ソノ五
作者:でらさん














「代表、やりましたね!」


そう、わたしはやった。

長年の夢・・

ネルフの所有する人型兵器を凌駕するロボットを作る夢が今、この瞬間に適ったのだ。
実験場に佇むジェットアローンMk−Uの勇姿が私の涙を誘う。


ここまでは長かった。
プロトタイプは起動実験で暴走・・しかもネルフの手を借りて処理せざるを得ない醜態。
後でそれは彼らの謀略と分かった。

だが原子炉を背負った機動兵器が危険極まりない事はこれで明白となり、私達の研究は
一から出直しを迫られたのだ。

機械系に問題はない。
プロトタイプのあの巨大な機体は問題なく動き、ネルフの人型兵器と差して変わらぬ機動性を
見せたのだから。
この国の誇るロボット工学は間違いなく世界の最先端を行っている。

問題はその機体を動かす動力源・・

原子炉はダメとなると燃料電池か何か。
それでは活動時間が限られる。
ネルフの科学者をバカにした事を私は恥じた。

彼らとて、他に方法はなかったのだ。


動力源が決まらなければ設計にも入れない。
私はこの計画の破棄を考え始めていた。

が・・・


『これなら問題は無いはずよ』


突如私の前に現れたのは、あの時私が論争を仕掛けたネルフの赤木博士。
彼女はS
機関の設計図を持って私の元を訪れたのだ。
訳の分からない敵性体との戦いは当に終わっていて、彼女は上層部との対立からネルフを飛び出し
たらしい。

しかしそんな理由などどうでも良い。
私に必要なものを彼女が持っている・・それだけ。

私は彼女の協力を得て計画を押し進めた。
そしていつからか、彼女は私のかけがえのないパートナーとなっていたのだ。
研究しか頭になかった私が人を愛する事を知るとは。

今日はそんな私達にとっても記念すべき日になる・・


「リツコさん、これを受け取ってください」


「こんな汚れた女には不釣り合いな物ね」


「あなたがどんな過去を持っていようと、私が愛しているのは目の前にいるあなただ」


「・・・物好きな人」


私の胸に飛び込んできた彼女はとても柔らかい。

まるで毛皮のように・・・




「時田さん!着ぐるみに抱きついて何やってるんですか!
バイトの子が困ってますよ」


「あ、ああ、す、済まない。つい寝てしまったようだ」


「ロボ太君の調整もまだ終わってないんですから、しっかりしてください」


「そうだったな、これが動かないと子供達ががっかりするからな」


ここはとある遊園地。

かつて日本の重工業界の期待を一身に担った男、時田 シロウはここで子供達に愛嬌を振りまく
人間大のロボット(通称ロボ太君)の整備に取りかかる。
廃棄処分となったジェットアローンをそのまま小さくしたようなその姿は、子供達に結構な人気
を博しこの遊園地では名物の一つ。

先の失敗で日本重化学工業共同体は解散。
実家の時田家からは勘当同然となり、その後時田は日々の糧にも困る有様だった。

そんな彼に転機が訪れたのはほんの半年前。

臨時の清掃要員としてこの遊園地に雇われた彼は、故障した遊技施設を簡単に修理。
その能力を認められて、正式にここで働くことになったのである。

ロボ太君は時田が暇に飽かせて趣味で作った物。
それを支配人が気に入り、ある日遊園地内を歩かせたところ子供達に大受け。
そのままロボ太君はこの遊園地のマスコットキャラとなった。

趣味で作ったとはいえ、自らの判断で自立歩行が可能・・しかも簡単な挨拶までこなすという
高性能を誇る。
強いて言えば、デザインセンスに若干の難があると言えなくもない。

因みに現在、ロボ太君Mk−Uが設計段階にある。


「よし!これでいい。
今日も頼むぞロボ太・・子供達を喜ばせてやってくれ」


何もかも失った時田だが、こうして子供相手のロボットと共に生きるのも悪くないと彼は思う。
あれは失敗してよかったのだと今では考えるようになった。
原子炉を抱えて肉弾戦を想定した兵器など、我ながらバカな物を作ったと恥じてもいる。


「こんな道もあったんだな・・」


目の前のロボットが一瞬笑ったように、時田には見えた・・・





「ここに誘ってくれたのはいいけど、どうしてミサト達も一緒なのよ。
これじゃデートにならないじゃない」


「仕方ないよ・・ミサトさんが買った前売り、団体割引だったんだからさ。
ここに顔が効くって言うから頼んだんだけどな・・」


「ミサトを信じたアンタの失敗ね」


「反省してるよ」


今日はネルフでの訓練もない完全休養日。
この休日を以前から楽しみにしていたシンジは、生まれてこの方足を踏み入れたことのない
遊園地へアスカと共に来ていた。

アスカも久しぶりのデートとなるため楽しみにしていたのだが・・
ミサト、リツコ、マヤ、日向、が一緒ではあまり楽しくもない。

それならば別行動を取ればよさそうなものだが、五人以上限定の団体割引券を使って入園した以上
自分達だけ勝手に行動するのは気が引ける。
それに団体ならではの特典が受けられなくなる場合もあり、それではみんなに悪いという気持ちも
ある。

この機会に便乗して、自分も安く楽しもうと考えたミサトにシンジが嵌められたと言えるだろう。


「これじゃ、嬉しさ半減てやつね。
家でゆっくりしてた方が良かったわ」


「そう言わずに、せっかく来たんだから楽しもうよ。
ほら、あんな面白いロボットだっているじゃないか」


「ロボットくらいで喜ぶ年じゃないわよ。
大体、こんなとこにいるロボットなんて大したもんじゃ・・・」


アスカがシンジの指さした方を見たとき、彼女の口は止まった。
そのロボットに見覚えがあったからだ。
原子力事故を起こし廃棄処分となった巨大ロボットに・・

あの時はまだ日本に来ていなかったものの大々的なニュースだったからアスカもよく覚えている。
特にあの、様式美という言葉を無視したかのような不格好さは忘れられない。


「ねえシンジあれって・・」


「あら〜〜〜!懐かしいわね、ジェットアローンじゃない」


ミサトもそのロボットを見つけたようで、懐かしそうに声を挙げる。
あの時は謀略に巻き込まれた苦渋しかなかったが、今は思い出でしかない。


「ほら、リツコも見てよ!・・って、どこ行ったのよリツコは。
マヤちゃんもいないわね」


リツコも自分同様懐かしむかと思い彼女に話を振ろうとしたのだが、リツコとマヤはいつの間にか
彼らとはぐれてしまったようだ。
休日なので人は多いし。


「携帯は・・・繋がんない、どこにいるのよ」


「私が探して来ます。そう遠くではないでしょう」


「悪いわね日向君、私達はここにいるから」


「はい、分かりました」


職場の上下関係はどこに行っても有効らしい。
日向を見て、下っ端の悲哀を感じるアスカとシンジであった。










「私、お見合い奨められてるんです」


いつもの逢瀬・・
乱れたシーツに残る幾つもの染みと女の匂い。

今、全裸で私に抱かれているのは紛れもない女性・・
決して公言出来ない関係。

私と彼女がこういう関係になって、もうかなり経つ。


きっかけはたわいもないこと。
上司との愛人関係に疲れた私は半ば自棄になっていて、自分を姉のように慕ってくれていた
助手を酒で酔わせて強引に関係を結んだ。

好きだとか何だとか、そんな感情などなかった。
ただ、現実から逃避するような潔癖性の彼女を汚してみたかった。

死んだ母親と関係を持っていた男と寝た自分。

そんな汚れた自分を輝く目で見る彼女がとても羨ましくて・・彼女を自分と同じ場所に堕として
やりたいと思った。

男女の関係を不潔などと言う彼女も、体は充分以上に魅力的。
更衣室で何度も見た彼女の下着姿は官能的でさえあった。
女の私が思わず見とれるほどの・・

私に抱かれた彼女は私の期待通りの反応を示す。

彼女もやはり成熟した一人の女だった。
口でいくら性的なものを遠ざけていても体は正直で、私の執拗な愛撫に幾度と無く果てた。


その日以来、彼女は私の女。
上司と正式に手を切った私は、知らず知らずのうちに彼女へと傾注していった。

気が付けば、私の方が彼女から離れられなくなってしまった。
彼女の見合い話に内心動揺する私。

でも・・


「マヤの好きにしなさい。
いつまでもこんな関係、続けられるものじゃないし・・
いい機会だわ」


そう・・
彼女の事を思えば、これが正解。


「私を捨てるんですか!?」


「そうじゃなくて、あなたの幸せを思えばこそよ。
普通に結婚して、子供を産んで・・・そんな生活もいいものよ。
私には出来なかったけど」


「私をこんな女にしたのは先輩です!責任取ってください!」


「・・・どうすればいいの?」


「一緒に・・・死んで」


ちょ、ちょっと待って欲しいわね。
いくら何でもそれは・・

まずいわ、マヤの目が据わってる。
いつの間にかナイフまで持って!

ここはもう逃げるしか・・・って、私まだ裸だわ!

ぶ、無様ね!!

マヤ、助けて・・






「やめてマヤ!私が悪かったわ」


「は?私が何かしましたか?」


「へ?・・・・・夢?」


夢から覚めたリツコが辺りを見回すと、そこは遊園地内にあるちょっとした公園だった。
リツコはそこの芝の上で、マヤの膝を枕に寝ていたようだ。
人混みで気分の悪くなったリツコを、マヤがここまで連れてきて介抱してくれていたらしい。

普段の運動不足を痛感したリツコである。


「なんでもないの。
ありがと、気分は良くなったわ・・ミサト達のところに行きましょ。
あれ?」


「危ない!」


立ち上がろうしたリツコだがやはり運動不足は顕著で立ちくらみが・・
すかさずマヤが抱きかかえて彼女の身を支える。

その時、丁度マヤの顔がリツコの目前に迫った。

先ほどの夢がリツコの脳裏を掠める。
それにマヤの体の感触が、ゲンドウと別れて以来人肌の温もりから遠ざかっていたリツコの
官能を呼び覚ましたようだ。


「マヤ・・」


「せ、先輩、何を・・んっ」


マヤの唇を奪うリツコ。
夢が現実となった瞬間。

そしてそんな場面を目撃していた男が一人・・


(やっぱりそういう関係だったのかマヤちゃん・・せっかく葛城さんから乗り換えたのに。
うう、俺は哀しいぞ)


どこまでも不幸な日向。
君の幸せはいずこ・・




日向は頃合いを見て、さんざん探した風を装いリツコとマヤの前に現れた。
まさかキスを邪魔するわけにもいかない。

リツコはともかくマヤの顔は真っ赤。
何をしていたか知っているが、なるべくそんなマヤを見ないように話しかける。


「探しましたよ、二人とも。
携帯は繋がらないし・・」


「気分が悪くなったからマヤに手当してもらってたの。
携帯はマヤが切ってたようね。
でも、もう大丈夫よ」


「そうですか。
じゃあ、葛城さんのところへ急ぎましょう」


二人を先導してミサトが待っている場所に急ぐ日向。
しかし人混みが激しく、思うように目的地へ進めない。

見ると人混みの大半は幼い子供を連れた家族連れ。
この先で、何か子供向けのショーでもやっているらしい。


「そういえばここには、ロボットがいるって聞いたな」


「それ私も知ってる。子供に人気なんですよね・・基本性能も結構な物らしいですよ、先輩。
私も見たことはないんだけど」


「子供相手のロボットなんてたかが知れてるわ。
それより急ぎましょ」


「あん、先輩」


マヤは興味があるようだが、リツコはまるで相手にしない。
彼女にすれば、遊園地でマスコットに使われているロボットなど眼中にないといったところか・・
事実、リツコは究極の生体ロボットとも言うべきエヴァを管理する身なのだから。


「ひょっとして、ネルフの赤木博士ですか?」


マヤの手を引っ張り、先を急ごうとしたリツコに話しかける人物が。
一応遊園地スタッフの制服を着てはいるが、まるで似合っていないその男の顔を思い出そうとする
リツコだが、どうしても思い出せない。

それではと、胸の身分証明に目を移す。


「時田 シロウ・・・・・時田さん?ジェットアローンの」


「はははは、やっと思い出してくれましたか。
そうです、時田 シロウです。
あの節は大変失礼しました。
いつかお詫びしなければと思っていたのですが」


「もう、過ぎた事ですわ」


あの時はただライバル心だけでリツコを見ていた時田だが、今こうやって見るとかなり魅力的な
女性だと分かる。
いや・・意識の底では、ずっとそう思っていたのかもしれない。
夢の中でプロポーズしたのはいい証拠。


「時田さんはここで何を?ここの制服を着ているようですが・・」


「私はあれから職も何もかも失いましてね。
今はここで働いているんですよ。
ほら、あれが私の仕事の成果です」


時田が指さした先には、子供達に囲まれて愛嬌を振りまくロボ他君の姿があった。
普通の人間なら微笑ましいと感じる光景。
しかし、リツコはちょっと違う感覚の持ち主だった。

友人のミサトがあれである。
似た者同士だろう。


「外部からのコントロールも無しに子供達を適当にあしらっている事から見て
性能は確かな物のようね。
そこには感心するわ」


「ありがとうございます、博士。
博士にそう言って貰えると私も・」


「でもあのデザインは狙いすぎよ。
いかに子供の受けを考えたと言っても、あそこまで崩す必要はないわ。
そうでしょ?マヤ」


「そうですね。
どこにデザインを依頼されたかは知りませんが、次からは別の会社にした方がいいです。
あれじゃ、センスを疑われても仕方ないですね」


「い、いや、あの・・」


「よろしかったらネルフのコネクションで紹介しますよ、いいデザイン会社。
金額も勉強させますから。
ああ失礼・・私、ネルフの日向と申します」


「そ、そうですか、その時は頼もうかな。はは・・はははははは」


時田は別に子供の受けを狙ったわけでも何でもない。
ジェットアローンもそうだったが、あの姿形に様式美を感じていた時田である。

完璧に美意識がずれている。
しかも、今さっきまでそれに気付いていなかった。

女性などの見方は普通みたいなのだが・・


「それじゃ、新しい仕事頑張ってね時田さん。
行くわよマヤ」


「はい、先輩♪」


「さっきの件、気が向いたらネルフへ電話下さい。
受付には、話通しておきますから」


「え、ええ、わざわざありがとうございます」
(ようし・・・そこまで言うのなら、Mk−Uは私の美意識の結晶にしてやろうじゃないか!)





数ヶ月後・・
時田が満を持して公開したロボ太君Mk−Uは、一目で人々の爆笑を誘ったという。




「アスカ、またあの遊園地行かない?最近、そこの笑えるロボットが話題でさ」


「ロボット見て笑ったって仕方ないわよ。
それより・・・・・ね?」


「夜だけじゃ足らないの?」


「ぜんぜん」





こいつらにはどうでもいい事らしい。


 

 でらさんから『夢』シリーズ第5話をいただきました。

 時田がリツコさんに好意を抱いて‥‥ちょっと無理がありましたね。実力不相応というか性格の不一致というか‥‥。

 リツコさんはマヤさんがお似合いです。

 それにしてもシンジとアスカ‥‥えっち以外にすることないのかなぁ?‥‥ないんですね(汗)

 みなさんもでらさんに感想メールを送ってください。

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