極めつけのクソヤロウ!
我が人生最大の敵!
あの顔、思い出すだけで吐き気がする!




モテキ…かなぁ
あははは
高校生活二年目
ぼくの人生で初めての経験





大体見た目がむかつくのよ!
真っ赤なカラコンに髪まで染めて
しかも成績は学年トップ

ああ!むかつく!

大体なんであいつの席がマイダーリンの隣なのよ!
出席番号順!?
知った事か!





「碇君の隣になれてよかった」

へへへへ
お…おっと

にやけちゃダメだ…にやけちゃダメだ…にやけちゃダメだ…






あの女
シンジに色目使って…
ぶっ殺してやろうかしら…

「綾波さん、ここで作者はどんな心境だったのかしら?」

わざと指名してやったわ!
どうせシンジと話してて聞いちゃいなかったんでしょう!?
ザマアミロ!





「狐狸庵は…遠藤周作は阿川弘之との手紙のやり取りからこの文書を…」

うわぁ…綾波…すごいなぁ…
まるで答えを用意してたみたいだ…

「結構です…じゃあ、碇!」

いい!!





ああむかつく!
なんて完璧な答えなの!
思わずシンジに八つ当たりしちゃったじゃないの!

綾波レイ!
全科目成績一番
ついたあだ名が
“ファースト”
むかつくったらありゃしない!

何がそんなにむかつくかって!?






「碇君のこと…すき…かな…」

うわぁ…思い出すたびににやけちゃうよ

えへへへ…
皆でさ、話してたんだ
だれがいいとか、あの子がかわいいとか
で、誰かが綾波に話をふったら
笑いながら僕のこと見てサックリ告られちゃったんだよね

いやぁ〜もてるっていいね!

あ…でも…その会話をぜんぶ聞かれてて

誰にって?
決まってるじゃないか…





むかつくわ!
あのクソガキ!
シンジのこと好きって言った後わたしのほうチラッと見て鼻で笑ったのよ

しかも通りすがりに
「おばさんは用済み」
って言いながら通り過ぎやがって…

きぃぃぃぃぃぃいいいい!





友達と駅で別れ
はいり辛い店へ向う
何度きてもなれないなぁ
まぁしょうがないか
今年ももうすぐだ

バレンタインデー

知ってる人は皆驚くんだけどさ
僕、おねえちゃんとおばさんからもらったことないんだよね、チョコ

おばさんが“プロテスタント”ってやつで、バレンタインさん聖人じゃないんだって
それとおばさんの生まれた国ではバレンタインデーは男女かかわらず親愛を伝える日なんだって

あと、何でだか知らないけど4歳のときのぼくはおねえちゃんとおばさんにチョコを上げたらしく
そんな諸々の事情で毎年、僕がおねえちゃんとおばさんにチョコを渡してるんだ
そのお返しにぼくはおねえちゃんとおばさんからバレンタインカードってのをもらうんだ

ビーマイバレンタイン、シンジ

は読めるんだけどその下の外国語は読めない
かあさんに聞いても
「勉強して読めるようになりなさい」
って意地悪げに言うだけで

イッヒとかダスとか…

さっぱりだよ!






“私はわき目も振らずにあなたのことを愛してる、この愛を生涯貫きます”

そんなにむづかしいドイツ語じゃないんだけど
毎年同じ文面なのに…
何で読めないのかしら?
ママのなんて“だいすきよ、坊や”よ!?

うぅ〜ん
かわいかったのよ?4歳のときのシンジ

バレンタインデーにおばさまにバレンタインのチョコもらって
「今日は大好きな人にチョコ上げる日なのよ」
って言われたらしく

手のひらいっぱいにチョコもって家にきて

「おねえちゃん!だいすきだからいっぱいちょこあげる!あとおばさんにも!」

って嬉しそうに笑いながら

おかげでシンジにあげようと思ってたチョコ渡せなくて
ママと顔見合わせて笑ったっけ

それでお返しにママと二人でバレンタインカード渡したんだけど
ドイツ語で書いてあげたら
“かっこい〜い”って喜んで
それが始まりだったんだけど…

シンジってば、ぜ〜んぶ忘れちゃってるのよねぇ〜







なれたけど…結構恥ずかしい
ちっちゃい頃はかあさんと一緒に買いに来てたから、平気だったんだけど

さすがに視線が気になる…

女の子だらけの店内でチョコの材料選ぶのは…
みんな僕のこと見てるようなきがして

はずかしぃ

そんなこと考えながら材料を物色してると

「碇君!?」

委員長にばったり

「うらやましいなぁ、お姉さんにでしょう?」

ぼくが“あ…”とか“うん”とか言ってると

「一緒に選びましょう!」

って
勝手に僕のこと連れまわして
なんだかデジャブ






仕事の帰り
スタバでお茶してたの
色々ストレスもあるし、ちょっと息抜きで

斜め後ろにシンジと綾波さんがいるのは偶然よ?

偶然、シンジと綾波さんがわたしより先にスタバに入って
それに気付かずわたしも入っただけ
偶然

別に二人の話、聞こうとしてるわけじゃないのよ?
聞こえてきちゃうだけ
偶然ね

偶然なんだからしょうがないわよね?

………

聞き耳なんか立ててないわよ?


「もうすぐ…バレンタインデーね」


ぬぅわにぃ!


「碇君…バレンタインデー…あいてる?」

開いてるわけないでしょう!
閉店よ!
閉店記念セールよ!


「あ…うん…僕も綾波に話があって」


バキッ!


気がつくとさっきまで飲んでたアイスコーヒーはどっかに消えて

ガラスの破片がテーブルに散らばって
危ない店ね

あれ?
シンジと綾波さんは?

あれ?
6時の次って9時だったっけ?
時間泥棒でも出たの?

そうだ
木刀ってたしかまだあったわよね
あら?何でこんな事考えてるのかしら?





2月14日
綾波と待ち合わせの映画館へ向う

おねえちゃんが笑顔で
「バレンタインデーだから遅くならないでね」
って

なんか…
妙に優しい






趣味よ?
時計見るの
何時間見てても飽きないわ

8時を一分でも過ぎたら…

木刀…あれ?

「かくしたわよ」
「ママ!」
「大丈夫よ、シンジ君『友達と出かける』って言っててじゃない」
「女よ!」
「友達でしょう?あんまり嫉妬深いとママみたいになっちゃうわよ?」

ママに色々あって…わたしにはパパがいない
別に寂しくはないけど…

「シンジ君のこと信じてあげなさい、10年の大恋愛なんでしょう?」
「私はシンジのことを心配してるの!」

ぴんぽぉん






あらまぁ
今の今まで私と言い合ってたのにチャイムが聞こえたらもう玄関
アスカったら光の速度でも超えたのね
さすがわたしの娘ね

さて

お邪魔虫は退散しましょう






あれ?もうおばさんでかけるの?
チョコ持ってきたのに

え!
ちょ!
おねえちゃん!

おねえちゃんに手を引っ張られて
上着は引っぺがされるみたいに脱がされて

「手!洗ってくるから!」

ビックリしちゃって、逃げるように洗面所へ

手を洗っておそるおそる食卓を覗くと






思えば初めてよね
バレンタインにシンジにチョコって

まぁ、チョコって言ってもホットケーキにチョコレートシロップなんだけど

わたしの分はハチミツだから…わかるわよね?






うん
早めの晩御飯食べた後だからちょうどいい夜食だね

それにバレンタインデーだからシロップがチョコだ



なんだ?
何でさっきからおねえちゃんずっと笑ってるんだ?

逆に怖い

うわ!






シンジが食べ終わると同時にテーブルから引っぺがしてソファーに押し倒したの

「で?今日はチョコ…もらえたの?」

満面の笑顔で聞いてあげたわ

なぜだかシンジは脅えてるけど
まあいいわ…

しばらくすると
シンジの唇がゆっくり動き出したの

「今日…綾波に…」






「お付き合いしてほしい」

そう言われた

おねえちゃんにそれを伝えたんだ

お姉ちゃんはとっても優しい笑顔で僕の首に手をかけて
ゆっくり手に力を入れたんだ

不思議と抵抗しようとは思わない

首絞められるって思ってたより苦しい







大丈夫よ
シンジ
すぐに悪い夢からさましてあげる

シンジはおねえちゃんのシンジなんだから

安心して

ん?なに?

何か言いたいの?


「…嬉しかったけど…綾波に…『ごめんね』って…」






ゆっくりとおねえちゃんの手から力が抜けていくのがわかった
でも手は首にかけられたままで

でもちゃんと話さなきゃ

「僕にはもう…好きな人がいて…僕は…その人のことが…ずっと好きで…だから…その人と付き合ってるって…いったんだ…」
「うん」
「そしたら…綾波が『惣流先生?』って」
「うん」
「驚いた…「知ってたの!?」って言ったら」
「うん」
「『見てたら…わかる…惣流先生はいつも碇君だけ特別扱い』って…おどろいた」
「うん」
「『だから…ごめんなさい』って言ったんだけど…」
「だけど?」
「『大丈夫…そんなことじゃ諦めない』…って…笑顔で言われた」
「ふーん」
「それで…おねえちゃんに伝えてくれって言われて」
「なんて?」
「『絶対に諦めないから覚悟して』って」

相変わらずお姉ちゃんの手は僕の首にかかってるんだけど
いつの間にか僕は服を脱がされてて






いいわよ
受けて立つわ







ぼくは口移し…で…チョコを

口の周りべとべとになっちゃった
そしたらおねえちゃんが

「もったいないじゃない」

って言いながら僕の唇なめて

わかってたんだ
僕はおねえちゃん以外の人を好きになれない

う〜ん

ちがうなぁ
すきにならない…かな?

恋愛対象に見えないんだ
他の人が

もちろん綾波も

僕の好みってさ…けっこううるさくて

金髪じゃなきゃダメだし
青い目じゃなきゃいけない
背も高くて
隣に住んでないと
それに年上で
少し胸が残念で
うるさくて
おっかなくて

やさしくて
きれいで
やわらかくて

それだけじゃないけど…

そんな人なんだ

偶然、その条件を満たしてる人がいて…

「ねぇシンジ」

もちろんこんな声じゃなきゃダメだし

「昔みたいに…して」

こんな事もいえなきゃいけないし
こんな顔も出来なきゃいけない







シンジは優しくわたしの左目をなめる

きもちいい

むかし…私が14のときかな?
ちょっと色々あって
左目を怪我したの
おかげで今でも左目が少しよく見えない

それで、時々目がうずいて…
そのたんびにシンジがわたしのこと心配して
「おねえちゃん痛いの?」
って

かわいかった

だから冗談で
「シンジに撫でてもらったら痛くなくなる」
って言ったの

そしたらシンジ






「シンジになめてもらったら痛くなくなる」
っていったんだ
おねえちゃん

だから…

おねえちゃん包帯してて
右手かな?
確かギブスしてた

それに左目も眼帯して

今でも何でそうなったかは教えてくれない…






「ねえ…シンジ」

シンジはわたしに乗っかってわたしの左目を優しくなめて…
下半身がどんな状態かはノーコメント

とにかくシンジに優しく抱き寄せられて…
わたしもシンジを抱き寄せて

「なに?」
「だめ…やめないで」
「うん」

続けさせながら

「おねえちゃん以外の女の人のこと…あ…」






返事の変わりに
きれいな
きれいな青い瞳にキスしたんだ

「ぼくは…ぼくはずっとぼくの事、わき目もふらずに好きでいてくれた人がいるから…その人しか好きでいられない…きっと…一生」

ぼくの本心なんだ
ぼくからの告白だよ


え?

あれ?

何でそんな顔するの!?







ちょっと!なによ!
ずっとドイツ語わからないふりしてたの?!

あったまきた!
乙女の純情をなんだと思ってるの!

もう!

こうなったら!

私の本気がどんなもんか!見せてあげるわ!






お姉ちゃんが突然ぼくを抱えて起き上がって

「出かけるわよ!」

っていうなり

あの…ぼくの告白と
おねえちゃんのおかげで色々と…あとちょっとだった腰より下のもろもろとか…

とにかくそんなことお構い無しに、速攻で服着せられて

バイクの後ろに乗せられて
凍え死ぬかとおもった…

あれ?

ここって
教会?

こんな夜遅くに…
おねえちゃん教会の人呼び出して…

なんだろう?





応対に出た牧師様に事情を話したら
「いつでも扉は開かれていますよ」
って笑顔で

さっすが神の使い!





おねえちゃんに手を引かれて中にはいって
教会って言ってもステンドグラスとかないんだなぁとか思ってたら
おねえちゃん十字架の前に仁王立ちして
ぼくに向って

胸に手を当てながら

はっきりと
力強く
ゆっくり
ぼくの目を見ながら
話し始めた





「私、惣流アスカは碇シンジを愛ています、私はこの愛を神様に誓い、そして永遠に貫きます」





おねえちゃんは、まるで宣戦布告みたいにぼくに言い放つと
一気にぼくのところまで来て
ぼくを抱きしめて

思いっきりキスしてきたんだ

今、ぼくがどんな気分かって?

“幸せ”って辞書で引いてみてよ
多分こう書いてあるから

「碇シンジのこと」

てね!






綾波さんのおかげで最低の始まりを迎えたバレンタインデー

でも、結局ハッピーエンドね

さっすがわたし!

んん?

視界の隅に笑顔の牧師様
祝福せよ…って感じ?
見せもんじゃないわよ?

牧師様に向って
失礼のない様に
礼儀正しく
我が家の作法にのっとって

中指を立てて見せたわ


牧師様ったら、あきれた様に十字をきって


中指と恋人の日

いい組み合わせじゃない?



フォークリフトさんからアスカ姐様シリーズの5作目です。バレンタイン編の公開!
やはり、アスカxシンジにおさまりましたね。良いことです。

ところでアスカってどうして14歳の時に怪我してたのでしょうね。まさかEoEの続き?(いやそれはないでしょう)

フォークリフトさんの感想メールはアドレスforklift2355@gmail.comまでどうぞー。

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