心の手当て

byクロメ



さっきから中庭でシンジが上級生たちに絡まれてる。
遠くにいるから、何を言ってるかは聞こえない。
でも、絡まれてるのは分かる。

「お前、あの外人の事好きなんだろ?」
「一緒に暮らしるらしいじゃん。そりゃあ気になるよな。」
「毎日もんもんとしてんじゃねーの?」

「……。」

「何か言えよ。ほらっ!」
「ドンッ」

尻もちをついた。
でも、起きあがろうとはしない。

上級生がシンジの襟元をつかむ。

「なあ、ホントはやりたくて仕方ないんだろ?」
「襲っちゃえばいいのに。」
「できねーよなー。ひょろひょろだもんなお前。」
「あははは」

「……。」


シンジは何も言い返さない。
ずっと黙ってる。
アイツ、言われっぱなしで悔しくないのかしら…。


…ったく…。

アタシは見ていられなくて、シンジのいるところへ走って行った。

「アンタたち、何してんのよ!!」

「うわっ!!本人!!」

「は?
アンタたち、ひとりに3人がかりで恥ずかしくないの!?
しかも上級生でしょ?情けないわね、だいたい…。」

「アスカ!いいから…。」

「ちょっと、なんで止めるのよ!
ちゃんと言っておかないと、また同じことするわよこいつら。」

「いいって!教室戻るよ。」

「な、なんでよ!!
嫌よ!!アタシはまだ言いたいことがいっぱいあるんだから!!
アンタだけ戻りなさいよ。」

「お…お前ら、何俺らの前でいちゃついてんだよ。」

「は〜?いちゃついてなんかないわよ。うるさいわね。
今はシンジと話をしてるのよ!
ちょっと待ってなさいよ、後で相手してあげるから。」

「いいから、アスカ戻るよ。」

シンジはそう言うと、アタシの腕を引っ張った。

「い…痛いわよ、離しなさいよ。
アタシ、まだアイツらに言いたいことあるんだから!!」

「……。」

「ちょっと、なんで黙ってるのよ。
…もう!離してよ、腕が痛いって言ってるでしょ。」

痛いっていうのはホントだった。
シンジがすごく強くアタシの腕をつかんで引いていく。
ううん…引きずられてるっていう感じ。


結局、シンジに手をひかれ、
ムカつく上級生にはほとんど何も言えないまま、教室まで戻ってきてしまった。

HRが終わってだいぶたつので、
教室にはもう誰もいなくなってしまっている。


「…ったく、なんで逃げるのよ。
あんな奴ら、ギタギタにぶん殴ってやればよかったのに。」

「いいんだよ。」

「なにがいいのよ、アンタ絡まれてたんでしょ?」

「…でも、あの人たちの言ってたこと、当たってたし。」

シンジはそう言うとうつむいた。少し、顔が赤い。

「?
何を言われたのよ。」

「え…?アスカ聞いてなかったの?」

「遠かったから聞こえなかったわ。なんて言われたのよ。」

「い…言えないよ。」

「は?助けてあげたのよ?言いなさいよね!
アタシには聞く権利があるわ。」

「そんな…。」

「ほら、早く言いなさいよ。」

シンジは困ったような顔をしていたけれど、
アタシが執拗に聞くので、ついに観念し、何か言い始めた。

「……って。」

「なに?聞こえないわよ。大きな声で言いなさいよね、男でしょ?」

アタシにそう言われたシンジは、
真っ赤な顔で泣きそうになりながら大声で言った。

「『あの外人の事好きなんだろ』って言われたんだよ!!」

「…え…。」

アタシもシンジと同じように急激に顔が赤くなっていく。

『あの人たちの言ってたこと当たってたし。』ってシンジは言ってたから、
それってつまり…。

「ちゃんと言ったんだからいいだろ。
もう僕帰るから…。」

シンジはアタシに背を向けると、教室の出口に向かって歩き出した。

「…待ちなさいよ。」

「なんだよ、もう放っておいてよ。」

「違うわよ、痛いの!!」

「?」

「腕が痛いって言ってるのよ。」

「え?」

「さっきアンタがつかんだ腕が痛いのよ。」

「え…あ、ごめん。」

シンジが歩みを止めて、アタシを見た。

「責任取りなさいよね。」

「責任!?」

「そうよ!」

「どうしたらいいの?」

「シンジ、手当てって言葉知ってる?」

「え…うん。
治療とかそういう意味でしょ?」

「そうよ。
でも、実際に手を当てることで傷が治りやすくなったり、
痛みが引いたりすることがあるんですって。
きっと、人のぬくもりが治療してくれてるのよ。」

「へぇ…?」

「だから、アンタもアタシを手当てするのよ。」

「え…?」

かなり譲歩して色々言ってあげてるのに、シンジは鈍い。
アタシの言わんとすることが全く理解できてない。

「バカね、なんでわかんないのよ。
こういうことよ!」

「え…?」

シンジの反応にじれったくなったアタシは、シンジの胸の中に飛び込んだ。

「あ…アスカ?
どうしたの?」

「手当てしてるのよ。さっき言ったでしょ?」

「手当てって…でもアスカ、腕が痛いって…。」

「うるさいわね、全身痛くなっちゃったのよ。」

「ぜ…全身!?大変じゃないか!病院に行った方がいいよ。」

「バカじゃないの?こんなの病院で治せるわけないでしょ。
だからアンタが手当てするのよ、ほら早く。
その手はなんのためにあるのよ。」

「僕の手…?えっと…あ!」

何かひらめいた風のシンジは、次の瞬間、アタシを自分の手で包みこんだ。

「あ…アスカ…あの…手当てだから、我慢してね…。」

「仕方ないわよ。」


ホント…世話が焼けるんだから…。

けど…シンジってば告白してくれたのよね?
じゃあ今度はアタシから…。



「アスカ…これで体痛くなくなるの?
アスカって変わってるね。僕だったら病院に行っちゃうな。」

「は?」

「だってこれ、治療なんでしょ?」

「あ…
アンタバカ〜?」

「え…?なんで…?」




終わり♪

クロメさまより短編です。

仲が悪そ…うなことすら全然なくって、実にアマアマでラブラブな二人ですね(笑

寄贈インデックスにもどる

烏賊のホウムにもどる