My name is woman

02話
Liar girl but it's all right 2


written by フォークリフト

二度目の使徒襲来
また私は一人だった
ファーストは相変わらず…
ヒカリも…
私は一人ぼっち

イカとコケシのあいのこ
そんな使徒だった

辛勝
いえ
相打ちかしら?

やつに腹を貫かれたまま
やつのコアを刺し帰した

皆ほめてくれた
“よくやった”
“たいしたもんだ”
“これでゼーレの鼻を明かせる”

ひどく疲れた

原因はわかってる

汚された
私のシンジへの想いを汚された

エヴァに乗り
戦い
私の中のシンジを汚した
私が汚した
大人の命令で汚した


待機命令が解除され、すぐにシンジのところへ向かった
もう帰ってるころだ

私の荷物は勝手に誰かが家に届けてくれる

だから私はシンジの家に向かった
途中、コンビニに立ち寄り
怪訝な顔でレジを打たれた

受け取った紙袋をポケットにねじ込み
碇家へ

ピンポン!ピンポン!ピンポン!
「はーい」

マヌケな声

「わぁ!アスカ!ニュース見たよ!今帰り?大活躍…」
シンジの肩を押し
鍵を閉め部屋に上がりこむ
玄関におばさまの靴はない

「アスカ?」

少し脅えたようなシンジの表情
だから思いっきりシャツを引き裂いてやった

「アスカ…どうした…」

それでも少し心配そうに私見上げ脅えるシンジ
だから噛み付くようにシンジの口を塞いでやった

「アスカ…」

シンジは抵抗しなくなった
私の腕を優しく持って
私にされるがまま
だから私はポケットから紙袋を取り出してシンジにたたきつけた

「しなさいよ」

脅すように言ってやった
シンジは黙って頷き
紙袋の中身を取り出し
中からひとつ取り出すと
自分の股間の辺りでモゾモゾ手を動かした

「ぐずねぇ」

つけ終わるとすぐに私はシンジに跨った
シンジが私の顔を拭っている
私の喉からは快楽の喘ぎは出てこない
嗚咽だけが響く

そのたびにシンジは私の涙をぬぐってくれる
それがどうしてもいやで
とっても嬉しくて
イライラして
暖かくなって

だから言ってやったの

「イライラすんのよ…あんた見てると」

シンジはまだ私の顔を拭っている
拭いながら
私にシンジはやさしく言ってくれた

「自分見てるみたいで?」

シンジの肩に噛み付いてやった
シンジのうめき声が聞こえる
少し血の味がする

私は大声を上げて泣いていた
こんな事をしても私の中のシンジは綺麗にはならない
でも
私を抱きしめてくれるシンジは…

ねえシンジ…
あなたの全部がほしい…



結局シンジは私のことを嫌いにはならなかった
調子に乗って私を慰めてくれた
バカのくせに…
だから
しょうがないからなぐさめられてやって
甘えてやった

しばらくして帰ってきたおばさまは
私たちのカッコウを見て
「なんてこと…いい年して喧嘩なんて…」

ああ…そう見えたんだ…

はは
シンジの服は破けてて
シンジの体にはちょっとしたアザみたいな…

私もかみ振り乱して
服も乱れてて

よく見れば部屋も随分散らかして


私はシンジが怒られてる隙に帰宅した

ポケットの中には焦って拾った紙袋とアレ


なんだろう?
すごくすっとした気分

後であやまろう

とても気分がいい




朝、迎えに行くとシンジは別に気にしていなかった
だから小指だけつないでやった

「転校生?」
相変わらずマヌケな声
「そう、物好きね、こんな時期に転校してくるなんて」
「女の子かな」
「あぁん?」
「なんでもないよ…」

ほんと男ってバカね…



教室でも転校生の話題で持ちきり
どうやら男子らしい
「なんだ…」
残念そうなシンジの顔

「碇君ばっかり見てるのね」
「飽きないからね」
ヒカリもくだらない事聞いてないで…
ほんとに
「ねえアスカ、どんな子かなぁ?」
「男の子でしょう」
「はぁ…いいわよね…アスカはずっと碇君がいるから」
「どーも」

ヒカリがはっとして
「ねえアスカ、今日うち来ない?」
「いいけど?」
「お姉ちゃんがねDVDの続き買ってきたのよ!」
「マジ!」
思わず食いついちゃった!
もう最高なのよ!あのドラマ!
シンジはつまらなそうにしてたけど
やっぱりガキね
揺れ動く女心の表現とか
アレがわからないんじゃまだまだよ!

ホームルームが始まるまでヒカリと盛り上がって
シンジは友達とカードで盛り上がって
先生が入ってきて

その後ろに転校生が

教室は一気に盛り上げり
私は凍りついた

「渚カヲルです、よろしく」



シンジは妙になれなれしく話しかけていた
「はじめましてじゃないんだけど、わかる?」
ゼーレのチルドレンも
「チラッとだけどね、覚えてるよ」

この優男があの狂ったエヴァの正体

ゼーレのチルドレンは3日目には随分クラスになじんでいた
私は必要以上には話さない
こいつ
気持ち悪いから

今はにやにや笑って
エヴァに乗れば平気であんな事をするなんて

おかしいわよ
こいつ



「ようやく二人きりになれたね」
放課後、屋上で校庭を走り回るシンジを眺めていると奴が話しかけてきた
「この前はどーも」
そっけなく返事してやった

目はシンジを追いかける
部活…
私は出来ない
私だけじゃない
ヒカリもこいつも出来ない
許されていない
私は私の未来のために今の私を差し出している
エヴァに乗ることがそんなに重要なのか
私にはわからない

そうあってほしい
そうじゃなけりゃ報われない
私と…
私に身も心も侵されるシンジが

「命令だからね…悪く思わないでほしくてね」
「別に、あんたのほうが優秀だってのはわかったわ…あんな狂ったまね私には出来ないもんね」
嫌味のひとつも言ってやろう
そんな気分だった
「君はとても興味深いね」
「そりゃどうも」
「好意に値するよ」
「まあうれしい、アメでもあげましょうか?」
「はは…じゃあまた」
「さよーならー」
私は一度も振り向かず会話し
手だけヒラヒラ振って見せた

あれ?

はは
シンジが手を振ってる
ばか
あんたにじゃないわよ
しょうがないわね

もう少し振ってやるわよ



ようやくファーストが正常な起動に成功した
まったく
これで私一人が苦しまなくてすむ…

「おめでとうファースト」
「ええ…」
「これで少しは楽できそうね」
「ええ…」
「シンジにも言っといてあげるわ『ぼんくらレイちゃんがようやくあんよが出来ました』って」
「ええ…それから」
「はぁ?なによ」
「碇君に噛み付かないでくれる」
「…」
「碇君はあなたのおもちゃじゃない」
「…わたしのよ」
「…ちがう」
「あんたなんかにわかんないでしょうけどね…わたしのよ」
「そう…」
「今度見せてあげましょうか?私たちがどんな事してるか」
「いい…」
「はん!とにかく次から頼むわよ…もう一人はたくさんよ…」
「ええ…」

バカシンジ…誰にでもぺらぺら喋るんじゃないわよ…
おしおきよ…
そうよ…
おしおきよ

携帯を取り出しシンジを呼び出した

一晩中いじめてやる



くだらない毎日
シンジを迎えに行くか
シンジが迎に来るか

私がシンジをおこすか
シンジが私をおこすか

私がシンジにいたずらするか
シンジが私にいたずらするか

そんな朝が続く

学校では仲のいい子達とおしゃべりして
シンジの事ひやかされて
軽くあしらって


でも
時々あいつがなれなれしく私に話しかけてくる
ゼーレのチルドレン
渚カオル


あいつ、私のこと狙ってるのかしら?


じょうだん


何か狙いでもあるんでしょう
はん
やってられないわよ…




そんな毎日はやっぱり使徒に台無しにされた

ガラスの化け物?
まあ何でもいいわ
今回はバックアップだし

ようやく戦力化されたファースト
精々楽させてね

もういやなのよ…
シンジの前で泣きたくないの
どうせ泣くならシンジに泣かされたい
それもとびっきり優しく…

「アスカ」
ミサトから通信が入った
「なに?結構忙しいのよ」
「わかってる」
「で?なに」
「あなた宛に通信が来たわ」
「…ゼーレ?」
「ええ、回すわね」
映し出される赤木博士
「久しぶり…ようやく2機になったようね」
「その節はどうも」
「レイには伝えてくれた?」
「ええ、泣いて喜んでたわよ」
「そう…そうそう、今回は私たち高みの見物なんで…精々がんばってちょうだい」
「そうさせていただきます…お・ば・さ・ん」
「な!…しつれい!」
画面が切れる
いい気味


ファーストのエヴァが定位置についた
その時

使徒の光の奔流がファーストを襲った
私は駆け出していた

何の抵抗も出来ず焼かれてゆく黄色いエヴァ
私はひったくるようにファーストのエヴァを掴み駆ける
使徒の閃光が追いかけてくる

「ミサト!どこでもいいから開けて!」
「了解!D−12爆砕!そこに飛び込んで!」

間一髪だった

崩れ落ちるビル群の一角
そこにファーストのエヴァを放り込み私も滑り込む
爆音が聞こえる
使徒はまだ打ってきていた

あぶない…あぶない…


ファーストは緊急入院
ファーストのエヴァは突貫工事

そんな状況でも反撃作戦は着々と組み上げられていた

自衛隊から取り上げた陽電子砲と新型戦艦用の装甲版
矛と盾は用意しましたってとこね

「盾ぐらいなら持ってあげてよ?」
赤木博士のありがたい申し出
ネルフはそれを受け入れるらしい

ファーストは無理ね…
エヴァもろとも全治一ヶ月って所

まったく
また私一人じゃない…

「ねえミサト」
「なに?」
「電話させて」
「…」
「別に何も喋んないわよ」
「お母さんに…ってわけじゃないわね」
「いいじゃない…それともシンジもゼーレのスパイか何かなの?」
「別にそうは言ってないけど…」
「じゃあいいじゃない」
「…特別よ」
「さんきゅー」

もしダメだって言われてたら
また一人で膝を抱えて震えるしかなかったわね



“もしもし?”
「………ねえ」
“?、アスカ?”
「…よくわかったわね」
“はは、僕に電話してくる女の子なんてアスカぐらいだし”
「ファーストがいるでしょうが…」
“…アスカならすぐにわかる”
「ばか」
“あははは…”
「今どこにいるの?」
“え…うん…かあさんが『ここのほうがシェルターより安全だ』っていって…”
「おばさまんとこの船?」
“うん…ねえ…アスカ”
「なに?」
“アスカ…これから…その…少し前に…そっちからものすごい音が聞こえたから…”
「山登り」
“へ?”
「これから山登り」
“ははは、大変だね”
「そうでもないわよ」
“うん…がんばってね…その…山登り”
「たいした事ないわよ」
“うん…待ってるから…アスカ…山から下りたら…また電話して…”
「なに泣いてんのよ…」
“はは…ほんとだ…おかしいね…”
「おみやげ…ないからね」
“うん”
「じゃあ、ぼちぼちいくわ」
“アスカ!”
「なに?」
“がんばんなくてもいいから!…ぼく!まってるから!何にもしてあげられないけど!一緒に戦えないけど!”
「ばか…山登りっていったでしょう?」
“うん”
「いってくる」
“いってらっしゃい”


ばか
とんだ暇つぶしになっちゃったじゃない…
まったく…

私も私よ
こんなんで震えが収まるなんて
どうかしてるわ



私が狙撃位置につくと
ゼーレのエヴァが巨大な装甲版を担いでやってきた
通信は繋がらない
別にどうでもいいわ
シンジに繋がってるわけじゃあるまいし

精々私の盾になってちょうだい


「作戦開始!」
ミサトの号令とともに各地から一斉にめくらまし代わりの攻撃が始まる
洋上からの艦砲射撃も
全力射撃って言ってたっけ
みててこっちがむなしくなっちゃう…
戦艦が主砲ぶっ放してまるで効かないのに
こんな陽電子砲だかビームライフルだかで何とかなるの?

「充電完了!」
はいはい
わかってますって
「アスカ!…」
「なに?」
「頼むわよ」
「おーけー」

照準を定める
ゆっくり…
深呼吸しながら…

今!!

閃光が走る

え!?

使徒も!?

干渉でお互いの光線がぶれ
盛大な火柱を上げる

まずい!
背筋が凍る
冷や汗が止まらない

やつは第二撃を早くも放つ構え
こっちは

「再充電40%!」

冗談じゃない!

使徒が光る

ズドン!
私の前に巨大な壁が現れる
ゼーレのエヴァが盾を持ち私を守る
盛大に飛び散る閃光
みるみる溶けてゆく盾
「70%!」
盾は溶けきりゼーレのエヴァが身を挺して私を守る
「80%!」
使徒の攻撃がやみゼーレのエヴァが膝をつく
「90%」

血の気が引く
使徒がまた光った
もう私を守る盾もない
ゼーレのエヴァも…

このまま私は焼かれる…

シンジ…
助けて…


え?

「100%!」

使徒の閃光にまるで肩から体当たりでもするように
ゼーレのエヴァが私を閃光から身を挺して守ってくれている

「感謝なんかしないわよ!」

私は引き金を引いた


陽電子砲の咆哮は闇夜を切り裂き使徒を屠った



ひどく胸苦しい
私の足元には丸焦げのゼーレのエヴァ

大慌てで駆けつけたゼーレの連中がプラグを強制輩出させている

運が悪けりゃ死んでるわね…あいつ…

排出されたプラグに人が群がる
赤木博士の姿も

ご苦労さん

天幕を張り視界を塞ぐゼーレの連中
別にいまさらかくされてもねえ…それとも渚カヲルの蒸し焼きでも出てきたのかしら?

ゼーレの連中はチルドレンを回収するとけたたましく引き上げてゆく

私も帰ろう
少し疲れたけど
うん
まってる人がいる…
きっとグズグズ泣きながら…

いいわよ…
今日もあんたと一緒に戦ったんだから…
引き金を引くとき
あんたの事思い浮かべてたんだから
私のあなたへの想いがやつを貫いたのよ
どう?
ロマンチックでしょう?

………

冗談じゃない!
A10神経なんてもので動くおもちゃ!
私の愛情で動くガラクタ!
ふざけないで!
こいつを動かす度!私は汚される!
私の中のシンジが汚される!
いつか報いを受けさせてやる!


24時間の待機はほとんど寝てすごした
一回だけネルフの売店で買い物した事を除けば


「インフルエンザ!?」
「ええ、ごめんなさいね、ほんとに昔っから変な病気に真っ先にかかる子だったから」
「じゃあ、これ、シンジに渡しておいてください」
「?、温泉饅頭?」
「ネルフ饅頭!」
「やっぱりネルフって資金が潤沢なのね…うらやましい」
「登山土産だって言えばわかると思います!」
「登山?」
「シンジはそれでわかるから!」

おばさまはぽかーんとしていた
シンジとそっくりねそんなところは

逢えなかったけど
なんだかちょっと楽しかった
もしかしたら私もシンジへの想いで動いてるのかも



あの日から4日目
ゼーレのチルドレンが登校してきた

「まったく、ひどい目にあったよ」

わざわざ私にそれを言いにきたの?
包帯ぐるぐる巻きで?

「はい」
ほお杖したまま手を差し出してやった
ゼーレのチルドレンが私の手を握ろうとした瞬間

ぺち!

叩いてやった
おっかしい!
ぽかーんとして

「さんきゅー助かったわよ」

一応感謝はしてやった

ゼーレのチルドレンのやつ
アメリカ人みたいに肩すくめて
あんた何星人?

まあ、何もはなから嫌う事もないか

「やっと笑ってくれたね」
「まーね」
「今度どうだい?話でも」
「調子にのんな」
「これはこれは」

やっぱり大げさに頭をたれて見せるとあいつは教室を後にした

「ねえアスカ」
「ん?」
「碇君がいたらきっと笑ってたわよ」
「なんで?」
「“おもしろいなぁアスカ”って言うわよ絶対!」
なんだか自信満々のヒカリ
まあそうかもね…
そういうかもね…

あんたがいないおかげでこっちはつまらないじゃない!
早く治しなさいよ!
バカシンジ!



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