ソノ四
作者:でらさん











ワイ・・いや、私は数年振りに訪れたこの街である女性と運命とも言える再会をし、付き合いが
始まり・・・

結婚した。


私がこの街を出たのは高校を卒業した後だった。
両親の故郷である関西の大学を選んだ私は、当時付き合っていた少女とドラマのような別れを演じて
この街を去ったのだ。

大学を卒業して就職したのは懐かしい街に本拠を置く会社で、私は研修の終わった後本社に配属
された。

彼女と再会したのは、ネルフへ上司と共に挨拶に訪れた時だ。


『あら、久しぶりね鈴原』


その一際目立つ容貌は数年経ってもはっきりと覚えていた。
なぜなら私は彼女に憧れ・・・違うな、彼女が好きだったからだ。

輝くブロンドと蒼い瞳・・そしてその快活な性格は私の理想だった。

しかし彼女は親友とすでに恋人同士。
同居している事もあって、その関係はすでに大人の物であると誰もが疑わなかった。
そしてそれは事実だったのだ。


私は自分の思いに封印をかけ、以前から自分に対し好意を寄せてくれていた少女と
付き合う事にした。

不幸にもその少女とは別れてしまい、大学でも数人の女性と付き合ったがその時点では
独り身だった 私。
恥ずかしい話、精神的にも肉体的にも私は悶々とした日々を送っていた。

そんな時に再会した彼女・・アスカは私にとって抗うことの出来ない魅力を持っていたのだ。

挨拶に回る上司の目を掠めて、せっかく再会したのだから昔話でもしようと強引に飲みに誘った。


その夜、酔った彼女は愚痴を連発。

仕事の不満、私生活の不満・・

中でも恋人への不満は、かつて彼の親友だった私にとって信じられないものだった。
彼はとんでもない浮気性だったのだ。
彼女が挙げた幾人もの浮気相手の名の中には、私と付き合っていた少女の名もあった。

驚くべき事に、私と付き合っていた当時からすでに肉体関係があったというのだ。
私には手も握らせなかった彼女・・


その嫉妬もあったと思う・・
私はその後、酔って正気を無くしたアスカを自宅に引き入れ・・・抱いた。

翌朝私のベッドで目覚めたアスカは取り乱すこともなく、調子に乗った私の求めを拒否する事もなく
そのまま一日中、私に抱かれていた。

それ以降は泥沼に嵌るように私とアスカは関係を続け、いつしかそれは彼女の恋人の知ることとなり
二人は別れ、私は幸せを手に入れたのだ。


『そろそろ起きなさい。今日はドライブに行くって約束よ』


『分かっとるがな・・』


私をろくに寝させてくれなかったのは彼女の方だと言うのに・・

まあいいか、こんな最高の嫁さんに文句など言えない。

さあて、まずは目覚まし代わりのキスを・・・





「アスカ〜」


「トウジ・・おい、まずいぞ」


授業中の教室内に響くトウジの衝撃的な発言には誰もが耳を疑う。

トウジが好きなのは洞木 ヒカリ・・

この認識はクラスメート全員が共有する物だったはずだ。
しかし寝言とは言えアスカの名を呼んだのだ。

気持ち悪くなるほどの甘い声で。


「おい、起きろってば!」


隣の席に陣取るケンスケは場の雰囲気を察し、親友の立場を考えてしきりに起こそうとする・・
が、トウジは起きない。


「やめておけ、相田。
鈴原は惣流の夢で楽しんでるんだろう。
そっとしておいてやれ」


「はあ・・」


教師は薄ら笑いすら浮かべ、トウジを無視する。
別に彼の教育を放棄したわけではない。
彼が近日中に受けるであろう制裁措置を前に、安らかな時間を少しでも与えてやろうという
優しい心遣いであった。

ちなみにその制裁措置を与えると思われるアスカとシンジは、今日はネルフで訓練。
レイも一緒。
彼らがいればただでは済まなかったと思われる。

今のシンジはアスカ絡みだと見境亡く切れる・・しかも強い。

それは相手がトウジでも関係ないだろう。
間違いなく病院送りにされる筈だ。

ケンスケは約二ヶ月前に自分が受けた制裁を思い出し、身が震えた・・


(お、俺は知らないからな・・お前が悪いんだ、トウジ)


ところでヒカリは・・・


「鈴原がアスカに?
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、上等じゃない。
なら、私は碇君と浮気するわ」


参考までに言っておくと、ヒカリとトウジはまだ付き合っているわけではない。
浮気などという言葉は成立しないと思うのだが・・







同時刻 ネルフ本部 発令所・・・


全てが終わってからかつての緊張感の欠片もないここ発令所では、幾人かの職員が詰めているものの
皆暇そうだ。
午前中こそ定期シンクロテストでそれなりの賑わいを見せたのだが、今は居眠りする職員までいる
始末。

夜は趣味のバンド活動で忙しい青葉シゲルもその一人・・




「いい加減、夢なんて追うのやめて」


「あなたに才能はないわ」


ボロアパートに似つかわしくない美女が俺の前に二人、正座して陣取ってる。

何もかもが対照的な二人。
惣流 アスカ ラングレーと綾波 レイ・・・

動のアスカと静のレイ、水と油、グラマラスとスレンダー・・・
こんな二人が、ある点では一致している。


それは俺への愛。


彼女達が当初熱を上げていた少年は彼女達を天秤で計る事に慣れすぎて、結局二人共彼に
愛想を尽かした。
端で見ていた俺にしてみれば当然の結果。
あんなやつが二人の女と上手くやれる筈がないんだ。


その後、彼女達は色々な男達と付き合ったみたいだが長続きせず、ある日気まぐれで俺にご指名が
かかったんだ。


『アンタで我慢してあげるわ』


『勘違いしないで・・』


言葉とは裏腹に、二人はとても寂しがってた。
俺には分かった。

なぜって・・

二人の声が泣いてたんだよ。
これでもミュージシャンの端くれ、そのくらい分からなくてどうする。

それから俺は休みの度にあっちこっち引っ張り回されて、趣味の音楽もろくに出来なくなった。
そこんとこに不満が溜まった俺は二人に言ったね。


『もういいだろ?他の男探せよ』


寂しがりやの女達の相手なんか、俺はもううんざりしてた。

俺にだって性欲はある。
目の前のご馳走をただお預けされてるのにも我慢ならなかったんだ。
彼女達は俺に手も触れさせなかったからな。

これで彼女達とは終わりにして、本気で付き合える彼女を探そうと思った。

しかし・・


『今日は帰らないわ』


『好きにして・・』


俺に拒否なんか出来る訳がない。
その夜一晩掛けて、俺は彼女達を堪能したのさ。
当然バージンじゃなかったが、男一人しか知らない体は綺麗な物だった・・
それに彼女達の反応ときたら・・・っと、これ以上はまずいな。


以来、二人は心身共に俺にぞっこん。

そして今日、彼女達は俺に人生の決断を迫るため・・ここにいる。
ネルフを辞めてプロのシンガーを目指した俺だけど、やはり夢は夢。

場末のバーで時折歌うのが関の山。
食うのもままならない。

彼女達はネルフへの復帰を俺に奨めたんだ。
更にどちらかとの入籍も要求してきた。


「アタシ達のお腹にはアンタの子供がいるのよ。
責任取りなさいよ」


「拒否は認めない」


と言われても・・

ネルフへの復帰はいいが、どちらかを選べというのは辛い選択だ。
二人とも愛しているには違いないし・・







「アスカ〜、レイちゃ〜ん・・二人とも愛して・・・・・・なんだ、夢か」


「シ、シゲル・・お前、やっぱりそうだったのか」


長年の盟友として青葉と付き合ってきた日向は、彼の危うい性癖も何となく分かっていたつもりだ。
青葉が過去付き合った女性達は、そのほとんどが実年齢よりも幼く見える女性ばかり。

それにレイやアスカを見る視線もどこなく妖しい気がした。

だが、今の寝言は決定的だ。


「やっぱりって・・・お、おい、マコト、お前何か勘違いしてないか!?」


「分かった、分かった・・俺は誰にも言わないから。
だけどな、現実と妄想をごっちゃにしちゃいけないぜ。
アスカちゃんとレイちゃんには絶対手を出すんじゃない」


「出すわけないだろ!!
俺は夢を見ただけだ!」



「それと部屋にあるその手のビデオはすぐに処分するんだ。
俺以外の人間に見られたら大事だぞ」


「人の話を聞け〜〜〜!!」


そんな騒ぎを見守るパイロット三人。
別のセクションへ移動中だったのだが、マコト達の様子が可笑しいので暫く見学する事にしたのだ。


「いい大人が何騒いでるのかしら・・
バカみたい」


「ミサトさんに見つかったら怒られるのに・・」


「見るだけ無駄・・」


レイは一人で行ってしまう。
しかし、アスカとシンジはもう少し近づいて日向達の話を聞いてみることにする。

気付かれないようにそうっと近づく二人・・・


「だから夢だって言ってるだろう!」


「夢にまで見るなんて、相当入れ込んでる証拠じゃないか」


「何の話してるんですか?」


「ああ、よく聞いてくれた。
こいつ、アスカちゃんとレイちゃんをものにする夢見たんだってさ。
二人同時にだぜ・・ここまでロリな奴なんて知らなかったよ」


俺はロリコンじゃない!!・・・って、マコトお前誰に話してんだよ」


「・・・・・・・あれ?」


きぎっと音を立てるようにマコトの首がその向きを変え、後ろに視点を移していく。
そしてそこには彼の予想した通りの人物が。

しかも可愛い付録付き。

だが、この付録は最悪でもある。


「や、やあ、シンジ君、格闘訓練はもう終わったのかな。はは・・ははははははは」


「まだこれから続きがあったんですが、どうやらここでやることになりそうです。
日向さんは邪魔なんで席を外してくれませんか?」


「死にたくなければ早くどきなさいよ」


「そ、そ、そうか、じゃ、後は頼むぞ青葉一尉」


「あっ、俺も邪魔だよな、すぐに出」


尋常でないアスカとシンジの殺気に恐れを成した青葉は逃げようとするが、体はその場から動けない。
両肩をしっかりと二人に抑えられびくともしないのだ。
体に感じるその力は中学生とは思えない。


「例え夢であっても、僕のアスカを汚した罪は重いですよ・・青葉さん」


「気色悪い夢見るんじゃないわよ」


冷静な二人の台詞が余計恐い。
恐怖が青葉の思考を止め、自我の崩壊を防ぐ自己防衛が働き彼の意識は遠のいていく。


「これも夢なんだよな・・早く覚めないかな」






彼が意識を回復したのは翌日・・
それもネルフ医療部集中治療室のベッド上であった。






同日 夕方 第三新東京市 とある繁華街


「何や、今日はみんなおかしいわ・・
授業中の居眠りがそないに悪い事かいな。誰も口利きよらへん」


昼間の寝言の一件以来、クラスメート達はトウジを避けるように彼から距離を置いていた。
ケンスケやヒカリまでもがである。

夢は覚えているが寝言までは知らないトウジ。
彼にすれば何で自分が避けられているのか分からない。


「ええ夢やったが、夢は夢や。
ワイが好きなんは洞木やし・・
っと、こんな事考えてる場合やない・・買い物や買い物。
あんまり遅うなると妹のやつにどやされるさかいな」


家の家事を仕切る妹に買い物を言い渡されたトウジは、今日はこのスーパーが特売だからと指定され
いつもとは違うスーパーに来ている。
そしてそこで見慣れた姿を発見した。

第壱中の制服を着て、腰まで届きそうな金髪を持つ少女など一人しかいない。


「惣流やないかい、シンジはどないしてん」


「鈴原か・・
シンジはまだネルフよ、ミサトのとこで特別講習」


体を使った格闘訓練などは相当のレベルアップを果たしたシンジだが、戦術などの本格的な
軍事知識はまだまだ足りない。
そこでミサト自ら講師となって、集中的に詰め込んでいるわけだ。

アスカはそんな忙しいシンジを暖かい家庭料理で迎えるべく、ネルフからの帰りにこのスーパーへ
寄ったのだ。
まだそんな凝った料理は出来ないが、シンジの為に何かしたかった。


「冷たいの〜
しかし惣流が料理とは、変われば変わるもんや」


「アンタに優しくする気も、義務もないわ。
アタシが料理しようとしまいとアンタに関係ないじゃない」


「可愛いないわ、ほんま・・」


ふと、夢の中のアスカがトウジの頭をよぎる。

ついでにHな場面までもが。
夢に出たアスカの裸体と今自分の目の前にいるアスカが一瞬重なり、トウジの顔と下半身の一部に
血液が集中した。

顔はともかく下半身はまずかった。
普通のジーンズとかならば何とか誤魔化しもきいただろうが、彼の常用するジャージはその部分の
変化など一目瞭然。

自分を見る厭らしい視線には慣れっこのアスカも、そこまで露骨にされるのは珍しいので
ふつふつと怒りがこみ上げてくる。


(コイツまでアタシを厭らしい目で見てたのね)
「うるさいわね、さっさと買い物済ませて帰りなさいよ」


「わ、分かっとるわい」
(いかんわ・・つい思い出してもうた)


悪い事は続くもので、トウジが取ろうとした最後の特売品(国産牛肉ステーキ用200g2枚入り)
をアスカが先に取ってしまった。
チラシを見た妹に、これだけは絶対買ってくるようにと言われていたのでトウジは思わず
肉を籠に入れようとしたアスカの手を掴んでしまう。
が、これがトウジに不幸を呼ぶ。


「きゃ〜〜〜!!どこ触ってんのよ、アンタ!!」


「さ、騒ぐ事ないやないかい、手握ったくらいで・・」


「触んないでって言ってるでしょ!!手を離して!!」


「だから騒ぐなて・・ワイは肉をやな・・」


騒ぎを聞きつけた店員がすぐさま警備員を呼び、店内は騒然。


「何をしてる貴様!その手を離せ!
店内で痴漢行為とはどういうつもりだ!」


「い、いえ、ワイ・・じゃなくて僕はそんな・」


「言い訳など聞くか、こっちへ来い!」


「だから僕はですね・・」






トウジが自由になれたのは夜も九時が回った時間。

家に帰れば妹にどやされ晩ご飯は抜き・・
おまけにヒカリからは、都合で翌日の弁当は無しと電話があり散々な一日であった。





翌日 第壱中学 3−A教室


朝から異常な緊張感に包まれたこの教室では、誰も口を開く者はいない。
いつもはかしましい女子生徒達も今日は静か・・いや、恐怖をも感じているようだ。

その原因となっているのはアスカとシンジ。

痴話喧嘩しているのではない。
それが証拠に、アスカの右半身はシンジと一体化するように密着している。


「おはようさん」


トウジの登場と共に更に緊張感が増す。
それはすでに殺気へと変化した。
流石にトウジもその空気を察する。


「な、何があったんや」


「トウジ・・」


「おう、シンジ・・一体ここで何が」


「これから起こるんだよ」


シンジの目を見たトウジは、教室内に満ちる殺気がシンジの物と理解した。
そしてそれが自分に向いている事も・・


「な、何を言うとるんや・・き、昨日のスーパーでの事はホンマに事故やで」


「昨日、夢を見たそうだね・・いい夢だったようだけど」


一気に全身から汗を吹き出すトウジ。
確かにあの夢の内容をシンジが知ったらやばい。
彼の独占欲の強さはよく知っている。


「ゆ、夢やでシンジ。
夢くらいでそう怒らんでも・・大体、何でワイの夢の事知っとるんや?」


「寝言でみんなにばれてるよ。
まったく、青葉さんといい、トウジといい・・
その前はケンスケ・・・・・・・僕もいい加減怒るぞ」


「れ、冷静になろ?な?人間怒ったらあかんで」
(もう怒っとるやないかい)


必死に宥め、周囲に視線を送って助けを請うが誰も助けてくれそうにない。
ケンスケなどあからさまに視線を逸らした。

ヒカリも傍観している。


(あかん、ワイは死ぬんかな・・)
「そ、惣流も何か言ってくれへんか?」


「シンジ」


「何?アスカ」


「殺さない程度にね」





トウジの意識はここで途切れている。
彼が目を覚ましたのは、やはりネルフ医療部集中治療室のベッド上・・

そして入院生活を送ったベッドは、青葉シゲルの隣であった。


「そ、その傷・・君もシンジ君に?」


「・・・お兄さんもでっか?」





二人の間に奇妙な友情が生じたかは定かではない・・・




 でらさんからの『夢』シリーズ4作目はトウジと青葉であったようです。

 ジャージやギターの癖に生意気ですね。アスカと一緒になる夢を見るなんて。

 仲良く寝床を共にしてしまった(してません)二人、これからついに向こう岸の領域に踏み込んでしまうのでしょうか‥‥ヒカリがフリーになってアスカを悩ます事態になってしまいますね。烏賊ん、これはLASのシナリオには無いぞ?(爆)

 問題作(嘘)を投稿してくださったでらさんに是非感想メールをお願いします〜。

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