この作品は "ラフメイカー by BUMP OF CHICKEN"からインスピレーションを受けたオマージュ作品です


人生は悲しいことがいっぱいだ
だからって悲しいことに慣れてる人なんかいないと思う

今日、とても悲しいことがあった
別れだ

突然人がいなくなる

最初はよくわからなかった
正直“大変だ”って思うくらいで

でも、お葬式の後で

なんだか
突然


悲しくなった


もう会えないって実感が出てきて
心より体が先に反応して
涙が出て

涙を見て
“かなしい”って実感して

なんだかたまらなくなって
声を上げて泣いた

なんだかそうしなくっちゃいけないような気がして
部屋の鍵を閉め
カーテンを閉じ
“あぁ…これで思いっきり泣ける”
なんて思いながら
自分で自分の泣き声に少し驚きながら
バカみたいに泣いた

もしこれが漫画なら僕の部屋は涙の大洪水

現実は袖を少し濡らすだけ

それが少し悔しくて
泣くのにも疲れて

まるでそれを待っていて
ドアの向こうで見計らっていたように
ノック

もちろん無視をした

今は孤独に浸っていたい

“誰かと一緒に悲しみを分かち合う”なんてまっぴらごめんだ

人にはそれぞれある
僕にもある

これがぼくのそれだ

だから僕は無視をする

しかし敵はそんなこと先刻承知
彼女は“矛盾”って言葉から盾をとったような性格だ

意地で
全身全霊をかけて
僕の孤独を突き崩そうと躍起になる

たぶんそれが楽しいんだろう

「もぉしもぉ~し!碇シンジさんのお宅ですかぁ~?いますかぁ~?いますよねぇ?さっきからぴーぴー泣いちゃってますよねぇ?もしもぉ~し!」

一緒にお葬式から戻って
リビングで“あー疲れた”とか言いながらお茶でも飲んで
僕の何かが気に入らず
それでこの言い草だ

「なんかぁこの部屋で面白いものが見れるって聞いて飛んできたんですけどぉ?」

彼女なりの慰めの言葉

っていえば聞こえがいいけど
要は僕をおちょくりたい
それだけのことさ

わかるよ?
何年の付き合いだと思ってるのさ?

ドアノブがガチャガチャと大きな音を立てる

「なんかカギかっかってんですけど?ねぇ?カギってわかる?ノブの真ん中にあるガチャって回るやつなんだけど?」

ここで答えちゃだめだ
僕の孤独はその一言を皮切りに
いとも簡単に彼女に突き崩されてしまう

今までのすべてがそうだったように

「バカだから自分の涙で溺れちゃいましたかぁ?聞こえてますかぁ?」

おちょくった声が不愉快に響き
それでも僕は自分の孤独を守り
思い出に
ついこの前まで日常だった思い出に浸り
次の涙をまつ

「チッ」

諦めたのか
これ見よがしの舌打ちを残し
ドカドカととても年頃の女子とは思えない足音を残し去ってゆく




“溺れるほど泣けたらなぁ”

呟いてみた

少しかっこつけた

まるでそれを待っていたようにドアがノックされる
おとなしめに

誠意を見せようとするように

付き合いの長い人間の考えることはよく分かる

“しおらしくするから…ね?開けてよ”

押してダメなら引いてみろ的な作戦
それがどうしても腹立たしく

「一人にしてくれって言っただろ!迷惑なんだよ!わかれよ!」

大きな声を出す
少しすっとする

あ…もしかして
これって向こうの思い通り?

ハッとそんなことを思ったとき
なぜかドアの向こうからすすり泣く声が…

「ごめんなさい…碇君がすごく落ち込んでるって…何かしてあげようと…碇君の気持ちも考えないで…ごめんなさい…」

綾波…

「あーあ、あんた何泣かしてんのよ?」

くそっ!
お前が余計なことするから!

「もうこぉーなっちゃ意地でもあんた見て大笑いするしかないわね?」

ちくしょぉ!
それが狙いか!
なんだよそれ!
そんなことのために綾波を呼んだのか!?

「ケーキ…買ってきたから…」

綾波が涙声で
必死に明るくふるまう

健気だなぁ…
この健気さの一割でも…

「ほら!とっとと開けろってぇの!」

一割じゃ足りないか…

「落ち着いたら…で…いいから」

そんな声出されたら…

これじゃぁ
なんていうかまるで
なんだか意地で閉じこもってるみたいで
…まぁそうなんだけど
それでも自分から出てくのはなんだかしゃくで

っていうかかっこ悪くて


なんだか罪悪感


最後の抵抗でたっぷり100数えて
深呼吸して
なるべく大きな音を立てて開錠する



あれ?

無反応?

まさか?

あきて自分の部屋に戻った!?

なんだよ!


散々騒いどいて!
ホントに頭にくる!

きっと綾波の持ってきたケーキを我が物顔で僕の分まで!

散々人のことからかっといて!
そう思うと頭にきて
カッとなって
ノブに手をかけた
その時

ガシャン!!

窓ガラスが割れ
カギが開けられ、カーテンもろ共窓が開け放たれ、日の光が部屋をまぶしく照らす

「足元気つけて、ガラスで危ないから」

「お邪魔します…」

おろおろしながら窓から侵入してくる綾波と

「とう!」

なぜか水中メガネにシュノーケル、手には金属バットで完全装備のアスカ

「なぁ!」

完全に不意を突かれたっていうか
常識がないっていうか
唖然とするしかないっていうか

「ふむ、涙で溺れ死んだかと思ったけど、どうやら違ったようね」

何言ってやがるっていうか
そんなこと考える暇もなくアスカはシュノーケルやらバットやらをほっぽりだし
ズカズカと僕に詰め寄り僕の顔を繫々と覗き込む

とっさに視線をそらす

今気が付いたけど二人とも土足だ

「こっち向け!」

顔を押さえつけられ無理やり正対させられる

ん?

アスカが綾波に向かって手をひらひら
綾波は少し困惑気味にポーチの中から取り出した物体をアスカに手渡す

「ほら、笑えるでしょ?」

アスカの手には小さな鏡
その中には目を真っ赤にして
くまを作って
呆然とした
間抜け面の僕

アスカは満面の笑み

不思議と腹は立たなかった

「ホントだ、笑える」






綾波はすぐに帰ってしまった
「うらやましい…割り込めない…」
帰り際に僕にそう告げて

いやぁ
綾波…
勘違いしてるよ
アスカとは全くもってそんな関係じゃないし
正直苦手だし
ウエルカムだよ?僕は
いつでも割り込んで

さておき
僕は部屋に飛び散ったガラスを片付ける
今夜からどうすりゃいいんだ?
っていうか、まず数時間以内にこっぴどく怒られるよな

もちろんアスカが

僕は抗議の視線をアスカに送る
当の本人は何食わぬ顔で僕のベッドの上でケーキを食べている

あーあ…わざとボロボロこぼして

「ん?なに?」

わざとらしく無邪気な顔して
ちょっと腹が立つ
だから

「さっき綾波にこくられた」

“ふ~ん”

そんな顔でアスカはケーキをたいらげ

「よかったじゃん」

そういうと次のケーキに手を付ける
畜生…それ
僕の分だぞ

「まぁ、有難味ってのは中々わからないか、しょうがない」

アスカはうんうんと一人うなずき
かじりかけのケーキをベッドの上に放置し部屋を出て行った

去り際に
「あ、残りは食べていいわよ」
って言い残して





部屋の片づけが終わり憎たらしいケーキの残骸を…
おっとこれは綾波からの好意だからおいしくいただかなきゃ

ケーキをかじりながらお茶を飲もうとリビングに向かうと
そこにはアスカの姿はなかった

いやな予感

何としても夕飯までには帰ってきてほしい

さもないと僕が怒られる羽目に…






翌日の教室
みんなどこか浮ついている
腫物のような空席
僕もそれにどう対応していいのかわからない
人が死ぬってこういうことなのか

なんだか大人っぽいことを考えふけっていると綾波が吹っ切れたような笑顔でやってくる

直後に

“大好きです…だけどゴメンナサイ”

僕は告白されフラれた

綾波はクラス中の女子から慰められ
皆の話題は如何にに僕が不誠実でふしだらな男かにシフトしていった

もちろん身に覚えはこれっぽっちもない

ただ

この光景を悪そうな微笑みで眺めるアスカを見ると何となく察しがついた

クラスの沈みそうな雰囲気はいつの間にか消え
僕を非難することで盛り上がる

アスカの企みの通り

全くいやになる

何がって
アスカが僕のところにきて
耳元で
「笑えるでしょ?」
ってつぶやき
一瞬の間も置かず
僕のほほに何かがふれ
それと同時に教室が静まり返り

直後に大爆発した

アスカと見つめあう
アスカはいつもの意地悪な笑顔
ふと綾波を見ると
綾波は泣き笑い


そして僕は男子の袋叩き


なるほど
笑える




フォークリフトさんの「グッドサベージ」です。

アスカらしく暴力的でツンツンツン(デレ少し)なシンジへの激励のお話ですね。

フォークリフトさんへの激励・感想をぜひアドレスforklift2355@gmail.comま でおねがいします。

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