年始

作者:でらさん












西暦2018年 1月3日 加持、葛城宅・・


「ミサト〜〜〜!明けましておめでとう!
年始参りに来てあげたわよ〜〜〜!」



「ア、アスカ、そんなに大きな声だしたら近所迷惑だよ」


「いいじゃない、年の初めの挨拶なんだから元気出した方が気持ちいいわよ。
それに、アタシ達に文句言えるやつがいると思う?」


「・・・ミサトさん以外は言わないね、多分」


「でしょ?
ほら、今度はシンジも一緒に・・せ〜の」


シュ!


「いい加減にしなさい!」


アスカの第一声で玄関口まで来ていたミサトは、モニターとマイクで二人のやり取りを窺っていた。

成長した彼らの姿を微笑ましく見守ろう。
ひょっとしたらキスの一つでもするかもしれない・・

そんな淡い思いを抱いていたのだが、ただ騒いでいただけ。
風情も何もあったものではない。
シンジはともかく、これがアスカらしいとも言えるが・・


「あらミサト、おはよう」


「おはよう、じゃないわよ。
まだ朝早いんだから大きな声出さないで。
さっさと入りなさい、二人とも」


「へ〜い」


「お邪魔します、ミサトさん」




リビング・・


小綺麗にされたリビングへ通された二人は、あまり遠慮する様子もなく慣れたように腰を下ろした。
ここにはよく二人で度々遊びに来るので、勝手は知っている。

テーブルに並べられるのは、正月の定番とも言えるお節料理の数々。
結婚しても料理の腕に上達の兆しが見られないミサトの事だ。
全てデパートで買ってきたものだろう。

シンジは当然のこととして、人に対する気遣いを覚えたアスカがそれを口に出す事はない。


「加持さんは仕事ですか?」


「って、言ってたけど・・・パチンコね、あれは。
少しはシンジ君を見習ってほしいわよ」


「そ、そうですか・・」


全てに決着が着いた後、ひょっこり姿を現した加持とミサトは結婚した。

当初はアスカとシンジも呆れるほどの熱々振りだったのだが、最近はかなり落ち着いているようだ。
最も学生時代同棲してた時はこんなものだったので、ミサトも加持も気にはしていない。

年末も押し詰まった頃にミサトの妊娠も発覚?しているし、幸せは幸せなのだろう。

ちなみに夫婦別姓である。


「しっかし、アスカも変わんないわね。
高校生の身で同棲してるから少しは落ち着いたと思ったけど。
変わったのはその外見だけかしら?」


17歳になり、体はすっかり大人の女と言ってもいいほどアスカは成長した。
街を歩いていても、シンジが隣にいるにもかかわらず男達の視線が集まる。

黄金律を思わせる全体のバランスと、微妙な血の交わりが魅せる凄絶なまでの美しさ・・

現世に降臨した女神にも例えられるその姿は、同性であるミサトすら羨望を禁じ得ない。
実際、アスカに怪しい視線を送るネルフの女性職員は多い。

それほどに今のアスカは魅力的なのだ。


「失礼ね。
最近穏やかになったって、よく言われるんだから。
ミサトくらいなものよ、そんな事言うの」


「さっきの様子から判断すると、そんなに変わってないみたいだけど。
家じゃシンジ君を尻に敷いてるんじゃないの?
どうなの?シンジ君」


人は時と共に変わるものだが、アスカがそんな急に変わるはずもないとミサトは思う。

シンジと付き合い始めてからの変化は確かに認める。
以前のような張りつめた緊張感は失せたし、作り笑いも無くなった。
憑き物が落ちたような姿は端で見ていて安心出来る。

だが根本的な所は何も変わっていないとミサトは見た。
共に暮らすシンジも、かなり苦労していると思ったのだが・・


「そんなことはないですよ。
そりゃ、たまに喧嘩もしますけど・・
それに家事はほとんどアスカが担当してて、僕が手を出すと怒られるんですよ。
たまにはやらせろって言うんですけどね・・はははははははは」


「ア、アスカが?・・・」


「当たり前じゃない。
家事は女の仕事って言うつもりはないけど、将来のこと考えたら出来ないと恥よ。
子供に何も出来ない母親の姿なんか見せられないわ。
ミサトもそう思うでしょ?」


「そ、そうね・・当たり前よね」


はっきり言って、ミサトはまだろくに家事が出来ない。
料理もデパートの総菜がほとんどだし、洗濯はほとんどクリーニングに出してしまう。
まともに出来るのは掃除くらいか・・

その掃除も、忙しさにかまけてあまり頻繁にはやらないし。


「それにしても綺麗ね、その着物・・貸衣装?」


「そう思うでしょ?でも違うのよね、これが」


「ま、まさか買ったの?
あんまり無駄遣いしちゃダメよ・・高かったでしょ?それ」


アスカが今日着ている着物・・

赤を基調とした生地だが派手すぎてもいない、いいデザイン。
それをアスカが着ると更に綺麗に見える。
歩き方などから見て、少々難儀はしているようだが。

ミサトも一度着てみたいと思ってはいたのだが、これまで着物を着たことはない。

成人式が一つのチャンスだった。
しかしその時は、後の飲み会の事を考えてやめたのだ。
今から考えると惜しいことをしたと思う。あの後、着物を着る機会などいくらもない。
結婚式はウェディングドレスのみだったし。

買うにしてもそこそこの物はかなりの値段をつけるので、そう簡単に手が出るものではない。

だが・・
アスカ達にはエヴァパイロットとしての給料の他に、使徒戦役時の危険手当やら何やらで相当の
預金がある。
その額は一般的なサラリーマンの生涯賃金をも上回るのだ。
彼らが高校生の身にもかかわらず同棲出来るのもそれがある故。

当初は成人か結婚まで使えない規定だったはずなのだが・・

ちなみに・・
今では使徒戦役と呼称されているあの戦いの後、理由は不明だが地軸は元に戻っている。
従ってこの時期はかなり冷えるので着物を着ても何も問題はない。


「まさか・・
こんな買い物、シンジが許してくれないわ。
これは貰ったのよ。
シンジのお義父さまとアタシのパパがお金を出し合って、買ってくれたの」


「か、買ってくれた・・・司令も親バカだったのね。
将来の嫁には甘いわ」


「ひがまない、ひがまない。
人を妬むと、お腹の子供に悪影響与えるわよ」


「別にひがんでるわけじゃないけどさ・・」


ミサトとて、世が世であれば父の提唱したS
理論による特許料でかなりの生活をしていたはずである。

人類の夢とされる半永久機関がもたらす富は、莫大などという言葉では言い尽くせないほどの額で
あったろう。
世界一の富豪になっていたかもしれない。

ところが現在、S
理論に関する特許は全てネルフに帰属しており、ミサトには一切関係がない。
無骨な研究者で、金銭的な事にはあまり関心を持たなかった父が恨めしいミサトだった。


「ま、まあ、ミサトさん達には子供も産まれる事ですし、今年はおめでたい年になりますよ。
はははははははは!」


「元気ね、シンジ君は・・」


話が変な方に向かうのをどうにかしようとシンジが気を遣うが、どことなく違和感がある。
ミサトはおろかアスカまでしらけてしまった。

シンジも場の空気から失敗したことを感じ取ったが、今更どうしようもない。


「私もいつか着るわよ。
で、話は変わるんだけど・・初詣とかは行ったの?」


「行ってきたわよ。
人混みでとんでもない騒ぎでさ、アタシも着物汚されないかと冷や冷やもんだったわ」


「え?どこ行ったのよ、あんた達。
滅茶苦茶混んでたのは元日だけって、テレビでやってたけど・・
まさか第二まで行ってきたとか?」


第三新東京市にはセカンドインパクトで水没した有名な寺社が幾つか再建されていて、初詣もかなりの
人手で賑わっている
といっても、人が歩けないほど混むのは元旦のみ。

日本で一番混む事で有名な神社は第二新東京市にある。
ここは三が日、人でいっぱい。

着付けも出来ない彼らがそう何回も着物を着て出かけられるはずないし・・


「着物着てそんな遠くまで行かないわ。
第三のお寺さんよ・・元旦の朝早く行ってきたの」


「じゃあ、今日また美容院に行って着付けしてもらったんだ。
着物もいいけど、それが面倒よね。
自分じゃまず無理だし」


「何言ってんのよ。
アタシは自分でちゃんと出来ます。
少しはシンジに手伝ってもらうけどさ」


「・・・自分で?」


「着物をくれるっていう話があったのが10月の半ば辺り。
それからすぐシンジと一緒に着付け教室に通ったの。
せっかく着物くれるって言うんだもん・・自分で着られるようにならないとね」


「・・・・・」


物事に対し全力で対処するアスカの姿勢に、ミサトはあらためて感心する。
勉強でも何でも、アスカは常に全力を尽くしている・・手を抜くということがない。

これで更に性格が穏やかになったのなら、彼女はとんでもない人物になりそうだ。

そして、彼女を影ながら支えているシンジもある意味凄い。
普通の男だったらアスカとはまず付き合えまい。
アスカを御する事の出来る男はシンジだけだ。


「まったく・・あんた達にはかなわないわね。
ネルフも、いずれあんた達の時代になりそうだわ」


「気が早いわね、ミサトは。
そんなの何十年後よ」


「そうですよ。
僕達はまだ高校生でしかないんです。
ミサトさんもまだ若いし」


「はははは、ちょっと言ってみたかっただけよ・・・ん?
今、
まだ若いって言った?シンジ君」


とっくに三十路を超え、ミサトも年にはあまりこだわらないとシンジは考えていた。
だが不用意であったようだ。
ミサトの表情が変わる。


「い、い、い、いえ・・今でも充分お若いです」


でも?」


「じゃなくて!ミサトさんはいつまでもお若いですよ。
き、綺麗だよな、うん」


「ミサト、そこまでにしといてよ。
シンジだって悪気があったわけじゃないんだから」


「・・・まあ、いいわ。
現実に年は毎年一つずつ増えていくしね」


アスカに諫められ、ミサトは簡単に矛を収める。

ここで怒っても仕方ないし、正月の気分も台無しになる。
シンジに悪気のない事は分かってるし、晴れ着を着てせっかく着てくれたアスカにも悪い。

だがその晴れ着で少々の疑問も浮かんできた。


「で、また話は変わるんだけどさ・・
あんた達、姫始めはとっくに済ませてるわよね?
ほとんど毎日のあんたらには愚問でしょうけど」


「う、うるさいわね!
どうでもいいでしょ!?そんな事!」



「ミ、ミサトさん、少しは恥ずかしいとか思わないんですか?」


「結婚した女が、そんな事くらいで恥ずかしい思いなんかするもんですか。
それよりも・・」


ミサトにはどうしても納得が出来ない。
たかが着物を着るためだけに、この二人が着付け教室にまで通うものなのだろうか?

全力を尽くす・・

ただその一言では納得がいかないのだ。
別の目的もあったはず。

それは・・


「その着物着てHしたでしょ?」








二人が何と答えたかは言うまでもない。
そんな二人にミサトが大爆笑したのも同様。

この後・・
数回にわたり、赤い着物を持ってクリーニング店に現れるシンジが目撃されている。

だが、アスカがその着物を着た姿を見た者はいない。

でらさんから年始エヴァ小説をいただきました。

子供と大人の間のアブナイ年齢ってやつですね<変な表現

子供っぽいようでいて、大人なこともシテいるわけですか‥‥そういう世代って最近は上下に広がっているような。

それはともかく、着物汚しているのか‥‥女の子の服を汚さずにスルのはちょっとコツがいりますからね<何の話だ

なかなかに素晴らしい話ではありませんでしたか。みなさんも是非でらさんに感想メールを送ってください。

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