楽しい時間・・・

それはまるで、花火のように・・・

だけどきっと、花火のように・・・




まるで花火のように


画:K−2
文:とれとにあ




アスファルトに跳ね返る下駄の音。
心地よく耳に響いて。

スピーカーから流れる祭囃子。
心をたかぶらせていく。

今日は、お祭り。



本当は、来るつもりなかった。
興味、なかったから。
人混み、苦手だから。

だけど、碇君が、
いつもの優しい笑みを浮かべて、
私の目を見ながら誘ってくれたから。

「きっと楽しいから、綾波も一緒に行こうよ!」って。

そして、弐号機パイロットが、
顔を真っ赤にして、
目をそらしながら誘ってくれたから。

「あ、アンタも一人でいじいじ腐ってんじゃないわよ!」って。

だから、お祭りに行こうと思ったの。

赤木博士にそのことを伝えると、
ちょっと、いいえ、とても驚いた顔をして、
そして、嬉しそうに笑ったの。

「そう、それじゃ、浴衣を用意しないといけないわね!」って。

葛城三佐に着付けてもらったの。

「レイ、せっかくだから、少しおしゃれしてみない?」って。

薄くお化粧してもらって。
三佐から借りたピンで、髪をあげて、耳を出したの。

耳を出すと、いつもよりもたくさんの音が聞こえて。
こんなにも多く、みんなに話しかけてもらっていたんだって、
とても、胸が暖かくなった。



そして、碇君と、弐号機パイロットと、三佐と、
そして博士と私の5人で、お祭りに来たの。

初めて遊んだヨーヨー釣り。
こよりが水で切れてしまわないか、ドキドキして。

初めて食べたわたがし。
ふわふわと甘くて、空に浮かぶ雲を食べてるみたいで。

そして、そばに、みんながいてくれたの。

ヨーヨーを釣り上げたとき、
碇君が喜んでくれたの。

「やったね、綾波!」って。

わたがしで口がべとべとになったとき、
弐号機パイロットが拭いてくれたの。

「しょーがないわねぇ・・・」って。

はじめて来たお祭りは、とても楽しかった。



今、わたしたちは、
夜空に大きく輝く花火を見上げながら、
帰り道を歩いている。

「くぅぅぅ!!!
 浴衣に花火に祭囃子!
 これぞ日本の夏って感じよねぇ!」

「はしゃぎすぎよ、ミサト。」

「なによぅ、リツコだって結構楽しんでたじゃない!」

ちなみに、赤木博士の頭にはネコのお面がひっついている。
その手には、私と一緒に釣ったヨーヨー。

「くっ・・・す、少なくとも私は、
 体重計に喧嘩売るマネはしてないわよ?」

「うぐっっっ・・・
 ほ、ほっといてよね・・・」

葛城三佐は、お祭りの間に、
わたがしとリンゴあめと焼きトウモロコシと
ヤキソバとお好み焼きとたこ焼きをたいらげていた。

「まぁったく、なにやってんだか・・・
 楽しかったわね、ファースト!」

「・・・そうね・・・とても面白かったわ・・・」

「来てよかったね!アスカ!綾波!」

「「え、ええ・・・」」

碇君、その笑顔は本当に反則。
碇君の微笑みを正面から向けられるだけで、
私も弐号機パイロットも、顔が火照ってくる。

夜空に、ひときわ大きく、花火が輝く。
わたしたちの顔の赤さをごまかすかのように。

「・・・うわぁ・・・」

「・・・きれい・・・」

「・・・そうだね・・・」

そのまま、しばらく立ちすくんで。
空を、空に輝く花火を、見上げていた。



「・・・そうだ、家に戻って、花火しようよ。
 トウジとか、ケンスケとか、洞木さんも誘ってさ。」

「へ?家で花火?
 ベランダからドドーンって打ち上げるわけ?」

「ち、違うよ!
 打ち上げ型のもないわけじゃないけど・・・
 ほとんどは手に持って楽しむものだよ。」

「ふーん、そんなのがあるんだ・・・
 ファースト、知ってる?」

「・・・ええ、知ってるわ・・・」

本で読んだこと、あるもの、という言葉を
なんとか、飲み込んだ。

もし、赤木博士の耳に入ったら、
博士の顔が、後悔に翳るもの。

そう、私は、家でする花火を実際に見たことがない。
そういうことがなにを意味するか、
私がどういう扱いを受けてきたかを意味するか、
少しずつ、わかってきた。

でも、気にしてない。

大切なのは、「今」だから。

それに、光の届かない地下で、ただ機械的に見せられるより、
今日、弐号機パイロットと一緒に、初めて見る花火に心躍らせる方が、
ずっといい。

「えーーー、知らないの、私だけーーー?
 うーーー!
 シンジ!こうなったら、絶対花火するわよ!」

「あら、家で花火?
 それは良いアイディアね。」

「うんうん、それも日本の夏って感じよねぇ!
 途中で買って帰ろっかぁ!?
 ・・・ところで、3人とも知ってる?
 家花火には、暗黙の約束ってやつがあるのよん♪
 ねぇ、リツコ?」

「そうね、絶対に譲るわけにはいかないわね。
 いいこと、3人とも。
 花火っていうのはね・・・」

「クスッ、わかってますよ、リツコさん。
 『線香花火は一番最後』ですよね?」

「さっすが、シンちゃん!
 わかってるぅ♪」

「その通りよ、シンジ君。
 科学的検証が定められたプロセスを守らなくてはならないように、
 線香花火を最後にもってくるのは絶対なのよ。」

「・・・嫁き遅れた女性ほど、ロマンを追い求めるのね・・・」

ゴンゴンッ!!

「「だれが嫁き遅れですってぇぇぇ!!」」

「・・・痛い・・・」

「あ、綾波、大丈夫!?」

「ちょ、ファースト、大丈夫?
 ・・・まったく、アンタ、今のは迂闊すぎよ!
 その程度ですんで、むしろラッキーよ!
 今の、マヤが言ったら、間違いなく秘密の実験室行きよ!!!」

「・・・秘密の実験室・・・それ、知らない・・・」

「へ?アンタ、知らないの?
 秘密の実験室ってのは、リツコとミサトが、夜な夜な、
 失った若さを求めて、怪しい実験を繰り返してると噂の・・・」

ゴンゴンッ!!!
 
「「だれが若さを失ってるですってぇぇぇ!!」」

「うぐ、つーーーーー!?
 ファースト、アンタ、謀ったわね!?」

「・・・痛みは、みんなで分かち合うもの・・・」

「あ、アンタねぇ・・・
 そう。だったら、あとひとり、分かち合うやつがいるわね・・・」

「・・・そうね・・・」

「ふたりとも、なに言って、え、えええっっっ!!!」

弐号機パイロットが碇君の右肩をとらえて。
私が碇君の左肩をとらえて。
博士と三佐の前に連行。

「ちょ、ちょっと!ふたりとも、なんなんだよ!」

「アンタねぇ、ここまで来て、自分ひとりだけ、いい子ぶる気!?
 ズバッと言っちゃいなさいよ!!!」

「・・・レッツ、失言・・・」

博士と三佐も、こぶしをならしながら。

「ふっふっふ、シンちゃぁぁぁん。カマァァァン!」

「ふふふ、シンジ君。男の子には手加減しないわよ?」

「ちょっ、そんな、リツコさんまで・・・
 いったい、なんなんですか?!
 趣旨がわかんないですよ!」

「安心しなさいよ!だれもわかってないから!」

「・・・弐号機パイロット、それ、フォローになってない・・・
 ・・・???・・・」

ふと、耳にくすぐったさを感じる。
さわると、上げたはずの髪が下りてきていた。

「どうしたの、レイ?
 ・・・あら、髪の毛・・・」

「あっちゃあ・・・
 さっき殴ったときに、ピン吹っ飛ばしちゃった?!」

「ファースト、くせっ毛な上に、ボリュームあるからねぇ・・・」

私の髪が、耳を覆っている。
なんだか、みんなの声が聞こえなくなりそうで、いや。

「うーんと・・・そうだ、いい方法があるわ!」

弐号機パイロットがポンッと手を打った。
そして、自分の頭に手をやる。
赤いインターフェイス・ヘッドセット。
エヴァとのシンクロをサポートするもの。
弐号機パイロットがいつも着けているもの。
弐号機パイロットの・・・誇り、そのもの。

「よっと・・・これでよし。」

弐号機パイロットは、そのヘッドセットをはずして、
そして・・・ピン代わりに私の髪に着けてくれたの・・・

「これなら、吹っ飛ぶこともないでしょ!」

「・・・あ、ありがと・・・」

「うん!似合ってるわよ!
 ほら、シンジもなんとか言いなさいよ!」

「え、あ、う、うん!
 かわいいよ、綾波・・・」

「・・・い、碇君、ありがと・・・」

うつむきあう、碇君と私。
顔の火照りに、夜風が気持ちいい。

「むーーー。
 ファーストと、なにいい雰囲気になってんのよぉ!!」

「そんな!
 なんか言えって言ったの、アスカじゃないか!」

「それはそうだけど!」

押さえがなくなった弐号機パイロットの髪が、
ふぁさふぁさと風に乱れる。

それは、私にくれた、彼女の優しさの証。

「・・・弐号機パイロット、あなたの髪・・・」

「へ?あ、ああ。
 別にかまわないわよ、このままで。」

「・・・でも・・・」

「そうだ、僕、ちょうどいいの、もってるよ。」

碇君が取り出したのは、一本のリボン。

「なんでアンタがそんなのもってんのよ?」

「数クジでもらったんだよ。
 髪結んであげるから、後ろ向いてよ。」

「う、うん・・・」

髪を結ぶ碇君の手。
わずかに弐号機パイロットのうなじに触れて。
その肩がピクリと跳ねるのがわかった。
・・・少し、うらやましい。

「はい、できた。
 ・・・うん、似合ってるよ、アスカ。」

「あ、ありがと・・・
 ど、どうかな、ファースト。」

「・・・とても似合ってるわ・・・」

「そ、そう?ダンケ・・・」


アスカとレイの艶姿


弐号機パイロットの髪をまとめる一本のリボン。
きっと、彼女の宝物になるのだと思う。
とても、うらやましい。
でも、今日は先に優しさをくれたのは彼女だったから。
だから、今日は譲ってあげる。

「あらあら、これは私たちはおじゃま虫かしらね、ミサト?」

「・・・若いっていいなあ、ちくしょう・・・」

博士と三佐の、いつものからかい(プラス、イジケ)

空に、今まででいちばん大きい花火が打ち上がる。
夜空に舞い踊る、白い光。

「・・・きれい・・・」

「・・・雪、ね・・・まるで・・・」

「・・・雪・・・?」

「そっか、ファーストは見たことないのよね・・・
 こんな感じよ・・・夜に降る雪って・・・」

「・・・そう・・・雪、なのね・・・」

夜空に舞うこの火の粉は、夏に降る雪なのね。
冬を知らないこの空にも、雪が降るのね・・・
感情を知らなかった私に、みんながくれた心のように。
優しく、降りしきるのね・・・

照らし出された弐号機パイロットと私の影、
碇君の影にキスしているみたいで。
少し、嬉しかった。

    ・
    ・
    ・
    ・
    ・

楽しい時間・・・
それはまるで、花火のように、
あっという間に終わってしまう。

だけど、
その楽しさを誰かと共有したという嬉しさ・・・
それはきっと、花火のように、
心の網膜に、いつまでも焼き付くの。

楽しいと思ったとき、
そばに、誰かがいてくれた、嬉しさ・・・
そばに、友達がいてくれた、くすぐったさ・・・
そばに、好きな人がいてくれた、温かさ・・・
それはまるで、花火のように、



一瞬にして、永遠。




(おわり)



<<あとがき>>

K:どーもー、皆様のお目々の恋人、K−2でーす!

と:おめめの恋人・・・(笑)
  まあいいや。
  こちらのサイトではお初にお目にかかります、とれとにあでーす!

K&と:というわけで、合作でーす!!!

K:楽しかったですなーーー♪

と:ですなーーー♪

K:・・・ところで、これって、
  とれとにあさんのSSに私のCGをつけさせてもらったのかな?

と:あれ?
  先にK−2さんのCGがあって、
  それに私のSSをつけさせてもらったんじゃないかな?

K:まあ、どっちでもいいか!
  楽しかったし!

と:そだね!
  と一段落したところで・・・

K:???

と:なんばーーーーーふぁーーーいぶ (/-_-)/ 

K:うわ、びっくり!!

と:ごめんね・・・アイデンティティーなもんで(汗)

K:そんじゃ、私も・・・
  ん難波ぁぁぁぁせぶぅぅぅん! (-.-)b

と:・・・おーさかだもんね、K−2さん(笑)

K:おうともよ!
  ということで(?)
  この合作から、あったかな幸せを感じていただけると嬉しいですね!

と:嬉しいですねーーー♪

K&と:見てくださった皆様!
    お付き合いくださいましてありがとうございました!
    それでは!



 とれとにあさん。K−2さんから小説とCGの合作をいただきました。

 お祭りと花火‥‥。

 綾波さんにとって忘れられない日となったことでしょう。
 チルドレンみんな仲良しで、仲良きことは美しき哉、とばかりに流麗なCGも素敵ですね。

 ぜひ素敵な小説を書いてくださったとれとにあさんと素敵な挿絵を描いてくださったK−2さんに感想メールを送ってあげてください。

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