みなさんは知っているだろうか。

教科書の中の重要事項などに緑のマーカーなどに線を引く。
そして、あとで赤い下敷をかぶせると線を引いた部分が黒くなり見えなくなってしまう
というすぐれ物のことを。





勉強しようよ

by 葉月



2016年 

「よし、僕もこれを使って来週のテストがんばらなきゃ。」

そういって、シンジが頭の上に高らかと掲げたのは、例のすぐれものセットであった。

「はん、そんなんでいい点とれたら誰も苦労しないわよっ。」

そこで、おもしろくないのがアスカである。
いつもシンジをこつきながら勉強していたのにその楽しみが無くなってしまっては
勉強する気も失せるというもの。

「だっていっつもアスカに勉強見てもらってばっかじゃ悪いだろ。」

その言葉を聞いて、益々不機嫌になるアスカ。

「はん、勝手にすれば。」

そうして、アスカは自分の部屋に引きこもってしまった。

「あれえ、どうしたんだろう。僕なんかアスカを怒らせるようなこと言ったっけ。」

シンジ、君は永遠に純粋でいてくれ。






次の日の放課後

「どや、センセ。今回のテストもいけそうか。」

シンジと親友の一人、鈴原トウジ。彼は別名、「赤点の王者」といわれている。
この学校の生徒の中でも彼ほど赤点をとってきた者はいないだろう。

「うん、今回だってなんとか大丈夫そうだよ。」

シンジは自信満々だ。

「そやったな、シンジには惣流がおるもんな。」
「いや今回はアスカの力は借りないよ。」
「なにーーっ。」

そこに現れた、シンジの親友二人目、相田ケンスケ。

「それは、また無謀な挑戦だな。素直に惣流に教えを乞えばいいものを。」
「でも、いつもアスカに迷惑かけてばっかりじゃ悪いでしょ。」

鈍感パワー炸裂である。

「いや、そうは思ってないと思うけど…。」
「で、僕はこれにかけるんだ。」

そうして、アスカの時と同じように高らかとかかげたのは、そう例のすぐれものセットであっ
た。

それに、いち早く反応したのはケンスケだった。

「そっそれは、20世紀前半に作られた、学生の必須品
「チェック&マーカー」じゃあないか。こんなレア物どこ売ってたんだよ。」

机に身を乗出して叫ぶその様子に、辺りの生徒は非難している。

「これ?これは、近くのコンビニに売ってたよ。」
「なにーっ、今すぐゲットしなければ。」

そうして、ケンスケはもの凄いスピードで去っていった。

「あっ、ケンスケ行っちゃった。」
「なんや、あいつミリタリーの他にもあんな趣味あったんかいな。ちょっと怖いなあ。」

そんなトウジのつぶやきは、クラス全員の心の叫びであった。
ケンスケを尻目にシンジはあのすぐれものセットで着々と準備をすすめていくのであった。






テスト前日

「よし、これでテストは完璧だ。」
そんなシンジの前にあるのは、大量の紙だった。

なんとシンジは、端末の中にあるノートのデータをすべてコピーしそれに一枚、一枚
チェックをいれていたのだ。

「できたーー。」

もちろん、目には隅が。シンジは自分で自分を誉めてやりたい衝動にかられた。

「そうだ、アスカに問題でも出しちゃおーっと。」

そうして立ちあがろうとしたが、ふらつく。
もう6日もこの作業に没頭していたので立つ気力もなかったのだ。

「だめだ、明日にしよう。今日はもう寝る。」
とたんに机の上に頭を置いたシンジ。その口からは寝息が聞こえて来る。

ただ、あの大量の紙に引いてある線を使う日があるのかが心配だ。






テスト当日

「うわあああああああああっっ。」

その叫び声でアスカは飛び起きた。

「なに?どうしたのよ。」

今日はミサトが臨時勤務なのでここにはいない。アスカは保護者がいないという漠然とした不
安にかられた。

「アスカ、どうしよう…。」
「なにがよ。」
「僕、もうだめだ…。」

そう言ったシンジの表情はあまりにくらかった。そして目元の隅。いつもの通り熟睡していた
アスカとは大違いだ。

「だから、理由を説明しなさいよっ。」
「あのね、昨日僕は凄くがんばったんだよ。でね、一日目の科目のすべてのファイルを印刷し
てあのマーカーで線を引いたんだ。なのに、なのにいいいいーーー。」

アスカは悟ってしまった。このバカシンジはもしかしてマーカーを引くだけ引いてろくに覚え
もせず寝てしまったのではないかと。

「あんたまさか――。」
「そうだよ。僕は覚えないまま寝てしまったんだ。」
「あははははははははは。あんたバカァ!?」

アスカはちょっぴり嬉しかった。コイツはやっぱりアタシがいなきゃだめなんだと思ったから。

「はーおかし。わかった、今日は諦めなさい。明日のテストからは重要な部分をアタシが教え
てあげるから。」
「うん、ごめん。やっぱり僕アスカがいなきゃダメみたいだ。」
「そうよ、アンタにはアタシがいなきゃダメなのよ。」

暗い表情のシンジとは裏腹にアスカはいつまでも笑顔だった。






数日後

シンジは生まれて初めて赤点をとってしまった。
それは一日目の数学と科学。しかしアスカの献身的な教えのおかげで追試は見事満点だったと
さ。


めでたし、めでたし





 葉月さんからアスカとシンジのお勉強なお話をいただいてしまいました。

 シンジ君、赤点とったのは気の毒なことでしたけど、これでいよいよアスカに頭が上がらなくなりました〜。

 元から尻に敷かれてますけど。

 結局この出来事のお陰でシンジ君とアスカの間も雨降って地固まるというかよりいっそう結びついたようで何よりです。

 葉月さんは聞くところによるとチルドレンと同世代!だそうですね。それでこの文章が書けるのかーうーむ凄いですね。

 みなさんも、葉月さんにぜひ感想を送ってください。

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