「「「かんぱぁ〜い!」」」

「ぷぅはぁ!いやー!それにしてもいい式だったわねぇ」
「葛城指令、飲みすぎじゃない?」
「あぁん、硬いこといわない」
「あなたのためを思って言ってるのよ?」
「おいおい、いいじゃないかリッちゃん」
「リョウちゃんまで」
「今日はアスカの晴れの日なんだぜ?」
「そうよ!あのアスカの笑顔見た?」
「ええ、本当に幸せなのね」
「そうさ、俺たちにはあんな笑顔…いや、笑顔なんて一度も見せなかったアスカが」
「そうね…」
「誰にもほめられず、ひっそりとこの世界を守って…色んなものを失って…」
「そして誰にも負けない幸せを手にした…だろ?」
「そうね、それにしても三人そろうなんて何年ぶりかしら?」




アスカの式の帰り
私たちは居酒屋により
昔話に花を咲かせた

今やミサトは“葛城指令”
出世したものね
リョウちゃんは“葛城リョウジ”
尻に敷かれちゃって
私はアスカに付き合ってあそこを辞め
医者もどき


私たちが戦う“使徒”
リリスの“使徒”である我々と
アダムの“使徒”との永遠に続く戦いの日々


「大体ミサトなんか失語症で一言も喋らない、くらぁ〜い女だったじゃない?」
「まぁねぇ」
「私たち三人が戦ったあの頃…」
「あぁ…君はいっつもへ理屈をこねてたな」
「気に入らなかったのよ?」
「なにがだい?」
「ミサトにばっかり話しかけるリョウちゃんが」


冬月指令の下
使徒と戦う
ミサトは一言も喋らない
ただ、父親の敵を討つ
暗い女だった

リョウちゃんは何とかミサトの心を開こうと

私はいつもそれを見てイライラしていた

死にたがる女
葛城ミサト
生きようとする男
加持リョウジ

私は…ただ、エリート意識だけで
戦う女だった


「最後の日…覚えてる?」
「んぁ〜あ!忘れたい!」
「忘れないさ」


私たちが戦った最後の使徒

ミサトは狂ったようにぶつかり
リョウちゃんは身を挺してミサトを救い出した

最後の使徒に止めを刺したのが私だったのはどうでもいいこと

ミサトはリョウちゃんの腕の中で大声をあげて泣いた

“おとうさん”

何度も何度も

最後の使徒の欠片を見ながら

“おとうさん”

ミサトの復讐
父の敵

最後の使徒

“父”

ミサトの泣き声

今でも忘れない
14歳のあの日

私はそれまで“人形”と罵っていたミサトを
初めて美しいと思った




「やめやめ!暗い話はやめ!」
「あら?私はあの日、あなたに負けを認めたのよ?」
「これ以上そんな話されたらまた黙り込んじゃいそうよ!」

ミサトは抱えた一升瓶を喇叭のみ

「それよりもリッちゃん」
「なに?」
「面白いもんだ」
「何が?」
「アスカの旦那」
「シンジ君?」
「あぁ…君は“医者”として何回か会ってるんだったな」
「ええ、かわいい坊やだったのよ、ちょっと前まで“おねえちゃん”ってアスカのこと呼んで」
「ははは、そのシンジ君の父親」
「父親?」
「ああ、俺と同じで籍を入れて名を捨てたそうだ」
「じゃあ“碇”ってのは奥さんの?」
「そう、そして」
「そして?」
「旧姓は“六文儀”」
「“六文儀”?別にめずらしい苗字じゃないわよ?よく言うじゃない『佐藤、斉藤、六文儀』って」
「ああ、だけどな」
「だけど?」

「“六文儀ゲンドウ”」

「え!?」
「確かに“六文儀”も“ゲンドウ”もめずらしい名前じゃない、だけど」
「偶然でしょう?」
「多分な」


“六文儀ゲンドウ”


私たちの組織の中で伝説のように語り継がれるその名

まだ、キール議長がキール指令だった大昔
たった一人でアダムの使徒達に立ち向かい
そのすべてを打ち倒し
何処かえ消えた少年

“六文儀ゲンドウ”



「ちょうど歳も同じくらいなんだ」
「偶然でしょう?」
「夢がないねぇ、女ってやつは」


伝説の少年
六文儀ゲンドウ

彼は世界を守った

伝え聞くところによると
彼はこの世界などどうでもよく
ただ一人の少女を守りたかっただけだったそうだ

彼の口癖は

“守ってやる”

だったそうだ




「しっかしアダムとリリスはどっこに行っちゃったのかしらぁ?」
ぐてんぐてんのミサト

アダムとリリス

私たちの誰もその姿を見たものはいない

うわさでは
リリスは少女
アダムは少年
の姿をしているそうだ

そして私たちの世界に溶け込み
ちょっとしたイタズラを繰り返している

私たちと“使徒”との戦いも、そのイタズラの一つらしい

あの“左目”を持つ…
あの左目にされてしまったアスカなら
アダムもリリスも
簡単に見分けるだろうに

でも、仮にアスカがその二人を知っていたとしても
絶対に教えてくれないわね

アスカの出番は随分前に終わってるもの



「昔といえば」
「いえば?」


今は無きキール議長

使徒との戦いで体の多くを失い
まるでサイボーグのようだった

「あの人もやっぱり“キール少年”として戦ってたのよね…」
「そうだろうな」


歴代の“少年”や“少女”
そのほとんどをわたしたちは知らない

そういう決りだから

使徒と戦い
その役目を果たした“子供”たちは
一部の例外を除き普通に戻る

本人が望めば、自分が“少年”や“少女”であった事実も消えてなくなる


アスカもそうだ

いつも携帯を眺めていた
携帯にはいっているシンジ君の写真を眺めていた

「別にあんたたちなんかどうだっていいの」

あの頃のアスカの口癖

アスカの夢は
普通の女の子と同じ体に戻り
神様が自分に与えてくれた男の子と
平凡な日々を送ること

仏頂面で
いつもそんな話をしていた



「ねぇえ、アスカ…どこまで思い出したのかしら?」

おきてるんだか酔ってるんだか
よくわからないミサト

「さぁ、どうかしら?」
「あの二人の事は忘却の彼方だよ…間違いない」

相変わらずロマンチストなリョウちゃん


鈴原トウジ
洞木ヒカリ

アスカと一緒に戦った子供たち

この三人は偶然大学で再会した

もちろん三人とも“あの日”の記憶は無く

ただ、なんとなく引かれあい
友達になった

それでいいと思う
あの三人にあの日の記憶なんか有っても無くても
きっと関係ないわ


「三人そろうと騒がしかったな」
「ほんと」
「なぁ〜もう何度ひっぱたいたか」


つらかった
きっとそう
14の子供に戦う事を強要する
私たちもそうだった

現に私は
ミサトもリョウちゃんも大嫌いだった


もう二度と会いたくなかった


でも
それも
大人になれば変わるもの

昔いがみ合ったから
手を取り合って
子供たちと一緒に戦えた




アスカに幸あれ

私たちはそう願う
心の底から願う

アスカ達に科せられた使徒との戦い
その最後の使徒

“ダブリス”

アスカはわが身を打ちつけヤツを打ち倒した

かわいいシンジ君のために
シンジ君が明日の夕方、楽しみにしているアニメを見られるために
シンジ君が嫌がる歯医者さんに行くために
シンジ君のために

なんて素敵なのかしら

アスカはこの世界を守る明確な理由があったんだから

私には何も無かった

だからアスカはもう一度体を手に入れることが出来たんだろう

彼女の“シンジが待ってる”って想いが
原子にまで帰った体を
もう一度、彼女にしたのだろう

たとえその体の一部が“使徒”と同じになってしまったとしても



「んねえリツコぉ」

ミサトはアルコールの力で天国から話しかける

「なに?」
「今日、すごいもの見たじゃない?」
「すごいもの?アスカの笑顔?」
「それもすごいけどぉ…最後にさぁ」
「アスカがシンジ君に何か話しかけて…」
「シンジ君がアスカにぶちゅ〜う!ってしたじゃない?」
「ええ!すごかったわね」
「そのあと」
「そのあと?」
「アスカ…幸せそうに笑いながらボロボロ泣いて」
「そうね」
「綺麗だったわね…涙」
「アスカの…あの子の涙…」
「初めてよ」
「そうね」
「綺麗だったわ」

酔っ払いの天国から話しかけるミサト

でもさすがね

私たち誰もアスカの涙なんか見たことが無かった

でもきっとシンジ君は違うのね

そうに違いないわ

だってシンジ君
うれし泣きするアスカに…

ええ!
いいじゃない!
何度でもすればいいわ!

飾りじゃないのよ涙は!

アスカには何度でも涙を流す権利があるわ!

おめでとう!
アスカ!

あなたを見ればアダムもリリスもくだらない遊びはやめるわ!

きっとそう!
なんでかわからないけど!
そんな気がする!

おめでとう!
アスカ!


「ねえ!もう一度アスカに乾杯しましょう☆」


フォークリフトさんのアスカ姐さんシリーズ、番外編「飾りじゃないのよ?涙は☆」の公開です。

意外なお話を書いてくださったフォークリフトさんへの感想をぜひアドレスforklift2355@gmail.comまで〜おねがいし ます。

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