階段の下、怯えるシンジ。
 ・・・そう、彼は怯えていた。
 遠くで続いていた銃声も今は止み、戦自による蹂躙戦も小休止となったようだ。
 しかし、彼は怯えていた。
 なぜなら、彼には生きる意志が有ったから。
 生きたいと心から願っていたから。


暴走
喰う寝る36


「ミサトさんのウシ乳、アスカの巨乳、綾波の貧乳・・・」

 なにやらボソボソと呟いているが、これこそが彼の祈り。

「気持ちいいって言ってたのに・・・とても気持ちいいって言ってたのに・・・」

 祈りは、同時に命取りでもあった。

「僕は一つになりたいんだぁぁぁっ!!!」

 弾ける煩悩、シンジ絶叫。
 魂の叫びはネルフ本部に響き渡り・・・。

「いたぞ!」

「こっちだっ!!」

 戦自様御一行、御案内。

「悪く思うなよ、ボウズ。」

「そんな・・・悪く思うに決まってるじゃないかぁ・・・。」

 理不尽な要求に、もっともな答えを返すシンジ。
 やがて轟く咆吼で、美味しいと言うにはひと味足りない半端な人生に、半端じゃないピリオドを打つであろうぶっとい銃口。

「僕のアレはデリンジャーなのに、こんな大口径を見せびらかすなんてぇ・・・。」
 
 そんな物騒なモノをまじまじと覗き込みながら、イカしたセリフを吐くあたり、死なせるには惜しいような、とっとと死にやがって欲しいような・・・。

「良いんだ良いんだ、僕のもそのうち立派なマグナムに育って、アスカや綾波、『ついでに』ミサトさんともあんな事やこんな事を・・・。」

 ・・・やっぱり死にやがって頂きたい。
 が、一人のアヤナミストが呟いた願いも空しく、ウシ乳を上下左右に振り回しながらミサトが突撃してきた。


 腰だめに構えたショットガンから、壁抜き用のスラグ弾をどっかんどっかん撒き散らす彼女。
 全力疾走の衝撃に銃の反動が加わって、そのバストの揺れるコト揺れるコト。
 上、上、下、下、ま〜る書いてチョンってなもんで、思わず小銭をティッシュで包み、おひねりを用意するシンジだが・・・。

「・・・ひっ!?」

 突如襲いかかった鮮血に、短い悲鳴をあげる。
 視界には、崩れ落ちる戦自隊員。
 顔中を血塗れにしたその男は、任務達成を目前にしての非業の死に、無念の表情を・・・浮かべては居なかった。

「生きてて良かったッス・・・。」

 鬼瓦厳蔵三等陸曹(30)・・・厳しい訓練に明け暮れた彼のストイックな人生は、やがて致死量に届かんとする大量の鼻血と共に補完された。
 赤いジャケットにがっちり包まれたバストでさえ、見ただけでイッてしまえる初心な三十男。
 個人的には同情の涙を禁じ得ない・・・鬼瓦、お互いつらいな。
 基地内の売店でコンニャクを買い漁った少年兵時代に始まり、ちくわにさえ欲情した二十代、ついには性別を超えた愛についてさえ真剣に考え始めた三十代が、彼の脳裏を走馬燈の様に駆けめぐる・・・が、チョイ役の人生なんかどうでもいいので以下略。
 ・・・ちなみに、ミサトが節分の豆よろしく放った高価な弾丸は、ただの一発さえ擦りもしなかった。
 この税金ドロボウ。

「さ、シンジくん・・・行くのよ。」

「イクってそんな・・・まだ心の準備が・・・初めてなんだし・・・。」

「・・・自分が嫌いなのね?」

「ってゆ〜か、父さんがキライ?」

「判りあおうとしたの?」

「ううん。だって、リツコさんを口説こうとすると、怖い目で睨むんだ。」

「優しくして欲しいのね?」

「うん、優しくシテ欲しいんだ・・・。」

 微妙なアクセントで言葉を紡ぐシンジを前に、ミサトの肩がわなわなと震える。

 ・・・ひょっとして、怒ってる?

「ぅうぉおおおっけぇぇぇええええい!! おっけぇ! おっけぇ!! ぅおっけぇええっ!!!
 おっねえさんにまかせなさいっ!!
 目指すは牡牛座のアークトゥルス、光の速さでイカせてあげるわぁあああ!!!」

 絶叫と共にシンジを抱え、その場で足踏みを始めるミサト。
 ・・・いや、ゴムの焼ける匂いと共に、白煙が周囲を満たす・・・ドラッグレーサーがスタート直前に行う儀式、バーンナウトか!?
 イイ感じに靴底のコンパウンドが暖まったところで一気にダッシュした彼女は、最寄りの控え室までジャスト400mの道のりを、4秒フラットで駆け抜けた。
 何処からか沸いて出た戦自隊員の皆様が、控え室のドアの前、肩で息吐くミサトを囲み、スタンディング・オベーションを捧げる。

  「ぅうううおおおおおおおおっ!!」

 割れるような拍手の音を凌駕する、野太い唸り声。

「ありがと、ありがと、ありがと。」

 軽く片手を挙げ、にこやかな笑顔を返すミサトに、その場の興奮は一気に高まったが。

「誰か僕に優しくしてよぉ・・・。」

 猛烈な加速Gに耐えきれず、危険な角度に曲がった首をブラブラさせるシンジのコトは、ミサトの脳みそからキレイさっぱり消えていた。




「うっうっ、ミサトさんが怖いんだ・・・。」

 這うようにしてミサトの元を逃れたシンジは、アテもなくネルフの中を彷徨っている。
 何処で手に入れたのか、その細い首にはムチウチ患者御用達の白いギブス。
 青年誌の巻末にありがちな某整形外科の宣伝写真を思わせるその姿すら、特殊な嗜好を持つ一部の邪悪なオネーサマには垂涎の品だろう・・・が、今のネルフを埋め尽くすのは戦自隊員のオニーサマ達。
 特殊な嗜好を持つ一部の邪悪なオニーサマの唇が、彼の顔中を極大のタラコ・マークで埋めつくしていた。

「ホモは嫌、ホモは嫌、ホモは嫌・・・。」

 某サイト、『kissの温度』に出演する『G』に勝るとも劣らない精神攻撃に、もはやボロボロのシンジ。
 友人を招いて飲み会をやった翌朝、二日酔いの頭痛に眩む視線が、寝ゲロの海に沈んだ室内の様子を捉えた時の様な・・・いわば、精神汚染の半歩前。
 
「・・・ここは・・・ケイジ?」

 ベークライトに固められた初号機の隣には、どういうワケだか真っ赤な弐号機の姿。
 四つ目、口無し、オマケに表情筋の有無すら知れぬ弐号機は、そんな事情を一切無視して困った顔をしている。

「ふぇ〜っ、ぶぅわぁあろ〜ぉ。くぉおおんな会社ぁ、い〜つだって辞めてやるんらからぁ!」

 弐号機が見おろす先には、情熱のフェラーリレッドに顔を染めるアスカの姿。
 作業員の保護帽・・・いわゆる『ドカヘル』を、まるで杯のように右手に握りしめ、中に注いだ液体をグイグイ呷っている。
 彼女の背後に転がるのは、作業車両の整備に供するブレーキフルードの空き缶。
 ちなみに主成分はメチルアルコール・・・飲んだら目が散る工業用アルコールだ。

「アスカ・・・逃げちゃ駄目だよ。」

 初心忘れるべからず。
 ミサトとヤリ損なったシンジは、飢えた野良犬の熱っつい眼差しをアスカに送る。

 ・・・男と二人っきりでお酒を飲むのは、誘いのサインだって・・・ケンスケがくれた本に書いてあったな・・・。

 第壱中学校で唯一積極的に自習した『保健体育』の知識を総動員しながら、彼は素早くケイジ内を見渡した。

 ・・・うん、此処には僕とアスカの二人だけ・・・アスカは僕を誘ってるんだ・・・。

 右手をニギニギするシンジ。なんだか手つきがイヤらしいが、その理由を語る必要はあるまい。

 ・・・そう、アスカとシても良いんだ・・・。

 バッターボックスで、ゆっくりとバックスイング。

「・・・ん〜、シンジィ〜?」

 ピッチャー、第一球のモーション。

 ・・・アスカが呼んでる・・・アスカが誘ってる・・・。

 バットの先端をクルクルと振り回す、調子の良さそうなバッター。シンジのバットもイイ調子だ。

「ひょっとぉ〜、こっちにいらっさいよぉ〜。」

 振り被って・・・投げた!

「僕はっ! ココでイッて良いんだぁっ!!」

 自前のバットをズボンの上から握りしめ、ヘコヘコとがに股で突撃するシンジ。
 ペタリと座り込んだアスカが、胸の前で両手を組み。

「アスカ〜!!」

 最後の三歩で加速し、天高く跳躍したシンジ目掛けて・・・。

 ぐにっ

 特大のモンキーレンチを突き出した。
 運動神経が優れているとは言い難いシンジではあったが、今回のジャンプは飛距離、フォーム共に過去最高のモノであり・・・。

 ・・・過去最高の運動エネルギー。

 座り込んだアスカの手にあるレンチを、放物線を描いて自由落下するシンジが避けられよう筈もなく。
 跳んだシンジと座るアスカ・・・その位置関係上、彼が産み出した運動エネルギーは、その殆どが彼の股間に集中した。

「・・・くはっ・・・うっ・・・!?」

 両手を股に挟んで転げ回るシンジ。

「ふぇへっ、ぃや〜っぱりネルフ最強はアタシらない!」

 その痛みを少しでも知っていれば、例えシンジが親のカタキだったとしても浮かべる事は不可能であっただろう極上の笑みをその顔に貼りつけ。

「くぁ〜っ、勝利の美酒はさいこ〜らわ〜っ!!」

 アスカは、ドカヘルを満たすブレーキフルードを一気に飲み干した。




「ひ〜っ、ひ〜っ・・・。」

 股の角度は120度、膝の角度は30度。
 幾何学的ながに股で、命からがらアスカの元を逃れたシンジ。
 彼の股間から、カランカランと破片のぶつかり合う音が聞こえてくるが、その正体を明かすわけにはいかないのだ、人として。

  「いかり、くん?」

 そんなシンジを、個人的にイチオシな紅い瞳の少女が呼び止めた。

「綾波?」

 シナリオ通りならば、今ごろヒゲオヤジの前で裸身を晒している筈の彼女であったが、アヤナミストとしてやってはイケナイ事があるのだ、うん。

「綾波・・・あやなみ、あやなみ、あやなみぃ〜っ!!」

 最低でも二週間、男としての機能を停止したシンジが、レイの母性に縋り付こうと歩み寄る・・・が。

 キィィン・・・

 突如目の前に現れた光の壁が、彼の望みを阻んだ。

「これは・・・!? 綾波、どうして・・・。」

 思いっ切りシリアスな表情で、絶望の声をあげるシンジに。

「・・・ごめんなさい。でも、あの人が『汚すには偲びない』からって・・・。」

 どこかホッとした顔で、でも気の毒そうに謝るレイ。
 だって、アヤナミストとしてやってはイケナイ事があるんだも〜ん♪

「そんな・・・綾波も僕がキライなんだ・・・。」

「・・・。」

 無言のレイ。俯き加減の前髪から覗く上目遣いの眼差しと、軽く咬まれた下唇で、ささやかな異議を唱えている。

「・・・貧乳じゃないもん。」

 やがて漏れた彼女の呟きに、サーッと青ざめるシンジ。
 どうやら、戦自隊員に銃を突きつけられた時のセリフを思い出したらしい。

「聞い・・・てたの?」

「貧乳なんかじゃないもん!」

 涙の雫を煌めかせながら背を向けて走り去るレイを、呆然と見送る・・・そんな彼の肩を、誰かが叩いた。




「碇シンジだな?」

 聞いたことのない声・・・抑揚に欠ける、無表情な声。

   ・・・そういえば、戦自と戦争中だったっけ・・・?

 ようやく本来のストーリーを思い出したシンジが、たてつけの悪い扉の様な音と共に振り返ると。

「ミサト様がお待ちだ。」

 そこには、僅かに残る理性で恥ずかしそうに頬を染める、戦自隊員が。

「抵抗しても無駄だ、おとなしく投降しろ。」

 『ミサト命』と書かれたピンクのはっぴを、迷彩服の上に着込んで立っていた。

 ・・・ミサトさん? アレ、ヤルの?

 妄想の翼を爽やかに拡げ、アッチの世界へ羽ばたこうとするシンジだったが・・・。

「イッ!? イタタタタ・・・。」

 頼みの綱のデリンジャーは、アスカのレンチでゴム鉄砲以下の存在へとカスタマイズされていた。
 海綿体の膨張に比例して股間を襲う激痛に、のたうちまわるシンジ。

「・・・? 立て、貴様を連れていかねば、小官はミサト様から握手して貰えないのだ。」

 いまどき握手だけの為に奔走できるあたり、ピンクのはっぴに恥じないアッパレな心がけである。

「起たないんだよぉ〜っ!!」

 もっとも、シンジはそれどころでは無かった。

 ・・・今ミサトさんに会ったら、不能だって思われちゃうよ・・・。

 ミサトの口に戸は立たない。
 漏洩率100%のミサトにだけは、知られるわけにはいかなかった。

 ・・・イ○ポはイヤ、イ○ポはイヤ、イ○ポはイヤ・・・。
 
 一瞬の隙を突いて逃げ出すシンジ。
 それを追う戦自。
 ネルフ本部を駆けめぐる追走劇は、いつの間にやらリツコにマヤ、ミサト本人を巻き込み。

「なんで母さんまでェ!?」

 あげく、初号機にまで追い回され、ネルフは上を下への大騒ぎ。

 その頃、黒いピラミッドを囲んだ量産型エヴァの群れは、なんとなく寂しそうな表情で唇を突き出していたりもしたが。

「気持ち悪い・・・。」

 ドカヘルを洗面器代わりに、胃の内容物をぶちまけるアスカの一言でオチがついたので、このお話はここでおしまい。

「・・・オチはイイから、お水頂戴・・・うぇっ。」

 ・・・アスカちゃん、呑みすぎだよ・・・。


 喰う寝る36さんから烏賊した投稿作品をいただきました。

 シンジって、やはりアレ系だったのですね‥‥素敵♪<爆
 また少し、シンジが数寄になったような気がします(笑)

 綾波さんは‥‥どうですかね貧乳なんでしょうか‥‥同年代のほかの娘と比べて遜色ないと思うのですが‥‥。
 周囲に大乳、巨乳、爆乳が多すぎて目立たないのが誤解の原因でありましょう。うん。

 大変面白いお話でありました。皆様もぜひ、喰う寝る36さんに感想をお願いします。

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