目が覚めれば思い出せないけど

ぼくは毎晩夢を見る

この場面も…
何度も見てきたんだ
今日はどこで目を覚ますんだろう…




「僕だって自分の弱さを優しさだって履き違えてた。だから、どんなに孤独がアスカちゃんを縛り付けても、どんなにアスカちゃんの心が傷だらけになっても… 僕はずっとアスカちゃんに一緒にいてほしい」

アスカちゃんのそばにいたい
そばにいてほしい
ずっと…ずっと…

僕は何度も何度も繰り返した

僕の言葉を聞くたび
アスカちゃんの泣き声は大きくなり
体から力が抜けてゆく

だから僕は何度もささやいた

「ずっと一緒にいよう」

涙は悲しみを洗い流してくれる
泣き声は仮面を吹き飛ばしてくれる

最後にはアスカちゃんだけが残る

傷ついた心の
一人ぼっちの

でも僕はアスカちゃんと一緒にいた
これからだって一緒にいる
何度生まれ変わっても
僕はアスカちゃんのそばにいる
アスカちゃんの全部をわからなくても
それでもかまわない


アスカちゃんが僕を見つめて泣いている

僕の手を引き立ち上がると僕を抱きしめ
僕も抱きしめた



アスカちゃんは少し落ち着くと、脱ぎ捨てるように赤いプラグスーツを放り投げた
そのまま着替えると僕の手を引き部屋を出る

ミサトさんもりっちゃんも心配そうにしている

でもアスカちゃんは「にや」ってわらうと

「どいたどいた!アスカ様のお通りよ!」

泣きはらした声で

心配そうにしている皆を蹴散らし僕の手を引く

振り返ると唖然とするミサトさんとりっちゃんが見えた




家に帰ると僕らはたくさん話をした
本当にたくさん

そして

「シンジとひとつになりたい」

僕はうなづき、そっとアスカの服を脱がす

部屋の明かりはつけてない

まるでこうなる事がわかってたみたいに

僕は生まれて初めて、痛がるアスカを見た
その姿はとても愛らしく
全てを忘れ、アスカをみつめていた

アスカと結ばれた喜び

それよりも

痛みに絶える事をやめたアスカが

嬉しかった






あれ?夢じゃないのかな?
アスカちゃんが裸で僕を抱きしめている
僕がアスカちゃんを見つめるとアスカちゃんは

「まだ早いわ…もう少し寝てなさい」
「うん…」

一体どっちが夢なんだろう?
このまま眠ればわかるかな?

アスカちゃんの乳房が口元に当てられた


“むりしないで…アスカ…”
“大丈夫…痛いけど大丈夫…”

その顔がとても愛らしく
そっとアスカの乳房を口に含んだ





「起きろォーーーーーー!」


うわぁ!

なに!
どーしたの!?

思わず周りを見渡しちゃう

僕のそんな姿を見てアスカちゃんは
「ママのオッパイの夢はどうだった?」

一瞬何かがよみがえる
“シンジ!あぁ…いいの…大丈夫だから…あぁ!”

「えぇ!なんで!」
今のは一体?
「………もない」
なんだろう?

アスカちゃんは満足そうに笑うと洗面所へむかった
「さあ顔洗ってこよー」
なんていいながら


あーあ…もう…本当に…
「もう、アスカちゃんってホンとに…また耳が聞こえなくなったらどうすんのさ…」

どうせ聞こえてないんだろうけど



テーブルにつくとりっちゃんがお弁当を見せてくれた
なんと今日はりっちゃんがお弁当を作ってくれたんだ!
「もう10年ぶりくらいに頑張っちゃったわ」
りっちゃんが胸を張る
それにこのお弁当箱!
クラスのみんなと一緒だ!

あ…
昔作ったって誰にかなぁ?
聞いてみよう

「誰に作ってあげたの?父さん?」
「残念、付き合ってた人」

なんだ

「ねえりちゃん、お弁当見ていい!?」
「えぇ、どうぞ」

アスカちゃんとお弁当を開けてみた
「「わぁ」」
すごい!
パテェシエが作ったケーキみたいだ!
おばさんにも見せてあげよう!

「二人ともお箸苦手でしょ、フォークでも食べやすくしてあるから」

そうなの!?
それじゃあ!
「ねえりっちゃん、この小さい丸い赤いのとか黒いのとか何?」
「俵結び、赤いのや黄色いのはふりかけ、黒いのは海苔」
何のことかさっぱりわからないけど美味しそう!

あ、おばさんから返事だ

なになに?

“栄養のバランスがわるそう”

うぅ〜ん
ちょっとりっちゃんには言えないや

後はいつもの通り
アスカちゃんのことを心配してる
やっぱりおばさんはアスカちゃんのことが大切なんだな
いつも“アスカは?”だもんな



朝ごはんはお弁当ののこり
でも嬉しいな
この、ころころした「おむすび」ってのも美味しいし
どうやったらこんなミルフィーユみたいな玉子焼きができるんだろう?
それにこのソーセージ、まるでタコみたい!
何だか片っぱしからりっちゃんに聞いちゃった!

うん!今度は僕が作ってみよう!

「ねえりっちゃん、今度僕もお弁当作るよ」
「あら!?楽しみ」
りっちゃんは喜んでる

アスカちゃんも笑ってる

よーし!やるぞー!


ぴんぽ〜ん

あ!もう時間だ!
三人がきた!

ぼくはお結びをひとつつまむと口に放り込んで立ち上がった

ぺし!
「行儀悪い!」

アスカちゃんにお尻はたかれちゃった…
「さぁ早く用意なさい、遅刻するわよ」


全員の荷物を持ちフラフラのトウジ
何でかって言うと
僕の靴の中に小石が入って、それを出そうとして靴を脱ぐのにアスカちゃんにかばんを持ってもらったら、トウジが

「かぁ〜情けない、女に荷物もたすんか、先生は」

それを聞いたアスカちゃんが“にや”ってわらって
「はい」ってトウジに僕たちのかばんを突き出したんだ
「ほら、ヒカリも渡しちゃいなさい。鈴原が持ってくれるって!」
「えぇ、でも…」
やけになったトウジが
「よこさんかい!」
って
アスカちゃんは悪そうな顔して
「さっすがー」

知らないよ!?






学校に着くとトウジはぐったり
それを気にもしないでアスカちゃんは
「セバスチャンご苦労」
とか言いながらかばんを受け取る
トウジも
「この鬼女!」
って
それを聞いたアスカちゃんが嬉しそうに
「なにー!」

まぁまぁ

僕が二人に割って入る
そんな事してたらまた直にクラスの子達に囲まれて
「ねえ、許婚だとやっぱり将来はシンジ・ラングレーになるの?」
とか
小声で「おまえらもうやったのか?」
とか
まぁ一番興味津々な顔してるのは委員長なんだけどね


お昼休み
お弁当を食べ終わって、トウジたちとマンガを読んでた
そしたらアスカちゃんが突然
「あんたたちも来るんでしょう?」
「なんや?」
「シンジのお誕生会!」

へぇ?
この間ドイツで13歳の誕生日を祝ってもらったばっかりだよ?
なんで?

ぼくのいいたいことが伝わったみたいでアスカちゃんが
「シンジがつい最近14歳になったの、そうよね!シンジ」
「え?あ…うん」

まあ突然なったって言うのは嘘じゃないんだけど…

「ほーそうか、ほんじゃあパーとやったるわい!」
なんてトウジが言い出すから
僕はアスカちゃんの所に戻ると
「アスカちゃんいいよ、この間ドイツでやったばっかりじゃないか…」

何もわからずに預けられてしまったぼくのために、おじさんとおばさんが僕の誕生日を毎年祝ってくれた
別にその日が生まれた日じゃなかったんだけど
何でその日になったかも分からないけど
毎年祝ってくれた
もちろん今年も

「いいじゃない、いきなり14歳って言われても私が納得できないわよ」
「うぅ〜ん」
何だかもう決まっちゃったみたい

委員長のところの妹も来るらしい
トウジは
「ええわ、シンジとは家に見舞いに来てもろた時にあっとるし」

うん…謝りにいったんだ
アスカちゃんと駅で別れた後
トウジの家に向かって
トウジもおどろいてた

「なんじゃ急に!?」

エプロンなんかして
ちょっと面白かったな
あのときのトウジは

事情を話して
途中で買ったケーキを渡して

「こんなもんいらんわ!」

トウジのやつ照れちゃって

「まあええわ!上がってけ!」

初めて入ったトウジの家は
意外にって言うか
きれいに片付いてて

「おじゃまします」

「にいちゃんだれ?」

息が詰まった
女の子がテレビを見てて
立ち上がってトウジのほうに行くんだけど

「にいちゃんの友達や、ほれ、お前にお見舞いやって」

「ケーキや!」

喜んで駆けて来た女の子は

びっこを引いていた

「ありがとう!」

変なイントネーションでお礼を言われたんだけど
足を引きずっているのを見たら涙が出てきて

「ごめんね…」
「なに泣いとるんじゃ!?お前らのせいちゃうわ!こいつがとろいんじゃ!なぁ!」
「ドンくさくないわ!ちゃんとよけたからぺっちゃんこにならんですんだんや!」

僕はトウジの妹の手をとって神様にお願いした
このこの足がよくなりますようにって
泣きながらお願いした

「お兄ちゃん優しい人やな、平気やでこんなん!」

トウジの妹は明るく笑って見せてくれた

「まあな」

何でトウジが返事するだろう?

「お前絶対に秘密にしとけよ!」
「なにが?」
「そのにいちゃんな、お前の事ぺちゃんこにしそうになったロボットのこれじゃ!」

妹に小指を立ててみせるトウジ

「ほんまに!」

僕が頷いてみせると

「じゃあ金髪の女の人の彼氏なん!?」

「そうだよ…ごめんね…怪我させちゃって」

女の子が嬉しそうな顔で

「じゃあ金髪の姉ちゃんに言っといて!すぐに転院してもろた病院でもよくしてもらったし、お見舞いもあんなにくれんでも、なんも気にしてんて!」

「うん…言っとくよ」
きっとアスカちゃんはたくさんお見舞いを送ったんだ
会いにいけない分

「それにドーン!ってなって崩れた天井からチラッと見えた紫色のロボット!かっこよかった!」


紫色!


じゃあ
この子に怪我させたのは
アスカちゃんなんかじゃなくて…


「なんや?おにいちゃんなきむしやな?」

僕は泣きながら何度もあやまった

「大丈夫やって!」

きっと神様は僕に罰を与える

「なんやいろいろあって金髪の姉ちゃん大変なんやろ?」

それでもかまいません
神様
どうかこの子に祝福と
僕に…
僕に…

「金髪の姉ちゃんに言っといて!うちは姉ちゃんの事応援してるって!」



僕は何度も謝ってトウジの家を出た

「なんや?飯でも食ってけや」

ごめんねトウジ
本当のことをいえない僕のこと…
もう友達じゃないかもしれないけど

「お前もなんか色々あるんやろ?」

え!?

トウジが僕と肩を組む
「ええわ!誰にも言わん!あほなわしにはなんもわからんからな!」
トウジの横顔を見るとめずらしくまじめな顔で
「わしらは友達や…お前が紫色のロボットって聞いて顔色変えたって気にせん」
僕の肩をバンバンたたきながら
「わしにはなぁ〜んも分からん!」
僕の背中をたたいて
「じゃあな!親友!」

僕はまた泣き出してしまった

「かぁ〜!情けないのう!男がピーピー泣くな!笑え!」

僕は泣きながら笑って見せた

「おう!それでええんじゃ!ええか!わしはなぁ〜んにも分からん!だからお前も気にすんな!」


次の日の朝迎えに来たトウジはいつも通りで
どうしても昨日の事が気になっちゃう僕の背中をバン!って叩いて
振り向いた僕に
バチン!
ビンタを一発
「これでええか?」

トウジなりの優しさで
僕はなんだか嬉しくなった
一発はたかれればゆるされるような事じゃないんだろうけど…
トウジはやっぱり男らしい
きっとこういうのが“日本男児”って言うんだろうな

あ…でもその後が大変で

突然の事におどろいたアスカちゃんがトウジに蹴りかかって
「あんた殺されたいの!いい度胸してんじゃない!」
トウジは咄嗟に
「じゃかましいわ!碇が貸したエロ本返さんから焼きいれたんじゃ!」
「……やっぱりあんただったのね…おかしいと思ったのよ…」
「なななななんじゃ!」
「シンジの言った通りね…シンジのじゃなくて、あんたが“無理やり”押し付けてきたのね」
「へぇ!?」
トウジが僕を見る
僕は目をそらす
「鈴原…」
「なんじゃ!」
「死になさい…」



そんな事があったからこそ僕とトウジは友達なんだ
まあ、その日の帰りに僕のお財布が空っぽになるまで、トウジ好みのいろいろなものを買わされる羽目になっちゃたけど





予鈴がなって教室に戻る途中
突然

「これ読んでください!」

その…
ラブレター…だよね…

その子はすぐに駆けていちゃったけど

「なんじゃ?もてるのぁ先生は!」
「はは…ラブレターかな?」

アスカちゃんを見ると少し不機嫌そうに
「しまいなさいよ…」
「あ…うん」

やっぱり怒ってる

前にも一回
こんな事があって
その時は
「ちゃんと返事すんのよ!わかったわね!」
って
つまり
ごめんなさいって言って来いってこと

結局この日一日学校ではアスカちゃんは不機嫌なままだった





アスカちゃんに連れられてなんとか本部に向かう途中

「ちょっといいかな?」

僕はラブレターを取り出してわざとらしく広げてみた
アスカちゃんが覗き込む

可愛い便箋にきれいな字で

“碇先輩に憧れています、婚約者がいるのはもちろんわかっています…お願いします、今度私とデートしてください”

「ははは…どうしよっかな」
かなりわざとらしいけどアスカちゃんの反応を待った

「返事…してあげなさいよ」
「うん…」

予想通りの返事だけど
言葉にとげはなかった




なんとか本部につくと僕はビジタースペースで待つように言われた
時間までアスカちゃんとおしゃべりをしていると偶然りっちゃんが通りかかって
「あら?シンジ君、アスカのお供?」
って

何でここにりっちゃんがいるのか聞いたら

「あぁ…私ね、アスカの主治医なの。ほら、アスカって大変じゃない?だからそれでしょっちゅう来てるのよ」
って

なるほど
アスカちゃんのお医者さんならここにいて当たり前だよね
納得


「じゃあリツコと待てなさい」
アスカちゃんはロボットの練習に向かった


りっちゃんがアスカちゃんに内緒でコーラを買ってくれて
アスカちゃんはいつまでたっても僕の事を子供扱い
だから未だに炭酸は買ってくれない

「ねえりっちゃん」
「なに?」
「今度アスカちゃんがパーティーやりたいんだって」
「へぇ、パーティーか…」
「いいでしょう?」
「…」

あれ?

「だめ?」
「…ねえ?私の友達も連れてきていいかしら?」
「うん!もちろん!」
なんだろう?
りっちゃんなんかたくらんでる
なんだろう?

ドイツでやったパーティーのことを話したり
学校のことを話していたら
りっちゃんの助手の人が来て

「先輩、そろそろ」
「わかったわ、シンジ君、ここでマヤと待ってて」

りっちゃんは手を振りながら出て行った

りっちゃんが居なくなるなり
「ねえシンジ君」
「はい」
「先輩に変な事されない?」

あぁ、この人なんか勘違いしてたんだっけ

「何にも無いですよ、りっちゃん優しいし」
「へぇ〜」
「それに全然…その…りっちゃんはそんなんじゃないです」

伊吹さんにじーっと見られちゃった

「先輩ね、あなたが日本に来るまでいっつもあなたの写真持ち歩いてたのよ」
へぇ?
「二人で写真撮ったんでしょう?ドイツで」

あ…撮った
最後に来たとき
二人で
庭に出て

精一杯背伸びした僕と
かがんでくれたりっちゃんで

確かりちゃんが
「今度は私が大切にするわ、この写真」

約束…守ってくれたんだ…

「いっつもうっとりしながら見てたのよ」

ちゃんと大切にしてくれてたんだ

「ねぇ?聞いてる?」

「はい…ありがとうございます」

「え?」

「僕もりっちゃんが姉で本当によかったです」

「あ…そ…そう…そういう…趣味なんだ…」

「は?」

「アスカには黙っとくから」

「へ」

「うん…いろいろあると思うから…ごめんね…」

「ほ?」

なんか急に伊吹さん僕の視線から逃げ出したり
胸元隠したり…

は!
まさか!
伊吹さんが!
本当は!


ショタ!!!!



「おまたせ」

アスカちゃんがりっちゃんと戻ってきた
伊吹さんは小走りで出て行った

「どーしたの?」

不思議そうなアスカちゃん

「ん?なんでもない…多分…」

「そう?」




帰りは車で送ってもらった

早速アスカちゃんが
「ねえリツコ」
「パーティーのこと?」
「いいでしょう?」
「いいわよ別に、楽しそうだし」

やっぱりりっちゃんは何かたくらんでる

「で?いつやりたいの?」
「今度の休みっていつだっけ?」
「今週は土曜日ね」
「きまり!土曜日」


僕はトウジとケンスケに
アスカちゃんは委員長にメールを送った

なんだか楽しくなってきた!


りっちゃんがアスカちゃんに友達呼んでいいか聞いてた
アスカちゃんの答えは、もちろんOK

アスカちゃんも楽しくなってきたみたい




メール受信

Re:パーティー

本文
やさしいシンジ、日本でバウムクーヘンが手に入るなんておどろいたでしょう?
実は内緒にしてたのですが、おばさんは日本でバウムクーヘンが食べれる事を知っていました。
おばさんが昔見た映画の中で、大昔の戦争でドイツに勝った日本人は沢山のドイツ人を奴隷として日本に連れてゆき、狭い島の中で第九を歌わせながら死ぬまで バウムクーヘンを作らせていました。
これは実話だそうで、とても悲しいお話です
それ以来日本でもバウムクーヘンは広く食べられるようになったそうです
それに、今でも日本は年末に、ドイツに勝利した事を忘れないように第九を歌うそうです
日本で生まれドイツで育ったシンジにとっては悲しい事ですね
シンジ、もしこのまま12月まで日本に居たとしても、第九の歓びの歌は日本の皇帝のためにではなくあなたの大切な人のために歌ってください。
それから、アスカはあなたに時計をプレゼントするみたいです
電話でいろいろ聞いてきました
アスカはシンジと同じ時を歩みたいんでしょう
このことは知らない事にしてくださいね
アスカがいっていました
「いつか私がシンジのこと見上げるようになったら、そのときは」
って
可愛い子なの
どうかアスカの事を大切に思ってあげてください
やさしいシンジ
おやすみなさい





翌日学校の休み時間
「ついていってあげようか?」
アスカちゃんはなぜか心配そうな声で
だから僕は
「大丈夫だよ」
僕は笑って、一人で例の女の子のところに向かった


1年A組
「あの…」
僕が教室を覗くと
キャーとか
わぁ〜とか
そんな声がして
「ほら!マナ!先輩が来たよ!」
って声がしたからそっちのほうを向いたら
女の子が一人友達に押されて僕の前に

「あ…あの…」

うん、ここはトウジを見習おう!

「霧島さん…だっけ?ちょっといいかな?」

僕はトウジのまねをして霧島さんを連れ、なるべく人気のないところへむかった

結局階段の踊り場しかなかったんだけどね


霧島さんは緊張してずっとうつむいたまま

ここは男らしく僕から切り出さなきゃ

「ありがとう、初めてなんだこういうの貰ったの」

霧島さんが、ビク!ってなって僕を見た

「嬉しかった、ありがとう」

「あ…あの…」

「でもね、僕にはアスカがいるんだ」

「はい…………ごめんなさい」

なんか霧島さんの声が消えちゃいそうなくらい小さくなっちゃった
よし!
女の子を泣かせちゃいけないっておじさんも言ってた!

「でも僕さ、いないんだ友達」

「はい……え?」

「だから僕からのお願いなんだけど、その…霧島さんと友達になれないかな?」

「え…」

「霧島さんみたいな可愛い子が友達になってくれたら僕はとっても嬉しいんだけど…だめかな?」

霧島さんがちょっと意外な事言われたような顔で僕を見てる
「私で…私なんかが友達で…いいんですか?」

「うん、今日お昼一緒に食べようよ」

「え!え!」

「待ってるから!」

僕は霧島さんの手をとると強く握り締めた

そのまま手を離すと霧島さんに手を振ってわかれた

僕はポケットの中に手を突っ込むと、お守りを握り締めた

これでまたアスカちゃんに友達ができる



教室に戻ると
僕を見るなりアスカちゃんが“あちゃー”って顔して

アスカちゃんの視線で僕に気づいた委員長が僕に

「碇君!聞いたわよ!下級生に『アスカの次でいいなら愛してあげるよ』なんて言って来たんだって!もう!サイテー!!!」

「なんじゃ碇?二股か?!」
トウジも一体なにいってんのさ!?


アスカちゃんは
「ヒカリ、いいから落ち着いて」
って何とかなだめようとしながら
僕に視線で“手遅れよ”っていってるし

なんとなくわかるけど
僕が霧島さんに話した内容がなぜか僕が教室に戻るより早く委員長に伝わり
委員長の脳内フィルターで変換され
今に至った

うん
間違いない

その証拠にアスカちゃんが困り果ててる

授業が始まると
アスカちゃんが小声で
「わかってるから」

うん
アスカちゃんはちゃんとわかってくれる
僕もそんな事は心配しない

むしろ
なぜか僕の事を睨みつける委員長のほうが心配で…




お昼休み
おずおずと現れた霧島さん
なぜか委員長は「ふん!」って

はぁ…

見かねたアスカちゃんが
「さ!行きましょう!」
霧島さんの手を引いて

やっぱり最近のアスカちゃんは優しい

それが僕はとっても嬉しい


アスカちゃんは霧島さんもパーティーに誘ってくれた

委員長も
「アスカに免じて今回だけ許してあげる!いい!今回だけよ!」



だからなんで委員長はぼくを怒るのさ?





下校途中僕は嬉しくて
「アスカちゃんかわったね、明るくなった。それに優しくなった、うれしいなぁ」
僕はとっても嬉しい
アスカちゃんはほんとは優しいんだ
だからほら
僕の手を“ぎゅっ”って握ってくれた

ん?

あれ?

あ!

「いたい!ちょ!やめてよ!」

アスカちゃんが笑いながら僕の腕を締め上げる

痛いけど
笑顔のアスカちゃんを見ている僕は
しあわせなんだ









土曜日
僕が手伝うっていったんだけど…

りっちゃんがほとんど一人で料理を作っちゃって

あーあ…
僕だってできるのに…

でもおいしそうだな
りっちゃんの料理って

きっとりっちゃんはいいお嫁さんになると思う

相手がいれば…

うわ!りっちゃんがこっち見た!

絶対超能力者かなんかだ…


アスカちゃんとりっちゃんは少しおめかし
そりゃそうだよね

普段は二人ともパンツにキャミだもんね

一応僕も男なんだけど…
二人とも普段は恥じらいは何処かにしまったまま







最初にケンスケとトウジがやってきた
次に霧島さん
委員長と妹さんは時間ぴったりに

りっちゃんの友達だけがまだこない
アスカちゃんも
「あれ?リツコの「お友達」は」
って
そしたらりっちゃんが
「ん?あぁ、少し遅れてくるから。はじめちゃいましょう」

うん
でもちょっと楽しみかな
りっちゃんの友達ってやっぱり綺麗な人なのかな?


パーティーはアスカちゃんの挨拶で始まった
本当に楽しそうなアスカちゃん

皆で食事を楽しんでいると委員長が
「ほら、いっといで」
って妹さんに
可愛い女の子がアスカちゃんの前まで行って
「洞木コダマです!」
元気に挨拶
「アスカ・ラングレーよ、よろしくコダマちゃん」
アスカちゃんも嬉しそうに笑ってる
コダマちゃんもうれしそう

コダマちゃんはアスカちゃんに憧れてるみたい
アスカちゃんのこと「正義のお姫様」だって
目をキラキラさせて
子供っていいな


アスカちゃんに挨拶が終わると、今度は僕に

「お兄さんはお姫様のこいびとなんでしょう!?」

もちろん僕は

「そうだよ」

嬉しそうなコダマちゃん

「じゃあロボットみせて!」

「え?!」

「お姫様とちゅーするとこのあいだのロボット出てくるんでしょ!?」
なんだよその設定
あぁ…絶対に委員長が吹き込んだんだ…
こまったなぁ…

「ヒカリお姉ちゃんがいってた『二人の愛が太古の眠りから正義の戦士を呼び覚ましたのよ』って!はやく!はやく!」

うぅ〜んどういって納得させよう
そんな事考えてたらアスカちゃんが

「コダマちゃん、あのロボットはねぇ本当に地球のピンチの時しか現れないのよ」

素敵な笑顔でそんな事を言ってみせるアスカちゃん

「ざんねん…でもお姫様にあえたからいいや!髪の毛とかマンガに出てくるお姫様みたい!」

コダマちゃんも納得したみたい

そしたらようやく委員長がコダマちゃんに
「ほら、コダマ、お兄ちゃんにプレゼント有るんでしょ!?」
「あ!そうだ!」
可愛い声をあげ、僕にプレゼントをくれた

「ありがとう、なんだろう結構重たいな…あけていい?」
「うん!」

結構重たいけどなんだろう?
おもちゃかな?
丁寧にラッピングをあけ、箱を開けると


「かなづち?」


思わず手にとって眺めちゃう

コダマちゃんは笑顔で
「それでね!悪いやつやっつけるの☆」

「あ…ありがとう、大切にするよ」
“少年A、鈍器のようなもので地球を防衛“
なぜかそんな新聞の見出しが一瞬脳裏をよぎった

皆が笑う
一緒に笑うコダマちゃん

まあいいや!

「ほら、これ」
ケンスケがゲームをくれた
この間出たばかりの新作だ!

「ほれ」
トウジは小学生向けの漢字字典
トウジはちゃんと僕の事をわかってる

「はい!碇君!」
委員長は綺麗なお箸をくれた

最後に霧島さんが
「先輩…あの…これ…」

なぜかアスカちゃんはあっちを向いて足をぷらぷらさせている
うん
アスカちゃんなりに気を使ってくれてる

霧島さんは綺麗なハンカチをくれた

「ありがとう、大切にする」
霧島さんがぱぁ!って明るい顔になった
「ありがとうございます!」



「シンジ!」



アスカちゃんが僕を呼びつける

「なに?アスカちゃん」

アスカちゃんはポケットから時計を取り出し
「プレゼント」

左手の上に乗せた腕時計
赤い時計

「ありがとう」

受け取ろうとしたとき、アスカちゃんがチョッとだけ手首を動かした
アスカちゃんの左手には同じ時計

僕はアスカちゃんの時計をなでた
みんなに気づかれないように

「ありがとう、アスカちゃん。大切にする」
僕はアスカちゃんの手のひらを撫でるように時計を受け取った


ペアウォッチか
ちょっと照れるかな



プレゼントを貰い、みんなと食事を楽しんでいると

ピンポーン

インターフォンが鳴る
いよいよりっちゃんの友達の登場だ!
どんな人なんだろう?!
たのしみ!

玄関に迎えに行くりっちゃん
「さあがって」
「遅れてごめんね〜」

え?
この声
聞き覚えが…

「紹介するわ、葛城ミサト。私の友人」

“さぁシンジ君…行きましょう”

あの日の言葉が僕の頭の中でよみがえった
とても冷たい声
生まれて初めて、女の人の声が怖かったあの日


僕はまるで呪いでもかけられたみたいに動けない


僕の目の前に
怖い人が…
“助けてアスカちゃん!”
声に出そうとした

次の瞬間
まるでなにが起こったかわからなかった

僕の手はあったかい手で包み込まれてて

「お誕生日おめでとう、シンジ君」

とてもあの日のあの人と同じとは思えない声で

「一度、ちゃんと会ってこの間のこと誤りたかったの…ごめんなさい」

まるで神父様に懺悔するように僕の手に額をつけて


本当にこの人だったのかな?
もしかしたら人違いなんじゃないかな?

いつの間にか僕はしどろもどろになって
「え?あ、はい」
なんて返事しかできなくて

それなのに…
女の人は
「謝ったから許してもらえるとは思わない、でもこれしか思いつかなくて…ごめんなさい」

ちゃんと僕に謝ってくれた

“あなたの敵をゆるしなさい、それも愛です”
神父様の言葉がよみがえった

そうか…
僕は神父様みたいに立派じゃないけど
それでも僕は…
「大丈夫です…あなたのこと怖いけど…大丈夫です。もう顔を上げてください」

「ありがとう…シンジ君」

初めてまじまじと見た女の人の顔は
僕の記憶の中にある怖い人と違って見えた

女の人は僕の手を離すとアスカちゃんに向き直って
「アスカ、仲良くやろうとは言わないわ、でもシンジ君のことは謝る。シンジ君をあなたと同じように見てしまったことは恥じているの…自分が無能だって言っ ているのと一緒だもの」

アスカちゃんは怖い顔で
「用が済んだら出てって」


せっかくきてくれたのに…
りっちゃんの友達なのに…
そうだ
りっちゃんにアスカちゃんを宥めてもらえば…

あれ?
りっちゃんお酒なんか飲んで…
まるでこっちのことなんか気にしてない…
一体どうしたんだろう?こんなときに…


「そうだ!」
そう言うと女の人は脇に抱えていた包みを僕に渡してくれた
「おめでとう!これプレゼント!たのしんでね」

あ…この重さと形は
ゲームのソフトだ!
それもこんなに!

「あ、ありがとうございます」
僕は嬉しくて、その場で包装紙をほどいた

“くす”
一瞬りっちゃんの笑い声が聞こえた気が…

って!
ええ!
こ…これは!

「何なのよ!バカじゃないの!あんたバカ!?」

顔を真っ赤にしながらアスカちゃんがやってきた

「何なのよ!このエッチなDVDの束は!あんた頭わいてんの!」
「ちょっと言わせておけば何よ!男の子が喜ぶものって言ったら決まってるでしょう!」
「前から思ってたけどあんた頭おかしいんじゃないの!?常識が無いの!」

きれいなお姉さんが…その…すごい格好で…そんなパッケージがたくさん…

あ!

アスカちゃんが僕の手からDVDを毟り取ると、ベランダに出て外にむかって投げ捨てた!

「チョッとなにすんのよ!」
ほんとだよ!
「あ〜わかった!アスカ!あんた自分の胸が貧租だからジェラシーなのね!」
そーだ!そーだ!
「そうでしょう!そうよね!三代さかのぼっても貧租だもんね!」
え!そうなの!?

「バカにすんじゃないわよ!」
まぁまぁアスカちゃん…
「あんたみたいにバカでっかい乳しか能の無い女」
だがそれがいい!
「どーせオッパイ目当ての男しか寄ってこないんでしょう!」
え!こっちもそうなの!?


二人はまるで親の敵みたいに睨みあってる

その時

「はいはい、そこまでよ…ほんとに、せっかくのパーティーなんだから、楽しみましょう?ミサトもアスカも座って」

アスカちゃんは「ふん!」って言いながら席に戻った

女の人はりっちゃんと視線を合わせると
“にや“って笑って
りっちゃんもそれに頷いて答えてた

あぁ…そういうことか…
うん…

りっちゃんからの僕へのプレゼントは
アスカちゃんの友達を一人増やしてあげる事

そういうことなんだ


改めてりっちゃんが紹介してくれた
「彼女は葛城ミサト、30歳…独身、バスとのサイズは本人から聞いて」

「あらためまして、シンジ君お誕生日おめでとう☆ ちなみに私の胸には無限のフロンティアが詰まってるのよ☆」


「け!なにが『詰まってるのよ☆』よ!」
アスカちゃんがつぶやいてるのが聞こえちゃった


ミサトさんが席に着くと一同は大盛り上がり
早速委員長が
「えぇと…お姉さんはアスカや碇くんといったいどんな関係なんですか?」
なんだか目の中に星が…

ミサトさんはビールを一気に飲み干すと
「じつわねぇ…アスカがいないのを見計らってシンジ君誘惑してたの」
そんな事いいながら僕のことをそれらしく覗き込む
「それで!?」
「ほら、私グラマラスでしょん、『やめてください!僕にはアスカが!』って嫌がるシンジ君をものにしようとしたところをアスカに見つかって…それ以来もう 修羅場なのよ」
ミサトさんは身振り手振りで説明して見せて
はぁ…
来週から新キャラ登場で学校は大騒ぎだよ…

「はいはい!」
トウジが手を上げる
「なに〜?何でも答えちゃうわよ!」
嬉しそうに答えるミサトさん

きゅ
アスカちゃんがテーブルの下で僕の手を握る

「ミサトさんの胸って!」
調子に乗りすぎだよ…トウジってば…
「よーし!特別に教えちゃおう!」

僕はアスカちゃんの手の甲を指で撫でた

「今日の下着は上下黒のレース!特にショーツなんかスケスケのTバック!」

コン!

りっちゃんがミサトさんの頭をお酒の瓶で叩く
「あなたって人は…」

コンコン
手加減してはいるんだろうけど
「まったく!」

ごん!
「子供相手に!」


アスカちゃんの口元がほころんだ

ミサトさんはりっちゃんに瓶で殴られてつんのめってる



パーティーは盛り上がる


皆でゲームを始めた
アスカちゃんはベランダで霧島さんと何か話してる

霧島さんか…
多分“あれ”見たんだろうな…
学校で…

知らない男子が僕の事からかってきて
それは別にいいんだ
だって漢字が読めないのはほんとだし…

でも

途中からアスカちゃんのこともバカにし始めたから
“そんな事ない”って一生懸命わかってもらおうとしたんだけど
へらへら笑うだけで
“なんだよ?やんのか!”
なんていってきて
頭きたから思いっきり蹴ってやったんだ
アスカちゃんがいっつもいってる通り

「いいシンジ、どんなやつでも急所に一発入れてやればお仕舞よ」

なんか見てるこっちが痛くなっちゃったけど


次の日の放課後
なんかいっぱいつれて仕返しに来て
さすがに逃げようとしたんだけど

“なんじゃおまえら!よってたかって!”

いつの間にかトウジがいて
次から次へ殴り飛ばして

“ちょっと!あなた達!なにやってるの!”

委員長がクラスの女の子引き連れて現れて

どこから持ってきたのか、みんな木刀とかバールのようなものとか
うん…女の人を怒らしちゃ大変な事になる

大乱闘
って言うか
1対6がいつの間にか6対25になってて
木刀はまだしもバールは…
見てるこっちが痛くなっちゃう


助かったから皆にお礼言おうとしたら
「大丈夫よ!アスカには黙っててあげる」
って言いながら笑って

トウジも
「はぁ?わしゃ勝手にこいつらと喧嘩しとっただけじゃ」
っていって


嬉しくなって涙が出ちゃって
「ちょ!碇君!どっか怪我したの!?」
なんて言われちゃって
恥ずかしいけど
嬉しかった



アスカちゃんが部屋に戻ってきた
僕がゲームしてるのをしばらくながめて

「私と勝負よ!シンジ!」
「えぇ!?アスカちゃんゲームなんてしないじゃないか、やり方わかるの?」

ビックリした
いままでゲームなんて見てるだけで絶対しなかったのに
説明書をわたそうとしたら
「シンジがやってるの見てたから大丈夫よ!大体そんなもん、天才の私には必要ないの!」
トウジも無責任に
「おぅ!やれやれ!夫婦喧嘩や!」
しかもアスカちゃん基本技がレバー一回転なキャラ選んで
「えぇーアスカちゃんやめたほうがいいよぉ…」
「うるさい!始めるわよ!」


一体どんな反射神経してるんだろう?
指も機械みたい
結局全員倒しちゃった
特にミサトさんは念入りに

アスカちゃんは楽しそうに笑ってる

委員長が
「アスカって案外性格悪いのね…」
「まーねー」
得意げなアスカちゃん





「じゃーねアスカ、碇君」
「ばいばい!お姫様!」
「先輩、今日はありがとうございました」
「ほなな」

アスカちゃんが僕の事を軽く蹴飛ばしながら
「シンジ…」
「ん?」
「駅まで送ってあげなさいよ」
「え?」
「女の子を一人で夜道歩かせるの?」
「あ、うん、わかった。霧島さん駅まで送るよ」

嬉しそうな霧島さん
それを見てアスカちゃんが小声で
「月曜から一緒にって…声かけるのよ」

僕はアスカちゃんに笑顔を向けた

霧島さんを駅に送るためみんなと途中で別れると
気のせいか委員長が少し不機嫌な気がした




駅までの道のり
霧島さんと話しながら歩いた
「先輩、アスカさんて素敵な人ですね」
「そうだね、僕もそう思う」
「私なんかじゃ適わない…」
「そんな事ないよ?霧島さん可愛いし…」
「先輩?」
「え?」
「もし私が先輩にアスカさんより早く出会ってたら…」
「ごめん…」
「…ごめんなさい…変な事聞いちゃって…」
「霧島さん」
「はい?」
「去年ドイツでさ」


可愛いブルネットの髪の女の子
いつもアスカちゃんの研究所に、ここで働いているお母さんに連れられて来てる
僕もアスカちゃんを待つ間暇だし
バカみたいな話をして時間をつぶした

話すようになって二月ぐらいしたころ
女の子が僕に手紙をくれた
少し照れながら
「後で読んでね」
そういって

家に帰って手紙を広げると
「君と居るととっても楽しいよ!ねぇ!二人で遊びに行こう。こんな事で男の子に手紙を書くなんてはじめて何だからね」

ラブレターだった

まさかそんな内容とは思わずに部屋で手紙を読んでしまい
「なにそれ?」
すぐにアスカちゃんに見られてしまって

「シンジ…明日返事してやりなさい」
すごく怖い顔で
「私も一緒に行ってあげるから」
睨まれた


「シンジに近づかないで!私のシンジなの!わかる?!」

ものすごい剣幕で
一方的に怒鳴りつけ
アスカちゃんは僕を連れて出て行った

その日からそのこの姿も
そのこの母親の姿も見なくなった




「その話…本当なんですか?」
「うん」
「まるで別人…」
「うん」
「アスカさんて優しくて…強くて…きれいで…そんな人なのに…」
「ほんとはそうなんだ…優しいんだ…」
「ほんとは?」
「うん…ドイツではね、アスカちゃん友達なんていなくって…周りは大きらいな大人ばっかりで…」
「友達がいない?」
「うん…アスカちゃん特別な人間だから…皆とはちがって…だから人とどういう風にすればいいか知らないまま大きくなっちゃって…」
「そうですか…」
「だから…霧島さん」
「はい」
「僕はアスカちゃんが笑ってる今の生活がとてもすきなんだ」
「はい…わかります」
「ありがとう、だから霧島さんもアスカの友達になってくれないかな?」
「…」
「だめ…かな?」
「…いいですよ」
「ほんと!?」
「ええ!でも条件があります!」
「え!?なに?」
「先輩の中の女のこのランキング」
「は?」
「その中で洞木先輩より上にしてください」
「へ?」
「だって悔しいじゃないですか?アスカさんはともかく洞木先輩に負けたら」
「え?うん…いいけど?」



駅に着くと、“じゃあまた来週!月曜から一緒に登校しようね!”って
声をかけ見送った

笑顔でこたえてくれた霧島さんはとても可愛かった



帰り道
ボケーっと考えてみた
おっぱいは霧島さんだよな…
でも気がきくって言うか、なんかこう“ぱっ”ってなんかしてくれるんだよな、委員長は…
うーん
まてよ…この間、女子がプールの授業のときチラッと見えた委員長の水着姿…
うん
おっぱいも案外あった…

でも霧島さんもスラーっとしてていいよなぁ…


そんな事を考えながら家まで帰った


「ただいま」

家に帰るとりっちゃんが迎えてくれた

「シンジ君しあわせ?」
「え?うん」
「そう」
僕の首に手をかけなんだかうっとりした顔で僕の事見てる
何だろう?

「じゃあシンジ君、一緒にお風呂は要りましょうか」
りっちゃんは僕の手を引きお風呂へ向かった

なんだか抵抗するのもあれで…
ずるずる引っ張られてたら

「こら!」

アスカちゃんが抱きつくみたいに僕の事りっちゃんから毟り取って

「だめ?」
りっちゃんは親指なんか噛みながらアスカちゃんにおねだりして

「絶対にだめ!」
アスカちゃんが僕の事抱きしめて答えると

「けち」
って吐き捨てて、りっちゃんは一人でお風呂へ消えてった


アスカちゃんは僕の事抱きしめたまんまで
「くるしいよ…」
って言っても
「ばか、はなしてあげない」
って笑いながら
そのまま僕の頬にキスをした



アスカちゃんは洗物をしてて
その姿がお嫁さんみたいで
それをながめてると
なんだか…

「アスカちゃん」

アスカちゃんは振り向きもしないで
「ん?」

「ぼく、アスカちゃんのこと大好きだよ」
「うん」
「だから日本にきてからアスカちゃんが、優しくなってとっても嬉しいんだ」
「そう」
「ねえ、アスカちゃん」
「なに」

「僕と…」
ずっと一緒にいてほしい
そう続けるはずだったんだけど
「……えぇ!」

目の前には
裸のりっちゃんが
すっぽんぽんじゃないけど
もう、おっぱいとか
ほてった肌とか
もう目をそらすとかそういうレベルじゃなくて
僕にのしかかってきて
潤んだ瞳で
色っぽい声で

「シンジ君、私のこと好き?」

もうなにがなんだか!?
「え!?あ・は、はい」

「うれしぃ」

りっちゃんの顔がどんどん近づいてきて
そのままキスされて
舌が入ってきて
思わず

「ん――――――――――!」

叫んじゃった


バン!


ものすごくいい音のあと
りっちゃんがグテーってなって
僕の事押し倒して
ものすごい顔のアスカちゃんが立ってて
何でだかわからないけどミサとさんが笑顔でこっち見てて


「あはははは…」
笑うしかないいじゃん


アスカちゃんに言われてりっちゃんをソファーに運んで
アスカちゃんぷりぷり怒ってて
「ホンとにもう!バカばっかりじゃないの!」

そのバカの中に僕も入ってるんだろうなぁ


湯船でアスカちゃんにいじめられる
「もうゆるしてよ…」
「だめ!…私の可愛いところ100箇所いえるまでお風呂から出してあげない!」
「えっと…おへそのピアスとか」
「あと33箇所!」
「小指のつめが小さいところ」
「それさっきも言った!」
「白い肌」
「あと32!」
「ちょっとたれ目なとこ」
「あと31!」
「可愛いおっぱい」
「…あと30」
「ちっちゃいおしり」
「…ねぇ」
あ!やっと終わるのか…長かった…
「途中から私の悪口いってなかった?」
「へ?…そんな事…ない…よ?」
うわぁ…じーっと睨んでる
「じゃあ具体的におっぱいのどんなところが可愛いか言って見なさい!」


もうのぼせちゃってくらくらするよ…
体を拭いてリビングに戻ると

「いったいどうしたのかしら?」

りっちゃんが頭さすりながら僕たちに聞いてくる

間髪いれずアスカちゃんが
「ぐでんぐでんでお風呂に入って、上がったと思ったらぶっ倒れたのよ!わかった?!」
「そう…どうりで頭痛いはずだわ…」

なんだか笑っちゃいそうになって
アスカちゃんに手を引かれ
「寝るわよ!おやすみ!」
部屋に向かう
頭を押さえながら手をヒラヒラふっるりっちゃん


ドン!

ベッドの上に押し倒されて、アスカちゃんが僕に
「リツコとおんなじことしてあげようか?」
「え?」
アスカちゃんが覆いかぶさって来て
体をくっつけて
僕のまたの間に足をねじ込んで
胸を押し付けて

一瞬アスカちゃんの表情が…

でもその後すぐに
「うそ!」
って言いながら僕の横にごろんとなった
「うん、お休みアスカちゃん」
「おやすみ、シンジ…」
アスカちゃんは僕の頬にキスをして
すぐに寝息をたて始めた

僕は眠るアスカちゃんに約束した
「さっきはいえなかったけど…今度ちゃんと言うからね」

眠るアスカちゃんが嬉しそうに微笑んでくれた




早朝
叩き起こされた

シンジ必要なものだけ持って!
僕が目をこすると
アスカちゃんが

「シンジも行くのよ」

まじめな顔で
僕の手を引いた


僕はアスカちゃんに渡されたかばんを持って
迎えに来た車に乗り込んだ

僕は眠くて

気がついたら

「おきてシンジ…」

アスカちゃんの膝の上で寝ていて
車はとっくに地球防衛軍の基地についていた


アスカちゃんはあの格好に着替えて作戦会議

僕はりっちゃんに貰ったコーヒーをなめて待った

何で大人はこんな苦いものにお金を払って飲むんだろう?

「どお?目さめた?」
りっちゃんが僕の頬に手をあてる

「う〜ん」

りっちゃんは笑うとアスカちゃんのところへ向かった


アスカちゃんの出撃前
僕はロボットの所に入れてもらってアスカちゃんと過ごした

いろいろ話そうとしたんだけど
アスカちゃんが寄りかかってきて
それが気持ちよくて

それで、アスカちゃんが僕の膝の上にまたがって
僕を静かに壁に押し付けて

「キス…しよぅ」

僕は少し抵抗する振りをして
でも

「うん」

アスカちゃんに身を任せた

アスカちゃんは僕の口の中に舌をいれ
僕の舌に絡んできた

唇を離したアスカちゃんがちょっと照れてる

「ねえシンジ…帰ってきたら…続き…しようか」
「…うん」

僕もちょっと照れくさい


「アスカ!時間よ!」
ミサトさんの声

アスカちゃんは僕の時計を見つめると
嬉しそうに微笑んで立ち上がった


どうしてだろう?
僕はすごく不安だ…
何でだろう?

アスカちゃんが僕に手を振る


僕は防衛軍の人ににつれられてロボットのところから外に出た

廊下をつれられていると
後ろから声をかけられて


「シンジ君…」


ぞっとする声


「お願いがあるの…」


ミサトさんはまた、あの怖い人に戻ってしまっていた



僕は秘密基地に案内されて

「…シンジ君?」

僕は身がすくんでしまって

「アスカを応援しましょう?」

え?

「それにここが一番安全だわ」

え?

「それに…ちょっとアスカの事…おどかしてやりましょうよ!」

えぇ?!
なんだかミサトさん
子供みたいに笑って

あ…
もしかして
僕…

「からかわれてたの!?」


「ぴんぽぉ〜ん!」




ミサトさんがまじめな顔して
「作戦の確認はいいわね?アスカ」

僕はミサトさんの後ろで隠れて
ミサトさんが僕に合図を送るのを待つ

合図!
今だ!

「シンジ?…シンジ!何してるのそんなとこで!」

ミサトさんはあさっての方をきょろきょろ見渡す

「シンジ君?どこにもいないわよ?」

アスカちゃんの声があんまり素っ頓狂だからみんなクスクス笑って

僕がミサトさんにVサイン
ミサトも僕にVサイン

大成功!!



僕は地上に向かうロボットを写す映像を見ていた

すごいなぁ…
僕はボーっと見ていた

「だめ!アスカ!よけて!」

伊吹さんの声が響くまで


アスカちゃんのロボットはバリヤーを張るんだけどどんどん押し戻されて
ロボットの胸にガラスの怪獣のビームが突き刺さった

唸るアスカちゃん

僕はあの日のことを思い出した
僕の手のひらが裂けた
あの日

いま、アスカちゃんの胸は…

モニターに写るアスカちゃんの顔は
怪獣を睨みつけ
口から血が…

「こんちくしょぉぉぉぉぉ!」

アスカちゃんが叫び
ロボットのバリヤーが消え

僕は身を乗り出しアスカちゃんに向かって叫んだ
「アスカちゃん!にげて!早く!」

口や鼻や目から血を流すアスカちゃんが微笑んで

「守る!」

僕には聞こえた
アスカちゃんは確かにそう言った

ロボットは手刀で空を切った

すぐさまガラスの怪獣が引き裂かれ真っ赤な飛沫を上げ地面に落ちた
ビームも、もう勢いのないホースの水みたいにそこら辺を焦がすだけ


「至急収容!周辺の爆砕を許可!」
「救護班!トリプルSで出動!」
「自衛隊に連絡!火力支援を要請!」


僕は周りの喧騒に取り残され
ただ画面に映るアスカちゃんを見ていた

歯を食いしばり
血を流し
目を見開き

でも顔は笑っている


まるで夢を見てるように

アスカちゃんの口が少し動いた

お・ま・も・り

間違いなくそう動いた




皆から忘れ去られた僕は収容されたアスカちゃんの元へ向かった
入り口でミサトさんに見つかり

「だめ!見ちゃだめ!」

抱きつかれ顔を覆われた

僕はとっさにミサトさんの股間を蹴り上げてしまった

「おふぅ!」

男とはとがう“コン!”って感じが膝に伝わり
ミサトさんの力が抜けた

僕はミサトさんを突き飛ばし
ロボットのほうに駆ける

「シンジ君!だめ!」

ミサトさんの声が響いた



僕の目に映る光景は

ストレッチャーの上であの服を脱がされ
血を流し
胸はグチャグチャで
僕の大好きなアスカちゃんのおっぱいは…

アスカちゃんの首が少し動いて瞳が僕を見つめた
アスカちゃんはまるで何にもなかったみたいに微笑んで

ストレッチャーごと黒い棺桶みたいな箱の中へ

「やめてよ!アスカちゃん生きてるよ!やめてよ!」

僕はアスカちゃんを運ぶ、宇宙服みたいな格好をした人たちに掴みかかった

振り向いたバイザーの中の顔は

りっちゃんだった



僕はやってきたミサトさんに取り押さえられ外に引きずり出された
僕は必死に抵抗して

すねを蹴飛ばしたり
つめを立てたり
噛み付いたり

それでもミサトさんは
「とにかく落ち着いて!」
って言うだけで
びくともしない

外に出されると
女の人にシャーペンみたいなのを突き刺されて
急に力が抜けて

「大丈夫…アスカはすぐによくなる」

ミサトさんがその場で膝枕をしてくれた





僕は目隠しと手錠をされて何処かへ連れて行かれた

目隠しがはずされる

広い部屋

中にはりっちゃんとミサトさん

「シンジ君…落ち着いた?」
りっちゃんが僕にわざとらしい笑顔で話しかけてきた

「女のあそこ蹴り上げた挙句、傷物にするなんて」
ミサトさんもへらへらしてみせる

「今、楽にしてあげる」
ミサトさんがリモコンのボタンを押すと僕の腕につけられていた手錠が外れた

「シンジ君…アスカは順調に回復してるわ」
りっちゃんが僕に近づく
「大丈夫よ…すぐによくなるわ」

アスカちゃんが言ってた

“大人はうそをつく”

「心配しないで…今、安心させてあげるから」

りっちゃんはミサトさんに目配せするとミサトさんが壁にあるボタンを押した


壁の向こうが見えた

大きな水槽

オレンジ色の水

磔にされたアスカちゃん


“大人はうそをつく”


もう一度その言葉を僕はかみ締めた


「ああ…心配しないで…ただ固定してるだけ、さあ…見て御覧なさい?アスカの胸…随分よくなったでしょう?」

グチャグチャだった胸は元の形
でも
胸に大きな傷跡が

僕のアスカちゃんに傷が

僕の宝物で僕の大好きなアスカちゃんに

傷が


僕はアスカちゃんを見つめていた
アスカちゃんは薄らと目を開けていて
時々口を動かす

“なにしてるの?シンジ?”

僕にはわかる…
だって


僕のアスカちゃんだ!


「やります、僕がやります!」
僕は大声を出した
りっちゃんはビックリして
「どうしたの?一体?」

「アスカちゃんの敵を討たせてください!」
りっちゃんはうろたえて
「シンジ君…エヴァは普通の…」
「りっちゃん!僕のれるんでしょう!注射されれば!あのロボットに!」
りっちゃんはたじろいだ
「それは…そんな事は…」
「覚えてるよ!そんなの!僕が乗ったじゃないか!」
「シンジ君…あの薬はね、体に悪いの…だから…」
「もういい!」
僕はミサトさんに駆け寄った

「ねえ!ミサトさん!僕なんてどうなってもい!!」
「シンジ君…ばかな事は考えないで…あれは…子供にしてよかった事なんかじゃ…」
「そんなこと知らないよ!やらせてください!僕があいつと戦います!」


僕は部屋の外に連れ出され
ミサトさんとりっちゃんに説得された

「シンジ君、聞いて…あの薬はねいくら探しても見つからないアスカの代わりを作り出そうとしてできた薬なの。あの薬の被験者たちはみんな廃人になるか気が 狂ってしまった…うそじゃないわ…おどかしてるわけでもない…別の人を無理やりアスカにしようとするんだから当たり前の結果なのに…」

「僕はアスカちゃんになって気が狂うんならそれでかまわない」

「シンジ君…被験者たちがどうなったか教えてあげる…脳みそをくりぬかれて、今量産してるエヴァンゲリオンのダミーシステムに生体部品として使われてる の…」

「アスカちゃんの敵を討てるんならどうなってもかまわない」

「…いいわ」
「ちょ!リツコ!」
「シンジ君、いくら薬を使ってもね、もともと適性がないと無理なの。だから今から予備のエヴァンゲリオンでシンジ君のテストをしましょう…それでだめなら あきらめる…それが条件」

「絶対だね!りっちゃん!動かしたら約束守って!」

「ええ…約束するわ」


りっちゃんとミサトさんはお互い目を合わせて“上手くいった”って顔をしている

絶対やってやる
僕はポケットの中のお守りを握り締めた



僕は更衣室に連れて行かれ大人たちに着替えさせられた
女の人ばかり3人

「これ10年ぶりなんだって」
「ふーん…なになに…あぁ削り取られててよく読めないなぁ…多分AYAって書いてあったんじゃない?」
「こっちは…Iでしょう…Y…ええとOかUかわかんないな…」
「そっちでいいんじゃない?男の子っぽくて」
「そーね」
「はい、シンジ君。裸になってこっちに来て」

「え…あ…はい」
よりにもよって女の人ばっかり

「ほら!手!どけて!照れない!」

「う…は…はい」

「よしよし!じゃあちょっと“きゅ!”ってするけどビックリしないでね」

ぷしゅ!
きゅぅぅう!

「あ…あの…これって…」
「ん?あぁ股間?」
「は…はい…」
「もともと女性用だから我慢して」
「はい…」

女の人が僕の顔覗き込んできて
「ねえ…君」

「はい」

「アスカのために駄目元で志願したんだって?」

「はい!」

「いいなぁそういうの…内緒だけどね、このテスト落とすつもりでやるんだって」

「…わかってます」

「かっこいいなぁ…私たちが選ばれたのも、おしゃべりで年頃でシンジ君の集中力をそぐため」

「…なんとなく…わかってました」

「いいなぁ…うん!かっこいいぞ!お姉さん好きになっちゃたかも!」

「それも…言えって言われたんですか?」

「ははは!ちがうよ!はい!頭出して」
青い髪飾りを髪につけられそうになって
とっさに

「あ!待ってください!これ…使えますか?」
僕はお守りを渡した
アスカちゃんと一緒に戦うんだ

「え…君…なんでこれもってるの?」

「言いません」

「ふふ…いいよ…ちょっと待って、アオイ!これ動作チェックして!」
「なにこれ!なんでこれが!カエデ…」
「いいじゃない?女のために立ち上がるなんて、素敵じゃない?そうよねサツキ」
「ええ…女なら憧れるじゃない?こういうの」

電子秤みたいな機械の上に僕のお守りを載せ、ボタンを押すと青いランプがついた

「はい、OK!見た目は傷だらけだけど機能に問題なし!はい!今度こそ頭出して」

「うん!にあうぞ!」
「がんばんなさい!」
「気合よ!き!あ!い!」

「ありがとうございました」





エントリープラグ
そういう名前なんだって
僕はその中にいる

「スタンバイ!」

伊吹さんの掛け声で電源が入り周りの風景が写る

「4・3・2・1…スタート」

あれ?
なんだろう?
なんだ?この感覚?

「なによ!うそよ!ありえないわ!」
りっちゃんが驚いてる

それにしてもなんだろう?

「間違いじゃないのね?」

ミサトさんの声も…

なにがなんだか…
僕が周りをきょろきょろ見渡すと
歓声が聞こえた

「実験機が…首を…」
確かこの声は…ロンゲの人だ

「これなら狙撃だって!葛城三佐!」
今度はメガネのオペレーターの声だ

それにしてもなんなんだろう?

緊張して顔が痒くなって
掻こうとしたら

ドン!

いきなりゆれて
外の景色を見ると
ロボットの腕が壁にめり込んでて

「もおいいわ!わかった!シンジ君!もうやめて!」
ミサトさんの声

え?なんのこと?テストは?

「シンジ君…もういいわ…もういい…」
りっちゃんの声

「あの…記録…」
伊吹さんだ

「破棄して」
「はい」


リツコさんの顔が映った
「シンジ君…奇跡ね…私たちの負けみたい」

え?
それじゃあ!

「合格ね…」

よし!

「約束どおり今からあなたを10番目のダミーとして処理を始めるわ…今ならやめれるのよ?」
すがるようなりっちゃんの目

「やります!僕がやります!」

「いいのね…本当にいいのね?」
りっちゃんはん涙声だ

「かまいません」

「ごめんなさい…シンジ君…ごめんなさい…」
「泣かないでりっちゃん、僕…平気だから…」
「私何でもするから…きっとシンジ君のこと普通に戻してあげるから…」
「うん…りっちゃん僕のお姉さんだから…信じてる…」

りっちゃんは口を押さえて
すぐに画面は消えちゃった



電源が消えてまわりの景色が消えた

“これでいいのね?シンジ”

え?
うん?
空耳?

なんだろう?




外に出るとりっちゃんの姿は無くて
ミサトさんが迎えてくれて
「ほんとに君は金の卵だったのね…嬉しくないわけじゃないけど…」

ミサトさんは葛藤するような表情だった


控え室みたいなところに連れて行かれた
あの服は脱がされて
「まただけでも何とかしてあげる」
もって行かれた

飲み物がたくさんおいてあるけど
お財布もって来てないよ
僕の服も荷物もどこいっちゃったんだろう…
こんな浴衣みたいな格好…

「どう?憧れの正義の味方になれる気分は?」
真っ赤な目をしたりっちゃんが入ってきた

「ごめんなさい…」
なんだか申し訳なくて
どうしたらいいかわかんなくて
あやまっちゃった

「…ううん…私こそ…」
りっちゃんは僕の横に腰を下ろすと
「あら?何かのんでればよかったのに」
「あ…うん…お財布どっかいっちゃって」
りっちゃんが笑い出した
立ち上がると勝手にコンビニの飲み物売り場見たいな扉を開けて
「飲み放題」
いたずらっぽく笑ってくれた

僕は嬉しくなって
早速物色して
あ!コーラ!

……

ジュースにした

コーラはアスカちゃんがいいって言うまで我慢
だから今は我慢

「コーラにしないの?」
りっちゃんが優しく話しかけてきた

「うん…アスカちゃんが怒るから」

「そうね…」


りっちゃんはお話しをしてくれた

りちゃんの死んだお母さんはもともと大学の先生で
そのときの生徒が僕のとうさん
りっちゃんのお母さんはなんだかすごい発明をして地球防衛軍に入って
地球防衛軍でもすごい発明をして
でもほんとにやりたかったのは
気が狂ったりしちゃった被験者たちを元に戻す事で
そこでとうさんと再会して
結婚した

「私と一緒!年下の男が好みだったのね!」

りっちゃんはいたずらっぽく僕にウインクした

結婚して何年かして
「確か“カオル”って言ってたと思うけど…まぁきっと名前からして女の子ね」
その“カオル”ちゃんを正気に戻す寸前までいって
いよいよ明日って日に
事故で死んじゃった

偶然、その日から地球防衛軍に入隊したミサトさんが事故を目撃してたんだって

だからりっちゃんは
「かあさんの残した資料があるの…だから絶対大丈夫!シンジ君、絶対に大丈夫!」

僕の事を抱きしめてくれた




ミサトさんもりっちゃんも
口には出さないけど
僕にアスカちゃんと最後のお別れをさせてくれた

これがすんだら注射が始まって
しばらくは家に帰れない
さっき言ってた“カオル”チャンの話からすると
僕が正気に戻るのは何年も先
だから僕にアスカちゃんとお別れの時間をくれた

アスカちゃんに目をさます薬を打ったから、もうすぐ目をさます
そう教えられた

怪獣が回復するまで11時間
僕の用意に10時間
だからアスカちゃんとお別れできるのは
ほんの一瞬



病室に寝てるアスカちゃんは裸で
いろんな点滴や電線みたいな管をつけられて
鼻にも管が

アスカちゃんの白い肌は血色を失ってて
青白くなって

さっきから薬をやめたせいで冷や汗を流している


僕は涙を我慢できなかった
僕が最後に見るアスカちゃんは

元気で
綺麗で
優しくて

そんなアスカちゃんじゃなく

まるでドラマのワンシーンみたいな
今にも「ご臨終です」て言われそうな

僕の涙がアスカちゃんの顔に落ちて
アスカちゃんの顔を汚してしまった

拭いてあげようとしたとき

アスカちゃんの目がゆっくり開いた

「よかった…アスカちゃん…」
最後にアスカちゃんに会えた

アスカちゃんは管がたくさんついた手をゆっくり持ち上げて
僕の頬をなでた

顔は痛みに震えていて
体は汗びっちょりで

それでも目元だけは笑って

僕はアスカちゃんのために涙を止めた
まるで蛇口のように
アスカちゃんのために
「うぅ…もう大丈夫だよ」

僕の頬をなでながらアスカちゃんが微笑む

僕はアスカちゃんの手を握り締めそっと胸元に当てた
「ぼく…これから学校行くから…アスカちゃんは寝てて…」

もうそろそろ時間だ
「じゃあ…いってくる…アスカちゃん…おやすみ…」
おかしいな?
涙は止めたのに…
なんだろう?
これ
なんだろう?

僕はアスカちゃんの手をそっと戻して、立ち上がり出口え向かった

アスカちゃんはじっと僕を見てる
10年間そうしてきたように

僕はドアのところでもう一度お別れを言おうと思った

その時

かすれるような声で
アスカちゃん一回…声帯…つぶれてるのに…


「いっ…らっしゃ…」


僕は精一杯の笑顔でこたえた
目から何かが止まらない
それでも元気に答えた

「いってきます」


ドアの外にはりっちゃんが待っていた

「行きましょう」



うん、股は改善されたみたい

着替えてミサトさんのところに

「10号到着です」

伊吹さんの声

バチン!

ものすごい音

ミサトさんに叩かれてイスから転げ落ちる伊吹さん

「今度私の前でそれを言ってみなさい!一生奥歯で物噛めなくしてあげるわ!」

伊吹さんは黙って席に着いた

「ごめんねシンジ君、バカばっかりで」
「え…あ…大丈夫です」
「さ…いこう…」

ミサトさんに手を引かれ
僕はロボットのところへ案内された



ロボットの控え室に着くとりっちゃんが白衣を着て待っていた

「さあ、腕を出して」

りっちゃんはまた僕に話しをしてくれた
僕が受けた試験
結果はアスカちゃんを除くと過去最高
何かの偶然らしいけど
ぼくはそれでかまわない

で、僕がとてもいい成績だったから、使う薬の量はほんのちょっとでいいらしい
それでも4ヶ月は入院させるって言われて

ミサトさんがくすくす笑いながら教えてくれた
ほんとはほんのちょっとでも薬を使う量を減らすためにりっちゃんはものすごい大変な計算を何回もしてくれたらしい

僕は30分おきに4本の注射を打たれ
1時間寝かされ
おしっこを採られて
また注射を打たれた
その後
食事をとって
一休みした後に本を読まされた
僕が正常かどうかそれでわかるらしい

「いいわ…シンジ君、乗りましょう」

りっちゃんが僕をエントリープラグの中に連れて行ってくれた
エントリープラグの中でりっちゃんに目を覗かれたり体温計られたり

「ほんとに奇跡の子ね…あなたは」
何かをチェックしながらりっちゃんが悲しそうにつぶやいた

「でもね、シンジ君…これから投与される薬は…」
「大丈夫!りっちゃん…僕…その…なんだろう…がんばるよ」

!!

「アスカの変わりになるかしら?」
りっちゃんが僕の事抱きしめてくれて
キスをしてくれた


りっちゃんが僕のプラグスーツに管をつなげた
これを伝って薬が注射されるらしい
無芯注射っていうらしい


りっちゃんはプラグから出ようとして
いったんなにか考えて
僕のところにもどって来た

そして僕の耳元で
「シンジ君…もし、あなたが一生元に戻らなくても私が面倒を見る…一生見る」
そのままもう一回抱きつかれて

しばらくそうした後にりっちゃんは、今度こそプラグを出た

プラグの入り口が閉められる前
外から

パチン!

人を叩く音が聞こえた

身を乗り出して外を覗いてみると
また伊吹さんが倒れてて
りっちゃんがぷるぷる震えて怒っていた

「なにが最後よ!ふざけないで!」
りっちゃんの声が響いてた

さいなんだなぁ
伊吹さん



扉が閉じられると少し衝撃がきた

ロボットに差し込まれたんだ

“だいじょうぶよ、心配しないで”

え?

“かあさんがついてる”

なに?
幻聴?
りっちゃんが言ってたやつかな?
変な声や音楽が聞こえても気にするな
そう言ってた
薬にせいだから気にするなって

うん…
そうか…
そろそろ僕もおかしくなってきたんだ…

“だいじょうぶ”

はは…
また聞こえた





ロボットに乗ってすぐに

「第三薬投薬」

そう聞こえて
ぷしゅ!って音がして
ちょっとちくってしたけど

あれ?
この前は注射されるたびに心臓がばくばくして
ものすごく興奮したような…
なんだろう?
全然なんともない

あ…そっか…りっちゃんが薬の量減らしてくれたんだっけ
それでか

“これでだいじょうぶね?”

うぅ〜ん
まだ聞こえる…


それにさっきからりっちゃんたちを写してた画面が消されちゃって
なにかあったのかなぁ?

それに
どうせ聞こえるならアスカちゃんの声がいいな

“これでいい”

はは!
幻聴がアスカちゃんの声真似してる
うぅ〜ん
でもちょっとへたくそだな
アスカちゃんはもっと…こう鼻にかかったみたいに

“じゃあこう?”

あ!ちかいちかい!
似てきた!



「第四薬投入」

あ、またか…

“だいじょうぶ、こんなものいらないわ”

はは!似てる!
こんな幻聴なら楽しくていいや



その後も何度か注射されて
何回も幻聴が聞こえて
りっちゃんが話しかけてきて
ミサトさんから攻撃の仕方を確認されて

わかってるって
バッテンが重なったらここを引っ張るんでしょう?
ちゃんと覚えてるって

もう何回もりっちゃんが連絡してきて
大丈夫だよ
ほんとに心配性なんだから

“優しい人じゃない”

あ!声真似やめた!

“これでいい?”

そーそー
ちゃんとやらなきゃ駄目だよ?



あ!
赤いロボット!
アスカちゃんだ!
来てくれたんだ!
治ったんだ!

よし!
通信ボタンは…これか!
よし!
「おーい!アスカちゃんでしょう!おーい!…あれぇ?聞こえないのかなぁ?」
あれぇ?
無視されちゃった
聞こえないのかな?


“シンジ…がんばれ”


幻聴でも声真似でもない
10年間聞いたんだ
間違えるはずない

アスカちゃんだ

どこ?
どこにいるの?


「どうしたの?シンジ君…後一分よ?落ち着かない?」
りっちゃんがきょろきょろする僕に気づいて連絡してきた


時間が来た
ヘルメットみたいなのが降りてきて
それをかぶると怪獣とバッテンが3っつ
それ以外は見えなくなった

怪獣にはアスカちゃんにやられた傷がはっきりと残っている
ざまあみろ

怪獣が光った
でも特に何も起こらない
やっぱりアスカちゃんにやられて虫の息なんだ

よし!
バッテンが重なってきた!

「だめよ!シンジ!」

引き金を引こうとすると突然誰かに腕を掴まれた

「間違ってる!いい!私の言うとおりにして!」

外の声が急に聞こえなくなった
さっきまであんなに聞こえてたのに
りっちゃんやミサトさんの声が

それに

「私に任せるの、いいわね?」

間違いない
間違える分けない
アスカちゃんだ
来てくれたんだ!
今はこれをかぶってるから見えないけど
アスカちゃんがいるんだ!

「…わかってる!」
僕は返事をして
全部をアスカちゃんに任せた


また怪獣が光った
今度は体中をまるでライターであぶられるみたいに…
でも僕は弱音なんかはかない
だってアスカちゃんが一緒にいるじゃないか!

「シンジ、まだよ!我慢できるわね?」
「ぅぅ!わかってる!まだ我慢できる!」
「うん、えらい」


あんまり熱くて
もう我慢できないけど
でも
まだがんばるんだ!
アスカちゃんもいるんだから

ちらっと
アスカちゃんを見ようとして
ヘルメットの隙間から僕の手を押さえるアスカちゃんの手をみた

僕と同じ色のプラグスーツ

はは…ペアウォッチの次はペアルックだ

「いまよ!」
アスカちゃんの力強い声

バッテンはずれてるけど
気にしない!
だってアスカちゃんが言うんだ!
「わかった!」
引き金を引くと

画面が真っ白になって


一瞬小さな女の子が…
僕が打ったのは怪獣なのに…
なんであんな子供が…
僕は子供を殺したの?


アスカちゃんが僕を抱きしめてくれた
僕はアスカちゃんに抱きしめられながら
ゆっくり意識を失った

アスカちゃんが僕を抱きしめる
アスカちゃんのにおいがする
アスカちゃんの髪を触ろうとして
肩の辺りに手を伸ばすと

あれ?

短い

でもいいか…
あ…まっくらだ…



子供のころの夢
かあさんにおんぶされて
かあさんのにおいがして
大好きだったなぁ
かあさんのおんぶ

だっこもスキだった
おっぱいに顔を埋めて
「シンジは甘えん坊ね」
なんていわれてたっけ

かあさんの笑顔
一番スキだった
「はいかあさん」
僕がおやつを半分かあさんに上げるんだ
「はんぶんこ」
って言いながら
かあさんとても喜んでくれた

かあさん
僕は今もしあわせだよ
だってほら


目が覚めると
ぼくのに寄りかかるアスカちゃん

「やっぱりいたんだ…アスカちゃん…うまくいったね、ありがとうアスカちゃん」

アスカちゃんはうんうんってやりながら僕の頭を撫でてくれた

あれえ?
アスカちゃんいつもの赤い格好に戻ってる
「アスカちゃん着替えたの?」
「ん?ええ、着替えたの」
「なんだ…おそろいだったのに」
「ごめんね…シンジ」

アスカちゃんは僕の腕にもたれかかる
疲れてるのかな?
うん…
じゃあゆっくり休ませてあげよう
その前にお礼だけ言わなきゃ

「ずっとアスカちゃんが奴を指差して『まだよ、私が合図したら打つのよ』ってすぐ後ろから言ってくれたから、アスカちゃんに言われたとおりにやったから当 たったんだよ」

「そうね…よくできたわ…さすが私のシンジ」
アスカちゃんの嬉しそうな声

そうだ
お願いもひとつ
「ねえアスカちゃん、またおそろいのプラグスーツ着ようよ」
「ええ、そうね」

アスカちゃんは眠そうな顔で僕の胸にもたれかかってきた
「ねえアスカちゃん?」
「なに?」
「今度でいいからさ」
「うん」
「また、さっきみたいな優しい声で『シンジ』って呼んでよ」
「いいわよ」
「さっきの声、打つ時教えてくれた声、お母さんみたいだった」
「そう…シンジ…」
「なに?」
「少し休むわ」
「うん…おやすみ、アスカちゃん」
ぼくはアスカちゃんが僕にしてくれるみたいに
アスカちゃんを優しく抱きしめた

「おやすみ…シンジ」

僕はアスカちゃんの頭に顔を埋めた
いいにおいがする
「アスカちゃんのにおいだ」



受信メール

至急連絡してください!

本文
シンジ、さっきのメールは一体どういうことですか?
まるでお別れみたいな内容じゃないですか
おばさんは心配です
シンジを預かってくれている家に電話をしても留守番電話になるだけで
アスカの携帯も繋がりません
一体なにがあったの?
おばさんに言えない様なことなの?
いたずらなら今すぐにあやまれば許してあげます
だからすぐに連絡してください



いよいよ物語は佳境…というか、ハラハラドキドキするところへ入ってきました。

今回の話も十分大変な話でしたけど。

次回はまた違うようにハラハラドキドキできそうですね。

わくわくしながら待ちましょう!

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