電話で話していても実際に会うとお互いに少し照れくさいようだった…
私はシンジの手をギュッと握り締めていた

絶対に渡すもんか!


シンジが全部私のものにならないなら…私は何も要らない…


一度だけシンジの義理のお姉さんに私の気持ちを伝えたことがある…
絶対にシンジを連れて行かないでくれって
ちょっと困ったような顔をしていた…

返事は「シンジ君のことお願いね」だった

なんだか少し安心した…
結局三年前も私の何かを確認するとシンジのパパと義理のお姉さんは帰っていった

義理のお姉さんはシンジがウォークマンを宝物みたいに大切にしていたことを、とても喜んでいた

うれしそうに何かほしいものがあるか聞いてきた義理のお姉さんにシンジは、照れくさそうにしながらお姉さんの耳元でなにか呟いていた
聞き終わると「まぁ!」って顔をして笑いながら「それなら絶対大丈夫よ」ってウインクしていたっけ

何度も何度もシンジから聞き出そうとしたの

あの日なにをお願いしたか…

いっも答えは一緒
「内緒」




答えは意外なところからやってきた

実験施設の私の連絡用端末に日本にいるシンジの義理のお姉さんからメールが来た

内容は
「いろいろ大変でしょうがシンジをよろしくお願いします」
まあ大体そんなところだった
私にとって忘れられないのは最後の一行だけ

「追伸、シンジ君はあなたをお嫁さんにしてあなたとずっと一緒に居たいそうです。このこと私が教えたのは内緒ですよ」

メールはすぐに消去してしまった

馬鹿なシンジ…

しょうがないからあなたの気持ち気づかない振りしといてあげる
もうすこし大人になったらちゃんと私に言うのよ
それまでまっててあげるから



初潮がきた
生理が始まったばかりのころ
私のあまりのうめきにシンジは心配しきりだった
「女の子はみんななるの、赤ちゃんを産めるようになっただけよ」
ちゃんと教えてあげれば少しはシンジも落ち着くかとおもってそんなことを言ったりもした

「アスカちゃん可愛そう、ぼく赤ちゃんなんていらないからそんなに痛がらないで」

突然そんな事言われちゃったの

ばか…
ほんとにバカなんだから…

やさしいやさしい私のシンジ…



もうすぐ日が昇る
そうしたら起こしてあげよう
ちょっと意地悪もしよう

今日は日本の本部から作戦部長が来艦する日だ

そうしたらあと3日もすれば日本…

私とシンジの新しい生活が始まる



6時半を過ぎたころシンジの鼻をつまんだ
口で息をし始める
そうしたら今度は口もふさいじゃう

何度かそれを繰り返すうちにようやくシンジが目をさます
「アスカちゃん、死んじゃうよ…」
そんな事いいながら
「こんな美人のキスでお目覚めなんだから文句言わない!」

今日も朝からちょっと意地悪な私
「アスカちゃんお嫁さんしたら死んじゃうよ…」
つぶやくシンジ

聞こえないふりをする私

今日も一日が始まる
今日もシンジは全部私のもの…


朝食を終え私は日々のメニュー消化に入った
シンジは控え室でお勉強

私がひと段落ついてインターバルに入ると、いつものようにジュースを持ってシンジがやってきた
今日もいつもと同じだ
「アスカちゃんおやつにしよう」
いつもの通りだった

警報が鳴り響くまでは



咄嗟だった
使途来襲
初めての実戦警報
シンジだけは守らなきゃ

すぐに私のプラグスーツを着せてエヴァの中に連れ込んだ
「なんかこれ恥ずかしいよ」
股間を押さえながらへんなこと気にしているシンジ

管制室から苦情が入る
ノイズの原因になるからとか何とか

「あんたたちじゃシンジを守れない!絶対に私が守る!」
まったく答えになっていわね

とにかくシンジにはなるべく何にも考えないようにって言い聞かせた

起動した私のエヴァンゲリオン
甲板から近づいてくる飛沫をにらみつける

初めての実戦、15年ぶりの使徒襲来
不思議と心は落ち着いていた

途端、水中から魚の化け物みたいなのが飛び上がり踊りかかってきた
咄嗟に掴むとそのまま海面に叩きつけてやった

そのとき確信した

こいつには絶対に負けない

負けるはずがない

私がアムールトラならこいつは子猫かねずみ
たった一度の接触で、それがはっきりと解かった

この船を守らなきゃ

そっちの方が気になってきた

シンジが義理のお姉さんとシンジのパパに用意してきたたくさんのお土産
シンジのウォークマン…

もしこの船が沈んでしまうと
きっとシンジは落ち込む

飛沫がこちらに向かって近づいてくる

躊躇わなかった

海中に踊りこむエヴァ

うわぁ!
驚いたシンジの声

眼前に迫る使途

私は心の壁を作り出し使途を押さえつける

勝負ありね

せめて一指酬いようと大口を開けて噛み付こうとする使途

中に球体が見える

何度も何度も聞かされてきた、使途の本体

コア

手足で口を閉じれなくして止めを刺してやろう

そう思うが早いか両足で下あごを踏みつけ右手で上あごを押さえつけた

止めはナイフで一思いに!

あらら
あちゃぁ〜
ちょっと場所が悪い
手足が使徒の牙に当たっちゃってる
そう思った途端、使徒の牙がエヴァの手足を貫いた

私は覚悟した

訓練では何度か擬似的な痛みも経験させられた

エヴァと私は神経を介して繋がっている

状況によるが、私の神経や肉体に直接ダメージを伝えてしまう可能性すらある

あれ?

痛くない…
そう思った次の瞬間だった

シンジがつぶやくのが聞こえた
「うん」って

刹那

ひぃっ!
あぁ!
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

さっきまでしっかり私にしがみついていたシンジが急にもがき叫びだした
みるみるシンジの手のひらに食い込んでいくプラグスーツ
多分足も…

ちがう!ママ!シンジじゃない!私でいいの!

絶叫の中でシンジは途切れ途切れに私の名を叫ぶ

LCLに満たされているため原理的に酸欠はない
だからどんなになこうが叫ぼうがシンジは失神することもできない

やめて!ママ!

地獄の方がまだ落ち着けるかもしれないようなシンジの叫び声の中
気がつけばナイフを使うことも忘れコアを握りつぶしていた




救護班が来るまでエントリープラグの中でシンジは痛みにうめき続けていた
私の胸の中でうめき続けていた…

医療スタッフは到着するなりルーティン通り私の問診を始めようとした
蹴り飛ばしてやった
「今すぐシンジを治せ!今すぐシンジを治せ!治せ!治せ!治せ!」

最後のほうは涙声になってしまった




偶然のシンクロによるもの

大人たちからはそう説明された

ちがう
ママがやったんだ

私が何回か連れ込んだシンジのことを覚えていたんだ…
やめてってお願いしたのに…


シンジは手足に裂傷
足のほうはすぐ治りそうだけど、手のひらはしばらくかかる…

昼過ぎに作戦部長さんが到着した

私はシンジの看病…
枕元に座っているだけだけど…
シンジはお薬で眠っている

シンジがおきたら謝ろう
ママの分も謝ろう

右手がこんなじゃご飯も食べられない
きっと本も読めない

私が食べさせてあげよう
私が読んであげよう

でも私の手は握ってね
そっとでいいから
重ねるだけでいいから


夕方、作戦部長さんがずかずかと病室まで入ってきた

驚いた

女の人じゃない

「まずは使途撃退おめでとう、さすが世界でただ一人エヴァンゲリオンに選ばれた人間なだけはあるわね」

デリカシーのない大声
この女だいっ嫌い!

「戦闘報告は見たわ、圧倒的じゃない。さすが本格的戦闘モデルね、日本にある試作機や実験機とは一味違うわねぇ〜」

うわべだけの笑顔
もう何人もそんな大人見てきたわ
だいっ嫌い!

「それにその子?もしかしたらエヴァに搭乗可能かもしれないって子」

「出ていって!」
もう我慢できない!

「あらぁ〜二人でずーとラブラブに成れるかもしれないじゃなぁい。何なら訓練も全部同時進行同メニューにしてあげるわよん」

「あれは偶然なの!そう調査結果が出たでしょう!とにかく出て行って!」

「もぉ〜冗談じゃない、まぁこれからよろしくね」

ウインクしながらようやく出て行った

いつの間にか立ち上がって痛みたい
勢い良くいすに座る
ベットのシンジを見つめながら

よかった

シンジはうっすらと目が開いていた
「…」
シンジは小さな声で何か言っている
「もう一度」
そういいながら私は顔を近づけた
ついでにキス

「のどかわいた」

お水を飲ませてあげた

「ねえ、誰か来てたの?」
お薬のせいか小さな声のシンジ
「アスカちゃん何か言ってるので目が覚めた」

あの女の時ね
ちょっとだけ感謝しようかしら

「ちょっとね」

「ふぅ〜ん」



そうだ、謝らなきゃ
ママの分も謝らなきゃ

「ねえシンジ…」
「ねえアスカちゃん」

ハモっちゃった

「なに?言ってごらんなさい」

ちょっと面白かったから先にシンジの話を聞くことにした
シンジの右手をさすりながら

「ねぇ、あのガブゥ!ってなったときさぁ」
背筋が凍る
「アスカちゃん僕にいったよね『助けて』って。あれ?助けてあげてだったけ?」

何のことだろう?

「だってあそこには僕とアスカちゃんしかいなかったし、なんかちょっと声が変だたけど、あれアスカちゃんでしょ?」

いったい…シンジは何を話しているんだろう?

「でもひどいよアスカちゃん、こんなに痛いなんていってくれなかったじゃないか」

包帯を巻かれている右手を少し持ち上げて、面白そうにしていた

「でもいいや、包帯とかギブスって一回やってみたかったし…あ、点滴も」
まったく…怪我してるってのに男の子って…

「怪我しちゃった…でもいいよ…ちゃんと聞こえてたから」
「え?」
「あの時さアスカちゃん何回も『ありがとう』って言ってたでしょう。あの時の声、ちょっと大人の人みたいだったなぁ」

薬が効いて痛みがないのか、何度も右手を動かしながら話していた

「だめよ!動かしちゃ!怪我してるんだから」

軽くシンジの右手を押さえつける
「おなかすいた?何か持ってきてもらうからちょっとまってなさい」

そう言い聞かせ病室を飛び出ると私はまっすぐエヴァのハンガーへ向かった

たくさんの大人がエヴァのメンテナンスに取り掛かっている
私はエヴァの頭部に飛び移るとそっと手を当てた
声に出さずにママに語りかける
ママ…ありがとう…でもね…シンジが私を守るんじゃないの、私がシンジを守るの
だからママ…

バチン!

装甲版をひっぱたく音は周りの喧騒にかき消されていた
思いっきり大きな声を出して言ってやった
「余計なことはしないで!」

私が何か叫んでいるのに気づいた何人かの大人が怪訝そうにこっちを見ている
なんだかすっとした

一番近くの内線に駆け寄り給仕室につなぐと思いっきり大きな声で言ってやった
「病室に食事二人分!大至急!大盛りでね!」

それだけ言うと受話器を勢い良くたたきつけた
私が戦う限り大人たちは私のご機嫌取りに右往左往
これぐらいやったってばちは当たらないわ

光よりも早く病室の前に戻ると、しばらくして給仕さんがいそいそとカートを押してやってきた
カートを奪うようにむしりとり「ありがとう!ここでいいわ!」って言って追い返した
さてさて今日のご飯はなにかしら?
トーストとスクランブルエッグにハムとベーコン、スープとサラダにカットフルーツとジュース
なにこれ?まるで喫茶店のモーニングじゃない
まあいいか
急がしたらこんなもんよね

何にもないような顔して病室に入る
ちょっと怪我が心配…

「お待たせぇ〜ってこら!」

あぁ〜あ
心配して損した
また右手ヒラヒラさせてる
そんなに包帯が嬉しいのかしら

今日はしっかり押さえつけてなきゃ
隣のベットをくっつけさせよう

そうすれば夜も一緒にいられる

右手をしっかり押さえなきゃ
こんばんはずっとシンジの右手を見張っていよう
そうだ、私の胸の上に置かせよう
そうすれば動かそうとしたらすぐ解るわ
そうしよう

「ごはんにしましょ」
シンジはお薬のせいでなかなか体が起こせない
だから私が起こしてあげる
シンジがつぶやいた



「アスカちゃんのにおいだ」


ばか

でも

ちょっとうれしい
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