My name is woman

12話
Woman


written by フォークリフト


部屋に夕日が差し込む
シンジはさっきから「おなかへった」ってうるさくて
本当にめんどくさい

台所の周りをあさり冷蔵庫ものぞく

“半額”のシールがはってある豚ばら肉
この間スーパーの特価コーナーで見た回鍋肉の素
キャベツそれにピーマン

碇ユイはその帝国を揺ぎ無いものにしているようだ
完璧に計画された経済をもって碇シンジを育成している
見習う必要があるわね

私はピーマンを見つめて悪魔のように笑う
わたしの14年間の人生の中で一度として「ピーマンが好きだ」なんていう奴に出会ったことがない

もちろんシンジも

炊飯器のスイッチを入れ野菜をいためる
シンジはおとなしくテレビを見てる
さっき、あんまり「おなかすいた」ってうるさいから蹴っ飛ばしてやった

インスタントより簡単に作った味噌汁と
炒めれば終わりの回鍋肉
それに炊き立てのごはん

シンジのお皿には野菜5割り増しでよそってやった

ご飯が出来て嬉しいのとわたしにイジワルされて困ってるのが手に取るようにわかる

そうね
この帝国を碇ユイから譲り受けた後は
毎日ありとあらゆる献立でシンジを困らせないと

それにはまだまだ覚えなきゃいけないことがたくさんあるわ

だいたい
テレビ見ながらわたしと喋って
その上ごはんまで食べるなんて

なんて奴なのかしら

本当にこまる

何が困るかって?
そんなシンジを見てにやけてる自分よ






ゆっくりと目が覚めた
まるで海水浴にでも来た様なパラソルとシート
それにテーブル

日差しがまぶしい

見上げれば赤い巨人と色を失った隻腕の巨人

ゆっくりとシートから起き上がると私は目覚めの儀式を
隻腕の巨人…シンジに…エヴァの装甲のどこかに、おはようのキスを

そのままシャワーに向う

プラグスーツを脱ぎながら周りを見渡す

「まるで工事現場ね」

おもわず言葉がもれちゃう

シンジのエヴァの周りは封鎖され誰も立ち入れない

私以外はね

シンジがエヴァに魂をささげたあの日
ゼーレはシンジのエヴァを凍結した

「あなたは好きになさい」

封鎖の工事が進む中、赤木博士はとても嬉しそうにわたしにそういった

「いわれなくてもそのつもりよ」

私はシンジのそばを離れない
そう決めた
だからここから動く気はない

生活に必要なものは赤木博士が用意してくれた
まるで工事現場のプレハブみたいだけどそれで十分

わたしの一日は
目が覚めて
シンジにキスをし
シャワーを浴び
エヴァに乗り込みシンジに色んな事を話す
体がなまったらシンジのエヴァのバットをつかって素振り
それに料理の練習
結構充実してるのよ?






ファーストはあの日以来姿を消した
文字通りね
はん!
一人くらい“姿を消す”のがなんだっていうのよ!
シンジを見捨てて!

わかってるわ
誰かの差し金でしょう

赤木博士?

どうかしら
きっとちがうわ…

わたしよ…
一度目のわたしに決まってるわ…







エヴァンゲリオン…
A10神経で動かす人造人間

女に屈辱を要求するガラクタ

A10神経ってなんだか知ってる?
愛情に反応する神経…

はん!
よく言うわ!
何が“愛情”よ!

一番激しく活発にA10神経が反応するのって何のときだか知ってる?

オルガズムよ!

女性と男性
オルガズムの波形って見たことある?

女のほうが長い時間それを維持できるのよ
だからエヴァのパイロットは女から選ばれた

“それ”が長くて激しい女を選んだ

だから、私が選ばれた事をママに告げられたときの正直な感想…

「ウソでしょう…」

ママの申し訳なさそうな顔は今でも忘れない

年端も行かない少女に快楽を強要し
それを搾り取りガラクタを動かす

私はその屈辱に耐え続けた
自分がシンジに抱かれてる
そう思い込むことで

シンクロテストから帰った日の下着は見たくもない

体の火照りを自分で…
そんなときはいつもシンジのことを考えながらだった

だからだと思う
ママはエヴァのシステムを理解してるから
だからわたしがシンジと何してても…

ママはとっくに気付いてる

わたしとシンジの関係に




昔、ネルフの人たちに言われた
「君たちが人類を、この世界を守るんだ」

守るもんか
女をこんな目に合わせておいて…
絶対に人類のためになんか戦ってやるもんか

シンクロテストが終わった後、いつもいつも
ネルフの女性職員は哀れむような目でわたしを見
男性職員はにやけた顔でわたしを見ていた

私があの筒の中で、どんなことをされているか知っているから

だから私は誓った
もし、ネルフがどこかの誰かに攻撃されて私に助けを求めてきても
絶対に助けてなんかやらない

絶対に見殺しにするんだ



「でもあんただけは別よ」



隻腕の巨人を見上げシンジに語りかける

「あんただけは絶対に守ってあげる」

私はシンジを何十回も犯している
でも、私の心はシンジを万回犯してきた

正直に言えば
私はシンジを抱いて…抱かれて…
それはとても嬉しい

でも…
私は一人で“その”予行演習をしこたまこなして来た

屈辱だ

シンジはわたしに捧げるはずだったものを赤木博士に奪われ
わたしに涙して見せた

いいの
大好きだから
そんなことで泣いてくれるなんて、女に生まれてよかったわ

でもわたしは…

屈辱だ…

自分で自分を…
“シンジがしてる”って騙して…

屈辱だ
わたしの中の大切なものを最初に奪ったのはあのガラクタなんだから


だから絶対に守ってなんかやらない

人類も世界も

天秤にもかけてやらない
わたしはシンジしか守らない

このわたしの想いが一度目のわたしの思うが侭でも

かまうもんか

わたしは解っている
終局はすぐそこまで来ている

それは悩みようもない

どうしようもなく確かな思い

わたしは私に作られたわたしだ

やっぱり私は狂っている






久しぶりの来客
赤木博士
博士はなんだかとてもご機嫌

「アスカ、どう?楽しんでる?」
「ええ、それなりに」
「そう、それはよかった」
「で?何の用?」

博士はまるで少女のように微笑み両手を広げ

「これから少し色々あるけど、アスカは何もしなくていいわ」

まるで願いが叶った子供のようにはしゃいでいた

「ここから見ていればいいわ!」

赤木博士は自分の世界の終局を始めるようだ

「勝手にどうぞ…」

わたしの気のない返事も楽しそうに聞こえるらしい

「そうね、そうするわ!」

博士は踊るように私の手をとり

「わたしの願いはもうすぐ叶うわ!後はあなたの好きになさい」

楽しげに呪われた台詞をはいた






まったく驚かなかった
当たり前だ
赤木博士に教えられていたし…
きっとこれも二度目なんだろう

ここからよく見える
特等席だ

ネルフが自衛隊に襲撃されている
まるで映画みたい

シンジも見てる?
すごいわね
あんたこういうの好きだもんね

火の海じゃない?




しばらくして現れた銀色のエヴァは
自衛隊を蹴散らし存分に暴れる

まさに救世主ね

でもそこまで

どこからか現れた、ファーストの操る黄色いエヴァに不意をつかれ
無残な肉塊になってしまった

さよなら
ヒカリ




ネルフが襲撃された理由は
「ネルフによるサードチルドレン及びエヴァンゲリオンによるサードインパクト誘発計画の発覚」
だそうだ

司令が企んでいたらしい

まがい物の家族に耐え切れず
本当の家族を取り戻すために

司令は計画開始の引き金を引いた
決断の原因はシンジの…息子の消失だろう

我慢できなくなったんでしょう?
そこに居てさえくれれば…それならまだしも消えてしまった
だから消えてしまったシンジの元に向うために
すぐそばにいても声もかけれない碇ユイのために

顔に似合わず寂しがりやだったのね

でもそれは赤木博士が狙う最高のタイミングだった
彼女がぶち壊したい
彼女が踏み躙りたい
彼女が作り上げたこの世界の
まさにこの一瞬のために築いてきたこの世界の総仕上げ

フィナーレだ

多分ミサトも司令に加担したんだろう
死んだ夫と再び…
そんなところだと思う

ミサトってば、いかにも“何か企んでます”って感じだったしね

つまりあいつらも人類を守る気もなけりゃそんなことこれっぽっちも考えてなかったのよ

サードインパクトをおこして生と死、有と無の境目を無くそうとしたのね

迷惑な話

これはもう赤木博士を応援しちゃうわ






昼食前にネルフはあらかた片付いたみたいで

わたしは急いで早めのお昼を平らげた

じゃあわたしもそろそろ取り掛かろうかな?

え?

なにをって?

決まってるじゃない
ファーストが目の前にいるのよ?

シンジをこんな目にあわせた張本人が

つまりそういうことよ




エヴァに乗り込み零号機を目指す

わたしからはA10神経を経由しない力があふれ出、その力がエヴァを突き動かした

憎しみ?
怒り?

ちがうわね

わたしが持って生まれた力

一度目の私が仕組んだ結末




自衛隊やゼーレの通信が流れてくる

“ネルフは完全に沈黙”
“なんだあれは?”
“ゼーレのエヴァンゲリオンか?”
“おい!”
“なんだ!?こりゃぁ!”
“間違いないのか!?”
“パターン青?!”


“使徒…なのか?”


ふうん
なるほどなるほど

人類の敵、最後の使徒はわたしなわけね

いいじゃない?

楽しくなってきたわ

じゃあ楽しみましょう

ね!シンジ!






“あの赤いの…光の羽が…”
“まさに悪魔か…”


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