ジ・アナザー・オブ・エヴァンゲリオン



作者:ハマチュウさん




西暦2014年某月某日。


太平洋上を輪形陣を組んで東に向かう船団があった。


中央に大型空母、その前衛に戦艦二隻、後部に大型輸送船、駆逐艦艇が千五百メートルの間隔を作りながら二重の輪を作り上げる。


大型空母はセカンドインパクト前の「ビンテージ物」原子力空母。
古い海軍将軍の銘を頂くシリーズの三番艦であるその空母は満載で軽く10万トンの大台を超える排水量を持ち、巨大な船体には病院から理髪店まで備え一つの街が移動していると同義であろう。
搭載機のSU-37がカタパルトの蒸気を軌跡のように連れて甲板から重い機体を発進させる、上空直援機は常に八機を数え高度一万二千メートルから四千メートルそして東西南北、ほぼ音速近くで警戒に当たる。


戦艦はワールドウォーツー前の「骨董」戦艦。
もはやお飾りと思われた四十センチを誇る50口径主砲、合計12門のその計り知れない打撃力を期待されるが、巨体を利用した情報処理指揮指令システムが一番の利用価値。
いや違う、山と積んだ近接防御火砲、そしてその強固な装甲が守るべき物の最後の「盾」となるべく控える。


そしてイージスシステムとデータリンクネットワークで繋がれたイージス艦と駆逐艦多数。
早期警戒、発見、迎撃全ては我々で事足りると言わんばかりに、空中海上海中とその多彩な電子装備で警戒する。
後部甲板からは対潜ヘリが飛び立ち、前部甲板にはMK45mod4の長い砲身が空と海を睨みその射程は100kmにも及ぶ。



正に万全、空中だろうと海中だろうとこの鉄壁の防御陣を崩せるものは、同等の海上戦力のみ、そしてその様な艦隊は今の世の中二つと存在しない。


そう唯一つの至玉の存在。


虎の子の太平洋艦隊が全戦力を傾けて守る一隻の輸送船。


その輸送船「オスロー」内部では少年少女がすこしばかり奇妙な会話を行っていた。























「いい?これが世界初の量産型のエヴァンゲリオンなのよ!」


高らかに宣言する金髪の少女。

レモンイエローのスカートがはためき、隙間からのぞく真っ白な四肢が人を惑わせる。

真っ赤な愛機の肩に乗りまるで世界に演説をしてるかのように意気高揚した口調は、彼女の生まれ育った国柄ゆえだろうか。




「プロトタイプとテストタイプの零号機と初号機なんてアンタみたいな素人とシンクロするのが関の山、弐号機こそが正式タイプのエヴァ!」





ズズーゥゥゥゥゥン




そんな時、耳障りな振動が船と少年少女を揺らす。

「水中衝撃波?」



音より早く伝わってきた振動から聡明な彼女はすぐさま異常事態であることを察知し、その異変が何であるのか自らの目で確かめるべくタラップを駆け下りその軽快な足取のまま船外まで一気に飛び出した。




ズズーゥゥゥゥゥン




再び衝撃波、そして軽く100メートルはあろうかという水柱があがる。

水柱の中に見える船の残骸、真っ二つに折れた駆逐艦の船体、誘爆する弾薬が甲板を吹き飛ばし大爆発へといたる。

そしてアスカは爆心地から高速移動する黒い影をその紺碧の瞳で見つけた。






いつの間にか彼女に追いつき同じくその様を見つめていた黒髪の少年は、自身の経験からこう呟いた。



「まさか・・・使徒・・・」



「使徒・・・あれが・・・」




いつ何時戦闘に入る覚悟はしていたが、いざその時が来た事を知ったアスカ、僅かに覚えた恐怖の身震いを意識して歓喜の身震いに変化させる。

自らを鼓舞する言葉とともに。




「ちゃぁぁああああああーんす!」









そんな時、傍らに控えていた碇シンジが突然閃いたかのように大声で彼女の言葉をさえぎった。









「いや・・・・違う・・・
あれはそんなものじゃない」







「アンタが使徒だって言ったんじゃないのよ!」






アスカは先ほどまで震える小鳥の様にしていた少年が突如として自信満々に語り始めることに無意識に苛立ち怒鳴りつけた。

しかし返ってきたのは、やはり自信に満ちた言葉だった。















「違うんだ!あれは、EBE!
間違いない地球外知的生命体だよ
スカリー捜査官」








 

「って誰がスカリーよっ!誰がっ!」






アスカ様の強固なツッコミ。
しかし シンジにまったくもってそんな言葉を意に介さないようだ。



「スカリー・・・君が僕に医者としての科学的見地からの意見を言ってくれるのは分かる、しかし現実に起こっている事なんだ。」



「誰が医者だって言うのよ!アンタ頭大丈夫!?」」



そんな時、更に声をかけてくるものがいた。






「久しぶりだな、モルダー君!」



その者は格納庫の影に半分だけ隠れて、真っ黒な制服を身にまとい、右手に持ったタバコの煙と共に現れた。
オレンジ色のサングラスに隠れた瞳が凶悪な光を灯す。
言わずと知れたネルフの総司令。



「貴様ぁ!スモーキングマン!」




「げっ!碇司令!」




「ご挨拶だなモルダー君、苦渋の選択なのだよ、人類の滅亡か家族を人質に差し出すか」




「ってお前も何言ってんねん!」




「お前は自分が助かりたいだけだろ、スモーキングマン」




「だからスモーキングマンって誰?アレはネルフの総司令やないかいっ!」




「まだ分からんのか?私がお前の父だ!」




「そのまんまやんっ!アンタ、シンジのパパやろ」




「嘘をつけっ!妹を返せっ!」




「お兄ちゃん!」




と叫びながら現れたのは水色の髪を持ち真っ白な肌も美しい、第一中学の制服に身を纏った少女。



「ファーストチルドレン、お前もかいっ!」




「妹よっ!」




「そんな呼び方あるかい!妹に向かって「妹」ってなんやねん!」




「これで分かっただろう、モルダー君、君の生きる道は我々と共に歩むしかないのだよ」




「っぐ!」


低く短い唸り声と共に沈黙したシンジ、後ろにはいつの間にか近づいて来ていた黒服の男が二人立っていた。

そして黒服が脇から取り出した麻酔銃がシュッと低い音を立てて動作すると、すぐさまシンジの膝が崩れ落ちる。

渾身の力を振り絞って最後の声を出すシンジ。





「・・・・・・逃げろ・・・・スカリー・・・・スキナー長官に・・・」




「・・・・スキナーって・・・・誰?」




ドサリ、そんな音を立てて力無く倒れこんだシンジをすぐさま黒服が軽々と荷物を持つように抱え込んで連れ去っていった。


残ったアスカに向けて強烈な圧力を持った眼差しをむける碇ゲンドウ。




「スカリー君とか言ったな」



「言ってない!」



「モルダーの事を思うなら今日の事は黙っていてくれたまえ、それが君の為でもモルダーの為でもある」



「だから誰がモルダーやねん!」



言うだけ言うと踵を返してどこぞへ帰っていった碇ゲンドウ。

後には何も無かったかのような静寂だけが取り残される。



アスカはすっかり脱力した体を甲板に投げ出し倒れこんだ。

豪奢な金髪が新雪が散る様に舞い飛び、長い真っ白な手足もピクリとも動かない。



使徒がバッチャンバッチャンと音を立てて海を飛び回り、好き放題に暴れまくり護衛艦艇を多々沈め阿鼻叫喚の様相を呈しているがもはや彼女の目にそんなものは入らないようだ。

そしてアスカはけだるそうに重い口を開き一言つぶやいた。



「・・・もーいやゃぁ・・・家帰りたい・・・」









 

おしまい


こんばんわハマチュウです。
えええっと、「X-FILE」エヴァンゲリオン「あべの橋」風味です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アスカをアルミちゃん風でやっちまいました。
関西弁アスカちゃん・・・やっぱ変かも。
 



ハマチュウさんからX-FILE風エヴァ小説をいただきました。

アベノ橋魔法商店街も少し入っているのでしょうか。よく知らんのですが。

不思議な世界を垣間見せてくれたハマチュウさんに愛の感想メールをお願いします。

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