訳の分からない騒動で、常夏の島となったこの国でも、一番暑いのはセカンドインパクト前では『夏本番!』と言われていた8月なのは,自明の事だった。
が、その八月よりも暑い中学生達が、ここ第三新東京市のクーラーのない3−Aの教室でたむろっている。常夏日本では、全学生の最大の楽しみである『夏休み』が、短縮されていたりするのである。で、くそ暑い昼休み、お決まりになった3−A、通称『お騒がせ組』の、そのまた中心メンバーが対策会議を行っていたりするのであった。




発明 in 烏賊したホームページ

作者:GUREさん





「いかんともしがたいのは、このわけのわかんない暑さよ!」
身振り手振りを加えて、明らかにオ−バーなアクションをつけているのは、言わずと知れた自称『天才美少女』惣流・アスカ・ラングレーだ。彼女は腰まである自分の髪の毛を、少し鬱陶しそうにかきあげると、そうのたまったのである。
「アスカすごいね〜、『いかんともしがたい』なんて日本語覚えたの?こっち来てまだ一年とちょっとでしょ?」
アスカは胸を張り、どうだと言わんばかりにはなを『フフン』と鳴らした。
「シンちゃんの『調教』の賜物だね〜」
「誰が『調教』されとりますか!」
「じゃあ、餌付け?」
なんだかんだで、ちゃっかり第三にいついちゃってる霧島マナが合の手を入れた。が、それは赤の美少女には気に食わなかったようだ。
「まあまあ、アスカ。霧島さんも別に悪気があっていったわけじゃないしだろうし・・・」
「そうそ〜〜う。カリカリしてるともっと暑くなるよ〜?」
「させてんのはアンタでしょ〜がっ!」
「いたっ!なにすんの〜!そういう事するとお仕置きするよ〜!」
「ふんっ!やってみなさいよ。できるんならね!!」
いつものように、『戦自娘』対『ネルフの爆弾』の戦いが始まった。もう慣れっこなのか、誰も止めようとはせず、ただ(暑いのに良くやるよなぁ)と心の中で感心、もしくはあきれ返るだけだった。

「で、惣流のやつは何が言いたかったんや?」
横目でそれを捕らえながら、いつものように黒ジャージをきた彼が誰にともなく聞く。まあ、二人抜けてもまだ4人いるのだ、誰かは答えてくれる、そう踏んだのだろう。
「要するに、このくそ暑いのと、この暇な昼休み、この二つをどうにかして欲しかったんじゃないのか?」
「それやったら、一つは片付いたなぁ。ってケンスケ、お前、あぶないで?」
ここでの彼の『危ない』と言う表現は、中学生ではありえないようなプロレス技が繰りだしている彼女たちにケンスケが近すぎている事を言っているのか、それともメガネを光らせ怪しい笑みを浮かべながらそんな彼女たちを被写体に写真をとっている事をいっているのか。
「マニアには高く売れるんだよ」
本人はどうやら後者と取ったらしい。自覚しているだけましか。

その二人を無視しつつ、話は進む。
「それにしても暑いですねぇ。ちょっと異常じゃありません?連日35度を超えるなんて」
「そうよね〜、お洗濯ものは良く乾いていいんだけど、クーラー無いと過ごせないから・・・・今月の電気代、心配だわぁ」
「委員長のとこも?うちもだよ〜。まったく、ミサトさんのビール消費量も跳ね上がるし、アイスとかジュースのせいで食費も上がるし。・・・ふぅ・・・、少しぐらい夏ばてしてくれないなぁ・・・」
ちらりとアスカの方を見る永遠のおさんどん、碇シンジ。どうやら今日はの戦いは、アスカが有利らしい。
「碇君のところも大変ね〜。ねぇ、マユミさん?」
急にふられた山岸マユミは、(中学生の悩みじゃないわ・・・)とか考えてたので、慌ててニッコリ微笑むしかなかった。

まだ一度も喋っていない、この場にいるはずの不思議な少女・綾波レイは何をしていたかと言うと、マイペースにまだ昼食を取っていた。
(碇クンの作ってくれたお弁当・・・碇君の匂いがする・・・碇君の味がする・・・・。碇君の味・・・、そう、私たち一つになったのね?)
さいっでっか・・・。

もう一人、忘れていけないのは彼。渚カヲルは、トイレにいく途中で、校内で道に迷っていた。
「何故学校という場所は、こう無意味に広いんだろうね。まったく・・好意に値しないよ。しかし、このままじゃそろそろ間に合わなくなって・・・はぅ!・・・や、やばいんじゃないのかな・・・?」
こちらはこちらで、大きな問題を抱えているようだ。

 


そんなこんなで、無難(?)な昼休みと、退屈な5.6時間目の授業が終わり、放課後。
彼らはまたもや集まっていた。今度は+カヲルと言う面子である。まぁ、女子は日直であるヒカリを、男子はこれまた日直であるシンジを待っていたせいであって、しかし、そもそもこれがこの騒動の間違いのきっかけとなった事柄である。

仕切っているのはもちろん、先ほど一番先にこのディスカッションから離脱したアスカ。
「と、いうわけで、明日から間違いなく一週間は続くであろうこの異常な暑さとどう戦うか、これに対する意見を広く一般から求めるわ」
他の生徒はすでに帰路についており、残っているのは彼らしかいない。ヒカリとシンジは忙しそうに仕事をこなしていて、この議論には参加していない。これもまた原因の一つである。彼らがいれば、あの意見が出る前に、もっと違う意見を出していたに違いない。
「あのぉ〜、それはどうにかしなければならない事なんですか?」
「もちろん!このまま手をこまねいていては、いつかこの暑さで死人が出るわよ!」
「なにもそこまで・・・」
「甘いわよマユミ!その筆頭が、うちのクラスの担任!今日の6時間目の社会、あの先生、あっちの世界にいったまま、そのままお陀仏するかと思ったわよ」
マユミの笑顔が引きつった。言い返す言葉が浮かばないからだ。
「ネルフの力でこのガッコにクーラーつけるゆうのは?」
「ジャージにしては言い線だけど却下」
「ジャージにしてはってのはどないやねん!!」
「ネルフは組織力が低下した上、いまだ秘密組織。表立っては動けないの」
「ほんなら、裏から手を回せばええんやないか?」
(今日のジャージは冴えてるわね)と思ったのだが、それが何となく少し腹立たしかった。
「鈴原君、裏から物事を動かそうとする場合、時間がかかるのはセオリーなんだよ?」
涼しい笑顔でアスカをフォローするカヲル。それに満足したのか、ぐるりと皆を一瞥した。
「他には?」
「明日から水着で登校してく、ゴッファアッ!!!」
血を吐いて倒れているところに、女子の皆さんのやくざキックが数発入った。多分明日の朝までぐっすりだろう(その後起きる保証はどこにもないが)。親友の馬鹿な発言に男泣きしつつ、巻き沿いを喰らわないよう、距離をおいて傍観してるだけに留まったトウジ。彼の;;は賢明だと言えよう。
一通り気が済んだのか、何事も無かったように話を進める。
「・・・・・プールで暮らす」
「ファースト、アンタは黙ってなさい・・・」
「内輪とかは?」
「フィフス、あんたそれくらいでこの暑さが何とかなると思ってるの?」
「いや、思ってないよ?」
「・・・・・」
予想通りというかなんと言うか、話がいっこうに前に進む気配がない。すると、今まで沈黙を守っていたマナが、いかにも私はすごい意見をもっていますよという目をして手を上げた。
「はいはいはいは〜〜い!」
「なによ、バカマナ」
「ぶ〜〜〜、馬鹿とはなによ馬鹿とは!ふ〜んだ、いいも〜ん、教えてあげないも〜ん」
ホッペを膨らましたと言う事は、怒っていますと言う意思表示のようだった。しかし、それが通用するのはこの中には数少ない。
そのなかでも彼女には皆無だったようだ。
「ジャイアンさん、早くして・・・」

レイはマナのことを『ジャイアンさん』と呼ぶ。このときの彼女の思考を見てみよう。
(鋼鉄のガールフレンド・・・、鋼鉄・・・アイアン・・・・ジャイアン・・・・・そう、彼女はジャイアンさんなのね)
全てが微妙にずれている。何故鋼鉄を取ったのか、鋼鉄はスチールだ、アイアンとジャイアンはイアンしかあってないぞ、何故ドラ○もんを知っている?・・・等々。これらの方程式の解を全て出すには、彼女の事を1から話さなくてはならないので、今回は止めておく。

「ねぇ、レイちゃん・・。いい加減その呼び方止めて・・・」
「いいじゃない、ぴったりなんだし〜」
「アスカ!どこが!!!」
「う・た♪」
「あう・・・・・・」

そう、彼女たちは見せてもらっていたのだ、ミサトに頼んで例のアニメを。結果下した判断は、満場一致で『ぴったり(歌)』ということになり、晴れて二代目ジャイアンを襲名したのである。

「いいのよ〜・・・、どうせ私の歌なんか決戦兵器並みよ〜・・・」
暗い闇を背負って、教室の隅でのの字を書いているマナは、どこまででも落ちていきそうな雰囲気。流石に焦ったアスカは話を逸らす事にした。
「ほ、ほら、マナ、あんたなんか意見あるんでしょ?早くいいなさい」
「あっそうか〜、そうだったね。忘れてたよ〜」
乙女心と秋の空(が、今は夏)。
「あのね、あの人に頼んでみたら、ネルフにいる白衣着たおねいさん。ほら、金髪のさぁ・・、えっと・・名前なんだったかなぁ〜・・・」
さっと顔が青ざめるのが自覚できたアスカ。
「リ、リツコ・・・」
「あ、そうそうリツコさん!あのおねいさん、天才科学者なんでしょ?頼めば何とかしてくれるよ、きっと♪」
「そういや、リツコはんがおったな。頼む価値ありやで。なんせワシの足、きれ〜になおしてくれた人やからなぁ」
彼は自分が実験台にされた事を知らない。知らぬが仏、言わぬがはなというやつである。
「そんなにすごい人なのですか?」
ネルフには疎いマユミがみんなを見回して聞く。
「・・・お母さん、エヴァを作り、マギを作った人。天才・・・マッド」
「ね、マユミちゃん、すごい人でしょ?だからさぁ、ねえアスカ〜、レイちゃ〜ん、お願いしてみてよ〜〜」
遠い世界に旅立っていたアスカだったが、自分名前を呼ばれたことでようやく復帰した。
「ダメダメダメダメ!!ぜ〜ったいにダメ!」
「え〜〜〜なんで〜。アスカのけちぃ〜。いいも〜ん、レイちゃんに頼むから」
「ダメだっていってるでしょ!ファースト、この話、絶対あのマッドにしちゃダメよ!」
「命令ならそ・・・」
「命令よ!」
いつものセリフを途中でさえぎられ、ちょっと不機嫌になるレイちゃん。
「あんた等ねぇ、リツコの恐ろしさを知らないからそんなことがいえるのよ。・・・・確かにあのマッドに頼めば、この暑さぐらい何とかするでしょうね〜」
「そうなんですか?すごいじゃないですか」
「目的のためなら手段は選ばないけどね・・・」
アスカは口もとを少し上げた。
「選ばないって・・・」
そこでマユミは気付く。目が笑っていない事に。
「そうねぇ、何するか・・・日本を南極にするぐらいのことはするんじゃない」
「セカンドインパクト前にあった『冬』にぐらいするんじゃないかな?あの赤木博士なら」
「うまいこと言うじゃない、フィフス。それはやり過ぎにしても、この教室を雪山に変えるくらいはするわね」
「年増は加減を知らないからねぇ」
突拍子のない事を喋っているとは思っても、彼らの目が少しも冗談を言っているようにはみえなく、黙り込んでしまった。
と、日直の仕事を終えた二人が戻ってきた。
「ごめ〜ん、日直の仕事長引いちゃ・・・・て?どうしたの?」
「トウジ、ケンスケ、カヲル君、遅れ・・・・、何やってんのさ?」
引きつった顔で固まってる彼らを見て、ヒカリとシンジは顔を見合わせた。





こういう時はなんと言うのだろう。今の時点で『ときすでに遅し』。明日の朝は『寝耳に水』『青天の霹靂』、で『画竜点睛を欠く』『弘法筆の誤り』・・・・最終的には『瓢箪から駒』









暗い部屋。パソコンのモニターから漏れる光が、その前に座る人物のシルエットを映し出す。
「フフフ・・・、そう、それだったら早く相談してくれれば良かったのに」
持ち上げたコーヒーカップにはI LOVE CATの文字と、猫。
「生態系を壊すのは流石にねぇ」
金髪が少しゆれる。
「けどアスカ、それはいただき♪」
お肌が少し下降気味なのが彼女の最近の悩みだ。
「まあ、マッドだの何だのってのは、おねいさんのふか〜い懐で許そうじゃない」
最近彼女が30年経って始めて覚えたのは、寛大な心。
「渚カヲル、だれが年増ですって?フフフフ・・、こういう時は10倍返しだったわよね・・・」
もう一つ覚えたのが、10倍返し。
が、肝心なことが抜けている事が多いリツコ。今回もご多分もれず重要な事に気がついていない、すなわち、彼女はどんな時でも全力、いつも10倍で返している事に。さて、10倍返しの彼女が10倍返しを覚えたら・・・、10×10の結果は推して知るべし。
この後、渚カヲルを襲うであろう不幸に、合掌。






「アスカァ〜早く起きないと遅刻するよ〜、ねぇ〜ってばぁ〜」
ガラッ
「あぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
「うわっ!!」
「もうこんな時間!?バカシンジッ、何でもっと早く起こさなかったのよっ!!」
文句をいいながらも、洗面所へ向かうアスカ。目の前のドアが急にあいたせいで尻餅をついていたシンジは、アスカが洗面所に駆け込むのを確認すると、愚痴をこぼすように呟いた。
「起こしたけど気がつかなかったんじゃないか・・、なんだよまったく・・」
「シンジッ、パン用意して!!」
「もうしてあるよ!」
彼らは朝から忙しい。

「あ〜〜、来た来た〜。アスカ、遅い〜」
いつもの待ち合わせ場所で待っていたのは、ヒカリ、トウジ、マナ、カヲル、それにレイ。本当はこれにケンスケが加わる筈なのだが、・・・・彼のことは忘れよう。マユミは家が彼らとは学校を挟んで反対側なので、別行動になってしまう(彼女にとってこのハンデはかなり痛い)。
「ゴメ〜ン、バカシンジのやつがさぁ、いつまでも寝てるから・・」
自分のせいだとホンキで思ってない彼女。まぁ、付き合いの長い他の彼女たちは、だれも信じてないが。
「なんだよ、寝てたのはアスカじゃないか・・」
ここからは、女子男子のグループに分かれてのおしゃべりになる。
「センセも難儀やなぁ」
「ありがと、トウジ。でももう慣れちゃってるから・・」
ハハッと乾いた笑みがこぼれる。それは、毎日に疲れきった世のサラリーマンのお父さんが、娘達のわがままにしょうがなく付き合うときにこぼす笑みと同種の物だった。
誰が見ても、アスカがシンジに好意を寄せているのは明らかで(あのトウジですら気付いているのだ)、本人もそれを認めている。気付いていないのは、当事者であるシンジ君だけである。が、アスカは甘え方が良く分からない。ので、こんな事になっているのだが・・・。
ちなみに『娘たち』といったのは、甘え方が、レイは難しい、マナは方向がずれている、マユミは怖い・・・。彼の気苦労が、4人いるので4倍ではなく、4乗になっているのは公然の秘密である。
そして、その気苦労を×5しているのが、ナルシスホモ。
「そんなシンジ君も素敵だ・・・、行為に値するよ。今すぐにでも抱きしめた・・・」
ゴス
昨日よりも七割増のキックが、ヒカリを含めた女子の皆さん全員から入る。
「そのっ!使い古されたっ!ネタっ!止めなさいっ!!」
「イヤ〜〜!男同士で不潔よ〜〜〜!!でも!その時は!私を〜!呼んで〜〜〜!!!」
「シンちゃんは〜っ!私と〜っ!ラッブラブなの〜っ!」
「ホモは用済みっ!ホモは用済みっ!ホモは用済みっ!ホモは用済みっ!ホモは用済みっ!」
ピクリともしなくなったカヲルをみて、シンジは少し冷や汗を流す。が、たくましくなった彼は、みなかった事に決め、同じく無視を決め込んだトウジとのおしゃべりに花を咲かせる事にした。
「全く、このホモは油断も隙もないんだから!ファースト、やっちゃって」
「・・・わかったわ」
と、彼女の前に六角形をした壁が・・・
「ヘブシ!!」
本当にとどめが入った。
「・・・殲滅完了。碇君、誉めて?」
「ほ、誉めてったいわれましても・・・ハ、ハハ・・・」


学校。
今日も今日とて朝から暑い。3階にある3‐Aの教室に向かう彼らは、もちろんリツコさんの悪巧みを知るはずもなく、いつもと同じ光景が眼前に広がる筈だと信じて疑わなかった。
「今日も暑くなりそうね」
三階に上がりきって、後は廊下の突き当たりにある自分たちの教室に入るばかりである。
「わかりきったこと言わないでよヒカリ。はぁ〜、憂鬱」
「アスカ、憂鬱なんて言葉も覚えたんだ〜」
「あったり前でしょ!!」
「じゃ、漢字で書ける?」
「うっ・・・」
シンジが微笑む。
「マナ、僕だって書けないよそれは。アスカはこの一年ですごく覚えた方だと思うよ。さすが大学でてるだけあるね」
まさかこの展開でシンジに誉められると思ってなかったアスカは、照れ隠しに一番先頭に立って赤くなった顔を見られないようにした。そのまま、ドアを思い切り開ける。
「な、何言って・・・」
そこで彼女の動きが唐突に止まった。後ろから見ていた6人には、まるでねじが突然切れたぜんまい仕掛けのおもちゃに見えた。一番近かったマナがスピードを一定に保ったまま近付いていく。
「どうしたの、アス・・」
またも教室の中を凝視したまま止まった。今度はさすがにおかしいと感じて、残り全員が二人に近付いていく。
そして、絶句。
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
目の前に広がる、白と青。突き抜けるような白さと、吸い込まれそうな青が支配しているだけの、唐突な空間。そこはもはや、教室と呼べるような大きさでも空間でもなかった。
一番初めにもどってきたのはヒカリだった。
「・・・ここ、3−Aの教室よね?」
それは自分自身に言い聞かせるために吐いた言葉だったに違いなかったが、他の者を覚醒させるには十分な効果はあった。
「・・・雪、のようだね」
いつの間にか復活していた(むしろ彼が復活しない方が異常事態だ)カヲルが、一歩その空間に入り、しゃがみこんでその白を確かめてから呟いた。
アスカは、クルッと方向転換し、トウジの下へ行くと、思いっきりその頬をつねる。
「イタタタタタタタッ!!!」
「夢じゃないようね」
「何すんじゃ、われ!!」
カヲルに続いて、シンジとマナもその空間に入っていく。
「これが・・・雪?」
「わあ〜〜、シンちゃん!これ、冷たくて気持ちい〜よ♪」
「お〜〜〜い!!!」
と、前方から声。一斉に見るとそこには3−Aのクラスメート達がいた。
「やっと来たか。これ、お前等のせいじゃないのか?」
「いや、僕達もさっぱりなんだけど」
「シンジさん、おはようございます」
すでにこの空間に入っていたマユミがトテトテと走ってきて、ペコリと頭を下げた。
「山岸さん、これ何があったの?」
以外に冷静になっている自分を見つけ、(まぁ、日常が日常だからなぁ)とちょっとなきそうになっているシンジ。
「私にも・・・。朝教室に入ったら、もうこうなってたので・・。どうやら雪山らしいのですけど」
確かに意外に急な斜面になっていて、見上げると、遠くに頂上らしき物が見えた。振り返れば、そこにぽつんと教室のドアだけがあり、やはり一面の銀世界と透けるような青空だけが見えるこの世界が、どこまでも続いてるように見えた。
ハッ、とアスカは身震いをした。
『・・・・・・それはやり過ぎにしても、この教室を雪山に変える・・・・』
「あぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
当然、この現状にとうとう逝ってしまったのかと、誰もが思った。
「ファファ、ファースト!!アンタ昨日の話、リツコにした!?」
すでにこの世界に馴染み始めていたレイは、以前本で見た雪だるまと言うのを作ろうとして四苦八苦しているところだった。
「・・・してないわ。必要ないもの」
「?必要・・・ない?」
すでに人の頭ほどの大きさになった雪だまを見下ろして、一つ小さく頷くレイ。今度は胴体部分に着手するようだ。
「・・隠しカメラと高感度の集音マイクが仕掛けてあるから」
アスカは崩れ落ちた。

「なんや知らんけど、これはこれでええんちゃうか?このままやったら、授業も潰れるやろうしなぁ」
「鈴原!!何てこと言うのよ!!」
「でもな、いいんちょ、あれ見てみ」
トウジが指差すさきを見ると、そこにはすっかりここに馴染んでいる3−Aの面々がいた。始めは見たことのない雪と、唐突なこの空間に戸惑っていたが、こなれて来ると、これは絶好な機会だと悟り、全力で遊び始めたのだ。
「どや、ワイらも行かんか?」
と、手を差し出すトウジ。
(こ、これは、鈴原と手を繋げるチャンス!?)
委員長としての義務鈴原とラブラブ
彼女の行動は決まった。

ヒカリが落とされた時点で、止める者など誰もいない。
「シンちゃん、エイッ♪」
「わっ、冷た!この、やったなぁ」
「キャ〜〜〜♪」
「待て〜」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
「・・・なにラブラブな世界に入ってるのよ〜〜〜〜〜〜!!!」
シュン、ゴツ
「いった〜〜〜!何するのよアスカ!私とシンちゃんの邪魔しないでよ!」
雪球の当った後頭部を押さえながら、臨戦体勢に入るマナ。すでに雪球を量産しているアスカ。今日は雪合戦らしい。

「愛しのシンジ君はどこかな?」
念のため、入り口付近で一人待機していたカヲルは、何の危険も無さそうだと判断すると、少しはなれたクラスメートの中から、愛しのマイダーリンを発見するための『カヲル探知機』を発動させていた。
「・・いた!あの赤毛猿と、凶暴音痴に挟まれて逃げ場がないんだね?いま、助けに行くよ」
一歩前に踏み出そうとして、顔からこける。雪に埋もれた顔を出すと、足には、
「なんだい?植物のツタ?」
が、絡み付いていた。
「無粋だね、僕達のラブラブタイムを邪魔しようとするなんて」
尻餅を突いた体制で、ツタを取ろうとしたその時だった。尋常ではない力で、みんなのいる方とは逆の方向へ仰向けで引っ張られていくカヲル。
「そ、そっちじゃないよ。シ、シンジく〜〜〜〜〜〜・・・・・・」
最後は白に混ざった。


小一時間ほど遊び、そろそろ現実逃避から冷めてきた面々。
「どうしましょう?」
このクラスの唯一の良識人といってもいいマユミ(ヒカリはこの中にも入れてもいいのだが、トリップすると誰よりも危険人物になるので)が、問題提起する。
「これは間違いなくリツコのせいだわ。となると、少なくとも生命の危険はないと判断していいはず。まぁ、精神崩壊の危険は残るけど」
「ねぇねぇ、少し探索してみよ〜」
「霧島さん、授業があるのよ!」
「イインチョ、もう二時間目も始まっとる時間やで。ここまできたら同じやろ」
「一時間目も、先生こなかったしね。リツコさんのせいだとしたら、どんなでたらめもありだから、何とかなってるのかも」
云々。で、結局説き伏せられた形になったヒカリは、しかし、嬉々とした顔でトウジの脇を固めていたりしている。
「じゃ、頂上目指してしゅっぱ〜つ♪」
他の3−Aの面々を残し、取り敢えず頂上を目指してみる。必死に手を振っているのは、レイ製作の雪ダルマン1号。
行方不明になったカヲルのことは、誰も気付いていない。

まあ、始めからわかっていたことなのだが、上靴と制服姿で雪山を登山しようなどとは、ホットケーキに蜂蜜と生クリームとチョコレートを載せた上に、さらに砂糖をたっぷりかけたものよりも甘あまなのである。
「ふぅ、ふぅ・・・」
「ん、大丈夫かイインチョ?」
「鈴原・・だいじょうぶよ」
「碇君・・・疲れたの」
「そうだね、ねぇ、ちょっと休もうか?」
「何いってんのよ!ほら、もうちょっとじゃない、行くわよ!」
「ほらほら〜、ファイト〜〜」
「わかったよ・・、山岸さん大丈夫?ほら、手」
「碇君(ポッ)ハイ・・」
「「「(ムッ)」」」
目指す物が大きいものほど、それまでの距離感を間違えやすい。彼らはその典型だった。張り切っているアスカとマナも、すでに疲れはまわってきており、判断力も鈍っているのである。
「こういう時は、歌を歌うのが常識だよね〜〜〜」
「そうよね・・・・って、マナ!?」
「うわ〜、ちょ、マナ、待って・・」
スゥ〜・・
「わったしはマナちゃ〜ん、
ガッキだいしょ〜〜〜♪♪♪」

「マナ〜、や、やめて〜・・」
「霧島さ〜ん、ストップ〜!」
「ジャイアンさん・・殲滅するわ・・・」
で、こんな雪山で大声を出すと当然こうなるわけで・・・、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
「雪崩、ですね」
マユミは物凄く冷静な自分を確認しつつ、雪に飲まれていった。


マッドのお部屋。
モニターには雪に飲まれるチルドレンが映っていた。
「フフフ・・こんな事もあろうかと、こんな物を用意していたのよ」
と、引出しから取り出す。
「これよ!3−A、40人分の発信機とその電波を受信する受信機!!!」
・・・・。
「・・・・40人分の発信機?」
受信機に映るのは、リツコの部屋に固まっている40個の光点。
「・・・・・・」
やはり彼女は一番肝心なところが抜けている。
「・・・ニャ〜」
最終的に、彼女は猫になってみたりしたようだ。


ガバッ
「ウッ・・、み、みんなは・・?」
埋まっていた顔を引っ張り出して、周りを見回すシンジ。が、あたり一面が白で、誰もいる気配がない。立ち上がると、下っている方に歩いていく。
「お〜い、誰か・・」
慌てて口を閉ざす。ここで大声を出したら、また同じ事が起こるかもしれない、そう考えたからだ。しばらく降りる。
と、目の前に赤い髪の毛が飛び込んできた。
「アスカ!!!」
慌てて駆け寄る。彼女は仰向けに寝ており、体半分が雪に埋もれている状態だった。どんな具合なのか、判断つきかねたシンジは、できるだけ触らないように肩を叩くだけにとどめた。
「アスカ、アスカ!」
返事はない。雪に熱を奪われたせいか、顔は白を通り越して青い気がする。息はか細くではあるが、している様だった。が、このままでは、命の危険に関わる事は明白で、それに気がついてシンジはこれまで以上に慌てる。
「どうしよ、どうしよう・・」
誰かいないか周りを見回す。何かないか、どうすればよいのか・・・
『こういう時はマウス・トゥ・マウスでしょ!!』
「エッ!?・・・アスカ?」
もう一度アスカをじっと見つめる。確かに声が聞こえたのだが、相変わらず青い顔に細い息のアスカは、声を出せる状態ではないとシンジには見えた。
「て・・・・天啓?」
すでに彼のパニックは頂点に達しているようだ。
「ごめんアスカ、天啓だから仕方ないんだ」
きゅっと結んだかわいい唇を見つめ、その唇を焼き付けた状態で目を閉じ、ゆっくりと顔を近づけていく。
10cm・・8cm・・・・5cm・・・2cm・・・、
モゾ
15cm。
「な、何?」
自分の下の雪が動いたような気がして、顔を上げたシンジ。目を開けると、顔が真っ赤になったアスカがいた。
「ア、アスカァ!?」
「もう、じれったいわね!!」
チュ
首に突然抱きつかれ、そのまま唇を奪われたシンジ。
「!!!!!!!!!!!!!!!」
それ以上に驚かす事態が彼を襲う。ズボっとアスカの下の雪から手が生えてきたのだ。
「!!!!!!!!!!!!!!!」
「キャ!」
その手に撥ね退けられる形で、アスカが飛ぶ。そこから出てきたのは、
「ぷはぁ〜、し、死ぬかとおもったぁ・・・・」
「・・窒息は嫌」
「アスカさん、ひどいです〜・・」
三人の少女。
もうシンジは何がなんだか。
「アスカァ!今、シンちゃんとキスしたでしょ〜!ずる〜い」
後ろ手で、尻餅を突く格好のシンジに覆い被さるような形でマナが抱きつき、ホッペにキスをぶちかます。
チュ
「・・碇君は渡さないわ」
ATフィールドでマナを彼方へ吹き飛ばすと、左の頬へと唇を近づける。
チュ
「私だけ・・・、不公平です!」
レイを押しのけ、おでこに控えめなキッス。
チュ
「あ、あんたたち、何かってな事やってんの!?あたしに断りもなくシンジにそんなことを!」
「二号機パイロットが先に抜け駆けしたわ。当然の行為よ」
「いきなり私たちを穴にほおりこんで、何をするのかと思えば・・・、ずるいです!」
「うっ、い、いいのよ!シンジは私の物なんだから!!」
「シンちゃんはアスカの物じゃないも〜ん。私のだも〜ん」
いつの間にか復活を遂げたマナが、シンジをずるずると引きずって行く。
「あ〜、アンタ何してんの!」
「ジャイアンさん・・殲滅するわ」
「ダメです〜!」
キャイキャイ、ワイワイ、ガヤガヤ・・・・・・。
シンジの目に、もはや光は灯っていない。



「なんや、大丈夫そうやな」
「そう・・みたいね」
何とか雪の下から這い出て、声のする方に来て見れば、トウジが呆然と立っている。視線のさきには彼等達。すぐ隣で、彼の体温を感じる。
「今日も平和やなぁ」
「そうね〜」
取り敢えず少々(もしくは多々)の問題は無かった事にして、もう少しこの銀世界で、この小さな幸せに浸る事にヒカリは決めた。
空には雲一つなかった。













後書きみたいなもの 

感想のメールを怪作様から頂いて、御礼の変わりに短編を作り始めてから約10日。出来たのが・・・・・こんなんかよ!

シンジ君にキスをしてもらいたかっただけのこの作品、とくに意味はありません。マナに歌ってもらって雪崩を起こしてもらいたかっただけです。意味はありません。

感想のメールをHPを持っている人から頂いた場合、お礼に短編を書くのはセオリーだとしんじてます。お手軽なやつだと笑ってくれて構いません。出来たのが、こんなのですから(苦笑)

楽しんでいただければ、これ幸いです。その上感想なんてもらえたら、ついFF10なんて始めてしまいます(意味不明)

夏休みに突入してから、人間として如何なもんか?と言う睡眠時間ですが、また、なんか思いつけば、誰に何を言われる前に書きたいと思います(こういうやつが迷惑なんですよね?)。
では、またどこかで・・。



 GUREさんから投稿小説をいただいてしまいました。
 CREATORS GUILDに投稿されている『発明』の出張版のお話にあたります。

 マナが歌が下手‥‥アスカさんが音痴というのは聞きますが(^^;;
 いやなんとなくイメージで違うもので、美声ですからレイさんリナさんと同じくらい上手そうに思えるのですが(笑)

 なんだかんだ言って女の子達に甘えられているシンジ君、君はもっと自分の価値を自覚すべきだよ(笑)

 みなさんも是非GUREさんに感想メールを送って気持ちよくFF10をしてもらいましょう!

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