校長先生の話もこれで最後
そう思うとなんだか感慨深い

僕の高校生活が終わる

長かった…
一瞬だったかも…

楽しかったことは間違いない


ちらっと父母席を見る

とうさんもかあさんも来てはいない
もうなれた
それに高校生にもなって卒業式に親ってのもね

そう思って視線を校長先生に戻した

別にてれたからじゃない

昔からそうだった
こんなときはいつもそうだ

運動会も6回のうち4回はそうだった
父母参観もそれくらいの割合だったかな?
流石に三者面談はちがったけど…


父母席には着物を着た金髪の淑女


呼んでもいないのに

別に迷惑だとは思わない

ちょっと恥ずかしいだけ

おばさんはいつも僕の親代わりをしてくれる

…もうすぐ
…代わりじゃなくなるけど



式が終わって
みんないろいろな人と別れを…

女の子たちは結構泣いていて
僕は空を眺めていた

人の気配がして
振り向くと

「卒業おめでとう」

惣流先生が僕の前に仁王立ちで
表情一つ変えずに

それだけ言うとスタスタ行ってしまった

先生が僕に声をかけたことに気付いた奴らが驚いている
そりゃそうさ
今日の惣流先生は
“清々するわ”
って顔で
とても僕たちの門出を祝ってるようには見えなかった

僕はもう一度空を見た

少しにやける
今、目の前に立っていた惣流先生は僕より少し背が低かった

「随分かかったなぁ…」

小さくつぶやいた

身長がおねえちゃんを追い抜いたのは高校に入ってから

ものすごく喜んでくれた

…ははは

でもそれ以来、ベッドの上では僕が下になることになちゃって…
正直ちょっと重いかな?







式が終わって
校門で卒業生を見送る

特に感慨はない

別にこいつらに何か特別な感情なんて持ってない

それに私がこの先、何年教師を続けるかはわからない

でもこれだけは確か

私は私なりの愛情を持って接した生徒が一人だけ…
その子の事は絶対に忘れない

忘れるわけないわ


シンジの事だもの


そんな事考えながら卒業生の中の一人を目で追っていた

もちろんシンジ

ん?

「ちょっとすいません」







せっかくの卒業式だし
シンジ君の門出の日でもある

これで記念写真の一枚も撮らなきゃ何をとるって言うの?

そんなわけで暇そうに立っている意地の悪そうな女教師を捕まえてシャッターを切らす事にしたの

シンジ君と二人で
校門の前で

シンジ君が少し照れて

可愛い子ね
ほんとに

いい思い出になるわ

ふん
ユイさんはわかってないわ
人類の未来よりも大切なものがあるってことが



「じゃあこんどはさ」

まぁ







ケンスケを捕まえて
撮ってもらったんだ
三人で

おばさんと惣流先生と僕とで

アスカはてれちゃって
一枚とったら
「もういいでしょう?!」
って言いながらどこかへ小走りで

僕はケンスケにカメラを返してもらい液晶をおばさんと確認した

「なに?あのこったら…」

画面の中のアスカは泣き笑いみたいな顔で移っていた

それを見て
僕は決めたんだ

「…おばさん、お願いがあるんだけど」







「もぉ〜お!かわゆい!」
帰ってくるなりアスカはそう言いながら何度も僕にほおずりを

おばさんは呆れ顔

生徒じゃなくなった途端にこれだ…

そんな中、おばさんが突然真顔でアスカに向って

「シンジ君がお話ししたいことがあるみたいよ」
って言ってくれて

アスカがぽかーんとしてると

「最後にちゃんとお話しなさい」

ビックリするようなことを言って
着替えて出かけちゃった









僕とアスカはテーブルで向かい合う
なんかあらたまるって…変な感じ

なに?

そんな顔で僕を見つめるアスカ
僕のおねえちゃん

そして…

「惣流先生」

「え?…なに?どうしたの?」

アスカは…惣流先生は予想もしてなかった僕の一言で少し混乱気味

「学校じゃそんなチャンスもないし…大体、惣流先生がそういうこと嫌いなのも知ってるから…」
「なによ?どうしちゃったの?ここは家よ?」
「わかってる…でもごめん…どうしても言いたくて」
「…私に?」
「うん」
「なに?」

アスカは…惣流先生は笑顔で僕の言葉を待ってくれる
だから、ちゃんと言うんだ
僕の口から

「今までありがとうございました」

お辞儀をしながらそういった
先生に

「やめてよ…家では…学校だけでいいのよ…」

アスカは…惣流先生は困ったように笑っている
でも、ちゃんと言うんだ

「僕が本当に出来の悪い生徒で、それで…先生はおねえちゃんなのに…必死にそれを抑えてくれて…僕のこと気になってしょうがないのに…ちゃんと先生として 接してくれて…」

「ばか」
「え?」
「調子に乗るな?」

アスカは…惣流先生は、はじめてみせる様な笑顔で僕を見つめていた

「別にシンジのために教師になったんじゃないの、ママにね…憧れてたの」
「おばさんに?」
「そ、それで学校の先生になろうって」
「でも…僕の…」

先生は本当に嬉しそうな顔で
「勘違いするな?」
「え?」
「どうせやるなら…自分がね、一番大変で困難な事をしようって」
「うん」
「すぐにわかったわ、私が教師をやるってことの一番の試練」
「うん」
「シンジのところで先生になって、それでシンジを他の生徒と同じように扱えたら…それが私にとって一番の…そう思ったからよ」
「…それでも」

そんな話を聞かされても
それでも言いたい

「それでも!惣流先生はおっかなくて!厳しくて!テストもとびっきり難解で!それでも僕のこと!」
「当たり前でしょう?私は教師よ?間違っていたら叱る。解らなかったら教える。当たり前の事じゃない?」
「でも…それがとっても嬉しかったんだ…だって、アスカは僕がアスカの前歯折っちゃった時だって…血…流しながら笑ってゆるしてくれて…そんなアスカなの に、惣流先生は平気で僕に赤点つけて…一回も特別扱いなんかしないで…」

僕はただ、惣流先生にちゃんと挨拶がしたかっただけなのに…混乱しちゃって
変な事いちゃって…
それを聞くアスカはすごく嬉しそうで

「ありがとう、シンジ」
「え?」
「もし、本当にシンジが、私がシンジのこと特別扱いしなかったって…そう言ってくれるんなら…こんなに嬉しい事はないわ」
「…」
「ほんとはね、おねえちゃん…シンジのことが気になって気になって…ダメな先生でしょう」
「そんな事ないよ」
「…ありがとう、でもね…急に天気が悪くなればシンジの下駄箱に折り畳み傘を入れてたし…シンジがクラスの子と何を話してるのか気になって気になって…用 もないのにシンジのクラスの前を毎日通りすぎたり」
「うん」
「ばかみたいにお弁当忘れた日なんか…綾波さん呼び出してシンジに届けさせたわ」
「…それはさ…傘も…お弁当も…盗み聞きも…惣流先生じゃなくてさ、おねえちゃんがやった事で」
「…」
「傘が下駄箱に入ってた日は、惣流先生の小テストが0点で…こっぴどく怒られたし」
「うん」
「弁当忘れた日は…あはは…確か…皆の前でこっぴどく叱られたっけ」
「うん」
「だから惣流先生は…僕は…おっかなかったけど…本当に…“先生”って言われて一番に思い浮かぶ位で…その…変な意味じゃなくて…だいすきでした」






このマゾ…
あんたみたいな生徒がいるから…
教師になろうと思ったんじゃない…






「だから先生」
「なに?」
「最後にお願いがあります」
「えっちなお願い?」
「ちがうよ…」
「冗談…なに?」








まったく
この二人は…
朝の6時だってのに見せ付けちゃって

まっ、いいわね!
お似合いじゃない?
なんだか悔しいくらい!

「ねぇ二人とも、どうせなら手とか繋ぎなさい」







お願いしたんだ
惣流先生に
「最後に二人で写真を撮らせてください」
って

わらってOKしてくれた

でもやっぱり学校の人に見られるとあれだからこんな時間になっちゃッたんだ

それでも惣流先生は嬉しそうに笑って
僕もなんだか嬉しくて
やっぱり笑っちゃって

カメラマンをお願いしたおばさんが
それを見て“どうせなら手を繋げ”って言ってきて

うん
せっかくだから!








校門の前
生徒と二人で記念写真

なんだかとっても嬉しくて
“手を繋げ”
って言われて

満面の笑みで
手を繋いでフレームに収まった

うん
笑えるっていいな

もう少し学校でも…生徒の前でも笑おうかな










アスカが
「じゃーん」
って言いながら僕とおばさんに僕らの入籍のお知らせのためし刷りを見せる

「いいじゃない?いいデザインじゃない!」

おばさんは随分と気に入ったみたいで…

「…なんだか…ほんとにこれにするの?」

僕は恥ずかしくて…








傑作ね!
素晴らしいじゃない!

シンプルなデザイン!
内容は
“私たち結婚しました 碇 シンジ アスカ(旧姓 惣流)”

わかりやすくていいじゃない!?

それにバックにはこの写真!

笑顔で写る先生姿の私と学生服のシンジ!
二人の後ろには桜の木と校門!
手を繋ぐ二人!

もう何も説明なんか要らないわね!




フォークリフトさんからアスカ姐様シリーズの8作目。
フォークリフトさんの感想メールはアドレスforklift2355@gmail.comまでどうぞー。

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