My name is woman

11話
Because I love you 3


written by フォークリフト

めずらしい…
ほんとにめずらしい
ファーストからわたしに話しかけてくるなんて

「疲れた碇君…とらないで」

なんだかものすごく訴えるような目で
まあ言いたい事は大体わかる…

今までシンジは
エヴァに乗って
戻ってきたら今度はババアに乗られて
身も心もぼろぼろにされて

ファーストのところに逃げ込んでたのね

帰っていいって言われるまで…



ところがこの間、シンジはこなかった

私が来たからね

ファーストってアレよ
子供なのよ…頭の中

わたしにとられたと思ってるのよ
シンジを

元々わたしのシンジだけどね


「別にとってないわ」

「碇君…こなかった…あなたが来たから」

「…めんどくさいの嫌いなのよ…」

「私は好き…碇君…」

「あぁ…もう…いいわ!わかった!」

「返して」

「あんたが来なさい」

「?」

「わたしの見てる前ならいいわ…シンジと遊んでも」

「…碇君…私に『アスカの所に行っちゃダメ』って…だからだめ」

「はぁ…じゃあシンジに『いい』っていわれれば言いの?」

黙ってうなづくファースト
めんどくさい
でもしょうがない

なんだかこいつら全員シンジの妹のような気がして
あんまりイジワルするのも…ね

だからシンジに電話した


シンクロテストが終わって
ファーストと二人
ゼーレを目指した

ゼーレに到着すると、ファーストは嬉しそうに例の部屋に駆け込む、入れ違いに中から二人、高校生くらいのファーストと大学生くらいのファーストが現れた



待ち合わせの休憩室にファーストたちを連れて
中にはいるとシンジが驚いたよな顔で

「二人でって言ったじゃないか」

だから私が笑顔で

「だから二人連れてきたのよ」

「アスカぁ…」

「見ててあげるから、いつも通りにしてもらえば?」

やっぱりわたしはイジワルが似合う



シンジをお仕置きする回数
ずいぶん増えそうね

シンジのやつファーストに抱きしめられたら焦って
「今日からは服、脱がないで良いから」
って小声で言って
聞こえないように言ったつもりなんだろうけど
残念、聞こえたわ

まあ大体わかった

シンジがわたしの知らないところでファーストとどんなことしてたか

胸にうずまってったのね
気持ち悪い…
ファーストは女だけどもう一人のあんたなのよ?

自分に抱きしめてもらってどうすんの?

さて
そろそろ

「じゃあわたしも仲間に入れてもらおうかしら?」

いくらシンジのクローンでも
やっぱりほかの女と寝てるところを見てるのはおもしろくないわ

はん
シンジのやつ
焦っちゃって





散々シンジにおしおきしてゼーレを後にした
ファーストは満足そうだった
ファーストたちはただ、シンジを求めているだけ

わたしと一緒ね

ただ、シンジに対して求めているものがわたしとちがうだけ

そんなことを考えながら電車にゆられているとシンジがつり革を見つめていた

「あんた、片手のエヴァで不自由じゃない?」

前から思ってたこと聞いてみた
深い意味はない
現にシンジは片手でもわたしのエヴァの100倍強い

「左手…左手はダメなんだ」

シンジはまるで罪を告白しているようで

「なに言ってんの?」
「エヴァは…完成させちゃいけないんだ」
「?…ネルフの…わたしたちのエヴァはどうなるのよ?五体満足よ?」
「…」
「いえないの?」
「リリス…」
「リリス?あぁ…ファーストの魂でしょう?」

きっとシンジはとんでもない事を喋っている
だから私はなるべく気軽に聞こえるように答えた

「リリスなんだ…あのエヴァは」

何かに堪えられなくなったシンジは、いつの間にか下を向いていた
まるでこのまま消えてしまいそうに
下を向いていた

「…何でも知ってるのね…あんた」
「エヴァの両手がそろうと…人の進化が始まる…」
「いいわ…もう喋んないで」
「ぼくの…ぼくの汚い魂でこの世界を…」

エヴァがなにか
そんなことはどうでもいい

使徒がなんなのか
そんなこともどうでもいい

わたしの中の愛情をを吸い上げてまで戦う相手とその道具

シンジの人生がそんなくだらない物に縛られている

わたしにとってはただそれだけ

わたしのほしいものは一つ
だから何を聞いても迷わない

「何回でも言ってやるわ、私が守ってあげる、あんたの事守ってあげる」

シンジはわたしに助けを求めている
自分の運命を変えてほしくて

「あんたの人生はサードインパクトを防ぐとか起こすとかのためにあるんじゃない」

運命を変える
運命の流れに逆らう
それは一度目の私にわたしが挑む
負け戦?上等じゃない?
簡単よ
シンジ以外の全部が敵なだけでしょう?
シンプルでいいわ

「わたしにいじめられて振り回されて…それがあんたの人生」

そのためにならなんだってしてやる

シンジに
わたしたちに生きていく意味を

それに
シンジは今にも泣きそうで

シンジを泣かしていいのはわたしだけ

だから

「ねぇ」
「…」
「あんたのことは私が一生守ってあげる、だから」
「…だから?」
「あんた…シンジはわたしのこと守ってよ」
「え?」
「ギブアンドテイク、簡単でしょう。わたしはシンジを守る、シンジはわたしを守る。特別サービスであんたはエヴァに乗ってるときだけで良いわ」

うつむいていたシンジが顔を上げ少し驚いた顔でわたしをみる
当たり前だ
わたしはわたしの人生で始めてシンジに何かを求めた

「簡単でしょう」

いつの間にかシンジは笑顔になっていて
シンジの笑顔は私を強くする

笑った顔がファーストにダブって見えたのが癪だけど

「エヴァに乗れば無敵のシンジ様なんでしょう?しっかり守ってよ?」


シンジは照れくさそうに頷いていた

あれ?
なんだろう
なんで“無敵のシンジ様”って言葉…
まるで誰かに言わされたみたい…

なんだろう?


それにしても
めんどくさい
本当にめんどくさい
シンジはめんどくさい

あはははは
ほんとは「めんどくさい」じゃなくて「大好き」なのに
わたしこそめんどくさい!







真っ白な部屋
天井を眺める
何の意味があるのかわからない点滴
大げさね

シンジは早速約束を守った

はるか宇宙に現れた使徒
ヒカリとファーストのエヴァは修理中

私は陽電子砲を担ぎ使徒を狙い
使徒に狙いを定め

使徒に精神攻撃を受けた

シンジではない生き物に犯された

情けない

大声で泣き叫んでシンジに助けを求めた
恥も外聞もなく

わたしの叫びを聞いた隻腕のエヴァは
シンジは
はるか宇宙にいる使徒に吼え
宇宙に向かい唸り声を上げ
何かの力で地上に引き摺り下ろし
バットで撲殺した


そんなわけで私は今、精神病院に入院中

精神汚染

なにそれ?

心ならとっくに汚されてるわよ
エヴァンゲリオンとか言うガラクタに

とにかく…どうしてだか知らないけど体はよく動かないし、頭もよく回らない

くだらない事だけ考えて時間を潰す

あの事は思い出さないように

シンジ以外のやつに
たとえ心の中だけでも犯されたなんて…

一体どんな顔すりゃいいの





泣いてなんかいないわよ…

あのカメラの向こうのやつらになに言われるかわからないじゃない…

それにしてもうるさいわね
バタバタ…
ヘリコプター?
1,2,3,4,…
6機?
ドクターヘリってやつ?

うるさいなぁ…

誰かお偉いさんでも来たの?

まぁ、関係ないか

寝よう…

夢は…見たくない
シンジ以外に何かされる夢なんて
みたくない


コンコン

ノック?

誰?

大体この部屋、内側からは空けられないじゃない


そんなことを考えていると
戸があけられ
間の抜けた声が聞こえた

「おじゃまします」

間抜面をきょろきょろさせながら
わたしを見つけて困ったように笑って

「遅いわよ」

精一杯の強がりで答えてやった





大変だったらしい
ここに来るの

「かあさんとリツコさんにお願いしたんだ」

その結果がゼーレと自衛隊の混成部隊で病院を強襲
いい迷惑ね

まぁ、正体がばれちゃったあんたがネルフの施設に乗り込むんなら…
それぐらいやんなきゃいけないかもね


しばらく他愛のない話をして
だんだんシンジがだまりこむようになって

あいつ…またうつむいて

「ごめん…アスカの事…守れなかった」

今にも泣き出しそうな声で

勘弁してよ
犯されて…泣きたいのはこっちなのに

めんどくさい…

本当にめんどくさい

「いいわ…」

「何度も何度も僕の事呼んで…叫んで…ごめんね」

「いい…」

「『たすけて』って…アスカ…何度も言ったのに…ぼく…」

「助かったわよ?わたし」

「ごめんね」

「なに謝ってんの?わたしのこと守ったじゃない…あいつからわたしのこと守ったでしょう?…だからいいわ」

「これからは絶対アスカの事守るから…一生守るから」

「はいはい、もういいから。それより」

イヤなのよ
あんたに泣かれるの

あんたを泣かすのはわたしの特権

誰かに譲る気なんか更々ない

とくに一度目のわたしには


「のどかわいた…なんか飲ませて」

シンジは頷いて立ち上がると、部屋から顔だけ出し
外にいる誰かに声をかけジュースを受け取った

用意がいい
きっと食べ物もお菓子もゲームも持ってきてるんだろう
シンジの考えそうな事だ

もしかしたら寝巻きも持ってきてるかもしれない

シンジの考えそうな事は大体わかる

当たり前じゃない
私はこいつの性癖まで知ってるのよ?


シンジがわたしにジュースを渡そうとするから

「ねえ…飲ませてよ」

私がそういうと恥ずかしそうに私の口元にストローを近づけるから

「力がはらなくて上手く吸えないの…わかる?」

ははは!
シンジ、ちょっと悩んで“え!?”って顔をして
しばらく「あ…」だの「え…」だのいって

決心して

自分の口に含んで

わたしにキス


馬鹿ねぇ…
こぼれるじゃない

大体、こんな事しないでコップ使えばいいでしょう?

まぁ
いいけど

それに
こっちのほうがいいわ

それにしても…さっきからママがわたしの着替え持って、困ったような顔で、入り口からこっち見てるんだけど
シンジに言ったほうがいいのかしら?

もう少しこのままでもいいわよね?




結局あの馬鹿はわたしの病室で2泊して帰った
何でだか知らないけどあいつが来てからだんだん体が動くようになって
まぁ偶然だろうけど

随分安い作りしてるじゃない?
わたし

お医者様も草津の湯もお手上げの精神汚染が
どっかのぼんくらとイチャイチャしてたら治っちゃうなんて

おかげで変な夢しか見なくなった

どんな夢かって?

なんかちっちゃなのを私が抱いてて
それをどこかの誰かさんにそっくりな男の人が嬉しそうににやけながら見てる夢よ

多分正夢ね

もう
寝るのは怖くないわ

もう
夢の中で犯されない

抱かれはするけどね

あいつに








使徒ってなんなの?
なんかわたしに恨みでもあるの?
人が気持ちよく寝てたらたたき起こされて


いい夢見てたのに…


横になったまま無理やりプラグスーツ着せられて
そのまま迎の飛行機に放り込まれて
途中でチラッと見た自分の姿にがっかりしたわ


シンジと子供と暮らす夢だったのに…


ネルフに着くと説明もそこそこにプラグに放り込まれて
相変わらずわたしに厳しいミサトは
「体は動かなくてもエヴァは動かせるはずよ」
ですって
あんた、そのうち家に頼んでないピザとかラーメンとか届くわよ
ビールっ腹のくせに
美人ぶってんじゃないわよ



射出された私は少し安心した
ヒカリとファーストは先に展開している

その先にはシンジのエヴァも見える

わたしのエヴァは悲しいくらい好調で

まぁ当たり前か
すぐそこにシンジがいればわたしのA10神経はお祭り騒ぎ


「今次作戦はゼーレのバックアップよ…アスカもね」

ミサトの声

あ…そっか
わたしもゼーレのチルドレンだったわね

「アスカは火力支援、二人は近接支援…いいわね」

ミサトがわたしたちに指示の確認をした
その瞬間

宙を漂う天使の輪の出来損ない見たいな使徒は一本の紐になり
シンジに襲い掛かった

「なに…やってんのよ!」

とっさにバットを放し使徒を握るシンジのエヴァ
使徒はシンジのエヴァのコアめがけのたうっている

「ふざけるな!」

わたしは使徒めがけ激鉄を下ろす

砲弾はむなしく使途にはじかれる

「ファースト!」

ファーストは
綾波レイは
シンジを支援するはずの黄色いエヴァは

ヒカリのエヴァを羽交い絞めにし
シンジをたすけようとするヒカリを押さえつけ
じりじりとシンジから遠ざかっていた




気がつくと私は巨大なライフルを振り上げ使徒に殴りかかっていた




シンジに対する求愛を邪魔された使徒はその矛先をわたしに変え
わたしのコアに向かい飛び掛ってきた


こんなの
イヤだけど…
シンジは守れた…

よかった



《アスカ!》


聞こえた
空耳じゃない

通信も出来ないゼーレのエヴァ
その中にいるシンジの声

わたしに聞こえた最後の声がシンジの声なんて

素敵じゃない

笑顔で終われそう







覚悟は決めたのに
その瞬間は訪れなかった

使徒はわたしのエヴァのコアの手前で立ち往生

使徒はその体の反対側をシンジに握り締められたままで

苦しげに体を波打たせていて

しばらくすると体を硬直させ
砕けたチョークのようになり、果ててしまった


手に取るようにわかる
今の今まで私がやろうとしてたんだから


シンジのエヴァは
握り締めた使徒から生命の全てを奪い
エヴァの中に閉じ込め

だからエヴァの中には二つの魂が…

隻腕のエヴァはまるで石化するように色を失って行き

エヴァの中にいるシンジは使徒の魂を止めるためにエヴァに自分を差し出してしまって
だからシンジは…



なんでバットを放したのよ
なにやってるのよ



何でこうなったか…

わかったわ!
わかってるわよ!
わたし私は狂ってる
だって愛してるから
冗談じゃない!
これ以上おまえに踊らされてたまるか!
今度はわたしの番だ

宣戦布告よ
相手はわかってるわ

“惣流・アスカ・ラングレー”

もう一人のわたし
そのわたしに操られた世界の全てが相手

アンコンディショナルサレンダーも認めないわ

滅ぼしてやる


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