名誉返上

<保安諜報部の価値は?>


byむぎさん




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前回、コメントで怪作氏に「返上する名誉も持っていないようだ・・」

と言われてしまった保安諜報部。

そのことを知った保安諜報部(特にチルドレンガード課の面々)は

涙に暮れた(笑)


えぐえぐと泣きながらぼやく保安諜報部。

「俺達は精鋭だったはずなのに・・」

「戦自やUNや警察から引き抜かれてネルフに来たのに・・」

「だいたい、間抜けな所ばっかり紹介するから、怪作氏も

奇特にもこの話を読んでくださった方々も勘違いするんじゃないか」

「何で、わざわざ汚名挽回してる所ばっかり書くんだよ・・」

「ちょっとくらい、俺達の本当の姿も書いてくれよ・・」



・・・・・黒服、黒眼鏡の屈強な男達が白いハンカチを涙で濡らすの図だ。

器用だなあ・・サングラスかけたままで涙拭いてるよ。どーやってんだろ?



ちょっと気の毒なので、またしてもこいつらの話なのである。



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さて、Xデーを探るのにかまけ、職務がおろそかになったために、

チルドレンの部屋が泥棒に荒らされる・・と言うちょんぼをかました

保安諜報部チルドレンガード課。


しかも、盗聴機がセカンド・サードの暮らす部屋でなく

加持家にあると発覚したのは、その後2週間も経ってからだ。


「・・・3週間も経ってるんじゃ・・なあ?」

「だよなあ・・いくらなんでも、もう済んでるよな・・」

「てことは・・・・どうするんだ?」


・・・例の賭け、まだやってたのか・・・


「司令に報告しなきゃならないんだよ!!」


ご苦労様です。





ま・・まあ、それはさておき、もうこれ以上恥をさらしてなるものか!と

まじめにお仕事に励むガードのメンツ。

そこへ、一本の情報が舞い込んできた。

曰く、


「ペプシマンが第3新東京市に来る」


この情報を聞いた時、保安諜報部内に戦慄が走った。





ペプシマン・・・ここで笑ってはいけない。

ここで言っているペプシマンは某炭酸飲料のお間抜けなキャラクターではないのだ。


それは各国に名の知られた、名だけしか知られていないヒットマン・・

殺し屋の名なのである。

金さえ出せば、80歳の老婆でも生まれたばかりの赤ん坊でも

情け容赦なく始末する。

年齢も性別も容姿すら謎に包まれた人物。

ペプシマンが仕事をした後には「シュワー・・」と書かれた紙が

一枚現場に残っているという。





・・何者かはわからないが日本人じゃないのかな。カタカナで書いてあるんだし・・

・・・日本語が堪能なだけかも?そうですね。





そのペプシマンが来る!!


何が狙いだ!?

聞くまでもないだろう。

お偉い政治家の先生が狙いなら、第2東京に現れる。

それが第3新東京に現れると言う事は・・・


標的はおそらくチルドレンだ・・・





保安諜報部、チルドレンガード課の顔がプロの顔に変わった。





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情報の出所を確かめる。

ガセに躍らされるわけにはいかないのだ。

同時にファースト・セカンド・サードのガードを即座に強化

チルドレンガード課以外の諜報部員にも協力を要請し、

ペプシマンがチルドレンを狙うとしたら、

何時、何処で、どうやってかを検討し、何パターンもの対応策を用意する。

チルドレンをガードする以外にも、チルドレンの行動範囲内を

ブロックごとに分け、各所に諜報部員を配置、不審人物及び爆発物の

警戒に当たる。


諜報部員全員に防弾チョッキの着用が命じられた。

やはりガセではないらしい。


シャコン・・残弾を確認して、ホルスターへ銃を収める。

予備の弾をしまい込みながら、顔を見合わせる面々。

言葉は無い。

ただ、与えられた任務を果たすだけだ。

チルドレンを守ること。

それが、彼らの任務なのだ。


「行くか」

「ああ」


黒のジャケットを羽織って、次々に部屋を出る保安部員

必要以上には気負わず、だが決して気を抜きはしない。


今・・彼らの真価が発揮される。





かもしれない・・




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「本当は、チルドレンを安全な場所に保護しておきたいとこだな」

サード担当2班のV(33歳)がぽつりとつぶやく。

「・・なんで、そうしないんすか?」

セカンド担当2班のC(22歳)が、前方を歩くシンジとアスカから

目を離さずに言った。

「司令の指示だとさ・・娘に息子、それに義理の娘まで囮にしてでも

ペプシマンを捕まえたいらしいぜ」

「なんか、恨みでもあるんですかね。ペプシマンに・・」

「さあな・・ペプシマンを送り込んできた組織に

睨みを利かせるためじゃないか?」

Vが苦々しく答えた。





ネルフは今では研究機関となっているが、それでも

起動可能なエヴァ3体を保有しているということは、

各方面に十分な威圧を与えていた。

一時はエヴァとそのパイロットを一体は中国、

もう一体はアメリカに転属させろ・・と言われていたのだ。

もちろん先頭に立って、やいのやいの 言っていたのはゼーレの幹部であった。

それを、どんな外交手腕を振るったのか、強引になかった事にしてしまったのが

ゲンドウである。

当然風当たりは強くなった。風速100m級だ。

だが、それを表だっては出せなかった。

エヴァ3体を第3新東京市で保有しなければならない正当な理由を

ネルフはでっちあげていた。

国連がそれを許可してしまった以上、正面からは手の打ちようが無かったのだ。

となれば、エヴァを無力化する方法は限られる。

パイロットがいなければ、どんな兵器も意味が無い。

たとえエヴァンゲリオンといえども・・・

そして、エヴァさえなければネルフなどどうとでも潰せる。


この結論に達するのにさほど時間は要らなかった。

現に今までにも、チルドレンを狙った小物を数回、

保安諜報部は捕らえていた。

しかし、小物なだけにたいした情報は得られず、

犯行を指示した組織も架空の組織だった。


けれど ペプシマンを捕らえる事が出来たなら・・・


ペプシマンにつなぎが取れるほどの組織などそうそう無い。

その時点で、いくつかの組織に圧力をかける事が出来るのだ。

すなわち、

「未成年のパイロットに危害を加えようとした事を公にしたら、

世論が黙っちゃいないぞ。何だったら証拠付きで公表しましょうか?」

これである。


裏には裏の駆け引きというものがあるのだ。





「・・・それでも、自分の息子を囮にしようなんて、俺なら考えられんな・・

だから・・あの人は司令職が勤まるんじゃないか?」

「・・・そんな立場には付きたくないっすね・・」

「まったくだ」


VとCは前方10mの所を楽しげに話しながら歩く2人のチルドレンを

見つめた。


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アスカと並んで歩きながら、シンジはちら・・と背後に視線を走らせた。

アスカは素知らぬ振りで歩いている。


「何かあったのかな?」

シンジが何気なく言う。

「そうね・・今日は真面目にやってるものね・・」

アスカもふう・・と息を吐く。

いつもなら、妙に目に付く尾行の仕方をしている諜報部が

今日は気配を消し、まるで影にでもなったようだ。

「やれば出来るくせして、いつもおチャラケてるんだから」

アスカが苦笑する。


「いつもの配置と違うしね・・」

それに気づいてしまうシンジもシンジなのだが・・

「この配置って事は、また殺し屋でも来たのかしらね」

そんな事までわかってしまうアスカもアスカだ。


2人は顔を見合わせて、肩を竦めた。

「・・・まあ、大丈夫でしょ・・」

「そうだね。アスカは必ず僕が守るしね」

アスカがシンジを見上げた。

なーまいきー・・と、茶化そうかと思った。

ばかね・・と笑ってやろうかとも思った。

けれど・・・

微笑みの中にも真剣なまなざしで見つめられていたので・・


「・・・・・・」

アスカは何も言わずに微笑んでうなづいていた。

シンジが、笑いかえした。


その時、離れた場所に立つ高い建物で、


キラリ・・


何かが光った。





「伏せろ!!」


背後からの声に、間髪入れずにシンジがアスカの頭を抱え込みながら

地面へと倒れ込む。

その髪の毛数本をかすめて、銃弾が地面をえぐった。

コンマ数秒遅ければ、シンジの額に穴が開いていただろう。





声を発したのはVだった。

シンジ達が地面に倒れ込んだ時には走り出していた。

Cの声が聞こえる。


「マルタイが狙撃を受けました!!D2ブロック。

第3新東京ホテルからです!!」

マイクに向かって報告するCの目にもう一度

同じ場所からの輝き。


「第2射!!来ます!!」

Cが叫んだ時には、アスカをかばって、体の下に抱き込んでいるシンジの

さらに上にVが体を投げ出していた。


ボン!


Vの背中に衝撃が来た。

「っ!!!」

歯の間から息を漏らしただけで、

Vはその体を2人の上にかぶせ続けた。





『・・・俺達の・・俺の仕事だ・・!!』


Vは歯を食いしばった。





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今はサード担当だが、3年前はセカンド担当だった。

セカンドチルドレン・ロスト

その後7日目にしてようやく発見。


Vはアスカを発見したうちの一人だった。


あの時のアスカを・・Vは憶えていた。

虚ろな目

やつれた体

蒼白な肌

廃屋の中の汚れた水のたまったバスタブの中で、

ぶつぶつと何かをつぶやいていたアスカ

たった14歳の少女をここまで追いつめた。


大人と呼ばれる人間がよってたかって、この子を壊した。

この子達を壊した。





その思いを、忘れられるはずなどなかった。


だから

だからこそ


サードインパクトを経て、普通の子供として生きているチルドレンを

これ以上大人の都合で振り回したくなどなかった。


あらゆる危険から、子供達を守る盾でありたかった。

それは保安諜報部、チルドレンガード課全ての思いだったのだ。





もう、使徒は来ないのだ。

これ以上、子供達の細い肩に人類の存亡などかける必要はないのだ。


俺達がプロの顔などしなくて済んでいる事こそが

保安部が無駄飯を食っていられる事こそが


何よりの名誉なのだ。









背中にもう一度衝撃が来た。

みし・・と体の中で音が聞こえた。

アバラがいったらしい。


けれどVは呻き声すら出さなかった。





まだか・・・


まだ・・着かないのか・・?





今ごろは諜報部がペプシマンのもとへと走っているはずだ。


ペプシマンを捕らえさえすれば、背後の組織に圧力がかけられる。

そうすれば、もうチルドレンを狙う輩もいなくなるだろう。


『なるほどな・・・』


Vは、薄く笑った。


ただのひげメガネではないという事か・・・

これを最後にするための大博打だったわけだ。


チルドレンを堂々と囮に使った裏を返せば

それをガードする保安諜報部への信頼があったのか。


にやりといつものように笑うヒゲ面が浮かんだ。


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「Vさん!!」

Cも走ってきた。

運良く2発とも防弾チョッキに守られた背中だったが

頭を狙われたらアウトだ。


Cの姿を見て、Vがシンジを庇いながら立ち上がらせると

植え込みの影へと移動した。

Cもアスカの盾になりつつ後に続く。








そのままどれくらい身を潜めていただろうか・・


Cのイヤホンに


「確保!!」


と言う言葉が飛び込んできた。








保安諜報部は、今度こそ汚名を返上したのである。





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数日後


ネルフ内保安諜報部室にアスカとシンジが現れた。


学校帰りらしく制服姿だ。





相変わらず黒服・黒眼鏡がわらわらといる中から

Vを見つけ、近づいた。


「よお、どうした?珍しいな」

Vがデスクについたまま、笑った。


「お礼を言いたくて」

シンジがぺこ・・と頭を下げる。

「大丈夫なの?アバラがいっちゃったんでしょ?」

アスカが眉をひそめた。

「ははは、鍛え方が違うさ。大丈夫だよ。」

Vが笑った。





「Vさん・・さっきまで死にそうな顔してましたよねえ・・」

「あいつは女の子の前だと無条件でいい格好するんだよ、昔から・・」

「でも、セカンドは売約済みじゃないですか・・いくら格好つけたって」

「DNAに染み付いてるからな・・あいつのええかっこしいは・・」


こそこそと言い合う黒服のメンツ。


「お前ら・・・陰口は、本人に聞こえないように叩けよ・・」

Vが低い声で言った。


「これは陰口じゃなく悪口ですから」

黒服の一人が言う。

「同じ事じゃねーか!!陰口だろうが悪口だろうが出入り口だろうが

本人のいないとこで叩け!!どあほ!」

Vがいっきに言い放って、いてて・・と顔を歪めた。

「だ・・大丈夫ですか?」

近くにいたCが心配そうに言う。

「あ・ああ、まあな」

Vが苦笑する。

「出入り口・・・って・・」

「叩いてどうしろってのよ?」

アスカはシンジと顔を見合わせた。

やがて 笑い出す。


その日保安諜報部室にチルドレンの笑顔があった。








がんばれがんばれ保安部員

まだまだファイトだ!諜報部


いつかほんとに君たちが

プロの顔なんか見せずにいられる日まで。


どうか 君たちも元気でいてね。

子供たちと笑っていてね。

作者は本当にそう願ってるよ。







END


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こんにちは むぎです。

こいつらの間抜けっぷりが

ちょっと可哀相になってしまったので(笑)

汚名を返上させてあげてみました。

いかがでしたでしょうか?

私は政治やら暗黒街やらの方には詳しくありませんし

腹芸も出来ないたちなので、その辺の適当さは

目をつぶって頂けるとありがたいんですけど。

では


 むぎさんからまたまた投稿小説をいただいてしまいました。

 みごと、保安諜報部は汚名を返上しましたね…。
 妙な失敗はしても、やるときはやる!頼れる人たちでしたね。
 それになんだか「いい人」たちだったし…

 うーん、今回は保安諜報部がとてもよかったなぁって思うです。
 読んでよかったです。

 みなさんも素晴らしいお話を贈ってくださったむぎさんにぜひ感想をおくってください。

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