一方的に待ち合わせ場所と時間を指定された

見慣れた眺め
コンフォートマンション…
僕はここに住んでいた…
何とか僕を操ろうとするミサトさんと

“あんたが全部私のものにならないなら…私は何もいらない”

アスカと


マンションのエントランス前に10時
そう言われて

「誰も…いない」

別についてくるなとは言わなかった
“セカンドチルドレンに呼び出された”
そう言っただけ

それなのに綾波はついてきた

かわいらしい格好をして

一体誰が綾波にマニキュアの存在を教えたんだろう?

まあいいよ

いや…
よくないよ

今日、ついに綾波は行動を起こした
彼女から手を握ってきた

使徒リリス…綾波レイは自分の純粋な欲望に抗えなくなってしまっていた

ん?
待てよ、なぁんだ…はははは!
綾波が願えば!「碇君と一つに」って願えば!

赤い世界が来るじゃないか!

うん!
いいぞ!
もっとやろう!



それはともかく
もうここに30分近く突っ立てるわけで
かといってアスカとの約束をすっぽかすと後がめんどくさくて…

しょうがない

「いこう、綾波」




綾波は頷いて僕の後を着いてきた




見慣れたエレベーターを使い
どこかほっとする扉の前に立った

表札にはミサトさんとアスカ、それにペンペンの名前

少しぐっと来た

ちょっとでも気を抜いたら
「ただいま」
って言ってしまいそうで


部屋の中から騒がしい声が聞こえる

「何でおこしてくれないのよ!」
「何よ!子供じゃないんだから自分で起きればいいじゃない!」
「ミサトのせいで大遅刻じゃない!」
「何でも人のせいにしない!」
「ほんとのことでしょう!」
「あぁ!もう!だったら早く服決めなさい!いつまでパンツ一丁でいるきよ!?」
「うるさい!乙女の戦闘準備は慎重の上にも慎重を重ねるのよ!」
「敵を知らず、己を知らず」
「はぁ!?」
「十年早いって言ってるの!」
「何よ!このおばさん!三十路!」
「香水ふりかけりゃ男が喜ぶって発想がガキなの!」

はぁ…

ぴんぽぉん

「だれよ!このクソ忙しいときに!」
「碇です…遅いんで迎に来ました」
「がっ!」

インターフォンの向こうで絶句するアスカ
本当に君は…

「よ…よくここがわかったわね!」
「まぁ」
「5分だけ待ってなさい!」
「はぁ」

まったく

そうつぶやこうとした矢先
突然、戸が開き

「いらっしゃぁ〜いシンジくぅ〜ん、あら?レイも?」

ミサトさんがすごく意地悪な笑顔で僕たちを迎え入れた
奥からアスカの罵声と悲鳴が聞こえる
あぁ…
今だけ耳が聞こえなくならないかなぁ



僕と綾波はお茶を飲んでアスカの着替えを待つ

ミサトさんは朝っぱらからお酒を飲んで
やたらニヤニヤしながら僕と綾波を交互に眺める

ん?
あぁそっか
自分のアドバイスの結果に満足してるのか

多分ミサトさんからは僕と綾波がいい関係に見えるんだろう

んん?
綾波…なに見てるんだ?

僕は綾波の視線の先を負う

はぁ…
なんともだらしない…

綾波の視線の先には、洗濯物を取り込んでそのままほったらかしにされた下着の一団が

「パンツ」

綾波がつぶやく
視線の先には原色のいやらしい下着と
パステルカラーのかわいらしい下着

「ぱんつ」

綾波がもう一度つぶやいた

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
僕の視線の先を光より早く駆け抜ける物体
その物体は下着の山を抱えるとソファーの後ろに放り込み僕らを睨みつけた

「あんたバカ!?男の前で“ぱんつぱんつ”って連呼して!」

まるでその叫びを無視するように綾波は席をたつと
アスカのすぐ前にかがみこみ

“ぱんつ”

ピンク色の小さい布切れを指でつまみ、立ち上がった

「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

アスカは綾波の手から下着をひったくると
光速の数倍の速度で部屋に駆け込み
部屋の中からは罵声と後悔の言葉が綯交ぜになった金切り声がひっきりなしに聞こえてきた

「あらぁ?シンジ君もやっぱり女の下着に興味津々なのぉ?」

はぁ?
なに言ってんの?ミサトさん

「私たちの下着、ぢーっと見つめちゃってぇ」

ぼくが?
二人の下着を?

「レイがヤキモチ焼いてるじゃない!このこの!」

なんだ?
とってもうっとうしいのに

なんだか心地いい…

なんだ?







アスカは僕が綾波を連れてきたことは想定済みだったみたいだ

なんだ

“あんたなんか呼んでないのよ!”
とかいって今日はそれで終わるかと思ったのに…



どこかで見たような格好に着替えたアスカにつれられ
ミサトさんの下品な見送りの言葉を受けマンションを後にした

「で?シンジは今日、何がしてみたいわけ?」

自分で呼びつけておいて、アスカはまるでお姉さんみたいに気取って

「べつに」
「それ!」
「は?」
「あんたいっつもそれじゃない!“べつに”とか“いいよ”とか!あんたがそんなだからファーストまであんたみたいになっちゃてるじゃない!自覚あん の!?」

僕のせいで?
綾波が?
なに言ってるんだろう?

「まぁ〜たそんな顔する!せっかくこいつがあんたのためにおめかしまでしてるのに!ちょっとは何とか言ってやりなさいよ!」

アスカは一体何を言ってるんだ?

「まぁいいわ、あんたには少しずつ世間ってヤツを教えてあげるわ」

そりゃどうも

「はい!」

ん?
アスカが手を差し出して…
授業料でも取るの?

「はぁ…ほんとに…いい!?レディーをエスコートするんでしょう!?手ぐらい引きなさい!このバ…っと」

バカシンジって言わないんだ
意外
それに
僕のことじっと見て

「とにかく、今日で借りの一つや二つ…返すんだから」

なんだ、結局そういうことか
僕に借りがあるのがイヤで
自分が上位に立てる状況を作りたくて
ただそれだけの事か

じゃあいいよ
付き合ってあげる

精々呆れさせよう

僕が無言でアスカの手を取ると、なぜだかアスカは少してれたような顔をして
うつむいて
「じゃぁ…行くわよ」
僕の手を強く握ると勢いよく僕の事を引っ張る


どうせむくれてるんだろうな…
そう思いながら綾波をみると
なぜか彼女は微笑んでいて
僕の後を楽しそうに小走りで追いかけいた


なんだ?
綾波は僕のことアスカに取られるとか、そういう心配はしてないのかな?

そんなこと考えてたらアスカが楽しそうに
「ほんとあんたたちって兄妹みたいね」
って言ってきて

僕がぽかんっとしてると

「あんたが笑うとそいつも笑う!みてるこっちがわらちゃう!」

そういうとアスカは本当に楽しそうに笑い出した

こんなに楽しそうに笑うアスカをはじめてみた
僕の知ってるアスカは
上辺だけの笑顔が得意で
僕のことはいつも小ばかにしたみたいに笑うだけで

なんだろう
何で僕はこんな事考えてるんだろう?






結局アスカのウインドーショッピングに散々つれまわされて
どういうわけだかアスカに引きずり回される僕の後を着いて回る綾波はずっと楽しそうで

だから僕はガラスや鏡に自分が写るたびに目をそむけるようにした

もし、そこにいる自分が微笑んでいたら
僕はもう純白ではいられないような気がして
だから僕は目をそむけた



「じゃあ遅くなちゃッたけどランチにしましょうか!?」

アスカは僕らを連れまわす勢いそのままにマックに引っ張り込もうとするから
「綾波、肉食べれないんだ」
っていって引きとめたんだ
アスカのこと

そしたらアスカが僕の事のぞき込んできて
まじまじと僕の顔を見て
今度は綾波の事をチラッとみて

「あんた、いいとこあんじゃない」

ってつぶやいて

「オーケー、ファーストはベジタリアンなのね?いいわ、別のところにしましょう!」

楽しそうにファミレスに僕らを引っ張っていった




アスカのくだらない世間話を聞き流しながら食事をすませ…

うん…

やっぱり違う
前のアスカはこんなときは必ず自慢話をしていた
僕はそれを必死に笑顔を作りながら興味深げに聞く振りをしていた…

じゃぁ今度のアスカは?
何が違うんだ?
わかんない…


でもそんな事考えるのはよそう
僕は…
僕たちは…
アスカと僕は
深い付き合いにならない方がいいんだ

絶対



アスカは僕に何回も自分や綾波の事を聞いてくる
なんなんだろう?
せっかくのデザートがとけちゃうよ…

ん?

停電?

「停電!?勘弁してよ!ただでさえこの国は暑くて死にそうなんだから!」

停電…
停電…
あぁ…
そうか
今日か

アスカは相変わらず一人で喋って…
ん?

「ねぇ…あんた、どうかした?」

え?

「なんでそんな顔してるの?」

顔?

ファミレスのガラスに映る僕は
頬杖を突いて
とても楽しげに
歪んだ笑みを浮かべていた



「なんでもないけど?」

僕はわざとらしく微笑みなおし
綾波に視線を送った

綾波の顔は
不安でいっぱいになっていて

急いでアスカに視線を戻すと
何かとてもいいたげな顔で

僕はそれこそ目のやり場に困ってしまって


どうしよう…


こんな時どうすればいいんだ?

僕は本当に困り果てて
とりあえずドリンクバーに向かい、その間に何かを思いつけばと…

その時
天の助けが聞こえてきた

空を飛ぶ飛行機から
使徒来襲を伝える放送が流され
僕は安堵した

席に戻り
わざとらしくないように二人に
「とにかくネルフへ」
って言って

え?
何でアスカは僕のこと睨むの?

「シンジ…あんた…さっき“使徒か”って言ったわよね」

え?
さっき?
停電になったとき?


そういわれると
つぶやいちゃった様な…

「言ったわよね?それを聞いてファーストが青ざめたんじゃない…」

「いったっけ?…覚えてないよ」

「聞いたわ、はっきりとじゃないけど…ねぇシンジ…あんた」

よくわけのわからない事で僕はアスカに問詰められてしまい
しどろもどろになりかけて…

「とにかくネルフへ…」

そういって立ち上がりかけると
急に僕の手を誰かが握り締め
両手で強く握り締めてきて…

その手を見ると

「碇君」

綾波がまるで小さな子供みたいに僕の手をにぎりしめていて

「そうね…とにかく本部へ行くのが先決ね」

まったく納得してないって顔のアスカと三人でネルフへ向った
本部へ向う綾波の足取りはひどく重く
まるで僕をエヴァに乗せたくないようで

もしそうならいったい?
理由がわからない
何で綾波は自分の“絆”とまで言い切ったエヴァと僕の接触を嫌がるんだろう?

エヴァは僕と綾波にとっても絆なんじゃないの?





「何であんた達この暗闇で迷わないわけ?」

二度目だから…

「まぁいいけど…」

前回とは違いアスカはあーだこーだ言いながらも付いてきた
それに
もう蹴られたり踏まれたりするのイヤだし
だからダクトは止めた

最後の日
あの日にミサトさんに連れられて行った
キスされた…
あの場所へ



「で?このエレベータは動くわけ?」
「多分ね」
「多分?」
「動くよ…多分」

綾波がボタンを押すと
エレベーターの扉が開く

「へー、さっすが私のライバル。変な事知ってるのね」

感心するアスカ

だってさぁ
自衛隊にそこらじゅうめちゃくちゃにされて
それでもここは動いてたから
多分非常灯みたいな独立した電源か電池かなんかなんじゃないかな
って思ってさ

「あんた何やってんの?」
「え?」
「さっきから唇触ってニヤニヤして…」

おっと

「なんでもないよ」

綾波は不安そうに僕の手をとり
アスカは不振気な視線を僕に送っていた





ケージに到着すると
僕は一番にとうさんの元へ向った

「ありがとう」

それだけを言うために

とうさんは
「出撃だ…早くしろ」
って言い返すだけだけど

わかるよ?
うろたえたでしょう?
最高だね




しょうがないんだけどさ
近づかなきゃフィールドを中和できないし
だから前回と同じ
匍匐全身
ダクトをよじ登り
やつが見えたところで
二人を連れて側溝に逃げ込んだ

「なに?あいつ」
「使徒…」
「そんなことは分かってるわよ!」

めんどくさいし
時間の無駄だし

「役割分担しよう」
「何よ!?人よりちょっと数字が良いからって!リーダー気取り!?」

やっぱりアスカはアスカだ
うるさいしめんどくさい

「君がリーダーでいいからさ」
「ああ!?喧嘩売ってんの?」
「多分ね」
「いい根性してんじゃない!」

はぁ

「じゃあさ、その怒りを使徒にぶつけて、僕が先行してあいつのフィールドを中和するから」

「オーケー、ついでに撃ち殺してあげようか?」

はぁ…

「綾波はアスカのバックアップ」
「ええ…」
「無視してんじゃないわよ!」





声も出ない!
前回、アスカってこんなのに耐えてたの!?

使徒の溶解液が初号機の背中を溶かす

痛みで気を失いそう…






アスカが使徒を打ちぬく
ようやく痛みから解放された

ほっとしちゃって

踏ん張ってたんだけど
つい

ちょっとした気の緩みで、初号機が滑り落ちて

「無理しちゃって…」

弐号機が受け止めてくれた

「今日も貸しが出来ちゃったじゃない…」

何でだろう?
さっきまでわーわー騒いでたのに…
何でこんなに優しい声なんだろう?








僕たちはエヴァから降りると
非常用の階段を使って町の高台に出た

前回三人で町の明かりを眺めた
あの場所だ



「ねえ、シンジ」
「ん?」
「あんたは何でエヴァに乗ってるの?」

赤い世界に行くため

「なんでかな…忘れた」
「はぁ…ほんとにあんたは…で?ファーストは?」
「絆だから」
「シンジとの?」

綾波は黙って頷いた

「モテモテじゃない?シンジ」
「そう?」

沈黙

「聞かないの?」
「え?」
「何で私がエヴァに乗るか」
「エリートだからでしょ?」

かなり嫌味っぽく言ってやった
言ってやったんだけど…

アスカは膝を抱えて
顔を埋めてしまった

「エリートなんかじゃない…」
「そう?」
「振り向いてほしい人がいて…死ぬほど努力して…」

初めて聞いた…
アスカの弱音…

それに…

振り向いてほしい人?

「ママにね…こっち見てほしかったの…あんたと一緒」

え?

「あんたもそうでしょう?さっき指令のところに一番に行って『ありがとう』って…お父さんに振り向いてほしかったんでしょう?」

僕は…

「わたしね…エヴァの…チルドレンに選出された日…」

僕は…

「ママが死んだの…」



「それからずっと…私はあの日のまま…振り向いてくれる人もいないのに…死ぬほど努力し続けて…飛び級でも何でもして大学に行って…エヴァのシンクロテス トで記録の更新を繰り返して…」

アスカは…

「おかしい?」

「…」

「やっと見つけたのよ…」

「何を?」

「あんたよ」

え?

「日本に“本物”の天才が現れた!神に選ばれた子だ!」

僕?

「正直…それを聞かされたとき…嬉しいのか悔しいのかわからなかった」

「わからない?」

「ものすごい努力をしたのよ?私…それこそ…血尿だって何度も…」

アスカが…努力してた?
そんな話…
そんな話前回は一度も…

「私はそこまでしたのに…シンクロ率は一発で越されて…使徒との戦いも…それに今日」

「今日?」

「譲ってくれたんでしょう?」

「…」

「あーあ!」
アスカは大きな声でそう叫ぶと
大の字にねっころがる

「シンクロ率は高い!戦闘は私より一枚上手!その上情けまでかけられちゃってる!」
「そんなつもりじゃ…」

「その上バカみたいにやさしい!」

え?

「泣いてる女の子をほっとけない!」

え?

「使徒が分裂したときも、マグマの中でも…私が泣きそうなのわかってたんでしょう?」

そう言われて星空に照らされるアスカの顔を覗くと
瞳のほかに輝くものが見えた

「どこの王子様よ!?あんたは!?」

僕は…

「シンクロ率も叶わない!戦闘でも叶わない!その上自分は痛い思いしてわたしに手柄まで譲る!」

僕は…

「やっと見つけたわ!私の新しい目標!」

…僕は何もしたくないだけで

「あんたを振り向かせる!」

あの世界に…
あの赤い世界に返りたいだけで

「勘違いすんじゃないわよ!エヴァで無理ならどんなことしてでもあんたを振り向かせてやる!それが今の私の目標!」

アスカは
涙で瞳を潤ませながら
僕に微笑んで見せた

ぼくは
どうしていいか分からなくて

大の字に寝転がるアスカの手を見て…

なんだかその手がとても寂しそうに見えてきて…

どうしても我慢できなくて…

その手を握ってしまった



「バカ…ほんとに…どこの王子様よ…」



アスカの声は
とても満足そうで

僕は視線を逃がしたくて
綾波のほうを向くと

綾波は僕の事をじっと見つめていて
その顔は
とても嬉しそうで…

僕の手に重ねられる綾波の手のひらも
とても暖かく感じられた



僕は…

いま

この世界を守りたいって思ってる



“きっと気の迷いだ”

そう思わなければ
僕は純白を汚してしまいそうで
赤い世界を失ってしまいそうで

でも

両手から伝わる暖かさに
僕は抗えるんだろうか


フォークリフトさんの「あの頃の僕なら」第3話です。
シンジがすこしづつボロを出し始めたところでしょうか。内面ももっと吐露していいと思うけど…
アスカももうシンジに心開いてくれてるし、シンジもシンジもー(ノ゚Д゚)ノ

続きの待ち遠しいお話を書いてくださったフォークリフトさんへの激励・感想をぜひアドレスforklift2355@gmail.comまで〜おねがいし ます。

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