使徒だ使徒だってもう大騒ぎ
うるさいったりゃありゃしない

うん
まぁ
人類やら世界やらを守る気なんて更々なかったけど
まさか私が滅ぼす側だったなんて

なんかおもしろいじゃない?

それこそ押っ取り刀で立ち向ってくる自衛隊は無視
まっすぐ黄色いエヴァを目指す

そこからは簡単

思いっきりぶん殴ってコアを潰して
私の中のわたしが“それじゃ足りない”っていうから
プラグも潰しといた

“あなたは一体なんなの!?”

赤木博士の悲鳴が聞こえる
かわいそうに
自分が主役のはずなのに
台本では端役だった登場人物が全てを台無しにし始めてるんだから

ご愁傷様

もう大体わかったわ
ここは赤木博士の世界なんかじゃない

ええ

もうわかった

赤木博士は操り人形

ここまでお膳立てするための

“アスカ…もう一度引き裂かれて…引き裂かれて!無様を晒せばいいわ!”

せっかくのお楽しみを台無しにされた赤木博士は半狂乱で

見上げた空には数え切れないくらいの純白の天使が舞っていた

私の中にどす黒い力があふれ出す

空を舞う大量の白いエヴァンゲリオン

操るのは綾波レイ
あの船にいたファーストが総出でいらっしゃったって訳よ

いいじゃない?
ここで白黒つけようじゃない?
はん!赤白かしら?











納得納得
毎度毎度おばさまが「ゼーレにはお金がない」って言ってた理由が
そりゃそうよ
これだけエヴァ作ってりゃお金も足りなくなるわ

シンジと私がやった回数くらいいるんじゃない?

それにしても楽しくてしょうがない
だってそうじゃない?
綾波レイを殺りたい放題!
何人殺っても次から次ぎへ!

あんたも使徒だし
わたしも使徒

使徒同士のシンジ争奪戦ね!

コアを潰し
プラグをひねる

なんでかしら?
この力とこの動きを今まで出来なかったのかしら?

そうすれば使徒との戦いも随分楽だったろうに

まあいいわ

ぼんくらレイちゃん殺し放題なんだし!

殺戮を楽しむ私の前を
LCLの中を漂う写真が一枚
ぼんくらをいたぶりながらチラッと眺める

小さな子供の頃のわたしとシンジ

ママが撮ったの

シンジは夕方のテレビアニメに夢中で、テレビをみつめていて
その横に座るわたしはシンジをみつめている

その光景があんまりかわいいから、ママは後ろからわたしたちをコッソリ撮った

ママのお気に入りの一枚

私はぼんくらの乗ったプラグを雑巾みたいにひねりながら写真に声をかけた

「ずっと一緒よ?」









気がつくと
私はシンジのエヴァの前でファーストのエヴァ達に追い詰められていた

あ〜ぁ
あと9体なんだけどなぁ…

途中で気がついたの

私が次々にぼんくらをいたぶって楽しんでるなか
奇怪な槍を持った9体のエヴァがシンジのほうに向う

赤木博士の世界を完全なものにするため
シンジとファーストでサードインパクトでも起こそうっていうんでしょう

あんたも一緒じゃない?
他のやつらと

復讐がすんだら今度はしあわせでも欲しくなったの?

シンジのパパと結婚でもして
しあわせな家庭でも築いて
シンジを身篭って?
そんなところ?

笑わせないで
シンジは私が守るの
しょうがないでしょう?
そう決めたんだから






9体以外は肉片に変えてやった

でもそこまで

さすがに動かぬシンジを守りながら9対1じゃ…ね

油断してたわけじゃないんだけど
一瞬の隙って言うやつかな?

シンジに取り付こうとする一体を蹴り飛ばして
気配を感じ
はっとなって振り向くと


痛くはなかった

顔面を奇怪なやりに貫かれ
私は力を失った

エヴァも動かない

恐怖はない

勝ち誇ったファーストたちはシンジのエヴァの前で無様を晒すわたしに群がり
エヴァの装甲を引っぺがし
肉を貪り食った

何が“肉はきらい”よ

“残念だったわね、アスカ…精々楽しんだでしょう?”

赤木博士の声が聞こえる

ファーストたちはわたしに止めでも刺すのかしら?
空をくるくる回っている

太陽がまぶしい

でもいいか

今回も八つ裂きか…

でもいいや

守って死ねるんだから

どんな無様を晒しても本望だ
シンジを守って終わるなら

もう三回目はいらない

素敵な終わり

すがすがしい

告白して
あいつのものになって
ぜぇ〜んぶあいつにあげて
…あいつが全部わたしの物になんなかったのがちょっと癪だけど
別にいい

「ね、シンジ」

それにしてもまぶしいなぁ

食い散らかされ力を失い
動かないはずのエヴァの手が動き
日の光をさえぎる

それと同時にファーストたちの止めが降り注いだ

さよなら
シンジ
またね










地獄の扉が開いた
弐号機に降り注いだロンギヌスの槍は全て叩き落とされた

色を帯び
咆哮をあげる初号機に

手にはバット

初号機は肉魁になりかけた弐号機を見つめると
叫ぶように咆哮をあげる

この爛れた世界で
愛を叫んだ

初号機の手に握られていたバットが真の姿を現す

ロンギヌスの槍

オリジナルの

初号機は、手にした槍で弐号機のコアを貫いた
初号機は、天を掴むように宙を掴むように差し出されていた弐号機の手を握る
それが合図かのように弐号機はまるでほどけるように崩れて行き
そのまま初号機とひとつになり
初号機の左手になった

アスカとシンジは結ばれた

体だけではなく
魂も結ばれた

初号機は真っ赤な左手を天に掲げると
その手を勢いよく振り下ろす

まるで小虫が殺虫剤を受けたように
天を舞う白いエヴァンゲリオンが叩き落とされ、地面に叩きつけられ、粉微塵に潰された

アスカの純粋な愛情と、それに答えアスカを守りたいと願ったシンジの願い
そしてリリスの化身エヴァンゲリオンとロンギヌスの槍

二人の使徒、シンジとアスカ
使徒の母、リリス

それらが全て合わさり

新しい世界の神になった

リツコは絶望した
自分がなるはずだった神に
自分の物語の脇役がなってしまった
もう取り返しがつかない

後は消え去るのみ

神の生まれた世界に
神の世界に
人の居場所はない

アスカの純粋な愛情も
シンジの願いも
どこか歪んでいて

だから世界は終わってしまった

全ての生命を無に返して

ある意味サードインパクトを願った人々の願いは叶えられた











目が覚めると赤い海の底だった
声が聞こえ
体を起こす

思った以上だわ、ほんとに

わたしの前には私が立っていて

本当に上手くやってくれたわ

嬉しそうにシンジの首を絞めていた

「ようやく会えたわね」

わたしはそういいながらシンジの首を絞める私の手を払うと
私の前に立った

ええ、そうね

わたしは私を見つめつぶやいた

「なんて醜い…」

一度目の私は
わたしの何倍も強く美しく
そして


醜かった



ほんとに感謝してるのよ?

「あんたのためじゃない」

もういいのよ

「シンジはあんたの物じゃない」

…シンジ…ね…

「どうせあんた、自分じゃ何にもしなかったんでしょう?それでシンジが欲しいなんて虫がいいのよ」

…したわ…あんたは知らないだろうけど…この赤い世界で…あいつに…

「だから何よ、わたしもシンジもその“赤い世界”とかは関係ないわ」

したわ…したわ…だってあいつと私しかいないのよ?

「だから何よ!上手くいかないからって私にシンジを育てさせてそれを取り上げようなんて虫がいいわ!」

季節…って…わかる?

「?…何の話よ」

あいつが…ファーストが馬鹿みたいにでかくなって…豪快にイナバウワーして…おかげで地軸がずれ て…今何月?

「2月だけど…」

そう…じゃああの時よりひどいわね

「なんなの?」

冬が来て…風邪引いて死んだのよ…シンジは

「な!」

ちがうわね…死んだんじゃなくて…生きることを止めたのよ

「止めたって!」

ありがたい事にね…私たちは新世界のアダムとイヴになったのよ…望めばいくらでも命を紡げたわ

「…」

でもあいつはそれをしなかった…散々抱いてやったのに…最後の言葉が『かあさん』よ?…冗談じゃ なかったわ

「…」

さむいのがイヤで…食べ物がまずいのがイヤで…私がイヤで…返ってしまったのよ…せっかく“自分 は自分だ”ってわかったのに…ほんとに救えないやつだ わ

「…」

でも私はごめんだわ…一人でこの赤い世界を生きてゆくのは

「…」

しかも相手は選べない…この赤い世界に選ばれたのはシンジと私だけなんだから

「…」

だからあんたとあの世界を生み出したの…シンジを育てて…私のところにつれてくるように

「…」

この世界で私と一緒に生きていけるシンジをつれてくるように

「…かわいそうね…あんた」



「結局あんたのシンジはあんたを受け入れなかっただけじゃない…あんたが受け入れなかっただけじゃない」

知ったようなこといわないで

「あんたが暖めて欲しかったんでしょう?あんたが愛情のこもった料理が欲しかったんでしょう?あんたの名前を呼んで欲しかったんでしょう?」

いいかげんにして

「それはこっちの台詞よ、わたしのシンジとあんたのシンジの魂が同じならまた結果は同じよ」

だまれ

「あんたがわたしじゃないってって気付いたシンジは今度はこう言って消えるわ『アスカ』って…私の名前を呼んで」

…ただ消えてもらおうと思ってたけど…いいわ…そこまでやってくれたんならご褒美を上げる

「?」

シンジと子供と暮らすんでしょう?…そんな夢…よく見てたじゃない?

「…」

あんたにはその世界をあげるわ…だからこのシンジは私がもらう…それでいい?

「あんた…本当にかわいそうね…」

消えるのよ?私があんたを終わらせようとすれば…いつでもあんたを

「やればいいわ…」

バカね…あんた…もうちょっと頭良くしとけばよかったわ

「消えたわたしはどこに行くのかしら?」

はぁ?あんたはわたしよ?わたしに帰るだけよ…まぁ…あんたは消えてなくなるけどね

「じゃあやればいい」

バカじゃないの?

「あんたほどじゃないわ」

もういいわ…さよなら

「ええ…さよなら」
















一つの魂から作られたもう一つの魂は消えてしまった
そして一つの魂へと帰り
赤い世界へと戻っていった

碇シンジの魂を連れて













赤い海の波の音だけが響く

浜辺には一組の男女

少年と少女

少年は呆然とあたりを見渡す

これが自分の望んだ世界なのだろうか?
自分とこの少女の望んだ世界なのだろうか?

少年はしばらくあたりを見渡し
今度は少女を見つめた

少年も少女も奇妙な格好をしていて
肌の露出は首から上だけで
その奇妙な格好は
少女は赤く少年は白と青だった

少年は少女の瞳が見開かれている事に気付くと、少女の名前を呼びながら優しく少女の頬を何度もなでた

少女はまるで人形のように何の反応もしない

困惑した少年はとりあえず立ち上がろうとした

その時

少年の腕を少女が強く握った

握り締めながら少女ははっきりと
優しく
どこか小ばかにしたように
言葉を発した

「どこいくの?」

少女の顔に表情が戻っていた

少年はその言葉を聞き、表情を見ると安堵した

なぜならば

少年はこう思ったから







ようやくこれでこの少女の首を絞めなくてすむ







おわり



























My name is woman

最終章
「幸せの咲く花」


written by フォークリフト

赤い世界
随分暮らし辛そうね
まあいいわ

それにしても
本当にめんどくさい

結局わたしもあいつもシンジのものだったのね

いいわ

気にしない

本当は誰がわたしを必要としててどうしてここにいるかなんて

それに男なんて秘密の一つや二つあったほうがいいのよ

とりあえず私は立ち上がると周りを見渡した
いつの間にか手を繋いでいる
まあいいわ
もう見せ付ける相手もいないけど
別にいいでしょう?


ホームセンターでも探さなきゃ


農機具に種や肥料
裁縫道具に日用雑貨
キャンプ用品に大工道具
長袖の服だってそろってるわ

たくましく生きるわよ?
当たり前じゃない?
私は女よ?

このばい菌すら滅びた世界だって育てて見せるわ
このめんどくさい男だって育てて見せるわ
このめんどくさい男とわたしの…
ええ!
それだって育てて見せるわ!

なんだか楽しくなってきて
シンジのお尻を蹴っ飛ばす

やれやれ
そんな顔のシンジに向って言ってやった

「My name is Woman!」

自信満々だ!
私は幸せにしてみせる!
この赤い世界も!
この男も!

それにわたしも!







永遠につづく


フォークリフトさんの「My name is Woman」堂々の完結です。
アスカはアスカになったんですね。アスカであるままに…ということでしょうか。

それはともかく、前向きな明日があるようで良かったです。
アスカもシンジも。シンジはやはりアスカに引っぱられているみたいですけど。

素敵なお話を書いてくださったフォークリフトさんへの感想をぜひアドレスforklift2355@gmail.comまで〜おねがいします。

寄贈インデックスにもどる

烏賊のホウムにもどる