リズムに乗ってゲームをしよう


筆者:ハマチュウさん



ここはとある都市にあるなんの変哲も無い公立中学校。

たしかに建物自身は平凡を絵に描いたようであったが、その内容物たる生徒達に多少の問題があった。

問題・・・と言っても校内暴力や風紀の乱れと言ったものではない。

対策の立て様が無い、と言った点では共通なのかもしれないがその学校の問題、それは生徒が余りにも個性的過ぎる・・・と言った真に不可思議なものであった。



舞台はその中学校の教室「2-A」の放課後に移る。

そこにはその問題の個性的過ぎる生徒の筆頭を務める惣流・アスカ・ラングレー嬢がその深みのある色を湛えるブルーアイをキョロキョロと動かしていた。

どこか人を探す仕草、そんな彼女を発見したクラスメイトは

「あぁ・・・又碇の事を探してるな?」

と連想した。

アスカの好意がその彼碇シンジへと向けられている事は既に周知の事実であり、それを知らぬのはシンジ自身のみであった。

そしてシンジの不在を知っては不機嫌になるアスカをクラスメイトは度々目撃している。



しかしながら少し違う様だった。

キョロキョロからブンブンと擬態語が変化する様に大げさにシンジの不在を確認、にやぁ〜っと意地悪そげな笑みをその美しい顔に浮かべたアスカ。

胸を張って言葉を発する。



「ねぇ!ちょっと、鈴原ぁっ!」



その言葉にビクっとする人間が二人。

黒ジャージの男が反応するのは当然として、もう肩を震わせたのは一人はおさげ髪の少女だった。

知らん振りを決め込みながら耳をダンボにするヒカリ。

(アスカってば鈴原に声かけるなんて珍しい・・・ちょっと不安)




「なんやぁ?惣流?」



面度臭げに答えるトウジ。
心の奥底では危険な猛獣に声を掛けられた事でビクビクしているのだがそれはおくびにも出さない。



「ちょっとゲームに付き合ってよ」



「ゲーム?ゲーセンかいな?」



「違うわよっ!
ええっと説明が不足してたわね
まぁ一種のレクレーションゲームね、リズムと発想の早さが勝負の」



「なんかいな?それ?」



と胡散臭い話しに警戒心を強めざるを得ないトウジ。



「なによっ!
そんなにイヤそうな顔しなくてイイじゃない!
簡単なゲームよ
アタシがパンパンって手を打って質問する
そのリズムに合わせてアンタは同じく手を打ってから答える
そーして又アタシがパンパンって手を打って質問する
んでアンタは又手を打ってから答える
わかる?簡単でしょ?」



「なんや?そんなけったないなゲーム知らんわ!
面白げも無いっ!」



「へぇ〜イイの?
コンパとかで使えるし、そーゆー場所なら盛り上がると思うけどなぁ〜」



と持ち前の意地悪な口調でトウジをそそのかすアスカ。
案の定トウジは「コンパで盛り上がる」の単語に釣られてしまう。
思春期の少年らしく異性への興味と見栄とそして未知の領域への探険心旺盛のようだ。



「さよか・・・ほなしゃーないわ、ちょっと付き合っちゃる」



「そう、んじゃ覚悟はいいわねっ!
リズムを外したり答えに詰まったりしたらアンタの負けよ!」



「おぅっ!いつでもこんかいっ!」



と言って向かい合わせに席に座るアスカとトウジ。

その体制に少しばかりジェラシーを感じるヒカリ。

(アスカ・・・まさか碇君から鈴原に乗りかえる気じゃ・・・イヤ、イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ・・・親友と鈴原を取り合うなんてぇ〜」

と外野は暴走気味。



さて早速ゲームをはじめる二人。


パンパン♪


「好きな食べ物?」


パンパン♪


「お好み焼きっ!」


パンパン♪


「好きな球団?」


パンパン♪


「タイガース!」


パンパン♪


「好きな音楽」


パンパン♪


「演歌!」


パンパン♪


とリズム良く質問と答えが繰り返されて行く。

初めてやるゲームなのにやたらと上手く行く事に気を良くした鈴原に対してアスカは少し焦り気味の表情をしていた。

そんな表情を見た鈴原は

(惣流めっ!大人のフリしてでかい事言い腐って
ワシが上手いこと答えるんで追い詰められとるなっ!?)


と余裕の表情を浮かべた。


しかしその一瞬の隙をアスカは逃さなかった。



パンパン♪



「好きな女の子?」



パンパン♪



「いいんちょ!」



パンパン♪



その最後の手を打つ音を最後に教室には静寂が訪れた。

振りかえりヒカリに向けてしたり顔でピースサインを送るアスカ。
それはもう得意満面、人食い虎が獲物を狩って意気揚揚とするかの如く。


そんなアスカを見るヒカリの顔はもうコレ以上無いくらい真っ赤に染まっていた。


二人に追撃するアスカ。



「ひゅ〜熱いわねぇ〜
こんな公衆の面前で告白なんて」


との言葉を聞き更に赤く、そして俯いてしまうヒカリとトウジ。



「まぁこの辺で勘弁してあげようかしら?
ヒカリ!鈴原がなんか二人っきりで話があるみたいよ?
だから行ってらっしゃーい!」



と強引に二人の背中を押して、追い出す様に教室の外にやった。
アスカの言葉に従ったわけでは有るまいが黒いジャージとおさげ髪が揺れる白いカッターシャツが並んで廊下を歩いていく。
真っ赤な二人、多分なんらかの進展があることだろう。



(・・・よかったわねヒカリ・・・)



終始意地悪な表情を崩さなかったアスカだが、心の中では親友の恋の成就に祝福の言葉を上げていた。

そんなアスカを見てクラスメイトは彼女流の隠れた優しさに心打たれるのであった・・・。




・・・で終われば美談で終わるのだが、それはそうもいかない。



ガラリっ!



教室の扉が開き、先ほどまで不在であった碇シンジ少年が帰ってきた。



「ねぇ?トウジと洞木さんどうしたの?
真っ赤な顔して二人連れ立って行ったけど・・・
風邪で熱でもあるのかな?」



と不在だったため一人蚊帳の外。

再びニヤリと笑みを浮かべるアスカ。

それはもう
獲物を見つけて舌なめずりする人食い虎のごとく。



ビクっとするクラスメイトだが、シンジはもう慣れているのか気にもとめない。



「ねぇシンジ」


「なに?」


「ちょっとゲームに付き合ってよ」



「ゲーム?ゲーセン行くの?」



「違うわよっ!
ええっと説明が不足してたわね
まぁ一種のレクレーションゲームね、リズムと発想の早さが勝負の」



「なんだよ?それ?」



と胡散臭い話しに警戒心を強めざるを得ないシンジ。



「なによっ!
そんなにイヤそうな顔しなくてイイじゃない!
簡単なゲームよ
アタシがパンパンって手を打って質問する
そのリズムに合わせてアンタは同じく手を打ってから答える
そーして又アタシがパンパンって手を打って質問する
んでアンタは又手を打ってから答える
わかる?簡単でしょ?」



「なんだよ?
そんなゲーム見たことも聞いた事も無いのに!
できっこないよっ!」



「するなら早くしなさいっ!
でなければ帰れっ!」



「・・・アスカ・・・
とうさんの真似はよしてよ・・・」



と強引にゲームに誘うアスカ。
それを見たクラスメイトはこう結論つける



(さっきのは実験?もしくは人柱?
んで今度が本番、もしくはメインディッシュかい!)



親友の為に一肌脱いだと思われ上がりに上がっていたアスカ評が一気に消失する。




「しかたないなぁ〜やるよ」



流れに任すもしくは流されるが座右の銘のシンジ。
しぶしぶながらも大人しく従った。

机に向かい合わせに座ったシンジとアスカ。
アスカは先ほどとは違い、それはもう触れそうなぐらい顔をシンジに近付ける。
そして一言。



「いくわよっ!」



パンパン♪


「好きな食べ物?」


パンパン♪


「キムチ鍋」


パンパン♪


「好きな音楽?」


パンパン♪


「クラシック」


パンパン♪


「好きな楽器?」


パンパン♪


「チェロ」


パンパン♪




なんら辺り触りも無い質問がしばらく続いただろうか?
頃合を図っていたアスカ、一気に勝負をつけるべく肝心の質問に移る。
心に期待を破裂するほど膨らませて。



「好きな女のコ?」


パンパン♪



「アス・・・」



と僅かに発音したところで目の前の少女の策略に嵌った事を悟ったシンジ。
見事に普段彼女を呼ぶイントネーションで2音ほど発してしまった。



はっとして口を押さえ恥ずかしさから一旦伏せてしまったシンジ、視線を恐る恐る上げるとニコニコしているアスカの視線と交差してしまう。
彼女の視線は熱く表情に嬉しげなそれでいて期待を一杯に表して今か今かと次の言葉を待っていた、オウムのように言葉を繰り返し呟くシンジに一々相槌を入れて。


「・・・アス・・・」


「・・・アス?」


「・・・アス・・・」


「・・・アス?」


「・・・アス・・・」


「・・・アス?」


「・・・アス・・・」


「・・・アス?」


「・・・アス・・・」


「・・・アス?」


「アスターテ、アムリッツァ、何故奴は俺が完全に勝とうとすると現れて俺の手から完勝を奪っていく・・・ヤン・ウェンリーめ」





と、突然普段の彼とは思えない激しくも気高い声を発するシンジ。
黒い制服がまるで帝国軍の軍服のよう。




(ラインハルトか!お前はっ!)



と居合わせたクラスメイトから心の突っ込みが入る。

しかし呆れかえったアスカ様の突っ込みはそんなものじゃなかった。
いやなまじっか期待が大きかっただけに熾烈を極めたのかもしれない。



「そうするとアタシはジークフリード・キルヒアイス?」



と流石は大卒天才エリートパイロット、来日僅か一年足らずで日本文化を十分過ぎるほど吸収している様だ。




「いや、どっちかって言うとビッテンフェルト・・・」





「主砲!斉射三連!」



バキィ!バキィ!バキィ!



と見事オレンジ色の髪を持つ提督の拳がシンジに炸裂。

突然襲ったハンマーで殴られたかの衝撃にシンジの身体は一瞬耐えた後、ゆっくりと沈んだ。



「アタシの何処がビッテンフェルトだってーのよっ!」




(頭のてっぺんからつま先まで!)



と薄れ行く意識の中でそう評したシンジ、彼の無謀なる勇気は蛮勇として湛えられる事だろう。



ガシィっ!ガシィっ!ガシィっ!



倒れこんだシンジに対して更に蹴りで攻撃を加えるアスカ。

流石にやりすぎだと思ったクラスメイトが必死の形相で止めに入る。



「お止め下さい!
碇はもう倒れて動きません
これ以上の攻撃は無益です、
提督!




「って誰が
提督よっ!誰がっ!」



ガスゥッ!



イイ感じにボディーブローが入り勇気有るクラスメイトもシンジと共にヴァルハラへ旅立つ。

クラスメイトは皆あまりの惨劇に止めに入りたいのだが、士気上がるアスカに対して戦力の逐次投入は避けたいなおかつとりあえず防御線を固めると言う事で、半包囲の陣形を取った。
しかしながら戦端を開けずに居た。


「貴殿・・・止めに入られよ・・・」


「なにを言う・・・卿こそ止めれば良かろう」




「アンタらもかぁっ!」




再び怒り狂うアスカの中央突破戦法に一気に隊列を崩されたクラスメイト。


バキィ!ドゴォ!


見事各個撃破の上掃討殲滅されてしまった。





さて今まで話題にも上がらなかったが実はこの騒ぎの中窓際に座ってたず〜と成り行きを監視していた一見大人しげに見える風貌を持つ水色の髪の少女はそれを見てこう呟いたとか



「弐号機パイロット・・・凄まじい攻撃ね・・・彼女と戦闘になったとき・・・確かに初め優位に立つのは弐号機パイロット・・・でも戦闘が終わった時最後に立っているのは私よ・・・」



・・・まあなんにせよ・・・

銀河の歴史が又1ページ。





おしまい




ハマチュウさんからリズミカルな話をいただきました。

この時代にもあのアニメと小説(漫画もありましたっけ)は残っているのでしょうか?

まぁ、それはともかく‥‥キャラが壊れてていいですね。
途中まではらぶらぶモノになるかと思ったのに‥‥(笑)

実に烏賊している話です。色々な意味で。

皆様もこの話に何か感じたら是非感想メールをお願いします。

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