My name is woman

09話
Because I love you


written by フォークリフト

「アスカ!落ち着きなさい!」
「うるさいなぁ…ミサト…落ち着いてるわよ」
「とにかく…後のことは任せて」
「大丈夫よ…」
「お願いだからエヴァから降りてちょうだい」
「大丈夫よ…別にちょっとシンジを迎えに行くだけよ」

ネルフに救助されたシンジは、しばらくして現れたゼーレに引き渡された
まだ意識は戻っていなかったのに…

しょうがないから私はシンジを迎えに行く事にした
手ぶらじゃ心もとないから、そこらじゅうにばら撒かれたパレットライフルやらなんやらを拾い集めて

その間中ミサトが“落ち着け”だの“わたしに任せて”だの言ってたけど

とにかく、もてるだけ持ったし
シンジを迎えに行くか
あの船、丸ごと火の海にすればなんとかなるんじゃない?

あれ?
急に意識が…

「…LCL限界まで…」
「…ヴァ停止しま…」

もう…邪魔しないでよ…




気がつくと私は
病室で拘束着と口かせをさせられ
ベッドにくくりつけられていた

アレからどれくらい過ぎたのか
今どこにいて
何時なのか
さっぱり分からない



拘束着を脱がされ何日ぐらいたったのか…
私はミサトの口からエヴァのパイロットとしての身分を凍結された事を聞いた

別にそんなことはどうでもいい

「シンジはどうなったの?」

返事はなかった

しばらくして現れたママもシンジのことは何も答えてくれず
わたしのこれからの生活の事を楽しそうに話すだけだった



そんな日々が続く中
何の娯楽も何の情報もないこの部屋に
待ちに待った人物がやってきた

「元気そうじゃない?」
「そちらこそ見目麗しゅう…赤木博士」

赤木博士は相変わらずポケットに手を突っ込んだまんまで
冷たい目で
蔑む様な表情で現れた

赤木博士はわたしのベッドに腰掛け
ポケットに手を突っ込んだまま話しかけてきた

「なかなか楽しそうな部屋ね」
「そーでしょう?」
「今のシンジ君の部屋もこんな感じね」
「…そうなんだ」
「逢いたい?」
「そのつもりで来たんでしょう?」
「あわせてあげてもいいけど…」
「…何でもするわ」
「どうなってもいい?」
「逢えるんでしょう?」
「ええ」
「まかせるわ」

赤木博士は満面の笑顔をわたしに向け
嬉しそうに

「死ぬほど後悔するわよ」

本当に楽しそう




あっという間
本当にあっという間

赤木博士が部屋を出て行くと
私は病室から追い出され
シャワーを浴び
着替えを渡され
玄関の前に止まっている黒塗の車に押し込まれた

車の中で赤木博士はずっと本を読んでいて
私は外を眺めていた

「赤木博士」

私は外を見たまま話しかけた

「なに?」

博士は本を読んだまま答える

「渚カヲル…偽者のチルドレンはどうなったの?」
「渚カヲル?…知らないわ…」
「そう…」
「ええ…そんなものは居なかったのよ?…どこにもね」
「そう…」

もう居ないのか…

もうちょっと話し相手してやってもよかった…かな



ゼーレの船に着き中に通される
赤木博士に先導され重要区画へ

途中、エヴァのハンガーを通り過ぎた
そこには相変わらず片腕のないエヴァンゲリオンと
見慣れた赤いエヴァ

「随分と手の込んだ事するのね」
「親切で見せてあげたのよ?…」

わたしの身柄は完全にゼーレへ移されたってことか…

「わたし…生きてるの?」
「ええ…戸籍も全部そのまま」

別人になれ…ってわけでもないらしい

しばらく進むと、まるで病院のような一画に
そしてその中の部屋の一室の前で赤木博士が立ち止まる

「ようこそ…地獄へ」

見とれてしまいそうな笑顔で赤木博士が扉を開ける



部屋の中を覗くと
本当に私がいた部屋と大して変わらない作りの病室
ベッドにはシンジが居て
「え?」
って言いながらポカーンとした顔でわたしのことを見ていた



「元気?…ばかシンジ」

シンジは目をぱちぱちさせて私を見てる

「それから、おばさまも」

おばさまもテーブルの上の何かを片付けた姿勢のまま硬直して

「ついでにあんたも」

ファーストだけがイスに座ったまま振り向きもせず
「はい…碇君のばん」
シンジのカードゲームに付き合っていた





シンジは少し混乱してるらしく
私を見ては「あ…」とか「え…」とかいって

ファーストはシンジのそんな様子を見て
シンジと自分のカードをかたづけると

「じゃあ…碇君、また後で」

シンジに微笑み
わたしには一瞥もせず部屋を出て行った


わたしはおばさまを見つめ微笑んで見せた
私を見たおばさまは、とてもばつが悪そうで
「じゃあシンジ…かあさん仕事に戻るから…リツコさん、後はよろしく」
そういい残して、逃げるように出て行ってしまった



部屋にはわたしとシンジ…それに壁に寄りかかりどこかを眺めてる赤木博士

わたしはシンジにツカツカと近づき

ゴツン!

脳天をげんこつで殴ってやった

「とりあえずこれでゆるしてやる」

私がそう言うと
シンジは嬉しそうな顔をして

「久しぶり…アスカ」

ようやく私の名前を呼んだ



シンジは怪我や病気ではなく
ネルフから身を守るためにここで閉じ込められている

そうかもね
武装した一団でネルフのスタッフを包囲して
シンジをさらう様にして連れて行ったものね…

よく考えれば、あのままシンジがネルフに“保護”されるよりもその方がよかったわね
あのままだったら解剖だってされかねないわ


シンジはポツポツと喋り始めた

シンジは小さい頃からエヴァの適合者で
でもその事は誰にもいえなかった
言えば聞いた相手が居なくなる
そういわれてきたから

だからわたしにも言わなかった

シンジのエヴァもやっぱり私達のエヴァと同じで
誰かを想う心を吸い上げて動いていた
シンジは8才のとき、テストプラグを使った起動実験に成功したそうだ

あら?
何でわたしをちらって見たのかしら?

それからは週一回シンクロテストを受けていた

毎週水曜日ね
いっつも「今日は勉強の日なんだ」って暗い顔してたもの

シンクロテストを受ける度
シンジはわたしを思い浮かべ
わたしを失う事に脅えていた

だからシンジはわたしを幼馴染ではなく…

…まあいいわ
とにかくシンジは自分の想いを突き通すことにして
わたしに…

まあいいわ
とにかく私はそれを受け入れた

「でも…」
シンジの瞳に涙が浮かぶ
「僕の最初の…最初は…ごめんね」
シンジは恨むような目で赤木博士を一瞥すると
すがるような目でわたしを見つめ
うつむいた

シンジの鼻をすする音が部屋に響く
私がシンジを抱きしめると今度はくぐもったような泣き声が聞こえてきた

くす…
赤木博士の失笑が聞こえ
わたしたちをせせら笑うような表情を見せた
「あんまり生意気言うもんだから…“アスカを守りたい!”だの“僕はあなたの操り人形じゃない”だの…ね…想い知らせてあげたのよ?自分の立場を」

「クソババァ」
わたしも負けないくらい
まるで汚れ物を見るような目で見返してやった
この変態年増め…

シンジはわたしへの背徳を告白し
私はそれでもシンジを受け入れた

「犬の糞でも踏んだと思えばいいじゃない」

我ながら最高の慰めの言葉だと想う

「あんたの初めての相手はわたし…私がそういってんだから間違いないわ」

シンジはわたしの腕の中で頷いた


しばらく、シンジが落ち着くのを待った

シンジは、わたしの胸から離れ
話を続ける

わたしと結ばれてからは毎日が天国のようだった…
水曜日以外は…

木曜から火曜まで、シンジはわたしで満たされ
水曜にエヴァとババァに心と体をそれぞれ汚されていた

「気にしないわ…あんた…私が好きなんでしょう?…なら…気にしないわ」

そして使徒が現れた
わたしのことは見殺しにしろ
そう言われたそうだ
ババァに

でもシンジはわたしを助けてくれた

何も部活が終わってまでバット振り回す事もないでしょうに…

そしてわたしを助けた後…
シンジはババァに罰を受けた

この変態ババァめ

だから…シンジはそれに耐え切れなくて
わたしを泣きながら…

べつにいい…
気にしないわ…

あんたは汚れてなんかいない
わたしがそう言ってんだから間違いない

そして先日のダミープラグ起動実験で
偶然か必然か
わたしにその姿をさらしてしまった



「ごめんね…アスカ…ずっとウソ…ついてて」



わたしはうつむくシンジの手に自分の手を重ねた

「ばかね…秘密の一つや二つ…あったほうがいいのよ…男は」

重ねた手を握り締めた

不愉快な声が聞こえた

「一つや二つならよかったのにね」

わたしたちの姿を眺める赤木博士は
本当に嬉しそうに
冷たい目で見下していた

こいつは一体どれくらいシンジを穢せば気が済むんだろう

「じゃあ行きましょうか?」

赤木博士に促され、わたしたちは部屋を出た

「どお?地獄の一丁目を覗いた感想は?」
「…べつに」
「ふふふ…最高の返事ね」

最高にご機嫌な赤木博士は、わたしたちをさらに厳重に警備されている区画へと連れて行った

わたしが何を話しても、シンジは一言も喋らない
ただ
手を握ってあるいた


「さぁ、シンジ君…あけてあげて」

一体何をどうすりゃってくらいの扉の前にシンジが立つ
シンジが視力検査の機械みたいなのを覗き込むと、扉はマンガみたいな音を立て開いた



なんていえばいいの?
夢でも見てるのかしら?

部屋の中へ入ると中はとても広くて
体育館くらいあるかしら?

いや…それよりも…これって…

呆然とするわたし
シンジは部屋の中を進む

部屋の中にはたくさんの人がいて…
その中の一人がシンジに飛びついてきた
「お帰りなさい」
小さな女の子…
シンジの足にしがみついて
その声に反応するように他の人たちが一斉にシンジに振り向き微笑む

「なんなのよ…これ…」

シンジはしゃがみこんで女のこの頭を撫でながら

「ただいま…綾波」

小さな女の子は…ファーストにそっくりな女の子は嬉しそうに笑うとシンジの手を引きテーブルへ向った

「さっきの続き」

そういいながら

小さな子供から子供が居そうな大人まで
ファーストのそっくりさんの見本市

混乱どころじゃないわ

テーブルに腰掛けた二人はカードを並べて遊び始める
そこへ母親くらいの年のファーストが微笑みながら飲み物を置き
高校生くらいのファーストがシンジを後ろから抱きしめるようにしながらカードを覗き込む

「ずるしちゃダメだよ」

シンジはそういうと抱きついてきた高校生くらいのファーストの目を塞ぐ

部屋中にいる大勢のファーストがクスクス笑った


「どお?ここが本物の地獄」
感極まったような表情の赤木博士が歌うように話しかけてきた

「なんなのよ…こいつら…」
「あら?今まで散々あってたでしょう?綾波レイよ」
「なに言ってるのよ…あんた…」
「…そうね…じゃあ簡単にお話してあげるわ」


綾波レイ
ゼーレが送り込んできたファーストチルドレン
シンジの従姉妹

全部ウソ

「彼女たちはクローン」
「クローン?」
「シンジ君のね」

わけが分からない…

「レイはシンジ君の細胞から作られたクローン…どう?素晴らしいでしょう?」
「冗談…」
「見て御覧なさい…全員シンジ君のことだけを考えているの、小鳥が親鳥について回るようにね」

狂ってる…こいつ…狂ってる

「レイを見せられたときのシンジ君の顔…忘れられないわ」

ぞくぞくするような笑顔の赤木ババァ

「シンジ君ね…自分もクローンなんじゃないかって…脅えてるのよ?ばかね…あなたは一人じゃなきゃ意味がないってのに…」

赤木ババァの胸座を掴んでにらみつけた
シンジはファーストたちに取り囲まれこちらは見えない

「いい顔してるじゃない…アスカ」
「あんたに名前で呼ばれる覚えはないわ」
「ふふ…そうかしら?…そうかもね…」

赤木博士はまったく動じもせず話を続けた
シンジから作られた複数のクローン

綾波レイ

でも
こいつらは何人居ても一人しか居ない

こいつらは
人の体に使徒リリスの魂を閉じ込めるための器

こいつらの魂は一つ

だから、たとえばわたしの知っているファーストがシンジとキスしたとして
その記憶と感触そして感情を全員が共有している

魂が一つだから

「そしてそんなレイを見るたびシンジ君は脅えてるの…自分もクローンで…本当は私に良いように操られてるんじゃないかって…ふふふふ…傑作よ?戦闘で受け た傷の治療しようとしたら『肩の歯形だけは消さないでくれ』って…縋る様に」

ぱん!

大人を殴るのも悪くないわね…

それにこのおばさん
わたしに叩かれたのにくすくす笑って
頭おかしいのかしら

「もういいわ…」
シンジのところへ向おう

「話はこれからじゃない…アスカ?」

振り返ると
もう完全にいっちゃってるような表情で
赤木博士がわたしを見つめていた

「もう聞きたくもない…」

赤木博士の表情がますます艶やかに…

「おしえてあげる…ちがうわね…思い出させてあげる…かしら?」

こいつ…いったいなにを

「惣流アスカさんに惣流・アスカ・ラングレーの事を教えてあげる……っていえばいいのかしら?」

ラングレー?

「私もあなたの同類だから…」

こいつイカレてるんだ…
マッドサイエンティストなんだ
人を呼ぼう



「二度目…っていえば通じる?」



「あんた…」
「ふふふふ…話してあげるわ…鼓膜なんか無きゃ良かったって想いたくなるような話だけどね」

赤木博士は私をつれ、シンジから一番遠い場所へイスを置いた
ファーストたちはシンジを取り囲んでいてはなから私たちに興味はない様子

「結論から言うわ…ここは私の世界なの…アスカはそこに紛れ込んだ」

紛れ込む?

「アスカを見ていて確信したわ…惣流アスカは惣流・アスカ・ラングレーの願望だって」

願望?

「いくらか思い当たることがあるかしら?八方美人で御高くて結局シンジ君に避けられちゃうような女だったのよ?あなた…まあ…私のほうがひどかったけど」

シンジに避けられる…

「上手い事やったわね…って思ったわ、あなたを見てて…アレだけ固執してたエヴァのパイロットの座に何の興味も持たず…ヘッドセットをつけないで生活して る姿なんか目を疑ったわ」

エヴァに固執?

「成績も人並み…人付き合いは悪いほうで、性格も捻くれている…まさに天才の面目躍如ね…アスカの思い描いたシンジ君を手に入れるための理想の自分って所 かしら?」

私が理想の私?

「シンジ君と自分の立場も入れ替えたのね…イヤイヤ戦う自分と天才パイロットのシンジ君」

入れ替える?

「上手い事シンジ君の幼馴染に納まってチャンスをうかがう…まったく…完璧じゃない?さすが天才」

天才?

「ふふ…記憶まで捨ててるのね…完璧じゃない…いいわ…簡単にだけど、教えてあげる」



私は…一度目の私は…エヴァに乗り戦う事に強烈なプライドと依存心を持つ女だった…
上辺だけの愛想を振りまいて
年上の男に愛情と父性の違いを理解できないまま付きまとい
同い年の異性に戸惑い
自分の感情を理解できずに
苦しみ
少しづつ自我を崩壊させながら暮らし
最後には狂ったふりをし
自分の殻に閉じこもり
わずかな光を見た後で…
無様にその生涯を閉じた


「手のひらの砂が落ちてゆくような人生だったのよ?…わたしも人のことは言えないけど」


記憶なんかない…どんなにがんばっても小さい頃の記憶までしかない
一度目の自分…私の空想の中の自分…
自分の思いや行動が自分の下心からじゃないって…自分に言い聞かせるための空想

それが全部、わたしがわたしに仕組んだ事だったなんて…

このおばさんは気が狂ってる…

そう言い切れたらよかったのに…

シンジにだってちゃんと話してないようなことまで
このおばさんは言って見せた



「好きになさい…私には私のやりたい事がある…アスカがそれを邪魔しなければ…私もアスカとシンジ君の邪魔はしないわ…」

「あんた…おかしいわ」

「そうよ?私はおかしい…それでいいのよ…それに言ったでしょう?『せいぜい楽しめ』って…あれ…本当はあなたに言ったのよ?」

赤木博士は母親のように微笑んでいた

「わかったわ…楽しむわよ…だけど私が楽しむのは一度目の私のためじゃない」
「そうそう…その顔…それでこそ惣流・アスカ・ラングレー」
「例え私がもう一度無様にくたばったとしても絶対に認めない!私は女に生まれたことを後悔なんかしない!シンジが全部私のものじゃなくても!後悔なんかし ない!」

わたしは胸に手を立て吐き出すように

「私は女だ!…苦しみだって育てて見せる!幸せに育てて見せる!」

赤木博士は小さく両手を上げて“参った”をして見せた



この世界の…少なくとも私に関わりのある…この世界の全ては
赤木博士の仕組んだ世界…

信じられないけど…
私の妄想の全てを言って見せた彼女の言葉を疑う事はわたしには出来ない

彼女は一度目の人生で手に入れたものが全て偽物だった

だから今度は本物を手に入れる…つもりはない

ありとあらゆる手を使って
目の前に望んだ物をぶら下げて
それでも触れる事が出来ない

そんな人生を全ての人間に味合わせる

「私こそ狂っているのよ」

葛城ミサト…彼女は一度目では親友だったそうだ
だから特別に、一度目では味わえなかった幸福を与え
それを取り上げた
その結果が、私の知る“加持ミサト未亡人”
…ちなみに今回は親友でもなんでもない人生を選んだそうだ…

碇ユイ…男と人生をかけた何かを取り上げたそうだ
詳しい話はしたくないそうだ…

「一生子供の世話でもしていればいいのよ…」

なんで悔しそうなんだろう?

六文儀ナオコ…彼女の母…望む全てを与えた…
その結果があまりにもつまらない一生…
男と地位と名誉
それに縛られた一生

「それに私…六文儀リツコって響き…好きじゃないの」

六文儀ゲンドウ…一生をささげるはずだった女を取り上げ
一生をかけるはずだった息子を取り上げ
まがい物の家族を押し付けられた
彼女の復讐の一番の被害者

「苦しみだけじゃなくてシンジ君もちゃんと育てなさいよ?…アスカ」

ふぅ〜ん…
シンジと指令…
そうだったんだ…
だからか…シンジに甘かったのは…
遠くから見守るんならまだしも、目の前にぶら下がってるのに“父親です”の一言もいえない
同情しちゃうわね


「それにシンジ君」

シンジ…私のシンジ…
私にささげるはずだった全てをこのババアに奪われた可哀想なシンジ…

一度目の時に見たシンジは
何も望まず何も手に入れず

最後に手に入ったものは何もない世界と拒絶の象徴…

だから今回は人並みにしてやったそうだ…犯す以外は

「理由は何でもよかったのよ…まるであの人を犯してるみたいで…まぁ…被害者ね…シンジ君は…」

このキチガイ…それはそうと

「拒絶の象徴?」
「知らないほうが良いわ…シンジ君にとって一番恐れる存在…そんなところよ」

なんだろう?
でもいい…
それが何であっても私が守ってみせる
女には女の守り方がある
だから私は私のやり方でシンジを守る


「アスカはアスカの好きに生きなさい、別にあなたの邪魔はするつもりなんかないから…」
「言われなくても」
「せいぜい楽しむが良いわ、私が生きている限り私のゲームは続くんだから」
「“私が”じゃないわ…」
「そうね…私とあなた…かしら?」

答えなかった

わたしとシンジが生きている限り

それにわたしは一度めなんて認めない
例え今が二度目でも

わたしのシンジへの想いが仕組まれたものなんて…絶対に認めない!


シンジはもう何日かで普通の生活に戻れるそうだ
ネルフとの交渉…衝突かしら…とにかくそれがもう何日かで解決するらしい…

わたしはこのままネルフに戻すらしい
「世界中に二人しかいない…共犯者が裏切るとは思わないわ」
だからこのまま戻すらしい
「ミサトには、わたしに洗脳された…とでも言えばいいわ」


シンジのほうを覗いてみた
いつの間にかシンジの膝の上には子供のファーストが乗っかっていて
カードの相手はわたしの知っているファーストが二人…双子みたいに

「シンジ!」
「なに?話…おわったの?」
「ええ、それよりおなかすいたわ!」
「わかった!…じゃあ綾波、続きはまた後で」

シンジはファーストたちに笑顔を向けるとファーストたちは一斉に微笑み返した

子供のファーストをつれたままシンジはわたしの元に来た

そうだ…

「ところでこの浮気もの…」
「ちがうよ…」
「まあいいわ…ところであんたがやっちゃったファーストはどれ?」

冗談のつもりだったんだけど

シンジは困ったような顔をして…
大学生くらいのファーストを指差した

他意のない赤木博士の笑い声とわたしの平手打ちのの音が綺麗に響いた



食事は始めてここに来たときと同じで
巨大なハンバーガー

私は自分でもわかるくらい不機嫌にそれをほおばり
シンジはばつが悪そうにかじっていた
シンジの膝の上には相変わらず小型のファーストがのっかてて
「碇君…いたい?」
なんて聞きながらシンジの頬をなでていた

「シンジ…」
「…なに」
蚊の鳴くような声のシンジ
「今度ファーストとやるときはわたしの目の前でやりなさい」
「…え」
「命令よ」
「は…はぃ」



私とエヴァは約束通りそのまま帰された

ミサトは

「悪いけど…今後は監視をさせてもらうわよ」

今までしてなかったわけじゃないでしょうに
まぁいいわ…
今日から私は“ゼーレの送り込んできたチルドレン”
精々楽しもうじゃないの!

私は早速人生を楽しむ事にした
被害者は碇シンジ

シンジはひどく困惑している

そりゃそうでしょうね
家を出てから教室で席に着くまで手を繋いだままなんだから

それに誰かが見てるのに気付かない振りしてキスもしてやったわ

わたしはまだまだ楽しむつもりよ


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