本物は誰? 第六話

作者:でらさん












ゲンドウは自分に監視の類は付けないと約束したが、ショウヘイはその言葉を鵜呑みにし、信用
しているわけではない。
まだ明け方と言えるこの時間、彼は周囲に警戒の網を巡らしながら、とあるマンションの裏口に廻り、
入っていった。そこは、ネルフの独身女性職員達が住む女子寮。
通常、例えネルフ職員といえども男が女子寮に無断で入る事はできない。親兄弟でさえ事前の
許可が必要で、それは高位の幹部でも同様。病気で休んだ職員を見舞おうと上司が無許可で入
ろうとしたが、追い返されたという事例まである。
但し、何事にも裏の事情というものは存在する。
ネルフに若い独身女性は多いが、若い独身男性もまた多い。エリートとはいうものの、若い男女が
集えば色恋沙汰が発生するのは必定。その結果、若い情熱を発散させる場も必要とされるのだ。
女子寮はその一つで、女子寮の警備を担当する保安部の、ある部署に内々で話を通せば、裏口
用のカードキィを渡される。明らかな内規違反だけに口外は厳禁されるが、カードの需要は多い。
ショウヘイも、そのカードを使っている。

裏口から非常用の通路を伝ってエレベーターの昇降口に着いたショウヘイは上昇ボタンを押し、
すぐ開いたドアに素早く乗り込んでドアを閉める。そして、目的とする階のボタンを押す。するとエレ
ベーターは、軽い機械音を発して上昇し始めた。


(融通が利くというか、弛んでるというか・・
僕にとっては都合いいがね)


自分の生まれた世界とは比べ物にならないくらい、この世界の大人達は、穏やかで享楽的だ。中
には例外もいるけども、大方の人間は緊張感に欠けるところがある。この世界のネルフが、それほ
ど大きな挫折もなくここまで生き延びてきた事とも無関係ではないと、ショウヘイは思う。
全てが始まったあの世界は危機の連続で、ネルフ職員には余裕の欠片もなかった。綱紀粛正や
仕事上のミスによる処分も厳格に行われており、いつの間にか姿を消した職員もかなりの数に上っ
ていた。


(あそこまでする必要はないけど、寮をラブホ代わりに使うのを認めるなんて・・
っと、着いたか)


エレベーターが指定した階に着き、ドアが開いた時、ドアのすぐ傍では一組の男女が別れを惜しむ
ように抱き合い、キスを交わしていた。
エレベーターの到着を知らせるチャイムの音にも反応せずキスを続けていた二人であるが、ショウ
ヘイがエレベーターから出ると人の気配を察したようだ。二人は、慌てて体を離す。
ネルフの制服を身に着け、髪を肩まで伸ばした男の方は知っている。発令所付きオペレーターの
青葉シゲル。ピンクのパジャマに上着を羽織った女の方は知らない。癖毛をショートにした髪の毛
が特徴的だが、ショウヘイに見覚えはない。訓練された体つきでもないので、技術部か事務系部署
で働く誰かだろう。

二人は、ショウヘイを見て複雑な表情を浮かべた。
なぜこんな少年が、こんな時間こんな所に・・
と言いたげに、ショウヘイを窺っている。
そんな二人を無視して通り過ぎようと思ったショウヘイだが、面倒な噂を立てられると後々厄介にな
ると思い、挨拶くらいはしておくことにした。


「おはようございます、青葉さん。
これから仕事ですか?」


「あ、ああ、おはよう。
君は・・」


声をかけられた青葉は、少々の戸惑い。
彼は自分を知っているようだが、自分は彼を知らない。今付き合っている隣の彼女の知り合いか
と彼女に視線をやるが、彼女は、自分も知らないとでも言うように首を横に振った。
少年は高校生くらい。
シンジに似ているようだが・・


「碇ゲンドウの親類で、碇ショウヘイといいます。
叔父から、ちょっとした用事を言いつかりまして」


「司令の?
どうりで、シンジ君に似てると思ったよ」


青葉は初めて聞いたが、彼はネルフ発行の身分証とカードキィを自分に見せた。
見も知らぬ少年に保安部がカードキィを与える筈がないし、身分証も本物。ショウヘイと名乗った
少年は、シンジをちょっと崩したような顔で、ゲンドウの親類と言われても疑う余地はない。


「では、失礼します」


「ああ、じゃあね」
(向こうはマヤちゃんの部屋・・
まさかな。司令に、言付けでも言いつかったんだろう。
大体、マヤちゃんは赤木博士と)


ショウヘイが向かった方向には、マヤの住む部屋がある。青葉は、怪訝な顔で彼の行方を目で
追った。
リツコと噂のあるマヤが少年と付き合っているとは思えない。
かなりの美少年ならまだしも、彼はごく普通の少年・・
いや、はっきり言って並以下。
彼のような少年にマヤが靡くとは思えないし。


「いつまで見てるつもり?
青葉さんは、そっちもいけたの?」


ショウヘイを目で追う青葉に、彼の横にいる女・・林ミカは、からかうような口調で青葉を下から
見上げた。
小柄な彼女は顔つきも可愛い系なので、ネルフの制服を着ていなければ高校生に見えなくもない。
学校の制服を着ると女子高生にしか見えないマヤには負けるが。


「まさか。
司令の親類なら、知り合いになっておいて損はないだろ?」


「それはそうだけど、シンジ君と血が繋がってる割りには、ちょっと野暮ったいわね彼」


「誰の部屋に行くんだろうな」


「向こうは、伊吹さんとか吉原さんの部屋ね・・」


ミカは、隣人達の名を挙げて意味ありげな表情で何やら考え込む。若い女性らしく、ゴシップネタ
には興味が尽きないようだ。


「誰にしろ、若い少年囲ってるなんて、なかなかやるわ。
知り合いに探り入れてみようかしら」


「おい、そんな話じゃないだろ。本人も、司令から用事を頼まれたって言ってるし。
向こうの部屋に司令の愛人でもいるんじゃないか?司令もああ見えて、手が早いらしいからな」


その手の話に関して意外にも常識的な考えの持ち主である青葉は、ショウヘイの容姿もあって、
ミカの推論を頭から否定する。二十歳半ば過ぎた女から見れば、高校生くらいの少年など子供
でしかない。付き合う対象にはなり得ないだろう。それよりも、女に手が早いとの噂があるゲンドウ
の問題と考えた方が自然だと青葉は思う。
ところが、ミカは青葉を鼻でせせら笑うように顔を崩した。


「青葉さんも、意外に甘いわね」


「甘い?」


「年下がいいって女は、現実にいるんだから。
あの男の子、絶対、誰かの彼氏よ」


「ホントかよ」


「わたしも一人知ってるわ。医療部の友達でさ、彼が高校生なんだって。
若い分Hが凄くて、休みの日なんか一日中離してくれないって、惚気てたわよ」


「へ〜、そ、そうなんだ」


羨ましそうに艶やかな目で見上げられた青葉は、思わず目をそらした。
起き抜けにミカから迫られたものの、仕事の疲れが残っていた青葉は寝ぼけた振りをして誤魔か
している。最近は、どうもそっちの方が億劫になってきた。三十代が視野に入ってきた影響だろうか・・
ミカが性的に淡泊な女性なら問題はないのだが、彼女は積極的な方で、彼女から求めてくる事も多い。


(初めての時からは、想像もつかないな。女は恐い)
「とにかく、こんなとこで立ち話も何だから、もう行くよ」


「わたしは夜勤だから、もう一回寝るわ。
いってらっしゃい」


今度は青葉の頬へ唇をつけたミカは、片手で手を振り、身を返して自分の部屋へ向かった。
青葉は彼女を見送ると、昇降ボタンを押してエレベーターを待つ。


「あれは、絶対要求してるよな・・・精力剤でも飲むか。
加持さん、いいの知ってるって言ってたな」







「入って」


インターホンを押すと、インターホンからではなくドア越しに聞き慣れた声。ショウヘイは声に従い、
ドアに手をかけて開けた。
すると彼は、すぐに柔らかくて暖かい物に包まれる。おまけに甘い芳香を漂わせるそれは、ショウ
ヘイの男を激しく刺激。彼は本能に従い、その場で自分を包んだ物体・・マヤの衣服を剥ぎ、数回
の欲望を満たした。

その全てではないが、ショウヘイが部屋に入ってすぐマヤに抱きしめられたシーンを目撃した人間
が一人いる。
青葉と別れてショウヘイの後を追ったミカである。ミカは、自分の推測が正しかったと勝利の笑みを
浮かべると、自分の部屋へ戻っていった。
女子寮で誰々と会ったとか見かけたとかの話は口外しないのが暗黙のルール。本来は内規違反な
のだから、それは当然。
しかし自分の部屋に戻ったミカは、携帯を手にとってメールを打ち込み始めた。相手は、恋人として
付き合う青葉。彼なら口外することはないと思ったし、彼には現実を知ってもらいたかったから。


「それにしても、あのマヤさんがね・・
赤木博士とは終わったのかしら」


男を寄せ付けない事から度の過ぎた潔癖性と噂され、直接の上司であるリツコとの同性愛関係でも
知られていたマヤが少年を自室に引き込むとは、スキャンダラスな事実。だがその事実から察するに、
彼女は潔癖性でもないし女専門というわけでもなさそうだ。
マヤが少年とどこでどう知り合い性的関係にまで至ったのか興味はあるが、リツコとの関係にも興味
が沸く。
リツコもマヤも標準以上の美形。美形二人の関係は、同性でもあっても耽美な興味をそそられる。
自分に同性への嗜好はないはず。
でも、リツコのような凛々しくて美しい女性に本気で迫られたら、拒否しきれる自信がミカにはない。


「赤木博士も、気が多いみたいだから。
前は、司令と付き合ってるなんて噂もあったし」


リツコについては、虚実取り混ぜた噂が絶えない。
人体実験で何人か殺しているだの隠し子がいるだの猫フェチだの、くだらない噂がほとんどだが、
女関係については、かなりの部分が真実。発令所の女性オペレーターが全て彼女のお手つきだとい
う話は有名。ミカも、リツコと関係を持った女の友人を何人か知っているくらい。クールな外見とは裏
腹に、かなり情熱的な女性のようだ。
マヤは、リツコの奔放な性癖に嫌気が差したとも考えられる。


「それにしても、マヤさん羨ましいな。あの男の子と今頃・・
青葉さん最近元気ないし、何か飲ませようかしら」


少年に抱かれて悶えるマヤの姿が頭に浮かび、青葉に拒否されて燻っていたミカの体が反応しそ
うになる。
それを理性で抑えたミカは、明日はマヤを真似て青葉を玄関で迎え撃とうと目を光らせるのだった。








ネルフ本部 ミサト執務室・・


近頃、妙に気合いの入っている保安部長から、秘密裏に見て貰いたい情報があると相談を受けた
ミサトは、自分の執務室に部長を呼んだ。
諜報部からは、たまにこんな相談を受けるミサトも、保安部からとは珍しい。一体何事かと身構え
ていたミサトに提示されたのは、どこぞのデパートで仲良く話をするアスカとシンジの写真。中学の
制服を着ている事からして、学校帰りに買い物にでも寄ったのだろう。
学校の生活指導でもあるまいし、ミサトは、この程度で小言を言うつもりなどない。


「これが、どうかしましたか?
この後、制服のままラブホテルにでも入ったとかなら問題ですが」


「そういった類の話ではありません」


気の抜けたミサトとは対照的に緊張を解かない保安部長の山田は、持参した書類ケースから別の
資料を出してミサトに説明する。


「その写真が撮られた同時刻、サードは友人と上階におりました。セカンドと話しているその人物は、
サードではありません」


「これが、シンジ君じゃない?」


ミサトの見る限り、写真の中でアスカと話す少年はシンジ以外の人間に見えない。細部に渡る顔の
表情、背格好、いずれもミサトの知るシンジだ。
大体、シンジを一番知る人物、アスカがシンジと認めている様子。アスカが、こんな気の許した顔で
会話する人間はシンジだけ。


「はい。
写真の少年を確認したのは、セカンドのガードです。サードのガードと連絡を取って状況の異常に
気付き、すぐに少年を追ったのですが・・」


「ロストしたのね」


「そうです」


ミサトは写真を手にとり、それに写るシンジを再度、注意深く見てみる。
・・と、巧く表現できないが、違和感のようなものを感じた。シンジの持っている内面の影が、彼の
顔から窺えないのだ。
ミサトがシンジと出会った頃、彼は表面上の従順さとは裏腹に、心的内面にかなりの問題・・影を
抱えていた。それらは、その後の様々な経験による彼の成長と共に大方消えていったのだが、完
全に払拭したわけではない。父のゲンドウとも打ち解けてはいないし、時として爆発する狂気にも
似た暴力性が、彼の内面に存在するのだ。
ところが、写真の少年には危うい影が全く感じられない。善人の塊のようだ。


「日本政府・・いえ、ゼーレの工作員ね。顔を整形して洗脳した上、性格改造まで施したと考えられるわ。
アスカかレイを拉致するつもりなのかも・・
司令に近づいて暗殺するという手もあるわね」


セカンドインパクト後に憲法が一部改正され、軍への理解も一般には広がってはいるが、前世紀の
残滓に未だ影響されているこの国の機関に、一人の人間を別の人間に創り上げる非情さが存在す
るかは疑問。ミサトは、この少年を送り込んできたのはゼーレに間違いと推測した。相手がゼーレな
ら、シンジのクローンを所有していてもミサトは驚かない。
神への道を理由に数十億の人間を平気で殺す組織だ。人間一人の人権など、彼らにとって何の
価値もないだろう。


「しかし本部長。諜報の外事からは、まだ何もありませんが」


「まだ情報を掴んでないだけよ。
これから諜報部を含めた緊急対策会議を開きます。早急に資料を揃えて下さい。
敵の工作活動なら、一刻の猶予もないわ」


「了解です。直ちに」


この後、ミサトはゲンドウに状況を報告。ゲンドウは直ちに所内の警戒レベルを二段階引き上げた。
ネルフ本部は、使徒戦以降最高の緊張状態に入ったのである。





玄関での激しい行為は一時間ほどで終わり、二人はその後、用意されていた風呂に入り・・そして昼食。
今はリビングで、時折茶を飲みながらくつろいでいる。
マヤは、淡いパステルピンクのミニスカートに白のタンクトップ。ショウヘイは短パンに白いTシャツ。ショウ
ヘイの左手には、大きめの腕時計が・・
SF映画にでてくるようなデザインをしたそれは、見るからにメカの塊といった外見。腕時計にしては、
ちょっと不自然にも思える。
ショウヘイは、その時計を右手で撫でるように触ると、マヤに顔を向けた。


「あなたが造ってくれたこの装置、うまく働いてますよ。
流石ですね、マヤさん」


「ありがと。
あなたの役に立てて嬉しいわ」


マヤは、その可愛らしい顔を破顔させてショウヘイの首に手を回し、抱きついた。体型はマヤの方が大
きいので、姉が弟にじゃれついている感じに見える。マヤは童顔だしショウヘイも平凡な顔立ちなので、
数時間前に玄関先で淫らな行為を繰り返した男女には見えない。

マヤは暫く抱きついたまま、甘えるように体を揺らしていたが、その内その顔から笑顔が消え、甘ったる
い空気もなくなった。


「その装置が反応したって事は・・
もう一人のあなたが来たの?別世界から」


「ええ、自分の目で確認しました」


言葉に反応するかのように、ショウヘイを抱きしめるマヤの手に力が入る。

マヤは、この世界の誰よりも事態を掌握していた。
ショウヘイの正体とその目的。彼を追う敵・・彼がこれまで幾人もの人間を殺した事も知っている。知っ
た上で彼に身を委ね、彼に溺れているのだ。
ゲンドウの身内と称するショウヘイと出会った当初、マヤは彼に何の関心も持たなかった。その時はリツ
コとの関係で頭がいっぱいだったし、言っては何だが、ショウヘイは美形でもなんでもない普通の少年。
その上、野暮ったい感じもして、ゲンドウの身内でなければ話しかけられても無視していたかもしれない。
だが、ネルフ内で道に迷った彼に声をかけられ同道したマヤは、彼と雑談する内、純朴な彼に親近感を感じ、

こんな弟がいれば・・

といった感情を持つに至った。
気が付ついた時には彼に自分の携帯番号を教えていて、困ったことがあったら気軽に相談しろと、彼の
肩を笑いながら叩いている自分がいた。

それから何日か経った、ある日。
第三新東京市に越してきた彼が荷物の整理を手伝って欲しいというので、マヤは何の疑問も持たず、
警戒もせずに彼の部屋を訪れた。
そしてあらかた部屋が片づいてホッとした次の瞬間、マヤはショウヘイに組み敷かれていた。

当惑と混乱と恐怖の中、リツコに開発されていたマヤの体は否応なしに反応してしまう。
加えて、ショウヘイの性技が巧みな上に精力も尽きることがない。男は初めてにもかかわらず、マヤは
数時間の間に幾度も果ててしまった。
肉欲の嵐が去った後・・
男の精と女の匂いが混じり合った狭い部屋の中、裸のまま床に何度も額をこすりつけて許しを請うショウ
ヘイ。マヤは、そんな彼を罵倒もせず、ただ彼の頭をかき抱いていた。

以降、マヤはショウヘイとの関係に溺れている。
リツコの浮気性を理由に彼女と別れたマヤは、毎日でも彼に抱かれたいと思うほどショウヘイにのめり
込んでいった。
会う度に交わされる、獣のような激しい交情。
少年に翻弄される被虐感に酔うマヤは、ショウヘイと付き合う内、彼に隷属するような関係へと堕ちていく。
それから逃れられないと自覚した頃、マヤはショウヘイの正体を知った。
常識を持った普通の人間なら、ショウヘイがいかに説明しても、まずは信じないだろう。頭がおかしいと
か妄想狂だとか言われ、相手にもしてもらえまい。
ところがマヤは、平然と彼の言うことを信じた。そして、彼から発する特殊な生体信号を打ち消す装置ま
で造り、彼に渡している。


「多分・・というか、確実に保安部も確認してる。これから、一騒動起きるんじゃないかな」


しつこく自分を追うシンジの追跡を、ネルフを動かす事で妨害すればいいと考えていたショウヘイだが、
マヤの造った装置は状況を変えてくれた。こっちは向こうを探知できるが、向こうはこっちを探知できない。
・・・となると、上手くすれば彼を永久的に排除できる。


「ゴタゴタするとなると、こうしてあなたと会える時間も少なくなるってわけね」


「どうせ最初から、子供の僕なんかまともに相手してないくせに」


「それは、わたしの台詞よ。
わたしを利用してるだけでしょ?あなたは。アスカちゃんから聞いたわ。ヒカリって女の子が、あなたの部屋
に通ってるらしいじゃない。
この後も、あの娘を抱くのよね?わたしを抱いたこの手と、これで」


マヤの手がショウヘイの下半身に伸び、それは短パンの中に侵入した。ショウヘイの股間が微妙なうねり
を繰り返し、二人の息が荒くなり始める。


「・・・言い訳はしないよ」


「ご免なさい、怒らないで。
わたしは・・」


「今日は、ここに泊まるよ。
彼女には電話するから」


「わたしも、仕事を休むわ」


リビングに、衣擦れと熱い吐息・・
少し後になると、女の甲高い声が絶え間なく充満する。

全ては、ショウヘイにとって都合の良いように進んでいる。
それはあたかも、全てをコントロールする神が、ショウヘイが生まれた世界での不運を帳消しにしようと
奔走しているかのようであった。











おまけ


ネルフから、常に身近に置けと命令されている携帯電話が枕元で鳴る。
ここは一人部屋のはずなのに、どういうわけか枕元には色違いの同型が二つ置いてある。鳴っているのは、
赤い塗装が施された方。
それは持ち主の白い手によって乱暴に掴まれ、呼び出し音は停止した。
どことなく微妙な空気が、甘い匂いの籠もった部屋に満ちている。電話をかけてきた人間が今のこの部屋
の状況を知っていたら、電話などかけないだろう。
だが電話をかけた当人であるヒカリは、そんな事情など知るよしもなかった。彼女は、なかなか出ないアス
カに苛立っていたほどだ。


<ヒカリか・・
なによ、いいところで>


「お邪魔じゃなかった?」


<邪魔だったわ。思いっきり。
あん、シンジったら・・電話の最中は、やめてって言ってるじゃない>


「・・・ごめん。そういうことなら、いいわ」


<ちょっと待ちなさいよ、ヒカリ。話くらい聞くわよ。
こんな時間に、どうしたの?>


「こんな時間て・・まだ八時じゃない」


<・・・・>


「まあ、いいわ。
今日は、急に彼と会えなくなったから寂しくてさ。アスカと話でもしようと思って」


<おやすみ、ヒカリ>


「話は聞くんじゃなかったの!?」


<色ボケ娘の相手してる暇はないのよ。アタシは忙しいんだから>


「忙しいって・・
Hするだけでしょ?」


<アタシにとっては、重要な問題なのよ!
・・って、何よシンジ。すぐ終わるから待っ・・・分かったわ。
ヒカリ、アタシ達ネルフに呼び出されたから、これで切るわね。おやすみ>


突然、切られた電話。
ヒカリには、それが不吉な出来事の起こる前兆のように思えた。
なぜかは分からない。
でも言いようのない不安が、ヒカリの胸をよぎる。


「まさか、妊娠?
・・なわけないわよね。アスカから貰ったピルは、ネルフ特製だし。
さて、勉強でもしますか」


とりあえずは、お気楽なヒカリであった。

でらさんから『本物は誰?』第六話をいただきました。
なんというかショウヘイ‥‥倫理感が希薄ですね(汗。
ヒカリとは遊びだったのでしょうか。マヤの方も遊びかもしれないけど(爆)

これで、シンジの周囲の人間模様は大混乱‥‥の始まりですね。
役者が全員揃ってきたわけだし。

ますます目の話せないお話を書いてくださったでらさんに是非感想メールをお願いします。