My name is woman

06話
CRAZY! I love you


written by フォークリフト

「おはようございます!おばさま!」

言ってしまえばどうってことはなかった
シンジはわたしを“少し何かにとらわれてる女”くらいに思っただけ

「おはよう、アスカちゃん。ごめんなさい、シンジまだ…」
「わかってます!おじゃまします!」

どっちかって言うと、シンジの“秘密”のほうが気になるかな?
きいときゃよかった…

シンジの部屋に入る
一応、起きてはいた

ただ、ボケーっとしてて「夢の中よ」って言えば頷いて寝ちゃいそう

「早くしないと遅刻するわよ」

シンジはベッドの上でだらしなく頷く
めんどくさい男ね…

いつも通り、シーツを剥ぎ取り寝巻きを脱がす

あ…

寝ぼけたままのシンジに抱きつかれる…
こいつ…本当にめんどくさい…

「おはよう…」

「いいから起きなさいよ、遅刻するわよ?」
抱きついてきたシンジは、一部だけ元気で

まぁ…朝だから仕方ない…

信じられないくらいスローに着替えるシンジ
肩には私がつけた歯型…

何でだろう…それを見るだけで心が落ち着く…
抱かれたくなる…

…抱きたくなる


シンジの動いてんだか止まってんだかわかんないような食事を眺めながら紅茶をすする
こんなめんどくさいやつの面倒を一生見るかとおもうとウンザリする…

「あら?アスカちゃん、なんかいいことでもあったの?わらちゃって」

私の心は随分ひねくれていて…
まあいいわ…
昔からそう…
心の中で一度目の自分に言い訳しながら人生を楽しんできた…

ちがうか
シンジを愛してきた

はは
やっぱりわたしって狂ってるのね

「ねえ、おばさま」
暇つぶしに聞いてみた
「なに?」
「ゼーレってなにがしたいんですか?」
「世界征服」

満面の笑みで答えるおばさま

「そーなの?」

バカみたいな顔で聞き返すシンジ

「そ!そしたら世界中の男を跪かせようかしら!?」
「おとこを…ですか?」
「そう!昔の仕返しにね」
「仕返し?」
「そう!あいつへの仕返し!」
「あいつ?」
「これの製造元!」

おばさまはシンジをそういいながら突っつく

シンジのパパか…

ん?

「ねえ、おばさま?」
「なぁに?」
「製造元はそこですよ?」

わたしがおばさまのおなかを指差す
つられてシンジが、なぜか自分のおなかを見つめる

「そうね!じゃあシンジの素の納品業者!」

結局まともな答えもなく会話は終わった

うん…仮に…本当に世界征服でもこんな愉快な人が征服するんなら随分と楽しそうだけど




「「いってきまーす」」
「ちょっとまって」

シンジをつれ学校に向かおうとしたところで悪の総統に呼び止められた

「シンジ、首!…ちょっとは隠しなさい!」

おばさまはそう言いながら、シンジの首筋に今朝私がつけた目覚ましのあとを絆創膏で隠した

「アスカちゃんも、こんなことばっかりしてるとそのうちシンジに襲われちゃうわよ?」

その前に襲ってやるわよ…
とは言わず、あいまいに笑って見せた

私は純潔で
シンジは純朴

そう信じているのならそう装ってあげるわ

「はい、じゃあ、いってらっしゃい!」



「あのさぁ」
「ん?」

通りに出るまで子供みたいに手をつなぎ
通りに出たら小指だけつなぎ
大通りに出たら手を離す
それがわたしたちの朝

「かあさんが言ってた」
「なにを?」
「僕がさ、かあさんの仕事ってなに?って聞いたら」
「なんだって?」
「サード何とかがどうとかだって、だからエヴァが必要でアスカや綾波が必要だって」
「そう…」

サードインパクトを防ぐ?起す?
どっちかしら…

はん!…まだ世界征服のほうがましね…

「かあさんにはないしょだよ、僕が言ったって」
「いいわよ…しかしほんとにあんたっておしゃべりね…どうせそれもおばさまに“人に喋るな”っていわれてたんでしょう?」
「あははは…アスカなら…アスカにだけだよ…喋るの…」

あんたはそうやってわたしをたぶらかすのよ…
みなさい…わたし…何も言えないじゃない


気がつくともう大通りで
まだ手を繋いだままだった


悔しいからわざと繋いだまま学校まで行ってやった
途中で気付いたシンジが周りを気にしてるのを見て少し気が晴れた

わたしはシンジが困っているのを見るのが大好きだ

特にわたしのせいで困っている顔が



質素倹約が心情のヒカリのお弁当が無駄にボリュームを増していた
まあ…一緒に食べる相手がアレじゃあそうもなるか…

わたしも作ってやろうかしら?
皆の前で渡してやろうかしら?
きっと困った顔をするわね

じゃあそうしよう





「使徒を受け止めろ!?」

作戦部長の頭のねじが飛んでしまったようだ
わたしたちチルドレン三人はその犠牲になるってわけ

「正直に言うと私は反対だわ…こんなの作戦でもなんでもないわ…」

腕を組んでえらそうに…
じゃあ何でそんな作戦にゴーサイン出したのよ?

「ゼーレからの…赤木博士からの指示…指令が受諾したわ…」

あのババァ…


わたしたち三人とゼーレのエヴァで使徒を受け止め殲滅する
頭のおかしい大作戦



わたしはわたしで戦いの準備を始める

わたしの準備…
シンジの補充…
私の中のシンジの補充…

それを効率よく行うためにわたしは携帯をとった

もちろんミサトの許可は取って…


“もしもし、アスカ?”
「ええ…あんたなにしてんの?」
“うん…いま母さんのところに向ってる…かあさんが来いって…安全だから”
「そうね…あそこのほうがシェルターよりよっぽどましね」
“アスカ”
「なに?」
“その…また…アスカ…危ない…”
「ねえ」
“え?”
「なに食べたい?」
“え?”
「戻ったら作ってあげる…暇だし」
“え…うん”
「なにがいいの?」
“うん…”
「何でもいいの?」
“うん”
「泣くんじゃないわよ」
“うん…泣いてないよ…”
「バカじゃないの?何年一緒にいると思ってるの?」
“泣いてないよ…”
「はいはい…」
“待ってるから…すぐに帰ってくるんでしょう?待ってるから”
「あんた本当にばかね…」
“ぼく…アスカに何もしてあげられないけど…ごめん…男なのに…”
「あんたがいたって足手まといなだけよ…」
“うん…”
「ねえ」
“なに?”

聞きたい…
今聞きたい
どうしても聞きたい
その声で聞きたい

「“すき”っていいなさいよ…“あいしてる”って…それくらい出来るでしょう」
“大好きだ!愛してる!…だからお願い…帰ってきて”
「わかってる…帰るわよ…じゃあ切るわね」


わたし…
泣いてるの?




4機のエヴァが疾走する
目指すは落下中の使徒

間一髪
落着前にゼーレのエヴァが使徒を受け止めた
でも、そこは片腕
右手から血を吹き出し
みるみる潰されていく

ファーストのエヴァが手を貸す
ばかねぇ…殲滅が優先でしょう?
ヒカリまで?

はぁ…しょうがないわねぇ…

私が使徒の直下に潜り込みコアを一撃

使徒は最後の抵抗でもするように全身を閃光に変え、周りを焼き払い果てる

広がる閃光の中私が見たものは
わたしを守るように閃光に立ち塞がるゼーレのエヴァの姿だった

シンジじゃあるまいし…感謝ぐらいしかしないわよ?



皆わたしのことをほめる
ゼーレのババァまでわたしに感謝の言葉を…

バカみたい
あんなもん一々支えないで、とっととやっちゃえばよかったのよ

皆して頭悪いんじゃないの?

まあいいわ…
今日はシンジのために走った…
心地いい…

このまま待機時間をすごそう…
わたしの脳から溢れるシンジへの想い

きもちいい

あ!…
ヘッドセットを外し、放り投げる
こんなもん着けてたんじゃ気分台無しよ!
ひとかけらだって渡さないわ!
わたしのシンジへの想いはわたしの物よ!
そうよ…



“地球のかけら”
シンジの言った言葉
かわらで拾った石を見せながら
“バカじゃないの?”
わたしの返事

“地球の鼓動”
シンジの言った言葉
浜辺で波の音を聞きながら
“なに言ってんの?”
わたしの返事

“地球のくしゃみ”
シンジの言った言葉
テレビで噴火のニュースを見ながら
“詩人にでもなる気?”
わたしの返事

とても楽しい…
あぁ…たのしい…

もっと思い出そう…
そう…
この時間を楽しもう…
ね、シンジ…




待機が解除され
ヒカリは疲れた顔で家路へつき
ファーストはとっととどっかへ消え
私はシンジの元へ向った

スーパーで買い物をしながらママに連絡を入れる
「シンジの所によってく」
“疲れてるんでしょう?あんまり遅くならないようになさい”
「泊まってく」
“あんまり迷惑かけないでね?”
「ゼーレの謎でも解き明かしてくる」
“バカいってないで…とにかく…よかったわ”
「うん…じゃあ切るから」
“ごくろうさま…アスカ?”
「ん?」
“ありがとう”
「うん」

電話を切った

わたしに出来る料理なんてたかが知れてるけど
まあいいわ!
実験台にでもしよう




シンジの家につくと
「どうしたのよ!?それ!」
シンジの右手は包帯が巻かれてて
「あははは、僕もさ、なんか料理でもしようと思って…ははは失敗して火傷しちゃった!」
「…ほんと…バカね」
まったく…

おばさまは一昨日から帰っていないらしい
やっぱりゼーレもてんてこ舞なわけね



シンジはお風呂はお預け
私は湯船の中
さっきの食事を思い出す
私が作った料理を食べてシンジが
「ちょっとしょっぱい」
困ったような顔して

「あはははは!」

声に出して笑う
だってそうじゃない?
わざと味濃くしたんだもん!

「シンジ!」
大きな声で呼んでみる
「なに?」
遠くから返事

「なんでもない!」

うん!

今日は一晩中昔の事を話そう
シンジにも話させよう

私達に必要なのは愛撫やセックスじゃない

わたしは女で
シンジは男で

だから話そう
一晩中

セックスなんかより絶対盛り上がる
自信があるわ!


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