My name is woman

01話
Liar girl but it's all right


written by フォークリフト

中一の夏
「あ…んっと…」
「なによ?!さっきから!」

あれ?まじめな顔…

「アスカ…僕って…ただの幼馴染?」
「え?」
「どうかな?」
「どうって…なによ!突然!」

じっと見つめて…

「僕は嫌だ…このままずっと幼馴染なのは…」
「え?」
「アスカ!僕の!」
「いいわよ」
「え?」
「だから、いいって言ったの」
「え?」
「まあ、彼氏がいるって言えば一々、変なのの相手しなくてもすむし」
「え…うん…」
「ねえ」
「え?」
「彼氏なら彼女にする事あんじゃない?」
「え?」
「にぶいわねぇ…じゃあ三択ね」
「え…うん」
「1.キス 2.チュウ 3.接吻」
「あの…アスカ…それって」
「さあ?どれ?」
「…1…番…」


「ん」
目をつぶり
「んん…」
やわらかい


きっと私の顔…
真っ赤なんだろうなぁ…



中一
クリスマス
「おばさん居ないの?」
「そ、仕事」
「うちと一緒だね」
「まーね」
「二人っきりだね」
「そーね」
「なんだか照れるな」
「ねえ」
「ん?」
「何て言おうとしたの?」
「え?」
「あの日私になんて言おうとしたの?」
「え…うん…“僕の…僕だけのアスカになってほしい”…」
「で…どう?」
「え?」
「シンジだけの私になってる?」
「え?…うん」

ちょっとそっぽを向いて

「ほんと?」
「うん」
「じゃあ確かめてみない?」
「え?」

ポケットに隠していたアレを指で挟んで
シンジに向かってヒラヒラ

「シンジだけの私か確かめてみない?」

返事は聞かずにベッドへ向かう
だって
きっと私の顔は真っ赤なんだろうし…





現在
中学二年
夏真っ盛り
「アスカ!」
「んん?」
シンジが耳打ち
「かあさんがさ、特別に見せてくれるって」
「え!」
「声がおっきいよ!」
「ごめんごめん…で…ほんとに私が見に行っても…」
「いいって」
「ほんとに?」
「“ネルフにいい貸しが出来る”って言ってた」
なぁるほど…
「今週の土曜日…うちに来て」
「おーけー…サンキューシンジ」

ちゅっ

はは!
シンジ照れてる

ゼーレのエヴァ…
スパイするわけじゃないけど…
どこまで出来てるのか
興味がある

私はネルフのエヴァンゲリオン
そのチルドレンの一人

シンジのママはゼーレ日本支部所長

本当に使徒てのが来るなら…
見ておいて損はない…

ごめんね
シンジ…
これじゃ私、男をたぶらかす悪女ね



土曜日
碇宅
「あら!いらっしゃい!」
「おばさま、むりいってすいません」
「気にしなくていいわ、こんなかわいいスパイならいつでも大歓迎よ」

あっけらかんとしたおばさま

シンジの家はお父さんが居ない

おばさまは結婚した事もない

つまりそういうこと


「ねえアスカちゃん、家のねぼすけ起して来てくれない?」
「まだおきてないんですか?」
「ほんとに…誰に似たんだか」
「ははは…じゃあ待っててください」
「おねがいね」
「まかせて!」

シンジの部屋に入り
布団を引っぺがしパジャマを剥ぎ取り着替えを押し付けいっちょ上がり!

そこまでされてようやく
「おはよう…アスカ…」
時々心配になっちゃう
シンジってちゃんと起きれるのかしら?


シンジの信じられないくらいマイペースな朝食を眺める

「ねえアスカちゃん」
「なんですかおばさま?」
「アスカちゃんの所のエヴァってもう塗装も終わったの?」
「ええ!ファーストのが黄色、私のが赤、サードのが銀色」
「派手ね」
「かっこいいんですよ?特に私の!…おばさまの所は?」
「見てのお楽しみ」

シンジはようやく2枚目のトーストをたいらげた

ゼーレ日本支部
って言っても接岸しっぱなしのバカでっかい改装したタンカーと
港に2階建てのプレハブ
看板も土建屋さんみたいな木の看板
「はい、これ」
おばさまが手渡してくれたパンフ
“ようこそゼーレ江”
「アスカちゃんのとこみたいに資金が豊かじゃないから…ほんとにネルフがうらやましい」
ため息のおばさま
とりあえず、おばさまに連れられてプレハブの中へ
中には女の人が二人待っていて
「あら?随分かわいいスパイね」
「先輩…」
よしなさい、そんな顔で手をヒラヒラさせ、おばさまが
「紹介するわ、うちの人造人間統括責任者の赤木博士と伊吹技術部長。今日はこの二人が案内してくれるわ」
「よろしくね!」
明るく笑って手を差し出す部長さん
「レイは元気でやってるかしら?」
ポケットに手を突っ込んだまま愛想笑いの赤木博士
「ええ…まあ…」
綾波レイ…ゼーレが送りつけてきた少女
ファーストチルドレンでエヴァ零号機パイロット
学校も籍を置くだけで一度も登校せず
過去の経歴は抹消済み…

の、はずだったんだけど
なんとこいつ
シンジの親戚で
誕生日から食事の好みまで全部シンジから聞き出せた
普段は無表情で私ともほとんど口を利かないくせに
ちょっとシンジのことを話すとうれしそうに
「昔からそうだった」
とかいって
親戚のあんたより幼馴染の私のほうが、ずっとそばにいたのよ!
私たちが付き合ってるって言っても
「趣味の悪さもむかしっから」
とかぬかして!
ほんと一々頭に来るやつ

でも、一番頭に来るのは
たまに
「綾波から聞いたんだけどさ」
ってシンジが言う事
あの泥棒猫…
こそこそとなにやってんだか!

シンジと二人
赤木博士と伊吹さんに連れられてタンカーの中へ
なにがネルフがうらやましいよ…
船の中はネルフと同じかそれ以上じゃない…
私が周りをきょろきょろしてるのを見て伊吹さんが
「どう?ネルフと比べて?」
「え…ええ」
しどろもどろの私を見て赤木博士が“ふっ”って鼻で笑って

あれ?赤木博士…突然立ち止まって…ポケットからゆっくり片手を…
指で何かを挟んでる…
「ああ!」
突然シンジが大きな声でして
赤木博士が指で挟んだカードみたいなのをヒラヒラ
「リツコさん!それって!」
シンジが夢遊病患者みたいにフラフラと
「激レアなんだよ!どーやって手に入れたの!?」

赤木博士のつまんでいるカードは
今、シンジたちの間で大流行のくだらないカードで
どうやら滅多に手に入らないものらしい

「どうしようかしら?捨てちゃおうかしら?」
私に話しかけたときとは打って変わって優しげな声の赤木博士
「だだだだダメだよ!」
「ほしい?」
「くれるの!?」
「そおねぇ…シンジ君のかわいい彼女とちょっと二人っきりにしてくれたら…」

「いいよ!ね!アスカ?!」

返事もそこそこにシンジは赤木博士の手からカードを奪い取り嬉しげに眺めてる
私に向かって肩をすくめて見せる赤木博士

哀れ…私は愛する男に紙切れ一枚で売られてしまった


「で?なんです?」
女と二人っきり
シンジは私をおいて伊吹さんと先に行ってしまった
「べつに?…別に何かしようってわけじゃないわ」
「どうかしら!?か弱い乙女をこんな所に連れ込んで」

「せいぜい楽しみなさい」

「はぁ?」
「そうレイに伝えてくれる?」
「そんなの自分で言えばいいじゃない?」
「あなたが伝えるから意味があるのよ」
「あんたなに言ってんの?いったい…」
「さあね…どっちにしろ、あなたか私、どちらかが生きてるうちに解る事よ」
「はぁ?」
「おねえさんからのありがたい忠告よ…いい?必ず伝えてちょうだい」
「まぁ…いいけど…伝えとくわ」

気味の悪い女とおかしな約束

まぁこれでシンジがご機嫌ならそれも悪くないか…


まるでこのタンカーは要塞
伊吹さんの説明では区画の三分の二が浸水しても沈まない、戦術N2の一発や二発じゃ中枢部はびくともしないらしい
そんな説明を聞きながら私たちはエヴァを目指す

エヴァのハンガーが一望できる
案内された部屋
見下ろすと紫色の巨人

「あれがゼーレの、本物のエヴァンゲリオン…どこかのまがい物とはちがってS2機関を搭載してるわ」

いやみったらしい赤木博士
シンジはガラスにへばりついて
伊吹さんの指差すほうをきょろきょろ見て
ガキかっての!

「ご高説どうも、でもまだ未完成なんじゃない?」
私も負けずにいやみったらしくエヴァの左腕を指差す
まだ肘から先が取り付けられていない

「あれで100%…」
「はん!負け惜しみ?は・か・せ?」
「アレがエヴァの完成体…左手が備わった暁にはあなたたちのエヴァは用済み」
「あっそ」
「それまでせいぜいたのし…」
「ねえ!アスカ!誰かいるよ!?」
赤木博士のせっかくの決め台詞はシンジにかき消されてしまった
ご愁傷様

シンジが指差す先にはプラグスーツの少年

「渚カヲル…エヴァの…私たちのチルドレンよ」
「男…」
「そう…どこかのまがい物は生意気な女じゃなきゃ動かないそうだけど?」

チルドレンは…
ある条件を満たした女性が
家族にもいえないようなことをされ
選ばれる

私は幸運だ
シンジがいる
だから私はいつも三人の中で一番の成績を保っている

でもファーストとサードはどうだろう?
私と同じ幸運が彼女たちにもあればいいけど…

私たちに気付いたプラグスーツの少年が手を振ってきた
シンジだけが手を振り返す


見学が終わり船内の個室で昼食をご馳走になる
「で?どうだった?スパイさん?」
おかしそうにおばさまが笑う
シンジと私はバカみたいにでっかいハンバーガーをほおばる

「お望みどおり…よけいな事まで教えておいたわ…」
片手をポケットに突っ込んだまんまコーヒーをなめる赤木博士

「そりゃもう!こまごまと教えていただきましたとも!」
ハンバーガーをかじりながら答えてやった

博士は“ハン”って鼻で笑うとゆっくりとポケットから手を抜く
シンジが息を呑む
手にはカードがズラリ

博士は意地悪く
「所長…お宅のお子さん、中間テストの成績は?」
「はぁ…平均点以上は国語と社会…英語と理科はぎりぎり…数学は赤点」
「シンジ君?あなたの美人家庭教師がなんていったか覚えてる?」
「あ…平均を五点上回ると一枚…」
「それだけじゃなかったわよねぇ?」
「赤点だと…マイナス5枚…」
「よろしい…じゃあ今回は3枚、そうね?」
「はい…」
「ま、期末試験がんばんなさい…はい」
「え!」
シンジの前に差し出されたカードは5枚
「いいの!」
「努力賞」
「やった!」

あーあ
ばかじゃないの?
つまりこのおばさんはゼーレの偉い人のついでにシンジの家庭教師のアルバイトもしてて
だからシンジになれなれしかったってわけね…
毎週水曜日に「今日は勉強の日なんだ…」って暗い顔してたのはそういうことだったわけね

ばかばかしい!



私の物見遊山をネルフは大歓迎した
いや、狂喜乱舞かな?
スパイやらなんやらでも確認が取れなかった情報をあっさり私が聞きだしたから

つまり

片手がないけど完成品
S2機関搭載
チルドレンの名は渚カヲル

この三つの情報はとんでもない価値があるらしい
作戦部長のミサトは興奮しながら私にあれこれ聞いてくる

「いっそのことその“カヲル君”って子をこっちに招待したら?」
声に振り向くと
スーパーコンピューター“マギ”の開発者にて司令の夫人
ファースト曰く「ばあさん」

どうやらこちらも何か仕返すらしい
できれば穏便であってほしい


シンクロテストが終わり更衣室で着替える
サードが「じゃあねアスカ、また明日」って声をかけてきた
私も
「あ!ヒカリ、明日忘れないでね」
「わかってる!じゃあね!」
誰か待ってるってわけでもないのにヒカリはそそくさと帰って行った
わかってる
姉妹のために早く帰ることくらい

いったいヒカリは誰を思い描いてエヴァにのっているんだろう?

やっぱり私は幸運だ
私は私のA10神経を刺激されるとき…シンジを思い浮かべる
私のエヴァは私のシンジへの思いで動いている


「じゃあ」
無愛想なファースト
いったいこいつはどこへ帰るんだろう?
シンジに聞いても
「なんか言っちゃいけないって言われて…」
知ってはいるらしいけど…

なんてね!

おしゃべりなシンジは隠し事なんて出来ないから
「ないしょだよ?」なんていいながら教えてくれた
とあるマンションの一室
一人暮らしらしい

おっと!そうそう!
「ちょっと!」
「なに?」
「言伝」
「誰?」
「金髪のおばさん」
「…」
「なに見てんのよ」

ファーストのやつ私の事指差して
「金髪でおばさん」

「喧嘩売ってんの!?」
「冗談」
「いつかぶっ飛ばすからね!」
「どうぞ」
「…あんたほんとに殴るわよ」

ファーストの奴“にや”って笑って
「碇君に看病してもらうから…」

「…何度も言ってるけどね…私たちつきあってるの、口じゃ言えないこともしてるの」
「だから?」
「あんたは精々、そのおめでたい頭の中でシンジと楽しんでるのがお似合いよ」

ファーストの口元がつりあがる

何よその顔!なんなのよ!
なんかむかつく!

「とにかく伝言よ!『精々楽しめ』それだけ」

あれ?
ファースト?

「それじゃあ」

あれ?
今、一瞬…

気のせい?




「だから、かあさんが『冗談じゃない!』だって」

渚カヲル宛にネルフが送った招待状
返事はシンジが持ってきた

「そぅ…じゃあそう伝えとく」
「あ…まだ続きが…」
「なに?」
「『変わりに息子を行かせます』だって」
「シンジを!?」

あっさっぱらから、私を迎えに来たシンジに着替えを邪魔されながら

「もう返事したって」
「へぇ!?」
「だから僕が行くからさ!アスカ案内してよ!」

チルドレンを呼び出し根掘り葉掘り…
そんな事考えてたんだろうけど…

まあ私には関係ないか
「まっ、いいわよ…それより」
「なに?」
「そろそろ離してくんないと遅刻しそうなんだけど…」
「しょうがないなぁ〜」

ようやくシンジが離れて
朝っぱらから私の胸元に唇でアザ作って…
何が楽しいのかしら?

「「いってきまーす」」

ママに見送られながら玄関を出る
ちょっと早歩き
遅刻はやっぱりしたくないし
「ねえアスカ」
「ん?」
「綾波とまた喧嘩したの?」
「まーね」
「綾波って、その…」
「なによ」
「あんなだけど…あんまりいじめないでよ」
「あいつが先に喧嘩売ってきたの!」
「そうだろうけど…」
「シンジもあんな性悪おんな相手にしない!」
「でも…親戚だし」
「走るわよ!」

ばかシンジ…

そんな優しいあんたが好き


司令婦人は、まあまあねって顔で
「逃げた魚は大きいけど…碇の息子が来るんなら十分な釣果ね」
ミサトも興味津々で
「ゼーレの親玉のボンボンってどんなやつなの?」

はいはい
「ぼーっとしてて成績は中の中、趣味はくだらないカードゲームで性格はスケベ」

「で、アスカのダーリン?」
これだからおばさんは
「そう、うらやましい?ミサト」
ミサトってば、はいはいって顔して…まったく!



シンジをつれてネルフへ
入館とか色々めんどくさい手続きをすっ飛ばすため
シンジは私と一緒にミサトが連れて行く
そんなわけでミサトの到着を待ち合わせ場所の駅で待つ
「あついわねぇ」
「夏だから」
「うっさい!」
「ははは…」

少しずつ吼えるような音が近づいてくる
音はほんの瞬く間に耳を劈くような轟音に変わり
駅のロータリーにミサトの車が滑り込む

ぼーぜんとするシンジ
そりゃそうね
いきなりロータリーに車がドリフトしながら現れたら…

颯爽と降り立つミサト
「はじめまして、碇シンジ君」
「あ、ど、どうも…」

あん?
ミサト…じーっと私たちのこと見て…
あ!!

急いで手を離した
にやけるミサト
「いいじゃない!いいじゃぁなぁ〜い!お姉さんにもっとみせつけなさいよぉ〜」
「うっさい!」
シンジを蹴飛ばすように車のワンマイルシートに押し込み
私は助手席に乗り込んだ
「もぉ〜照れちゃて!!」

シンジったらなに赤面してんのよ!
それになんか私も、顔の辺りが熱いじゃない!



ネルフ内をプラプラ
うそ
細心の注意を払ってシンジを案内
シンジもシンジで首からカメラ下げて
ほんとおこちゃま!
この中で撮影できるところなんかあるわけないじゃない!

さて、このエレベーターを降りるとついに…

「あ」

エレベーターのドアーが開くと人が立ってて…
「司令、おはようございます」
めずらしくまじめなミサトの声

私こいつ苦手なのよね…
おっそろしく無愛想だし…
絶対に私たちの事無視するわよ

「君は?」

あれ!?

「あ、碇…シンジです」
「碇…」
「今日は…えっと…」

ミサトが助け舟を出す
「ゼーレの碇所長のお子さんで本日は見学に…」

「よく、見て行きなさい…葛城一尉」
「はい!」
「午後に起動試験がある…せっかくだ…見てもらえ」
「しかし!」
「命令だ」
「は!」

ぽん

司令がシンジの肩に手をおく
「ゆっくりしていきなさい」
「あ…ありがとうございます!」
「ああ…」

司令はエレベータの中に消えていった

はじめて見たかも…
あいつが笑うとこ…


ミサトはやけくそ!
シンジにそこらじゅう写真を撮らせる!
シンジも調子に乗って
警備の人と並んで記念撮影したり
マギの前でピースしながら写ったり
観光地か!ここは!

私たちは
食事を挟んで起動実験を見学する事になった

私にも知らされていなかった…

私はもう、起動に成功している
私の脳からは…A10神経からは、あふれるようにシンジへの想いが…
だから私のエヴァは起動した
私の愛情を戦う力に変えるクソッタレな兵器…エヴァンゲリオン…

今日行われる実験はヒカリかファーストのどちらかってことになる…

起動実験室に通された私の目には黄色い巨人
ファーストか…
シンジは…
はは…必死にエヴァの写真を撮ってる…
知ってるわけないわね…
あの中にはファーストが…
あなたの従姉妹がいる…



大惨事だ…
起動には成功…
その後に暴走…

ファーストのエヴァは起動し一旦安定した…
皆、ほっとする、つられてシンジもほっとしてた

実験室内を覗き込む黄色い巨人
途端
「シンクロ率上昇!」
「安定しません!」
「このままでは!」
「心理グラフ乱れます!」
騒ぎ立てるオペレーターたち

激震

狂ったように頭を打ち付けるエヴァ

「停止信号!」
「停止信号…拒絶されました!」
「強制停止!」
「停止まで5・4・3・2・1!停止!」

まるで
壁をぶち破ろうとしていたような…

皆腰を抜かしている…
私も…

たっているのはミサトと…
シンジ

シンジは呆然と立ち尽くしていた

私は立ち上がると
シンジの手を握り
部屋を出た

この先に起こることをシンジに見せたくなかった…

シンジだってばかじゃない
2分の一の確立で従姉妹が乗っているんだ…


結局シンジは事故の後
追い返されるようにネルフを後にした

「ごめんね…帰りは送れなくなっちゃった」
明るく振舞うミサト

私たちは電車で家路についた
会話は少ない

シンジはまっすぐ家には帰らず
私の部屋によった

ママは出かけていた


「重い?」
「え?」
「私…重い?」
「そんなことないよ」
「そぉ」
「…ねえ…アスカ」
「ん?もう一回?」
私の下でシンジが首を振る

「綾波…だいじょうぶだよね?」
「…」
「僕だってバカじゃない…」
「…ごめん…きっと平気よ…だいじょうぶ…」
「うん…うん…」

シンジは涙を瞳いっぱいに溜めていた
私は優しく抱きしめる
今日は特別甘やかそう

「シンジ…」
「…なに?」
「気が済むまで泣いてれば…」

力いっぱい抱きしめた


もし今、私がエヴァに乗っていたなら
宇宙だって引き裂けただろう




ゼーレからネルフへお見舞いが送られてきたのは翌日のことで
御大層な霧の箱の中には
安産祈願のお守り

とことんバカにしてくれる
きっとあの女ね…




8月15日
終戦の日
この日が
私たちの
開戦の日になった


小田原に現れた使徒は次々に人類の防人たちを打ち砕く

私は待機命令で本部へ

ファーストはまだ、搭乗許可は出ていない
ヒカリはまだ、起動実験をパスしていない

いま戦えるのは私だけ

私は震えている
当たり前だ

相手は使徒
正体不明
ただ
降りかかる火の粉を払う
それだけだ

それだけなのに
怖くてたまらない

両手を握る
ほんの半日前までシンジとゲームをしていた
緊急連絡で私が召集を受けるとシンジは
「アスカ…」

シンジはあの日の…ファーストの事故を…私がアレに乗ることを…

シンジの両手を強く握った
もしママがいなかったらキスだけじゃすまなかったかもしれない

一人じゃいくら両手を握っても痛いだけだ

シンジ…お願い…わたしを守って…



私の腕は簡単にへし折られた
使徒は圧倒的で…
勝てる気がしない…

「ちくしょう…」
このまま死ぬのかな

使徒は軽々と私の頭を持って持ち上げる
もう抵抗する力もない
シンジ…助けて

私は顔面を貫かれる
いやだ
死にたくない
シンジ!たすけて!

「なんだ!いったい!」
オペレーターの声
「回線に割り込まれます!」

“無様ね”

いやな声

「ちょっと!何のつもり!」
ミサトが吼える
“無様なまがい物を助けてあげようと思ってね”
「あんたいったい!」
“ゼーレの…本物のエヴァ…見せてあげるわ”

使途が振り向いた
その視線の先には

マントのようなものを包む様に羽織った
片腕の巨人

使途が閃光を放つ
片腕のエヴァはまるでマントでそれを弾く様に
はだけたマントの下には

「バット!?」

片腕のエヴァは右手にどう見ても巨大なバットを握っていて
それを振りかざし使途に襲い掛かった

奇怪な光景

バットで撲殺される使徒
まるで校内暴力だ
使徒はバットで殴られるたびに奇声を上げる

私が女子高生なら
使徒は三下で
片腕のエヴァは番長

それくらい圧倒的で

これをあの優男がやってるのかと思うと…


使徒はコアをフルスイングで殴られると
そのまま破裂して果てた

“今回の分はつけにしておくわ…葛城さん”

いやみったらしい声を合図に片腕のエヴァは引き上げていた



私は更に48時間の待機のあと
自宅へと帰った

ママはひどく心配していて
私はクタクタで
泥のようにねむりに落ちた


昼過ぎに目が覚めると
ママは仕事に行った後で
テーブルには朝食が並んでいた

別にママは冷たいわけじゃない
そうしたほうが、日常の…いつも通りのほうが
私が喜ぶとわかってるから

テレビをつけて
昼過ぎの朝食をとる
テレビはまだあの日の事をやっている
だから私はすぐにテレビを消した

ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!

けたたましくチャイムが鳴る
インターフォンを覗く
画面にはシンジ

「まってて…今あけるから」

インターフォンを離れ玄関へ

戸を開け
「うるさいわねぇ…ガキじゃあるまいし」
そこまで言って
私は両肩を持たれ
部屋に押し込まれた

シンジは家の鍵をかけると
私に襲い掛かってきた

服は剥ぎ取られ
下着は乱暴に脱がされる

いつものんきで
ぐずで
マヌケで
気が利かなくて
弱虫で
優しくて
暖かくて
心が綺麗で
私の大好きなシンジ

私は犯されながら呆然とシンジを見上げた

いったいどうしたの?

何で泣いてるの?

なんで何度も「アスカ」って叫ぶの?

何でそんなに強く抱きしめるの?

なんで?

なんで私の胸で泣くの?

ほんとにもう

「ばか…なんともないわよ…」

さっきチラッと見たニュース
気取ったキャスターが私が重傷だとか言っていた
きっとそんなニュースを
何度も何度も見たんだろう

私の携帯に何百回も電話したんだろう

不安で夜もろくに寝てないんだろう

きっとママから聞いたんだろう

私は無事で

あのニュースはデマで

だから飛んできたんだろう

どうしていいかわからなかったんだろう

しょうがない
今日だけは甘やかそう

「シンジ…ただいま」

シンジは声をあげて泣き出した
泣きながら女を犯すやつなんている?
つまりそういうこと

だから私は

起き上がって

いつも通りシンジの上になった

「ただいま」

もう一度言うと
シンジに優しくキスをした



寄贈インデックスにもどる

烏賊のホウムにもどる