アスカは心の傷が疼くたび、ぼくを求めた

悪い気はしない

昔、誰かが教えてくれた
「求め合う体が心を癒す」
多分神父様だったと思うけど

んん〜
でも女心ってちょっとわかんないや
ぼくがアスカにすると
「いや…きたないよ…はずかしぃ…」
って言ってくるくせに
自分がぼくに同じような事するときは
「ちょっとしょっぱい」
って嬉しそうに

うぅ〜ん
それにぼくたちがしてるのはセックスかって聞かれると
これも…
二人でベッドで盛り上がって
ぼくがアスカの泉に優しく入り込むだけで
その後はお互い見つめあうだけで
その…
まだ…
アスカが妊娠するようなことはしてないわけで…

その…
アスカがくちで妊娠するんなら別だけど…

それに
ぼくも
ぼくに抱かれるアスカを見ているだけで満足で

結局ぼくたちの夜は何かっていうと
りっちゃんの睡眠時間を若干短くするくらいしか…
うん
いくらなんでも
声…大きすぎだよ…

アスカは本気でりちゃんにバレてないと思ってるし…
りっちゃんはりっちゃんで
「私のかわいいシンジ君はどこ行っちゃったのかしら…」
なんてわざとらしく言ってくるし…

はぁ…
今日はどの本にしようかな
大体、何で図書室でこんな事悩まなきゃいけないんだよ…

あ…動物大好きシリーズだ…これにしよう
漢字もいっぱい出てくるし

ぼくが手を伸ばそうとしたとき
横から同じ本に手が伸びてきた

お互い顔を見合わせる

「あ…ごめん…渚君」
「あぁ」

隣のクラスの渚君だった

「渚君は動物好きなの?」
「うぅ〜ん、犬は嫌いだな…野蛮だ」
「へぇー」
「猫は好きだな…自由で孤独で」
「ははは、うちにぶっさいくなデブ猫がいるよ」
「シンジ君はまるで猫のようだね」
「え?」
「好意がもてるよ、君には」
「あは…あははははは」

このホモやろう

ぼくが危うくそう言いかけた渚君は
結局本を借りずに行ってしまった

ぼくはお目当ての本を借りるとアスカの待つ教室へむかった
前回、鼠の事を「げっぱもく」って読んじゃってアスカに笑われて
今日はそのリベンジだ!

教室に戻るとアスカは一人で待っていた
委員長は級長会
トウジと霧島さんは部活

アスカはいたずらっぽく笑っていた

「ねえシンジ、おもしろいもん見せてあげよっか」
「なに?」
「じゃーん」

キャラメル?
え?
ちがうなぁ

手にとって見る

0.03ミリって書いてあって…
その…
えっと…
これって…
あれ…
だよね

「リツコがくれたの」
「へぇ!」
りっちゃんが!?
「えっちなシンジに犯されそうになったら使いなさいって」
「はぁ!」
アスカはおもしろそうに笑う

「今日帰ったら使ってみよっか!えっちなシンジ!」


ぼくはアスカの手を引きため息をついた
それに
頭の中でりっちゃんが
ぼくたちに一生懸命これの使い方やらなんやらを教えてる姿が…
はぁ…


ネルフにつき、時間まで二人で過ごそうとしてたら
伊吹さんが嬉しそうな顔でやってきた
紙袋を下げてる
「おめでとう!アスカ!シンジ君!」
もうわかった…りっちゃんが言って回ってるんだ…
「ほんとによかったわね!シンジ君!あなたやっぱり普通だったのね!信じてたよ!」
笑顔でまくし立てる伊吹さん
「アスカとしあわせになってね!はい!これ!」
ぼくたちに紙袋を押し付けるとはねる様に行ってしまった

ぼくたちは顔を見合わせ袋の中を覗いた
コンドームはわかる
“絶倫”って書いてあるサプリ見たいのも…なんとなく…わかる
でも…この“ぺぺ”って書いてあるボトルは一体なんなんだろう?

一体こんなの誰に聞けばいいんだよ!

「ま、いいわ」

アスカはどうでも良いやって感じでぼくに紙袋を押し付け
シンクロテストに向かった

とほほ

紙袋をかばんの中に押し込もうとしていると

「あー!いたいた!」
「見つけたぞ!」
「あら?なに持ってんの?」
アオイさんとカエデさんとサツキさんが現れて
僕の手から紙袋を取り上げて
「きゃー!ローション!ローションプレイ!そうなのね!」
大騒ぎして
三人して僕の事突っつきまくって
やっぱり最後に
「はい!これ!お姉さん達から」
コンドームを渡されて
「鳴かしてもいいけど泣かすんじゃないぞ!」
なんて嬉しそうに言われ

これって日本の風習?

三人が仕事に戻って
ぼくは一息入れようとジュースを買おうとすると
後ろから手が伸びてきて
勝手にコーヒーをポチっとされて
振り向くと
ミサトさんが満面の笑みで
「シンジくぅ〜んやるじゃない!」
ぼくの事を蹴ってきた
「このこの!」
とかいいながら

ミサトさんはコーヒーを飲み干すと
「これ!私から」
上着のポケットから大きめの箱を取り出してぼくに渡した
「使い方は中に書いてあるから!」
まさか…
箱の中身を覗くと
………
もう、どうにでもなれ…
「これねぇ、私の一押しなの!これでアスカのこと一晩中鳴かしてやりなさい!」
ミサトさんは心底楽しそうに去って行った

あぁ…こんなのアスカに見せたら…
もういっそのこと部屋に飾っとこうかな…
ははははは…

ようやく全部かばんに押し込んでため息をついていると
「お!いたいた!」
「見つけたぞ!この色男!」
青葉さんと日向さん
あぁ…またか…
せめてこの二人には嫌味くらい言ってやろう
なんたってぼくはネルフ内に情報網を持ってる

おしゃべりな三人のお姉さん

あの三人が何にも聞いてないのに色々教えてくれる
たとえば…

今、ぼくの事ぐりぐりしてる日向さんは
「ミサトさん…日向さんじゃ満足できないみたいですよ?」
ほらね、見事にうろたえた

それにぼくの事突っつきまくってる青葉さんは
「昼はギター鳴かして…夜は伊吹さんですか?」
ほら、手が止まった

って!ええ!
「「このマセガキ!」」
うひゃあ!

「シンジ!」
ぼくへの奇妙な虐待はアスカちゃんの登場でようやく幕を閉じた


その夜
りっちゃんはデートに出かけた
「遅くなるけど…まぁわかってるわね?」
そういいのこして

ぼくとアスカは不思議な沈黙
別に喧嘩したわけじゃない
アスカはきっとぼくと同じことを考えている
つまり
今夜は


晩御飯を食べいて
お風呂にはいって
アスカは鏡台で髪を乾かしてる
ぼくの前にはたくさんのプレゼント

「なにこれ?」

ぼくが皆からもらった例の物を並べて眺めていると
アスカがよりにもよってミサトさんからもらったアレを手に取った
箱を開けて
まじまじと見つめる
冷たい目で

「誰から?」
「ミサトさん…」
「…」

ウイーン

アスカがスイッチを入れて眺めてる
冷たい目で

「使いたい?」
「え?………わかんないよ…ぼくには」
「そ…」

アスカはスタスタ部屋を出て行くとベランダを開ける音がした

戻ってきたアスカの手には当然、例のアレはなく
アスカは素敵な笑顔に戻っていた

「やっぱりさ…ここはお姉さんからのプレゼントを使うべきじゃない?」
アスカは照れながらりっちゃんのくれたやつを手にとり
部屋の明かりを消した

「私がつけてあげる」
声はどこか弾んでいた


そのままぼくらは
持てる知識の全てを動員し
ありとあらゆる方法でお互いを潤した

そしてぼくは男になり
アスカは大人になった





目が覚めると
りっちゃんは部屋で寝てて
ぼくたちは裸だった

先に起きていたアスカは
照れてるのか
喜んでるのか
勝ち誇ってるのか

ぼくに向かって
「おはよう碇君、夕べはおさかんだったようだね?」
って

ぼくが答えに困ってるのを見て喜んでた

ぼくに寄り添いながら


テレビを見てると
アスカちゃんの携帯が鳴って
着信者を見てビックリしていた

「リリス?」

なぜだかアスカは綾波のことを時々リリスって呼ぶ
あだ名かな?

しばらくアスカは綾波と話すと切電して

「…シンジ」
「ん?」
「綾波さんがシンジつれてちょっと来いって」
「え…うん」

なんだろう?
なんだか少しいやな予感…



郊外の…って言うか町外れの喫茶店
ぼくはとても不思議で
「なんでこんな外れなんだろう」

ぼくは独り言のつもりだったんだけど

「多分コーヒーが飲み放題の店だからよ」

アスカは楽しそうに答えた


喫茶店に着くなり僕は綾波に睨まれ
綾波の中にあるありとあらゆる言葉で怒られた
本当にひたすら怒られまくって
しかも怒りの矛先は僕で
アスカはしれっとした顔で飲み物を注文してるし

もう本当に綾波はぷりぷり怒ってて

理由はわかるんだけど
ああ…もう…

興奮のあまり綾波は説教なのかなんなのか
全然関係ない話をし始めて
しかもそれが
とおさんとかあさんの出会いの話とかで…

変に聞き入っちゃった

それで
さすがに綾波も話すことがなくなってきたころ
ようやくアスカが綾波に

「綾波さん、私はかまわないの‥シンジなら」

綾波はむすっとした顔のままコーヒーを飲み干す

「それにわたし‥小さいころからいろんな薬や変な実験をいっぱいされてきたから…ちゃんとこないの…生理が…だから多分私…シンジの子供は…」

綾波はアスカの言葉をさえぎるようにテーブルの上に小さな箱をおいた

イチゴマークのコンドーム

「それはいいわけ…あなたはいつかかならずシンジのこどもをさずかる…それまではちゃんとしなきゃだめ」

綾波の…かあさんの言葉がとても嬉しかった
アスカちゃんがちゃんと生理がこない事はわかってる
それがどういうことかも…

それでも僕の子供を授かる

僕たちの神様
僕のかあさん
綾波がおしえてくれた

僕たちは子供を授かる

僕の胸は素敵な光にあふれていた

綾波のようなやさしい光に


喫茶店の帰り
綾波とアスカは何か話している
僕は素敵な未来を楽しんでいた

それにしても最近、よく自衛隊の戦車や装甲車を見かけるなぁ
使徒との決戦に備えてるのかな?




うん…
多分アスカは委員長に話したな…
そんな気がする
でも、みんな今まで通り
楽しい毎日

僕もこうやって図書室で本を選んでる
今日はなんにしよう?

うん、ちょっと渋めで行くかな
“徳川家康”
これにしよう

僕が手を伸ばすと
まるで同じタイミングで横から手が

横を見ると

「あ…渚君」

渚君はにっこり微笑んだ
こいつ絶対ホモだ

「シンジ君、知ってるかい?」
「え?なにが?」
「徳川家康は古い価値観を守ったのさ」
「そうなの?」
「ああ…君はどうだい?」
「え?なにが?」

今日も渚君は本を取らずに帰って行った



アスカちゃんのシンクロテストのついでに
父さんに呼び出された

とおさんは今日も素敵な話をたくさんしてくれた

お花見ってどんな気分なんだろう?
紅葉の中のハイキングなんて気持ちよさそうだ
雪合戦はアスカとドイツでたくさんやったっけ

四季がある世界
“箱庭”
僕は少し楽しみになってきた

アスカとハイキング
かあさんと父さんと僕とでお花見

とても素敵な世界のような気がする


父さんと話をしていたら時間はあっという間に過ぎて
気がついたらアスカが迎に来ていた

「またね、とうさん」
「ああ」


駅のホームで
アスカは何とかってグループのだれとかが結婚するとかいって、キオスクにスポーツ新聞を買いに行った

僕は想いをめぐらせる


僕とアスカと父さんとかあさん
桜の木の下で楽しくお花見
僕はかあさんに甘えて
アスカにつねられる


あれ?
「渚君?」
「やあ」

気がつくと渚君が僕の前に立っていて
小さい女のこの手を引いていた

「妹さん?」

僕が話しかけると

「シンジ君…君はこの子と新しい世界を始めてみないか?」
「へ?」
「君とこの子がひとつになる世界…新しい“箱庭”さ」
「え?」
「もし君が望むなら…海だって赤く染まる」
「…」


「シンジ!」

あれ?

「なにボーっとしてるの?」

あれ?なんだっけ?誰かと話してたような…

「それより見てよ!」

アスカは楽しそうに新聞を広げた
漢字がたくさんだ



僕…なにかしてたよなぁ…



ベッドの中で僕は考えていた
その事が言葉になってしまっていたみたいで
それをアスカが聞いていたみたいで

僕は僕の想いに対するアスカの答えを聞いてしまった

「わたしが全部やっつけたらまたドイツで暮らしましょう」

そうだ…
アスカにはドイツがあるんだ…

いやだ…
いやだ!

僕の世界にいてほしい!

僕はまるでアスカを襲うように、覆いかぶさった
アスカの胸がはだける

アスカは嬉しそうだ

そうだ
アスカは僕がいればいいんだ…
僕さえいれば…

そうだ
僕が望めばアスカも“箱庭”へ…

「きゃぁ!」

りっちゃんの悲鳴
そして
「ちょっと!なんなの!」
りっちゃんが部屋に怒鳴り込んできた
僕たちは寝たふり
「ビックリしたじゃない!ちょっと!おきてるんでしょう!」
笑いがこみ上げてくる
我慢できずに笑い出す僕たち


僕の歪んだ考えはりちゃんがかき消してくれた

そうだよ
アスカは…
僕は…
僕たちの世界を生きていくんだ

きっとそこが僕たちの“箱庭”なんだ
そこがドイツだろうと日本だろうと関係ないじゃないか!


僕の横で楽しげにスライム君の水を抜くアスカ

「じゃあ今晩全部使っとこうか?シンジ」

僕はばかばかしく嬉しくなった
そうだ
そうだよ!
これくらい全部使っちゃうくらいアスカと愛し合おう!
それが僕の“箱庭”だ!


だから僕はアスカに向かってつぶやいた

「ほんとに今夜、全部アスカと使おうかな」

アスカは顔を真っ赤にして頷いた





アスカは瞳にいっぱい涙をためて喜んでくれた
ちょっと恥ずかしい…
だってさ…
今の今までアスカが喘いでいたのが
全部りっちゃんに聞かれてるんだし…

なんだか恥ずかしいなぁ

あ!

「かわいい」

アスカはそう言いながらぼくの眉をさわっていた

「まゆ毛だけならリツコと本当の姉妹みたい…そっくり」
「…」
「シンジのまゆ毛…かわいい」
「…」
「ん?どーしたの?」
「嫌いなんだ…」

アスカの顔が歪む
「やっぱり…」なんていいながら
目が潤む
今にも泣き出しそうに

「あ…ちがうよ…アスカのことじゃない」
「いいよ…きらいでも…でも…そばに…」
「ほんとだって!アスカのことは大好き、嫌いなのは…」
「嫌いなのは?」

「…まゆ毛」

目をぱちぱちさせるアスカ

「まゆ毛?」
「うん」
「こんなにかわいいのに?」
「…かわいいから」
「え?」
「ちっちゃいころからみんな『女の子みたいでかわいい』って言ってくるから」

くす

アスカが小さく微笑んだ

「まっすぐで、ピッとしてて男らしい」
「え?」
「シンジのまゆ毛、男らしい!」

アスカはもう一度僕のまゆ毛を撫でてくれた

僕は自分のまゆ毛が好きになれた様な気がした


アスカは僕の太陽だ




学校
皆で昼食
アスカが僕に
「へたくそ」
僕の手にはお箸

悔しかったんだ
委員長に「子供みたい」って言われたのが
だからフォークはやめた
へたくそでもお箸で食べる

そんな僕の姿を見て
アスカは笑っている

それに

アスカのお弁当にはフォークが二つ
いつの間に持ってきたんだろう?

もちろん僕は、意地でもお箸で食べるつもりだ




授業中緊急招集を受けた

僕も来い
そういう指示も出た

僕はアスカに手を引かれ教室を出ようとした
その時

クラスの皆がアスカを応援してくれた

「がんばれよ!」
「アスカ!宇宙人なんかやつけちゃえ!」
「ラングレー!怪獣の写真撮ってきてくれ!」
「負けるなよ!」
「おーい暴力女!碇はおいてけや!」

皆が笑う

「ばーか!シンジはあんたとちがって特別扱いなの!文句があるなら国連に言いなさい!」

僕はアスカとクラスの皆がまるで太陽と星のように思えた
僕の世界そのもののように思えた

校庭に着地する迎えの飛行機
アスカは乗り込む前に教室の皆に向かってガッツポーズをして見せた

クラスの皆が手を振ってくれる

いや

ちがう
全部の教室からみんなが応援してくれる
学校のみんなが応援してくれる

アスカは力強くガッツポーズをして見せた

今のアスカは僕だけのために戦ってるんじゃない

僕の手足が引き裂かれたあの日
アスカは僕だけのために戦った

でも今は違う

アスカはみんなのために戦う

僕はそれがたまらなく嬉しい



ネルフで僕が受けた指示

ミサトさんはアスカが心配で
前回の使徒との戦いでアスカが使徒に負けたのが心配で
「シンジ君…アスカのために乗ってくれない?」
僕にアスカのバックアップを頼んできた

いやだ

そう言いたかった
例えウソでも手足が千切れ胸を貫かれるような想いはもうしたくない…

でも僕は
僕の口は

「わかりました」

僕の魂にしたがって言葉を発した

アスカは使徒に屈し、心を打ち砕かれかけた
もし、もう一度アスカに同じことが起こったら…

僕は耐えれない

もしもう一度そんな事が起こったら、たとえ手足が折れても、肘ではってでもアスカを助けに行く


突然ミサトさんに抱きしめられた
「怖いでしょう…アスカの代わりにはならないんだろうけど…」

ミサトさんはあったかくて
とても気持ちがよかった



僕は着替えを終えて控え室へ

「おそい!」

アスカがむくれていた

僕はアスカに膝枕してもらって横になった
アスカの顎を見上げる
さわったら気持ちよさそうで
手を伸ばした

きゅ

アスカは延ばした僕の手を握ると
黙って微笑んだ

そして僕と唇を重ねた


握った手は痛いほど握り締められた



震えが止まらない
ハンガーでエヴァンゲリオンを見上げてからずっと
今も止まらない

「いい、シンジ君!アスカの後方3キロに待機!何かあったらすぐに逃げるのよ!」

「はい!」

僕の声も震えていた

僕は巨大な盾を持ちアスカの後ろを進んだ
アスカは強い…
前回、あんな目にあったのに、まるで脅えた様子もなく
むしろ余裕綽々

突然アスカのエヴァンゲリオンが振り向いた
僕のことをじっと見つめ自分の持つショットガンをチラッと見た

「シンジ、はい!」
ショットガンの化け物が飛んできた
「うわぁ!」
何とかキャッチ
「上手い上手い!やれば出来るじゃない?」
まるでアスカそのもののような格好で
腰に手を当て小首をかしげて僕を見る赤いエヴァンゲリオン

「アスカ!シンジ君は素人なのよ!」

ミサトさんが怒ってる

「大丈夫よ!…そろそろ…」

ミサトさんの声が響く

「作戦開始!」


やっぱりアスカは圧倒的で
紐の化け物みたいな使徒を串刺しにし、そのまま地面に突き刺し、踏みつけた

「さあこの白うなぎ!蒲焼にしてやる!」

アスカの圧勝
そう思った

でもおかしい…
見えない…
いつもならここで
そう
使徒はその姿を小さな女の子に変えて
アスカに縊り殺される


「え」


見えた
小さな女の子が

でも
そのこは笑っていて
僕のことを見ると

“リリン…見つけた”

かわいく駆けて来た


「シンジ!逃げて!」


僕は盾を捨て
走り出した


“つかまえた!”

僕の体から力が抜ける

いや…
全身が快感に満ちて
100人のアスカに愛撫されてるみたいで
僕の股間は快楽に波打っていた



「どうだい?シンジ君」

だれだろう?
男の人が立ってる

「これが新生の喜びさ」

不思議な色の目で僕を見ている

「今から君は古い殻を破ってこの星の最初の一人になるんだ」

なんだろう…とても心地のいい声…
あぁ…渚君…
君はまるで…

「さぁシンジ君…見るんだ、この爛れた世界を。この薄汚れた魂たちを」

僕の体はだんだん
僕だけのものじゃなくなってゆく

「さあ、シンジ君…リリスの番犬を…あの犬っころを…」

いぬ?

「殺すんだ!」

“さぁ、いこう”

僕の体は、赤いリリスの番犬を求めた

“さあ”

“ちがう!アスカだ!アレはアスカだ!”

“さぁ”

アスカは僕に飛びつくと、僕から女のこを引き剥がそうとした

でも僕の体の
もう僕じゃない部分がアスカを銃で撃つ

一瞬置いて

僕の腕が砕けた

僕は悲鳴を上げた
アスカは…赤いエヴァンゲリオンはうろたえていた

「アスカ…にげて!僕は大丈夫だから…逃げて…」
こいつの目的は僕だったんだ
だから逃げて…


そして僕の体は僕のものじゃなくなった



「さあ、シンジ君…これで君はリリスの子…そして僕の子…本当のリリンだよ」



アダムに優しく抱きしめられた
その瞬間

アスカのにおいに包まれた

「バカな…」
アダムの驚く声

アダムの連れてきた子は
アスカちゃんに姿を変え

そして僕は
アスカちゃんと遊び始めた


僕はアスカちゃんと遊んだ
たくさん
とても楽しい
いつまでたっても時間は進まない
おなかもすかない
眠くもならない

アスカちゃんと遊んだ


あれ?
きれいなおんなのひとがこっちをみてる?
けがして
ちがでてて

ちょっとこわい


「シンジ…かえろう」


おねえさんがぼくにはなしてきた

僕はお姉さんが怖くて
怪我してるのが怖くて
アスカちゃんの後ろに隠れた

「アスカちゃん…あのおねえさんこわいよ…」

「だいじょうぶよシンジ、あんなひとほっといてここでわたしとあそんでましょう」

「うん!」

僕はアスカちゃんとおままごとの続きを始めた
そしたら怖いお姉さんが

「シンジ…おいで…そのこはアスカじゃないわ…アスカは私」

僕はお姉さんが怖くて
またアスカちゃんの後ろに隠れた

「こわいよアスカちゃん…あのおねえさん、ち、ながしてる…」

アスカちゃんは優しく
「ここにいればだいじょうぶ、シンジ、ずっとわたしとあそびましょう」

「うん」

その時
「うぅ!」
女の人は首を押さえて声を出して
首からは血が流れてて

ぼくはちょっと心配で
「おねえちゃん、けがしてるの?」

でも、お姉さんは笑って
「なんでもないの…シンジ…」

あれ?
「おねえちゃん、なんでぼくのことしってるの?」

お姉さんは得意げに
「しってるよ…シンジのことは何でも…」

ふーん
「おねえちゃん誰?」

「ふふ…さぁ…誰でしょう?」

だれだっけ?
でも、このお姉さん…

僕はアスカちゃんの後ろから離れると
お姉さんのところへ向かった

「シンジ!わたしとあそびましょう!その人はこわいひと!わたしたちをみんなころした!」

僕はお姉さんを指差して
「でもねアスカちゃん、お姉さん怪我してるんだ」

「ここにいればシンジはもうきずつくことも、おびえることもない!わたしとひとつになりましょう!」

「ひゃぅ!くぅん!」
ビックリして僕はお姉さんを見た
お姉さんの首筋から血が流れ出す
僕はアスカちゃんの所から駆け出しお姉さんのところに行って、霧島さんからもらったハンカチを差し出した

「おねえちゃん大丈夫?」

瞬間
僕は抱きしめられた
お姉さんに
そして
お姉さんはかあさんのにおいがした

かあさんのにおいがするヒト
そんな人は
世界に一人だけ

「おねえちゃん?…おねえさん…アスカちゃん?」

僕は必死にお姉さんのにおいをかいだ
間違いない

「アスカちゃんだ!」


「違う!」
振り返ると
知らない女の子が
「アスカは私!」
叫んでいた


「アスカちゃんはかあさんと同じにおいがするんだ!だからお前はアスカちゃんじゃない!」


おっきなアスカちゃんが僕を抱きしめてくれる
アスカちゃんは怪我をしてる
「アスカちゃん、おねえちゃんアスカちゃんでしょう!大丈夫?怪我してるの?」
「大丈夫…さあシンジ…帰りましょう」
「どこえ?」


「だめよ!シンジ!行っちゃだめ!」
女の子は泣きながら叫んでいた


アスカちゃんはやさしい顔で
「私たちのおうち」
「おうち?ドイツ?」
「ちがう、ワタシとシンジとリツコとシンジのパパと綾波さんと学校のみんなが待つおうち」
「みんな?」
「そう…シンジは一人じゃないもの」
「うん、かえる」

僕は家に帰ることにした
だから遊んでくれた女の子にばいばいした
「ばいばい、また遊ぼうね」
手を振った

「qwertyuiopasdfghjklzxcvbnmpoiuytewqbjiom,klxdrtgbhjopl;wqahjfdi;lkjhgfdsa!!!!」
女の子はよくわからない外国語で泣き出した
まるで僕に
“うそつき!”
そういってるようだった


僕はアスカちゃんに手を引かれ
抱えあげられ
やさしく抱きしめてもらって

そのまま

頭から食べられた

とても気持ちいい






ここ
どこだろう?

ぼく
だれだろう?

もうどうでもいいや…

“さぁ…いらっしゃい”

だれ?

“こっちにいらっしゃい”

うん


ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!

「うわぁ!」
ビックリして目が覚める
なんて音の目覚ましだ
まったく…

僕は部屋を見渡した

今日は休みなのに
いつもの時間に起きちゃった

うん
かお洗おう

部屋を出て
ママに
「おはよう」

ママも
「おはようシンジ」

僕んちは父さんがいなくて
ずっとママと二人で暮らしてきた
寂しい時もあったけど
ママがいるから平気だった

ママは綺麗で
自慢のママで

でもね
ほんとはものすごく短気なんだ

はは
ないしょだけどね!

僕は惣流シンジ
ママは惣流キョウコ

二人っきりは寂しいけど
僕はママがいれば満足だ

参観日だって僕のママは一番綺麗で
僕は鼻が高かった

贅沢を言うと
もうちょっとママに胸があったらよかったんだけどね


朝食が終わると
僕はママと話しをした
今日はママも仕事が休みで
僕は今日一日ママと過ごすことに決めた

別にマザコンじゃないよ?

普段こういう時間がないからさ

うん
ホンとはちょっと甘えたいかな

あれ?
ママ…どこ見てんだろう?
「ママ?どうしたの?」

「なんでもないわ」
「そう…それでさぁそいつが」

♪〜

もう…
だれだよ、こんな時に
せっかくママと話してるのに

「もしもし?…そう…早かったのね…」

ママは電話を切った

「ママ、誰から?」

「シンジ…もう帰る時間よ」

ママは時々こんな冗談を言う
「帰る?なにいってんのさママ、ここが僕の家だよ?それよりさぁママ」

ピンポォ〜ン

だれだろう?
知らない人が上がってきた

「あ…えっと…おばさん…だれ?」

だれだ?この人?

ぎゅ

ママが僕をを抱きしめた
「さあ、あなたのいた世界に返りなさい」
優しい声

でも、僕はここから出たくない
僕は惣流シンジで
ママの子で
すぐに怒るけど
大好きなママで

碇シンジの世界には返りたくない
だから

「なにいってんのさ!ママ!あのおばさんはいったい誰?ここは僕の家だ!そうだろママ!」

ママ泣き出した

「ごめんなさい、あなたもアスカと同じ…一人ぼっちにされてしまったかわいそうな子」

アスカ…
この世界には存在しない言葉
だから
「なんだよ?!アスカ?しらないよ!いやだ!僕はここから出て行かない!」
それに
「もう一人ぼっちは嫌だ!父さんには会えない!かあさんはいない!そんなの嫌だ!」
そうだ!
「ずっとママといるんだ!」

ママは僕をぎゅって抱きしめて

そして僕を見つめるかあさんは
泣いていた
泣きながら僕に
「シンジ…ごめんさい…かあさんずっとあなたのそばに居たかった」

ゆるせなかった
僕をおいていったくせに
「うるさい!今頃のこのこ来て!かあさんは僕を捨てたんだろ!」
僕を連れて行かなかったくせに!
「いやだ!そんな大人たちのいる世界になんか返るもんか!」

お前なんか消えて!!


「ちがう!!!!!」


「…アスカ…何でここに」

間違いない
アスカだ…
この世界にはいない
アスカだ…
この世界には“アスカ”なんて言葉はない
僕が消し去った
ずっとここにいるために

「シンジは一人ぼっちなんかじゃない!みんながいて!リツコがいて!綾波さんがいて!」

アスカは勝手な事を言う
わかってない
わかってないよ
アスカは!
「いやだ!みんないつかいなくなるんだ!」
そうだ!
「僕を捨てるんだ!その女みたいに!!!!」

僕はかあさんを指差した

「違う!シンジ!シンジは捨てられてなんかない!シンジのママはシンジのためにリリスにお願いしてシンジを見守ってもらったの!何よりも大切なシンジのために!どんなにお金を出しても手に入らないシンジとの思い出までわたして!だから絶対に違う!」

冗談じゃない!
「いやだ!絶対にここから出るもんか!」
それに
「僕は一人が怖いんだ!『僕』は忘れちゃったけど“僕”は覚えてる!かあさんは僕に「さよなら」って言っていなくなったんだ!」
あの駅で!
僕をおいて!
僕を!僕を!
「僕の事捨てたんだ!」
そうだ…
それに
それにお前だって…
「アスカだっていつかぼくのこと…」

僕は宙を舞った
アスカに本気で
全力で殴り飛ばされた

「ばか!私は絶対にシンジから離れたりしない!世界が滅びたって!わたしが世界を滅ぼしたって!どんなにシンジが私のこと嫌いになっても!絶対にシンジからはなれない!私はシンジの一番になるって決めたんだ!わたしが決めたんだ!」

アスカは泣き出した

「シンジが帰ってこなかったら私は一人ぼっちなのよ!いやよ!シンジ!あなたがわたしの一番なのよ!わたしだって一人はいや!それにシンジのママはシンジ のこと捨てたんじゃない!シンジのために!この世界を残すためにリリスのところに消えたの!私には解る!じゃなきゃどんな宝石より大切なシンジとの思い出 をリリスに託したりしない!」


わかってるよ…
でもね…かあさん…
「かあさんは僕の事捨てたの?」

かあさんは涙を流し首を振る
「私たちがアダムを見つけたせいで世界は滅びかかった、たくさんの人の命、四季、本当に沢山失った。でも…生きていれば、どんなにつらい世界でも生きてさ えいればそこは天国にだってなる…だからリリスを手にいれたとき、私はシンジのためにこの世界を残そうってきめた…ごめんね、かあさんシンジのために…シ ンジが生きてくれればって…それだけだったの。でもシンジはとても寂しかったのね…ごめんね…かあさんシンジが泣いていても何もしてあげる事が出来ない… 今もシンジはこんなに泣いてるのに」

かあさんは僕のために泣いていた
僕が泣かなかった分
アスカをかあさんの代わりにして
泣かなかった分を
僕の変わりに

僕の瞳から
魂から
涙が溢れ出した

10年こらえた想い
母への想い
10年分の涙
母への涙

「かあさんは勝手だ…でもかあさんと話せた」

僕は立ち上がりかあさんとアスカの手をとった
「僕は一人はいやだ…」

かあさんは黙って頷き
アスカは泣きじゃくりながら
「わた…しだって…いや」

アスカを見てると
帰りたくなってきた
もっともっとアスカと一緒に居たくなってきた
“ここよりもあそこへ”
そういう思いがあふれてきた
だから…僕は
「かあさん…もう一度あそこに帰るよ…かあさんが残してくれた世界に…アスカを一人ぼっちになんて出来ない…ありがとう…かあさん」

僕はアスカを抱きしめた
「僕は…アスカのいない世界なんていやだ」
泣きじゃくるアスカを抱きしめた
「わた…しもシンジがいないのは…いや」

「だからアスカ、僕と約束して」
「なに?」
「僕はこの部屋を出たらここでの事は忘れちゃうんだ…でも」
「でも?」

……ちがう
アスカはかあさんの代わりじゃない

「ううん…いいや、大丈夫!」



僕は玄関にたった
「ありがとうママ…本当のお母さんみたいで…嬉しかった」

綺麗なママ
やさしいママ
さようなら

突然ママが僕の手を取り
「ごめんなさい…手…痛かったでしょう…ごめんなさい」
手?
痛い?
あぁ…そっか…
「あのときの声、アスカじゃなくてママだったんだ…はは!…大丈夫!なんともないよ!」
僕はママの手を強く握り締めた

「ありがとう…」
ママは僕を抱きしめキスしてくれた

その後
アスカにも

僕はかあさんに手を引かれ部屋を出てた


僕は
僕の世界へ帰る途中
あきれたような顔のアダムとすれ違った

一瞬かあさんはリリスに戻り
アダムを睨みつけると
アダムは消えてしまった

僕はかあさんに優しく抱かれ
僕の世界に返った

僕の世界は
月がとても綺麗だ

すれ違いざま
アダムが僕に言った

“次が最後のチャンスだ…わかったね?”

僕はアダムの世界を望まない
僕が今のこの記憶を失っても
絶対に望まない
自信がある

僕に必要なのは
太陽だから


扉が開いた

「月が綺麗だね」

アスカが笑う

「ほんと…綺麗ね」

ほんとに綺麗だ
…月は綾波
月の光があれば僕の心は満たされる
だから僕はここに帰ってきた

アスカは僕の横にこしかけ僕に寄り添って
二人で稜線に月が消えるまでながめていた

月が消える…
僕も消える…
そうだ
その前に

「ねえアスカ」
「なに?」
「もう僕のことぶたないって…約束したじゃないか」
「ごめん…」

アスカがはっとして僕を見た

すぐに笑ってまた月を眺めたけど

朝日が昇り始めた
僕は消えかかっていた
悲しくはない
惣流シンジが碇シンジに戻るだけ
それだけ

でも…
最後に…

ありがとうママ
ありがとう

ありがとうアスカ

ありがとう綾波

そして


「ありがとう…かあさん」


僕は涙になった

そして心と体は
碇シンジへと帰った















目が覚めた

病院?

あ…アスカだ

「あれ?アスカ?…何で僕こんな所にいるの?」

って…ええ!

アスカは微笑むと
突然倒れた

僕は焦って人を呼んだ
駆けつけた看護婦さんは倒れたアスカじゃなく
僕を見ておどろいていた


あれ?
涙が一粒

ぼく
泣いてるの?

涙はアスカの唇に落ち

アスカの口の中へ消えた




メール受信

本文
なんていえばいいの
あぁ…
何年待ったのかしら
アスカに感謝しなきゃ
シンジ
もう一回聞かせてちょうだい
もう一回でいいの
それだけで私は神様の国にいる気分
さっきの電話
最後の言葉

“おやすみ…ママ”

何度夢に見たかしら

“おやすみ…ママ”

何度神様にお願いしたかしら

ええ、そうよ!私はあなたのママ!
私は今、世界で一番幸せ!

おやすみなさいシンジ

あなたのママより
私はもう眠らなくても生きていけるわ!



フォークリフトさんから「ぼくの太陽 僕の月」をいただきました。
最後まで続きがどうなるかわくわくどきどきする展開でしたね。意外な設定がでてきたようですし。
素敵なお話を書いてくださったフォークリフトさんへの感想を、掲示板へどうぞー!
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