ちっちゃいころさ、夢で見たんだ
変な夢で
夜中に目が覚めると変な格好したおねえちゃんがぼくのこと見てて
しかもその格好がアニメに出てくるヒロインみたいな真っ赤な全身タイツみたいなスーツで
おねえちゃんは、ぼくが目をさましてるのに気付いて、微笑みながらこう言うんだ

「大丈夫、シンジのことも…ついでにこの世界も、おねえちゃんが守ってあげる」

って

僕はそれを聞いて、なんだか安心しちゃって

「うん」

って答えて
そのままもう一度寝ちゃうんだ

その夢の事をお姉ちゃんやおばさんに話すと
「マンガの読みすぎ」
って笑われちゃうんだけど

ほんとによく覚えてるんだ
だって
その夢を見てすぐ
おねえちゃんが大怪我して
左目怪我して
右手だっけ?ギブスしたりしたんだから





ふぅ〜ん
夢かぁ

まあ、それならそれでいいんじゃない?

シンジが“夢”って言うんなら“夢”なんじゃない?

さて…それはさておき
今日はママにシンジを貸す約束なのよね

何でかって言いますと
ママに「車かして」ってお願いしたの
シンジとドライブに行くのに

シンジが流れ星を見た事がないって言うから見せてあげようと思って

バイクで行ってもいいんだけど
シンジが
「それだけはイヤだ!凍え死んじゃうよ!」
って弱音吐くから

しょうがないからママに車借りる事にしたんだけど
あのおばはん…





おばさんの車ってさぁ
すごいんだよ
ブホォ!って音がして
マツダの車でガンダムの形式番号みたいな名前のやつ
エンジンが…ロリータエンジン?…でいいんだっけ?

とにかくそれ

よく乗せてくれるんだけど…
多分おばさんて…
日本の道路の制限速度を知らない…んだと思う…

外人だから…かなぁ…







ママに事情を説明して
「車かして」
ってお願いしたら
ママはちょっと考えて
「じゃあママにシンジ君かして」
って言い出して

…まぁ…いいけど…







おばさんと東京までコンサートを見に行く事になったんだ
昔の人の
おばさん曰く

「日本で一番スパンコールの似合う40代なのよ!」

って嬉しそうに

一応知ってる
おばさんの車の中でいっつもかかってたから

ひたすら同じフレーズを繰り返す人でしょう?
“モニカ”だとか“ビーマイベイベー”だとか

織田信長の人でしょう?






ママってば
「じゃあおばさんとデートに行きましょう!」
なんて言って、張り切ってシンジつれて出かけたわ

しかも、コンサートの後、一泊してくるんですって

はぁ…

ママってあれよね…
直接言われた事ないけど
多分、男の子が欲しかったんじゃないかな

まっ
その気持ちはわからないでもないわ

とくにシンジ見てるとね!







ライブは5時から!
あぁ!
楽しみ!
今日は、将来の息子とデートね!

早めに出発したし、東名から三号線で六本木に行こうかしら
お昼は銀座で食べましょう
それで2時過ぎにホテルにチェックインして車預けて…
まぁ、新宿のホテルだから4時前に出れば九段下まではすぐね!

ああ!楽しみ!





おばさんはご機嫌
ところでさぁ
おばさんの車…北米使用ってやつなんだけど…
スピードメーターが今100マイルなんだ…
これってさぁ…





車だと東京なんてすぐね!

シンジ君も喜んでるわ

ふふ…
アスカはよく勘違いしてるけど
男の子“が”欲しかったんじゃなくて
男の子“も”欲しかったの

でもアスカのおかげでそれも叶いそうね!






あぁ…怖かった…
思わず顔…引きつっちゃった…

はぁ…
ここがヒルズってやつかぁ






将来の息子はきょろきょろしちゃって
やっぱり男の子って好奇心旺盛なのね

なんかお買い物なんかしちゃって
東京土産かしら?






………メニューに値段が書いてない
………書いてある料理がなんなのかわからない

ぁぁ…牛丼とかカレーとかないの?







銀座で食事もいいわね
特にこんなかわいい子にエスコートされてると

ふふふ
ただのランチコースなのに緊張しちゃって

後で吉野家でも連れて行ってあげようかしら
そうね!
そうよね!
やっぱり男の子はガツガツ食べないとね!





新宿の大きなホテルにチェックイン
見渡す限りの摩天楼

箱根に遷都するって言ってるけど…
こんなになるのかなぁ?
無理だと思うけど…
大体箱根にはヨドバシもビッグもない!





ホテルに荷物と車を預けて
新宿を息子とプラプラ
電気屋さんの前を通るたびにゲームの値段に驚いて
後でアスカにないしょで買ってあげようかしら?

え?“将来の”が抜けてる?

気にしないで!

あら、あったあった

「ほらシンジ君、吉野家。晩御飯は遅くなるから少し食べてからいきましょう」






よかったぁ
さっきのお昼ごはん…食べた気がしなくて
…でもおばさん
…ここ
吉野家じゃなくて松屋だよ?
多分…おばさんの中では“牛丼屋=吉野家”なんだろうなぁ
まぁいいっか!






やっぱり男の子ってこうじゃなきゃいけないわ!
ふふふ
それにしても
「ほら、シンジ君…ちゃんと噛んで食べなさい」





め…迷路だ
なんだ?この路線図…
知ってる電車は小田急線だけ…
え?
おばさん、これ見てわかるの?





あらあら
シンジ君てば
九段下が見つけられないのね
かわいいったりゃありゃしない!

「ほら、新宿線はこっちよ」

「わ…わかってるよ」

まぁ!
ほんとにかわいいこと






武道館って思ってたより小さい
…いや
それはさておき…
おばさん…
どうやってこんな席取ったの?

“ステージサイド”ってのは聞いてたし
ファンクラブに入会してるのも知ってる

でもここって…

目の前がステージ!?





ああ!
始まったわ!





へー
ふーん
モニカの人がステージに現れると
おばさんは少女になっちゃった
まるでおねえちゃんみたい

後ろを見渡すと
さっきまでおじさんとおばさんだった人たちが皆おばさんと同じになってる





あっという間
本当にあっという間
あ…




最後の曲で
バーンってなって
紙吹雪の長めのテープみたいな奴が客席をヒラヒラ
ちょっと運が悪くてこっちにはあんまりこない

あ…





シンジ君が飛び上がって、ひとつ取ってくれたの
「はい」
そういいながら私に渡してくれた

そこにはステージ上の彼から、みんなへのメッセージが書かれている

「ありがとう」







キス
されちゃった
おばさんに

“ありがとう”って言われて

それに気がついたらおばさんと手を繋いで歩いてた








夢のような時間が過ぎて

まだちょっと寒いけど
人ごみがイヤで一駅歩く事にしたの

うふふ
男の子と手を繋いで歩くなんて何年ぶりかしら?






結局ホテルまで手を繋いで戻ったんだ
で、ホテルのレストランで晩御飯を食べて
その後、おばさんに“バー”に誘われたんだけど







ふられちゃった
ふふふ
でも今日は楽しかった
10歳は若返った感じ

部屋に戻るとシンジ君は夢の中

………
…かわいいわね
…一晩くらいならいいかしら?
…ふふ
アスカに怒られちゃうかしら?

あら?
私のベッドの枕の上に
あら?これ、今日シンジ君が買ってたお土産じゃない?

メッセージカードがついてるわ

“母の日おめでとう、僕とおねえちゃんからです。おねえちゃんは「感謝してるって言っといて」って言いながら僕にお金と店の場所を書いた紙を渡してくれま した。それと僕はおばさんもかあさんも母親だと思ってます。母親が二人もいて僕はとてもしあわせです”






目が覚めるとおばさんは上機嫌
「帰る前にお買い物しましょう」
朝食が終わるとすぐに買い物に連れ出されて
「え!…本当にいいの!?」
ゲームをいっぱい買ってもらった

昨日のコンサートがよっぱど楽しかったんだね






ママの帰宅はすぐにわかる
下品な音立てて車走らせるから

玄関まで迎にでると
ママッたら私に見せ付けるみたいにシンジの腰に手を回して
これ見よがしに左手を見せ付けて
「シンジ君に求婚されちゃった」
ですって
はぁ…その指輪のお金
ほとんど私が出したのよ?
まったく

「はいはい、わかったから上がって…あぁ!」







おねえちゃんはおばさんを追いかけ回して家中走り回ってる
僕は自分の唇をなでてみた
さすがにまずいよ…
おばさん…
おねえちゃんの目の前でキスは…

「いいじゃない!母の日でしょう!?」
「うるさい!この泥棒猫!」

ははは…
これじゃあ冗談でも言えないや

え?
なにをかって?

ははは
帰りの車の中でおばさんに
「アスカのお父さんになってみない?」
って言われちゃって…
うん
冗談なのはわかってるけどさ

「冗談で済むか!」
「母の日でしょう!?いいじゃない!」

あはははは!

僕はそっと手紙を玄関の目に付くところにおいて自分の部屋へ向った
まぁ今のところ僕の部屋はまだ碇家にある
それに僕はもう一人、母の日を祝ってあげなくちゃいけない
もちろんプレゼントは東京で買ってきた
…お金はおねえちゃんが出してくれたんだけどね











うちの娘はこわいこわい

あら?何かしら
これ
便箋?



まぁ!

ふふふ
私、勘違いしてたみたい

私には娘も息子もいるじゃない!









おかあさんへ

僕には二人お母さんがいます

僕の事を生んでくれて、名前をつけてくれて
仕事が忙しくて
だけど、いっつもどっかから僕の事を見てくれてるかあさんと

ご飯を作ってくれて、かあさんの代わりに参観日にまで来てくれて
ものすごくおっかない国語の先生で
だけど、ほんとはとっても優しいおばさん

僕は二人の母親にそれぞれ同じ事を言われます

「自分に正直に生きなさい」
「Live is my life」

だから僕は自分に正直に生きていきます

それに僕は母の日がだいすきです
祝ってあげられるひとが二人もいるんだから!


フォークリフトさんの「ベイビーベイビー」です。
いつもはアスカ姐さんですが、きょうはキョウコ母さんですね。母娘そろって素敵な女(ひと)達です。
素敵なお話を書いてくださったフォークリフトさんへの感想をぜひアドレスforklift2355@gmail.comまで〜おねがいし ます。

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