もうちょっとだけ

あと五分だけ

シンジの口癖

「早く起きなきゃ遅刻するわよ!」

ベッドの中で二度寝を楽しむシンジ



使徒との戦いが終わり半年がたったころ
世界中は私とエヴァの争奪戦を始めた

祖国アメリカは
「君の愛国心を見せるときが来た!なに!何の不自由もない!まかせたまえ!」

故郷ドイツは
「君はユーロ所属の人間だ、全てはわれわれが準備する、安心して戻ってきたまえ」

そして日本
「まかせてください、なに、日米同盟もあります、ユーロ?はは!大丈夫です、善処します」


アメリカは論外
だって私はアメリカ国籍だって以外関係ないし
第一何の思いでもない

ドイツは…パパとママが首を長くしてまってる

日本には
友達がいて
みんながいて

シンジが…


庭の草をむしるシンジ
それを眺める私
「ねえシンジ」
「ん?」
「わたし…帰っちゃうかも…」

ビックリして振り向くシンジ
「どこに!?」
「ドイツ…」
「なんで?」
なんでって…
「帰ってこいって…」

「いいよ」

「え…」
いいの?

「いいよ、帰らなくたって、大丈夫だよ」

うん

それだけだった
多分シンジは深く考えて答えたんじゃない
でも
シンジが「大丈夫」って言うんだから

大丈夫


翌日
リツコに自分の意思を伝えた
ただし
条件もつけたけど


二月後
パパとママが横須賀に到着した

一つ目の条件はパパとママを連れてくること

迎えに行くと
思いっきりママに抱きしめられた

二人曰く
映画のような大冒険
だったらしい


リツコたちは、私が日本に残る事を、国連とアメリカに協力することでアメリカと日本をなっとくさせた

それに気づいたユーロは怒り狂った
私の全財産は凍結され、私の個人情報を世界中にばら撒き、「大破壊」を起したのも私だって言い始めた

アメリカの協力で日本とアメリカに沢山の「アスカ」らしき人物が現れた
中にはテレビのインタビューを受ける人も

私は名前を変え千葉の高校に通う事になった
シンジと同じ学校

結局中学校は
あれから行けなかった
2年が終わってから丸一年
私は世界中に振り回されてしまった


私は「赤城アヤカ」として生きていく事になった

ちなみに「赤城」ってのはリツコのワーキングネームから貰ったの





一回だけ
霧島さんとあった

リツコのはからいで

千葉の自衛隊の基地に目隠しをされ現れた霧島さん

目隠しを撮るとまぶしそうに顔をゆがめる
でも
私たちに気づくと

「先輩!」

駆け寄ってきた
シンジに抱きつく

どうしていいかわからないシンジ

「ばか…」
わたしがひじで突っついてやった

シンジはうろたえる様に霧島さんを抱きしめた


ここが何処かも今何してるかもいえなかった
少し話をして
フリーメールのアドレスを渡しただけ

学校のみんなはネルフが流した噂を信じていた
私はあの日の戦闘で死んでしまった事になっている
それを隠すため偽者のアスカがテレビに現れた
みんなそれを信じているそうだ

シンジは「大破壊」に巻き込まれ行方不明になったたくさんの人たちの一人
しかもどこを探しても“碇シンジ”の痕跡は見つからない

ヒカリたちは
「アスカと碇君は遠くに行っただけ、いつか会える」
「そやな、あの暴力女が死ぬわけないわな」

いつも明るくいっているそうだ



「ごめん、霧島さん。メール送ってくれたら絶対見るから、返事はできないけど絶対見る、約束する」

霧島さんは黙って頷くと瞳を閉じ、顎を上げた

私に目で訴えるシンジ

いい?

私は後ろを向いた





一週間後
霧島さんからメールが来た
「大好きな先輩。昨日、先輩たちと夢の中で会ったことを洞木先輩たちに話しました。何回も“夢ですからね”って念を押したんだけど「そう!二人ともやっぱ り!」とか「さよか!元気だったか!」って。
それで、洞木先輩たちからのメッセージです

“私たちはずっと友達”

それから先輩、先日のキスで私の初恋はようやく終わりました!ありがとう!」



私は髪をばっさり切った
もう耳が出るくらい!
頭が軽いし髪もすぐ乾く!

別に変装とかじゃないんだけど

なんだかそうしたくって
それにシンジが
「アスカは何してもにあうね」
って

赤城アヤカは六文儀家に下宿している
私のパパとママは埼玉で暮らしている
休みの日にはシンジをつれて遊びに行く
パパとママも喜ぶ
それにミサトちゃんも
シンジはいっつもミサトちゃんを甘やかす
あ!そうそう、ミサトはいろいろあってパパとママが引き取る事になった
だから私の妹ってことになる

パパが生前のミサトと面識があったらしく
施設で暮らすミサトを
「まあいろいろあるさ」
で済ませ、引き取ってしまった

ミサトはシンジが大のお気に入り
いつも遊んでもらっては
「わたしおにいちゃんのお嫁さんになる」
だって

もちろん渡さないわよ!




高校生活
私はたくさんの友達を作った
みんな大切な仲間

高校での私のあだ名は
「泣き虫」

もう私は我慢するのをやめた
だから、いつもすぐに泣いてしまう

「アヤカって涙で六文儀君コントロールするのよねぇ」
親友のちーちゃんがいつもそんなこと言ってる

「だってアヤカ、喧嘩しては泣き、怒っては泣き、喜んでは泣き…涙の魔術師ね」

ふふん!
涙は女の武器!
エヴァよりつよい!

でも、わたしが泣くのはそんな事ばっかりじゃない
シンジと新東京ディズニーランドに行った時
わたしがお土産を選んでると
気がついたらシンジがいないの
本当に泣きそうになった
そうしたらシンジがかわいいブレスレット買ってきて
私に
「はい!アスカ!」
って
屈託のない笑顔で

かわいいし、嬉しかったんだけど
シンジを見たら涙が出てきちゃって
「おいてかれたかとおもったんだから!」
お店の中で泣き出しちゃった
必死に私をなだめるシンジ
「あ…ごめん…もう一人にしないから…」


わたしが泣く理由をちゃんとわかってるのはシンジだけ




高校2年 冬
ユーロが私の奪還をたくらんだ
ユーロにそそのかされた中国が大艦隊を日本に向けてきた

日本を占領し該当者を片っ端から差し出せば、日本と日本にとどまっている量産機をくれてやる

そういうろくでもない取引があったそうだ

中国軍の集結を察知した米軍は恥ずかしげもなく国連軍を名乗り、自衛隊とともに日本海に繰り出した

そして私も
エヴァとともに


わたしは、日米合同艦隊…あ、ユーロから離反したイギリスも
とにかく国連軍の人造人間母艦「あやなみ」にいた

艦隊の上を8体の量産機が守っている
結局量産機は私たちになついてしまい、日本から離れなくなってしまった
しかも一体はシンジの事が気に入ってしまい、千葉から離れようとしない
その子が一度学校に現れ大パニックになったことも

「ねぇ、あの子達休ませてあげて」
艦長に言ってみた

「はぁ?」
何のことだかわからない様子の艦長さん
「空にいる白いエヴァンゲリオン、休ませてあげて」
なんだ…そんな顔をされた
「お嬢さん、あれは休まなくても問題ないのですよ。S2機関を搭載してますからね」
はぁ…
そう言う事だけはご存知でいらっしゃる
「気持ちの問題…だから休ませて…命令」
「はぁ…」

量産機は私の言う事をきく
私はあの子達の調教師
エヴァンゲリオンの事に関しては私の意見が全てに優先される

結局2体づつ交代で着艦させる事になった

着艦した量産機は私を見つけると首を振り口を吊り上げる
もう見慣れた
喜んでるんだ


国連軍の人たちは私を見かけても口をきかない
私に一切干渉しないようにとでも言われているんだろう
だから私も目深にキャップをかぶり
海を眺めるだけ

格納庫でエヴァを見つめる
出航前に
「どうせならかわいい色にして」
私の意見は簡単に容認された
だから今のエヴァの色はピンクと白のツートンカラー

「軍人ばっかりで窮屈でしょう」
突然声をかけられた
「ごめんね、あなたみたいな女の子まで戦争に引っ張り出して」
整備班の人だ
「水中戦装備ってやつ、レクチャーは受けたかしら?」
「はい…何年も前に」
「そう、じゃあ今からいらっしゃい!わたしがもう一度レクチャーしてあげる!」
手を引かれ整備員控え室に連れ込まれた

部屋に次々整備員たちが入ってくる
テーブルにはおかし
「えーっと、名前は…言っちゃいけないのよね?」
「はい」
「じゃあエヴァちゃん!」
「へ?」
「みんな!この子が私たちのために戦ってくれるエヴァちゃん!どう見ても子供!あんたたちが戦場へ叩き込もうとしてるのはこんな子供!」
整備員たちのうなり声がひびく
「まったく恥ずかしいわね!大人が子供の後ろでこそこそ隠れてるのよ!」
整備員たちのうなり声が大きくなる
「私ら大人がせっせとやってるのは子供を戦場にたたき出す準備!恥ずかしい!恥知らずの集団よ!私たちは!」
整備員たちが口々に叫びだす
俺の触った部品はぜってー故障なんかしねえ!女子供を見捨てるような整備なんかしねえ
なによ!女で悪かったわね!わたしがメンテナンスしたプログラムは確実に作動するわ!
俺が!
わたしが!
ぼくが!
「あーもう!わかったわ!この役立たずども!とっとと仕事に戻って!かけあし!」

おう!とか
了解!とか言いながら整備員たちが出て行った

私はテーブルの上のおかしを渡される
「整備班からエヴァちゃんへ」
そう言いながら笑顔でわたされた
「ねえ、あそこからしばらく整備をながめてて、そうすればみんな手抜きなんてできないわ」
笑顔で通路脇のイスを進められた


しょうがないから座ってお菓子を食べていた
スパナを持って駆けていく人を呼び止めきいてみた
「さっきのおばさん誰なんですか?」
少しおどろいた顔をされた
「整備班長殿です、まぁ私たちから見たら艦隊指令より偉い人ですよ」
それだけ言うとすぐに駆けて行った

みんな一生懸命働いている
私なんかが見てなくても手抜きなんかしない人たち

「ねえ」
いつの間にか現れた整備班長が話しかけてきた
「勝手なお願いだけど」
「なんですか?」
「日本にね、子供がいるの…整備班のみんなも家族がいるの…エヴァちゃんがどこの国の人かわからないけど…お願い!戦争に連れ出した私たちは恨んでくれて いいから…私たちの家族を守ってください」
艦隊指令より偉い人が私に頭を下げている
家族のために
「…私にも家族がいます…どこにいるかは言えませんけど…家族のために戦おうって思ってました。でも私は一人で戦うんじゃないんですね、こんなにたくさん の人と一緒に戦うんですね…守ります…守って見せます」

その日から戦闘配備のアラームが響いた日まで
私はこのイスからみんなを眺めた
私と一緒に戦ってくれるたくさんの仲間を


航空戦は国連軍が優勢らしい
伊達に空母を100年も運用してるわけじゃないみたいね

私に出撃命令が出た
量産機は艦隊護衛においていく
エヴァ単機で中国海軍に殴りこみ

みんなが帽子を振って見送ってくれる
敬礼をしてる人も

私は軍人じゃないから
手を振って答えた


中国艦隊は文字通り燃えていた
国連軍のミサイル攻撃をしのぎきれなかったようだ
それでもすごい数
国連軍は量産機に守られているからほとんど被害はない
卑怯っていったら卑怯かもね

私の獲物は軍艦じゃない…

見つけた

中国で建造されたエヴァンゲリオン

事前に渡された資料では
やっぱり子供が乗っているらしい
薬漬けで…
だからパイロットは使い捨て

それでも選ばれた人間なんだろう
随分といい動きをする
拳法の国は伊達じゃないわね

でも相手が悪い
レーザーも
ナイフも
私のフィールドに阻まれ用をなさない

水中での格闘戦に持ち込もうとするけど
残念
そんな事には付き合わない
フィールドを展開して全てを受け止める

後は簡単
とっ捕まえて
装甲版を引っぺがし
プラグを引っこ抜いて
遠くにほうリ投げる

沈黙したエヴァンゲリオンはバラバラにして海に沈めといた

艦隊のほうは
いちいち相手するのもめんどくさいからフィールドを足元に張り海面を歩く

中国の一番大きな軍艦を捕まえ話しかける
「全員船から下りなさい!それまで待ってあげるから!」

返事は砲撃だった

それでもしばらく待ってみた

何をやってもきかないような化け物が相手なら諦めるかも

何度呼びかけても返事はない

「ゆっくり沈めば平気よね…」

船に穴を開けようとしたとき
エヴァのセンサーが飛来物を感知した




中国艦隊は国連軍の4度目の攻撃で壊滅した
私はそれを艦隊のど真ん中で眺めていた

人間はなんて罪深いんだろう


中国が降伏を迫ってきた
艦隊が全滅した腹いせに戦略N2で日本とアメリカに攻撃準備を始めたんだ
このままじゃ報復合戦が始まっちゃう

私は決心した
世界を滅ぼす悪魔になろう
わたしがこの戦争を終わらせよう
きっと私はろくな死に方をしない
もうシンジにも会わないほうがいい

だって

やさしいシンジのそばに人殺しがいちゃいけない


満月の夜
国連軍の説得を受け入れた私は、量産機を連れ、中国に侵入した
すぐに見つかり戦術N2やら毒ガスやらとんでもない攻撃を次々受ける
簡易生産型のエヴァンゲリオンまで

私の周りに中国製エヴェのむくろがころがる

さぁ今から私は「使徒殺し」から「ヒト殺し」に転職だ

エヴァと私は月にほえた

エヴァの咆哮が月まで響く
ロンギヌスの槍が私の叫びにその力の一部を解放した
大人たちの知らない槍とエヴァの力

「手段を選ばなくてもいい」
そういわれた私が選んだ戦争の終わらせ方

中国のミサイルの破壊

たくさんの罪のないヒトを巻き込んで次々とミサイル基地や移動式のミサイル発射装置が吹き飛んでゆく

誘爆するものもあるだろう

たくさんのヒトを巻き込んでしまうだろう

私はヒト殺しだ…

月の光が届く限り私の願いは叶う
破壊するのなら
何でも叶う
槍がかなえてくれる

代償は

私がヒト殺しになること

心に一生消えない傷を持つ事

翌日
中国は停戦を申し出てきた

世界はエヴァに恐怖した

アメリカと日本だけが喜んでいる
破壊神を神様だと
ヒト殺しを勝利の女神だと




国連軍の召集に応じてから半年
私は再び日本の地を踏んだ

「明日帰るからね!待っててね!絶対よ!」

シンジに電話をかけた
戦争中はメールのやり取りしか許されなかったから
声を聞いただけで涙がでてきちゃった

翌日
やっと開放された
シンジのいない毎日がやっと終わる
これでシンジの待つ我が家に帰れる
国連も自衛隊もユーロも中国もぜーんぶだいっきらい!

でも一番嫌いなのは

人を殺した私


早く帰ってシンジにあんなことしよう
早く帰ってシンジにあんなことしてもらおう
戦争が終わってから毎日そんな事ばかり考えていた

それが私の現実逃避


黒塗の車で送ってもらう
家に近づいていくほど憂鬱になる

あんなに会いたかったのに
どうしよう…なんて言おう
 
私が何をしてきたか…
とても言う気にはなれない…
私に手は真っ赤に染まってしまったの…


玄関の前に立つ
車は私を降ろすとすぐにいってしまった

いったいどれくらいこうしてるんだろう
玄関の表札を見つめ続ける

「六文儀 (赤城)」

私のおうち…
でも…
いっそこのまま軍隊にでも戻ってしまったほうが…
その前に…せめてひと目シンジに…
一言だけお別れを…

震える指でチャイムを押す

足音が聞こえる
喉が痛いほど乾く

「はーい」

シンジの声
昨日電話で話したのに
何で涙が出てくるの?

戸が開く
ずっと会いたかった
シンジが目の前に
私を見て笑顔になるシンジ
「お帰り!アスカ!ずっと待ってたんだよ!」
シンジは私を強く抱きしめる

シンジまで血で汚れてしまう…

しばらくしてシンジは私を放すと、私から荷物を奪い取り手を引いて玄関に引き込んだ

私は目深に帽子をかぶる
涙があふれてくる

「さあ、アスカ」

私は玄関で立ち止まった
「…どうしたの?忘れ物?取って来ようか?」
シンジのとぼけたような声

泣き声になるのを我慢して声を振り絞る
「私、わるい子なの…」

帽子を脱ぐと胸元で握りつぶす
勇気を出して声にした

「たくさん人を殺してきたの」

涙が止まらない
「こんなことするためにエヴァに乗ってたんじゃないのに」

もう声にもならない
「シンジや皆を守りたかっただけなのに…」

立ち去ろうとした
シンジが人殺しと一緒にいちゃいけない
わたしといたらシンジまで血で汚れてしまう

震える足で駆け出そうとした

でも動けない

シンジが抱きしめているから

「アスカがどんなことしても、誰がなんていっても、僕はアスカの事許す」
涙がシンジの胸をぬらす
「アスカの事を世界中が悪くいったって僕がアスカのこと許す」
シンジの胸で泣くのは何回目だろう?何百回目だろう?
シンジが私の両手を握る
「アスカがこの手で何をしてきても僕はアスカを離さない」
わけもわからず頷いてしまう
「だからずっと一緒にいよう…」



ソファーの上でシンジにもたれかかり涙を流した
ずっと抱きしめてくれるシンジ

お母さんはどうしても今日は休めなかったらしい
明日まで帰れないそうだ
ネルフは相変わらずひどい組織

リツコは自衛隊のおじさんに逢いにいっちゃった
やっぱり明日まで帰ってはこないそうだ

パパとママは電話で、明日一番にミサトを連れてここに来るって騒いでた

「ねえシンジ」
「なに?」
そう言いながら強く抱きしめてくれるシンジ
私はどこにもいかないよ…
でもね
「私わるい子なの…だから」
「だから?」
はなをすする
シンジが笑ってる

「だから私のことおしおきして」
えぇ?って顔のシンジ
でも
「いいよ、悪いアスカにいっぱいおしおきする」

シンジになら何をされてもいい
ぶたれてもいい
「ヒト殺し」って罵られてもいい

もし、私の人生の幕をシンジが下ろすなら

それはとても素敵だと思う


シンジに抱き上げられた

「じゃあ最初のおしおき」
シンジが私の唇を奪う

あ…シンジ…

そのままベッドまでお姫様だっこでつれられてしまった

乱暴にベッドに落とされる
そしてもう一度キス

首筋にも

シンジがボタンをはずしていく

胸があらわになる

胸元にもキス

スカートを脱がされふとももにキス

「だめ…お風呂入ってないの…きたないよぉ」
私は夕べからシャワーも浴びてない
わけのわからない報告書を作るため、尋問紛いのヒアリングを受けていたから
大人たちはエヴァの力を恐れてる
おかげで髪はぼさぼさ
それを隠すために整備班長から貰った帽子をかぶってきたの
「だめだよアスカ、おしおきなんだから」
恥ずかしい
明かりもついたまま
まだ昼前なのに
私は股を開かされる

♪〜

シンジの携帯がなる
「かあさんだ」
私の胸をやさしく愛撫しながらシンジが携帯をとった
「なに?…うん、帰ってきた…元気だよ!…え?しないよ!そんな事」
シンジが私の乳首をつまむ
声が出ちゃう
「わかった…かわるから」
「はい」っていいながらシンジが私に携帯を渡してきた
“もしもし”
「お帰りなさい、アスカちゃん…本当にお帰りなさい…」
“うん…お母さん…ただいま”
「つかれたでしょ?シンジなんてほっといてゆっくり休みなさい、面倒は全部シンジにやらせればいいから」
“ええ!そのつもり…あん!”
「どうしたの?シンジに変な事されたの?ひっぱたいていいわよ」
“ちがいます、ちょっといたずらされただけだから”
「ふぅ〜ん…まあいいわ!明日、昼前には帰るから。帰ったら美味しいものたくさん作ってあげる!」
“お母さんが作るの?食べれるものにしてよね!”
「まかせて!じゃあきるわね…それから…ほどほどにね」
電話が切れた

「もう!電話中にひどいよ…ぜったいお母さんわかってたよ」
シンジが私の中に入ってくるから声が出ちゃったじゃない
「おしおきなんだから仕方ないだろ?」
「……ばかぁ」

シンジに何回もお仕置きされた
ベッドの上で
お風呂場で
キッチンで
朝まで

二人でカレーをほおばる
一つのお皿で
シンジに「あーん」してあげながら

私が作ったの
帰ったらシンジに作ってあげたかった
でも今日はちょっと特別
だってシンジが
「おしおき」
っていうから

裸にエプロンで作らされちゃった
シンジったら携帯でシャメまで撮っちゃって
もう!えっち!

「ねえシンジ」
「なに?」
「次はちゃんとつけてね」
コンドーム
シンジは知らん顔
「ねえ…つけてね」
「やだ」
「「やだ」って…その…まだはやいよ」
「半年も離れて暮らしたんだ…それでわかった、アスカをどうしても離したくない。決めたんだ、離れられなくしようって…だから…だから僕達の子供をつくろ う」

返事はしなかった
返事…できないもん
生理もちゃんとこない
いまだにわけのわからない検査や薬を飲まされる日々
私は赤ちゃんを授かる事はできないんだ…
ごめんね…シンジ…

「ねえシンジ」
「なに?」
「ただいま」
「…おかえり」

ガチャン!

突然リビングの扉が開く
「お帰りなさい!アスカ!………」

私を驚かそうとこっそりリツコが帰ってきていた

でも、リツコ笑顔のまま固まっちゃって

まあしょうがないかな

全裸の二人が
カレーを食べてる
しかも
股間をつなげた状態で


リツコの笑顔が鬼より怖かった




私は今回のごほうびをねだった
もちろんネルフと国連に
金銭とは別に

ヒカリに逢いたい
遠くから見るだけでもいい

かなり制限された状態だけど
願いは聞き入れられた


どうしても…
ひと目だけ…

私のわがまま

車は、いつもの黒塗の車ではなく、目立たぬようにワンボックスカーが用意されていた

シンジと二人、あの町へ向かう

ほんの3年前なのに
とても懐かしい…
町は随分変わってしまっているけど
そこかしこに見覚えのあるこの町

車が止まる
「8分です」
やっとしゃべった運転手
愛想のないやつ


そして
窓の外には

「ヒカリ…」
コーヒーショップで楽しそうに女の子としゃべるヒカリ
高校の制服で…
あ…私と同じだ…セーラー服なんだ…
リボンの色はちがうんだ…

ちょっと位なら…
近くに行って…
声を聞くぐらいなら…

ドアに手を掛けようとした瞬間

「やめようアスカ…僕らに会ったら委員長が困っちゃうよ」
シンジに止められた

「うん…」
わかってる

シンジが手を握り締めてくれた
涙が溢れる
頬を伝う
他人の振りして話しかけるつもりだったんだけど
行かなくてよかった

いったら我慢できなくなって

ヒカリに迷惑かけちゃう


シンジがそっと私の手を離す
私は涙をぬぐった

しばらくヒカリを見つめていると

「いいんですか?」
運転手の声

「いいの…もういいの」
私は視線を前に向けた
車は動き出した

「あ!」
シンジが何かを見つけたみたい
「委員長!トウジと待ち合わせだったんだ!」

「えぇ!」
思わず振り返っちゃう!

気を利かせた運転手がゆっくり走らせてくれた

「ほんとだ!」
ヒカリの前で照れくさそうに頭をかく鈴原
ヒカリが手を握る
鈴原が笑う

「止まりますか?」
運転手の声が響く

「ううん、いい…いって」

私はヒカリと鈴原の姿が見えなくなるまでながめていた

私は横を向く

シンジが笑っている

私はシンジの手を握る

二人で笑い転げた

もう会うことはできないけど
こんな素敵な思いをくれる
ヒカリと鈴原やクラスの皆

シンジと一緒
皆もずっと一緒
ずっと一緒にいる

シンジの胸に顔をうずめ笑った
おかしくて涙が出ちゃう


同じ高校の制服を着た私とヒカリ
ヒカリが鈴原の文句を言って…私にあきれられて…それでも鈴原のことが大好きなヒカリ!


よかったじゃない!ヒカリ!
また会いましょうね!
シンジの胸の中でならいつでも会える!




私は小田原で生活しなければいけなくなった
ネルフに協力するため
ばかばかしい…

だからネルフと国連には二つ目の約束を守ってもらうことにした

「六文儀シンジの面倒を一生見ろ」

シンジの記録はどこにもない、エヴァに乗ったことも、一緒に戦ってくれた事も
今やシンジは国連やネルフにとってはただの人
その方がシンジも幸せ

それでもあいつらに責任を取らせたかった

お母さんの説得は私がしたけど
大変だった

「私からシンジを取り上げる気!」

何処かで聞いたような台詞

お母さんは大のネルフ嫌い
いつもリツコに「あんなとこ今すぐやめなさい!」ってぐちってる

あ、そうそう
私のパパとお母さんは昔から犬猿の仲だったらしい

結局シンジが
「アスカとならどこにでも行く」
っていってくれて
「休みの日に絶対帰ってくるから」
ってお母さんと約束して…

そしたら
お母さんが

「引越し!」

一同あ然


六文儀家は千葉から小田原へ




私はついに学校ってところへ通う事ができなくなった
これからは国連職員って肩書きで一生ネルフにかかわらなきゃいけない

シンジはネルフの口利きで小田原の高校にほんの少し通い
ネルフが新設した大学に入った

大学がネルフの作った学校だってことは、シンジは知らない
一応私も在籍してるけど
週に1・2度顔を出すだけ

ネルフでの私の新しい仕事は
アメリカから送られてきた2機のエヴァンゲリオンの適合者のパイロット教育と
零号機適合者のパイロット教育

アメリカから来たムサシ君とケンタ君
この二人はまだ稼動レベルにはないけど将来有望
かわいそうに…

そして


ミサト


ミサトはすでに高いシンクロ率を有していた



あ!
そうそう!
この年、我が家で一大事が起こったの!

なんと!

リツコが!

ニュータイプ卒業!

お相手はやっぱり自衛隊のおじさん

やる事やってんじゃない!リツコも!

親族顔合わせで
まあ、私たちのほうは知ってたんだけど
霧島さんが私たちを見て
口をパクパクさせて
「せせせせせせ先輩!?なんで?どうして!」

めでたくこの日シンジは先輩から伯父さんへとクラスチェンジ!

わざわざこの日のために練習までしたシンジの一言!
「姉のリツコがお世話になります、弟のシンジです」

いや〜本当に“目が点になる”ってのを見たわ!


ほんとにこの後は大騒ぎ!




私たちは成人した
まあ、特に何か変わるってわけじゃないけどね


最近ミサトが
おかしいってわけじゃないんだけど
まあ理由はわかる

思春期

今までシンジを“すき”

だったのが

“好き”

になってきたのね

だから私に対して少し態度が変
ま、私にだけじゃないんだけど

このあいだも
ムサシ君が「ミサト、帰ろうよ」って声をかけてくれたのに
ミサトったら鏡の前でずっと髪の毛をいじくりながら
「ガキに用はないの!」って
ひどいこと言うの
じぶんを棚に上げて

シンジが迎えに来ると飛びついて
シンジは気にもしてないんだろうけど


あの子、時々、私をにらむのよ




私はさっきまでの余韻を楽しんでいた
今日もシンジにいっぱい愛してもらった
シンジが私の頭をなでてくれる
思わず目を細めちゃう

ベッドの周りきたないなぁ…
片付けても片付けても
すぐに散らかすんだから
ほんとにもう!
明日、シンジが学校行ってる間に掃除しよう
ん?
何だろう?
シンジが読み散らかした雑誌の中に…

あぁ、中古車情報誌か

来年の就活で使うっていって
免許取ったんだよね

そっか…
車ほしいのかぁ…

「ねえシンジ」
「ん?」
「車買うの?」
雑誌を指差す
「え?あぁ…なかなか僕の払える額で探してる車がなくて」

ふぅん
そっか
私、シンジの本当の口座にいくら入ってるか秘密にしてるんだよね
だって教えたらすぐ使っちゃうもん
いつも無駄遣いばっかりなんだから
お母さんも「絶対シンジに教えちゃだめ!」って
信用ないわね、シンジったら


私もエヴァに乗って一生懸命ためた貯金、ほとんど凍結されちゃったし…
やっぱ失敗だったかなぁ〜
亡命みたいなもんだしなぁ〜
ユーロからは目の敵にされちゃってるし
まあ日本に来てから本当に“なんとなく”日本にも口座作って…将来日本に家でも買おうかなぁ〜みたいに思ってためた分は無事だったけど
家なんか買っても私がエヴァのパイロットである限り、そこに住めるわけないし


あぁもったいないことしたなぁ〜
あの日の前にもうちょっと日本の口座に移しときゃよかった
ここまで夢の通りって知ってたら絶対移してたのに


ネルフからふんだくった分はシンジに内緒でシンジ名義の口座を作ってためてある
シンジには「しみったれてるわねぇ〜シンジあんなにがんばったのに200万しかくれないんだって」って言って騙しておいた
シンジったら「しょうがないよ、“碇シンジ”はもう居ないんだから…それよりさぁ!そのお金で…」
はぁ…結局使うのよねぇ…
本当は丸が4つちがうんだけどね


しょうがない…久しぶりにあまやかそうかなぁ

「買ってあげる」
「へぇ?」
まぬけな声
笑っちゃう
「い、いいよ!高いから!」
「私がいくら貰ってると思ってんの!それでも高いの!ポルシェ?フェラーリ?ランボルギーニ?コルベット?マスタング?センチュリー?メガクルーザー?」
「えぇ!そんなんじゃなくて…トヨタの…」

なんだ、高いって言うからそんなんかと思った

「びゅーんって速いやつ?」
「そんなんじゃなくて…」


次の日曜日、シンジを連れトヨタのディーラーに行った

あ、あるじゃない
シンジがほしいっていってたやつ
お店の中に値札つけておいてある

「これください、赤い色で」

私はシンジのほしい車を指差した
お店の人は“変なのが来た”って顔してる
なんで?

「で、いくら?もって帰れるの?」
っていいながら私がショルダーバッグから札束出したら目の色変えて

「大変失礼いたしました!お客様!」っていいながら飛んでた

もうめんどくさい!

車選ぶのはシンジだって言うと「旦那様は随分とお若いですね」って始まって
「こちらのナビはいかかでしょう?」とか「こちらのスポイラーが」とか「やはりサンルーフが」とか「足回りのドレスアップが」とか
何よ?ドレスアップって!
車にフリルのヒラヒラでもつけるの?!

私、エヴァのレクチャー受けたときのシンジの気持ちがわかったような気がしたわ!

シンジはなんだかんだで5時間も車の細かい部品選びに時間かけて
ほんとにもう!
思わず「ミサイルとマシンガンとフリルはつけてもらったの?!」って嫌味いっちゃったわよ

やっと何だかオプションがきまって、支払いが済んだら
「納車日は大体半月後で…」

はぁ!?
何言ってんの!
お金払ったでしょう!
今日持って帰れないの!?
ここトヨタでしょう?!
車も値札張ってそこにおいてあるじゃない!?
あれよ!あ・れ!

展示車ってなによ!
新手の詐欺!?

ん〜ま、いいか
シンジ嬉しそうだし

いろんなとこつれてってもらおう

帰りのバスで
「ねえシンジ、いろんなとこつれてってね」
嬉しそうなシンジ
「いいよ!いろんなとこいこう!」

なんだか私も嬉しくなってきた
「じゃあ、そうだ!私、夜景が見たい!」

シンジは嬉しそうに頷いてくれた


納車された赤いワンボックスカー
シンジ曰く「赤じゃなくてレッドマイカ!」
どうでもいいじゃない!

初めてのドライブ

なんでシンジが赤い色にしたか…
シンジは「いいじゃないか…別に」って
照れちゃって

知ってるよ
当たり前じゃない

昔のエヴァの色
シンジのヒロイン“アスカちゃん”の色

シンジの思い出の色



高台の上から町の夜景を二人で眺める
「見たかったんだ!夜景!」
たのしいなぁ


何でワンボックスカーにしたのか

めったにそろわないけど
お母さんとパパとママ、リツコにミサト
家族みんなでお出かけしたいんだ…きっと
だってシンジはやさしいんだもん

いわなくても私はわかってるよ


「きれいだから写真とろっかなぁ〜」
私は携帯を取り出して夜景を写す
「う〜んうまくいかないわねぇ」
何回撮ってもぶれちゃう

ぎゅ

シンジに抱きしめられちゃった
「これでぶれないよ」
「うん」
そのままシンジに寄りかかる

写真の事は忘れちゃった
だってシンジとの思い出のほうが夜景より大切だもん


「アスカちゃん」

なつかしい名前で呼ばれた

たまにはこんなのもいいな…





シンジは就職
立ち上げてまだ4年目の会社
ほんとはシンジのためにでっち上げられた会社
それを知ってるのは私とリツコだけ

出勤初日
緊張やら研修やらで疲れて帰ってきたはずのシンジは興奮していた
「ねえ!アスカ!」
「どーしたの?告白でもされたの?」
「もっとすごいんだよ!」
「なに?初日から社長にでもなったの?」
私は晩御飯の仕度で忙しい
お母さんに作らせたら大惨事が起こりかねないし
「おどろくよ!アスカも!」
「だからなに?」
「山岸さん、覚えてる?」
「山岸…山岸…あぁ…覚えてるわよ、だいっきらいだったもの」
「その山岸さんが会社にいるんだよ!」
「え!」
そんなはずはない!
だってあの会社は完璧に調査された人間と
どうでもいいその他で構成されているはず!
それに、もし山岸さんがいるなら私が最初に気づくはず
あの会社のスタッフの履歴は全員分目を通したのよ!
社長は加持さん
社員のほとんどは自衛隊員か国連職員
山岸さんなんていなかったわ!
「去年まで派遣だったんだって、それでがんばって今年から正社員になったんだってさ!」
なんてこと
「盲点だ…」
「え?あ!アスカ!鍋!ふきこぼれてる!」
「あ?え?やだ!ごめん」
「しかも僕の教育担当!」
「そ…そう…浮気するんじゃないわよ」
「あはは、大丈夫だよ!僕、夜はアスカじゃなきゃまんぞくできないし!」

ポカ!

通りすがりにお母さんがシンジの頭をひっぱたいていった

「いたいなぁ…それに…昔の事は内緒にしてほしいって…お願いしておいた」
「そう…」
「うん…だから大丈夫だよ」

シンジの宝物

ぼろぼろのウォークマン

私の髪飾り

綾波さんから貰ったキャンディー

そして

山岸さんから貰った絵本




しょうがない!こんな事もあるか!




模擬戦
三人の子供の相手をする

もう使徒はいないのに…

ユーロのエヴァンゲリオンと戦うために

私たちは、この子達もヒト殺しにしようとしている


勝負は3対1での戦闘

アメリカから来た2体のエヴァンゲリオンは私のエヴァよりはるかに強化されている
零号機はミサトと人馬一体、多分世界中のどのエヴァンゲリオンよりも強力

スペックだけなら私に勝ち目はなし

マギもそう言う答えを出した

「ハンデあげようか?」
余裕のミサト
「量産機使ってもいいよ」
前の模擬戦でミサトは量産機をけちょんけちょんに
「ねえお姉ちゃん、無理しなくていいよ?」
やる前から勝った気でいるミサト
「ねえ…お姉ちゃん、相変わらずAカップ?私ね、このあいだの身体測定でまたバスト…大きくなってたの…もうすぐCカップ、こまっちゃうわね!」
私をイラつかせようとするミサト
「ねえ…お姉ちゃん…私が勝ったら…お兄ちゃん譲ってよ」
………
「痛くしないからさ…やさしく倒してあげるから…ね?」

「はじめるわよ」


「はーい」




はぁ…あんたたち今までなにやってたの?
まだ使徒のほうが手ごたえあったわよ?

ケンタ君…落第
二人の援護を受け私に飛び掛る
足払いでバランスを崩したところを
ナイフで一突き
プラグを貫通
搭乗者死亡

ムサシ君…落第
ケンタ君のエヴァンゲリオンを投げつけられ、とっさに受け止めてしまう
その直後
私の投げた槍が2機まとめて貫通
身動きが極端に制限された状態で私に襲われる
至近距離からプラグに向かってライフル連射
搭乗員死亡

ここまで8秒

ミサト…落第
私の後ろから襲い掛かる
2機のエヴァンゲリオンを盾にこれを防ぐ
不用意に飛び上がり私を撃ち殺そうとする零号機
ムサシ君のエヴァンゲリオンが持っているライフルを奪い、零号機の片腕を吹き飛ばす
何とか体勢を立て直し着地した零号機に襲い掛かる
まだ使わずに残しておいた日本刀で零号機の足首を切り落とす
けつまずく零号機
次に残ったほうの腕を切る
そして零号機の腹につきたて身動きを取れなくする
「ちくしょう!」
零号機のニードルガンが火を吹く
ざんねん
こんなのよけるの簡単よ?
見本見せてあげる
私のニードルガンが零号機の顔面を貫く
ついでにもういっちょ
零号機の顔面がサボテンみたい
「ありがとうミサト、おかげで全然痛くなかったわ」
「ちくしょう!」
「胸が大きくてこまってるんだっけ?うらやましいわ。わたし、シンジが毎晩すっちゃうからいつまでたってもぺったんこなの」
「ちくしょお!」
「シンジがほしいの?ざんねんね」
「ちきしょう!」
「18年くらい遅かったわ」
「ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

零号機は私に何度も足蹴にされ、つぶれたミートパイみたいになった


「状況終了!状況終了!」

風景が一変する
元のテストプラグルーム

「今日はここまで、今日の模擬戦については明日、レクチャーします。解散」

とぼとぼとテストプラグから降りる三人
下を向き目をこするミサト
ムサシ君が駆け寄り、寄り添う
突き飛ばすミサト
それでも離れないムサシ君

ミサトの泣き声がテストルームに響いた

しばらくするとミサトの泣き声がくぐもった
誰かの胸で泣いているんだろう

私は反対の出口から出る

振り返らない

振り返ったら私が泣いてるのまで見られちゃうじゃない



私のこんな顔を見ていいのはシンジだけ





シンジが就職してから2年がたった

午後の昼下がり

最近シンジが何だかおかしい
浮気してるとかそんなんじゃないのはわかる
女の勘とかじゃなく
会社の人と飲みに行く日以外はいつも同じ時間に帰ってきて
家族三人で夕食
これで浮気してるんなら会社はいつ行ってるの?ってくらい

うぅ〜ん
夜も別にいつもと一緒だし…

なんだろう?

結局納得いかないまま家事を終わらせ、ごろんとしながらテレビを見る
「シンジ、後で買い物行くからつれてって」
「ん?」
ちょっと上の空のシンジ
いつもと同じ日曜日

お母さんが「田んぼ見てくるわ」って出かけた
お母さんはだいっ嫌いなネルフに顔なんてめったに出さない
田んぼにかかりっきり
コンバイン操る姿なんて完全に農家のおばさん

しばらくすると、シンジが何か決心したように自分の部屋に行った
なんだろう?
新しい車でもほしいのかな?

部屋から戻ってきたシンジが私の横に座る
左手を握ってきた
甘えたいんだ…
もう…夕べもあんなにしたじゃない…
それに、すぐお母さんが帰ってきちゃうよ?
もう…

え?

薬指になにか感じる

指輪?

「アスカ」

思わず指輪を見つめちゃう

飛び起きちゃった

「安月給なのに!いいわよ!プレゼントなんて!」
今日はシンジと私が出会った日
二人だけの記念日
でもプレゼントなんていいのに
バカなんだから
毎年私に怒られてるのに
プレゼントなんかいらないって


「アスカ」

「何よ」

「ずっと一緒にいよう」

…え?

ずっと?

いっしょ?

ええ…いいけど…



え!



息が止まる
胸がドキドキする

結婚!?

何とか声を出す
「なによ!もうちょっと気使いなさいよ!」
「ごめん」
「それにぜんぜんロマンチックじゃない!」
「ごめん」

目から涙がこぼれる
「私がその言葉何年待ったと思ってるの!」
「ごめん」
「初めてシンジに抱かれてからずっとよ!」
「ごめん」
「10年よ!10年!」
「ごめん」

私、泣いているのに顔は微笑んでる
シンジが私の手を握り締める
「この手だってもう離してやらないんだから!」
「うん」

シンジの胸に飛び込む
手は握り締めたまま
「子供だってバンバン生んでやる!野球できるぐらい生んでやる!」
「うん」

唇を重ねる
「一人ぼっちにしたらゆるさないんだから!」
「うん」

すずめが鳴いてる
祝福してくれてるのね



「「ずっと一緒にいよう」」



帰ってきたお母さんに報告した

「あっそう、よかったじゃない」

そっけない返事
でも
満面の笑顔


パパとママにも
受話器が壊れるかってくらい大騒ぎしてた


最後にミサトが
「おねえちゃんおめでとう」
って




ありがとう





控え室で純白のウエディングドレスのわたし
「新郎様がいらっしゃいました」
係の人がわたしに声をかける
タキシードを着たシンジ

孤独がアスカちゃんを縛り付けても、傷だらけになってもずっと僕と一緒にいてほしい
10年前、私にとってのプロポーズの言葉

唇でなぐさめてくれた

ずっと一緒にいよう
そういってわたしを抱いてくれた


いつの間にわたしを見下ろすくらい大きくなって
私を全部奪って
私に全てを与えてくれた


しばらく私を見つめていたシンジがつぶやいた

「アスカ…女神様みたいだ」

「ばか…」

いつもみたいに意地悪を言ってやろうとしたのに…

恥ずかしくて顔も上げられなくなっちゃったじゃないの…

なんでこんなにしあわせなのよ…
全部あんたのせいなんだからね…

「シンジのばか…」

ずーっと一緒にいてやる…どんなにいやだって言っても、離れてなんかやらないんだから…

「ばかシンジ…」

いやってくらいしあわせにしてやる…
もう一生離してなんかやらないんだから…

私の中がしあわせでいっぱいになってゆく

シンジが私の手をとり、やさしく語りかけてくる
「さぁ、いこう女神様…時間だ」
うん
しあわせだ
いま、私は世界でいちばんしあわせ…

ありがとう

シンジ




夏祭り
夏しかないのに夏祭り

左手にはキラキラ輝く宝物
どんな高級なブランドだって敵わない

リツコのお下がりの浴衣で
シンジと花火を見上げる

さっきまでたこ焼きとかカキ氷とか食べてたんだけど

みちゃった…

「次はりんごあめ!」
「アスカ…太るよ?」

ガシィ!

シンジにアイアンクロー
「あだだだだだだだだ!アスカ!ごめん!で!でちゃうって!目が!飛び出ちゃう!」


ん?
あれ?
あそこの屋台にいるのって…

ムサシ君…
両手に綿あめ

あ…
ミサト…

ムサシ君から綿あめ奪うようにひったくって…
だめじゃない…
素直じゃないなぁ…

ん?
はは
手、にぎった

「シンジりんごあめやめる!」
ようやく激痛から開放されたシンジ
「あぁ…ほんとに死ぬかと思った…」
おおげさね
「チョコバナナにする!」
ミサト達と逆方向に向かう私

シンジの手を引き

昔を思い出す

ちびのシンジとアスカちゃん



きっとミサトとムサシ君も見上げてるんだ
この花火




週は明けて
「もうシンジなんかしらない!」
私はシンジの膝の一番端っこまで逃げる
「ごめんてば…もうアスカ機嫌直してよ」

さっきまでシンジの膝の上で甘えていた私
昨日、私がチェックしたシンクロテストの結果の話をしてあげたの
あの3人の話…
シンジはやっぱりミサトのことが気になるみたいで…
何回も「で、ミサトちゃんはどうだった?」って聞いてきて

もう!

シンジのお嫁さんは私でしょう!
ほんとに!もう!
神父様の前で永遠の愛を誓ったんでしょう!


大体あのミサトもミサトよ!
テストが終わって、いろいろめんどくさい報告書を仕上げて私も帰ろうかって時に

「あの…おねえちゃん…」

“あの”じゃないわよ!

シンジが目当てなんでしょう?!
しょっちゅう迎えに来るから!
シンジも甘やかしすぎなのよ!
大体ミサトにはムサシ君がいるじゃない!
だから言ってやったわよ!
わざとらしく左手で髪をかき上げながら!

「シンジなら今日は来ないわよ」

うつむいちゃって…

「うん…わかってる…」

まったく!
わかってるんなら…
あれ?
わかってるのに来たの?

「おねえちゃん…一緒に帰ろう」

ミサトはうつむいてて表情が見えない

「……ちょっと待てなさい…もうすぐ用意できるから」
「うん」


帰りにミサトを食事に誘った
かわいいお店
何だか見覚えがあるけど
気のせいかな?

ピザとパスタそれにリゾットを注文した

私が取り分けてあげる

「ねえ…おねえちゃん」
「なに?」
「私のこときらい?」
「なんで?」
「ちっちゃいころから…おねえちゃん私のこと時々にらむでしょう…」

にらんでる?
ちがう
見つめてるのよ
“もしかしたら”って思うから

「…にてるのよ」
「え?」
「私のくだらない約束守って死んだ人に」
「?」
「シンジと私のこと心配して、大怪我しながら私のところまで来て…」



“気にしなくていいわよ、アスカ”

「え?」

“無事だったか、心配だっただけ”

「ミサト!?」

“それにもう意識も朦朧としてたし、もし助かっても銃殺とかだろうし”

「ミサトなの!」

“最後くらいかっこつけてやろうと思っただけ、きにしないで!”

「なによ!ずっとそこにいたの?!」

“あなたたち二人が幸せになってよかった、ほんとはあなたを一番に殺せって言われてたのよ!どう?おどろいたでしょう!”

「何で今まで!お別れもできなかったのに!シンジが泣いてたのよ!ミサトがいないってわかって!」

“あはははは!そういうの苦手なのよねぇ〜ごめんね!でもよかった!もうこれで安心!”

「ちょっと!」

“じゃあ今度こそばいばい!シンジ君には内緒よ!”

「まってよ!まだお礼も言ってないのよ!ミサト!ミサト!」



「大怪我して?それで?」
「え?」
周りを見渡す
一瞬?
一瞬の出来事?

「おねえちゃん?」



ミサト…
うん…
ばいばい
ありがとう…



「ん?あぁ…とにかく命の恩人ににてるのよ、ミサトは」
「うん」
「だからちょっと、まじまじと見ちゃうだけ!もしかして生まれ変わりかもって思っちゃうだけ!」
「うん」
「でもミサトはミサトでしょ!妹よ、嫌いなら食事になんて誘わないし」

「あ!いたいた!おまたせ!」

「シンジも呼ばない!」

おどろくミサト
「おにいちゃん!」
「ミサトちゃんこんばんは、まった?」
「え?うん…」
「それにしても懐かしいなぁ、ね、アスカ」
「え?なにが?」
「えぇ!覚えてないの!僕ここでアスカからお守りもらったんだよ!」
「え?ここだっけ?」
「知っててここにしたんじゃないの!?」
「う〜ん覚えてるようなないような…」
「えぇ〜、ミサトちゃん、ミサトちゃんはアスカみたいながさつな大人にならないでね。いた!あ!アスカ…ごめん…今のなし!うそ!アスカはがさつなんか じゃないよ!うん!」

ミサトがわらってる
ま!いいか!

次のテストの日
ミサトがムサシ君と手をつないで歩いているのを見た
私に気づくと急いで手を離してたけど
ま!いっか!



それにしても
大体シンジもシンジよ!
いっつもミサトのこと気にして!

シンジはお兄さん気取りなんでしょうけど、ミサトはシンジのこと相変わらずスキなのよ!

ほんとにもう!
いい加減気づきなさいよ!
この鈍感!



「ねえってばぁ、機嫌直してよアスカ」

「イヤ!」





ネルフでの定期医療チェック

意外なことを言われた

「おめでとうございます」

お医者さんが笑顔で

「おめでたです」

私は子供を授かった!
まともに生理もこない私が!
シンジの子供を!

嬉しすぎて涙も出ない!

私は走り出したいような気持ちを抑えて帰宅した
だってそうでしょう?
お腹の子に何かあったら
ふふ
なぁ〜んてね!

もう気分はママ!



「ただいまぁ」
シンジはいつもの時間に帰ってきた
安月給だけど残業はほとんどない
まあ、そこだけが魅力の仕事

シンジの前に仁王立ち
にらみつけてやろうとしたのに
どうしても笑顔がこぼれる

「どうしたの?アスカ」

不思議そうなシンジ

シンジの手をとりそっと私のおなかに当てる

「赤ちゃん…できたって」

さらっと言ってやった

ビックリしたような顔のシンジ
でもだんだん笑顔に変わる

「男の子!女の子!どっちだった!?」

もう…ばかねぇ

「まだわからないわよ」

シンジは私のお腹に両手を当てる
「動くかな?」

ほんとにばかねぇ
笑っちゃう
「まだに決まってるでしょう」

「そっか」

シンジが私のお腹にそーっと抱きつく
まるで宝物みたいに

「ねえシンジ」

シンジは私のお腹を抱きしめたまま
まるで、そうしていれば何かがわかるんじゃないかって思ってるみたい
「なに?」

「私…仕事しばらく休む」

「うん」

「私、ママになる」

「うん」

シンジは私に抱きついたままだった

「ねえアスカ」
「なに?パパ」
ふふ…気が早いのは私も一緒!


「パパか…僕がんばるよ!子供のために!」

うん…がんばって
「シンジ安月給なんだから!…しっかり稼いでよね!」

ははは…
シンジの照れたような笑い声

うん!私はいま人生の中で一番幸せ!

シンジと結ばれてから毎日しあわせ!
昨日より今日のほうがしあわせ!
明日はもっと!




ネルフを休職
エヴァもしばらくは凍結

ネルフと国連の説得
ものすごく大変!

世界中相手に戦争でも始めたほうが楽よ!
絶対!

ネルフのやつら、妊婦にエヴァ乗らそうとするのよ!

私が育児休暇について、8度目の冬月指令との面談中に緊急警報が鳴った
無人のエヴァがケージで暴れだした

同じころ、量産機がネルフ本部を取り囲んだ

驚いた顔で私を見る指令
だから言ってやったの
「ママも休めっていってるんじゃありません?」

「…キョウコ君は短気だったからな…」

地上めざし暴れるエヴァ

異変に気づき集まった量産機

王手飛車角金銀総取りって感じ?

諦めたような表情の冬月指令
「3年だ…ネルフの規定にそう書いてある」

育児休暇

「じゃあ自宅に書類を送ってください、それじゃあこれで」

エヴァは停止した

私は外に出るとおなかをさすりながら量産機を見上げた
「赤ちゃんよ!生まれたらみにいらっしゃい!」

顔を見合わせる量産機たち

私を覗き込む

一体の量産機が大木みたいな指で私のおなかをさわってきた

指が私のおなかに触れた途端

歓喜の声をあげるように、量産機は鼓膜が破けそうな大音量で鳴きだした
次々とその合唱に加わる量産機たち

私は歓喜の歌の中、家路についた





一体なんでこうなっちゃったの?!

ああ!もう!

わかってるわよ!

私のおなかには二つの命
神様からの授かりもの



その二人の

名前をどうするかで

お母さんとパパが

はぁ…

とにかく毎日怒鳴りあい
パパったら「シンジもアスカも私が育てたようなもんだ!だから孫の名前は当然私がつける事になる!そうだな?アスカ?」

で、お母さんは「シンジを生んだのは私!今、二人と一緒に暮らしているのも私!だから当然まごの名前を決めるのも私!そうよね?アスカちゃん?」


これが毎日続いてるの!
もうたまんない!

だからシンジに相談したの
「双子なんだから一人ずつつけてもらう?それともファーストネームとセカンドネームにする?」って
シンジ、途端に不機嫌になっちゃって
「二人とも僕がつけるに決まってるじゃないか!」
シンジはすぐに電話を手にするとパパに
「僕の子なんだから僕がつけるよ!おじさんは黙ってて!」
ガチャン!

思わず唖然としちゃった
だってシンジが大きな声出すなんて
よっぽどおかんむりなのね

電話が終わるとお母さんにも


シンジってば、もう名前は決めてあるのかしら?







ああ!
もう!
これで最後にする!
でもなんてかわいいの!
この子達のためなら世界を滅ぼしたっていい!

生みの苦しみはこの幸せのためにあるのよ!
じゃなきゃレモンも入らないようなところからスイカくらいの大きさの赤ちゃんなんて!できるわけないじゃない!

「みて…シンジ…私とシンジの赤ちゃん…」
「うん…うん…」
もう、シンジったらさっきっからそればっかり
「アスカ」と「うん」ばっかり

時々わたしの顔をぬぐいながら
私泣いてるの?
もうそんな事もわからないくらいしあわせだわ!





命名
六文儀レイ
六文儀ユイ

かわいい双子の男の子

シンジがつけてくれた名前に文句なんかない
素敵じゃない
ユイ
レイ

何度も口ずさんじゃう
ユイ
レイ

でも、パパはおかんむり
「ユイにレイ?!なんだって!シンジは気でも狂ったのか!二つともあの女の名前じゃないか!一体シンジはどうしたんだ!」

お母さんは大喜び
「まあ!まあ!そう!じゃあ私は今日からなんて呼んでもらおうかしら!もう“ユイ”も“レイも”この子達のものだもんね、どうしましょう?おばあちゃん? おばあちゃんかしら?いやだわ、ほんと」


私は知ってるよ
シンジ
わかってる
当たり前じゃない
ユイもレイも
綾波さんから貰ったんでしょう?
綾波さんの“レイ”
綾波さんが演じてくれた母親の姿“ユイ”
きっと喜んでるわよ
綾波さんも

だってそうじゃない!
この宇宙のどこにいても
綾波さんはシンジのこと思ってくれてるんだから




ユイとレイをつれ埼玉のパパの所へ
「安全運転でね」
「わかってる」

へそを曲げたパパは孫の顔も見に来ない
まったく…
しょうがないからこっちから出向く羽目になったじゃない

「おぉ!目元なんかアスカ!お前にそっくりじゃないか!ふむ!口元は私に似てるな!こりゃ二人ともいい男になるぞ!シンジ!本当にお前の子か?これっぽち もにとらんぞ?」
さっきまであんなに不機嫌だったのに
パパったら
二人を抱いた途端これだもんね

「ユイにレイか!うん!なるほどなるほど!この子達を見れば納得だ!アスカ!二人にぴったりじゃないか!ユイ!レイ!おじいちゃんだぞ!」

シンジと私は苦笑い

そうこうしてるうちにミサトも帰ってきて
「あ!赤ちゃんだ!」

みんなに祝福される
ユイ
レイ
おめでとう



エヴァの凍結ケージ
私が子供を抱いてみせる
「ママ、ユイにレイ…かわいいでしょう」

誰もいないエヴァのケージ

“ええ…おめでとうアスカ”

「ありがとうママ」


空耳よ
そうに決まってる
そうよね
ママ



「はい、とりまぁーす、3・2・1」
フラッシュが焚かれる
私とシンジの胸にだかれ、私にそっくりなユイとレイが笑ってる

写真を撮りに行こう

シンジが言い出した

リビングには
家族四人で暮らし始めたときに撮った写真

綾波さんとシンジの写真

私とシンジの結婚式の写真

綾波さんから貰ったシンジとシンジのママの写真

そこへ新しい一枚を増やすの
シンジの思い出を

写真館を探し
おめかしをし
家族四人でフレームに収まる

きっといい記念になる

撮影が終わり
ユイとレイにお守りを持たせるシンジ
「ほら…いいこだ…」
おかしい
何が「いい子だ」よ、二人とも寝てるだけじゃない…

ふふ…
ちょっといじわるしちゃおうかな
「ねえシンジ?」
「ん?」
シンジは子供から視線を離さない
「三人目ができたら、お守りどうすんの?」
やっとこっち見た
「え?…うぅーん」
「二個しか無いんでしょ?お・ま・も・り」
こまってるこまってる
んふふふ…
あれ?
シンジ、笑ってる
「そうだよアスカ、『あれ』があるじゃないか」
あれ?ああ!
あはは!
そっか!

シンジ
私とあなたの想い出は星の数ね
子供たちが大きくなったら聞かせてあげましょう
私たちのお話を

シンジが笑う
つられて私も笑う
あら?
この子達も笑ってる
うふふ…
「じゃあ、今日はこれからみんなで星を見に行きましょう」
「うん…いこう」


夜空にシンジはつぶやいてた
「綾波、写真出来たらもっていくよ」

私は聞こえないふりをした


出来上がった写真は
3枚
私たちの分
パパたちの分
綾波さんの分

私とシンジは写真を持って、封鎖されてから10年以上たった綾波さんの部屋に忍び込んだ

荒れ放題の部屋

少し掃除して
写真をテーブルにおいて帰ろうとしたの

部屋を出ようとしたとき

“ありがとう”

振り返ると写真はなくなっていた

私たちは顔を見合わせ微笑んだ




二度目の妊娠
今回はさすがにスムースに産休の許可が下りた
ミサトも来年成人
彼女がいれば、さほど私一人にこだわらなくても問題はない

むしろ
「なあアスカ、なんだ…その…おなかの子の名前なんだが、シンジは何かもう決めているのか?」
はぁ…
「ねえアスカちゃん、次の子の名前なんだけど、シンジ何か言ってた?え?ほら、ユイとレイのこともあるから一緒に考えてあげようかって…」
もう…
私に聞かないでよ
ほんとに

私だって大きなおなかで家中走り回るユイとレイの面倒見るので精一杯なんだから!




もうそろそろかな?
わたしのおなかはパンパン
レイとユイが耳を当ててる
「ねえ、おとこのこ?おんなのこ?」
やさしいレイ
「おんなのこだよ!ね?ママ!」
元気なユイ
「どっちかしらね…ママはどっちでも嬉しい」
「「ぼくも!」」



私たちの三人目の子供は宝石みたいな女の子!
ユイとレイが覗き込む
「「ねえパパ!あかちゃんの名まえは」」

シンジがスーツの内ポケットから封筒を二つ取り出すと一つはビリビリに破いてしまった

「はい」
ユイとレイにシンジが封筒を渡す
「開けて」
もう…なにやってるのよ
ユイとレイが奪い合うように開けるからしわくちゃになった紙
「「ママ!」」
ユイとレイが私に見せてくれる

命名
六文儀キョウコ


「「キョウコ!キョウコ!」」

ユイとレイが声に出して走り回る

「もう!病院なんだからおとなしくしなさい!」

ユイとレイが私を見てビックリしてる
なんで?
そんなにきつくしかったわけじゃないわよ?

あら?
何かしら?

「アスカ」
シンジがハンカチで顔をぬぐってくれた

ユイがめずらしくおとなしくなる
「ごめんなさいママ」
レイは何で泣きそうなの?

「「ママ…いい子にするから泣かないで」」

なんて優しい子供たちなんだろう

「ちがうわよ、ママねキョウコに会えて嬉しいの…」

シンジが肩を抱いてくれる
ユイとレイが抱きついてきた

私の一生はこの子達にささげよう
私はもう何も要らない
この子達がしあわせなら
それが私のしあわせ
ねぇ…そうでしょう?シンジ…




パパとママは大喜び
ママは泣き出しちゃって
「シンジは本当にやさしい子だわ…昔っからとてもやさしい子だったもの…キョウコさんもきっと喜んでくれる…良かったわねアスカ…あなたのシンジは世界で 一番やさしい人よ」

パパは泣きながら大声で笑って
「そうか!キョウコか!キョウコか!そうか!ああ間違いない!この子はキョウコだ!神様!キョウコに祝福を!」
もう、今死んでくれって頼んだら、喜んで死んでくれそうなくらいの感激っぷり



お母さんも喜んではくれたんだけど
何処かとげがあるのよね…
「まゆ毛なんかシンジにそっくり…かわいいわ…目元もシンジに瓜二つ、シンジが生まれた時思い出す…ねえ?アスカちゃん…何でキョウコなのかしら?え?別 に不満はないのよ?ただ…私の知ってるキョウコさんってものすごいヒステリーだったから…シンジ…その事知らないんだろうし…」


まぁ一月もたったころには
「「おばあちゃん!キョウコ返して!」」
「あら?ごめんね、はい…ユイ君レイ君、落としちゃだめよ?」
「おとさないよ!」
「おばあちゃん!勝手にキョウコつれてっちゃだめ!キョウコはぼくの!」
「ちがうよ!キョウコはぼくの!」
「あら!喧嘩するような子にはキョウコちゃんはわたせないわ」
「「あぁ〜んまっておばあちゃん!」」




エヴァ凍結ケージ
ユイとレイはミサトに預かってもらってる
二人して「「おっぱいのおばちゃん!」」だって


私はキョウコをエヴァに掲げた
「見てママ、女の子…名まえはねぇ…なんとキョウコ!おどろいた!?」
ふふ…おどろいたでしょう?
「目元なんかシンジにそっくり!きっとかわいい女の子になるわ!」


“美人になるわよ”


また空耳
でも
「うん、私もそう思う」
私も独り言


ゲストルームに戻るとユイとレイが飛びついてきた
「あのねママ!」
「なにユイ?」
「おっぱいのおばちゃんがぼくとけっこんしてくれるって!」
「あらそう?よかったじゃない」
「じゃあぼくキョウコとけっこんする!」
「そうね、レイはやさしいからキョウコも喜ぶわね」
「ずるいぞ!キョウコはぼくのおよめさんだぞ!」
「ユイはおっぱいのおばちゃんとけっこんするんでしょう?じゃあぼくはキョウコとけっこんする」
「はいはい、けんかはやめてちょうだい。もう…ごめんねミサト」
「ああ!平気よ!やっぱ男の子はユイ君ぐらい元気じゃないと!」
Vサインするユイ
笑顔でVサインし返すミサト

「でも“おばちゃん”はちょっちきついかなぁ〜」

頭をかきながら照れるミサトの姿はまるでミサトに生き写し
ふふ…
人生が二度あったっていいじゃない?




めずらしい…
シンジが料理するなんて…
お母さんと自分の料理が大差ないって気づいて以来、料理なんてしてなかったのに
砂漠のような味覚を持つミサトにさえ「お兄ちゃん…これはちょっと…」って言われちゃったんだから

ま、知ってるけどね
リツコにお願いして料理教えてもらったのよ
「子供たちに何か作ってやりたい」
真顔でそういったんだって

リツコから聞いた
だからメニューも大体想像できる

そうめん
おひたし
竜田揚げ

まあ全部、お湯に入れるか油に入れるかすれば出来上がるんだけどね
さすがリツコ!
うまいことおしえたもんね!

さあできたよ!
ユイとレイがお母さんの手を引き食卓にやった来た
私はキョウコを抱え、席に着いた
「「「「いただきます!」」」」

竜田揚げを一つ、つまんでみた
「う〜ん、いまいちな味付けねぇ」
「そうかなぁ?」

きゃあきゃあ言いながら食べる子供たち…
私は赤ちゃんにお乳をあげる…

「そおかなぁ?こうすればいけると思うんだけど?」
あぁ…シンジ…そうめんのつゆは竜田揚げを浸すものじゃないのよ?
「ユイ、レイ、パパの真似しちゃだめよ」
「「はーい!」」
「ひどいなぁアスカ…」

シンジがあんまり情けない顔するから思わず吹き出しちゃった

「しあわせ!」

「え?」
「こんな毎日がおくれて私しあわせ!」

シンジが嬉しそうに笑ってくれた




キョウコと晩ご飯のお買い物
お菓子かってって、もううるさくて…

さすがに私も34
もうシンジとであって30年
来週はミサトの結婚式
出費が重なるわね…
はぁ…

私とエヴァにお呼びがかからないのはいいことなんだけど
シンジのお給料もう少し上げさせようかしら?
一応全国平均を元にしてもらったんだけど

働いてない私に収入があるってシンジに気づかれるのはいやだし…
う〜ん
緊急の呼び出しでもさせようかしら?
それなら“一時金貰った”でごまかせるかな〜

だめだめ!
いまは今夜の献立考えるのが先!

今日の特売は玉子ととんかつ用の豚肉
となると献立は…

特売の品を手に取る

うん…もう1パック買おう
小学生の男の子2人ってのは想像以上によく食べる
キョウコはまだ小さいからいいけど
ユイとレイは
特にユイ
スポーツ万能!
自慢の息子!
これがよく食べるの
レイは逆に食が細くてこまっちゃう
お勉強ばっかりじゃなくて体も動かしてね
成績は学校で一番!
自慢の息子!
う〜ん、それでも私より食べるのよ
もしかしてユイが食べすぎなのかしら?

特売のお肉に横から手が伸びる
させないわよ!
一瞬私が早く手に取った
スーパーではよくある事
会釈でもすればそれで終わり
笑顔でぺこり
それで終わるはずだった

私にお肉を奪われてしまった奥さんが、まじまじと私を見つめる
そんなに怒らないでよ…
そう思った
その時

「ねえ…アヤカじゃない?私よ!チナツよ!」

懐かしい名前で呼ばれた
千葉の高校時代の偽名だ
「懐かしい!すぐにわかった!ほんとに相変わらず綺麗ね、あら?!その子…もしかしてシンジ君と結婚したの?そうでしょう!そっくりじゃない!」

千葉の高校に通った2年間
一番の友達のチナツ
ちーちゃん

思わず私も
「久しぶりじゃない!元気だった?ごめんね、突然いなくなっちゃって、そうなのシンジとなのよ…腐れ縁ってやつ!」

こんなところで立ち話
懐かしい!
「ねえママ!おかし!」
「え?ああ、早く選んでらっしゃい」
「やった!」

「ねえアヤカ!時間ある?」

私はミサトを呼び出し荷物とキョウコを家まで送ってもらった
何だかよくわからないけど凄い車に乗ってるミサト
「さあ!キョウコちゃん!ぶっ飛ばすわよ!」
「おー!」
「ミサト、安全運転でお願いね」
「オーケー!じゃあね!おねえちゃん!」

なんかほんとにものすごいスピードでミサトの車は視界から消えた


マックでちーちゃんとおしゃべり
ついつい懐かしくって

晩御飯はシンジに任せた
大丈夫!食べられるもの作るわよ!
たぶん

「じゃあね!アヤカ!今度遊びに行くから!」
「ええ!シンジも待ってるから!連絡ちょうだい!」

私はご機嫌で家路についた
ちーちゃんとの偶然の再会
それともうひとつ…

「ただいま」
「遅かったね、アスカ」
ふふふん
「あのね、チナツおぼえてる?」
「チナツ…あ…うん!なつかしいなぁ!」
「今日あったの!偶然スーパーで!」
「ほんとに!うわぁ!すごいね!」
「ほんと!奇跡よ!」
「うん!よかったねアスカ」
「ええ、今度遊びに来るって」
「そうなの?大丈夫?その…ネルフとか」
「なんとかなるでしょ!」
「そおだね!」

で…本番はここから

「子供たちは?」
「もう寝たよ」
「そう」

よしよし

「ねえシンジ」
「ん?」
「私が中国軍と戦ってるあいだ、随分チナツにお世話になったみたいね」
「え…なんの…ことかな…」
見事なくらい引きつった顔のシンジ
「シンジ、チナツに“もしアヤカが帰ってこなかったら”えーっとなんていったんだっけ?」
「あ…アスカ、お茶入れるよ」
「ねえシンジ、浮気って言葉知ってる?」
「昔のことだから…うん…なんかアスカがいなくって…気が動転してたんじゃないかな?…ははは!」
「えーっと、なんかチナツのファーストキスの相手って苗字が数字の6で始まる人らしいんだけど」
「アスカ!一緒にお風呂入ろうか!疲れてるでしょう?!」
笑顔でシンジに組み付いた
足を払いバランスを崩したシンジの背中に回りこむ
そして
STFをきめ本気で締め上げる

「あばばばばばば!アスカ!ごめんなさい!あ!だめ!アスカ!今回は本気でやばいって!死んじゃう!死んじゃうて!アスカ!」

締め上げながらシンジの耳元でつぶやく
「あの時正直に言えばゆるしてあげたのに」
「ぎぎぎぎぎぎ!あ、あ、あの時は!アスカおしおきするので頭いっぱいになっちゃって!!あだだだだだだ!」
「シンジ?」
「は、はい!」

「死刑」

なんか“ごき!”って音の後シンジが動かなくなっちゃったけど
自業自得!
チナツに免じてこれでゆるしてやるんだから!感謝しなさい!





「もう!子供じゃないんだからおきなさい!」

「もうちょっとだけ」

あぁもう…
また加持さんに嫌味言われちゃう
「まあ、遅刻じゃないんだからいいんだけど」
ってはじまって
もう!

シンジの会社が収めてる文房具やら日用品の納品先ってネルフ本部なのよ!
途中で一社咬ませてあるからシンジは知らないだろうけど!
このあいだなんかシンジがトイレットペーパーの納品数間違えて、ネルフ崩壊の危機だったんだから!

「もうおきて!ユイとレイはとっくに行っちゃったわよ!」

ユイは高校で甲子園、大学で日本代表に選ばれる
そしてプロ野球に入団して、大卒で生涯打率3割2000本安打の大記録を打ち立てる
レイは一生懸命勉強して実力でネルフの研究員の座を手に入れた
ただ、どういうわけか女性問題をたびたび起し、そのたびに冬月指令にお小言を言われてる
シンジと一緒、みんなに優しいの


「幼稚園児のキョウコも、もう出たのよ!」

キョウコは高校で少しぐれちゃって…私をたくさん泣かすんだけど
やっぱりこういうときは父親が頼りになる
まとうになってからは、ちゃんと勉強して、恋をして、結婚して、子供を生んだ


「私は今日もミサトのテストで出かけなきゃいけないんだから!」

ミサトはムサシ君と結婚した
ムサシ君はいろいろあってエヴァンゲリオンを降りる事になったけどそれでいいと思う
しかし結婚式のスピーチで「私はずっとお兄さんが好きでした」って始めたときには頭抱えちゃったわよ


「夜にはパパとママも来るのよ!」

パパとママはしっかりひ孫も顔まで見てから他界した
最後まで自分がなずけ親になれなかったのを愚痴りながら


「もう!お母さん!シンジを何とかして!」

お母さんはネルフへの協力を拒み続け、一農家としてその生涯を閉じた
四季のない日本に帰ってこなかったおじさんの事は一度も愚痴らなかった
シンジの選んだ未来を、ただ受け入れてくれた
立派だと思う


「もうすぐリツコが迎えに来ちゃうじゃない!」

リツコは子供を生むとすぐにネルフに復職し偉い人になった
ちなみにシンジは未だにお医者さんだと思い込んでいる


「ああ!もう!綾波さんでも連れてきたい気分だわ!」

食べても食べてもへらないキャンディー
一体どうなっているのか
50億年後に聞くのが楽しみ


「量産機に噛み付かせるわよ!」

量産機は自衛隊が預かってくれている
たまに子供と一緒に遊びに行くと、子供も量産機も大喜び


「もう!シンジ!あんた最後の使途でしょう!エヴァで退治するわよ!」

アダムに最後の使徒“リリン”に指名されたシンジ
世界際弱の使徒
ATフィールドも張れなきゃ目から怪光線も出ない
そこら辺の高校生にやられちゃいそう
でも私の大切な人
そして世界を救った優しい心の天使

ママは永遠の命で地球最後の日まで過ごす
綾波さんが来たら一緒に行きましょうね





シンジの寝顔を見ていたら何だかどうしてもいたずらしたくなってきた

鼻をつまみ唇を塞いだ

「………!うわぁ!アスカ!死んじゃうって!」

「こんな美人のキスでおこしてもらえるなんてありがたく思いなさい!」

「もう、アスカお嫁さんにしたから大変だよ」

「きこえてるわよ!」




全部夢の通りってわけにはいかないの!





こんどこそ
おしまい

フォークリフトさんの「いつもと同じ夢」シリーズ、後日談「もうちょっとだけ」です。

その後のアスカたちです。

良かったですね。読後の感想は掲示板にどうぞ〜。

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