最終話
作者:でらさん













「パパ・・もう起きて。ご飯の用意、出来てるわよ」


「ああ、分かった」


愛するアスカが不慮の事故で死んで十五年・・

当時、生まれたばかりであった娘ミライも十五歳、すっかり大きくなった。
もう子供扱いはできない年頃だ。
私には決して言わないが、付き合っている彼もいるのだろう。

父親の私が言うのも何だが、彼女の魅力は男なら抗えないものがある。

アスカの血を色濃く受け継いだ顔の造形とスタイル。
特にスタイルは一般の日本人とは明らかに一線を画し、とても中学生には見えない。
父親であることが残念なくらいだ。

思えばアスカもそうだった。
いや、スタイルに関して言えば彼女の方がより上を行っていたか・・

その魅力的な体を、私は付き合い始めてすぐに抱いた。
とても我慢などならなかった。
私達は同居していたし、保護者たる人物は仕事と付き合いで帰ってこない事が多い。
そんな環境に置かれた私達が付き合い始めれば、体の関係が出来るのは必然であっただろう。

しかし、アスカが妊娠したのは予定外。

それは、私達が高校に進学してすぐの頃。
原因は些細なこと。
アスカがピルを飲むのを忘れていただけだった。

妊娠が発覚してからは周囲も含めて大騒ぎ。
中絶を勧める声が大半。
保護者の女性とその婚約者も強硬にそれを主張した。
曰く・・


”あんたたちにはまだ早い”


だが私とアスカは数少ない理解者を味方に付け、出産を強硬した。
結果、産まれたのがミライだ。

私達はそれから先の人生が平穏なものではないと理解していた。
まだ若い私達に対し、周囲の目も冷たいだろう。
だが二人で力を合わせれば辛いこともいずれ思い出になると、二人して決意を新たにしたのだ。

ところが、出産した病院から退院したその日・・

アスカは暴走した車に轢かれて、帰らぬ人となった。
彼女は抱いていたミライを庇うようにして死んだ。
どうしても抜けられないネルフの用事で迎えに行けなかった事を、私は今でも悔やんでいる。

だがもう少しだ。
もう少しで、ミライも私の手を離れる。
ミライが独り立ちしたら・・

アスカ・・・
君にまた会えるよ。


「パパ、またママの事考えてるのね?
手が止まってるわ」


「あ、ああ、済まん。
すぐ食べるよ」


「友達はパパの事を若くて素敵・・なんて言ってるけど、今のパパ見たら幻滅しちゃうんだから」


「中学生からモーションかけられてもな・・
第一、犯罪だ」


「あら、パパ今三十二歳でしょ?
十七くらいの年の差夫婦なんて、珍しくないと思うけど」


そういえば、加持さんに憧れてた時のアスカもそんな事言ってた気がするな。
やっぱり親子だな。

ま、まさかミライのやつ、そんな年上の男と・・


「ミライは年上が好みなのか?
そんな話をするところをみると、怪しいな。
私より年上なんて勘弁してくれよ」


「バカなこと言わないで!付き合ってる人なんていません!
私は現実を言っただけ・・早とちりしないでよ、パパ」


まあ、一安心というところか。
しかし、付き合ってるやつがいないというのは意外だな。

私の世話やら家事が負担になってそれどころではないのか・・

だとしたら、何か考えなくては。
レイに話をすれば飛んでくるだろうが、ミライとの折り合いもあるし・・


「そう怒るな。
だがな、お前もそろそろ彼の一人でも作らんと格好がつかないだろう。
葛城さんとこのユウキ君なんか、お似合いだと思うがな」


「ユウキ?ただの幼なじみよ、アレは。
そんなに私に彼氏を押っつけたいの?だったらパパが彼になってよ」


「おいおい、勘弁してくれ。パパが悪かったから」


ミライのやつ、ちょっと拗ねたようだな。
朝から持ち出す話題ではなかったか。

あんまり刺激すると手に負えなくなるしな・・ここらで機嫌を


「私は本気よ。パパだったら、私いつでもいいもん」


・・・・・なんだって〜〜〜!!

そりゃ小さい頃はパパと結婚するなんて言ってたが、今の台詞はシャレにならないぞ!
そうだ!これはミライ得意のジョークだ!
そうに決まってる!

って、何で服を脱ぐんだ!ここはダイニングだぞ!

いや、そういう問題じゃなくてだな!


「見て、私もすっかり大人よ。この体、パパの好きにしていいのよ」


「ミライ、冗談もほどほどにしないと」


「レイさんは抱けるのに、私は抱けないの?」


やっぱりレイとの関係を知っていたか。
私をレイに取られるとでも思ったのか・・

それでこんな事を。


「お前は私の娘だ。
レイと同じに見るなんて出来ない」


「そんなの関係ないわ。私は女としてパパを愛してる。
だから・・」


か、体が動かない。
ミライ、コーヒーに何か入れたな。


「効いてきたようね、痺れ薬。
ふふふ・・
学校には休みを届けてあるし、ネルフには風邪でパパは休みって連絡入れておいたし
今日は一日ゆっくりできるわ。
私を堪能してちょうだい・・・パパ」


「ま、待て、親子でこんな事」


「今日から私達は夫婦よ」


やめるんだ、ミライ。
そんなことは倫理的に・・

やめ・・








「わ〜〜〜!!」


「きゃ!」


日曜日の朝、先に目を覚まし朝食の準備を済ませてからシンジを起こしにきたアスカ。

エプロンをつけて起こしに来た自分の様子が、何となく新婚の新妻のような雰囲気であったので
シンジを目覚めのキスで起こそうと顔を近づけたところ、いきなりこれだ。
アスカはビックリしてベッドに座り込んでしまった。


「ゆ、夢か・・」


「ど、どうしたのよ、そんなに悪い夢だったの?」


「悪いなんてものじゃ・・・何してるの?アスカ」


「え?だって、シンジ元気だから・・」


気を取り直し体を起こしたシンジがあらためてアスカを見ると、彼女はなぜかエプロンを外し服を
脱ぎ始めている。
というか、すでに下着にまで手がかかっていたりする・・素早い。

そして彼女の視線はシンジの股間に・・

そこは、夢のせいか男の生理現象かは不明だが、男として興奮している証がはっきりと分かるような
状態。


「げ、元気って、これは」


「今日はミサトがいるから、朝はダメって言ったのに・・
でもシンジがどうしてもって言うなら仕方ないわ。
朝ご飯冷めちゃうから、一回だけよ」


「僕の話も聞いてよ、アスカ」


「聞いてるじゃない・・ほら、早くして。
ミサトがまだ寝てるうちに済ませるわよ」


「だから」


「早くして!」


「はい」





始まりは強引に引き込まれたシンジであったがすぐに気分が乗ってしまい、朝食は大幅に遅れた
葛城家であった。

割を食ったのはこの人・・と、一羽。


「お腹減った〜・・・
でも、先に食べるとアスカがうるさいし。
ペンペン!アスカの部屋に行って、二人を連れてきなさい!」


「クワワ〜〜〜!!」
(訳:絶対やだ〜〜〜!!)




午後・・


朝食兼昼食を終えたミサトは、おめかしして加持とのデートに出かけていった。
明日仕事とはいえ、今日は帰ってこないだろう。

ペンペンは自室で昼寝。
このところ洞木家の末妹から猛烈なラブコールを受けている彼だが、彼も満更ではないようだ。
近い内に洞木家へ住居を移すのも時間の問題と思われる。
背後に、シンジとの二人暮らしを画策するアスカの思惑が働いていたのは言うまでもない。

そして、朝から激しいお務めを果たした二人もリビングで仲良く昼寝中。

昨晩からの連続であったので、さすがの彼らも疲れた様子。
シンジの悪夢の原因であるかもしれない。

基本的に受け身であるアスカもかなり疲れているようで、時折うわごとを発しながら眠り続けている。

それでも、シンジに抱きつく手を離さないのは大したものだ・・





赤い海・・
海じゃない、LCL?


磔にされたようなエヴァ。
見たことのない型ね・・新型かしら。


見渡す限りに林立する光の十字架。
前衛芸術?


遠い彼方に見えるのは・・・巨大なレイの顔。
しかも半分に割れてる。
何て物創ったのよ、・・趣味悪いわね。


空には星と赤い帯。
夜・・じゃないみたいだけど、あの赤いの何?血に見えるけど・・・


ここ、どこよ!
訳分かんないとこね!

まるでダリのシュールレアリズムを現実化したみたいじゃない。
頭が変になりそうだわ。

おまけにアタシはプラグスーツ着てるし。
それだけならまだしも、手に包帯巻いてるし左目も包帯でふさがってる。

あ、隣にシンジがいたのね。
聞いてみよう・・


「ねえ、シンジ・・ここどこ?
どうしてアタシ達はここにいるの?」


「アスカは忘れたの?」


「何を?」


「サードインパクトさ」


「サード・・・・・インパクト?」


シンジまで変。
サードインパクトなんて冗談じゃないわ。

誰かの悪戯かしら・・手の込んだ悪戯ね。
ミサトとリツコが仕組めば可能か。
だとすると、これはみんな立体映像って事になるけど。

シンジは催眠術かなんかで・・


バシッ


「痛いなあ・・何するんだよ、いきなり」


「アンタを催眠術から醒ましてやるのよ」


「催眠術?
アスカ・・・世界に二人だけ残されたショックは分かるけど、現実逃避は良くないな。
真面目にこれからの事、考えなくちゃ。
まずは食料探さないと」


「世界に二人だけ?」


「とぼけないでよ。
アスカはみんなと溶け合うのを拒否して、僕は現実で生きる事を望んだ。
その結果、世界には僕とアスカの二人きりになった。
これがサードインパクトの結末だろ?」


ちょっと、ちょっと、ちょっと・・

真面目な顔してバカな事言わないでよ。
思わず信じちゃうじゃない。

使徒戦はアタシとシンジの活躍で・・ほんの少しだけファーストの手助けも借りて、無事終わった
のよ。
ゼーレの画策してた計画は全ておじゃん。
サードインパクトなんかあり得るはずないのに。

よっぽど強力な催眠術かけられたのね・・


「バカな事やってないで、家に帰りましょう。
こんな夢みたいな世界、現実に存在するわけないじゃない」


「夢?」


「そうよ・・こんな景色、夢以外どこにあるっていうのよ」


「夢を見てたのはアスカだろ?
大方、サードインパクトを回避した世界の夢でも見てたんじゃないか?」


「そんなことない、あれは現実よ!」


そうよ、何言ってるのよ。
あれが夢であってたまるもんですか!

アタシとシンジは幸せに暮らして・・


「証拠は?」


「証拠はこの腕よ!
アタシ、こんな怪我なんかしてないもん!
包帯取れば綺麗な腕が・・」


何よこれ・・
何なのよこの傷。

嘘よ!
何でこんな・・・





「いや〜〜〜!!」


「アスカ!」


「・・・・・シンジ、ここはどこ?」


「どこって、僕達の家だよ。
正確にはミサトさんの家だけど」


「みんないる?ミサトや加持さん、ヒカリとかみんな!」


「どうしたんだよ、みんないるよ・・僕だって、ここにいるじゃないか」


魘されるアスカの声に起こされたシンジは彼女の様子を窺っていたのだが、その様子が尋常で
ないことに気付いた。
酔って魘された時とは明らかに違う。

本当の切迫感といったものが感じられる。


「これは夢じゃないよね?ね?シンジ!」


「どんな悪い夢見たか知らないけど、ここは現実の世界だよ」


「嫌な夢見たの。
サードインパクトが起きて、世界にアタシとシンジが二人っきりで残されて・・」


「アスカ・・」


「え?」


「嫌な事を忘れるには、汗をかくのが一番だ」


「汗って・・・・・やっぱり、アレ?」


「当然!」


「きゃ〜〜〜♪」






夢、夢、夢・・

我々が現実と認識しているこの世も、至高の神が見る一時の夢なのかもしれない。
だがこの二人にとっては、これが現実。


「今日は限界に挑戦だ!」


「アタシ、壊れちゃわ〜〜〜♪」







 でらさんから、『夢』最終話をいただきました。

 17歳差‥‥の夫婦は、やはり珍しいと思いますので、やはり夢でよかったです(笑)‥‥問題はそれだけじゃないですが。

 それにしても、アスカとシンジにとってサードインパクトのあった世界と無かった世界、どちらが夢なんでしょうか。楽しいほうを現実にすればいい?‥‥そうですね(笑)

 素敵な夢の話もこれで完結!皆様、読後は是非でらさんに感想メールを送ってください。

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