「シンジ〜、変わったモノが食べたい」

 

 

 すべてはその一言から始まった。

 

 


アスカの楽しみ♪

byもきゅう


 

「何、言ってんだよ。今日のご飯は決まってるんだからね。そんな我が儘言わないよ」

 

 シンジは夕ご飯であるふろふき大根を作りながら、リビングのイスに腰掛けシンジの背中を見つめているアスカに言った。

 

「だって、今日も大根料理なんでしょ〜、もう飽きたわよ。

 昨日はぶり大根と大根のみそ汁。一昨日は大根サラダが出てたし、一昨々日は辛み餅食べたでしょ。

 毎日毎日大根ばっかりじゃ飽きるわよ」

 

 そう、ここの所の葛城家では大根尽くしの料理が出ていた。

 シンジだって何もアスカを苛めて出している訳ではない。

 今月は非常にピンチなのだ。普段出張が多いミサトが今月に限って全く出張が無い。

 よって、酒代が増える=食費がピンチになる。

 ミサトはそれでも良い。大根をつかった料理は酒の肴が多いから。

 しかし、アスカは同じモノを何日も食べさせられる事に飽き飽きしていた。

 シンジだって、本当は嫌だった。だから手を変えて色々な料理で誤魔化していた。

 

 「あ〜あ、今日も大根食べさせられる位ならどっか行けば良かったな〜

 私が一声掛ければ世界中の名コック達がこぞって私においしいモノ食べさせてくれるって言うのに・・・」

 

 テーブルに手を着き、イスの前の部分を少し持ち上げ、こつんこつんと落とす。

 そんな事言いながらも、アスカはシンジの作ったモノを食べなかった事は無い。

 シンジもアスカがそんな事言ったとしたって、食べなかった事は無い事を知っていた。それは二人が付き合い初めてもう1年になろうとしているから。

 エヴァと言う呪縛から逃れ、何とか立ち直った二人はお互いを認めあい、いつの間にか心が近づき、いつの間にか付き合っていた。

 どちらがどちらかに告白をしたわけでは無い。

 だが、二人はお互いを必要とし、そして好きだった。

 その事はお互いが知っていれば良いこと。

 そのままミサトという保護者としては落第ギリギリだが、二人の良き理解者の庇護の元に一緒に暮らしていた。

 

「ゴメン、アスカ・・・・」

「ううん、良い。私だって今月はピンチなの知ってるモノ・・・我が儘なのは判ってるから」

 

 カタッとイスを止め、シンジに向かって笑うアスカ。

 だからこそアスカが食べたいと思うモノを食べさせてあげたかった。

 シンジは作りかけの材料を見て考えた。アスカが食べたいと思うモノを・・・

 

「そうだ。よし、こうしよう。待っててねアスカ」

 

 材料を見て何を思いついたか、俄然やる気を見せるシンジ‥‥。

 アスカはシンジのやる気を見て、悪い気はしなかった。好きな人が自分の為に頑張っている姿を見ていたから。

 例えそれで今日も大根料理が出てきたとしても良くなった。

 丁度その時、ミサトが部屋から出てきた。

 

「おっ!美味しそうな匂いねー。シンちゃん今日のご飯はな〜に?」

「あっ、ミサトさん。丁度良かった。ちょっと聞きたかった事があるんですけど」

「何なに?お姉さんが何でも答えてあげる♪もしかして、夜這いの方法かな?うんうん、夜這いアスカ楽しみにしてるしね〜♪」

 

 台所から話しかけるシンジにミサトは嬉しそうに答えた。

 

「な、な、何言ってんのよ!そんな事シンジが聞くわけ無いじゃない!」

「判ってる。判ってる。アスカはそんな事しなくたっていつでもOKだもんね♪」

 

 イスに座っていたアスカは飛びあがる様に立ち上がると、顔を真っ赤にしてミサトに怒鳴る。

 ミサトはそんなアスカは見てケタケタと笑い出した。

 二人をからかっている様でミサトも嬉しさを表現しているのだった。

 辛い戦いを生き抜いた二人には幸せになって欲しい。そんな気持ちの表れだった。

 勿論、二人だってミサトがそう言う気持ちでからかっているのは知っている。

 家族だから・・・・・本当の家族だと思っているから心を隠さず本気で本気で怒るのだ。

 

「で、何シンちゃん」

「あっ、えっと、ちょ、ちょっとこっちに来て貰えますか?」

「はいはいっと」

 

 シンジに呼ばれてミサトはキッチンへと入っていく。

 

「おっ!今日はもしかしてふろふき大根?」

「はいそうなんですけど・・・・」

 

 何か言い出しにくそうにしているシンジを見て、そして作っている途中の料理を見る。

 ピンッと閃いたミサト。

 

「私は何でも良いわよん。シンちゃんの作ったご飯は何でも美味しいからね」

「良かった」

「それだけ?」

「はい」

「じゃ、私はえびちゅでも・・・・」

 

 これがミサトの目的だったらしい。

 ミサトは冷蔵庫を開けるとよく冷えたビールを一本取り出すとすかさずプルタブを開け口を付けた。

 

「ミサトさん。お酒は夜まで駄目だって何度も言っているじゃないですか!」

「まぁまぁ、一本だけだから・・・ね♪」

 

 そのままミサトは部屋へと向かう。

 リビングではアスカがむす〜っとしか顔でミサトを見ていた。

 

「焼かない焼かない。シンちゃんのラブラブ料理が出てくるし夕ご飯はアスカ楽しみよね」

「なっ!」

 

 絶句するアスカ。やはりミサトのからかいには太刀打ち出来ない。

 ミサトはケラケラと笑いながらアスカにウインク一つ残し、笑顔で部屋へと戻っていった。

 

「全く!ミサトは何しに来たのよ!」

 

 怒り顔のアスカにシンジは苦笑した。

 

「あれ?ハンバーグ?どうして・・?」

 

 シンジ達の前には大根が並んでいるが、アスカの席の前だけハンバーグが並べてあった。

 そのハンバーグを見て、アスカは戸惑う。

 

「いや、あのね。鳥の挽肉のあんかけを大根にかけてふろふき大根にしようと思ったんだけど、ミサトさんはこうしてっと」

 

 シンジは熱々のだし汁を大根に掛ける。そしてその上にユズの皮を少し散らした。

 シンジのはと言うと、大根の上に昆布を乗せ、その上にだし汁を掛けた。

 

「ミサトさんはお酒の肴になるように味を濃くして、その上にだし汁を掛けるんだ。

 一応、僕のオリジナルふろふき大根かな?

 僕のはあんまり濃い味にしたくなかったからそのまま煮て、昆布でちょっとアクセントを付けたやっぱりオリジナルのふろふき大根だよ。

 アスカのハンバーグは、ホントなら牛肉で作りたかったけど鶏肉しか今日は買ってないからそれで許してよ。

 あっ、上に掛かってるソースはいつも掛けてる奴だし、不味くは無いと思うけど・・・」

 

 シンジの優しさにぐっと来たアスカは下を向いて堪える。

 そして、ぎゅっと手を握りしめると

 

「こ、こ、このバカシンジ!私が我が儘言ったんだから、無視して同じのを出せば良かったじゃない!」

 

 下を向いていたアスカはいきなり机を叩くとシンジに言い放った。

 自分の我が儘な所は判っている。だからそんな所はシンジに無理やりでも諌めて欲しかった。

 自分の為を思ってしてくれた事は凄く嬉しかったが、だからこそ諫めて欲しかった。

 

「それ位、判ってるよ。

 でも、僕はアスカの為に今まで何一つしてあげる事が出来なかった。

 だから、アスカの為に出来る事はしてあげたかったんだ」

「だったら、叱ってよ。

 私が我が儘だったら叱ってよ。

 私の事を思うなら叱ってよ!」

 

 シンジの言葉にアスカが叫ぶ。

 そんなアスカの姿を見て、シンジは笑顔を見えた。

 

「うん。本当に我が儘だって判ったときは僕だって叱るよ。

 考えてもみてよ。アスカが部屋を掃除さぼった時とか僕、ちゃんと叱ってるでしょ?

 決めた事を守らなかったりしたときは僕でも怒るよ。

 でも、出来ることならアスカの希望を叶えてあげたいって思っちゃ駄目かな?

 それで窮屈に感じるならしないよ。それに僕はアスカの笑顔が見たいんだ」

 

 アスカはシンジの笑顔を見たとき自分の怒りがすーっと消えて行くのが判った。

 そして、抑え切れないほどの嬉しさがこみ上げてきた。

 

「シンジ・・・・・シンジ、優しすぎるよ・・・・・・」

「僕はね。アスカの笑顔が好きなんだ」

 

 すっとシンジは右手を伸ばすとアスカの左頬に当てた。

 アスカの瞳からはこらえきれず涙が溢れた。その涙は頬にあてたシンジの手の上を伝い、そのまま床へと流れ落ちた。

 でも目はシンジの目から離さず、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「ご飯冷めちゃうしさ。早く食べよ」

「うん」

 

 アスカはシンジの用意した鶏肉ハンバーグの前に座り、シンジはミサトを呼ぶ。

 

「ちょっち今忙しいのよ〜、これ終わったら行くから先食べてて〜」

「じゃ、先食べますね」

 

 何かをしている様だが音は聞こえない。

 でも、何かをしていることは雰囲気で判るとシンジはイスへ腰掛ける。

 

「全くミサトは家族の絆をなんだと思っているのかしら」

 

 涙を拭いて気を取り直したアスカはぼやく。

 シンジは苦笑しながらも

 

「ミサトさんも忙しいんだからしょうがないよ。食べてる内に来ると思うしさ」

「そうね。シンジが折角作ってくれたハンバーグが冷めると嫌だし」

 

 二人はユニゾンで手を合わせると

 

「「いただきます〜」」

 

 今でも健在だった。

 

 

「でねでね、ヒカリったら・・・・・」

「ふ〜ん、でもケンスケだって・・・・・」

 

 何気なく出来る普通の日常会話が幸せだと気が付いたのは何時だろう?

 楽しそうに話しながら食事をしていた。

 その時、シンジが掴んだ大根がアスカは気になった。そして、ハンバーグを見る。

 

 にやり・・・

 

 なにやら思いついたらしい。

 徐々にハンバーグを一口大に切り取る。

 

「シンジ、あ〜ん」

 

 この頃、凄く巧くなった箸使いで一口大に切ったハンバーグをシンジに差し出す。

 いきなりのアスカの行動に驚くシンジ。

 

「な、何?!」

「だ・か・ら、シンジ、あ〜ん」

 

 笑顔でシンジにハンバーグを差し出すアスカ。

 

「は、恥ずかしいから止めてよ」

 

 その言葉に途端に笑顔を隠し、俯いてしまうアスカ。

 

「そう・・・・・・・やっぱりシンジは嫌なんだ・・・私、シンジにも美味しいハンバーグを食べて貰いたかったのに・・・・ううっ・・」

「そ、そんな訳無いじゃないか!」

「じゃ、食べてくれる・・・・・?」

「も、勿論だよ。アスカが食べさせてくれるんだから喜んで食べさせて貰うよ」

 

 喜怒哀楽が激しいところがアスカらしいと言うか、この場合ワザとだろう。

 その証拠にすくっと上げた顔はしてやったりとした悪戯っ子の笑顔だった。

 

「じゃ、食べてね♪はい、あ〜ん♪」

「とほほっ・・・あ、あ〜ん」

 

 また騙されたと思いつつも口を開けるシンジ。

 アスカは嬉しそうにシンジの口へハンバーグを入れた。

 

「美味しい?」

「うん、美味しいよ」

「じゃ、今度はシンジのふろふき大根を私に食べさせて・・・・ね」

「う、うん・・・じゃ、あ〜ん」

「あ〜ん♪」

 

 二人はお互いに食べさせ合いお互いのおかずを半分こにした。

 この日からアスカの楽しみがまた一つ増えた。

 わざわざ違うおかずを作って貰いシンジと半分こにすると言う楽しみが・・・・

 

 

 

 

 

「シンジ〜、今日も半分こにしようね♪」

「とほほ・・・・・」

 

 嬉しそうにおかずを切り取りシンジへ差し出すアスカ。

 がっくり来ている様でいてシンジも嬉しそうに見えるのは気のせいなのだろうか・・・?

 それを知っているのは二人だけだった。

 

 

 

 一方食事もせずに部屋に籠もっていたミサトは・・・

 

「全くあのひげおやじめ〜、何で私にやらせんのよ!

 そんなに二人の様子が気になるんだったら一緒に暮らしゃー良かったのよ!

 全く独身には辛いってのに・・・ぶつぶつ・・・」

 

 ぶつぶつ言いながらキーボードを叩いていた。

 目線の先に見えたのは、先ほどのシンジがアスカの頬に手を当て微笑んでいるシーンと、

 アスカが嬉しそうな笑顔で困った顔のシンジにハンバーグを食べさせているシーンだった。

 

「シンちゃん、アスカ、ご免なさい。

 お姉さんは悪魔に魂を売っちゃったのよ」

 

 ミサトの部屋の中を埋め尽くしていたのは冬季限定のえびちゅの空き缶の山だった。

 

 

 

おわり


あとがき〜(^±)/p>

 パンッパンッ!(クラッカーの音ね(笑))HP開設おめでとうございまーす(^±)/p>

 とうとう、怪作さんもHPを開設なさったのですね。

 こんなに嬉しい事はないですよ〜(T_T)

 素晴らしい作品の数々を書き上げる怪作さんのHPですから大繁盛間違いなしですね(^±)

 

 怪作さんのHP開設を祝いまして拙い作品ではありますが、お送りさせて頂きました。

 HPのご発展を切に願って・・・・

 

 苦情、感想などあればメールをもきゅうまで下さい。

 ではです。

 


 もきゅうさんからお食事LASシリーズ(勝手に命名)のお話を頂きました‥‥。

 烏賊墨ファイアー!!

 ‥‥‥と、いうくらい烏賊は感激であります。

 これから二人はスルメを使って松前漬、イカリング、イカの煮物といろいろな料理を試して、二人で食べるのでしょうね。
 みなさんもぜひもきゅうさんにメールを送ってください。

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