僕の名前は碇シンジ。

中学二年、14歳、平凡を絵に描いて服を着せたらきっと僕になる。

なんの取り柄もない、運動も普通、勉強も普通、容姿も普通。

どこのクラスにでもいる普通の中学生。

そんな平凡な僕の周りにある特別な物はただ一つ。






窓越しに見える物は






ふじさん



僕にとって特別な物って言うのは、幼なじみでお隣さん。

そして同じクラスに在籍している女の子。

彼女の名前は『惣流 アスカ ラングレー』

名前からしてもうすごいでしょ?ラングレーって、なぜにラングレー?

金髪碧眼でIQは軽く200をオーバー、運動神経抜群、容姿は、とびっきりの最上級。

性格は、おこりっぽいけど、とってもやさしい、本当はすこしだけ泣き虫。

当然、毎日沢山のラブレターをもらい、告白もされてる。

ただ特定の彼氏はいなくて、一番仲の良い友達は僕かな?

そんな彼女だから、芸能事務所からのスカウトも後を絶たない。

だけど本人にはあんまり興味がないみたい。

アスカがデビューしたら、絶対すごいアイドルになると思うんだけどな。

なんでだろう。でも、僕は君といられる瞬間が少しのびたようで嬉しい。

きっといつか、君はどこかへ飛び立ってしまう。

だって、どんな途方もない未来だろうと、君はきっと叶えてしまうだろうから。











pi  pi  pi  pi  pi


軽快な音が、夏のよどんだ空気に包まれた僕の部屋の沈黙を破る。

手探りで目覚まし時計を止める。いつも置いてある場所にあるから、

知らない間に止めちゃって、よく2度寝しちゃうんだけどね。


「ふぁ〜〜〜〜〜・・・、 うーーーん、よく寝たぁ」


今は8月、学生(僕)にとって一番楽しい時期。夏休みのど真ん中。

アスカと一緒にいられる時間が、ちょっと増えるからって言う理由なんだけどね。

宿題のことは、遠い未来に置いておいて、遊びほうけていられる毎日。

んーーっと、眠っている間に固まった体を伸ばす。

ポキポキっと小気味よく間接が鳴りながら、それとともに目も覚めてく。

もう一度寝ても良いし、起きても良い、そんな状態でぼーっとしていられるのってなんか幸せ。

ふっーと、一つ息を吐いて、時計を見ると午前10時ちょっと回ったところ。

両親は共働きだから、この時間帯には家に僕以外誰もいない。

つまりは、どんなに寝てても怒られないって事。

ガラガラっとよどんだ空気を入れ換えようと窓を開ける。

サーッと、寝起きのほてった体には、気持ちの良い風が、僕の部屋を駆け回る。

うん、今日も良い天気だ!










気持ちの良い風が、チリン、チリン、っと窓にかけてある風鈴を鳴らしていく。

手すりに肘をおいて、手で頭を支える。

その音を聞いてるだけで、僕の心は澄み渡ってくよう。

目を閉じて、風と風鈴の音を楽しむ。



・ 



「なぁーに幸せそうな顔してんのよ」


「ひゃ!?」


突然声をかけられたせいで、僕はかなりビックリした。

なさけない声が聞こえたのは絶対気のせい。


「ひゃっ!てなによ、ひゃってぇ〜」


ケラケラと笑いながら声をかけてきたのは、お気に入りのレモンイエローのワンピースを着たアスカだった。


「もう、いきなり声かけないでよ」


アスカの家とは隣同士。部屋は向かい合っていて、なぜか、ほとんど同じ位置に窓がある。

アスカの部屋と僕の部屋とでは、1メートルくらいしか離れてない。

お互いの部屋が丸見えだから、いつもはだいたいカーテンを閉めてる。

今もカーテンが閉まってたから油断してた・・。


「ぼけぼけっとしてる、アンタが悪いのよ♪」


「ぼけぼけって何さ、ちょっと考え事してただけなのに」


「へーアンタが考え事ね〜 どうせアタシのことでも考えてたんでしょー。まったく美しいって罪ね〜」


どこか遠くを見つめるように、そうのたまうアスカ。

それでも、窓枠に腰をかけながら

風にサラサラと揺れる髪の毛を耳に掻き上げる君の姿は、とっても綺麗だった。


「なんで、アスカの事なんか考えなきゃいけないんだよ!」


本当のことを言われた僕は少しうわずった声で、あわてて否定する。

目をつぶりながら考えていたのはアスカのこと、あの風鈴は夏祭りでアスカにもらった物。

風鈴の音色を聞いていると自然にアスカのことを考えてしまう。

あのときのアスカは浴衣を着て、とっても可愛かったなぁ。

そんなことを考えてた時に本人から突然声をかけられちゃったんだからビックリもするよね。

ちなみにアスカの部屋には色違いの青い風鈴が飾ってあって、それは僕があげたもの。

アスカいわく


『アタシのをアンタに 預 け る だけなんだからね!壊したりしたらぶっ殺すわよ!?』


だって。

リンゴ飴を持ったまま、僕にそう言うアスカは・・・かわいかったなぁ。

アスカは風鈴の音色を聞きながら、僕のことを少しは思ってくれてのかな?

そうだと良いな。


「ほ〜ら、またぼけぼけっとしてる」


「・ ・ ・ ・むぅ」


僕は考え事をしているのに、アスカには、ボケぼけっとしているようにうつるのかな。


「ほらほら拗ねてないで、アタシに言うことがあるんじゃない?」


なんだかうまくごまかされた気分。


「はいはい、おはよ、アスカ」


「むー『はいはい』じゃないでしょ〜 まったくシンジのくせに」


ちょっと唇をとがらせて、僕にそう言うアスカは卑怯だっ!て言うくらい可愛い。

レモンイエローのワンピースを着て、窓枠に座るアスカと、

寝起きのために髪の毛はぼさぼさ、暑さのせいで

少し汗を吸ってる『平常心』と書いてあるTシャツを着ている僕。

なんだかいろいろと思うところはあるけど・・・考えるはよそ。


「朝ご飯まだでしょ?どうする、食べる?」


納得のいかない現実に妥協を素直に受け入れられない葛藤を真剣に・・・


ドカッ!!


「イッターーーーー!!!」


「うぅ・・何すんだよ!アスカ!」


「何すんだよ、じゃないでしょ!!人が話しかけてるんだから答えなさいよ!

 今度無視したら、ぶっ飛ばすわよ!!」


「もうぶっ飛ばしてるじゃないか!」


「今のは雑誌をぶん投げたのよ!!次はこんなんじゃすまないわよ!!

アタシのことを無視するなんて1兆億年早いのよ!!」


腰掛けていた窓枠に片足をかけて、ワンピースをはためかせながら、僕をビシッと指さす。


「あわわわ・・ 危ないよ、アスカ!」


「ふん!こんな事で落っこちるわけ無いでしょ!」


いや、危ないのはそれだけじゃなくてね。


結構、風が強いしね。


ほら・・・




ぴゅ〜・・・





「水玉・・・」








スッパーーーーーーーーーーーーーーン






うぅ・・・僕のバカ・・・。










頬に真っ赤な紅葉をつけたまま、ご機嫌を取ること数十分。

買い物の荷物持ちと、ご飯をおごることで何とかアスカの機嫌をなだめることに

成功した僕は、機嫌が悪くなる前に話を進めようとする。


「アスカはさっき僕に何聞いてたの?」


「アンタの朝ご飯の話!食べんの?」


なんでアスカが僕の朝ご飯を食べるか聞いてくるなんて、変な話って思うかもしれないけど、

そう言うふうに、アスカが聞いてくるのには訳があるんだ。

恋人だとか同棲してるとか・・・こんなこと、いわなくったってわかってるよね・・。

うちの両親もアスカの両親も同じ研究所で共働き、研究に熱中していると家にはほとんど帰ってこない。

子供の頃は寂しいなって思ったこともあるけど、いつも隣にアスカが居たから平気だった。

そんなわけで、どちらの両親も居ない日はアスカが料理をしてくれる。

長い休みには、ほとんどアスカの作ったご飯を食べる。

そんなところも、僕が夏休みが好きな理由。


ちらっと時計を見ると、もう11時近くになっていた。


「今食べたらお昼食べられなくなるから・・」


「そ、じゃお昼ちょっと早く作るね」


「うん。ごめんね」


「良いわよ別に。それよりお昼何食べたい? パスタか焼きそば」


うわ・・どっちにしようかな・・アスカはパスタが好きなんだよな。でも焼きそば食べたいなぁ。

パスタが食べたいって言っていったら、アスカ喜ぶかな?


「僕は、パスタが食べたい・・・・・・のかな?」


「はぁ? アタシに聞いてどうすんのよ」


うぅ、失敗した。


「変な奴。じゃパスタね。今日は和風茸パスタよ♪」


「やった! 僕の好きな奴!!」


「ふふ、、ばぁーか。あと30分くらいしたらウチにきなさいね。ちゃんと顔洗って、

そのヘボTシャツも着がえてくんのよ」


ヘ・・・ヘボTシャツ・・・。


そう言い残すと窓を閉め、颯爽と自分の部屋を出て行ってしまう。

僕は平常心Tシャツあらため、ヘボTシャツを悲しい気持ちで一瞬眺めたあと、

一気に脱ぎ捨てた。








ふふふ〜んと鼻歌なんか歌いつつアスカの家のドアを開ける。

アスカの家の鍵は、パスワードと指紋をあわせた物。僕の指紋は、小さい頃から登録済み。

ドアを開けると、ジャーッとキノコを炒める音と一緒に、良い匂いが僕の鼻を刺激する。


「アスカー」


なんにも言わずに入っていったら、アスカがビックリするから玄関から大きな声でアスカを呼ぶ。


「んー もうちょっとで出来るから、手洗ってきてー」


どたどたと部屋の中に入っていくと、アスカが顔だけ僕の方に向けて、箸で洗面所を指さす。

アスカの家のことはだいたい知ってる。

自分の家のように慣れた洗面所に行って、手を洗って帰ってくると

アスカが、お皿にパスタを盛りつけているところだった。


「さ、食べましょ」


そう言ってアスカが脱いだ赤いエプロンは、僕がプレゼントした物。


いっつも料理してもらってるからって言う理由でプレゼントしたんだけど、

何回見ても、好きな人が自分の上げたエプロンで

料理しているのを見るのって良いよね。

なんか、新婚さんみたいでさ。


「こら、な〜に変な顔してんのよ」


やばいやばい。

僕は自分の顔に手を当てながら聞いてみる。


「変な顔してた?」


「うん。してた、してた。ニヤニヤしてたわ」


エロね。エロイ事を考えてたんだわ。

と器用にフォークをくるくると回しながら、ぶつぶつと呟くアスカ。

そう言ってるアスカの顔の方が、十分変な顔だった。

でも、エロって言わないでよね。女の子なんだから・・・。


「ん。今日のパスタ美味しい!」


とりあえずは、ちゃんと褒めておかないとね。これは家で覚えた教訓。

父さんは、母さんの料理を食べても、何にも言わなかった事があって、それから1週間、

消し炭みたいな謎の物体を食べさせられてた。

もちろん、残したりなんかしたら折檻・・・。

そのとき幼いながらも、料理は必ず褒めるべきだってインプットされた。

泣きながら、炭を食べる父さんの顔は、たぶん一生忘れないよ・・・。


「ばか、いつもと一緒!お世辞なんか言ったって、何にも出てこないんだから」


そう言ったアスカだったけど、その顔は、ちょっと嬉しそうだった。

食事の間には、僕たちは、とりとめのない話をしていた。 

昨日見たTVのこと、クラスメイトの話。

今話題の映画の話になったときには、今度アスカと見に行く約束が

できて机の下で小さくガッツポーズをしちゃった。


「でね〜『ピンポ〜〜〜〜〜ン』」


アスカが笑いながら、親友の洞木さんの話をしている途中に、チャイムが鳴った。

僕はアスカと二人の時間をつぶされたようで、ちょっと気分が悪い。

なにせ、夏休みに入ってからのアスカは、機嫌が結構良い。

お互いの部屋にいることも増えてきてる気がする。

夏休みだから、次の日のことを気にせずに

窓越しに延々とくだらない話してることもある。


「もうっ、こんな時間に、誰よ!」


アスカも自分の話の腰を折られてちょっと不機嫌だ。

綺麗に整った眉をしかめて、玄関の方を睨む。

ピンポ〜ン

そんな、二人の思惑とは、無縁とでも言うようにチャイムは、もう一度鳴った。

「はいはい。でればいいんでしょ」

今朝僕に言ったことも忘れ、嫌々そうにハイハイというとムスッとした顔で腰を上げる。

ピンポ〜〜ン

急かすような3度目のチャイムにアスカの顔も険しくなる。


『あぁ・・何てことしてくれるんだよ〜』


アスカの機嫌が悪くなったとき、一番被害を受けるのは僕なのに・・。


僕は、どうかこれ以上アスカの機嫌を損ねる事態だけは

勘弁して欲しいと思わず椅子に座ったまま、神に祈る。


『神様・仏様・ブッダ様 どうか、どうか、くだらない用件ではありませんように』


そもそも、ブッダって神様なのか?という素朴な疑問を感じつつも、フォークを掲げて一心に祈る。

ブッダがぶった・・なんちゃって・・。





ゴホンッ








世界一平和な国、日本。そう言われていたのも随分昔。

とくに、この辺では知らない人はいないといわれる(色んな意味で)有名なアスカ。

いきなり玄関のドアを開けたりはしない。

今の平均的な家庭なら、どこにでもある来客者を映す液晶モニター越しに

まねかねざる来客に声をかける。


「ドチラサマデスカ」


明らかに不機嫌。

相手と話したくないときは、外人のフリをするのが、アスカの常套手段。

僕の席から液晶は見えない。

なんだか隣の人が電話で話していると、つい聞き耳を立ててしまうように

アスカと謎の訪問者Aとの会話に耳を傾ける。

言い訳がましい・・。


『あ、初めまして、私(わたくし)帝都芸能プロダクション ハプニング の三田と申します』


ドキッとした。

アスカは、道で歩いていてもスカウトされる。

昔、少女達目的の違法なスカウトが問題になって

現在では公には路上スカウトは、していない事になってる。

だから、デビューしたアイドル達は、適当なオーディションを受けて

路上でスカウトされたことを隠す。

アスカの場合は、勝手に撮られた写真(町で見かけた美少女)などのせいで

学校までスカウトが来たこともあった。

何で僕がこんな事を知っているかというと

アスカをスカウトしに来た人が学校から帰る僕ら二人に強引に説明したから。

曰く『君なら世界的なアイドルになれる』

曰く『君のためなら、どんな有名なオーディションでも合格させる』

などなど。



「はぁ?芸能プロダクションなのに、ハプニング?バカにしてんの?」


僕もそう思う。


『いやいや・・手厳しい。ハプニング娘。というグループを知っていますでしょうか?

あれはウチの事務所なんですよ』


顔を見なくても、満面の笑み。そう言う雰囲気が伝わってくる声でそう言った。


ハプニング娘。


今の中高生、はてや小学生、大学生、社会人をも巻き込んだ国民的アイドルグループだ。

僕は、まったく興味がないんだけど、クラスメイトは、誰が良いとか結構盛り上がってたりする。


「シラナイワ」


いや・・答えちゃってるし。

今更、外人のフリしても・・。



『はっはっは、おもしろい方ですね。惣流アスカさんはいらっしゃいますか?ぜひ、お話だけでも』


「イナイワ」


いや、日本語をわからないフリをしても、質問に答えてちゃだめでしょ・・。


『そう言わず、玄関だけでも開けてもらえないでしょうか』


「嫌だっつってんでしょ!なに?アンタもしかして変態?そうなのね!変態さんのご登場ね!!」


アスカのこのテンション、ぜったいわざとだ・・。


『いえいえ、決して怪しい者ではございません。ぜひ直接会って

お話だけでもさせて頂けないでしょうか』


あっさり、かわされてるし。


「アンタもしつこいわね・・・いい加減にしないと、警察呼ぶわよ?」


『いえ。本当にプロダクションの者なんです。

ぜひアスカさんをスカウトさせて頂きたくて・・。なんとか、お会いできないでしょうか』


やばいよ。アスカ本気でおこってきてる。


「だから・・・『あの、これ、これが名刺です。見えますか?』


アスカが文句を言う前に、プロダクションの人が割り込んでくる。

まずい、アスカは自分の話を無視されるのが一番嫌いなんだよ。

機嫌が悪くなったオーラが、アスカの後ろ姿を見てもわかる。

心なしか、髪の毛もユラユラと浮き上がってきているような・・。

あぁ折檻だ。絶対、折檻される。僕が・・。

あんなことや、こんなこと。はてには、イヤ〜ンな事まで・・・。

うわーーーーーーーーーー絶対嫌だ!!

逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

うぅ違う。逃げなきゃダメなんだ・・・。

逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!!

全身をつたう嫌な汗。僕は空っぽの脳みそをフル回転させて逃げ道を探す。

だめだ、この家から出るには、玄関を開けなきゃいけないんだ!

そうするには、妖気を発散しながらモニターに向かって ケ ケ ケ と呟いている

アスカの横を通らなきゃダメなんだ。

運良く、本当に人生のすべての運を使って、その難関を0.0000000000000000001%の

確率で抜けられたとしても、玄関なんかを開けて

もしプロダクションの人を家の中に入れるようなことがあったら・・。


だめだ。絶対、助からない。


どうしよう・・そうだ!アスカの部屋から僕の部屋へジャンプして逃げたらどうだろう。

あぁ、、でも窓の鍵閉めちゃってるよ。僕のバカ!!

でも、いいや。うん。アスカにされることを思えばガラスにぶち当たったって

たいしたこと無いよね。

うん。だって、血まみれになるだけだもん。へへへ。

僕は一生分の勇気を振り絞って、アスカに気づかれないように

そろり、そろりと逃げ出す。


「シンジ!!」


「ひゃい!」


「どこいくの?」


「と、、、トイレに」


「トイレはそっちじゃないでしょ?今、話し終わるから、この後一緒に紅茶飲も?」


「こ、こ、こ、ここここ紅茶?」


「うん。ママがね、美味しい紅茶、昨日買ってきてくれたの」


おかしい・・・アスカの機嫌があんまり悪くない。


「だからね。一緒に『あの、すみませーん。私を忘れないでくださーい。

是非、直接お話だけでも』


決して悪いお話ではないので、と奇跡的にも機嫌を持ち直していたアスカの話に、

再び割り込んで話してくる。

うわぁ・・・何て事をしてくれたんだ。

スッと周りの気温が下がったするのは気のせいじゃないはず。

やばい、やばいです。本格的にやばいです。

母さん。僕は一生懸命いきましたか?


「あんた『帰ってください!!


アスカが静かに喋り出そうとした瞬間。

僕はアスカを押しのけて、液晶画面に映る人の良さそうなスーツ姿の人物に大声で話しかける。

普段の僕なら、絶対にしないかなり強引なやり方。

アスカは怒りも忘れて、ビックリした顔で僕の顔を見てる。

いえ、一番ビックリしてるのは僕なんだけどね。

生命の危機がそうさせたのか、未知なる存在による遠隔操作か。

僕は、そのまましゃべり続ける。


「アスカは芸能界には興味がありません!話も聞きません!!もし、また来たら訴えてやる!」


『え?あのご家族の『うるさい!!痛い目見ないうちに帰れ!!

バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!!!!』


あまりにも語彙が貧困な自分が恥ずかしい。

何を言ったらいいのか、もうこれっぽっちも思いつかなくて、ただただ、意味不明なことを繰り返す。

あまりにも突然の展開にプロダクションの人も固まっている。

僕も僕で、頭の中は燃えたぎるように熱いのに、一言で表すなら『頭の中真っ白』









シーーーーーーーーーーーーーーーン









ゴクッ


果たして唾を飲み込んだのは、僕か、彼か。


「すみません。名刺をポストの中に入れておいてください。興味があったら、お電話します。」


言うが早いか、アスカは通信を切ってしまった。


「え?」


僕は訳もわからず。思わず顔をアスカの方に向け、何がどうしたの?

と言う思いを顔に貼り付けて聞いてみた。


「もう!あぁでも言わなきゃ、アイツ帰らないでしょ。」


「え?じゃ電話しないの?」


「さぁ?」


気分次第かしら?っと言いながら、僕に笑顔を残して、台所に紅茶を入れに行ってしまった。









その日の夜。僕は久しぶりに早く帰ってきた両親と共に夕食を食べた。

アスカの両親も早く帰ってきて、夕食を作らなくて良い事に、アスカは喜んでた。

結局あの後、僕らは紅茶を飲んで、昨日借りてきたコメディのDVDを二人で見た。

その後、アスカのおばさんから電話がかかってきて、夕食の心配をしなくてすんだアスカは

夏休みの宿題をやると言い出して、休みに入ってから使ってなかった

脳みそには、かなり大変な事だった。

夕食の後のケダルイ時間帯に、父さんの見ているNHKのニュースを、ただぼんやりと眺めていると。

母さんが、お風呂冷めないうちに入っちゃいなさい。と言うので、さっさと入る。

逆らったら何されるかわからないからね。

父さんは、見た目は殺人罪だけど、本当に怖いのは母さん。

だから出来るだけ逆らわないことにしてるんだ。

だって、小さい頃に、母さんの手伝いをしなかっただけで、大声で僕の日記を朗読されるんだもの。

父さんは ニヤっ としたまま僕を押さえ込んでるし。


「ふぅー、気持ちいいなぁ」


湯船にはいると、思わずこぼれる言葉。

ちょっとじじ臭いかな?何て思いつつも、今日あった出来事を思い返す。

アスカには有り余る才能がある。

頭だって、天才的だ。

顔なんて、ちょっとしたアイドルよりも全然可愛い。

お互いの両親が仲良しで、たまたま勤めてる研究所も一緒。

そのおかげで、僕らはたまたま幼なじみとしていられる。

一方の僕は、平々凡々。

きっと幼なじみじゃなかったら、僕らはまともに話すこともなかったんじゃないかと思う。

中学校までは義務教育。

高校は、きっと信じられないくらい偏差値の高い高校に行くんじゃないかな、と思う。

もしかしたら、外国に留学とかするかもしれない。

そして、今日みたいに芸能事務所にスカウトされて、デビューしちゃうかもしれない。

いくら興味がないって言ったって、いつ考えが変わるかわからないし。

こんな関係でいられるのも、きっと僕らが中学生の間だけ。

残された時間は、もうほとんど無い。


「そのせいかな・・」


今日の芸能プロダクションの人に取った強引な態度のことを思い出して、僕はそう呟く。

少しでも長く一緒にいたい。

最近、日に日に綺麗になっていくアスカを見ていると、僕は本当にそう思う。

ゆったりと、お風呂の中で伸びをして、アスカの居なくなった生活を想像してみる。

朝は自分で起きて学校に行く。

新しくできた友達と、お昼を食べたりするんだろう。

もしかしたら、彼女とか出来るかもしれない。

そんな普通の想像があっさり出来る。


「アスカの居ない生活、かぁ〜」


「ちょっとシンジ!いつまで、お風呂はいってるつもり!!!」


僕がそう呟いた瞬間に母さんがドアの向こうから声をかけてきた。

僕は一瞬、聞かれたかと思って慌てて立ち上がる。


「うわっと・・・」


立ち上がった瞬間に目眩がして、意識を失ってしまった。

どこか遠くで母さんの悲鳴と、盛大な水しぶきの音が聞こえた。












「だっさー」


「うるさいなぁ」


濡れタオルを頭に置いて、僕はベッドに横になっていたりする。

僕は随分湯船に浸かっていたみたいで、母さんに声をかけられたときに

慌てて立ち上がったせいで少しの間気を失ってしまった。

素っ裸の僕の体をふいて服を着せてくれたのは父さん。

だと思いたい・・・。

父さんと母さんの「「まだまだ、子供だな」」と言う言葉の意味は深く考えないことにする。


「ぼけぼけっとしてるから、のぼせたりすんのよ」


窓越しにアスカが僕に声をかけてくる。


「もう、ほっといてよ」


「い・や・よ」


はぁ・・。僕は内心ため息をつきつつ、ぬるくなったタオルをオデコから取って起きあがる。


「ちょっと、起きてだいじょぶなの?」


「もういいよ。それに少し風に当たりたいからさ」


そう言って、僕は窓の手すりに腰をかける。

サーっと火照った体には気持ちの良い風が、僕の体を通り抜けていく。


「はー・・ 気持ちいいー」


「ほんと、良い風」


「今日は、大声を出すシンジと、のぼせたシンジ。アンタにしちゃ、なかなかおもしろい芸だったわ」


「芸じゃないけどね・・」


そうだっ!といって、アスカが手に持っていたスポーツドリンクを僕に手渡してくれた。


「なにこれ?」


「水分補給にはそう言うのが一番なのよ。ありがたく受け取んなさい」


「いや、、半分くらいしか入ってないんだけど?」


「そりゃそうよ、アタシがお風呂上がりに飲んだ残りだもん」


「・・・・・」


色んな意味で僕が返答につまっていると。


「なに?飲めないってーの!?」


「いえ、ありがたくいただきます」


もう、信頼してくれてるんだか男としてみてないんだか・・。

複雑。

ゴク ゴク ゴク

ペットボトルの口の部分に異様に神経が集中してしまうのを誤魔化すために

一気に飲んでいく。


「っはー おいしい」


「ったりまえでしょ! アタシがあげたんだから」


意味のわからない根拠なのに、アスカがそう断言すると、本当にそう思えてくるから不思議。


一気に飲み干して空になったペットボトルをゴミ箱に投げ捨てようとすると

アタシが捨てとくわっと、強引に持ってかれてしまった。


「どう?もう落ち着いた?」


「ん?うん。だいぶ気分は良くなったよ。ありがと、アスカ」


「ふふふ、どーいたしまして」


アスカは、おかしそうに返事をする。


「アスカは、さぁ・・・」


「ん?アタシが、なに?」


「アスカはさぁ、電話するの?」


「でんわ?」


「芸能プロダクションの・・」


「あぁ、あれね。あんなん興味ないわ」


「興味、、ないの?」


「べっつにー アタシ、ゲーノーカイなんて行くきないし」


「で、、でもアスカなら絶対成功すると思うけど?」


「アンタバカー?そんなん、あったりまえじゃーん。

それに、興味も無いもので成功しても嬉しくないっつーの」


「ふーん・・」


「あら?シンジくん。なーに嬉しそうな顔してるのかな?

はぁは〜ん、、も し か し て シンジくんは、それが気になっててのぼせちゃったのかなぁ?」


「そ、、そんなんじゃないよ!!」


「照れない、照れない、あぁ美しいってホント罪ね〜」



ったくもーっと顔をしかめつつも、嬉しく思ったのは本当の話。

女の子にとって芸能界って結構憧れるところでしょ?

今までだって、さんざんスカウトされてきし、これからもされると思う。

今日の人だってまた来るかもしれないし、そう言う意味ではすごく安心した。

でも、同時に不安に思う所もある。

芸能界に興味がないから話に乗らないって言うのなら

アスカの興味のあることだったらどうなるんだろう。っと

好奇心旺盛なアスカの事だから、やっぱり面白いことを見つけて、どこかへ行っちゃうのかな・・。


「興味がないから芸能界に入らないんだよね?」


「しつこいわねー 何?アンタ、アタシにデビューして欲しいわけ?」


「そ、そんなんじゃなくって。  ア、、アスカの興味のある事って何かなーって」


「アタシの興味のあるモノ?」


「うん」


「アタシの場合、興味のあるモノっていうより、興味のある者って感じかしら?」


「え?なに?どう違うのさ」


「わっかんないかなぁ〜」


「わかるわけ無いじゃないか!そんなんで!」


「じゃヒントね。アタシは、ずーーっと前から、『それ』に興味があんのよ。下手したら一生飽きないわね♪」


「ぜんぜんヒントになってないよ」


「情けない声出さないの」


「ちぇ」


「ま、アンタ次第ね」


「僕、次第なの?」


「そ、アンタが答えを見つけられりゃ、ぜーーーんぶ解決すんのよ」


「もういいよ」


「あっそ。 じゃ今日は、さっさと寝なさい」


「えー!まだ早いよ」


「なーに言ってんの。夏休みは、まだまだ長いのよ?さっさと寝て元気んなんなさい! 

ほら!明日からまた遊ぶわよ!!」


「ったくもー強引なんだから。 ハイハイわかりましたよ、おやすみ。アスカ」


「おやすみ!バカシンジ!」


アスカは元気にそう言うと、僕に笑顔を残して窓を閉めた。







「アスカの言いたいことは、よくわかんないけどアスカと一緒にいられる時間が増えてうれしいよ・・」


アスカの部屋の閉まった窓に向かって僕は、そう呟いた。






















未来のことなんか、僕には全然わからない。


それでも、もし君が許してくれるなら。


僕はいつだって、君のそばにいるよ。


いつか、君が旅立つその日まで。


窓辺に腰を掛けながら、僕はそう思う。
























こんにちは、ふじさんです。
3作目です。非常に疲れました。
今回のテーマは、隣同士にいる幼なじみと、窓越しに会話をすることです(笑
窓越しにアスカとシンジは色んな事を話すでしょう。
シンジがアスカに告白することもあるでしょう。
ですが、何のことはない日常でもアスカとシンジには物語があるわけで。
アスカとシンジが窓辺に座り延々とくだらない話をしているんです。
そう言うのって良くないですか? 私があこがれてるだけですがw

非常に読みにくい文章を、最後まで読んで頂いて本当にありがとうございました。





ふじさんから幼馴染みなシンジとアスカの、うーん、まだまだ恋人未満だね、なお話をいただきました。

日常というほど日常でもなく、事件が起きてはいるのですが、むしろたんたんと物事が過ぎ去っていく感じですね。

良いですね。

素敵なお話を書いてくださったふじさんに感想メールをお願いします。

追記:このお話の続編『窓を乗り越えて』も投稿/掲載されました。 一緒にどうぞ。

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