ある日曜の日常


作者:GUREさん





 秋の冷たい風が吹き冬のにおいがしてきた頃、あるいは木々の葉っぱが誰に言われるともなく落ち始める頃、彼は1人する事もなく黄昏ていた。正確には、する事などいくらでもあるのだが、それは黄昏れる事よりも重要ではなく、且つ難易度は低かった。
 10月の終わりとは言っても昼過ぎはいまだ暖かく、こう空が高いと心情的にもそれを倍増させた。目の前には、たたまれた洗濯物の山。しかしそれをしまおうとはせず、ベランダへの戸を開けっ放しにして、短くなった太陽の恩恵を体中に浴びていた。
 平和だなぁというのは、彼の心情を表したものなのか、それとももっと広義的に使ったものなのかは分からないが、それでも的確といわざるをえない。しかし、今も昔も、平和とは破られるために存在している。
「シンジ!!」
 突然ふすまが開くと、そこにはわがまま姫様が仁王立ちしていた。さも、タイミングを計っていたかのように。
 さして驚く様子もなく、首から上だけを動かして姫を見る。何となく予想はついた。
「買い物行くから、付き合いなさい」
 ここでシンジは思う。買い物さんという人がどこかへ行くので、それについて行けといわれたのか、もしくは1人で行くのはイヤだから、付いてきなさいといわれたのか。どちらにしても、彼には何の得も無さそうだった。もちろん拒否権など在るはずもなかったが。




 持つものも持たず、ある程度文句のいわれない服装に着替えると、飛び出すように外へ出る。彼女の限界値は5分なので、すでにギリギリラインだ。必死の形相で、階段を下りていく(エレベーターは当然のようになかった)。
「遅い!」
 息を切らして走って来た彼にとんだ一声はこれだ。同情もしたくなる。
「ほら、さっさと行くわよ!」
 ただ、彼女が1.5倍ましでいつもよりも元気な理由が、彼はまったく意識していないだろうが、久々の2人っきりでのお出かけである事を知っている人がいれば、納得の表情も、もしかしたら出てくるかもしれない。
 待ってというセリフが、吸おうとする息とぶつかりむせる。そんな彼にはまったく気付かず、アスカはムンズと掴んだシンジの手から伝わる暖かさに、酔いしれていた。




 色とりどりの葉は、けっして人々を喜ばせるためにそうなったのではないのだろうが、そんなことはお構いなしに、それを見たものは『美しい』とか『儚い』とか、勝手に思い浮かべる(ただ、半分以上はすでに重力に負けており、ガラ入り絨毯も顔負けの敷物になっていた)。それに洩れず、彼もまたそんなことを考えていた。隣で喋り倒すアスカに適当な相槌を返しつつ。それに気付かず(気付いた時点で彼の命はないだろうが)上機嫌なアスカは、延々と喋りつづけている。
 が、彼女の幸せもここまでのようだ。
「あ」
 接近に気付かなかったのは、今日最大のミスだ。
「碇君・・」
「あんた!何でこんなとこにいるのよ!私の通らない道にいなさい!」
 無茶な注文である。それにはきっちり無視し、シンジのほうを見ると少しはにかんだ表情を見せた。最近よく見せるようになった顔だった。とは言え、それと気付くのは彼女に近い者だけだが。
「遊びに来たの」
 ここは彼の家ではない。が、彼女にはそんなことはどうでもよかったのだ。つまりは、彼女にとってはシンジがいる事が、最低で最高の条件なのだから。困惑の表情を見せるだけのシンジに変わって(かどうかは分からない)、声をあげたのは、隣の少女。
「ダメよダメ!これから買い物に行くんだから!!」
 言ってハッと気付く。こんな事を言ってしまっては・・・・
「私も行っていい?」
 隣の彼は、笑顔で頷いた。




「ちょっと、シンジから離れなさい!嫌がってるでしょ!」
「碇君の嬉しそうな顔が見えないの?そう、お猿さんには理解できないのね」
「ムキ〜!誰が猿よ!!」
「クス・・・赤毛」
 挟まれた彼にとってはいい迷惑だ。
「ところで、あんたはついてきて何か買う物あるの?」
「・・・・・」
「ないんかい!じゃあ、一体何しにくんのよ!」
「碇君、凶暴猿がいぢめる・・」
 暴れる彼女を抑えつつ、これでは凶暴何とか(けっして心の声でも言えない)と言われても仕方ないとため息をつく。
「あなたは何を買いに行くの?」
「・・・・・」
 沈黙。
「・・・ヘッポコ」
「だ、だ〜れがヘッポコよ!!」
 シンジはつい先ほどまでの、平和な昼下がりを思い出し、心から涙した。
「そ、そう。新しい靴が欲しくて今日は買いに行くのよ!そうよ、そうだわ。これに決めた」
 今決まったらしい今日の目的に、絶対に自分は要らないだろうという事と、でも必要なんだろうという事を同時に思い、これが幸せなのかと疑問をもつ。ここに加地がいたら、彼の質問に的確に答えた事だろう。
 ふと足元を見ると、いつの間にか子犬が寄ってきていた。本当にいつの間にかで、この犬ただものではないと思う。
「あら、犬?ちっちゃいわね」
 アスカもそれに気付き、屈んでおいでおいでをする。
「・・迷子かしら」
 その犬が、どことなくレイに似ていたので、シンジは少しおかしかった。足に擦り寄ってくるその犬をどうした物かと思う。
「なんで、呼んでるのに来ないのよ!」
 完全に無視された形のアスカは、苛立たしそうに文句を言う。
「犬とは仲が悪いから・・・」
 多分犬猿の仲という言葉のことを言っているのだろう。それに気付き、ホッペを左右にギュ〜と引っ張るアスカ。
「あ・・」
 アスカの肩越しに、何かを見つけたようで、声をあげたレイ。引っかからないわよという顔をしていたアスカも、そういう事ではないらしいと後ろを振り向く。
「なんだ、親いるじゃない」
 その声は、少しだけ寂しげに聞こえた。
「そう・・」
 同様だった。親犬は一吠え大きく「ワンッ」となく。それに答えるように、小さな子犬はヨチヨチと親犬の方へ向かっていった。
「親がいると、悪い男に捕まらなくてすむみたいね」
 ジト目でシンジを見ると、そう呟いた。
「・・・ここまで行くと、もう罪なの」
 こういう時だけは意見が合うのはなぜか、それはわからなかったが、自分にできることは曖昧に笑うしかない事だけは理解できた。




 デパートの前までようやく来れた。胃がキリキリするのは、多分穴がいくつかあいたせいだろう。もし死んだ場合、過労死とかそういうのの判定はしてくれるのだろうかと少し思う。
「なんか、いや〜な予感がするのよね〜」
 それは、彼がアスカに命令された時点で感じていたものだ。
「ここは危ないの」
「あんたもそう思うのね。・・・シンジ、別のとこ行くわよ」
 彼に選択権も決定権も与えられていない。状況に流されない生き方を目指している彼は、これで 良いのかと人生に疑問をもつ。
「あ〜〜〜〜!!!シンちゃんはっけ〜〜〜〜ん」
「ほんと、シンジさんですね」 
 また一つ、胃に穴があいた。




「なんで、なんで、なんで・・・」
 シンジにだけ聞こえるような声で呟きつづける。
「ラッキーだぁ。こんなところでシンちゃんに会えるなんて〜。やっぱり私とシンちゃんは運命という糸で繋がってるんだね♪」
「マナさん、それを言うなら私もそうですよ」
 デパート内。どう控えめに見ても目立ちまくっている彼ら。理由など語らずとも分かろうが、男女どちらの目もひいているのは特筆すべき事ではない。
 囲まれている彼は、男性の目から見ればまさにハーレム状態なのだが、その顔を見ると何故か人生に疲れているような表情で、虚ろな視線だった。
「何故ジャイアンさんとヤママユさんが一緒にいるの?」
 マユミはその呼び方がいまいち気に入らないというか、不自然だと思ったが、まぁとくに注意するほどの事でもないと思い、そのままにする。
「私んチの模様替え〜♪カーテン買いに来たんだよ。マユミちゃんに選んでもらおうと思って〜」
「今日は朝から付き合ってるんです。保母さんになった気分で、面白かったですよ」
「む〜!それはどういうこと〜!マナちゃんが幼稚園児ってこと〜?」
 マユミはフフと笑って誤魔化す。
「あ〜、何かそれっぽい〜!しつれいな〜!」
「何処が違うのよ」
力ないアスカの声がボソっと聞こえた。





「あっ、あれヒカリさんと鈴原君じゃありません?」
「え、どれどれ?」
「ほら、あそこで服選んでる2人」
 結構な混雑をしている店内で、絶対に2人だと断言するマユミ。かなり目ざとい。
「あぁ〜ほんと〜♪やっ・・・」
「コラッ!」
「フガフガ・・・」
 慌てて後ろから口をふさぐアスカ。
「何で大声を出してあたしたちを気付かせるのよ」
「なかなか雰囲気よさそうですね、あの2人」
 いわれて見ると、トウジの方は相変わらずのジャージ姿だったが、ヒカリのほうはこれ以上ないくらいオシャレをしていた。よくは見えないが、うっすらと化粧をしているようにも見える。
「フガフガ・・」
「思わぬ偶然ね」
 アスカの目は何故か光っている。というか、マナ以外の女子は目の輝きがいつもと違った。マナは目の光が薄れてきていた。
「こういう場合・・・」
「後をつけるの」
 シンジは、ただただ心の中で二人に謝りつづけるだけだった。自分の意思ではどうにもできないこの状況と、少し楽しみにしている気持ちの両方に対して。
 「・・・・」
 マナは落ちていた。




「あれって、『でーと』ですよね・・・」
 一定の距離を保ちながら、見張るように全てを見逃さないように尾行を続ける面々。
「間違いなくね。それにしても、ヒカリのやつ、私たちに感づかせないなんて・・やるわね」
 こうなるから、気付かせないように必死でひっそりと誘ったんだろうと考えるシンジ。が、結局は同じ結果になっているのだから、その分疲れ損というのだろうか。
「あっ、ヒカリちゃん、手を繋ごうとしてる〜」
「・・・大胆なの」
 見ると、触れるか触れないかの距離で、ヒカリの手が動いていた。
「ほら、ワシっといっちゃいなさいわしっと!」
「ぐ、ぐるじい・・」
 せっかく復活したのに、また落とされそうなマナ。
「青春ですね・・」
 うっとりとした顔のマユミに、何を考えているのかよく分からないレイ。
 が、ヒカリの手はとうとう繋がれる事はなく、スッと下がってしまう。
「おやおや、もう一息だったのにねぇ。しかし、これが若さという物なのかな。そう思わないかい、シンジ君?」
 沈黙
「ナ、ナルシスホモ!?一体何処から沸いて出たのよ!」
「沸いてでたとは失敬な。僕はシンジ君がいるところには必ず参上するんだよ」
 そう言って髪を少しかきあげる。
「カヲルちゃんすごいね〜。瞬間移動できるの?」
「マナ君、ちゃん付けは止めてくれないかな?」
「そんなことはどうでもいいの・・。早く後を追わないと行ってしまうの・・」
「そ、そうだったわ!こんなホモは放っておいて、尾行を続行するわよ」
 シンジははっと我に返る。何故ここにいるのか?どうして探偵の真似なんかしているのか?そこまで考えて、落胆を一つ。何故ここまで我に返ってしまったのだろう、もう一つ手前ならば少しは楽だったのだろうに、と。が、同時に仕方ないとも思った。




 彼らは店内にある喫茶店にはいった様だった。続いて入る怪しい団体。
「で、何であんたまでついてくんのよ」
「シンジ君が行くところ、僕も行く運命にあるのさ」
「またわけのわかんない事を・・」
「シッ!静かに!気付かれてしまいます」
 先ほどから、マユミがやけに積極的だった。どうやらこういうのがかなり好きらしい。距離は約10mで、下手をすれば一網打尽にされる距離。というか、この怪しい団体に気付かないヒカリとトウジは、よほど回りが目に入っていないのだろう。
 注文を聞いてくるウェイターに、シンジをのぞく全員が『水』と答えた。少しあのウェイターが可哀想になる。とは言え、シンジ自身も何も頼むつもりはなかったが。
「何話してるのかなぁ〜?」
「気になるの」
「どうだろうね、愛の囁きをするほど二人は進展していないだろうし。ここから見るに、まったく喋っていないというのが妥当ではないかな」
 確かに、お互い意識しすぎてか目すらあわせていないようだ。ここに入ってからすでに20分が経過しようとしているが、まったくめがあっていない。
 ここにカメラかビデオがないことが非常に悔やまれた。シンジはここでふと閃く物があったが、それがなんであるかまでは、深く追求できなかった。彼らが席を立ったからだ。
 自分たちの席が、彼らよりレジに近いため、近づいてくる二人から逃げるように身をすくませ顔を隠す。しかし、ここにいる総勢6人全てが同じ動作をしたため、この上なく怪しい。
 横を通り過ぎる時、ちらりとこちらを見たような気がしたが、とくに何の行動も起こさなかったので気のせいだろうと踏んだ。遅れること一分、怪しい団体は、一銭も払うことなくその店をでる。




 ヒカリとトウジは、そのままエレベーターには乗らず、非常階段のほうまであるいていく。少し距離が開いてしまい、先に右に回られた時に、その姿を見失ってしまった。
「しまったわ!」
 慌てて駆け出すが、何処にもいない。とりあえず、この先は階段なのでそこまでいってみようということになり足を進める。
「おかしいですね・・・確かにこちらの方にきたはずなのに・・・」
 踊り場のほうものぞいてみるが、姿はなかった。というより、この辺りに人影、いや、人の気配すらなかった。
「え〜ん、見失っちゃったよ〜」
 と、背後からいいしれぬ殺気を感じて、シンジだけが振り返る。
 血の気がひいた。
「・・・・おんどれら・・・・・」
 その声に弾かれたように、皆が振り返る。
 そこには、腕を組んだ黒ジャージの少年と、ワナワナと震えるおさげの少女がいた。

「・・・ふ〜〜け〜〜〜つ〜〜〜よ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

 彼女の叫びは、半径一キロには間違いなく伝わっただろうと推定された。




 このあとは、平謝りである。
「ごめ〜ん!ね?ごめん!!ヒカリ〜、許してぇ〜〜」
「ヒカリちゃん、きげん直して〜」
「ごめんなの」
「悪気はなかったんです!!ヒカリさん、ごめんなさい」
 トウジの方はすでに片付いており、つまりこれは、ヒカリの方から誘った事を暗に意味している。
 結局30分の格闘の末、一ヶ月間の帰りの寄り道のおごりというので手が打たれ、事なきをえた。
「で、どうやって誘ったの?」
「ななななななな、何が?」
 どう聞いても声が上ずっており、動揺しているのが見て取れる。それは、何を聞かれているのかが分かっていて、それでいてその質問にとぼけなければいけない事情があるのだろう。
「とぼけたってだめなの・・。キリキリ白状するの」
 後ろに一歩下がるが、それは叶わない。
「ヒッカリちゃ〜ん♪」
 何故か、先ほどとは立場が逆転しているのに気付いて、しかしそれに気付いた所でどうしようもなかったのは現実だが。

「それにしても、ヒカリ君とデートとは・・・、なかなかやるじゃないか」
「渚ぁ、ちゃかすなや。ただワイは・・・その、弁当箱がわれてもうて、それで、新しいのをな、その・・・・、なんやねんその顔は!!文句あんのんか!!!!」
「いや、別にないけど?」
 カヲルはその笑顔を崩すことなく、からかうようにそう答えた。
「まったく・・・どいつもこいつも・・・」
 完全に照れ隠しなのは分かったのだが、彼のその勢いに敬意を称してそれ以上の突っ込みはやめたようだ。




 シンジは思う。結局いつものメンバーが集まったのではないかと。誰もフォローしなかったが。
「このガラはどうです?」
「マユミ、そっちよりもこっちの方がいいんじゃない?ほら、この辺とか」
「趣味悪い」
 こめかみを引きつらせ、詰め寄る。
「ファーストォ・・・事欠いて、『趣味悪い』とわはぁ・・・・、あんた死にたいようね」
「まあまあアスカ、落ち着いて」
 すっかり落ち着いたヒカリはいつものポジションへと戻っていた。
「ねぇねぇ、これなんかどう?私んチにピッタリじゃない?」
 沈黙
「あんたが一番趣味悪いわ」

「結局、荷物もちっちゅうんが男の役割やなぁ」
「何処の世も、男はそういう扱いなんだよ」
 なぜか超越した面持ちで男の哀愁を語る二人。シンジは今更なのでその会話には参加しなかったが、遠くから見つめる彼女たちの行動から、それでもわるくないのではなんてことを考えていた。
「そうなったら終わりだよ?」
 カヲルが、こちらの胸中を読んだセリフを吐く。判ってはいたが、泣きたくなる気持ちを抑えて、黙っている事にした。
 いい加減飽きてきたトウジは、する事もなく(彼女等に加わるなんて当然できっこなかった)うろうろしてる。目の前を通った、スタイルの良いおねいさんを見ながら鼻を伸ばしているところに、絶妙のタイミングでヒカリが帰って来て、そのどたまをカチ割る勢いではたいたのは、30分が経過したところだった。




 やはり日は短く、闇が世界を支配し始めた頃、ようやくデパートからでる。
「結局、マナが言ったのになっちゃったじゃない」
「これが気に入ったの〜」
 お世辞にもいいガラとは言い難かったが、本人が気に入ったのなら仕方なかった。
「さて、帰りましょうか?」
 マユミがそう宣言するまでもなく、皆が帰宅モードへと移行していた。
「・・私、ネルフに寄って行くから」
 と、1人違う道を選択するレイ。
「じゃ、みんな・・・・」
 と言い、
「碇君、また明日」
 しっかりシンジにだけ別に挨拶をする。
 
 街灯が一斉につき始めた。四つ角に差し掛かり、ヒカリは別の道となる。
「じゃあ、また明日ね」
「あ、ヒカリちょっと待って。・・バカジャージ、女の子を一人で帰らせるわけ?ちゃんと家まで送っていきなさい!!」
 と、ヒカリが慌てた。
「あ、アスカ!いいのよ別に、すぐそこだから」
「・・ヒカリ、せめてもの罪滅ぼしだから・・・ね?」
 耳に口を寄せて、小声で話す。
「わ、わあっとるわい!いわれんでも・・・」
 5秒ほど固まっていたトウジも、すぐに再起動して顔を真っ赤にしながら喚いた。
「じゃ、まったね〜♪」
 夕日に照らせれてと言うわけでもなく、赤い顔の2人は闇へとその姿が飲まれていく。
「進展するでしょうか?」
「ま、無理でしょうね。2人ともあんな調子じゃ。でも、それもいいんじゃない?」
 確かにそう思った。それもまたありだと。
「さて、お邪魔は無しよ。いきましょ」
 後をついていきそうになったマナの首根っこを抑えて、そのままずるずると引きずって歩く。
 あの2人に多くの幸があらん事を、せつに願わずにはいられなかった。



 完全に光がなくなった頃、最後の1人、カヲルとの分岐点がやってくる。
「それじゃあシンジ君、また明日」
 底抜けにさわやかな笑顔を残し去ろうとする。
 なんとなく、それを呼び止めようとして声がでかかる。
「シンジ君」 
 しかし、カヲルが先に振り返らずに名前を呼ぶ。
「この世界では、ハッピーな事しか起こらないんだよ。君を中心にしてね。もちろん、イレギュラーが起こる確立は無視できないよ」
 アスカは首を傾げたが、シンジは、シンジだけはハッとした。
「判っているんだろう?」
 こちらに向き直ると、その赤い目がじっと自分を突き刺すように見た。
「あんた、何言って・・・」
 アスカのセルフをカヲルが遮る。
「だってこの世界は・・・」
 そのカヲルのセリフをさえぎった。

「この世界は、僕が選択したんだから」

 目が細まる。
「おやすみ。いい夢を・・・」
 その背が見えなくなるまで、じっとただ見つめるだけだった。

「ねぇ、何の話よ」
 アスカがしつこく聞いてくるが、それは全て笑顔で答える事にした。その笑顔に、彼女がてんてこ舞いになるのがこの話の最後。

 



 

 いつまでもこの目で見て、この足で歩いて行くことにしよう。
 未来(あした)へと・・・。
 












  

  

  

  後書きみたいな物
   
   え〜、日常みたいな物が書ければと思ったのですが、どうでしょう?
   こういうのは、お決まりでどこにでもありそうなネタなのですが、自
   分の文章で、自分の力で一度書きたかったのです。お目汚しになった
   可能性もあります。すみません。
   あるゲームを知っていると、最後のほうはあぁと言う気分になるでし
   ょう。軽くパクってます(汗)
   お気付きでしょうが、シンジのセリフは最後の部分のみです。まぁ、
   これがこの話のオリジナリティでしょうか(涙)ちなみに、ケンス
   ケの扱いはこんなもんです(苦笑)
   では今回はこの辺で。またどこかでお会いしましょう・・・。


GUREさんの今回のお話は日常の向こう側に何かが見えるというか。

とにかく、気に入ったなら即行で感想出しましょう。

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