神に作られた人間







Written By Hamachu


・・・・・・昼下がりの麗らかな日差しが降り注ぐ、ここ第三新東京市・・・・

サードインパクトによる『癒し』は環境にも及んでいるらしく、年中真夏日だった日本にもようやく秋らしき涼しい風が吹くようになってきた。

そんな優しい風に長い紅茶色の髪をなびかせた美しい少女がいる。

水色のジャンバースカート

白いブラウス

赤い棒リボン

長い足

高い腰

隠しきれない豊満な胸

どれも日本人離れしたプロポーション。

目鼻立ちも混血らしくエキゾチックでいてどこか親しみを感じさせ、マリンブルーの深い瞳は吸込まれそうな色を湛える。


名前を惣流・アスカ・ラングレー。



言うまでも無く特務機関ネルフが誇るエヴァンゲリオン弐号機パイロット、セカンドチルドレンである。

かつての戦いで心身ともにズタボロに傷ついた彼女だが、今ではすっかりと健康そのもの元気で活発で明るい自分自身を取り戻していた。

いやそれだけではない以前のヒステリックさが影を潜め、落ち着いた雰囲気・・・優しさを身に着けたアスカ。

美しさに加え棘が取れ優しさを加えた彼女の下駄箱に配達されるラブレターは、インパクト前より30%増しとなった訳だが、優しい彼女は踏み潰す!などと言う事はしなくなった・・・らしい。

受け取っているかと言えばそうでもなく、ワザワザ丁寧に角の立たないように・・・それでいてバッサリと切り捨てるお断りのメールを本人に返すようになったと言う。

まだ受け取り拒否の頃が夢が逢って良かった・・・とは玉砕者達の感想である。







そんな彼女の隣に、見るもの100人が100人「優しそう」と感想を持つであろう少年がいる。

短めの黒髪に、黒い瞳、すこし線の細い感じだが典型的な日本人の少年。

白いシャツに黒の学生ズボン・・・変わり映えのしない格好・・・とは隣に座る少女の批評。



名前を碇シンジ。



エヴァンゲリオン初号機パイロット、ネルフ総司令碇ゲンドウの息子でなんの訓練も無くエヴァを動かしたサードチルドレン・・・使徒との戦いを生き抜いた男。

冷徹な父親との確執、次々と襲いかかる使徒、そして同居人と傷つけ合う毎日・・・最後彼に残ったたった一人の友達を自分自身の手で殺し、生きる意味すら失っていた頃とは違い、こちらは元々持つ優しさの上に強さが加わり、密かに人気があった彼が、今では大っぴらに騒がれる存在となっていた。



とは言え常に側にいて、有事には壁の如くそそり立つ彼の同居人に阻まれて、こちらはラブレターを渡す事さえままならない。



となればアスカの隙を見て!と行動を起こす少女もいたが、こちらはその隙を逸早く窺っている水色の髪の少女に阻まれる、と言うか彼女がちょこん!とシンジの隣に居座ってしまう。


つまり勃発する紅と蒼の少女の二大決戦の隙のみが彼にアプローチできる唯一の時間だった。






しかし今はその時ではなかった。

優しき風が二人の髪を揺らし、そこに二人で居る事が当然!と言わんばかりにまるで中世の絵画の如き神々しくもあり柔らかく落ち着いた雰囲気を作り上げている。

特に二人が一次的接触を持っているわけではない。

シンジは窓から外を眺め、アスカはシンジを視界に入れつつ同様に外を眺めていた。

まるで二人で作ったこの「世界」を確認するように。





そんな中アスカは意識を「世界」から「目の前の少年」に移した。

そして彼女は白魚のような手を伸ばすと、シンジの髪を優しく撫でそして引き寄せて、自分の膝の上に彼の頭を置く。

有無を言わさぬアスカの行動に戸惑いながらも反抗できないシンジ、盛大に顔を真っ赤にしながら膝枕で横になった。


・・・冴えない奴

・・・内罰的でおバカで

・・・ど〜しようもないスケベで

・・・でもアタシに優しい奴・・・



心なしか朱に染まるアスカの雪の様に白い頬。


・・・なんの訓練無しにエヴァを動かした男・・・

・・・使徒撃破NO1のネルフのエース・・・

・・・シンクロ率NO1・・・

・・・装備無しでマグマに飛びこんできた・・・

・・・アタシの命を救ってくれた・・・

・・・ファーストキスの相手・・・

・・・一番嫌いな奴・・・

・・・でも一番側に居て欲しい人・・・

・・・アタシを見てくれるシンジ・・・




膝枕のまま景色を相変わらず眺めるシンジを、アスカはまるで聖母のような笑みをたたえたまま見ていた。

それはとても美しい笑みだった。



・・・進化よりアタシを選んだバカ・・・

・・・万物の母リリスに愛された神にも等しい存在、神話を作った少年・・・

・・・リリスに再生する事を選ばれた第十八使徒ヒト、それがシンジ・・・

・・・そうヒトは神に作られた・・・




だがアスカの顔から突然笑みが消えた。

なにか思う所があったのだろう、突然キリキリと痛んだこめかみを押さえる。

先ほどまでの落ち着いた雰囲気が消え、額に青筋、目がジト目になっている。

そして突然の宣言





「・・・サル・・・」






「なんだよソレ?」


膝枕より半身を起こしたシンジが、アスカの意図が読めず尋ねてしまった。





「アンタの祖先よ!絶対にサルからの進化組だってば!!

まったく!アンタに作られたヒトだなんて

信じらンないわよ!」






と一気にまくし立てるはアスカ嬢。







「だから何だよソレ!?」







そりゃそうだ、いくらネルフ関係者しかもサードインパクトの実情を知ってる身でも、これだけの発言ではサル呼ばわりする意味がわかるまい。

アスカがサルと呼ばれるのはレイとの対戦で度々あったが・・・。








「だからアンタはサルだって言うのよ!!!

まったく!昨日何回シタと思ってンのよ!!

8回よ!!8回!!アタシの体がもたないわよ!まったく!」








ようやく察したシンジが赤くなったまま反論する。








「なんだよその8回って回数は!アスカの回数だろ!

僕は4回しかシてないし、アスカがねだるから多くなったんじゃないか!

3回で辞めておこうって言ったのに・・・」




何の回数だソレ?






「バッ!バッ!・・・バカシンジ!誰に向ってモノ言ってンのよ!

アタシがシンジに烏賊されてるって言うの!?

ハン!嘘も程々にしなさいよ!」








「事実だろ!?」







「上等じゃない!決着付けましょうか!?」




なんの決着だ!なんの?





「受けて立つよ!いつにする?」




ナニに立つんだよシンジ君





「当然今すぐよ!付いて来なさい!!!どっちがか白黒付けてあげるわ!!!」




だからって・・・そんな危ない比喩使っちゃ駄目だってばアスカ様。






そう言ってアスカは自分の学生鞄を空けると、小さな箱からなにやらパタパタと折り畳んでいる正方形の袋を取り出す。

ピンク色の風船の様なそれを1ダースきっかり持つと、シンジを引っ張ってズカズカと歩き扉を勢い良く開けて出て行った。



ガラガラガラ!ピシャン!



扉が閉まる音。

二人が出て行き誰も居なくなった部屋は静寂に包まれる。





いや・・・あまりの静けさに気がつかなかったが人がそこには居た。

しかも大量に・・・正確には36人・・・

そうココは教室、第壱中学校2−A組・・・

いつもながらその教室はピンク色の空気に包まれていた。

リリスによる癒しもこの教室には無関係、室温38℃の超真夏日、言うまでも無く二人の所為だ。






「・・・そう・・・もう・・・駄目なのね・・・」

悲しそうに呟く水色の髪の少女。

万物の母たる彼女が必死こいて世界を癒してるって言うのに、あの二人は局地的温暖化現象をあちらこちらで作り上るんだもん・・・そりゃ悲しいよね。

「・・・はっ・・・これが涙・・・私・・・泣いてるの・・・」

それは二人の罰当たりな行為にか、それとも恋しいヒトの変わってしまった姿にか・・・それとも赤毛サルに対する怨嗟の涙か!?






お下げの少女は既にメルトダウン、うわ言の様に「不潔よ!不潔よ!でも私も鈴原と・・・」と錯乱中。

ジャージ男はジャミラのモノマネをしながら奇声を上げて廊下を走り回り、眼鏡オタクは涙の流しすぎで塩の柱と化していた。




名も無きクラスメイト達はピンク色のワニがランバダを踊りながら迫ってくる幻覚をおぼえたと言う。

偶然教室をモニタしていた某特務機関職員が叫んだとか。

「ハーモニクス限界!!精神汚染ラインギリギリです!!!」

「・・・良く耐えてるわね・・・この子達・・・」

と冷静に分析する凸凹師弟。

いくら適格者だからって少しは勘弁してやれよ!

若い彼、彼女等・・・

普段から多い血の気が更に増したのか大量の鼻血と共に床に倒れるもの

校庭に出てまだ落ちない太陽に向って走り出すもの

大声で第壱中学校歌を歌いながらキャンプファイヤーを始めるものまで出る始末。

ほら・・・精神汚染ライン超えてる奴らいるじゃん。






永遠に続くかと思われた狂乱の宴は、水色の髪の少女がATフィールド全開でドコゾに飛び去って行った事で終わりを迎えた。

もっともその爆発のおかげで抉り取られた様に校舎に穴が開いたが。

重軽傷者十二名・・・この少数で済んだのは不幸中の幸いであろう。







もっとも更なる不幸もあったが・・・。

保健室に運び込まれそうになったものは、保健室の手前五メートルで折り重なるように倒れてしまった。

まさしく死屍累々。

保健室への侵入を拒む正体不明のATフィールドによって当てられた者達・・・

当然国連直属のデバガメ機関NERVでも感知していた。

「パターンピンク!使徒ではありません!」

「駄目です!粒子!光波!電磁波!すべて遮断されています!何もモニター出来ません!」

「まさに結界か・・・」

発生源は言うまでも無い、保健室中央部に座するベット・・・そこにはお約束な二人が・・・






「シンジ・・・良かったわよ・・・」

「アスカもね・・・」






何処でナニヲしてる!コイツら!!!




まっ・・・そんなこんなで世界はおおむね平和だった。




おしまい

 


こんにちはハマチュウです。

いつも感想を下さる怪作さんへの感謝のSSの筈が・・・妙なモノに(笑)

このSSの思いつきのきっかけが「進化論」なのです。
私、今までダーウィンの進化論を常識としてきただけに、エヴァは衝撃的だったですね。

んで「サル」・・・これをサルの定番アスカ様じゃなくてシンジ君に向けてみました。
如何だったでしょうか?

このSS作り上げてからだいぶ日数が立ってます・・・おかげで他作品にもちょこっと似たようなシーンが入っちゃいました。
改めてちょこっと改訂して完成!

それではお読みくださりありがとうございました。


ハマチュウさんから烏賊しているお話しを戴きました。

なんというか‥‥サルのようにシテいるっていうのですね。
でも結局は‥‥アスカも好きってことですね。

うーん、とっても行為に値する二人ですね。シまくってるってことさ(爆)

素敵なお話を投稿してくださったハマチュウさんに、みなさんも感想を送ってください〜

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