目が覚めれば思い出せないけど

ぼくは毎晩夢を見る

これより先も…これより前も…

この場面も…
何度も見てきたんだ
今日はどこで目を覚ますんだろう…



日曜日
アスカはごろんとしながらテレビを見てる

この日が来た

決戦の日だ
ちょっとどきどきしてきた

「後で買い物行こっか」

「ん?」
危うく聞き逃すところだった

よし!
部屋に戻ると僕は鞄のそこから指輪を取り出し、握り締めた

なんでもないような顔してアスカの横に腰掛ける

いくぞ…
アスカの左手をとって
薬指に指輪を通す


勇気を出して
「アスカ」


アスカが指輪を見てしばらくボーっとしてから

「安月給なのにもう!」

あ、いや、違うよ
プレゼントじゃなくて…
よし…
言葉で伝えよう


「アスカ」
「何よ」

「ずっと一緒にいよう」

アスカが硬直した

僕のプロポーズ

アスカがどもりながら
「も、もうちょっと気使いなさいよ!」
「ごめん」
「ぜんぜんロマンチックじゃない!」
「ごめん」

アスカが泣き出した
「何年待ったと思ってるの」
「ごめん」
   
でも、泣きながら微笑んでる

僕はアスカの手を握り締めた

「もう離してやらないんだから」
「うん」

アスカが僕の胸に顔をうずめる
手は握り締めたまま
「子供だってバンバン生んでやるんだから」
「うん」

キスをしながら
「一人ぼっちにしたらゆるさないんだから」
「うん」

小鳥が鳴いてる



「「ずっと一緒にいよう」」


帰ってきたかあさんに報告した

かあさん喜んでくれた
でも、一言よけいなんだよなぁ…
「シンジの相手なんてアスカちゃんじゃなきゃ勤まんないのよ」
だって

アスカがてれてる
そりゃそうだよ
このあいだ、かあさんがお風呂上りのアスカを見て
僕の夜のいたずらでついた跡に気づいて
「シンジの相手なんてアスカちゃんじゃなきゃ、相当のドエムじゃないと無理ね…」
って
アスカ、そのときも顔真っ赤にして…

ちがうんだけどなぁ…
アスカが
「おねがい」
って言ってくるから僕は…
うぅ〜ん
まぁいいや!


僕はアスカを全部手に入れるんだ!
それがアスカの願いでもあるんだから!



それにね
かあさん
アスカもね
僕にいろいろするんだよ?
とくに夜




んん?

いいにおいがする

僕の好物の匂いだ

誰かが僕のこと優しく起そうとしてる

きもちいいなぁ

だんだん目が開いてきた


「おはよ、あなた」


うん…おはよう…

あれ?

アスカちゃんだ

おはようのキス
「さぁ起きろシンジ!遅刻しちゃうぞ!」
「うん…おはようアスカちゃん」

なんだろう?
なんか夢でも見てたのかな?
それに
「毎日これだったらいいのに」

アスカちゃんは鼻歌を歌いながらキッチンへ戻っていった







朝ごはんを食べ終わるとアスカちゃんと仕度を始めた
りっちゃんも今日はついてくる

アスカちゃんが学生服に着替える
「似合うよアスカちゃん」
アスカちゃんは“当然”って顔
アスカちゃんはなにを着ても似合う

「まあね、美少女はなに着ても似合うの」

あははははは!
ほんと
よく似合う!



「持ち物チェック」
僕が着替え終わるとアスカちゃんがと持ち物のチェックを始めた
教育端末は今日学校で支給されるから、もって行くものといえば

お弁当とおかしとゲーム

「お弁当もった?」
「うん、ねえアスカちゃん」
「なに」
「たまごサンド入れてくれた?」
「大丈夫、ほんと食いしん坊ねシンジは」
「好きなんだからいいじゃないか」
「なまいき!」
つねられちゃった
だってスキなんだから…ねえ?

そうだ!
「お菓子は?」
僕はつねられたお尻をなでながら鞄の中を覗き込んだ
「ポッキー入ってるでしょ…」
うん!見えた!
と思ったとたん、りっちゃんが…

「だめよ二人とも!日本の学校はおやつの時間とか無いんだから」

「「えぇ〜!」」
なんでさぁ!
アスカちゃんも怒っちゃってるじゃん!
「なにそれ!収容所か刑務所じゃあるまいし!なんでお菓子もって行っちゃいけないのよ!」
「それが日本の決まりなの、とにかく諦めてちょうだい」
「じゃあ休憩時間なにするのよ!」
「友達と遊んだり」
「転校早々そんなもんいないわよ!」
「とにかくおいていきなさい!」


うぅ〜ん
おやつは持ってきたいけど…
そろそろ出かけないと…
「遅刻しちゃうよ?」

りっちゃんとアスカちゃんは時計を見直して大あわて


車で学校まで送ってもらった
うぅ〜んふかふか

学校に着くと校長先生から学校の説明と先生の紹介
なんか難しいことも言ってたけど緊張しててよくわかんない

校長先生の話が終わると先生に連れられて教室へ向かうことに
りっちゃんが僕たちの襟元を治してくれた

「シンジ君もアスカちゃんもがんばんなさい」

そういいながら
でも
ちょっと
りっちゃんの顔が緊張してて
吹き出しそうになっちゃった


教室の前に着くと、アスカちゃんが手を握ってきた
アスカちゃん、手のひらに汗かいてる…
緊張してるんだ

「さあ入って」
先生が声をかけてきた

アスカちゃんがロボットみたいな動きで僕の手を引いていく
顔が引きつってる
アスカちゃん…人が苦手だもんな…
大丈夫…僕がついてる


「それでは自己紹介を」


アスカちゃん、深呼吸なんかしちゃって

「アスカ・ラングレーです。よろしく」

あ…ちょっとほっとした…
うん
緊張してるんだな、やっぱり

アスカちゃんがつないだ手で「ポン」ってたたいてきた


「あ、碇シンジです、よろしくお願いします」



みんな僕とアスカちゃんを交互に見てる
アスカちゃん緊張して、手握りっぱなしだから…
みんなにはどう見えてるんだろう?

先生に指された席にむかうと、ようやくアスカちゃんは手を握りっぱなしなのに気づいて
「ほら!」
とか言いながら手を離す

アスカちゃん
手と足が一緒に動いちゃってるのに


ホームルームが終わると短い休憩
アスカちゃんは席の周りの子に挨拶してる
ものすごく緊張した顔で
ん?こっちみた
「ほら、シンジも」
あ、はいはい
「よろしく」

アスカちゃん
少しほぐれたかな?

ざわざわ

何なんだろう
みんなアスカちゃんをチラチラ見てる
うぅ〜ん…

金髪だから?

女の子が一人アスカちゃんに声をかけてきた
「あの…ラングレーさん」
「なに?」
引きつった顔のアスカちゃん
やっぱり同年代の子が苦手なんだ…
何とかしてあげなきゃ…
僕がなんとかしてあげなきゃ



「きりーっつ!」

先生が入ってきた
みんないっせいに席に戻り立ち上がる
とりあえず僕たちも立ってみた

「れい!」
みんなでいっせいにおじぎ
思わず眺めちゃう

「ちゃくせーき」
みんなが座る
僕たちもすわった

授業が始まる
こんなところなんだ、日本て

あれ?
クラスの子から質問だ

ん?

はぁ!?


「ふたりってつきあってるの? Y/N」


えぇ…
なにこれ…

しばらく画面を見つめてると
アスカちゃんが覗き込んできた

どうしよう?
アスカちゃんに無言で聞いてみた


アスカちゃんは黙って端末に手を伸ばしてきて
何のためらいもなく

ぽちっと「Y」を押した

「わぁ!」って声がクラス中に広がって
もうたいへん
みんなに囲まれて、よってたかって質問攻め
もうどうしていいかわかんないよ!
アスカちゃんも顔引きつっちゃって


「ちょっと!みんな!授業中でしょう!席に着きなさい!」


大きな声でみんなをしかりつける女の子

みんなに「イインチョウ」って呼ばれてる
たすかったぁ



授業が終わるとまた質問攻め
「ドイツから来たんでしょう?」
「うん」
「碇君て日本人でしょ?」
「うん」
「ラングレーさんと付き合ってるの?」
「ん?うん」
「うぉぉぉぉ!うらやましぃ!」

男子に囲まれちゃった

「お前たち何時からつきあってるんだ?」
「えぇっと…ちっちゃいころからだから…ずっとかな?」
「「「「「「「「「「なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」」」」」」」」」」」

こんなのが休憩の度にえんえん続いちゃって…
アスカちゃんも僕も、なんかとんでもない事になってるよ…


そんなこんなでようやくお弁当

また質問攻めか…なんて思ってたら
「イインチョウ」が僕とアスカちゃんの手を引いて外に駆け出す

もちろんお弁当は忘れない

校舎裏の木陰でお弁当
「イインチョウ」が牛乳をくれた
「はい、碇君。びっくりしたでしょ?ほんとにみんな騒ぐのが好きなんだから」
わざとらしくため息をつく「イインチョウ」

アスカちゃんがちょっとほっとしたみたいで
「ありがとう、イインチョウさん」

「イインチョウ」も
「私、洞木ヒカリ、よろしくね」
アスカちゃんと握手

そしたらアスカちゃん
「イインチョウって名前なのかと思った、よろしくえぇ〜と」
ほんとに!?
ボケじゃなくて!?
うわー
ちょっとビックリ
“委員長”って書くんだよ


「ヒカリでいいわ」

アスカちゃんが笑ってる
うん
よかった
「よろしくヒカリ、私のことはアスカでいいわ」
「よろしくねアスカ、碇君もよろしく」
「うん、よろしく」
差し出された手はアスカちゃんとちがって冷たかった

アスカちゃん以外の女の人の手って

久しぶりだな


3人でおしゃべりしながらお弁当
やっぱり僕とアスカちゃんのことは気になるんだって

アスカちゃん悪乗りしちゃって
「私たち将来結婚するのよ、親同士がそう決めたの」

はは…なんかもうどうでも良いやっ

あれ?
委員長?
なんか僕たちのこと見て目をキラキラさせて…

「すてき…」

ははは…どうも…



「「「いかりくぅ〜ん」」」

窓から女の子達が声をかけてきたから手を振った

いて!

アスカちゃんに小突かれた

また委員長が「きゃぁ」って喜んでる

マンガの読みすぎだね
うん

予鈴がなったので教室に戻るとまた質問攻め


今度はアスカちゃんが
「ラングレーさんてこの間のロボットのパイロットなんでしょう?」
って

別にロボットの事はここでは秘密じゃないらしいんだけど…
りっちゃんも“しゃべっても大丈夫”みたいなこと言ってたけど…

それでまたアスカちゃんがバカにされたり嫌われたりしたら…

そんな事考えてたら

「ええ」

ってアスカちゃんが答えて

教室がお祭り騒ぎ

「ロボットにのって彼氏もいるなんてすごぉ〜い!」
だの
「ねぇあのロボットなんて名前?」
とか
アスカちゃんも満更でもないみたいで
ちょっと安心




やっと授業が終わった
はぁ…
漢字覚えなきゃ…、
相変わらず皆がいろいろ聞いてくるけど、適当に受け流しながらそんなこと考え、帰り仕度をしてたら
男の子が一人、人垣を掻き分けて
アスカちゃんをにらみつける
「転校生、ちょっとええか」
脅すような声で
「お前らも散れや」
周りにいた子達が引き上げてく
「こっちや」
顎で廊下をさしてアスカちゃんを連れ出した

けんかだ…

止めないと

大変なことになる

またアスカちゃんが嫌われちゃう

「アスカちゃん…」
僕は心配になってアスカちゃんを引きとめようとしたんだけど

「大丈夫よ」
アスカちゃんは少し笑ってた




守らなきゃ!
頭がいっぱいだった
それにもし、アスカちゃんがやり返しでもしたら…
みんな知らないんだ…
裸のアスカちゃんを見たことないから…
ムキムキってわけじゃないけど…
あぁ敵う訳ないよって体してるんだ
だから絶対人を殴ったりしちゃいけないんだ

そう思うと
気がついたらアスカちゃんと黒いジャージの人の間にはいって
かっこよく喧嘩を止められたら良かったんだけど…

情けない…
よける事もできなかった
おもいっきり顔殴られて
倒れこんじゃって
「なんやおまえわ!じゃまじゃ!」
なんて吐き捨てられて
口の中が鉄の味がして

それでもなんとか喧嘩を止めようとして
起き上がろうとしたら


黒いジャージがふっっとんでいった

アスカちゃんが人間相手に暴力を振るってる

しりもちをついた黒いジャージの人の顔面を、おもいっきり蹴っ飛ばす

だめだよアスカちゃん!
死んじゃうよ!
僕が叫ぼうとしたら


「ふざけんじゃないわよ!いきなりシンジに何すんのよ!」


アスカちゃんは本気で怒ってた


黒いジャージの人についてきたメガネの人が止めに入ってくれた
「こいつの妹さ、この間のあれで大怪我しちまったんだ」


アスカちゃんの表情が硬くなった
そうだよアスカちゃん…
今ならまだあやまれば…


きゃぁ〜
歓声が上がる
クラスの子達がいっせいに駆けてくる
委員長が「大丈夫?」って言いながらおこしてくれた
服も払ってくれた
握った手が冷たくて気持ちいい
抱き起こされたとき当たった胸はアスカちゃんと同じか少し大きいくらい
じゃあアスカちゃんって別に小さくないんだ
あれ?
何考えてんだろう?


喝采の中を掻き分けてアスカちゃんがやってきた
「ごめんなさい、シンジ!シンジ!」
まるで僕が迷子になったときみたいに心配そうな声で

僕を見つめるとほっとしたみたい

僕のこと抱き寄せると
「ほら!見せて」
口をあけさせられて
中を覗いてつぶやいた

「血…出てるじゃない」

大げさだなぁ…
アスカちゃんはすぐに携帯で誰かに電話をかける
電話を切ると
クラスの皆がちょっと驚いてる
そりゃそうだよ
いきなりドイツ語でしゃべりだしたら
みんなシーンとしちゃったじゃないか

駐車場にいた車が一台こっちにやってきた
いすゞの「アスカ」
この名前は偶然かな?

運転してるおばさんに言われて乗り込んだ

「じゃあみんな、また明日ね」

アスカちゃんはまるで何にもなかったみたいに皆に挨拶をした
僕も手を振った

「きゃぁ!すごぉ〜い」

女の子たちがはしゃいでる
アスカちゃんはため息

「病院に…お願い」

おおげさだなぁ


車は大きな病院に着いた

ほんとに大げさだよ…アスカちゃん
僕は特別な入り口から中に入るとすぐに診察室に通された


あ!
りっちゃん!

「どうかしましたか?患者さん」

白衣を着たりっちゃんが座ってる!

アスカちゃんもビックリして
「ちょっとなにやってんのよリツコ!」

うわぁ!りっちゃんこんな大きな病院に勤めてるんだ!

「りっちゃんここのお医者さんだったんだ!」

思わず嬉しくなっちゃった

「そうよ、さあ碇君!口をあけて」

本当にお医者さんみたい!
あ…当たり前か

「裂傷ね、浅いから薬で治るわ」
「うん!」
「じゃあ塗ってあげるか口を大きくあけて、はい、あ〜ん」
「あ〜ん」

りっちゃんの指がほほの内側をなでる
なんかうれしなぁ

「はい、もう閉じて良いわよ。じゃあ後は窓口でお薬と湿布もらって、痛む間はちゃんと塗るのよ」
「うん!」
「じゃあシンジ君はここまで、次はアスカちゃん診るからシンジ君は外でまってて」
「うん!先生ありがとうございました」

カルテを渡されてちょっと嬉しいから部屋を出るとき手を振っちゃった

あ、アスカちゃんがあきれてる

りっちゃんは小さく手を振り替えしてくれた

僕は廊下に出ると診察室のプレートを見つめた

“口内外科 本日の担当 赤城リツコ先生”
「ろないそとか?」
なんだろう?
りっちゃんの専門てなんなんだろう?
帰ったら聞いてみよう!


アスカちゃんが診察室から出てきた
「どっかわるかったの?」
ちょっと心配だから聞いたら

ふん!ってかおして
「とんだ藪医者よ!」
だって

へんなの


窓口に行くとすぐに薬を渡された

「さ!かえろ」
アスカちゃんが僕の手を引く

僕は外に出ると病院の名前を探した
すぐに見つかった

“第三新東京国際医療センター”

「だいさんしんとうきょう…くに…」

「こくさいいりょう」
アスカちゃんが振り向きもせずに続きを教えてくれた


駅に着くと電車はすぐにやってきた

「おなかすいたね」

アスカちゃんが窓をながめながら話しかけてきた

「うん」
「あ…町だ、ここで降りよう」
「うん」

“しんきちじょうじぃ〜”

変な声のアナウンスが聞こえる

駅から出るとごちゃごちゃしてるけど、いろんなお店がある

「あ!マック!アスカちゃん!マック!」
ハンバーガーだ!
ドイツにいるときは町まで行かなきゃなかったからめったに食べれなくて
見つけたら嬉しくなっちゃった

なのに

「いやよ」
一発で却下
はぁ…今度一人で来よう…

「怪我してるんだから…しみるわよ」
うん…
わかってる
アスカちゃんなりの優しさだって

みんなアスカちゃんのこと我侭だって言うけど
ちがうよ…
やさしいんだ…
ちょっと素直じゃないだけなんだ

ぼくはわかってる



結局アスカちゃんが見つけたかわいい看板のお店に入ることになった


前から思ってたんだけど
アスカちゃんてメニュー見て悩んだりしてるの見たことないんだよね

今日もさぁーっと見て

「パスタとピザ、それにリゾット」

僕の分まで注文しちゃう
僕は急いで
「あと…オレンジジュース」

アスカちゃんが表情変えないで
「私も」

料理が来るとアスカちゃんが取り分けてくれる

「ちびなんだからたくさん食べなさい」

いじわるを言いながら

でも
取り分けてる姿がまるで僕のお嫁さんみたいで
僕はそれを見ているのが大好きなんだ

笑ってるんだよ
取り分けてるときのアスカちゃんて

それに、それなりに僕のことも考えてくれてる
アスカちゃんピザなんて絶対に食べないんだ
「見た目が嫌」
って理由で

でも、僕がスキだってわかってるからちゃんと注文してくれた
だから僕の前にだけピザが
しかも、ちゃんと切り分けて


「いただきまーす」

「召し上がれ」


アスカちゃんは僕の…
まだだけど
いつか

お嫁さん



食べ終わった
うん!
満腹!

アスカちゃんは、じーっと僕のことを見ている
もうなれた
だって10年もだもん



アスカちゃんの瞳の中に写る僕

情けない顔した僕…

アスカちゃんを助けたかったのに…

役立たずの僕…

あやまろう…
「アスカちゃん…」

「ん?」

まるで今、僕に気づいたみたいなアスカちゃん

「このあいだ…役に立て無くてごめんね」

アスカちゃんの瞳が曇った
きれいな瞳が
くすんだ


「なによ…突然」


少し怒ったみたいに…
くすんだ瞳を僕からそらした

「無理やり部屋から連れ出されてから、なんかちょっと良く覚えてないんだけど。アスカちゃん助けようとしたのにアスカちゃんに助けられちゃったんだよね」

ほんとうになさけない…ぼくって

「いいの…別に…シンジは悪くない」
アスカちゃんは外を向いてしまった

「今日もアスカちゃんのこと助けようとして…アスカちゃんにたすけられた…」
僕はうつむく
自分が情けなくって
大好きなアスカちゃんを守れなくって


「ばかねぇ…シンジのことは私が守ってあげる、だからシンジは私のそばに居て」

いつの間にかアスカちゃんは身を乗り出して僕のほほをなでてくれた

「うん」
情けないくらい落ち着く
僕は一生アスカちゃんにすがって生きて行きたい


顔を上げると
僕の大好きな
きれいな青い瞳が
少したれ目で
とってもやさしい瞳が
僕を見つめていた

「シンジ、かばん貸して」

僕の大好きな
少し鼻にかかったような
かわいい声が
ぼくに優しく語り掛けてくる


「え?はい」
僕の間の抜けた声

アスカちゃんはかばんを受け取ると髪をほどき始めた

赤い髪留めをはずすと
アスカちゃんの
僕の大好きなブロンドの髪がはだける


僕が見惚れていると
アスカちゃんは自分のかばんのキーホルダーをはずして、それに髪留めを通し、僕のかばんに吊り下げた


アスカちゃんは、まるでお母さんみたいな顔をして
「おまもりよ」
って

「いいの?大切なんでしょ?」
しってるよ?これ、ロボットの操縦に使うやつでしょ?

アスカちゃんは「にぱ!」て顔をして
「大切よ!だから大事にして」
そういいながらかばんを僕に返してくれた
髪留めがカラカラと乾いた音を鳴らす

「ありがとう」

僕も「にぱっ」って笑って見せた


僕の顔を見てアスカちゃんは本当に嬉しそうに笑った

「さぁ!ちょっと買い物しようか!なにがほしい?」
「うん!、えーっと」

アスカちゃんが笑いながら
「ゲーム以外よ」




フラフラ買い物してたら結構遅くなっちゃった

「「ただいま」」

「今何時だとおもってるの!」
うわ!りっちゃん怒ってる!
それなのにアスカちゃんけろっとした顔で
「9時半」
「まったく夜遊びなんてよくないわ!」
逆にアスカちゃんが言い返しちゃって
「エヴァのテストの日なんか10時近くなるじゃない!」
「それとこれとはちがいます!」

りっちゃんもアスカちゃんも、とりあえず喧嘩になる前に何とかしなきゃ

「僕がお腹すいちゃって、それでアスカちゃんが食べていこうって…」
りっちゃんは僕をにらみながら眉毛吊り上げて
「ご飯だけでこんなに遅くならないでしょう!」
「あ…あのう…えっと、ぼくが靴買ってってお願いしてそれで…」
「靴一足でこんなに遅くなるのかしら?」
「色々迷っちゃって」

僕がしどろもどろになってきたころ、りっちゃんはため息交じりで

「とにかくこんなに遅く帰ってくるのはもうだめよ!」
「「はぁい」」


僕はアスカちゃんに手を引かれて逃げ込むようにお風呂に入った
いろんなことがあった一日


アスカちゃんが湯船で「うぅん」って言いながらのびをしている

おっぱいが少し歪む

おっぱいにあった僕の指の後はようやく消えた

…僕がアスカちゃんにつけてしまったアザ

どこかに残ってないか…

そっと手のひらで撫でて確かめた

「あぅ…んん…」

アスカちゃんの声が浴室に響いた

少し潤んだ瞳で僕を見つめている

だから僕は謝った
「ごめんね」

「ん?」
アスカちゃんは優しい瞳で僕を見つめる
まるで「どうしたの?」って言ってるみたいに


「おっぱいのアザ、やっと消えた…」

アスカちゃんは優しく微笑んでくれた

僕を抱きしめてくれた

「ばか」
って言いながら





お風呂から上がるとりっちゃんは酔っ払ってた

「ごめん…いいすぎたわ…」

お酒飲まないと素直になれないんだな…大人って

「いいわ、ちょっとおそすぎかなって思う」
アスカちゃんも…素直になれるのに

「ありがとう」
りっちゃんはお酒を飲み干した

僕を見て微笑んでる
うん
ショタコンじゃないよ
きっと


冷蔵庫にあったプリンを食べてたらアスカちゃんがドライヤー片手に

「ねえリツコ」
「なぁに」
「あしたでいいからさ、ピアスの穴あけてよ。お医者さんなんでしょ?」
「いいわよ、別にぃ。ま、外科の資格は持ってないけど大丈夫よ」
「さんきゅー、じゃあ耳とおへそにおねがい」
「いいけど、おへそは痛いわよ〜」
「一瞬でしょ?」

りっちゃんがお酒を睨んだ
「私があけたとき、3日くらいズキズキしたけど…まあまかせて」

アスカちゃんが何だか「うわぁ」って顔してた


僕はプリンを食べ終わったから
僕はりっちゃんに「おやすみなさい」

りっちゃんはにっこり笑ってニャンタを持ち上げニャンタの前足を振ってくれた


ベッドの枕元に僕の宝物を並べた
ピンク色でにゃんこのシールがはがれかかったウォークマンと
赤い髪留め

アスカちゃんが部屋に戻ってきた
アスカちゃんが部屋の明かりを消した
アスカちゃんが狭くないように僕はベッドのはじによる
アスカちゃんは僕に寄り添う

「おやすみ」

アスカちゃんの声

「うん、おやすみ」
返事をすると僕は僕の一番の宝物を抱きしめた

顔を胸にうずめ
片手は握ってもらう
もう片方のてはアスカちゃんのおしりの上に

こうしてる間はアスカちゃんは全部僕のものだ
暗いけどアスカちゃんの表情はわかる

ぼくを見つめているんだ


僕はアスカちゃんに見守られながら眠りに落ちた





「あぁ〜あ、また六文儀のやつ赤城のこと泣かしてるよ」

まいったなぁ
何でこうアスカは簡単になきだすんだよ…

「六文儀君!ちゃんとアヤカつれて帰りなさいよ!」

これじゃあ僕が悪者じゃないか…

「もう…はい」
僕がアスカに手を差し伸べる
「うぅ…ぐす…」
アスカは握り締めていた僕のワイシャツの裾を、やっと放し
僕の手を握る

「いじわる…」

アスカが涙をぬぐいながら僕のこと可愛く睨みつける

「ごめん、でもちゃんと待ってただろう?」
「…うん」

ほんとにアスカは泣き虫なんだよなぁ
昔は…

昔のことはいいや


皆にさんざん冷やかされ家路に着く

「ねえ…シンジ」
「ん?」
「もういじわるしない?」
「うん」

もう何回目かもよくわからない位、繰り返し聞かれてる

「じゃあ…」
あれ?
また聞くんじゃなくて?
アスカに手を引かれた

家に帰ると
かあさんは久しぶりのネルフで留守

アスカが
「なぐさめて」

甘えた声でぼくに寄り添ってくる

制服のまま僕を押し倒してきた

「ねぇなぐさめて」

もう…いってることとやってる事がめちゃくちゃじゃないか…

ぼくがアスカの下着に手をかける

アスカが僕の体を撫で回す

撫で回す

撫で…

ん?

なんかほんとに撫で回されてる

っていうか

くすぐられてるような…

それに何だか騒がしくて…

うぅ〜ん大声出さないでよ…アスカちゃん

「うぅ〜うるさいなぁ」

もう…せっかく夢見てたのに…

夢?

どんな夢だったっけ?
それにアスカちゃんのおっぱいが大きくなってる…
まるでりっちゃんみたい
すごいなぁ〜
ちょっとさわってみよう…

って!!!

「うわぁ!!」

りっちゃん?!

「傷の具合はどぉ?」
にっこり笑ってるりっちゃん
「あ?え?…う…うん、大丈夫」
うん…もうズキズキしない…それに…
「そお、おはよう、シンジ君」
「あ、おはよう…りっちゃん」
りっちゃんはぱんつでおっぱいが透けるような格好で…
目のやり場に…

は!

りっちゃんからそぉ〜っと視線をずらすと
アスカちゃんが…

うわぁ…
殺されるかも…



僕とりっちゃんは朝ごはんを食べながら何回もあやまる
「もう、そんなに怒らないでよ、ちょっとしたいたずらじゃない」
「まったくもぉ!あんたたちは!」
「機嫌直してよ…」
「ふん!」


ぴんぽぉ〜ん


チャイムが鳴る
りっちゃんがほっとした顔でインターフォンを取る
「はい、そうですが…あ、そうなの?。わかったわ、ちょっと待っててちょうだい」
何だろう?
りっちゃんがこっち見た…
なんだろう?…
りっちゃんが玄関に消えた


「いらっしゃい」

「おはようございます!私、アスカさんのクラスメートで洞木といいます」

あ!
声を聞いてアスカちゃんと顔を見合わせる

「おはよう、ちょっと待っててね」
りっちゃんが笑いながら戻ってきた

「アスカ、お友達が迎えに来てくれたわよ」

アスカちゃんが口と目をあけて…
うん
僕も驚いた
確かに昨日、ここに住んでるって教えたけど…

いつの間にかりっちゃんは玄関に戻っていて
「ごめんなさい、アスカもうちょっと時間掛かるから上がって待ってて」
「あ、いえ、ここで結構です」
「遠慮しないで」

りっちゃんが手を引いて委員長を連れてきた

ちょっとてれたような顔をして
「おはようアスカ、迷惑だったかな?」

アスカちゃん首をぶんぶん振って
「ううん大丈夫、ありがとう」
嬉しそうに笑ってる


今日はお迎えの車じゃなく、三人で歩いて行くことになった

「「いってきまぁ〜す」」
「おじゃましました」

りっちゃんが手を振って見送ってくれた
りっちゃんが嬉しそうに笑ってる


マンションから一歩出ると、委員長はアスカちゃんの腕を引っ張って
「すごぉ〜い!本当に二人は一緒に住んでいるのね!碇君の襟元なんか直しちゃって、もう夫婦みたい!」
何だか喜んでる委員長
「まるでドラマのワンシーンでも見てるみたい!」
矢継ぎ早に話しかけてきて
アスカちゃんも嬉しそうにしてる

あれ?
アスカちゃん…少し不安そうな顔に…
僕のことをチラッと見た

うん…不安なんだね
よし!
僕がアスカちゃんにたくさん友達を作ってあげよう!
決めた!

アスカちゃんが僕のことを見つめてる
大丈夫…僕がアスカちゃんにたくさん友達作ってみせる!

「ねぇアスカ!」
「え?」
「もう、碇君ばっかり見ちゃって」
「ごめんごめん、で、なに?」
「…やっぱり、キスとかしちゃうの?ふたりって…きゃ!」

委員長って…変

アスカちゃんがとっても嬉しそうな声で
「答えてあげなさいよ、シンジ」
て、いいながらつないだ手を握り締めてきた

いいの!?
こういうタイプにそういうこていっちゃって?
絶対一人で盛り上がっちゃうよ?

うわぁ〜委員長…すっごく期待してる

はぁ…
少し押さえ目に言っとこう

「あんまりしないよ、おやすみと、あと、おはようの時くらい。それだって毎日じゃないし、今朝だって…」

うわぁ…
言わなきゃよかった…

お祈りするみたいにてを握り締めて
「すてき…」
だって



アスカちゃんと手をつないで歩く
僕が手を握っている間はアスカちゃんは一人じゃない
僕にとっては大切なこと

いつも強がって見せるアスカちゃん
“痛い”とか“苦しい”ってアスカちゃんが口にしてるのを僕は聞いたことがない
でも、僕の知らないところでそっと泣いてるアスカちゃん
だからぼくはアスカちゃんのそばにいる
はたから見てれば僕はただの甘ったれ
でもそれでいいんだ
僕が一緒にいれば
お風呂だって
ベッドだって
どこだって

アスカちゃんは自分が一人ぼっちだって思い出さずにすむ

だから僕は
全部
アスカちゃんのためでかまわない


うん…
でも、今のアスカちゃんはとても楽しそうだ
よかった

「ねぇ!アスカってば!」
「ほんとにもう!さっきのお姉さん、あれが碇君のお姉さんなんでしょ?」
りっちゃんの話だ
「そう、三十路未婚、予定もなし」
「へー綺麗な人なのに、きっと綺麗過ぎるからね」
そうだよねぇ
ほんと、なんであんなに優しくて、きれいで、いいにおいがして、おっぱいもおっきいのに…
日本の男って見る目ないよ


「目元なんか碇君にそっくりだったし」


え…
やっぱり僕のまゆ毛って…

はぁ…
いやだなぁ…

でも
アスカちゃん…
うん!

アスカちゃんの手を引いて
振り向いたアスカちゃんが

「なに?」

うん!やっぱりそうだ!

僕はこっそりアスカちゃんの耳元で
「アスカちゃんうれしそうだね、さっきからずっと笑ってる」
って、ささやいて

アスカちゃんは本当に嬉しそうな顔をしてくれた


「なになに?こそこそ話しちゃって!」
「ヒカリ、教えてあげよっか」
「なに!」
「シンジがね、『大好きだよ』だって」

あ…だからこういうタイプにはだめだって…
ほら…
一人で盛り上がり始めちゃった

でもいいや
アスカちゃんが嬉しそうだから




教室に着くと黒板に僕とアスカちゃんの名前が書いてある
なんだろう?
アスカちゃんと顔を見あわせる
ハートマークの下に三角があってその下にたてに棒線
その線の左に「アスカ」
右に「いかり」

日直?

突然、委員長がそれをすごい勢いで消して
「誰!こんなことしたのは!」
委員長はこっちに向き直って
「気にしないでね、ほんとにもう」

う〜ん、なるほど
日本では日直を書き間違えるのはすごくだめな事なのか



あ!
来てる!
僕はアスカちゃんのてを離し、昨日のジャージの人の所に向かった

「鈴原君…だよね…ごめん」
「うるさいわ…」

そっぽ向かれた

でも、わかってくれるまで毎日あやまろう
そうすればいつかわかってくれる
神父様もそういってた




席に着くと女の子が
「碇くんてやさしいのね」
って
あと
「ふたりのアドレス教えて」
とか

あ、委員長が立ち上がった
また皆を黙らせてくれるのかな?

「ねぇ皆聞いて!今日私迎えにいったら見ちゃったの!碇君とアスカの生活」


………
もうどうにでもなれ!

あ!
まって!
勝手に僕の携帯と赤外線通信でアドレス抜かないで!
あ!
それを勝手に皆に回さないで!
恥かしいから!
だって!僕のアドレスって…
あぁぁ…
昨日のほうがまだ静かだったなぁ



授業が終わって皆帰り始める
僕も帰りにアスカちゃんとケーキを買いに行く約束したから楽しみで

でも
アスカちゃんの携帯がなった
ビービービーって音で

この音は
アスカちゃんに怪獣が現れたことを告げる音

アスカちゃんが携帯をとると短く返事をした

「了解」


校舎の屋上でアスカちゃんの迎えの飛行機を待った
皆騒いでる
先生たちが校舎に残っている生徒を地下シェルターに避難させる

僕は特別なシェルターに入るらしい
アスカちゃんを見送った後で

飛行機が来た
アスカちゃんが僕に胸を押し付けてきた
フルカップでパッド入りのブラジャーで膨らんだ胸を

「シンジ…」

僕の頭に顔をうずめる

僕はアスカちゃんをしっかり抱きしめた
「がんばってね、アスカちゃん」

そっとキスもした

アスカちゃんが目いっぱい息を吸い込んでいる
アスカちゃんの顔を見ると
潤んだ瞳で僕を見つめていた

アスカちゃんは飛ぶように僕から離れると
勢いよく飛行機に乗り込んだ
窓の向こうから一生懸命僕に手を振ってくれている
だから僕は力いっぱい叫んだ
何回も

「アスカちゃん!がんばれ!」

飛行機が小さくなるまで叫び続けた




アスカちゃんのところの人に連れられて裏門に向かった
僕を迎えに来た車はベンツだった
少しがっかり
だって日本車のほうが乗り心地いいんだもん

ん?
あれ?
なんか変だ
植え込みがゆれてる…

あ!

「鈴原君!」
植え込みが大きく揺れる
中から鈴原君とカメラを持った相田君が
「危ないよ!一緒に行こう!」
「うるさいわい!」
「もうすぐ怪獣が来るんだよ!危ないから!」
「黙れあほ!」
「その怪獣を一目見たいんだよぉ〜」
「とにかく危ないよ!運転手さん!友達なんです!一緒に連れて行ったください!」
アスカちゃんの所の人が二人を車に引きずりこんでくれた

車は僕たちを乗せて避難所へむかった

鈴原君は一言も口をきいてくれない
しょうがないから相田君に話しかけてみた
「あの…それ…すごいね」
カメラを指差す
そしたらすごく嬉しそうに
「だろう!ソニーα90!レンズはツァイスだぜ!」
「あ、カールツァイス?僕もソニーじゃないけど持ってるよ」
「おぉ!ほんとか!?」
「うん、コンタックス」
「ははぁんドイツで買ったんだろう?」
「うん」
「ざんねんだったな」
「え?なにが?」
「コンタックスって中身は日本製なんだぜ!」
「え!」

知らなかった
僕がアスカちゃんに買ってもらったカメラって日本製だったんだ

うわ!
車が急に方向転換した

遠くで爆発してる
始まったんだ



しばらく走ると今度は渋滞に巻き込まれた
運転手さんが何処かに連絡を取っている
相田君も鈴原君も不安そうな顔してる



突然ものすごい揺れが襲った


すぐに原因はわかった

怪獣が倒れてる

その向こうには赤い巨人

アスカちゃんだ…


怪獣は赤い巨人にみるみる追い詰められていく
すごい
赤い巨人にはどんな攻撃も効かない

もうすぐアスカちゃんが勝つんだ

怪獣は何をしても歯が立たないもんだから、いろんなものを赤い巨人に投げつけ始めた
まるで小さい子供みたいだ

戦車やビルの破片とか
まるで気にもしない様子の赤い巨人


突然赤い巨人が怪獣が投げるものキャッチし始めた
それもそっと
壊れないように
キャッチするそばから足元にそっと置いてる

人の乗ってる車だ

アスカちゃんはそんな事まで気にして戦ってるんだ
もう鈴原君の妹みたいな子が出ないように
アスカちゃんはなんて優しいんだろう

「ねえ鈴原君」
「…うるさいわい」

鈴原君もアスカちゃんが怪獣そっちのけで、逃げようとして怪獣につかまった人のために必死になってるのが分かってくれたんだ



怪獣のおかげで渋滞は解消されたみたいで
また車が走り出した

と思ったら

「うわぁ!」

車は空を飛んでる

フロントガラスには
僕らののってる車を必死に追いかける赤い巨人の姿

ものすごい振動が襲う


地上?

「すぐに降りるんだ!」
運転手さんが僕らに声をかける

外を見ると赤い巨人が僕たちの乗った車を覗き込んでいる

僕はとにかく車から飛び降りた
その時足が“グニャ”ってなってしまい
激痛が走った

「いたい!」

足が痛い!
捻挫だ
だめだ
立てない!

あっ

運転手さんが何も言わずに僕に肩を貸してくれた
鈴原君も僕に肩を貸してくれる

僕は二人に支えられ逃げ出した

振り向くと赤い巨人の後ろに怪獣が迫っている
「アスカちゃん!危ない!」
教えないと!
アスカちゃんはじっとこっちを見てて怪獣に気づいてない!

でも
僕の叫びは届かなかった

怪獣の攻撃で赤い巨人が倒れてしまった
やられる度に火花が飛び散る
火の粉が僕らの周りにも降り注ぐ

突然あたりが薄暗くなる
見上げると
赤い巨人
アスカちゃんのロボット

僕たちを火の粉から守るため覆いかぶさっている
僕はポケットにねじ込んでいたお守りを握り締めた
「アスカちゃんはかっこよく怪獣を倒そうなんて思ってなんかいない」
鈴原君も見上げていた
「だまっとれ…」
「うん」
鈴原君もわかってくれてる
アスカちゃんはヒーロー気取りなんかじゃない

お守りを握り締め、もう一度アスカちゃんの赤い巨人を見上げた
こっちを向いている

もう大丈夫だよ

僕の声は届かないんだろうけど
それでも伝えたかった

その時

赤い巨人の胸から僕らめがけて大きな光の束が

僕はまるで人形みたいに吹き飛ばされ
地面にたたきつけられ
………

叫び声が聞こえる
獣のようなものすごい叫び声が


まるで僕の名前を叫んでるみたいだ




どれくらいしただろう…
誰かが僕を抱き起こしてくれる
僕はうめき声しか出せない

僕の顔にボタボタぬるい水が落ちてくる

泣き声が聞こえる

僕の顔に誰かの髪がかかる
泣きながら僕にキスする

もうわかった

アスカちゃん
泣かないで


だんだん意識が遠のく


僕は手のひらに力を込めた
僕を守ってくれたお守り
アスカちゃんを呼んでくれたお守り

「大丈夫よ」

アスカちゃんが僕の手を握ってくれた

僕は…真っ暗なところに落ちていった…






目が覚めるとベッドの上で
周りを見渡すと病室だった

当然のようにアスカちゃんもいて
僕が目をさますのを待てたように

「まったく!捻挫と打撲で入院なんてひ弱すぎ!」

目覚めとともに怒られちゃった

「この軟弱もの!」
「ごめん」

起き上がろうとすると全身痛くて
思わずうめき声が出ちゃう

あ…
アスカちゃんが抱き起こしてくれる
でもそこらじゅう痛くて
「うぅ〜いたいよアスカちゃん」

アスカちゃんの顔を見ると一瞬ものすごく悲しそうな顔をしてから
すぐにいつもの顔に戻って

「がまん!」
「うん」
「よし!」
「うん」
「シンジ…」
「なに?」

キス


部屋のドアが開いた
キスする僕たちをりっちゃんがじーっとみてる

「んん!」

わざとらしい咳払い

アスカちゃんはまるで何でもなかったみたいに振り返って
「ねえリツコ!ここに泊まってもいいでしょう!?」

りっちゃんはうなだれるように
「その手続きをしてきたのよ…まったく…なんなのよ」

あーあ
りっちゃんすねてるんだ
やっぱり恋人ほしいんだ




おいしくないご飯を食べ
テレビを見てたら

9時で消灯

アスカちゃんが隣にベッドをくっつけそこに寝ている

なかなか眠くならない

アスカちゃんが手を握ってきた

「アスカちゃん?」
「おきてるわよ」
「…ありがとう」
「何よ」
「助けてくれて」
「まあね」
「…アスカちゃん」
「ん?」
「ごめん」
「なに?」
「お守り、無くしちゃった」

アスカちゃんが手を離しベッドから降りた
あっ怒ったのかな?

アスカちゃんは自分のかばんを持って帰ってくるとぼくの枕元に腰掛けた
アスカちゃんを見上げる
月明りで見るアスカちゃんはとても…

アスカちゃんがそっとキスをしてくれた

アスカちゃんは、かばんの中から小さな袋を取り出し僕の手のひらに握らせた
あれ?これって
中を覗くと

僕のお守り

「なくしちゃだめよ」

アスカちゃんは優しく頭を撫でてくれた

「うん」
ありがとう
もうなくさないよ



アスカちゃんは僕の頭を自分の膝の上に
「ねえシンジ…」
「うん?」
「なんであの二人と一緒にいたの?」
「うん…車に乗り込むとき見つけたんだ、植え込みに隠れてるのを」
「ふぅん」
「アスカちゃんが戦うとこ、見たかったんだって」
「ばかね」
「うん、だから運転手さんにちょっと待ってもらって無理やり乗せたんだ、危ないから」
「それで自分までこんな目にあっちゃって、ばかねぇ」

うん…でもね

「でも、目の前でアスカちゃんが戦ってるところ見れたよ、アスカちゃんがかばってくれたのもちゃんと覚えてる」

僕はアスカちゃんのおなかに顔を埋めた
「そのあとすぐ気うしなちゃったけど…ありがとう…アスカちゃん」

アスカちゃんが僕を包み込んでくれた

「シンジ…シンジ…」
アスカちゃんが囁く
「シンジ…」
まるでおなかの中の胎児に語りかけるように
「シンジ…」
その声を聞きながら
「シンジ…」
僕は眠りに落ちた
「シンジ…」





受信メール
治りましたか?

本文
やさしいシンジ、風邪は治りましたか?
日本に行ってから半月で二回も風で寝込むなんて
日本が体に合わないようならシンジだけでも帰っていらっしゃい
この間電話で話してくれた、授業が始まる度に行われる挨拶ですが
おばさん、少し調べてみました
それは“ドゲザ”というもので、サムライの伝統だそうです
昔は“ドゲザ”に失敗したサムライが何人もハラキリしたそうです
今でもその名残で“ドゲザ”しているのでしょう
それからアスカがお友達と一緒に写っている写真
おじさんと二人で見ました
アスカにたくさん友達を作ってあげてください
アスカにいろんな世界を見せてあげれるのはシンジだけです
あの子は自分からは外を向いてくれません
どうかアスカの事をおねがいします
最後に、おじさんとおばさんはシンジが私たちの息子になってくれる日を待っています
早くアスカをつれて帰っていらっしゃい
あなた達は私たちにとって世界一の宝石です




学校
大丈夫って言ったんだけど、りっちゃんが
「今日だけでも車で行きなさい」
って

教室に入ると大騒ぎ
「碇君!大丈夫だった!?」
とか
「鈴原のやつのこと碇くんが守ったんでしょ!」
とか
「碇君てほんとに男らしい!」
とか
まあ、最後のは委員長なんだけど…


放課後、鈴原君に呼び出された
心配してアスカちゃんがついて来た

「すまんかったな、碇」

鈴原僕に頭を下げ相田君の頭も下げさせる

「お前たちも命懸けなんやな…悪かった…たいした怪我でもないのに、八つ当たりやな…すまん」

こういうときどうすればいいか
僕は知っている
神父様が言ってた

“手を差し伸べなさい”

だから僕は手を差し出した
「うん、良いよ鈴原君、仲直り」
「すまんな」

神父様の言ったとおり
僕の手を鈴原君が握ってくれた

良かった

だから今度は
「アスカちゃんも」

そっぽを向いてたアスカちゃんが、びっくりした顔で
僕を見つめた
“そいつと!?”
そんな顔で

大丈夫だって
神父様も言ってたじゃないか
“手をつなぎ、人の和ができるのです。それが愛です”

大丈夫
僕は微笑んで見せた

アスカちゃんは
“しょうがないわね”
って顔して手を差し出す

「悪かったな、凶暴女」

鈴原君の精一杯の照れ隠し
でもアスカちゃんは真に受けちゃって
思いっきり手をにぎって

「あいだだだだだだ!なにすんのや!この馬鹿力!」

“ふん!”
って
ははははは!
それでいいんだよ!アスカちゃん
それだって握手だよ!
これでもう友達だ!
だから僕はアスカちゃんに囁いた

「良かったねアスカちゃん」

アスカちゃんはまたそっぽを向いて
でも
口元は笑ってる




朝ごはんを食べていると

ぴんぽーん

りっちゃんが玄関に

「おはよう洞木さん、さ、上がって待っててちょうだい」
りっちゃんは「きれいなお姉さん」って委員長に言われたのを話してあげて以来、エプロンなんかしちゃって
まるでお母さんみたい

アスカちゃんと委員長が朝からおしゃべり

お!メールだ
“ついたで、何階や”

返信っと

うん
これでアスカちゃん驚くぞ

ん?アスカちゃんジトーって目でこっち見てる

「シンジ!貸しなさい!」
「うわぁ!」

せっかく驚かそうとしたのに!

ぴんぽーん

お!ナイスタイミング!
りっちゃんがインターフォンに出てくれた
「はい、ええ、ああ!ちょっと待っててね」

りっちゃんがパタパタ玄関に向かう

がちゃ

「碇くんのクラスメートの鈴原です」
「同じく相田です」

二人の声

携帯と僕を交互に見るアスカちゃん



「どうぞ、上がってちょうだい」
「「おじゃましまーす」」
ひょっこり顔を出す二人
「おう!迎えにきたで!って委員長!なんでおるんや!」
「鈴原こそなんで来てんのよ!」
「わしゃ碇迎えに来たんじゃ!」

りっちゃんが嬉しそうに
「わざわざありがとうね、これでも飲んで待っててちょうだい」
「「いただきます!」」

委員長はそっぽ向いちゃった

皆で学校へ向かう
トウジが肩組んできて
「なあ碇、さっきの綺麗なお姉さんがうわさのお前の姉ちゃんか?ええな〜」

僕が何か答えようとしたら

「そうよ、女でひとつでシンジ君を育てた名医なのよ!」

あの…ぼく…ずっとドイツにいたんだけど…

「ほんと、あこがれるわぁ〜」

委員長?

まあいいか


皆でしゃべりながら登校
アスカちゃんも楽しそう

これから毎日これが続くように
僕はアスカちゃんのためにがんばる

「なんやおまえら、手なんかつなぎおって」
トウジが茶化してきた

ふん
アスカちゃんが鼻で笑った気がした

と思ったら
僕に抱きついてきて
皆に聞こえるような声で

「大好きよ!」

それで
そのまま
キスされちゃった


キャーキャー叫ぶ委員長
顎でも外れたみたいなトウジ
毎秒8コマでバッファメモリいっぱいに連射するケンスケ

そのままアスカちゃんに抱きしめられて
僕はアスカちゃんのにおいに包まれた




メール受信

Re:目標100人!

本文
やさしいシンジ、ありがとう
きっとアスカも喜びます

そうそう
日本では通勤通学の電車が乗車率150%だってニュースでやっていました
学校に行くのに1回電車に乗って、その後の0.5回はなんなのですか?
おばさんにはよくわかりません
もし電車に乗ることがあったら教えてください

それから
電話は何時でもかまいませんよ
時差なんて気にしないでかけて下さい
おじさんとおばさんは、シンジからの電話をとても楽しみにしています

それから何回もごめんなさい
どうかアスカの事をお願いします
どんなにたくさん友達がいてもあの子はシンジのことが大好きなんですから



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