望めばなんだって…
そういわれたから…
深く考えたわけでもなく

「もう一度、皆のところへ」






僕は公衆電話を握り締めていた

もう片方のてにはとうさんからの手紙とミサトさんの写真

………

“もう一度”って…そういう意味じゃなかったんだよ…綾波


まるで人生の再放送
全てが記憶のまま

ミサトさんが迎に来て
車がひっくり返った

僕はミサトさんから受け取ったパンフレットを読むふりをしながら後悔した

なんでまた、あんな地獄みたいな日々をもう一回…

いやだ…

どうせなら滅茶苦茶にしてしまおうか…

いやだ…

そうだ
何もせずにいよう
そうすれば
時間さえ過ぎれば
あの赤い世界に…

そうだ
そうしよう

「ねえ、シンジ君?聞いてる?」

考えに気をとられて生返事しかしない僕
それをさも不満げにミサトさんは…

あなたはいつもそうだった

良いときも悪いときも
ずかずかと人の心に…

一度だって僕の事を本当に好きにさせてくれなかった

そうだ

だから

もう一緒はごめんだ

僕がそう決意したその時

エレベーターの戸が開き
見慣れた人が
僕の記憶そのままに現れた

金髪に水着で白衣

ちょっとした露出狂だね

リツコさんはミサトさんとひそひそ話し

別にどうでもいいよ
聞かなくても解る

それにしても…
こうやってあらためてみると
リツコさんて結構胸があるんだ…

とうさんはこの胸に…

じゃましてやりたいな…

それに、リツコさんはミサトさんと違ってこの組織に深くかかわってたし…
それなりに上手くやれば静かに暮らせそうだ…

そんなことを考えていると
エヴァのハンガーに…

明かりがともる

「ひさしぶり」

僕は初号機に向ってつぶやいた

ミサトさんには聞こえなかったみたいで

ただ…
リツコさんは“え?”って顔をして

少し不注意だったかな?

直後、
とうさんに声をかけられた

振り向くとそこにはとうさんが

ようやくわかったよ

その顔
僕を前にして、どう接していいかわかんなくて
困惑してるんだね

思わず笑っちゃうよ

偉そうにエヴァに乗れだってさ

いいよ?
ここで僕がごねなければ
少なくとも今日は綾波にあわずにすむし

僕はおとなしく従うことにした

でも
ちょっと憂さを晴らしたくって

「火傷はもういいの?」

とうさんの背中に向って

どんな顔してるんだろう?
きっと無表情装って
困惑してるんだろうな

“息子から逃げちゃダメだ”

って、念仏みたいに唱えながら






エヴァの中に入る

「ただいま」

もちろん声には出さない

だいっ嫌いだけど落ち着く

この血のにおい

ここがかあさんの中だっておもうと
落ち着く

まぁ、外は大騒ぎなんだろうな

あれ?
僕が最後に受けたシンクロテストの数値っていくつだったっけ?

まぁいいか

上手い事やってごまかそう




「いい!?歩く事だけ考えて」

はいはい
仰せの通り

進む先には…

使徒

こいつ、強いのかな?
散々な目にあった記憶しかないから…

僕はミサトさんに言われるまま、ナイフを取り
ヤツのコアめがけて突進した







結局左腕はへし折られて
右目もひどい目に…

まぁ
それでも何とか倒したけど…

エヴァをケージに戻すと
僕はすぐに病院に放り込まれた

まぁいいさ
どうせまたあの天井だ







検査が終わり、ミサトさんに連れられる

あ…そうか

エレベーターの前
戸が開きとうさんと鉢合わせた

僕はをとうさんに笑顔を見せる

とうさんは視線をそらし
戸が閉じた

精々困惑してよ
その方が楽しいからさ







「迷惑です、一人でいいです」

案外簡単にミサトさんの申し出を断る事が出来た
はっきり物を言うって気持ちがいい


僕は第六区画で一人静かに過ごす
僕一人だけの世界だ

日記でも書こう

きっと毎日真っ白だ

なんて素敵なんだ

監視カメラや盗聴器までいとおしく思える






ミサトさんのおかげ?
アスカのおかげ?
僕は家事全般がこなせる

まるでこのための予行演習だったみたいだ

アスカ…

逢いたくない…

気分を変えよう

僕はとても素敵な発信機付きの携帯を手に買い物に出かけた

学校に行く気はない
いってどうするの?
トウジに殴られる?

いいよ…もう

今日は日記帳を買おう
とびっきり綺麗な日記帳を買おう
シミ一つない真っ白な日記を






毎日が充実してる

朝7時に起きて
朝食をとって

仕度を整えて部屋を出る

途中でコンビニによって
サンドイッチとジュースを買って
あの高台を目指す

ミサトさんとこの街を見下ろしたあの場所へ

とてもいい気分だ
何時間眺めてても飽きない

コンビニで買ったサンドイッチを食べながら街を見下ろす
あのビルはいつ壊れるんだっけ?
クレーターが出来るのはあそこらへんでいいんだよな?

僕だけの至福の時間

それを楽しんだ後、シンクロテストに向う

テストを適当にあしらい
ミサトさんに学校に行けって言われるのを聞き流す


夕食を買って部屋に戻り
食事が済むと日記を開き日付を書き込む

素敵だ
真っ白だ
僕が今日一日何もしなかった証だ

そして僕は
えもいわれぬ幸福感につつまれ
眠りに落ちる






高台から街を眺めていた
いい気分だ
コンビニでサンドイッチと一緒に買ったお酒は捨てた
おいしくなかったから

ミサトさん…こんなもん有り難がって飲んでたのか

至福のひと時はもうすぐ終わるらしい
人の気配がする
監視の人たちじゃない
あの人たちはもう少し気が効いていて気配なんか感じさせない

解ってた
時々感じていた

「碇君」

ベンチの横に立つ少女

「緊急招集…先…行くから」

綾波か…
気になってたんだろうなぁ
僕のこと付回して

綾波のこと取り上げたら
とうさんどんな顔するかなぁ…

すぐ行動に移した
悩むよりはいい
時間もかからないし

綾波のてを取り引き止めた

あ…そうだ…
今日が初対面なんだ…
そうか

綾波は無表情に僕を見る

解るよ?
ドキッとしたんでしょう?
それをどう感情にあらわせばいいか知らないんでしょう?

「これ、食べ終わるまで待ってよ」

僕は綾波の手を握ったまま町を見下ろし
サンドイッチをゆっくり口に運んだ

そうだ…

「ねえ、これなら綾波も食べられるでしょう?」

僕はポテトサラダサンドの片割れを綾波の手に押し付ける

「肉、入ってないから」

綾波は無表情に僕を見下ろす
内心は困惑しきってる
ただ、それが表情に出せないだけ






僕は綾波に手を引かれネルフへ向った
僕が手を離さなかっただけなんだけどね







変えられないことってあるんだ

一人で静かに過ごそうって
僕は決めたのに

僕は使徒との戦いへ駆り出された
前回は刺し違えたあいつだ

別に二度目だからって楽勝なわけもなく

むしろ場慣れしちゃってる分
激戦になちゃって
結局山に叩きつけられ

トウジとケンスケをたすける羽目に

結局また差し違えだ

僕は謎の少年を装い
二人とは目も合わさず
何を聞かれても返事もせず
別れた


こんな事で僕の純白の日々を汚されたくない


ミサトさんにはしこたま文句を言われた
“気が動転して”“わけがわかんなくなって”“すいません”
そんな返事のオンパレード
ヘタに刺激してもろくな事はない

ただ、通りすがりにリツコさんが
「随分慣れてるみたいね?」
ってカマをかけてきて

しらばっくれるのもアレだし
「いいにおいがするんです、あの中…昔どこかでかいだような」
笑顔でこたえてみた

「そう」

リツコさんも笑顔で
でも顔には
“どこまで知ってるの?”
って書いてあった

うん
上手く釣れそうだ







僕の不注意だ

「おい!お前あの時の!なぁ!そうだろう!俺だよ俺!」

ケンスケと鉢合わせ

記憶を辿り
高原を散策していて
ばったりと

しつこく話しかけられて
めんどくさいから
「ごめん…何もいえないんだ」
って答えると
ケンスケは一人で興奮しだして
「スゲー!極秘任務ってヤツか?!憧れるなぁー!」
なんていいだして

少し懐かしくて
笑っちゃって

危うく打ち解けるところだった





無理やり渡された電話番号は捨てた

見なくてもかけられる
僕の記憶にははっきりと11桁の番号が刻まれてる
前回の記憶だ









僕はとうさんをいじめる事にした
もちろん直接にじゃない
とうさんが僕に対してそうだったように
僕もとうさんに対して歪んだ愛情を見せることにした

15時50分
僕は学校の帰り道で綾波を待ち伏せた

僕を見つけた綾波は
すぐに視線をそらし僕の横を通り過ぎようと
緊張してるんだろうな
綾波

僕は綾波の手をとり
「つきあってよ」
手を引いてあの高台に向った

「あ!おい!俺だよ!相田!おーい!」
僕は振り向き手を振ると、ケンスケに向って人差し指を唇に当て
“内緒”
ってジェスチャーをして見せ
綾波をつれて駆け出した

「トウジ!、あいつだよ!ほら!このあいだの!」
ケンスケの声が遠くなる

このくらいの距離を保てれば
きっと心地いい





高台のベンチに腰掛け
綾波に野菜サンドを押し付け
町を眺め

「たのしいの?」

綾波の言葉に黙って頷いて答えた

綾波はサンドイッチをチビチビかじる

「たまには良いでしょう?錠剤以外の食事も」

返事はなかった
顔を見れば解る
“あなたはだれ?”
って、そんなとこかな?

だから

「ぼくの顔めずらしい?」

綾波の心が、ますますかき回されていくのがわかった







夕べ夜遅くまで映画を見て
朝方までチェロを弾いて
目が覚めたら昼を過ぎていた

なんだか気分が晴れなくてシャワーを浴びる事にした


笑えないよ…
これじゃあまるで…


僕はよく鍵をかけ忘れる
第六区画に住んでいるのは僕一人で
警備も監視も万全だし

でも…
これって…

シャワーを浴びて部屋に戻ると綾波が突っ立っていて
僕に気がつくと無表情なりに困惑して
綾波なりに焦りながら僕にIDカードを渡そうとしてきて

焦った綾波は足をとられて
僕はそれに巻き込まれて

「どいてくれる?」

あの時とまるで逆







急いで立ち去ろうとする綾波を引きとめ
ソファーに座らせて

「紅茶しかないから」

っていいながらカップを渡し
二人でお茶を飲んでからシンクロテストへ向った

ネルフへ向う車内で僕は綾波に話をした
興味なさげに聞く綾波
でも内心は…

「とうさんはさ、きっと僕との接し方がわからなくてさ。だからあんななんだと思うんだ」
「そう」
「だから僕はとうさんの事をわかってあげようと思うんだ」
「そう」
「とうさんの事、信じてるんだ。だからエヴァにも乗る」
「そう」

心にもないことを言う自分がおかしくて
思わずにやけちゃうと
僕の顔を見た綾波が視線をそらした

綾波なりに照れてるんだと思う

それに
この会話は必ずとうさんに伝わる

今、僕たちの回りにいる人たちのうち何人かは
そういう仕事で僕の周りにいるわけで

だから必ずとうさんにこの会話は伝わる

きっととうさんは苦しむに違いない
自分が接して上げられなかった息子が
自分が愛情を示さない事でしか自分の愛情を表現してやれなかった息子が
自分の理解者かもしれないって
かあさんと同じかも知れないって

苦しんでね
とうさん





エヴァの中から見たとうさんと綾波の会話は
まるでお互いが不倫をしている夫婦のようで
とてもぎこちなく
僕が広げた波紋が早速二人を巻き込んだと思うと

愉快だ








綾波の再起動実験
使徒が来る日だ…

僕は綾波の起動実験を眺める

もちろん実験前に綾波に声をかけておいた
「エヴァが僕たちの絆なんだね」
って

意味深でしょう?

僕と綾波
僕と綾波ととうさん
僕たちと皆

どうとでも取れる

とうさんは顔はエヴァに向けたまま
視線を僕に

僕はきずかない振りをして出来るだけ穏やかな表情で綾波の乗るエヴァを見つめた

とうさんはさ
僕をあれこれ調べてる

悪いけどすぐに気付くよ

前回はなかったような“身体検査”や“健康診断”それに“聞き取りテスト”があったからね

いくらでもどうぞ
いくらやっても僕が“碇シンジ”当人だって結果が出るだけ

困惑してるんだろうね
それを想像するだけで楽しいよ!

前回僕に“優しく”接してくれた人たちと距離を保つ
前回僕に“距離”を置いた人たちにほんの少しだけ心を開いてみせる

ただそれだけでこんなに愉快だなんて

僕は本当にこれぽっちも何もしていないのに

本当に素敵だ!








僕の記憶の通り使徒が現れ
起動試験は中断され
僕は追撃に出る事になった

どうしよう

“あいつすごいビーム打つんで気をつけてください”

なんて言う訳にも行かないし

だから結局ミサトさんが
「よけて!」
って叫んだ瞬間
射出コースの出口寸前で固定装置を振り払い、足を突っ張り無理やり止まって見せた

すぐ上の地表からは大轟音

僕はケージに戻されることになった








作戦は前回と同じ

僕が狙撃手で綾波がディフェンス

まぁ入院しないですんだ分色々と

ライフルの徴発とか盾の徴発とか
僕がやらされた




作戦開始前
僕は綾波と食事を取った

「こわくないの?」

綾波が話しかけてきた
前回は僕の台詞だった言葉だ

「こわいよ?」
「そう」
「でも…」
「…?」

思いっきりかき回してやった
綾波の心を

「守ってくれる人がいるから…大丈夫」

綾波は僕の言葉を聞くと、
「さよなら」
って言い残して行ってしまった
きっと誰もいないところで、とうさんのめがねでも握り締めて心を落ち着かせるんだろう

今の綾波の心は波浪警報で
“綾波レイ”って小船は今にも波に飲み込まれそうで
その海は“感情”で出来ていて

綾波が感情に溺れるまでもう一押しで

そうなってしまえば
綾波は人一倍脆い存在になる

そうなった綾波はとうさんの思いを受けきれず
とうさんはリツコさんへ逃げ込む


なんだ
簡単じゃないか


じゃあもう一押しだ

とうさんが耐え切れるギリギリのところまで追い詰めよう


笑顔で





変えられないのかな?
やっぱり一撃目は外れて
二発目で使途を倒した

綾波のエヴァは当然丸焦げで
僕は“またか”なんて思いながら、甲斐甲斐しく綾波を助けに向かい
プラグの中で力なくうなだれる綾波を抱きしめ
耳元で
「ありがとう」
って何回もささやいた

綾波は
「ごめんなさい…こんな時…」

そこまで喋らせたところで、僕は
「綾波の代わりなんかいないんだ…」
綾波の言葉を塞いだ

我ながらなんか…ねぇ

でも

綾波の手が僕の背中に回り
そっと抱きしめてきた

綾波は沈んだ
感情の海へ

あとは二度と浮かび上がらないように気をつければそれでいい





大変だよ?
とうさん
綾波にしたいことが出来ちゃった
どうする?
もう、とうさんだけのお人形さんじゃなくなちゃったんだよ?





そうだ…
日記に書こう
今日は記念日だ…
純白を穢してもいい位の


僕は
日記帳に初めて日付以外の文字を書き込んだ










すこしめんどくさい

僕の真っ白な日々が少し…

朝7時におきて
朝食を一人で…

でも
昼食は二人

特に会話はないんだけど

綾波と二人で



綾波は僕の言葉を真摯に受け取ってくれたみたいで
僕の朝食が終わる頃、僕の部屋を訪れ
用事がなければ夜までずっと僕について回る…

そのうち、ここで暮らすって言い出したらどうしよう



まあいいや

別に今だって、たまに手を握ったり一緒にごはん食べるだけで
そんなに何かあるってわけじゃないし

綾波は暇さえあれば僕の日記をながめているだけだし

僕の純白の日記帳
その白さを穢した小さなシミ

あの日のページ

それをじっと見つめている

そこには一言だけ…
“綾波”
って書かれている

それを見ては微笑んでいる

溺れてしまった綾波

さて
次はリツコさんだ










向こうから誘ってきたんだ
何か下心があるのはわかる

「ちょっとお茶でもどぉ?」

とうさんにでも頼まれたんだろうけど
尻尾を掴むつもりかな?

「いいですよ」

僕にとってもリツコさんは避けては通れないし
それに…



冷たいものを飲みながら、他愛のない話ばかり
「ここの暮らしはどうか」とか「何で学校に行かないの」とか「お父さんとあまりあえなくて残念?」とか

ボクシングで言えばフットワークを使ってる感じ
だから僕は軽く、牽制のジャブ

「なんだ、安心しました」
「あら?何がかしら?」
「リツコさんに呼び止められたからてっきり」
「てっきり?」
「このあいだの健康診断で何かあったのかって」
「…あぁ、あれね。健康そのもの!問題なかったわ」

なんだ、そんな事?
そんな表情のリツコさん
でも目はには
“気味が悪いくらい碇シンジそのものだったわ”
って書いてあって

リツコさんもやり返してきて

「そうそう、レイがね」
「?」
「引越したいって言って来たのよ」

…冗談じゃない
まさか僕の部屋に…

「随分打ち解けたみたいじゃない?」
「まぁ…」
「近直お隣さんが出来るわ、そのときはよろしくね」

なんだ…
それなら…まぁいいか

「それにしても、あのレイが他人に興味持つなんて」

ボクシングで言えば僕は殴られっぱなし
ここらで一発カウンター

「人形じゃないんですから…綾波だって」

“そうね”
そんな表情で笑って見せるリツコさん
でも、喉素まででた言葉は

“あなた…どこまで知ってるの”

いやな沈黙
だから僕は答えてあげる事にした

僕とリツコさんのストローの包装紙を取って
ねじり合わせる

ほら、出来た
我ながらそっくりだ

僕はストローの包装紙で出来たロンギヌスの槍を無表情に眺めて見せた

リツコさんの目元から笑みが消える

「赤い方がよかったかな?」

僕がつぶやく
リツコさんは何がかしら?って顔をして見せて

でも、勝負はついた
ボクシングで例えれば
僕はリツコさんの股間を蹴り上げて戦闘不能にしたようなもの
もちろん反則

あ…

リツコさんは女の人か…
まぁいいや

「あら、もうこんな時間」

そんなことをわざとらしく言いながら、リツコさんは席を立った

「忙しいんですね」

白々しい僕

「明日の準備がね」

明日?
あぁ…
そうか、JAか
そうか…
それじゃあ
ついでだ…

「“希望”…だったっけ…うまくやりますよ」

多分聞こえたと思う
つぶやいただけだけど

リツコさんは覗き込むように僕の顔を…

「上手じゃない」

そういうと僕の手から包装紙で出来たロンギヌスの槍を引ったくり
僕の鼻先にキスをして行ってしまった


僕の負けかな?

やっぱり大人だ

ま、いいや
伝わったよ
多分

それに槍やJAの事は多分とうさんには話さない
リツコさんはそういう人だ
自分で納得いかないことをベラベラ人に喋ったりしない

僕は解けない数式のままでいればいい

そうすればリツコさんは…





あれ?綾波…
いつからそこに?

なんで怒ってるの?



どういうわけか
綾波はその日一日僕と視線を合わさず
僕の二歩くらい後ろをついて歩いて

なんだろう?
何で機嫌悪いんだろう?







とんでもない馬鹿力!
僕はリツコさんの指示通りJAを押さえつけた

ミサトさんはいない
リツコさんが言いくるめたらしい

それでも僕はやっぱり前回と同じで
こういうところは変わらないらしい
変わったところって言ったら
リツコさんから直接指示を受けた事と

「あなたの“希望”通りに止まるわ…あのポンコツ」

って耳打ちされ
頬にキスされたこと





そしてポンコツは止まった








部屋で天井を眺める

残念だ

僕の真っ白な世界
その純白の世界から一つ消えたものがある

それは“静寂”

お湯を沸かす音が聞こえる
紅茶を入れるんだろうな…

食器を並べる音…

僕を呼ぶ声

僕は天井を眺めるのをやめチェロをしまい食卓へ向った

リツコさんへのこれからの対応は少し考えよう

僕は食卓で紅茶とそれを入れてくれた綾波を交互に見た
綾波の視線は落ち着かない

まぁ、顔赤くしてるみたいなもんかな?

流石に本当に隣に越してくるとは…
まぁいいけど

それに
これ…

綾波が「丈夫そうだから」って言って選んだんだけど…

「今日は碇君の番」

黒皮の手帳?を渡される

交換日記のつもりらしい
綾波の書く内容は難解な専門用語で
ほぼ日報

僕の各内容は…

僕の事を書きたくないし…

純白の日々を汚されたくない
だから
僕の部屋で綾波が何をしていたか書く

奇怪な交換日記



日が暮れ
綾波は部屋に戻っていった
皆が期待するような事は今のところ起こってない

僕は黒皮の手帳を開き日付を書き入れた


○月×日
朝食を作り綾波と食べた
二人で部屋の掃除をした

綾波に昼食の用意を手伝ってもらった
ありがとう

昼寝をしているとギーギーと奇怪な音が聞こえた
綾波がチェロを引こうとしていた
へたくそ

綾波の入れてくれた紅茶を飲み
二人で買い物へ

晩御飯は僕が作った
後かたずけは綾波がしてくれた
ありがとう

綾波
今日もありがとう






心にもないことを書き連ね
僕は手帳を閉じた

カレンダーをみる

胸が悪くなる

いやだ
明日が来なければいいのに

だって明日は

アスカが来日する日だ


フォークリフトさんの新シリーズ「あの頃の僕なら」第一話です。
スレた感じのシンジ君がいいですね。
アスカだけは苦手らしいってことは、アスカにだけは純な反応を示したりするんでしょうか?!どうなるのか続きが気になりますね。
素敵なお話を書いてくださったフォークリフトさんへの感想をぜひアドレスforklift2355@gmail.comまで〜おねがいし ます。

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