居候は甘い夢を紡ぐ


第四話
こめどころ






アスカのお腹がやや目立ってきた2月。既にもう6ヶ月になろうとしている。
私学の受験が始まった。受験会場でアスカは当然の事ながら注目の的だった。
金髪、碧眼、おまけに妊産婦である。その日会場には、ミサト先生の手配して
くれたハイヤーで乗り付けた。降り立って、冷え冷えとした朝の空気を吸い込
む。冬の関東の空独特の金属的な晴れ上がりかた、雲一つない快晴だ。


「頑張るのよ」

「大丈夫よ。まずは肩ならしってとこよね」

「お馬鹿。甘く見ちゃダメ。ここだって私学じゃ難関よ。問題自体としては、
あんたが狙ってるとこより難しい設問が有るんだから」

「はーい。さすがは3年生の担任だけあるわね」

「それから万が一、お腹の方の異常があったら、連絡入れて、さっさと帰って
くんのよ。ハイヤーさんにはここで待っていてもらうように言ってあるからね。
絶対無理はしないって約束して頂戴。受験票と筆箱は持ったわね」

「はあい!」


先生の顔になってミサトが言うとアスカはぺロっと舌を出して構内に駆け込ん
でいった。


「あ、走っちゃだめよっ」


声をかけた時にはもうアスカは人込みに溶け込んで、金色の頭と赤いチェック
のマントがちらちらするばかりだった。

試験会場は第3棟の1階大講堂。ピラミッド形の建物が特徴的だ。33104
00、3310401、3310402、ここだわ。両隣りともまだやってき
ていない。少し速すぎたかも知れないが遅すぎるよりはいい。


「ミサト、シンジ、か。まあ縁起のいい番号だわね」


チュッ、と音を立てて受験票にキッスをすると、机の右上にある差し込み口に
セットした。ほどなく教室がいっぱいになると試験官が入場して来た。始めの
合図で一斉に試験用紙がめくられる。

同じ頃シンジは第五棟の中教室にいた。かりかりと鉛筆が動いている。調子は
いいようだ。得意な物理である。ものの40分程で全ての設問を解き終った。
2回見直しても時間が余った。ふと窓の外を見ると対面にある棟からぱらぱら
と人がでてくる。大講堂は受験者も多いのででてくる人数も多いのだろう。そ
の時シンジは目を見張った。金色の髪の毛に赤いチェックのマントコート。黒
い編み上げのブーツを履いた少女が所在無げに落葉樹の並木の横のベンチに腰
を降ろしたのが見えたのだ。ガタン! シンジは思わず立ち上がっていた。


「君!退出するのかね」

「あ、はい!」


少年は部屋を出ると一気に階段をかけおりた。間違い無くアスカだった。12年も
一緒に暮らしていた少女の後ろ姿を見誤る訳が無い。扉を押し開けるとそのまま
外に飛び出した。きょろきょろと見回す。違う。さっき窓から見えた場所じゃ無
い。裏側にでてしまったようだ。猛然と棟を迂回しようと走り出した。反対側に
でたとたんに、わっと人込みに包まれた。試験時間が終って受験生が皆でて来た
のだ。怒号を浴びせかけられながら人をかき分けかき分け、もみくちゃになって
窓から見た場所に辿り着いた。金色の頭はもうそこにはいなかった。その時だ。


「シンジ」


振り返った。そこに会いたくて会いたくて、気の狂いそうな思いをした少女が紙
コップを持ったまま立っていた。シンジはまるで小鳥に近付くように手を伸ばし
ながらにじり寄った。そしてゆっくりとアスカを腕の中にくるんだ。


「アスカ・・・。やっと捕まえた」


周囲のざわめきが静かになった。皆が2人に気が付いて見つめている。


「ね、ねえ。みんな見てるよ」

「かまうもんか」


シンジはアスカを固く抱締めたまま、柔らかなアスカの金の髪を何回も撫でた。
うっとりと目を閉じてその愛撫に身を任せていた少女は、急にハッとして叫んだ。


「あ、だめ。赤ちゃんが潰れちゃう」


そのとたんに弾かれたようにシンジはアスカを離した。ざわっ。また周囲の人垣
にどよめきが走った。


「おい!今赤ん坊、とかいったよな」

「こっちは受験でヒイヒイいってるっていうのに、あいつら赤ん坊かよ」


なんとなく周囲に不穏な空気が立ちこめはじめているが2人はまるで気付いてい
ない。人の輪がだんだん縮まって来る。


「そうだった! 僕らの赤ちゃんはどうなったっ」

「だいじょうぶよ。ちゃんとここで立派に育ててるから。もうマタニティ−ガー
ドルもしたんだよ」


シンジは思わずアスカが優しく撫でている下腹部に目をやった。


「ガードル?」

「そ。日本では腹帯とかって言うんでしょ。ミサトがいっしょに水天宮まで行っ
てくれたんだよ」


そう言いながらマントをめくってお腹を見せる。チャコールグレーの、ちょっと
スモックみたいなマタニティ−ドレスのお臍の下辺り、お腹が少し膨らんで見える。
おおおおお。受験生達のどよめき。
ほとんどの真面目な受験生にとっては、同い年くらいの清純そうな美少女のお腹の
ラインを想像するだけでもかなり刺激的なのに、そ、それが柔らかく膨らんでいる
というのは妄想の連続攻撃、機銃掃射を受けたようなもんである。その場で立ち眩
らみを起こすもの、のぼせて慌ててハンカチで鼻を押さえるものが続出である。


「ミサトって、あっ、葛城先生のところにいるのっ」

「うん。あ、もう次の試験始まるよ。もどらなきゃ」

「じゃ、昼休みにまたここで会える?」

「うんっ」


周りを取り囲んでいた受験生達がさっと道をあける中を2人はそれぞれの教室に向
かって走っていった。そのあとをぞろぞろと付いていく受験生達。


「はぁ。俺なんで受験なんかやってるんだろうな」

「言うな。俺も訳わかんなくなってる所だ。こう・・・空しさとかそんなもん押し
殺してやって来ただけだからな」

「うかったら何をおいても恋人作るぞ。あんなの見せつけられちゃあ、たまらん」


「なんか。最初は吃驚したけど。素敵だったね」

「あああっ。私も早くお嫁に生きたいっ」

「女も社会性を持って頑張るんじゃ無かったの」

「それはそれ、これはこれよっ。ああーッうかったら恋人作るぞー!」


ともあれ、2時間目の試験が各教室ともなんとなくピンクがかった靄が立ちこめて
いたのは事実であった。試験用紙そっちのけで夢想に耽ってしまったものも多かっ
た。罪作りなことである。本日道を踏み外したもの、多数。

だがその時既にラングレー財閥の秘書室(とは仮の姿、その実体はラングレー財閥
の裏の仕事を一手に引き受けて来た闇の暗殺諜報部隊)には御注進が駆け込んでい
た。家伯が放った密偵がアスカの試験会場に潜り込んでいたのだ。
びーっ、動画と録音音声が流れ込んでくる。抱き合う2人。交わされる言葉。


『ね、ねえ。みんな見てるよ。』
『かまうもんか。』

シンジがアスカを固く抱締めアスカの金の髪を何回も撫でる。うっとりと目を閉じ
その愛撫に身を任せている少女。

『あ、だめ。赤ちゃんが潰れちゃう。』
『そうだった! 僕らの赤ちゃんはどうなったっ。』
『だいじょうぶよ。ちゃんとここで立派に育ててるから。もうマタニティ−ガー
ドルもしたんだよ。』


「むむむ、やはり下手人はシンジ君であったか・・・しかし困った。御主人様は怒り
のあまりシンジ君に討手を放つかもしれん。あとで後悔しても遅い。アスカお嬢様の
悲しみもいかばかりか」

家伯はしばし目を閉じ次に指示を激しい声で飛ばした。

「諜報全部隊は出動。アスカお嬢様とシンジ君を全ての脅威から防備せよ。いかなる
損害をもってしてもだ。全員出動だっ」

同時にラングレー財閥会長室ではラングレー会長その人自身が真っ赤な口を開けて叫
んでいた。その部屋のスクリーンには、先程家伯が見ていたものと寸分違わぬ場面と
音声が写し出されている。


「うぉのれ!やつが下手人であったか。碇シンジ、親友の息子だからとて容赦はせぬ。
儂の可愛いアスカを傷物にした挙げ句孕ませるとは、もはや神が許しても儂が許さん。
神も照覧あれ、碇シンジの首はこうだっ」


いきなり壁に飾ってあった日本刀の展示ガラスケースをクリスタルの灰皿で叩き割る
と、中から正宗をつかみ出し、振りかぶるとマホガニーのデスクを一刀両断に叩き切
った。

「私設警察、私設軍及び、特殊警備部はすぐさまシンジとアスカを拉致せよっ。手段
は選ばんッ!」


昼休み。アスカとシンジは大ホール入り口横に設営されたエンペラーシティードレス
デンホテルの会食用テントの中で、最高の栄養と消化、そして味覚を計算し尽くした
受験生用特別ランチをとっていた。


「何でこんな所にこんなものが?」

「あんたは難しい事考えなくていいの。ほら、小学校の時まで遠足や運動会の時も
こういう所で食べたの憶えてない?必要な時は必要なものを使わなきゃね。この寒空
に固いパンじゃ頭だって動かないでしょ」

「う、うん。そうだね、アスカはお腹の事もあるし、大事にしなくちゃね。それにし
てもさっきからヘリコプターの音がうるさいねえ」


特殊警備部の装甲車と諜報部の対戦車ライフルの撃ち合いは大学の周辺では既に市街
戦の様相を呈していた。多弾倉ロケット砲が第一グラウンドに陣取った諜報部から、
次々に大学後方の丘に展開している私設警察の陸戦部隊に向かって打ち込まれ、低空
をなめるように接近して来た戦闘ヘリが大量の機銃弾をばらまいてそのロケットを積
み込んだジープ部隊を蜂の巣にして飛び上がる。同時に落下傘で降下して来た部隊と
マンホールから沸き出して来た一群が小銃と軍用ナイフで陰惨な潰し合いを始めた。
血潮が排水溝に溢れ、まだ微かに生命反応の残る遺体がびくびくと痙攣を続けている
。硝煙の煙りの中を悲鳴を挙げて逃げまどう受験生達と大学職員。アスカ達のテント
にも何回か直撃のミサイルが命中したが特殊繊維とフィールドに守られた完全密閉、
防音防炎テントはびくともしない。隣の厨房テントにも、次の料理を運ぼうとしてい
るところに、数人の敵対する諜報員と私設軍が転がり込んで来た。ぐわ。ばき。ズド
ンズドン。ぎゃ。やられた。ザク。うおおおお。ぐえ。誰か俺の目玉を。数人の屈強
なコックが刺身包丁で生き残りにとどめを刺してテント裏のゴミ捨て場に放り出す。
その上をどたばたとまた別の兵士達が走り抜けていく。


「アスカ。僕、君にもう一度謝りたいんだあの時の事」

シンジは、アスカを抱いてしまったあの夜の事を思い出した。
ベッドの脇に立つ黒い影。その影がいきなり掛け布団を引き剥がして覆いかぶさって
きた。それに気付いた瞬間、その影は飛びかかって来た。

「なにをするつもりっ」


薙ぎ払った手がどこかにあたった。悲鳴と熱く押さえた声。


「はあっ、はあっ、はあっ」

「君が好き」


のしかかって来る影の手首をしっかりと握る。体中に噴き出す汗。その体臭で僕には
相手がすぐにわかった。


「やめてよ、こんなことっ」

「もう、待てない」


抗う腕をはね除ける。影は一旦床に転がって、すぐに跳ね起きた。その隙に、とっさに
ベッドサイドの明かりをつける。薄暗がりにぼんやりと浮かぶ金色の髪。手と手が争う。
脚が股を割り込んでくる。下着に手が触れる。


「アスカっ。やめてよっ」

「なによ。もう、こんなになってるくせに」


シンジの顔にさっと朱が射す。アスカの体臭に自分の身体はかくも正直だ。


「あんたは。あんたはあたしの物だもの、誰にもあげないッ」

「もう少しだけ待って。今、アスカとそういう関係にはなれないよ」

「お願いっ」


再びしがみついてくるアスカ。


「きみを好きなのっ。不安なの、しっかりとした証が欲しいのっ」


食いしばる歯がギリッと鳴った。今ここでラングレー家の人たちの信頼をどうしても
裏切る訳にはいかなかった。


「だって、だっていつかどこかへ行っちゃうじゃないっ。その前に」


熱い吐息。


「僕は絶対アスカの側から離れないよ、第一、もし取り返しのつかない事になったら
どうするんだよっ」

「そうなってもかまわないっ」


パシン!思わず彼女の頬を打っていた。赤くはれる頬。激しい決意と想いに燃える目。
強い意志に引き締まる唇。


「ダメだっ、アスカっ」

「ぶったわね。口先だけの約束なんてっ」


2人の、荒々しい息遣い。


「それに、君自身にだってもっと素晴らしい君につり合う男があらわれるかも知れな
いじゃないか」

「馬鹿言わないでっ。あたしがいつっ」


急にアスカの手から力が抜ける。


「そんなふうに思ってたんだ。シンジ知ってるんでしょ。パパがあたしをどこかの財閥
との関係強化に使いたがってる事。何回もデートさせられて、来週は一緒に旅行にいけ
って言われてるんだよ。もうあたしだっていつまで拒み続けられるか分からない」


愕然とした。そんな所まで話が進んでるなんて知りもしなかった。爆発したようにいき
なり身体が熱くなった。アスカは、アスカは僕のアスカじゃないか!誰にもわたさない。
誰にもわたさない。誰にもアスカを抱かせたりしない。僕のアスカだ。僕が抱くんだ。


「その人、自信家で、強引で、たしかに魅力的な人なの。あたし、怖いんだ。きみの事
忘れさせられちゃいそうで怖いのよっ、それを分かってくれないのっ」


今まで見た事もないようなアスカの不安げな顔だった。その顔を見たとたんシンジの中
で何かが爆ぜた。今まで押し殺して、表に出さなかったもの全てが溢れ出したみたいに
奔流となり、渦を巻き、ほとばしった。自分が叫んだのが聞こえた。


「いやだっ。誰にも君をわたしたりしないッ」


叫んで、今度はシンジがアスカに覆いかぶさった。覚悟はしていたのに急に少女は怯え
と恐怖に捕われる。少年の目の光はいつもの優しいシンジのものではなかった。


「いやっ、離してっ」


小さな叫び。恥じらいからか、未知への恐れからか。2人は攻守を代え、揉み合った。
シンジの手がアスカの服の端に掛かる。ばりっ、鈍い音がして胸元が裂け、パジャマの
ボタンが飛び散った。白い胸が曝け出される。シンジの目が獣の光を帯びているのに、
アスカは気付いた。


「わかった。君がなんと言おうともう後戻りはしないよ」

「あ、あの。ちょっと、待ってくれない・・・よね」


気が遠くなる程きつく抱き締められた。そのまま訳が分からなくなるまで翻弄される。
いつの間にか顔中が涙で濡れ、男の顔をしたシンジの下に組みしかれていた。


「もう、君は僕のものだ。僕のものにするっ。いくよ」

「あ・・・お願い。優しくして。あ、やっぱりやめっ」


何も答えず緑色にぎらつく目をしたまま愛しい少年ははアスカを片手で抱き締めた。
下着が強引に剥ぎ取られて何かが自分に押し当てられた。身体の中心に熱くて大きい
ものが押し入ろうとしている。身体を固くしてそれを拒む。アスカ、開いて。という
声が耳もとで呟いたした瞬間、ずるっ、とそれが侵入した。一瞬遅れて激痛が走った。


「痛い!痛い、痛い痛い! やめっ、やっぱりやめてっ」

「アスカっ」

「ダメだってば、馬鹿っ!」

「誘惑ったのは君だろっ。僕を好きだっていったのは嘘っ?」

「嘘じゃ無いッ。そうじゃ無いけど」


怖いんだもの、という言葉をいじっぱりの自分が言わせない。嘘付きと思われたく無
い気持ちがその言葉を言わせない。激しい痛みが続けざまに襲ってくる。夢見ていた
恋人同士の甘い語らいではなかった。ただ女の子を求めているだけだから、こんな、
なんの思いやりも無い抱きかたをするんだ。シンジの激しい律動の度に歯を食いしば
って傷を抉られる痛みに耐える。愛してるんだもの、と呪文のように唱える。だが頭
の隅ではまた別の声がする。

これが自分の望みだったこと? これが男の子というもの?

(「シンジの馬鹿っ。ひどいよぅっ」)

自分が望んだ事だったけれど、痛みに声もでない状態でアスカはシンジの背中を何回も
叩いた。うめき声と一緒に急にシンジの動きが止まった。そのまま、身体を強ばらせた。
シンジが激しい息遣いのままアスカに覆いかぶさって来た。お腹の奥で何かがきゅっと
固くなったのが分かった。


「ばかっ」


アスカの脚がシンジを蹴り飛ばした。


「け、蹴ったな」

「やだっていったでしょ、人間の男ならいやって言ってるのに無理矢理なんてできない
はずよ」

「か、勝手な事言うなよ。僕が我慢できなくなるまで追い詰めた癖にっ。第一、さっき
言ってたどこかの財閥の坊ちゃんて何だよ。いつの間に何回もデートなんてしてたのっ」

「ああでも言わないとあんた本気になってくれないでしょっ」


シンジがあんぐり口をあける。


「じ、じゃあ、うそだったっていうの?」

「今どきあんな話あるわけないし、私が受けると思うのっ!」

「ばかっ!アスカなんてもう大嫌いだっ」

「うじうじ結論引き延ばして、私の方こそもうお断りよっ」

「言ったなっ!」


で、そのあとはずっと生理が来ないのがはっきりするまで2人は口をきかなかったし目も
あわせなかった。


「もう、とっくに許してあげたのに、あの時の事」


アスカもナイフとフォークを止めてしんみり言った。
やっぱり、どこかにあんたを信じ切れない気持ちがあるのだろうか。まぎれもなく、この
お腹の子はシンジの子だけど、激情に走っただけで、愛しあってできた子じゃないから?
でも、私はずっとあんたが好きだったし。だからあの時シンジに無理矢理迫った。SEXが
どんな事なのかろくに知りもしなかったけどシンジと結ばれさえすれば何もかもうまくい
くと思えたんだもの。シンジだって、きっとそうだろうと思ってくれると信じてた。でも
この子はあくまでそれが明らかになっていなかった時の子だ。あの時私は、シンジに犯さ
れた、裏切られたとしか思えなくてずっとシンジの事憎んでた。あいつに当たり散らして。
だって、シンジに獣みたいに扱われたんだもの。男の子ってそういうもんなのかって絶望
したんだもの。でも、妊娠したのが分かった時あんたは逃げなかった。改めて私に謝罪し
て、どうか自分と結して欲しいといった。意地になっていた私はそれを思い切り拒絶した
けど、本当はすぐにでもあんたを受け入れたかったの。縋り付きたかったの。


「あ、あの、アスカ?」

「・・・え?なによ」

「僕に犯された、獣みたいに扱ったって・・・そう一方的な表現はちょっと」

「なによッ。今さら否定するつもりじゃないでしょうね」

「だって、あくまで最初に襲って来たのはアスカだからね。そりゃ責任は取るけど
さ」

「あんた、責任を取るからあたしと結婚するって言ってるのっ。そんなんだったら
許さないからねっ」

「は、はいっ。僕が悪うございましたッ」


それから2人は顔を見合わせると、プッと噴き出して笑いはじめた。大らかな事。
テントの入り口を開いて外へでてみると、大学の建物はほぼ崩壊し、こげだらけに
なった受験生達が呆然と立ち尽くしていた。


「あら。一体何があったのかしら」

「ひどい惨状だね。地震があったのかな。ガス爆発?」


さっきまで食事をしていたテントの裏で雑炊の炊き出しが始まっていた。


「本日の受験は終了です。後日又大学再建時には無料で受験出来ます」


辛うじて生きていたスピーカーが放送している。


「今日は終わりだってさ」

「じゃ、かえりましょうか。差し当たりはミサトのところへ」


その2人に飛びかかろうとした特殊警備部の隊員を、横合いから飛びかかった諜報
部員が殴り倒した。2人は組んず解れず、その場でゴロゴロと取っ組み合いを始め た。


「やぁねえ、いい大人が」

「まあ、何か理由があるんだと思うよ。大人は大変だから」


2人は校門横でひっくり返ったハイヤーを元に戻し、運転手を起こすと幸せそうな
様子で大学をあとにしたのであった。







12-Aug.-2001 居候は甘い夢を紡ぐ 4 お終い。


あとがき。

知らぬは本人ばかりなりったって、ちょっとひどすぎますね。
さてこのあとがどうなるのか。知っているのは神様だけでしょうね。
僕にも分かりません。


 こめどころさんの連載第四話目になります。
 ついに、シンジとアスカは再会できましたね‥‥これも運命の悪戯ってやつでしょうか。大変素敵ですね。
 しかし、アスパパも困ったものです。後先も人の迷惑も省みず滅茶苦茶なことを‥‥
 まわりで何が起こっても全然気づかないアスカとシンジもエライ無茶苦茶なカップルでありますが(笑)そういえばらぶらぶモードに突入して周囲を幻惑するっていう迷惑もかけてましたな‥‥。
 こんなお騒がせな人たちにやって来られた大学も受験生諸氏もいい迷惑でありました(^^;;

 なかなかすっとんでいてよかったですね。
 みなさんも読後にぜひこめどころさんへの感想メールをお願いします。

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