メタモルフォーゼ ver.4

作者:でらさん(wfhpp883@ybb.ne.jp)
















何も見えず、レーダー波すら返ってこない無の空間。
ここは、ディラックの海と呼ばれる虚数空間・・異次元の世界。

その空間に漂うのは、エヴァンゲリオン初号機と、その操縦システムであるエントリープラグに搭乗したサードチルドレン碇シンジ。
彼は今、緊急時の補助動力さえも切れかけたエントリープラグの中で、生命の危機に瀕していた。
酸素もすでに残り少なく、体は酸欠に喘いでいる。
それは脳とて例外ではなく、シンジは死の間際で様々な幻覚を見る。

どこか懐かしい匂いのする蒼銀の少女、美しくも姦しい金髪の同僚、、本当のところ何を考えているか分からない保護者の女性。

幻覚の中の人々は皆優しく、シンジは、その世界に心地よさを感じた。
そして、その世界に埋没しながら命の灯火を燃やし尽くそうとしたとき・・
頭に響く声が、シンジを現実に引き戻した。


(もう、いいのよ)


「・・・誰?」


(頑張ったわね、シンジ)


「母・・・さ・ん」


夢か幻か・・
シンジは、何も映らないはずのモニターに母の姿を見た気がする。

次にシンジが意識を取り戻したのは、白で覆われた病室。
ベッドの側には、綾波レイが。
そして入り口付近には、入りづらそうにしている、惣流 アスカ ラングレーの姿が在った。

二人の姿が、死の間際に見た幻覚に少しだけだぶった。








惜しげもなく金が注ぎ込まれ、一流のフィットネスクラブにあるようなトレーニング機器が居並ぶ、ネルフ本部室内運動場。
現在ここで汗を流すのは、碇シンジただ一人。彼は今、巨大な室内を壁沿いに黙々と走り続けている。
今日は平日で、学校も通常のカリキュラムを消化しているはずなのだが、シンジは学校にも行かず訓練に没頭している。

第十二使徒との戦闘後、ディラックの海から生還したシンジは性格を一変させていた。
妙に落ち着き、人との関わりを恐れない。それは誰に対しても同じで、通路で偶然通りかかったゲンドウに大きな声で挨拶したと
きなどは、ゲンドウの方が面食らっていたくらい。
使徒の精神汚染を疑ったリツコが心理学者まで動員して綿密な検査を行ったが異常は無く、原因は掴めていない。
そしてシンジは、あまりやる気を見せていなかった戦闘訓練に励むようになっていた。
ネルフの決めたスケジュールの他に自主的なメニューも加え、訓練時間は段々と長くなって、いつの間にか学校にも行かなくなっ
てしまったのだ。

そのような彼にミサトを除く周囲の大人達は概ね好意的な目を向け、学校を休むことに対しても黙認の姿勢。
シンジのスキルアップは、喜ばしい限り。何より本人がやる気になってくれたのだから、やる気を削ぐ事などしない。

しかし、激変したシンジに動揺する少女が一人・・・アスカだ。


「一体、何がどうしたってのよ・・
調子狂うじゃないのよ」


運動場の出入り口の一つから走り続けるシンジをそっと窺うアスカは、このところの生活の変化に戸惑いを隠せなかった。
第十二使徒との戦闘前、シンジにシンクロ率を逆転され、自分の中で何かが壊れた。
母の死を間近に見たトラウマを抱える自分が心の拠り所にしていたエヴァ。高率のシンクロ率は、プライドの証。
それをシンジに抜かれた。シンジに対する憎しみが、心の一角を黒く染めた。
黒く染まった部分は、その後すぐに始まった戦闘で拡大。彼を挑発して慢心した心をくすぐり・・・
結果、彼を窮地に追い込む事になった。

だが、アスカはすぐにそれを後悔する。
ディラックの海から初号機をサルベージするためにN2兵器数百個を使用する作戦をきかされた時、シンジの死を実感し、それは嫌
だと心が痛んだ。
加えて、シンジの身を心配するレイの態度がアスカの動揺を増幅させる。
それらの心の動きが何を意味するのか、アスカにも何となく分かる。
でも、まだそれを認めるだけの勇気はない。

そんな揺れ動くアスカの心に追い打ちをかけているのが、今のシンジ。
退院してからの彼は突っかかるアスカも平然といなし、悩むこともない。それどころか、正面からジッと見つめられて慌てた事さえあ
る。
アスカの動揺は、日を追う事に増幅するばかり。
今日もシンジが気になって学校を早引けしてきてしまったほど。


「何やってんのかしらね、アタシ。
これじゃ、まるで」


「アスカ!」


自分のしている事に疑問を感じたアスカが自嘲気味に言葉を漏らそうとしたとき、シンジがアスカを見つけ、声をかけてきた。
心底嬉しそうな顔をして駆け寄ってくるシンジに、アスカも自然と笑みが零れてしまう。引き締めようとしても、全然ダメ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・
学校は・・どうしたの?」


息を継ぎながら切れ切れに発するシンジの声の一つ一つが、アスカの耳を心地よく刺激してくれる。
いつものように憎まれ口を叩き付けようと思っても、口が動かず、台詞が出てこない。代わりに出てきたのは・・


「なんかつまんないから、早引けしちゃった」


自分でも信じられないくらいの穏やかな声と、とってつけた台詞。
そして、更なる笑顔で崩れた顔・・・もう、難しく考えるのはやめた。本能に任せる。


「珍しいね、アスカがサボるなんて」


「アタシだって、そんな気分になることはあるわ。
ほら、汗拭かないと・・はい、タオル」


アスカは床に置いた鞄から自分のタオルを出すと、顔中から汗を滴らせるシンジに差し出した。
こんなに汗をかいているシンジなど、アスカは見たことがない。これまでの訓練でいかに彼が手を抜いていたか、それで分かろうと
いうもの。

何が彼を変えたのか、知りたい。ディラックの海で何があったのか。
シンジの変化は、アスカにとってプラスに働いている。以前の内罰的な彼なら、辛く当たるアスカに対してただ我慢を重ねるだけで
あっただろう。
それが更にアスカを刺激して益々心を苛立たせ、最悪、平衡を保ってはいられなくなったかもしれない。
ところがシンジの変化は、アスカの中から彼に対する敵愾心をほぼ消し去ってしまった。
当のアスカ自身、戸惑うくらい。


「い、いいよ。自分のがあるから」


「遠慮するんじゃないのよ。
それとも、アタシのタオルなんて使えない?」


「そんな事はないけど」


「じゃ、使って」


「・・・うん」


遠慮がちに自分のタオルを手に取ったシンジが、アスカには以前のシンジに見える。変わらない部分もある事に、アスカは少し安心
した。
そして、汗を拭くシンジを見ていたアスカの頭に閃く物が・・


「暇だから、アタシも付き合うわ」


「学校サボったのミサトさんにばれたら、怒られるよ」


「今頃はガードから報告いって、とっくにばれてるわ。気にすることないわよ。
アタシ、着替えてくるから」




およそ三十分後・・
トレーニングスーツに着替えた彼女は、どこから調達したのか、ミニコンポタイプのMDプレーヤーまで持参していた。
アスカはそれを部屋の片隅にセットすると、訳の分からない顔で見守るシンジにニコッと微笑み、スイッチを入れた。
その良質のスピーカーから流れ出た音楽は・・・


「これ・・」


「よかった。忘れてなかったわね」


二人が共に生活する事になったきっかけ。
分裂した第七使徒を倒すためにユニゾンの特訓をした・・その時に使われた曲。


「はははは・・
何だか懐かしいな。随分、昔のことみたいだ」


「ほんの数ヶ月前なのにね」


「あれから僕は、少しでも君に近づけたかな?」


「まあまあってとこかしら。
少なくとも今のアンタは、大分近づいてるわ」


「何だか、複雑な答えだね」


「複雑にならざるを得ないわよ。
そうだ!あの踊り、覚えてる?久しぶりに踊ってみない?」


「何となくは覚えてるけど・・」


「いいから、ほら!」


懐かしい曲に乗りながら踊る二人は動きもバラバラで、以前の息の合った様子は微塵もない。
しかし暫くすると・・
思い出したように動きは統一され、二人の視線も合い、互いの顔には自然と笑顔が浮かんでいた。

曲は何度も何度もリピートされて、二人は疲れを忘れたかのように踊り続ける。
訓練のため部屋に入ろうとしたある職員は、心の底から楽しそうに踊る二人を見ると、気づかれないように、そっとその場を後にした。







「何を悩んでるの?」


ふらっと現れたと思ったら勝手にコーヒーポットからコーヒーを注ぎ、勝手に来客用の椅子を占有して仏頂面で居座る友人に、リツコは
とりあえず声をかけてみた。
友人・・葛城ミサトがここに現れてから既に一時間が過ぎている。すぐに声をかけるより、ある程度時間をおいた方がいいとリツコは考
えたのだ。
仕事から手を離せなかったのも事実だが。


「決まってるでしょ?シンジ君よ」


ミサトの応えは、リツコの予想通り。
シンジの変化を歓迎する人間が多い中、ミサトはなぜか不満げであったから。
いい機会だ。その理由を聞くのも悪くない。


「学校休んでまで訓練に身を入れてるのが気に入らないというの?あなたは」


「それはいいのよ・・と言うより、感謝感激ってとこね。
シンジ君のスキルアップは大歓迎だわ。正直、今までの訓練スケジュールには不満だったし」


幼い頃から本格的な訓練を課されてきたアスカやレイに比べると、シンジはまさに素人。
その素人を鍛えるにしては訓練時間も短いし、内容もミサトから見ると不満だらけ。とても人類の危機を救うパイロットの訓練とは思え
なかった。
事実、前の戦闘では、突然の異常事態に動揺したシンジは為す術もなくディラックの海に呑み込まれてしまった。
同様の状況に陥ったアスカは、何の問題もなく回避したというのに・・

前回の件は、ミサトの恐れていた事態が顕在化したと言っていい。
ミサトはシンジの訓練方針の転換を何度もゲンドウや冬月に進言してはいたのだが、彼らの首が立てに振られることはなかった。
二人の最高幹部のその姿勢に、シンジを鍛えたくない意図でもあるのかと疑ったほどだ。


「それじゃ、何で・・」


「何年かかけて人間的な成長と共に変わるならともかく、あの変わりようは不自然そのものよ。
それに・・」


「まだあるの?」


「実生活にも影響出てるのよね」


「どうかしたの?
まさか、襲われた?・・な訳ないか。襲うとしたら、ミサトの方だし」


「勝手に言ってなさい。
シンジ君が、料理しなくなったのよ。
料理だけじゃないわ。自分の当番以外の日は、家事の一切をやらないの」


「・・・・・」


「正直、困るのよね。
わたしの部屋の掃除もしてくれなくなっちゃったし・・
たまに加持のやつ呼ぼうと思っても呼べないのよ」


「ミサト、一言言っていい?」


「何よ、あらたまって」


「あなたは馬鹿だわ」


キョトンとするミサトは、リツコの言った台詞が理解できない様子。
中学生の男の子に家事の全てを押しつけて恥ずかしいと思わない彼女に常識が通じる筈もないのだが、同じ女として、リツコの方が
恥ずかしい。
ここは友人として諭すのも自分の役割だと、リツコは思う。


「私の言ってる意味が分からない?」


「全然」


「なら、これから、じ〜〜〜っくり教えてあげるわ」


リツコのミサトに対する自己啓発の講習は、これから三時間に及んだ。
この講習によってミサトが自分を見つめ直す事に成功したかは、定かでない。
ただ、後に彼女と結婚した加持リョウジは、暫くの間、ミサトの創る手料理には悩まされたらしい。








ディラックの海で、初号機に眠るシンジの母ユイが息子に何をしたのかは分からない。
しかしシンジの変化は、この世界で至高の神が設定した予定調和をほんの少しずつ歪めていく。
それは、ユイが意図したものだろうか。


『参号機のパイロットね・・・鈴原よ』


『トウジが?』




『現時刻をもって参号機を破棄。第十三使徒とする。
サードチルドレン、碇シンジ。第十三使徒を殲滅しろ』


『・・・やるしかないか。
アスカ!すればいい!?』


『アイツの動きを止めて、エントリープラグを引き抜くわ。
アタシが囮になるから、アンタは奴の背後に回って!』


『了解!』




それは当初、些細な歪みに思われた。いつでも修正可能なものと。
しかし・・・




『ATフィールドは中和してるはずなのに・・
なんて頑丈なやつなのよ!』


『アスカ!アレでいこう!』


『アレって・・・
そうか!ユニゾンね!』




『何で初号機を出さないんだ!父さん!
アスカが危ないじゃないか!』


『子供には分からん都合だ。お前は、黙って見ていればいい』


『大人の都合なんて、知るか!!』


『初号機がこちらの信号を受け付けません!
危険です!格納庫が吹き飛びます!』


『十二枚の光り輝く翼・・・
碇、彼女が目覚めたぞ』


『・・・終わった。
終わってしまった・・私の希望』




『アタシ、あやふやな関係ってイヤなの。そろそろ、はっきりしてちょうだい。
ファーストとアタシ、どっちを取るの?』


『そんなの、決まってるじゃないか。
僕は・・・』




壊れるはずだった少年の心。
闇に沈むはずだった少女の心は平穏を保ち、自らの生きる意思を叩き付けるかのように、彼らは力強く戦い抜いていた。

神の分身を内に抱える哀しき少女は、定められた己の運命を拒否。
それが決め手となり、人を神の位階に引き上げようと画策した老人達の計画は完全に頓挫。
ネルフを手足とした彼らは、その手足に反逆され全てを奪われ、失意の内に自ら命を絶った。

そして、何もかもが終わった後に残ったものは・・・




「シンジ!こっちよ!」


赤みの抜けつつある金髪を靡かせて元気いっぱいに走るアスカは、一瞬立ち止まってふり返り、シンジを手招きする。
彼女が着ているのは、一番のお気に入り・・レモンイエローのワンピース。前に着ていた物は体の成長で既に着ることが出来ず、特注
で作り直した。
裾は相変わらず短く、アスカは芸術的な脚線美を惜しげもなく披露しているが、今は風もほとんど無く艦も停泊中であるため、いつかの
ように裾の乱れる心配はない。

ここは、二人が出会った思い出の艦、オーバーザレインボー・・その甲板上。
今日は久しぶりに日本への寄港ということで、アスカが是非にと表敬訪問をゲンドウに頼み込んだのだ。
ゲンドウもアスカの懇願に渋々・・・ではなく、幾分戸惑いを見せながらも即決で許可した。初号機のコアからサルベージされたユイが
彼にいい影響を与え、人間的な部分を取り戻しているようだ。


「ねえ、シンジ。
前に、こんなシーンのある映画、観なかったっけ?」


艦の舳先・・飛行甲板のほぼ先端に立ち、後ろからシンジに抱きかかえられるアスカは、前にレンタルで観た映画に同様のシーンがあ
ったと思い出した。
豪華客船が氷山に激突し沈みいく中での悲恋を描いた映画で、絶対感動するからとヒカリに奨められてシンジと共に観た記憶がある。
だがアスカには設定に不自然な点が目に付きすぎたし、あまりにベタな展開に感動どころではなかった。映像はともかく、ストーリーとし
ては観るべき物がない。
それでも、ヒロインが船の舳先に立って恋人に後ろから抱き抱えられるシーンは覚えていた。


「観たかなあ・・」


「ふふ、別に思い出さなくていいわ」


シンジはとっくに忘れていて、何とか思い出そうとするが、すぐにそれをやめた。
前から体重を預けてきた何とも言えないアスカの甘い体臭が、彼の思考能力を奪ってしまったから。

出会った頃と変わらない船体、青い海、潮の香り・・・
何もかもが、二人には懐かしい。

たった一年足らずの間に、自分とシンジは変わったものだとアスカは思う。
一年前の自分が、こうしてシンジに体を預ける自分を見たらどう思うだろうか。
加持に抱いてと迫ったほどの自分が、加持以外の男に身を任せたと知ったら・・


「卒倒でもしそうね」


あの頃の自分が、真の意味での愛を知った今の自分を理解するのは無理だろう。
シンジを愛して全てを委ねた事に後悔はないし、まだ早いとも思わない。産みたくないとまで考えていた子供も産みたくなったし、当然結
婚だってしたいと思うようになった。
全ては、シンジの存在故。
シンジと出会わなかったら、自分は・・・
想像するだけで、アスカはゾッとする。


「どうしたの?アスカ」


後ろから声をかけてくる愛しい男の背は、すでに自分より幾分高い。
その成長も、アスカには嬉しい。


「なんでもない。
ねえ、シンジ」


「なに?」


「もっと、強く抱いて」


シンジは言葉を返す事もなく、ただ腕の力を込めることでアスカの意思に応えた。
言葉などなくとも、アスカにはそれだけでいい。これがシンジという男なのだから。
アスカは、そんなシンジの腕に自分の腕を添え、すっかり慣れ親しんだ彼の体温を直接感じるのだった。






気を遣った艦長と艦隊司令が後方で待機する中、ゲンドウとユイは、甲板でじゃれ合うシンジ達を艦橋に在る発令所から見守っていた。
シンジ達には知らせていないが、ゲンドウ達も密かに同行していたのだ。
国連さえ畏怖するネルフ最高幹部の突然の訪問に、無骨者で有名な艦隊司令も緊張を隠せない。


「なぜわたしが補完を拒否したか、お分かりになりました?」


ユイは、濃紺のスーツ姿で腕を組んだまま、ゲンドウに言葉をかける。
タイトスカートからのぞく脚も、その美しいマスクも、彼女が消えた頃のまま・・二十代半ばのその姿は、美しいの一言。

ゲンドウは直立して後ろに腕を組み、そんなユイにチラと視線を向け、言葉を返した。
相変わらずのサングラスが、彼の表情を隠す。


「シンジの幸せを望んだというのか」


「シンジだけじゃありませんわ。
アスカちゃんもレイも・・全ての人の幸せを、私は望みましたよ」


「そんなものは、偽善に過ぎん。
この現世において万民が幸せになるなど、夢でしかない」


「でしょうね。
でも、浮き世の世界で自己満足に浸る生よりは、マシですわ」


「ユイ・・
お前は、初号機の中で」


「ええ。
現実に勝る生はないと、結論しました。
だからシンジの心を後押ししてあげたし、こうして現世にも復帰したんです」


心地よい魂の海。
それに浸り、エヴァの中で永遠に生きることもユイには可能だった。
しかし、息子であるシンジへの想いがユイを変えた。
死にたくないと叫ぶ息子の声を、母が無視できるはずもない。


「お前はそれでいいかもしれん。
しかし、全てを補完計画に捧げ、人の心まで捨てた私はどうなる!?
アスカ君に、レイに、シンジに何と詫びればいいのだ!」


「それは、あなた自身が考える事です。わたしがあれこれ口を出す問題ではありません。
時間はあります。ゆっくり、考えて下さい」


「力には、なってくれんのか。
やり直すチャンスさえ与えてくれないのか、ユイ!」


「女として、わたしはあなたを許せません。
わたしが言いたいのは、これだけです」


ナオコや、その娘リツコとの関係。
ゲンドウが何のために彼女達と関係を持ったのか、ユイには分かる・・全て自分のためだ。
自分と再会したいと願うゲンドウは手段を選ばず、女達を利用し、心も体も弄んだ。
ゲンドウの狂おしいほどの気持ちは分からないでもないけども、利用された女から見れば、ゲンドウの行為は許し難い。
それに理由はどうあれ、他の女と関係を持ったのは事実。
ユイは、それを笑って許せるほどの寛容さは持ち合わせていない。


「さよなら、ゲンドウさん」


背を向けるユイに、ゲンドウはかける言葉を持たない。


「また、私はお前を追い続けるのか・・・ユイ」


ユイが自分の謝罪を受け容れてくれる日が来るとは限らない。
息子のシンジすら、未だ自分とはまともに口を利かない。
それでも努力してみようと、ゲンドウは思う。
いつか・・いつかきっと分かってくれる日が来ると、信じたい。


「・・・まずは、髭でも剃るか。
艦長、シェーバーはないか?髭を剃りたい」


「は?シェーバー・・でありますか?
髭を剃りたいのならば、艦内には理髪店もございますが」


「それを早く言わんか!案内しろ!」


「はっ!こちらへ」


「ああ、艦隊司令、君も付き合いたまえ」


「わ、私も・・で、ありますか?」


顔中に見事な白髪の髭を蓄えた艦隊司令は、自慢の髭を大切にしている。
目の中に入れるほど可愛がっている孫のお気に入りでもあるのだ。それを剃るなど・・


「私の言うことが聞けないと?」


「い、いえ、喜んで御一緒させていただきます」


「それでいい。
やはり、髭はいかんな。どうもイメージが良くない。
髭を剃れば、ユイも少しは考え直すだろう。復縁に一歩前進というわけだ。
そうだな?艦長!」


「は、はあ・・」


何か勘違いしている、ゲンドウであった。



でらさんからシンジ変身ものをいただきました。

命があるだけまだマシじゃないでしょうかゲンドウ。相変わらず何か勘違いしているみたいだし(笑)

艦長も災難でしたな(笑)

まぁ髭はともかく、チルドレンやユイさんとかが幸せならいいですね。

なかなか素敵なお話でした。ぜひでらさんに感想メールをお願いします。

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