・・・赤い海

・・・薄暗い空

・・・白い砂浜

・・・真っ白な十字架・・・エヴァンゲリオン量産機

・・・白い生首・・・綾波レイ・・・




少年が気が付いた時の世界。

足元にLCLの波が押し寄せる。

生暖かい風が首筋をくすぐり、白いカッターシャツの襟を揺らす。




少年は眼下に揺れる豪奢な金色の髪を発見する。

燃えるような真っ赤なプラグスーツ。

体に密着したそれは美しい肢体を露にする。

真っ白な肌、細い右手と左目には包帯。

名前を惣流アスカラングレー、セカンドチルドレン、エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット。




「・・・誰も居ないのかな・・・」



サードチルドレン、エヴァンゲリオン初号機専属パイロットが言葉を発する。



「・・・ねぇ・・・アスカ・・・起きてよ・・・」



プラグスーツの肩を揺するシンジ。
少女の豊満な胸がつられるようにゆさゆさと揺れ、真っ白なうなじを見せる様に首が傾く。


ごくりと息を飲んだシンジだが、アスカのうめくような声で我に返る。



「・・・シンジ?・・・」



閉じていた瞼が開き、マリンブルーの深い光を湛える瞳が現れた。

が、どこか焦点のあわない瞳。

アスカは手探りでシンジの姿を求める様に、両手をわさわさと動かす。



「アスカっ!まさか目が?」


「見えない・・・何も見えないよ!シンジっ!」



突然半狂乱になりそうになったアスカを、すぐさま抱きしめて止めるシンジ。


「大丈夫・・・大丈夫だから・・・」


「見えない・・・見えないよ・・・」


「僕が何とかするから」



シンジの胸の中で、嗚咽を吐きながらだが大人しくなるアスカ。



「・・・これがあなたの望んだ世界そのものよ・・・」



LCLの海から突然声を掛けられるシンジとアスカ。
声の主は、紅い海に浮かぶ様に立っていた綾波レイ。



「・・・綾波・・・」
「ファースト?」



無表情に続ける綾波レイ。



「・・・でも他人の存在を今一度望めば再び心の壁が全ての人々を引き離すわ・・・また他人の恐怖が始まるのよ・・・」



「・・・僕はもう一度やり直したい・・・」



綾波レイの隣に現れた渚カヲルが問う。



「再びATフィールドが、君や他人をキズつけてもいいのかい?」



「構わない・・・それでも僕はもう一度やり直したいんだ・・・」



決意を込めた真摯な黒い瞳をカヲルに向けるシンジ。

にっこりとわらった渚カヲルと綾波レイは共に左手をかざしてシンジに向ける。

一瞬の間の後、シンジの体は消え去った。




「・・・シンジ?・・・シンジ?・・・」


抱きしめられていたアスカは突然消えたシンジの温もりを探す様に砂浜を四つん這いでうごめく。



「大丈夫よ・・・アスカ・・・碇君は過去に戻ったわ・・・すべてをやり直すために」


「惣流さん、君は何を望むんだい?」



マリンブルーの美しい・・・しかし視力を失って焦点の合わない眼を二人に向けるアスカ。



「アタシ・・・アタシはめが・・・」



この言葉を最後にLCLの世界は暗闇に消えた・・・。


























・・・・・・・・・・・西暦2015年・・・・・・・・・・・・・


どこまでも広がる真っ青な抜けるような蒼空。

ぽつりぽつりと浮かぶ白い雲のコントラストが美しい。

照りつける真夏の太陽を受ける地面は蜃気楼をもち空気を揺るがす。

既に十五年も続く真夏日。



だが今日は何かが違っていた。

乗り捨てられたままの車。

停車駅以外でとまっている路面電車。

電気のついたままの誰も居ないコンビニ。

そう誰も居ない街・・・突然人々が消え去ったかに見える街・・・



そんな街に一人の少年が立っていた。



「・・・本日12時30分東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました・・・住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難して下さい・・・繰り返しお伝えします・・・速やかに指定のシェルターに避難して下さい・・・」


耳障りな空電音と共に街頭のスピーカーより聞こえてくる声。

そして全く同じ声が少年の右耳に当てている緑色の受話器よりも聞こえた。



「・・・駄目だ・・・通じないや・・・」



ガチャン

少年が受話器を戻した音。



「・・・しょうがない・・・次の駅まで歩くか・・・」



振り返った少年。

ちょっと短めの黒髪

細い眉毛

漆黒の瞳

少年期特有の両性を感じさせる顔立ち・・・



名前を碇シンジ。

父親からの突然の手紙で呼び出された彼は、その父親の職場が存在する第三新東京市に向かう途中だった。


(僕を捨てた父さんが今更・・・僕が必要なの?父さん?・・・)


突然の特別非常事態宣言でリニアがストップ、待ち合わせの駅にはまだ二駅もある。



むっとする熱い空気の風が少年に吹きかかる。

おもわず顔をしかめるシンジ。



「・・・来るんじゃなかった・・・」



(どうせ・・・僕は必要無いんだ・・・でも・・・)



「・・・やっぱり・・・もう一回かけてみよう・・・」



再び公衆電話にプリペイドカードを差し込むシンジ。

右肩と頬で受話器を挟み込みながら、左手で手帳を開き目的の番号を押す。

カチカチカチと硬化樹脂製のボタンが音を鳴らす。


プルルルル♪プルルルル♪プルルルル♪


変わらないコールの音。

先ほどから三回コールの後、非常事態警報に切り替わっていた。


が・・・今回は違った。

ガチャっ!!!

間違い無く受話器を取る音がシンジの耳に入る。



電話がつながるとは期待もしてなかったシンジ、焦ったのかいきなり喋り始める。



「あっ!!もしもし葛城さんですか?
シンジです、碇シンジ
電車止まっちゃって待ち合わせの駅まで・・・」



そんな畳掛けるかのようなシンジの口調を更に上回る声が受話器より聞こえてきた。







「はいっ!!『お助け女神事務所』です!ご希望はそちらで伺うわよっ!!!」





「なに?・・・ねえっ・・・ちょっと!」




ピカァっ!!!



シンジの目の前のショーウインドウが突然光を発した。



「グーテンモルゲ〜ン♪」




光の中から小鳥の囀りのような若々しく生命力溢れる美しい声と共に現れる少女。


レモンイエローの法衣・・・にしてはショートで彼女の真っ白な太ももまで露でそして両肩と共に肩甲骨まで見えそうである。
羽織った緋色のケープが腕とその長い足を隠している。
首筋と耳元をを飾るように赤と青の宝石があちらこちらに配されているが全く嫌味が無い・・・宝石をも凌駕する彼女の清楚な美しさ・・・。

そう少女自身の美しさ。
腰まで届くさらさらとした美しい金髪。
理知的で深い吸い込まれそうな色をたたえるマリンブルーの瞳。
白磁よりも白い肌を持つすっきりとした鼻立ち。
そして薄ピンク色の唇・・・



そんな少女が鏡を『透り抜けて』来た。



「なっなっなっなっなっなっなっなっなっなっ!」



声にならない少年を一瞥すると『へっへ〜ん!』と言わんばかりの勝ち誇った笑顔を見せる少女。



「で・・・アンタは
何を望むの?



至近距離、唇が触れんばかりにアップでシンジに顔を近付けてくる少女。

当然逃げるように距離を取るシンジ。



「なっなっなっなっなっなっなっなっなっなっ!」



「いつまで驚いてンのよっ!
だ〜か〜らぁ〜アンタは何を望むの?
何でも1つだけ願いを叶えてあげるわよっ!」



「願いって・・・何で君が?・・・」



やっとこさ出たシンジの言葉に少女は『あっ!そっか!』と表情を浮かべた。



「自己紹介が遅れたわね
アタシは
アスカ、惣流・アスカ・ラングレー
一級神二種非限定の
女神様よっ
そのアタシが来てあげたんだから
崇め奉り涙を流して感謝しつつ平伏するように!
ハイ、コレ名刺」




ビシィっ!!!


右手に持った名刺をシンジに突き出し左手を腰に決めポーズを取るアスカと名乗った少女。

ジャパニーズビジネスマンなら即クビだ、そんな態度。



「で?何を望むの?」



「望むって?」



「だからぁ〜さっきから言ってるでしょ、願い事よ願い事っ!
なんでも叶えてあげるわよ
あんな事イイな出来たらイイな、あんな夢こんな夢一杯あるでしょ?
それを1つだけ叶えてあげるって言ってんのよっ!」




「不思議なポッケで?」




「アタシは『どら○もん』かぁっ!」



(・・・知ってるんだ・・・女神なのに・・・)


と実は
冷静に事態を把握していたらしいシンジ。







丁度その頃・・・

戦略自衛隊の重装甲VTOLが高温の排気を辺りに撒き散らしながら群れをなして後退中。

それを追いかけるかのように異形の巨人が山間から姿をあらわしたのだが、そんな事ぁ気付いちゃいない。


二人の頭上を掠めるように4基の巡航ミサイルが飛び去った。



びゅぉぉおおおおおお〜



暴風が二人を襲う。

そしてお約束のようにアスカと名乗った女神様の短いレモン色の法衣がめくれあがる。

そこには可愛らしいピンク色の布切れが・・・



「イヤァーッ!エッチっ馬鹿っ痴漢っ変態っ!信じらんないっ!!!」



バキィッ!



「しっ真空飛び膝蹴りっ!?」


鈍い音がしてシンジの顎に少女の膝が入り、まるでアッパーカットを受けたようにシンジの頭が仰け反る。


それは奇しくも丁度異形の巨人『使徒』の顎に巡航ミサイルが当たり仰け反った瞬間だった。






「女神襲来」
Goddess Attack!


作: ハマチュウさん





「うわぁあああっ!?」

「きゃぁああああっ!!」



シンジとアスカの側に墜落してきた重VTOLが爆発、巨大な炎の塊と破片の嵐を持って襲いかかる。


キュルキュキュキュっ!!!


寸前の所で滑りこんできた青い車がその体を盾にして二人を助ける。



「碇シンジ君ね!乗って!速くっ!!!」



現れたのは場違いなチャイナ風のドレスで着飾った葛城ミサト。

一瞬顔を合わせたシンジとアスカは『うん』と頷くとすぐさま車内に飛び込む。

アスカは後部座席、シンジは助手席に滑りこみ、丁寧にシートベルトを装着する。



キュキュキュっ!!!



短いホイルスピンと共に猛烈なGを発生させ発進するルノーアルピーヌA310。

凄まじいスラロームで左、右、と使徒の足をよけながら加速する。



「ごめんねぇ〜シンジ君遅れちゃってぇ〜ちょぉっち混んでたもんだから・・・」



と運転する葛城ミサトは余裕そのもの。



「しっかし・・・女連れで来るとはお姉さんビックリだわ〜やるわねっ!シンジ君!」



NERV総司令の息子碇シンジ・・・どんな少年が来るかと思っていたら同年代の少女を連れていたのだ。
酒とからかいが生きがいの三十路前崖っぷちスレスレ女にとって触れずはいられない。



「なに馬鹿なこと言ってんのよミサトっ!!!誰がシンジの女ですってぇ!?」



と葛城ミサトの良く知った声が後部座席から聞こえてきた。



(ま・・・まさかね?・・・)



くいっ!

ミサトはルームミラーを動かし後部座席に乗る少女の姿を確認しようと・・・



「アっ!アスカァ!!!
なんであんたがココに居るのよ!!!
あんたドイツ支部で!!!
ってそんな事はどうでいいわ
何時日本に来たのよ!?
なんでシンジ君と一緒に居るのよ!?」



「ふっ・・・ミサト・・・
アンタ、アタシを誰かと勘違いしてるようね
間違ってもらっちゃ困るわ
アタシは女神っ!一級神二種非限定女神の惣流・アスカ・ラングレー
アンタの知ってるセカンドチルドレン惣流・アスカ・ラングレーとは無関係、赤の他人よっ!」



本気なのか天然なのか自信満々で説明するアスカにすっかりと興奮から冷めてしまった葛城ミサト。


「・・・思いっきり同一人物じゃないのよ・・・
姿・形・名前まで同じで
おまけに私を名前で呼んでるし
自分がセカンドチルドレンって事まで知ってるじゃないのよ・・・」


力の無いミサトの呟き。
幸いアスカには聞こえてないようだ。


「まぁいいわっ!特別に答えてあげる
アタシはシンジに呼ばれたの
シンジの心がアタシを呼んだのっ!
『願いをかなえて女神様っ』ってね
だからアタシは女神としての義務でシンジの願い事を聞いてあげるのよっ!!!
判った?ミサト?」



・・・判る分けない・・・


が葛城ミサトは作戦部長だ。

どんな有事にも対応する頭脳を持っていた・・・これまでは酒場で修羅場を作り酒代を踏み倒す時とか、国際公務員試験をたまたま起こったテロのどさくさに紛れてパスした時とか、3日で腐海を作り出す自身の部屋での生活・・・の時ぐらいにしか働かせていなかったが、そう彼女は作戦部長なのだ。

瞬時に状況を有利に持っていくことを考え付く。

(そうよね・・・この有事に贅沢言ってらん無いわっ
使徒は目前に迫っている
レイは重傷で操縦もままならない
残った適格者は今日呼び寄せたこのシンジ君だけ
シンクロするかどうかも判らない
おまけにシンクロシしても何の訓練も受けていない素人
対してアスカなら・・・13歳で大卒、9年間シンクロと戦闘の訓練を受けたプロ中のプロ
ちょっち目ぇ合わせられないぐらい逝っちゃってるみたいだけど
・・・多分大丈夫ね・・・
うん・・・そうよっ!この非常事態、パイロットの頭数が増えることは僥倖よっ!!!)



「葛城さん・・・彼女とお知り合いなんですか?」



考え込んでいたところにシンジが怪訝そうに尋ねる。



「ミサトって呼んでね♪シンジ君・・・ええっと話すと長いから・・・後でイイ?
それよりシンジ君どうしてアスカと一緒に居たの?」



「それが・・・ミサトさんに電話しようとしたら彼女が現れて・・・あ、名刺貰いました」



と言って先ほどアスカから貰った名刺をミサトに渡すシンジ。


それを見るミサト・・・そこには・・・



『お助け女神事務所所属
一級神二種非限定女神 惣流・アスカ・ラングレー』


と綺麗な装飾付きの文字で書かれている。



ぴろっ!

なんとなく裏をめくってみたミサト。


『特務機関NERVドイツ支部所属
エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット
セカンドチルドレン 惣流・アスカ・ラングレー』




・・・そのまんまじゃないのよっ!!!


追求する気力も怒る気力も無くなった葛城ミサトだった。







ガタンゴトン♪ガタンゴトン♪ガタンゴトン♪

ミサトのアルピーヌは現在荷物となってカートレインに揺られていた。


「特務機関ネルフ・・・。」


「ねぇ・・・アンタの願い事言いなさいよ」


「そう、国連直属の非公開組織。
あなたのお父さんがいるとことよ。」


「・・・ええ」


「ねぇってばぁ〜何かあるでしょ望みが」


「キライなの?
お父さんのこと?」


「苦手なだけです」


「でもね・・・エッチなのは駄目よ
そーゆーのはまだ早いと思うし
やだ何言わせんのよっ!」



「そっか・・・私と同じね」


「だからはやく願い事言いなさいよっ!」



「「うるさいっ!!!」」






ネルフ本部内にたどり着いた・・・三人。


「あっちゃ〜
たしかここのはずよね〜」


「ここ、さっきも通りましたよ」


「シ・・・システムは利用するためにあるよのねぇ〜」


ミサトに連れられてシンジはひたすら歩いていた。
アスカは女神よろしくぷかぷかと空中に浮かびながらシンジの首筋に纏わりついている。


「ねぇ〜速くお願いしてよぉ〜これバイトなんだから時間押してるのよね〜」


バっ・・バイトなのか!?


「早くお願い言ってくれないと『電光召還』しちゃうぞっ♪」


「駄目っ!」


珍しくシンジが鋭く答える。
ちょっとビックリしたアスカ。



「それは長女の技だよ・・・いいの?あの扱いで?」



プルプルプル。
可愛く頭を振るアスカだった。



「それに空中浮かんだまま電撃を使うとこれまた違うキャラになっちゃうんだ
名古屋弁つかって『ダーリーン♪』とか言う鬼娘・・・」




と実は冷静に元ネタを把握し、なおかつ発想を発展させていシンジ。



「「アンタ・・・歳いくつよ・・・」」



共に再放送で見た女性陣二人が答える・・・そう再放送だ!
生で第1話を見てしまった人は自分の歳を正確にカウントしよう。



「葛城一尉
なにやってたの?
人手もなければ、時間も無いのよ。」



三人の後ろから生で見た人が・・・もとい白衣を来た理知的な美人・・・赤木リツコが声をかけた。



「ごみーん・・・リツコ・・・ちょっちよんどころない事情があってさぁ〜」



「事情?遅刻常習犯のアナタが今度はどんな言い訳聞かせてくれるのかしら?」



ん〜と言いながらこめかみを押さえて親指で指差す葛城ミサト。

そこには・・・



「アっ!アスカァ!!!
なんであなたがココに居るのよ!!!
あなたドイツ支部で!!!
ってそんな事はどうでいいわ
何時日本に来たのよ!?
なんでシンジ君と一緒に居るのよ!?」



「それはさっき私が言ったから・・・」


「・・・ちっ・・・」


リツコが舌打ちする。


「ふっ・・・リツコ・・・
アンタ、アタシを誰かと勘違いしてるようね
間違ってもらっちゃ困るわ
アタシは女神っ!一級神二種非限定女神の惣流・アスカ・ラングレー
アンタの知ってるセカンドチルドレン惣流・アスカ・ラングレーとは無関係、赤の他人よっ!」


「「それもさっき聞きました」」


そろそろパターン化してきた展開に疲れていたシンジとミサトだった。






ガチャンッ!!!

鈍い金属音と共にハロゲンの青白い灯りがともり、暗闇が支配していただだっ広い空間を照らし出す。

そこには巨大な人形をした巨人が赤い海に眠っていた。



「こっ・・・これはっ!?」



「汎用人型決戦兵器・・・人造人間エヴァンゲリオン・・・これはその初号機よ・・・」



「へ〜紫なんだ初号機って・・・」



しみじみと呟く女神アスカ、もう疲れているのか誰も突っ込んでくれない。



「・・・これも父の仕事ですか?」



「そうだ!」



ケイジを展望するガラス張りの部屋に灯りがともり、黒い軍服を着崩した碇ゲンドウが登場する。
お約束な台詞とともに。



「久しぶりだなシンジっ!」

「・・・父さん・・・」

「ふっ・・・出撃っ!」

「そんなパイロットがいないわ」

「さっき届いたわ」

「まさか・・・マジなの?」



・・・省略(笑)・・・



力の無いシンジの声がケージに響き渡る。


「・・・どうして僕を呼んだの?・・・父さん・・・」



「お前が思っているとおりだ」



対するゲンドウの言葉には嘲笑が含まれているように感じる。



「どうして・・・僕なの?」



うつむいたシンジの声、信じていたものに裏切られた・・・いや自分自身が予想した通りに裏切られた思いが彼を震えさせる。



「お前以外には無理だからな」



「そんな・・・できっこないよっ!・・・そんなの無理だよっ!」



「乗るなら早くしろっ!・・・・でなければ帰れっ!!!」



呼んでおいて無理難題を押しつけて応じなければ帰れとのたまう父親。

シンジの残っていた最後の砦が崩れた。



プチンっ!


普段大人しい人ほど切れると何をするか判らない・・・そんな言葉の実例のような少年碇シンジ。

その彼の理性が切れる音をアスカは聞いた。



「ねぇアスカ・・・願い事ってなんでもよかったんだよね?」



「・・・えぇ・・・そうよ・・・」



「じゃあさ・・・あそこの腐れ外道に思い知らせてやってくれないかな?
手段は問わないからさ、痛いのでも辛いのでも苦しいのでもOKだよ
とにかく全治で八か月以上かかるので頼むよっ!」









「OK、シンジっ!
でもそれサービスでやってあげるわっ!!!
実はアタシも結構ムカついたのよっ!
ナニィ?あの偉そうな態度?
そんなに言うなら自分が乗りなさいってーの。
世に三人しかいないチルドレン様に対する口の聞き方を教えてあげるわっ!!!」








チルドレン二人意気投合。

その意気投合度と言ったらいつ第七使徒がやってきても大丈夫なぐらいだ。

ガシィっと腕を交差させてウンウンと頷きあってたりする二人。




ふっと姿をかき消したアスカ。

そして瞬時にゲンドウの居るケージ展望室に転移する。




「さーて・・・碇司令・・・覚悟してもらうわよっ!!!」



ボキボキベキベキっ!
拳を鳴らしながら人外のオーラを不必要に放出しながら迫るアスカ。



「なっ!セカンドチルドレンっ!
お前はドイツ支部に居るはずでは?
なっ何をするつもりだっ!」



「ふっ・・・司令・・・
アンタ、アタシを誰かと勘違いしてるようね
間違ってもらっちゃ困るわ
アタシは女神っ!一級神二種非限定女神の惣流・アスカ・ラングレー
アンタの知ってるセカンドチルドレン惣流・アスカ・ラングレーとは無関係、赤の他人よっ!」



三度目だよそれ。



「神式がイイ?それとも仏式?」



「なっ・・・何がだっ?」



「アンタの葬式よっ!!!」



ズゴ!ベキ!ボコ!ドシュ!ブシュゥー!メキ!モコ!



ケージ展望室のガラス窓がトマトをぶつけたように真っ赤な染料に染まり中の様子が何も見えなくなってしまった・・・。








「冬月・・・レイを起こせ・・・」



「・・・碇・・・使えるのか?」



「・・・死んでいる訳ではない・・・って言うか使わないと俺が死ぬ



と息も絶え絶えの声で発令所の冬月に連絡したゲンドウ。

血まみれのゲンドウ、彼の背中を踏みつけている赤毛の女神様の剣幕に恐れをなしたのか、早口で命令する。









カチャカチャカチャ。


ストレッチャーの小さな車輪が耳障りな金属音を立ててケージに入ってきた。

包帯だらけの少女。

右手にはギブス。

左手には輸血であろうか?点滴が打たれている。

どこからどうみても絶対安静と思われる少女が、連れられてきた。



「シンジ君・・・あなたが乗らなければ彼女が乗るのよ・・・」



「・・・そんな・・・」



(お願いシンジ君乗ると言ってっ!それがオトコのコってもんでしょ!)



「未成年にこんな恥ずかしい格好を強要するなんて信じられません。
スケベな父さんだけならまだしも、葛城さんアナタ女性でしょ?
いたいけな少女がこんな破廉恥な格好をさせられて・・・
アナタ女性として恥ずかしくないんですか?
それよりも君っ!レイちゃんだっけ?
大人の甘言を信じちゃ駄目だよ
歳いくつだい?もっと自分を大切にしなきゃ駄目!
将来好きな人が出来た時きっと今やってる事を後悔するようになるよ」




突然PTAのおばちゃんのような口調で詰問し始めたシンジ。
どうやら綾波レイのプラグスーツ姿を見て違う職業の人と勘違いしたらしい。
事実そーゆー衣装そーゆー場所もあったらしいが。
包帯プレイ最低だ俺ってごっこまであったらしいが・・・。



「シンジ君!?あなた何誤解してるの?」



「五回も六回もありませんっ!
これは警察に連絡させてもらいますからねっ!」



といって携帯電話をすばやく出すシンジ。

ピッポッパ♪

トゥルルルル〜♪トゥルルルル〜♪トゥルルルル〜♪


シンジが電話をかけたのと同時に、ケージに鳴り響く着信音。

葛城ミサトが自身の携帯電話を見る・・・違う。

赤木リツコが自身の携帯電話を見る・・・違う。

惣流・アスカ・ラングレーが自身の携帯電話を見る・・・違う。




ガチャっ!




「あっ!もしもし、警察ですか?
大変です、いたいけな少女が性的異常者たちの餌食になってます
場所はNERV本部の・・・・
あれ?モシモシ?モシモーシ?聞こえてますか?」




そこにいたシンジ以外のものは信じられないものを見ていた。
真っ白なプラグスーツ姿の綾波レイが、身悶えるように体を捻りシンジの目の前でどこからか真っ赤な携帯電話を取り出していたのだ。

そしてクールを極めたその口調で呟く。



「・・・はい・・・アースお助けセンターです・・・
・・・ご要望はそちらで伺います・・・」





「え?何言ってるの?
もしもし?もしもし?」




目の前で向かい合いながら携帯電話で喋る碇シンジと綾波レイ。
知らない人が見たら電話コントにしか見えない、って言うか知ってる人でもそう見える。

電話を切った直後シンジは目の前の女の子と電話で話していた事を悟り、金縛りにあったように動けなくなった。

その真っ赤な瞳から目が離せないシンジ。





「・・・なにを望むの?・・・」





綾波レイさん自分の台詞を取り戻せて満面の笑みでしたとさ。






やっぱり突然終わる




 

 ハマチュウさんから投稿作品をいただきました。

 ‥‥女神様ですか。
 女神様なのですね。

 私はてっきり目を治して欲しいのかと思ったです。
 ‥‥そんなふうになるはずないですね。

 それにしても見事な壊れっぷりです!

 まったくそのまま(高飛車でへっぽこで名詞もそのまま!)のアスカ。バイトの女神なんですかぁ?

 ゲンドウをリンチにかけるあたりはやはり女神様だと思いますけど<なんでやねん

 何をボケたかすっかりレイのことを誤解しているシンジ君もいいですね。
 やはり、このあたりは魂が逆行前のことを覚えていて『俺って最低』な気分になっちゃったんですかねぇ‥‥。

 最期のとどめに綾波レイさんが女神様やってるのが良かったです(笑)
 残る唯一の課題は三人目の女神が誰かってことでしょうか(笑)

 なかなか素敵なお話でした。みなさんもハマチュウさんに是非感想メールをお願いします。

 
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