My name is woman

07話
CRAZY! I love you 2


written by フォークリフト

いつの間にかネルフ本部に侵入した使徒は
これまたいつの間にか六文儀夫人に撃退されていた

そんなことはいざ知らず
私はシンジの困った顔を眺めていた

私が作ったお弁当をシンジに渡した
皆の前で

シンジは散々冷やかされて
一日中困ったような顔をしていた

私は知らん顔でそれを眺めてた

相々傘なんてもう100回くらい書かれて
気にもならないわ

「アスカ、嬉しそうね」
ヒカリがうらやましそうに声をかけてきた

「そーお?」
まあそうでしょうね
ヒカリはその後進展もなく
奥手って損よね、こういうとき

「いっつも碇君見つめて…いいなぁ」
「あきないからね」
「いいなぁ」
「どーも」

早くお昼にならないかしら…
お弁当のふたを開けて困り果てるシンジの顔が目に浮かぶわ
愛妻弁当よろしく作ってやったからね




シンクロテストで私はついにダブルスコアを叩き出した
別に自慢するほどの事でもないけど

なんてことはない
わたしのシンジへの愛情がファーストとヒカリのそれをあわせたよりも…
まあ、当たり前の結果ね
あんなめんどくさいやつ愛するってのは並大抵じゃないのよ


休憩室に入るとよりにもよってファーストがいた
不愉快な女
でもここで部屋を出るのもしゃくだ

「ごきげんよう、ぼんくらレイちゃん」
満面の笑みで話しかけてやった

「…」
ファーストは横目でチラッと見るだけ
缶ジュースを握り締めながら

「あら?何かしら、ぼんくらレイちゃん?シンジの彼女のアスカちゃんにご挨拶は?」
わざわざ真正面に座り話しかける

「…碇君はいつもほめてくれる…“がんばったね”“すごいね”って…だからあなただけのものじゃない」

「はん!ご愁傷様!かわいそう過ぎて同情しちゃうわ」

「碇君はわたしといつも遊んでくれる…疲れたら膝枕…とてもいい気持ち」

「はいはい、昔はよかったってやつでしょう?ご苦労さん」

なんだか馬鹿みたい
もういいわ

私は席を立ち部屋を出た
これ以上負け惜しみに付き合うのもばかばかしい

わたしの背中に最後の負け惜しみが

「碇君の包帯…私が巻いた」


家路に着く
シンジにメールを送った

“二度と料理なんかするな”

別に嫉妬じゃないわよ?




「ひどいよ…」
シンジが涙をいっぱい溜めてわたしを睨む

「いいじゃない…どうせあんた…わたしのなんだから」
シンジの肩から滲む血をなめるわたし

「だからって噛む事ないじゃないか…ほんとに痛いんだよ…」
「うるさいわね…血なら毎月流してるのよ…こっちは」
「でも本当に…」
「黙らないともう一回噛み付くわよ…」
「…ひどいよ」
「いい…あんたは髪の毛一本…血の一滴までわたしのものなの…」
「だからって…」
「自分に聞くのね…何でわたしに噛み付かれたのか…」
「…綾波?」

もう一度思いっきり噛み付いてやった
部屋にシンジの悲鳴が響く

あぁ…心地いい…

わたしの中のサディストの私が歓喜に震え
わたしの中のマゾヒストの私が恍惚に震える
ええ!
そうよ!
私は狂ってるの!
私はこの後、散々シンジに仕返しされるわ!
今度、悲鳴を上げるのはわたし

鳴く様にだけどね



使徒が現れ
わたしたちは招集された

この日を待っていたのよ
別にシンクロテストでもよかったんだけどね…

わざわざファーストの隣のロッカーを使う
右の乳房を見せ付けるために
別にバストのサイズがどうこうじゃないのよ
右の乳房についた歯形が消える前に見せ付けたかったの

おもしろかったわよ?
わたしの胸の歯形に気がついたファーストはむっとした顔で
あの無表情が歪むところなんて滅多に見れないじゃない?

まあ
ちょっとめんどくさいこともおこっちゃったけど…

わたしの乳房を見たヒカリが
「不潔よ…」
なんていいながらスタスタ

別にごきげんとろうとは思わないけど
あんたもがんばんなさい
がんばって鈴原をものになさい
そうすれば

私が楽できるじゃない



使徒?
謎の斑球体?
なにかしら?アレ

こういう時は近づかないに限るんだけど…

「アスカは前衛!二人はバックアップ!…近接戦を仕掛けるわ!」

ちがうのよ…ミサト…
危ないのよ…こういうやつは…
あぁ…もう…

本当に私が二度目のわたしで…もしそうだったとして…
もしそうなら…こんな時、一度めはどうだったか…
もしそうなら…それを覚えていれば…

はは
わたしやっぱり狂ってるのね


「ファースト、ヒカリ…慎重に行くわよ」

私はミサトがいらつくぐらいジリジリと使徒に近づいた

“まがい物の皆さん、ごきげんよう”
突然の通信
赤木博士だ

“今日はちょっと見学させていただこうかしら?”

振り向くとゼーレのエヴァがビルの上から使徒と私達を見下ろしていた

「どーぞ、おばさん」

わたしの精一杯の愛想を込めた返事を聞くと、赤木博士は方眉を吊り上げ通信を切った

ゼーレのエヴァ…
渚カヲル…
相変わらず学校でわたしにちょっかいを出してくる…
まぁ…私は無視よりはましってくらいの扱だけど…
どんなに諜報部が必死になっても調べられる事は、こいつの住いが“まるけす丸”だってことぐらい…
つまり、ゼーレの船の中
大事な大事なエヴァちゃんと添い寝でもしてるんでしょう



いくら調べても何もわからない…
まるで、ある日突然わいて出てきたような…
そんな男…


ミサトのしわが何本か増えた頃
私はようやく使徒のまじかまでたどり着いた

しょうがない…やるか…

二人の位置を確認し
私は斧の化け物を振りかざし球体に飛び掛った

え?

私はまるですり抜けるように球体を通り越し
とても柔らかな地面に着地した

あぁ…やっぱり…

柔らかな地面はわたしをずぶずぶと飲み込んでゆく
思ったとおり…
罠だ…
まんまと引っかかった…

不思議と焦りはない
きっと一度めの私はこの状態から何とかなったんだろう

どんどん沈んでゆく
ファーストもヒカリもただ呆然と沈む私を見てるだけ

ほんとにあんたたち役立たずね…

ため息混じりにそんなことを考えていた
その時

誰かが飛び込んできた

ゼーレのエヴァだ

ゼーレのエヴァはわたしの腕を掴むと、力いっぱいわたしを放り投げた

今度は堅い地面に叩きつけられる
振り向くと沈んでゆくゼーレのエヴァ

まるでわたしの無事を見て安堵するように沈んでいった



「ごめんなさい…アスカ…わたしのミスだったわ」

どこか悔しそうにしているミサト

まぁ、そうでしょうね
慎重に近づいた私が正しかったんだから

それに
ゼーレから散々なんか言われたんじゃないの?

ほんと…いい加減にしてね…ミサトおばさん



ミサトは引き続き使徒の殲滅についてあれこれと…
私は一旦小休憩
当たり前でしょう?
疲れてるんだから

ファーストはエヴァとともに使徒の近辺で待機

私はレストルーム代わりのネルフのバスに乗り込んだ
中はちょっとした休憩所になってる
そこでミサトがなんか思いつくまで昼寝でもするつもりだったんだけど…

「ごめんね…アスカ…」

先客がいて

「いいわよ…別に私がヒカリでも何か出来たとは思わないし…」

申し訳なさそうに頷くヒカリ

ほんとに…気にしないでいいわよ
ヒカリとファーストには何にも期待してないから

はは…
まったくなんてこと…
一番当てになるのがゼーレの渚とはね…

冗談じゃない


こんなよどんだ雰囲気の中にいたくもないし
私はすぐに外に出て緊急回線を手に取った
交換手にシンジの番号を伝え、繋がせる

暇を潰すんならそれなりの相手と潰さなきゃ

どう?甲斐甲斐しいでしょう?
これでもシンジの彼女なの

あはははは!
馬鹿みたい!
やる事がないとすぐにこれだ!

シンジ!シンジ!シンジ!

私の心と体はあいつへの何かで出来てるのよ!
多分…愛情ってやつ

しかもとびっきり歪んだ


でも、シンジへのわたしのラブ電話は繋がらなかった

“何度も呼び出したのですが、先方は圏外のようです”

なによ…
どいつもこいつも…
役立たずね…

電話一本繋げれないの?
まったく…

まあ…そうよね…きっとまたおばさまに連れられて…ゼーレの要塞みたいな船の中はきっと携帯の電波なんか通さないんでしょう

それに、そこにシンジがいてくれたほうが安全だし

まあいいわ…
これでまたシンジをお仕置きする口実が一つ出来た…


私は休憩所代わりのバスに戻り
申し訳なさそうにしているヒカリを適当にあしらいながら横になった

目を閉じて
思い描く…
わたしの横にはシンジがいて…
寝息をたてている…
そう…
そうよ…
わたしの横には…
いつも…



気がつくとすっかり眠り込んでいた



ミサトが立てた作戦は、使徒にイヤってほど爆弾を叩き込んでゼーレのエヴァを吐き出させる
本気?
渚…死んじゃうんじゃない?

…まぁ…別に私はどうでもいいけど

で…そのあとせっせとわたしたち三人で使徒を倒せ
はいはい了解でございます


エヴァに乗り込むとヒカリから通信が入った
「ねえアスカ」
「ん?」
「夢の中でも碇君と一緒なのね」
「…趣味悪いわね」
「…ごめん…聞こえちゃったから…つい」
「別にいいわよ…」
「…ねえアスカ」
「なに」
「心配じゃないの…碇君…」
「なんで?」
「いっつも碇君のこと見てるでしょう…アスカ…だから…アスカのいない所でなにしてるか…自分だけじゃないんじゃないか…とか…」
「…ヒカリ…大丈夫よ」
「え?」
「鈴原はそんなに機用じゃないわ」
「え!いや!ちが!…碇君よ!?碇君!」
「心配なら…思い切って雁字搦めにでもしてやればいいのよ…まぁ…それでも手を出してくるやつはいるけどね」
「え…うん…でも」
「別に抱かれろって言ってんじゃないわ…色々やり方はあるわ…」
「うん…」
「たとえば自分の思い出したくもないことを知ってもらうとか…誰にも話したくないことを話すとか」
「…怖くなかった?」
「怖かったわよ…でもシンジはちゃんと側にいるわ」
「…ありがとう」
「別にいいわ…」

そう…べつにいいわ…
ヒカリが強くなればなるほど私が楽になる…
ミサトの風当たりが強いのよ…わたし…
まあしょうがないわね…
サボってばっかりだから

せいぜい楽させてちょうだい?



突然だった
爆撃開始のカウントダウンが続くなか
突然、宙に浮く使徒の球体部分が引き裂け
なかからゼーレのエヴァが躍り出てきた

“だから言ったでしょう?葛城さん…あなたの手助けなんかいらないって”

赤木博士からの通信
歪むミサトの顔

ゼーレのエヴァは影のような使徒を引き剥がし引きちぎる
一面に飛び散る鮮血
まるで何かの復讐でもしてるみたい…

渚カヲル…やっぱりあいつも狂ってるのね



待機状態から開放され家に戻った
ママは疲れた顔して…
やっぱり散々こき使われたんでしょうね…ネルフに…
ミサトが適当にでっち上げた作戦を必死に検証させられてたんでしょうね…
ありがとう…
大好きよ…ママ…

ママはわたしに食事を出すと
「少し休むわね」
そういって部屋へ

たくさん休んでね…ママ…

視線をママの背中からソファーへ移した
ソファーには寝息をたてるシンジ

私が戻ってくる“少し”前にやってきて
わたしを待つうちに寝てしまったらしい

シンジに出された紅茶は冷え切っていた


食事を終え
シンジの前にかがみこみ頬をぺちぺち叩く
シンジが目をさます

わたしを見つめるシンジ

「ただいま」

シンジは返事もせずわたしの腕を取りわたしを抱きしめた
“よかった”
何度もそう言いながら

なんとなくだけどわかる

ゼーレが回収したゼーレのエヴァは血まみれで
ゼーレの船にいたシンジがそれを見てもおかしくはない

待機中、わたしの携帯は繋がらない
ママにわたしの安否をたずねるしかない

ママにわたしの待機解除を聞いて
駆けつけて“少し”待ってたんでしょう


ほんとめんどくさいやつね


わたしはそのまま手を引かれわたしの部屋へ
そのままシンジにベッドへ押し倒され服も脱がずに下着だけ下ろされて
犬の交尾みたいなカッコウで
何度も何度も
まったく…
そんなに噛み付かれるのがイヤなの?
大丈夫よ…
ママ…おこさないように枕くわえるので精一杯よ
あ!ばか!そこはちがう!そこは!
ばか!…ゆるさないから!
ゆるさないから…
ゆるさな…

ばか…

仕返しは…あんたが泣きやんでからね

人の事泣くほど心配しといて
そのくせ、する事はしっかりして
わたしの背中…涙で汚して
まったくあんたって本当にめんどくさいやつね
いい加減にしてよね
本当に


本当に…私…いつから“めんどくさい”って言葉で愛情を表すようになったの?




自分だけ散々楽しんで…
それがすんだら私の胸でもう一回涙流して…

まったくいい迷惑よ
さっきからおしりがうずいてしょうがないわ
“間違えた”じゃ済まさない

………

まぁいいわ…
こんなに涙流して…
私がやり返して…これ以上こいつが涙流したらこいつ…干乾びちゃうわ…

じゃあしょうがないわ
仕返しは無しね…

泣き止むまでは甘やかしてやるわ…

………

もしそれでも足りないんなら
泣き止んでも甘やかしてやるわ

私が満足するまで
甘やかしてあげるわ…

あんた…知らないんでしょうけど
私の心…底が抜けてるの
大変よ?満足させるの

ははは…やっぱり私…狂ってるわね


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